説明

質量分析によってエストロンを検出するための方法

質量分析計を用いてサンプル中のエストロンの量を決定する方法が提供される。この方法は一般には、サンプル中のエストロンをイオン化する工程と、このイオンの量を検出および定量してこのサンプル中のエストロンの量を決定する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロンの検出に関する。特定の局面では、本発明は、エストロンを質量分析によって検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景の以下の説明は、本発明を理解するのにおける単なる補助として提供され、本発明の先行技術を記載するとも、構成するとも認めるものではない。
【0003】
エストロン[1,3,5(10)−エストラトリエン−3−オール−17−オンまたは3−ヒドロキシ−1,3,5(10)−エストラトリエン−17−オン]またはE1は、270.37ダルトンの分子量を有するC18ステロイドホルモンである。エストロンは、生殖腺または副腎皮質に由来するアンドロステンジオンから主に産生される。エストロン(またはE1)は、3つの天然に存在するエストロゲンのうちの1つであって、その他はエストラジオールおよびエストリオールであり、ヒトの身体には自然である。その分子式はC18222である。エストロゲンは主に、思春期の雌性の特徴の成長および月経周期の調節を担う。エストロンは、閉経期を経た女性でエストロゲンレベルを決定するために測定され得る。卵巣、精巣または副腎のガンを有し得る男性または女性でも測定され得る。閉経前の女性ではエストロンのレベルは一般にエストラジオールのレベルと平行である。閉経期の後、エストロンのレベルは、おそらく、アンドロステンジオンのエストロンへの変換の増大に起因して増大する。
【0004】
質量分析を用いて特定のエストロンイオンを検出するための方法は記載されている。例えば、非特許文献1、および非特許文献2は、液体クロマトグラフィーおよび質量分析を用いて種々のエストロンイオンを検出するための方法を開示する。これらの方法は、質量分析による検出の前にエストロンを誘導体化する。液体クロマトグラフィー/質量分析によって、誘導体化されていないエストロンを検出するための方法は、非特許文献3、および非特許文献1に開示される。ガスクロマトグラフィー/質量分析によってエストロンを検出するための方法は、非特許文献4および非特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ネルソン・アール(Nelson R)ら、クリニカル・ケミストリー(Clinical Chemistry)2004,50(2):373〜84
【非特許文献2】スー・エックス(Xu X)ら、ネイチャー・プロトコールズ(Nature Protocols)2007,2(6):1350〜1355
【非特許文献3】ディアス・クルス・エス(Diaz−Cruz S)ら、ジャーナル・オブ・マス・スペクトロメトリー(Journal of Mass Spectrometry)2003,38:917〜923
【非特許文献4】ナハティガル・エル(Nachtigall L)ら、メノポーズ:ザ・ジャーナル・オブ・ザ・ノース・アメリカン・メノポーズ・ソサイエティ(Menopause: The Journal of the North American Menopause Society)2000,7(4):243〜250
【非特許文献5】ドルガン・ジェイ(Dorgan J)ら、ステロイズ(Steroids)2002,67:151〜158
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タンデム型質量分析を含む質量分析によってサンプル中のエストロンの量を検出するための方法を提供する。
【0007】
