説明

貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法、貴金属担持光触媒体粒子分散液、及び光触媒機能製品

【課題】高い光触媒活性を示し、分散媒中で沈降しない安定な貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法を提供することである。
【解決手段】分散媒中に光触媒体粒子を分散させた後、脱イオン処理を施しながら、貴金属の前駆体を前記光触媒体粒子の分散液に添加して原料分散液を得、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射し、光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法、貴金属担持光触媒体粒子分散液、並びに、この貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて得られる光触媒機能製品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が生成する。このようにして生成した正孔は強い酸化力を有し、励起した電子は強い還元力を有することから、半導体に接触した物質に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用によりOHラジカルをはじめとする活性酸素種が生成し、有機物などを分解することができる。このような作用を示し得る半導体を光触媒体と呼んでおり、光触媒体として酸化タングステンが知られている。酸化タングステンは蛍光灯の照明下で高い光触媒作用を示す光触媒体である。
【0003】
粒子状の光触媒体である光触媒体粒子の表面に貴金属を担持することにより、光触媒活性を高めた貴金属担持光触媒体粒子が知られており、その製造方法として、光触媒体粒子が分散した分散媒中に貴金属の前駆体を溶解して得られた原料分散液に、犠牲剤存在下で光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することで、貴金属担持光触媒体粒子が得られることが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「Solar Energy Materials and Solar Cells」、1998年、第51巻、第2号、p.203−209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる従来の製造方法で得られる貴金属担持光触媒体粒子は、分散媒中で沈降しやすく、貴金属担持光触媒体粒子の分散安定性に優れた貴金属担持光触媒体粒子分散液を得ることは難しいため、工業的に製造する場合に取り扱いが面倒であった。
【0006】
このため、分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示す貴金属担持光触媒体粒子分散液が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示す貴金属担持光触媒体粒子分散液を開発すべく鋭意検討した結果、分散媒中に光触媒体粒子を分散させた後、脱イオン処理を施しながら貴金属の前駆体を前記光触媒体粒子の分散液に添加して原料分散液を得、この原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させた貴金属担持光触媒体粒子分散液は、分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示すことを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)下記の工程(a)、(b)及び(c)を有することを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(a)分散媒中に光触媒体粒子を分散させて、光触媒体粒子分散液を得る。
(b)前記光触媒体粒子分散液に、脱イオン処理を施しながら、貴金属の前駆体を添加して原料分散液を得る。
(c)前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射する。
(2)更に、工程(d)を有する前記(1)に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(d)前記工程(c)の後、前記原料分散液に犠牲剤を添加し、次いで前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射する。
(3)前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記(1)または(2)に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(4)光触媒体粒子が酸化チタン粒子または酸化タングステン粒子である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(5)前記脱イオン処理は、イオン交換樹脂による電気透析、半透膜による拡散透析およびイオン交換樹脂との接触処理からなる群から選ばれる1種の方法によって施される前記(1)〜(4)のいずれかに記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。

(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で得られる貴金属担持光触媒体粒子分散液。
(7)基材と、この基材上に光触媒体層とを備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が前記(6)に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて形成される光触媒機能製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蛍光灯に含まれる可視光などの実用光源下で高い光触媒活性を発現し、分散安定性に優れた貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造することができる。そのため、工業的に製造する場合に取り扱いが容易である。また、本発明によれば、基材上に均一な膜質の光触媒体層を形成することができ、しかもこの光触媒体層は高い光触媒活性を示す光触媒機能製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法は、分散媒中に光触媒体粒子を分散させた光触媒体粒子分散液に、脱イオン処理を施しながら貴金属の前駆体を添加して原料分散液を得、該原料分散液に所定のエネルギーを有する光を照射することにより、高い光触媒活性を示し、かつ光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中で沈降することのない、安定な分散性を有する貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造するものである。