一局面では、体液サンプル中のエストロンの量を決定するための方法が提供される。この方法は以下をを含み:(a)体液サンプル中のエストロンを液体クロマトグラフィーによって精製する工程と;(b)この体液サンプル中のエストロンをイオン化する工程と;(c)このエストロンイオン(単数または複数)の量を質量分析によって検出する工程およびこの体液サンプル中のエストロンの量に対してこの検出されたエストロンイオン(単数または複数)の量を関連付ける工程。この局面の特定の好ましい実施形態では、この方法の定量の限界は、500pg/mL以下である。他の好ましい実施形態では、エストロンは、質量分析前には誘導体化されない。特定の好ましい実施形態では、エストロンイオンは、269.07±0.5、145.03±0.5および143.02±0.5の質量/電荷比を有するイオンの群から選択される。いくつかの好ましい実施形態では、この方法は、エストロンの1つ以上の前駆イオンを作製する工程を含み、ここではこの前駆イオンの少なくとも1つが269.07±0.5の質量/電荷比を有する。関連の好ましい実施形態では、この方法は、断片イオンのうち少なくとも1つが145.03±0.5または143.02±0.5の質量/電荷比を有する、エストロン前駆イオンの1つ以上の断片イオンを作製する工程を含み得る。いくつかの好ましい実施形態では、この方法は、体液サンプル中に存在し得るタンパク質由来の遊離のエストロンに対して十分な量の試薬をこの体液サンプルに添加する工程を含み得る。関連の好ましい実施形態では、この方法は、体液サンプルを酸性化する工程;好ましくはイオン化の前に酸性化する工程;さらに好ましくは、精製の前に酸性化する工程;好ましくはギ酸を用いて酸性化する工程を含みうる。特に好ましい実施形態では、この体液サンプルは、血清、血漿または尿である。
【0008】
本明細書において用いる場合、別段言及しない限り、単数形「1つの、ある(不定冠詞:a、an)」および「この、その(定冠詞:the)」は複数の言及を包含する。従って、例えば、「あるタンパク質(a protein)」という言及は、複数のタンパク質分子を包含する。
【0009】
本明細書において用いる場合、「精製」または「精製すること」という用語は、目的の分析物(単数または複数)以外のサンプル由来の全ての物質を除去することを言うのではない。そうではなく、精製とは、目的の分析物の検出を妨害し得るサンプル中の他の成分に対して目的の1つ以上の分析物の量を富化する手順を指す。サンプルは本明細書では、1つ以上の妨害物質、例えば、選択されたエストロンの親イオンまたは娘イオンを質量分析によって検出することを妨げるであろう1つ以上の物質の除去を可能にする種々の手段によって精製される。
【0010】
本明細書において用いる場合、「試験サンプル」という用語は、エストロンを含み得る任意のサンプルを指す。本明細書において用いる場合、「体液」という用語は、個体の身体から単離され得る任意の液体を意味する。例えば、「体液」は、血液、血漿、血清、胆汁、唾液、尿、涙、汗などを包含し得る。
【0011】
本明細書において用いる場合、「誘導体化」という用語は、2つの分子を反応させて新規な分子を形成することを意味する。誘導体化剤としては、イソチオシアナート基、ジニトロ−フルオロフェニル基、ニトロフェノキシカルボニル基、および/またはフタルアルデヒド基などを挙げることができる。
【0012】
本明細書において用いる場合、「クロマトグラフィー」という用語は、液体または気体によって担持される化学的な混合物が、静止的な液相または固相の周囲または上を流れるにつれて、その化学物質の示差的な分布の結果として成分に分けられるプロセスを指す。
【0013】
本明細書において用いる場合、「液体クロマトグラフィー」または「LC」という用語は、微細に分けられた物質のカラムを通じて、または毛細管の通路を通じて液体が均一に浸透するような液体溶液の1つ以上の成分の選択的な遅延のプロセスを意味する。この遅延の結果、固定相(単数または複数)に対してこの液体が動くにつれて、1つ以上の固定相とバルクの液体(すなわち、移動相)との間で混合物の成分の分布が生じる。「液体クロマトグラフィー」としては、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)が挙げられる。
【0014】
本明細書において用いる場合、「高速液体クロマトグラフィー」または「HPLC」という用語は、液体クロマトグラフィーであって、分離の程度が固定相、典型的には濃密に充填されたカラムを通じて圧力下で移動相を強制することによって増大される液体クロマトグラフィーを指す。
【0015】