【0011】
(光触媒体粒子)
本発明における光触媒体粒子とは、粒子状の光触媒体をいう。
光触媒体としては、金属元素と酸素、窒素、硫黄および弗素などとの化合物が挙げられる。
金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pd、Bi、La、Ceなどが挙げられる。金属元素の化合物としては、これら金属元素の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。なかでも、チタンやタングステンの酸化物が好ましく、とりわけ可視光線(波長約400nm〜約800nm)の照射で高い光触媒活性を示すことからタングステンの酸化物が好ましい。光触媒体は粒子状であることが好ましく、チタンやタングステンの酸化物としては、酸化チタン粒子や酸化タングステン粒子であることが好ましい。なお、光触媒体粒子は単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0012】
本発明における光触媒体粒子の粒子径分布は、動的散乱法で測定した粒子径分布において、体積累積50%径(以下、分散粒子径d50、平均分散粒子径という場合がある)は、250nm以下、好ましくは200nm以下であるのがよい。分散粒子径d50が250nmより大きいと、保管中に光触媒体粒子が沈降し、固液分離するおそれがある。
さらに動的散乱法で測定した粒子径分布において、体積累積90%径(以下、分散粒子径d90という場合がある)は、300nm以下、好ましくは250nm以下であるのがよい。分散粒子径d90が300nmより大きいと、保管中に粒子が沈降し、固液分離するだけでなく、基材に塗布したときに、均一な膜厚の塗膜が得られなくなるおそれがある。
【0013】
酸化チタン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化チタンであれば、特に制限はされないが、例えば、メタチタン酸粒子、結晶型がアナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型などである二酸化チタン〔TiO2〕粒子などが挙げられる。なお、酸化チタン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
メタチタン酸粒子は、例えば、硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解させる方法により得ることができる。
二酸化チタン粒子は、例えば、(i)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(ii)チタンアルコキシドに水、酸の水溶液または塩基の水溶液を加えて沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(iii)メタチタン酸を焼成する方法などによって得ることができる。これらの方法で得られる二酸化チタン粒子は、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型またはルチル型など、所望の結晶型にすることができる。
【0015】
酸化チタン粒子としては、前記の他にも、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、国際公開第01/10552号、特開2001−212457公報、特開2002−239395号公報、国際公開第03/080244号、国際公開第02/053501号、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, No.2, P.196−197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.4, P.364−365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.8, P.772−773(2003)、Chem. Mater. , 17, P.1548−1552(2005)などに記載の酸化チタン粒子を用いてもよい。また、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法により得られる酸化チタン粒子を用いることもできる。
【0016】
前記酸化チタン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点から、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。
前記酸化チタン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点から、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0017】
酸化タングステン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子などが挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
三酸化タングステン粒子は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、このタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、(iii)金属状のタングステン粒子を焼成する方法などによって得ることができる。
【0019】
前記酸化タングステン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点から、平均分散粒子径で、通常50〜200nm、好ましくは80〜130nmである。
前記酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点から、通常5〜100m2/g、好ましくは20〜50m2/gである。
【0020】
(分散媒)
分散媒としては通常、水を主成分とする水性媒体、具体的には水の含有量が分散媒全質量に対して50質量%以上のものが用いられる。分散媒の使用量は、光触媒体粒子に対して、通常3質量倍〜200質量倍である。分散媒の使用量が3質量倍未満では光触媒体粒子が沈降し易くなり、200質量倍を超えると容積効率の点で不利である。
【0021】
(貴金属の前駆体)
本発明における貴金属の前駆体としては、分散媒中に溶解し得るものが使用される。かかる前駆体が溶解すると、これを構成する貴金属元素は通常、プラスの電荷を帯びた貴金属イオンとなって、分散媒中に存在する。そして、この貴金属イオンが、光の照射による光触媒体粒子の光触媒作用により0価の貴金属に還元されて、光触媒体粒子の表面に担持される。
貴金属としては、例えばCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、IrおよびRhが挙げられる。その前駆体としては、これら貴金属の水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられる。これらの中でも高い光触媒活性を得る点から、貴金属は、Cu、Pt、Au、Pdが好ましい。
【0022】
Cuの前駆体としては、例えば、硝酸銅(Cu(NO3)2)、硫酸銅(CuSO4)、塩化銅(CuCl2、CuCl)、臭化銅(CuBr2,CuBr)、沃化銅(CuI)、沃素酸銅(CuI26)、塩化アンモニウム銅(Cu(NH4)2Cl4)、オキシ塩化銅(Cu2Cl(OH)3)、酢酸銅(CH3COOCu、(CH3COO)2Cu)、蟻酸銅((HCOO)2Cu)、炭酸銅(CuCO3)、蓚酸銅(CuC24)、クエン酸銅(Cu2647)、リン酸銅(CuPO4)などが挙げられる。
【0023】
Ptの前駆体としては、例えば、塩化白金(PtCl2、PtCl4)、臭化白金(PtBr2、PtBr4)、沃化白金(PtI2、PtI4)、テトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)、ヘキサクロロ白金酸カリウム(K2PtCl6)、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)、亜硫酸白金(H3Pt(SO3)2OH)、塩化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4Cl2)、炭酸水素テトラアンミン白金(C21446Pt)、テトラアンミン白金リン酸水素(Pt(NH3)4HPO4)、水酸化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4(OH)2)、硝酸テトラアンミン白金(Pt(NO3)2(NH3)4)、テトラアンミン白金テトラクロロ白金((Pt(NH3)4)(PtCl4))、ジニトロジアミン白金(Pt(NO2)2(NH32)などが挙げられる。
【0024】
Auの前駆体としては、例えば、塩化金(AuCl)、臭化金(AuBr)、沃化金(AuI)、水酸化金(Au(OH)2)、テトラクロロ金酸(HAuCl4)、テトラクロロ金酸カリウム(KAuCl4)、テトラブロモ金酸カリウム(KAuBr4)などが挙げられる。
【0025】
Pdの前駆体としては、例えば、酢酸パラジウム((CH3COO)2Pd)、塩化パラジウム(PdCl2)、臭化パラジウム(PdBr2)、沃化パラジウム(PdI2)、水酸化パラジウム(Pd(OH)2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、硫酸パラジウム(PdSO4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K2(PdCl4))、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K2(PdBr4))、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NH34Cl2)、テトラアンミンパラジウム臭化物(Pd(NH34Br2)、テトラアンミンパラジウム硝酸塩(Pd(NH34(NO32)、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸((Pd(NH34)(PdCl4))、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム((NH42PdCl4)などが挙げられる。
【0026】
貴金属の前駆体は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用される。その使用量は、貴金属原子に換算して、光触媒体粒子の使用量100質量部に対して、光触媒作用の向上効果が十分に得られる点で通常0.01質量部以上、コストに見合った効果が得られる点で通常1質量部以下であり、好ましくは0.05質量部〜0.6質量部である。
【0027】
(光触媒体粒子分散液)
本発明では、分散媒中に光触媒体粒子を分散させて、光触媒体粒子分散液を得る。
分散媒中に光触媒体粒子を分散させる方法としては、例えば、分散媒中に光触媒体粒子を添加し、これを湿式媒体撹拌ミルなどの公知の装置で分散処理を施す方法などが挙げられる。
光触媒体粒子分散液の導電率は、0.01〜20mS/m、好ましくは0.1〜10mS/mであるのがよい。光触媒体粒子分散液の導電率が20mS/mを超えると、光触媒体粒子の分散安定性が損なわれて、光触媒体粒子が沈降し、固液分離するおそれがあり、0.01mS/m未満では、脱イオン処理するのに要する時間がかかり、コストが高くなるおそれがある。
【0028】
本発明では必要に応じて光触媒体粒子分散液に、水熱条件下で加熱処理を施すことができる。このような加熱処理を行なうことで、光触媒体粒子の結晶性を向上させ、基材上に均一な膜質の光触媒体層を形成することができ、しかもこの光触媒体に高い光触媒活性を発現させることができる。
この加熱処理は、110℃以上で保持することで行われ、加熱処理は高い温度で行うのが好ましく、150℃以上、さらに好ましくは180℃以上で行われ、280℃以上の亜臨界もしくは超臨界領域で行われてもよい。