本明細書において用いる場合、「高乱流液体クロマトグラフィー」または「HTLC」という用語は、分離を行うための基礎としてカラム充填を通じてアッセイされている物質の乱流を利用するクロマトグラフィーの形態を指す。HTLCは質量分析による分析の前に2つの特定されていない薬物を含んでいるサンプルの調製に適用されている。例えば、Zimmer et al.,J.Chromatogr.A 854:23〜35(1999)を参照のこと;また、さらにHTLCを説明している、米国特許第5,968,367号、同第5,919,368号、同第5,795,469号、および同第5,772,874号も参照のこと。当業者は、「乱流」を理解する。液体がゆっくりかつスムーズに流れる場合、その流れは「層流」と呼ばれる。例えば、HPLCカラムを通じて移動する低い流速の流れは層流である。層流では、液体の粒子の動きは、粒子が一般には直線で動くにつれて規則正しい。速い流速では、水の慣性は、液体の摩擦力および乱流の結果を上回る。不規則な境界と接触していない液体は、摩擦によって遅くなるかまたは不均一な表面によって偏向される液体を「追い越す(outruns)」。液体が乱れて流される場合、その液体は渦巻き(eddies)および渦(whirls)(または渦形(vortices))で流れ、ここではその流れが層流である場合よりも「のろのろ進む(drag)」。液体の流れが層流または乱流であるときを決定するのに役立つ多くの参考文献が利用可能である(例えば、Turbulent Flow Analysis:Measurement and Prediction,P.S. Bernard & J.M. Wallace,John Wiley & Sons,Inc.,(2000);An Introduction to Turbulent Flow,Jean Mathieu & Julian Scott,Cambridge University Press(2001))。
【0016】
本明細書において用いる場合、「ガスクロマトグラフィー」または「GC」という用語は、クロマトグラフィーであって、サンプル混合物が気化されて、液体または粒子状固体からなる固定相を含んでいるカラムを通じて移動する搬送ガス(窒素またはヘリウムとして)の流れに注入され、その固定相の化合物の親和性に従ってその成分の化合物に分けられるクロマトグラフィーを指す。
【0017】
本明細書において用いる場合、「大粒子カラム(large particle column)」または「抽出カラム(extraction column)」という用語は、約35μmより大きい平均粒子直径を含んでいるクロマトグラフィーカラムを指す。この文脈において用いる場合、「約」という用語は±10%を意味する。好ましい実施形態では、このカラムは、約60μmの直径の粒子を含む。
【0018】
本明細書において用いる場合、「分析カラム(analytical column)」という用語は、分析物の存在または量の決定を可能にするのに十分な、そのカラムから溶出するサンプル中の物質の分離を果たすために十分なクロマトグラフィープレートを有しているクロマトグラフィーカラムを指す。このようなカラムは、さらなる分析のために精製されたサンプルを得るために、保持されていない物質から保持された物質を分離または抽出するという一般的な目的を有する「抽出カラム」とは識別される場合が多い。この文脈で用いる場合、「約」という用語は±10%を意味する。好ましい実施形態では、この分析的カラムは、約4μmの直径の粒子を含む。
【0019】
本明細書において用いる場合、「オンライン」または「インライン」という用語は、例えば、「オンラインの自動的方式(on−line automated fashion)」または「オンライン抽出(on−line extraction)」で用いる場合、操作者の介入が必要なしで行われる手順を指す。対照的に、「オフライン」という用語は、本明細書において用いる場合、操作者の手動による介入を要する手順を指す。従って、サンプルを沈殿させ、次に上清を手動でオートサンプラーにロードする場合、その沈殿およびローディングの工程は、その後の工程からオフラインである。この方法の種々の実施形態では、1つ以上の工程をオンラインの自動的な方式で行ってもよい。
【0020】