また、分散媒にアルコールを含む場合でも、上記加熱処理の温度範囲内で加熱処理を行うことにより、分散媒が水単独の場合と同様の効果を得ることができる。また、加熱処理の温度があまり高くなると、加熱処理を行う装置が高価になり、それに見合うだけの光触媒活性が得られないため、500℃以下、さらには450℃以下が好ましい。
加熱処理の保持圧力は、0.14〜35Mpaであるのが好ましい。0.14Mpa未満であると分散安定性に優れ、高い結晶性を有する光触媒体粒子が得られず、35Mpaを超えると、加熱処理を行う装置が高価となり実用的でない。
加熱処理の保持時間は、温度により適宜調整すればよく、通常1分以上、好ましくは1時間以上、また100時間以内、好ましくは10時間以内である。
【0029】
水の超臨界点は、374℃、22MPaである。すなわち、本発明における分散媒が水単独の場合、超臨界領域の水熱条件としては、温度374℃以上でかつ圧力22MPa以上であり、また、亜臨界領域の水熱条件としては、温度250℃以上でかつ圧力20MPa以上である。このような水熱条件下に、分散液をおくことにより、結晶性に優れる光触媒体粒子分散液を得ることができる。
【0030】
本発明における分散液を水熱条件下で加熱処理するための反応装置としては、例えば、バッチ式の反応装置を用いることができ、反応容器内に分散液を直接、もしくはビーカーなどの開放系の容器に入れて密閉し、これを所定温度で所定時間保持した後、冷却し、反応容器から光触媒体粒子分散液を回収する。
反応容器は、加熱処理の保持温度に対して充分な耐熱性を持ち、加熱処理の保持圧力に対して充分な耐圧性を持ち、加熱処理前後の分散液に対して充分な耐食性を持つ構造、材質のものを選べばよい。
反応容器の材質としては、加熱処理前後の分散液の含有成分や保持温度、保持圧力などの条件に基づき、適切なものを選択すればよいが、例えば、SUS316などのステンレス鋼;ハステロイ、インコネルなどのニッケル合金;チタン合金などを挙げることができる。また、金などの耐食性の高い材料で反応容器の内面をライニングしてもよい。
所定温度に保持するためには、例えば、電気炉を利用することができる。この場合、電気炉は、反応容器の設置、取出しなどの操作を行い易いように、電気炉の加熱部に反応容器を挿入できる構造にすればよい。また、所定温度までの昇温時、所定温度保持時に、分散液の均一性を保つ観点から、反応容器を振盪してもよい。保持する所定温度に応じて、反応容器内に入れる分散液の量を調整して、水熱反応時の反応容器内の圧力を調整する事ができる。
所定時間保持した後、反応容器を冷却する方法としては、反応容器ごと水に浸けるなどして急冷する方法などが挙げられる。
光触媒体粒子分散液を回収する方法としては、例えば、固液分離、洗浄、乾燥した後に、粉末状態で回収してもよいし、スラリー状態で回収することも出来る。
【0031】
(原料分散液)
本発明では、光触媒体粒子分散液に脱イオン処理を施しながら貴金属の前駆体を添加して原料分散液を得る。これにより、前駆体中に含まれるイオン化し易い成分を除去することができる。貴金属の前駆体を添加する際に脱イオン処理を施さない場合、光触媒体粒子の凝集が起こり、固液分離が起こる。これは、イオンの濃度が高くなり、原料分散液中のpHが変化する等の理由により、光触媒体粒子の分散安定性が損なわれるためであると考えられる。
脱イオン処理の開始時期は、特に限定されず、例えば、脱イオン処理の開始と同時に貴金属の前駆体を添加してもよいし、脱イオン処理を開始後に貴金属の前駆体を添加してもよい。
脱イオン処理の終了時期は、特に限定されず、例えば、貴金属の前駆体を添加終了と同時に脱イオン処理を終了してもよいし、貴金属の前駆体を添加し終わった後に脱イオン処理を終了してもよい。
【0032】
脱イオン処理の方法としては、例えば、イオン交換樹脂による電気透析、半透膜による拡散透析、イオン交換樹脂との接触処理などを用いて行うことができる。
特に脱イオン処理の方法で用いるイオン交換膜は、前駆体中に含まれるイオン化し易い成分を除去する観点から、用いる貴金属の前駆体によって適宜調整すればよく、例えば、貴金属の前駆体にテトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)、ヘキサクロロ白金酸カリウム(K2PtCl6)またはヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)を用いる場合には、1価の価数のイオンに対してイオン交換可能な陽イオン交換膜および陰イオン交換膜を用いるのが好ましい。また、例えば、貴金属の前駆体に塩化白金(PtCl2、PtCl4)を用いる場合には、1価の価数のイオンに対してイオン交換可能な陰イオン交換膜を用いるのが好ましい。
【0033】
本発明における原料分散液に含まれる光触媒体粒子の粒子径分布は、動的散乱法で測定した粒子径分布において、分散粒子径d50は、250nm以下、好ましくは200nm以下であるのがよい。分散粒子径d50が250nmより大きいと、保管中に光触媒体粒子が沈降し、固液分離するおそれがある。
さらに動的散乱法で測定した粒子径分布において、分散粒子径d90は、300nm以下、好ましくは250nm以下であるのがよい。分散粒子径d90が300nmより大きいと、保管中に光触媒体粒子が沈降し、固液分離するだけでなく、基材に塗布したときに、均一な膜厚の塗膜が得られなくなるおそれがある。
【0034】
原料分散液の導電率は、0.05〜50mS/m、好ましくは0.5〜30mS/mであるのがよい。原料分散液の導電率が50mS/mを超えると、光触媒体粒子の分散安定性が損なわれて、光触媒体粒子が沈降し、固液分離するおそれがあり、0.05mS/m未満では、脱イオン処理するのに要する時間がかかり、コストが高くなるおそれがある。
【0035】
(光の照射)
本発明では、光触媒体粒子分散液に、かかる脱イオン処理を施しながら原料分散液に光を照射する。原料分散液への光の照射は、撹拌しながら行ってもよい。透明なガラスやプラスチック製の管内を通過させながら管の内外から照射してもよく、これを繰り返してもよい。尚、光の照射は脱イオン処理を施しながら行っても勿論よい。
光源としては、光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射できるものであれば特に制限はなく、例えば、殺菌灯、水銀灯、発光ダイオード、蛍光灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、太陽光などを用いることができる。
照射する光の波長は、光触媒体粒子によって適宜調整すればよく、通常、180nm〜500nmである。
光照射を行う時間は、十分な量の貴金属を光触媒体粒子の表面に担持できる観点から、犠牲剤の添加前後において、通常20分以上、好ましくは1時間以上、通常24時間以下、好ましくは6時間以下である。24時間を越える場合、それまでに貴金属の前駆体の殆どは貴金属となって光触媒体粒子の表面に担持されてしまい、光照射にかかるコストに見合う効果が得られない。また、貴金属を光触媒体粒子の表面により均一に担持し、高い光触媒活性を発現させる観点から、犠牲剤の添加前に光照射を行うのが好ましい。
【0036】
(犠牲剤)
本発明では、原料分散液に所定のエネルギーを有する光を照射した後に、必要に応じて犠牲剤を原料分散液に添加し、更に光照射を行うことができる。
犠牲剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノールなどのアルコール;アセトンなどのケトン;蓚酸などのカルボン酸などが用いられる。犠牲剤が固体の場合、この犠牲剤を適当な溶媒に溶解して用いてもよいし、固体のまま用いてもよい。
犠牲剤の量は分散媒に対して、通常0.001質量倍〜0.3質量倍、好ましくは0.005質量倍〜0.1質量倍である。犠牲剤の使用量が0.001質量倍未満では光触媒体粒子への貴金属の担持が不十分となり、0.3質量倍を超えると犠牲剤の量が過剰量となりコストに見合う効果が得られない。
【0037】
(貴金属担持光触媒体粒子)
かくして原料分散液に光照射を行い、貴金属の前駆体が貴金属となって光触媒体粒子の表面に担持されて、目的の貴金属担持光触媒体粒子を得ることができる。この貴金属担持光触媒体粒子は用いた分散媒中に、沈降することなく分散されている。
【0038】
本発明における貴金属担持光触媒体粒子の粒子径分布は、動的散乱法で測定した粒子径分布において、分散粒子径d50は、250nm以下、好ましくは200nm以下であるのがよい。分散粒子径d50が250nmより大きいと、保管中に光触媒体粒子が沈降し、固液分離するおそれがある。
さらに動的散乱法で測定した粒子径分布において、分散粒子径d90は、300nm以下、好ましくは250nm以下であるのがよい。分散粒子径d90が300nmより大きいと、保管中に光触媒体粒子が沈降し、固液分離するだけでなく、基材に塗布したときに、均一な膜厚の塗膜が得られなくなるおそれがある。
【0039】
(貴金属担持光触媒体粒子分散液)
この貴金属担持光触媒体粒子が分散された貴金属担持光触媒体粒子分散液は、貴金属担持光触媒体粒子の分散安定性に優れているため取り扱いやすく、しかも高い光触媒活性を発現する。
【0040】
貴金属担持光触媒体粒子分散液の導電率は、0.01〜100mS/m、好ましくは0.05〜50mS/mであるのがよい。貴金属担持光触媒体粒子分散液の導電率が100mS/mを超えると、光触媒体粒子の分散安定性が損なわれて、光触媒体粒子が沈降し、固液分離するおそれがあり、0.01mS/m未満では、脱イオン処理するのに要する時間がかかり、コストが高くなるおそれがある。
【0041】
本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、アルコキシシラン、オルガノポリシロキサンなどのケイ素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトなどのアルミノケイ酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Ag、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceなどの金属元素の水酸化物や酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。これらの添加剤を添加して用いる場合、それぞれ単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
前記添加剤は、本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて基材の表面に光触媒体層を形成する際に、光触媒体粒子をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダーなどに用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10―183061号公報、特開平10―183062号公報、特開平10―168349号公報、特開平10―225658号公報、特開平11―1620号公報、特開平11―1661号公報、特開2002−80829号公報、特開2004―059686号公報、特開2004―107381号公報、特開2004―256590号公報、特開2004―359902号公報、特開2005―113028号公報、特開2005―230661号公報、特開2007―161824号公報、国際公開第96/029375号、国際公開第97/000134号、国際公開第98/003607号など参照)。
【0043】
(光触媒機能製品)
本発明の光触媒機能製品は、上記のようにして得られた貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて形成された光触媒体層を表面に備えるものである。ここで、光触媒体層は、例えば、本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液を基材(製品)の表面に塗布した後に、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜方法によって形成することができる。
光触媒体層の層厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途などに応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよい。光触媒体層は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面であって、かつ悪臭物質が発生する箇所や、病原菌が存在する箇所と連続または断続して空間的につながる面に形成されていることが好ましい。
なお、基材(製品)の材質は、形成される光触媒体層を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。尚、光触媒作用による光触媒体層と基材の密着性の劣化を抑制するために、光触媒体層と基材の間に、例えばシリカ成分などからなる公知のバリア層を形成することができる。