本明細書において用いる場合、「質量分析」または「MS」という用語は、その質量によって化合物を特定するための分析技術を指す。MSとは、イオンの質量対電荷比、すなわち「m/z」に基づいてイオンをフィルタリング、検出および測定する方法を指す。MS技術は一般には(1)化合物をイオン化して荷電された化合物を形成する工程;および(2)荷電された化合物の分子量を検出して質量対電荷比(m/z)を算出する工程を含む。この化合物は、任意の適切な手段によってイオン化および検出され得る。「質量分析計」は一般には、イオン化装置およびイオン検出器を備える。一般には、目的の1つ以上の分子をイオン化し、そのイオンを引き続き、質量分析法の装置に導入し、ここで、磁場および電場の組み合わせに起因して、イオンは質量(「m」)および荷電(「z」)に依存する空間中の経路をたどる。例えば、「Mass Spectrometry From Surfaces」と題された米国特許第6,204,500号、「Methods and Apparatus for Tandem Mass Spectrometry」と題された同第6,107,623号、「DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry」と題された同第6,268,144号、「Surface−Enhanced Photolabile Attachment And Release For Desorption And Detection Of Analytes」と題された同第6,124,137号、Wright et al.,Prostate Cancer and Prostatic Diseases 2:264〜76(1999);ならびにMerchantおよびWeinberger,Electrophoresis 21:1164〜67(2000)を参照のこと。
【0021】
本明細書において用いる場合、「負のイオンモードで作動する」という用語は、負のイオンが作製され検出される質量分析法を指す。同様に、「正のイオンモードで作動する」という用語は、本明細書において用いる場合、正のイオンが作製され検出される質量分析法を指す。
【0022】
本明細書において用いる場合、「イオン化」または「イオン化する、イオン化工程(ionizing)」という用語は1つ以上の電子単位に等しい正味の電荷を有している分析物イオンを作製するプロセスを指す。負のイオンとは、1つ以上の電子単位の正味の負の電荷を有しているイオンであるが、正のイオンとは、1つ以上の電子単位の正味の正の電荷を有しているイオンである。
【0023】
本明細書において用いる場合、「電子イオン化」または「EI」という用語は、気相または蒸気相中の目的の分析物が電子の流れと相互作用する方法を指す。分析物との電子の衝突は分析物イオンを生じ、これが次に質量分析技術に供され得る。
【0024】
本明細書において用いる場合、「化学的イオン化」または「CI」という用語は、試薬ガス(例えば、アンモニア)が電子衝突に供され、分析物イオンが試薬ガスイオンおよび分析物分子の相互作用によって形成される方法を指す。
【0025】
本明細書において用いる場合、「高速原子衝撃」または「FAB」という用語は、高エネルギー原子のビーム(しばしばXeまたはAr)が不揮発性サンプルに衝突し、サンプル中に含まれる分子を脱着およびイオン化する方法を指す。試験サンプルを、グリセロール、チオグリセロール、m−ニトロベンジルアルコール、18−クラウン−6クラウンエーテル、2−ニトロフェニルオクチルエーテル、スルホラン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンなどの粘性の液体基質に溶解する。化合物またはサンプルについて適切な基質の選択は経験的なプロセスである。
【0026】
本明細書において用いる場合、「マトリックス支援レーザー脱離イオン化」または「MALDI」という用語は、不揮発性のサンプルがレーザー照射に曝され、このレーザー照射がサンプル中の分析物を、光イオン化、プロトン化、脱プロトンおよびクラスター崩壊を含む種々のイオン化経路によって脱着およびイオン化する方法を指す。MALDIについては、サンプルをエネルギー吸着基質と混合して、これによって分析物分子の脱着を容易にする。
【0027】
本明細書において用いる場合、「表面増強レーザー脱離イオン化」または「SELDI」という用語は、不揮発性サンプルがレーザー照射に曝され、レーザー照射がサンプル中の分析物を、光イオン化、プロトン化、脱プロトンおよびクラスター崩壊を含む種々のイオン化経路によって脱着およびイオン化するという別の方法を指す。SELDIについては、サンプルは典型的には目的の1つ以上の分析物を優先的に保持する表面に結合される。MALDIにおいては、このプロセスはエネルギー吸着物質を使用してイオン化を容易にし得る。
【0028】
本明細書において用いる場合、「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」という用語は、溶液が短い長さの毛細管にそって通され、その終わりに高い正または負の電圧が印加される方法を指す。この管の終わりに達する溶液は、溶媒蒸気中の溶液の極めて小さい液滴のジェットまたはスプレー中に気化(噴霧)される。この液滴のミストは蒸発室(エバポレーション・チャンバ)を通って流れ、この蒸発室は縮合を妨げかつ溶媒を蒸発させるためにわずかに加熱される。この液滴は小さくなるので、電気的表面電荷密度は、同様の電荷の間の自然な反発がイオンおよび放出されるべき中性の分子を生じる時点まで増大する。
【0029】
本明細書において用いる場合、「大気圧化学イオン化」または「APCI」という用語は、ESIと同様の質量分析方法を指す;しかし、APCIは、大気圧でプラズマ内に生じるイオン−分子反応によって、イオンを生じる。このプラズマはスプレーの毛細管と対極との間の電荷によって維持される。次いで、イオンは典型的には、1セットの示差的にポンピングされたスキマー・ステージの使用によって質量分析器の中に抽出される。乾燥および予備加熱されたN2ガスの逆流を用いて、溶媒の除去を改善してもよい。APCI中の気相イオン化は、極性の低い種を分析するためにはESIよりも有効であり得る。
【0030】
本明細書において用いる場合、「大気圧光イオン化」または「APPI」という用語は、質量分析の形態であって、分子Mの光イオン化の機構が、光吸収および電子入射であって分子イオンM+を形成する形態を指す。光エネルギーは典型的にはイオン化電位のすぐ上なので、分子イオンは解離を受けにくい。多くの場合、クロマトグラフィーの必要なしにサンプルを分析することが可能であり得、従って時間および費用がかなり節約される。水蒸気またはプロトン性溶媒の存在下では、分子イオンは、Hを抽出してMH+を形成し得る。これは、Mが高いプロトン親和力を有する場合に生じる傾向である。これは、定量の精度には影響しない。なぜならM+およびMH+の合計は、一定であるからである。プロトン性溶媒における薬物化合物は、通常MH+として観察されるが、非極性化合物、例えば、ナフタレンまたはテストステロンは通常は、M+を形成する。Robb,D.B.,Covey,T.R.およびBruins,A.P.(2000):例えば、Robb et al.,Atmospheric pressure photoionization:An ionization method for liquid chromatography−mass spectrometry.Anal.Chem.72(15):3653〜3659を参照のこと。
【0031】
本明細書において用いる場合、「誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma)」または「ICP」という用語は、サンプルが、ほとんどの元素が微粒化およびイオン化されるような十分に高い温度で部分的にイオン化されたガスと相互作用する方法を指す。
【0032】
本明細書において用いる場合、「電界脱離」という用語は、不揮発性の体液サンプルをイオン化表面に置き、強電界を用いて分析物イオンを作製する方法を指す。
【0033】
本明細書において用いる場合、「脱離」という用語は、表面からの分析物の除去、および/または気相への分析物の進入を指す。
【0034】
本明細書において用いる場合、「数量化の限界」、「定量化の限界」または「LOQ」という用語は、測定が定量的に意味をなすポイントを指す。このLOQでの分析物の反応は、識別可能、別個、かつ再現性であって、20%の正確性および80%〜120%の精度を有する。
【0035】
本明細書において用いる場合、「検出限界」または「LOD」という用語は、測定された値の方がその値に伴う不確実性よりも大きいポイントである。LODは、ゼロ濃度から2標準偏差(SD)として適宜規定される。
【0036】
本明細書において用いる場合、体液サンプル中のエストロンの「量」とは一般には、体液の容積中で検出可能なエストロンの量を反映している絶対値を指す。しかし、ある量はまた、別のエストロン量に比較した相対量を意図する。例えば、体液中のエストロンの量は、正常に存在するエストロンのコントロールまたは正常なレベルよりも大きい量であってもよい。