【0044】
前記プラスチックとしては、熱硬化性樹脂である場合には、例えば、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーン樹脂、メラミンユリア樹脂などが挙げられる。
また、前記プラスチックとしては、熱可塑性樹脂である場合には、例えば、縮重合系樹脂やビニルモノマーを重合して得られる樹脂などが挙げられる。
【0045】
縮重合系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、生分解性ポリエステル、ポリエステル系液晶ポリマーなどのポリエステル系樹脂;エチレンジアミン−アジピン酸重縮合体(ナイロン−66)、ナイロン−6、ナイロン−12、ポリアミド系液晶ポリマーなどのポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリメチレンオキシド、アセタール樹脂などのポリエーテル系樹脂;セルロースおよびその誘導体などの多糖類系樹脂などが挙げられる。
【0046】
ビニルモノマーを重合して得られる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体)、スチレン−エチレン−ブテン共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブテン)ブロック共重合体)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)−ポリスチレンブロック共重合体)、エチレン−スチレン共重合体などの不飽和芳香族含有樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコール系樹脂;ポリメチルメタクリレート、モノマーとしてメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸アミド、アクリル酸アミドを含むアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂などが挙げられる。
【0047】
本発明の光触媒機能製品は、屋外においては勿論のこと、蛍光灯、ナトリウムランプ、および白色発光ダイオードなどの可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光照射によって高い光触媒作用を示す。したがって、本発明の製造方法により得られた貴金属担持光触媒体粒子分散液を、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床などの建築資材、自動車内装材(自動車インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品、衣類やカーテンなどの繊維製品などに塗布して乾燥させると、屋内照明による光照射によって、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機物;アルデヒド類、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質;窒素酸化物の濃度を低減させ、黄色ブドウ球菌、大腸菌、炭疽菌、結核菌、コレラ菌、ジフテリア菌、破傷風菌、ペスト菌、赤痢菌、ボツリヌス菌、およびレジオネラ菌などの病原菌などを死滅、分解、除去することができ、また、七面鳥ヘルぺスウイルス、マレック病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、伝染性喉頭気管炎、鳥脳脊髄炎ウイルス、鶏貧血ウイルス、鶏痘ウイルス、鳥類レオウイルス、鳥類白血病ウイルス、細網内皮症ウイルス、鳥類アデノウイルス及び出血性腸炎ウイルス、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、水庖瘡ウイルス、麻疹ウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、カリシウイルス、レトロウイルス、コロナウイルス、鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス、ノロウイルス及びその組換え体などを無害化することができ、さらに、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することができる。また、本発明の光触媒機能製品は、可視光線を照射すれば、充分な親水性を発揮し、防曇性を発現するだけでなく、汚れに水をかけるだけで容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0049】
なお、各実施例における測定法は、以下の通りである。
【0050】
1.BET比表面積
光触媒体粒子のBET比表面積は、比表面積測定装置(湯浅アイオニクス(株)の製「モノソーブ」)を用い、窒素吸着法により測定した。
【0051】
2.平均分散粒子径(nm)
マイクロトラックUPA粒度分析計(日機装(株)製)を用いて、動的散乱法により累積50%径と90%径を測定して、それぞれ分散粒子径d50(nm)およびd90(nm)とした。
【0052】
3.結晶型
X線回折装置((株)リガク製の「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0053】
4.導電率
導電率の測定は、電気伝導率計((株)堀場製作所製の「ES―51」)を用いて測定した。
【0054】
5.アセトアルデヒド分解能の測定
光触媒活性は、蛍光灯の光の照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた貴金属担持光触媒体粒子分散液を底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一に形成した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中で1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に紫外線強度が2mW/cm2(トプコン社製の紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒活性測定用試料とした。
【0055】