【0037】
第二の局面では、体液サンプル中のエストロンの量をタンデム質量分析によって決定するための方法が提供され、この方法は以下を含む:(a)体液サンプル中のエストロンを液体クロマトグラフィーによって精製する工程と;(b)269.07±0.5の質量/電荷比を有しているエストロンの前駆イオンを作製する工程と;(c)前駆イオンの1つ以上の断片イオンを作製する工程であって、その断片イオンの少なくとも1つが143.02±0.5の質量/電荷比を有する工程と;(d)工程(b)もしくは(c)またはその両方で作製された1つ以上のイオンの量を検出し、この検出されたイオンを体液サンプル中のエストロンの量に対して関連付ける工程。いくつかの好ましい実施形態では、この方法の定量限界は、500pg/mL以下である。他の好ましい実施形態では、エストロンは、質量分析の前に誘導体化されない。特定の好ましい実施形態では、この方法は、エストロン前駆イオンの1つ以上の断片イオンを作製する工程をさらに含んでいてもよく、ここでこの断片イオンの少なくとも1つが145.03±0.5の質量/電荷比を有する。いくつかの好ましい実施形態では、この方法は、体液サンプル中に存在し得るタンパク質由来の遊離エストロンに対して十分な量で体液サンプルに対して試薬を添加する工程を含み得る。関連の好ましい実施形態では、この方法は、体液サンプルを酸性化する工程;好ましくはイオン化の前に酸性化する工程;さらに好ましくは精製の前に酸性化する工程;好ましくはギ酸を用いて酸性化する工程を含み得る。特に好ましい実施形態では、この体液サンプルは血清、血漿または尿である。
【0038】
第三の局面では、体液サンプル中のエストロンの量を決定するための方法が提供され、この方法は以下を含む:(a)体液サンプル中に存在し得るタンパク質由来の遊離のエストロンに対して十分な量で試薬を用いて体液サンプルを酸性化する工程と;(b)この体液サンプル中のエストロンを液体クロマトグラフィーによって精製する工程と;(c)この体液サンプル中のエストロンをイオン化して、タンデム型質量分析によって検出可能な1つ以上のイオンを作製する工程と;(d)このエストロンイオン(単数または複数)の量をタンデム型質量分析によって負のイオンモードで検出して、この検出されたエストロンイオン(単数または複数)の量を体液サンプル中のエストロンの量に対して関連付ける工程。いくつかの好ましい実施形態では、この方法の定量限界は500pg/mL以下である。他の好ましい実施形態では、エストロンは、質量分析前に誘導体化されない。特定の好ましい実施形態では、エストロンイオンは、269.07±0.5、145.03±0.5および143.02±0.5の質量/電荷比を有するイオンの群から選択される。いくつかの好ましい実施形態では、この方法は、前駆イオンの少なくとも1つが269.07±0.5の質量/電荷比を有するエストロンの1つ以上の前駆イオンを作製する工程を含む。関連の好ましい実施形態では、この方法は、断片イオンの少なくとも1つが145.03±0.5または143.02±0.5の質量/電荷比を有しているエストロン前駆イオンの1つ以上の断片イオンを作製する工程を含み得る。いくつかの好ましい実施形態では、この方法は、イオン化の前に体液サンプルを酸性化する工程;より好ましくは精製の前に酸性化する工程;好ましくはギ酸を用いて酸性化する工程を含んでいてもよい。特に好ましい実施形態では、この体液サンプルは血清、血漿または尿である。
【0039】
いくつかの好ましい実施形態では、エストロンは、質量分析の前に誘導体化されてもよい、しかし、特定の好ましい実施形態では;サンプルの調製は、誘導体化の使用を排除する。
【0040】
上記の局面の特定の好ましい実施形態では、液体クロマトグラフィーは、HTLCおよびHPLCを用いて行われ、好ましくは、HTLCはHPLCと組み合わせて用いられるが、他の方法が用いられてもよく、これには、例えば、HPLCと組み合わせたタンパク質の沈殿および精製が挙げられる。
【0041】
好ましい実施形態は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を、単独で、または1つ以上の精製方法、例えば、HTLCまたはタンパク質沈殿と組み合わせて利用して、サンプル中のエストロンを精製する。
【0042】