次に、この光触媒活性測定用試料をシャーレごとガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガス0.6Lを封入し、さらにその中に1%アセトアルデヒドを含む窒素ガス3mLを封入して、暗所で室温下1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業(株)製の「N169」)を通して、測定用試料近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製の照度計「T−10」で測定)となるようにガスバッグの外から可視光を照射し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。蛍光灯の光照射を開始してから1.5時間毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、アセトアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ((株)島津製作所製の「GC−14A」)にて測定した。そして照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。この一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能、すなわち光触媒活性が高いと言える。
【0056】
(製造例1)
分散媒としてイオン交換水4kgに、酸化タングステン粒子(日本新金属(株)製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を湿式媒体撹拌ミルを用いて分散処理して分散液を得た。
次に、この分散液を分散処理後2日間、室温で保管した分散液3kgをビーカーにとり、このビーカーごとプレッシャークッカー(楠本化成(株)製の「特殊PCT (PCT―200−10)」)に設置して1.5時間で200℃に昇温したのち、1.55MPa、200℃で10時間保持し、加熱処理を行って酸化タングステン粒子分散液を得た。
得られた酸化タングステン粒子分散液は、分散粒子径のうちd50が53nmで、d90が120nmであった。またpHは3.3で、導電率は2.9mS/mあった。酸化タングステン粒子の凝集は見られなかった。
【0057】
(実施例1)
製造例1で得られた酸化タングステン粒子分散液の濃度を6質量%に水で希釈し、1価の価数のイオンに対してイオン交換可能な陽イオン交換膜および陰イオン交換膜を設置した卓上電気透析装置((株)アストム製の「マイクロアシライザーS3型」)を用いて脱イオン処理を施したところ、分散粒子径は、d50が54nmで、d90が125nmであった。またpHは3.9で、導電率は2.6mS/mとなった。
その後、引き続き脱イオン処理を施しながら、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)の水溶液を、ヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステン粒子の使用量100質量部に対して0.12質量部になるように加え、ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。このヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液の分散粒子径は、d50が69nmで、d90が140nmであった。またpHは4.0で、導電率は8.0mS/mとなった。さらにこのヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を20℃で48時間保管したところ、保管後に固液分離は見られなかった。
【0058】
次いで、水中殺菌灯(三共電気(株)製の「GLK8MQ」)を設置したガラス管(内径37mm,高さ150mm)からなる光照射装置で、ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液140gに光照射(紫外線照射)を105分間行い、更にメタノールをその濃度が全溶媒の1質量%となるように加えて、さらに光照射を90分間行って白金担持酸化タングステン粒子分散液を得た。この白金酸含有酸化タングステン粒子分散液の分散粒子径は、d50が67nmで、d90が136nmであった。またpHは3.3で、導電率は21mS/mとなった。
【0059】
得られた白金担持酸化タングステン粒子分散液を20℃で24時間保管したところ、保管後に固液分離は見られなかった。この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層は均一な膜質であり、その光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.393h-1であった。
【0060】
(比較例1)
脱イオン処理を施さない他は実施例1と同様にしてヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。このヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液の分散粒子径は、d50が67nmで、d90が467nmとなり、酸化タングステン粒子の凝集が見られた。またpHは3.1であった。さらにこのヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を20℃で48時間保管したところ、保管後に著しい固液分離が見られた。
【0061】
実施例1は、分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示した。これに対し、比較例1では固液分離が見られ、分散安定性がないため取り扱いが困難であった。
【0062】
(参考例1)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、天井を構成する天井材の表面に塗布し乾燥させることにより、天井材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることができ、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、天井材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0063】
(参考例2)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、屋内の壁面に施工されたタイルに塗布し乾燥させることにより、タイル表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、タイルの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0064】
(参考例3)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、窓ガラスの屋内側表面に塗布し乾燥させることにより、ガラス表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、窓ガラスの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0065】
(参考例4)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、壁紙に塗布し乾燥させることにより、壁紙の表面に光触媒体層を形成することができ、さらにこの壁紙を屋内の壁面に施工することによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、壁紙の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0066】
(参考例5)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、屋内の床面に塗布し乾燥させることにより、床面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、床面の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0067】
(参考例6)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車の天井材、自動車用ガラスの車内側などの自動車内装材の表面に塗布し乾燥させることにより、これら自動車内装材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、車内照明による光照射により車内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、自動車内装材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0068】
(参考例7)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、エアコンの表面に塗布し乾燥させることにより、エアコンの表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、エアコンの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0069】
(参考例8)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、冷蔵庫の庫内に塗布し乾燥させることにより、冷蔵庫内に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明や冷蔵庫内の光源による光照射により冷蔵庫内における揮発性有機物(例えば、エチレンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、冷蔵庫の庫内の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0070】
(参考例9)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、電車のつり革、エレベーターのボタンなど、不特定多数の人が接触する基材表面に塗布し乾燥させることにより、これら基材表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエンなど)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンなどのアレルゲンを無害化することもできる。さらに、基材表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を有することを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(a)分散媒中に光触媒体粒子を分散させて、光触媒体粒子分散液を得る。
(b)前記光触媒体粒子分散液に、脱イオン処理を施しながら、貴金属の前駆体を添加して原料分散液を得る。
(c)前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射する。
【請求項2】
更に、工程(d)を有する請求項1記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(d)前記工程(c)の後、前記原料分散液に犠牲剤を添加し、次いで前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射する。
【請求項3】
前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒体粒子が酸化チタンまたは酸化タングステンである請求項1〜3のいずれかに記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記脱イオン処理は、イオン交換樹脂による電気透析、半透膜による拡散透析およびイオン交換樹脂との接触処理からなる群から選ばれる1種の方法によって施される請求項1〜4のいずれかに記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られる貴金属担持光触媒体粒子分散液。
【請求項7】
基材と、この基材上に光触媒体層とを備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が請求項6に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて形成される光触媒機能製品。

【公開番号】特開2012−71253(P2012−71253A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217740(P2010−217740)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】