本明細書に開示される方法の特定の好ましい実施形態では、質量分析は負のイオンモードで行われる。特定の好ましい実施形態では、エストロンは、APCIまたはESIを用いて負のイオン化モードで測定される。
【0043】
上記の局面の好ましい実施形態では、体液サンプル中に存在するグルクロン酸化エストロンおよび非グルクロン酸化エストロンの両方が検出および測定される。
【0044】
好ましい実施形態では、質量分析計で検出可能なエストロンイオンは、269.07±0.5、145.03±0.5および143.02±0.5の質量/電荷比(m/z)を有するイオンからなる群より選択され;この後者2つは、前駆イオンの断片イオンである。特定の好ましい実施形態では、この前駆イオンは、269.07±0.5の質量/電荷比を有し、この断片イオンは143.02±0.5の質量/電荷比を有する。
【0045】
好ましい実施形態では、別々に検出可能な内部エストロン標準がサンプル中に提供され、この量もサンプル中で決定される。これらの実施形態では、サンプルに存在する内因性のエストロンおよび内部標準の両方の全てまたは一部をイオン化して、質量分析で検出可能な複数のイオンを作製し、各々から作製される1つ以上のイオンを質量分析によって検出する。
【0046】
好ましい内部エストロン標準は、2,4,16,16−d4エストロンである。好ましい実施形態では、質量分析計で検出可能な内部エストロン標準イオンは、273.06±0.5、147.07±0.5および145.04±0.5の質量/電荷比を有するイオンからなる群より選択される。特に好ましい実施形態では、内部エストロン標準の前駆イオンは、273.06±0.5の質量/電荷比を有し;かつ1つ以上の断片イオンは、147.07±0.5および145.04±0.5の質量/電荷比を有しているイオンからなる群より選択される。
【0047】
好ましい実施形態では、このエストロンイオンの存在または量を、2,4,16,16−d4エストロンなどの参照に対して比較することによって試験サンプル中のエストロンの存在または量に関連付ける。
【0048】
一実施形態では、この方法は、液体クロマトグラフィーと質量分析との組み合わせに関与する。好ましい実施形態では、この液体クロマトグラフィーはHPLCである。好ましい実施形態は、HPLCを単独で、または例えば、HTLCもしくはタンパク質精製などの1つ以上の精製方法と組み合わせて利用して、サンプル中のエストロンを精製する。別の好ましい実施形態では、この質量分析はタンデム型質量分析(MS/MS)である。
【0049】
本明細書に開示される局面の特定の好ましい実施形態では、試験サンプル中のエストロンの定量の限界(LOQ)は、500pg/mL以下;好ましくは400pg/mL以下;好ましくは300pg/mL以下;好ましくは200pg/mL以下;好ましくは175g/mL以下;好ましくは150pg/mL以下;好ましくは125pg/mL以下;好ましくは100pg/mL以下;好ましくは75pg/mL以下;好ましくは50pg/mL以下;好ましくは25pg/mL以下;好ましくは20pg/mL以下;好ましくは15pg/mL以下;好ましくは14pg/mL以下;好ましくは13pg/mL以下;好ましくは12pg/mL以下;好ましくは11pg/mL以下;好ましくは10pg/mLである。
【0050】
「約、およそ、ほぼ(about)」という用語は、イオンの質量の測定を含んでいない定量的な測定に関して本明細書で用いられる場合、示される値プラスマイナス10%を指す。質量分析装置は、所定の分析物の量を決定するのにわずかに変化し得る。「約」という用語は、イオンの量またはイオンの質量/電荷比の文脈では+/−0.5の原子量単位を指す。
【0051】
上記の本発明の要約は、限定されるものではなく、本発明の他の特徴および利点は本発明の以下の詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】LC−MS/MSアッセイを用いる連続希釈したストックサンプル中のエストロンの定量の直線性を示す。詳細は実施例6に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0053】
試験サンプル中のエストロンを検出および定量する方法が開示される。この方法は、液体クロマトグラフィー(LC)、最も好ましくはHTLCを、HPLCと組み合わせて利用して、選択された分析物の最初の精製を行い、そしてこの精製と質量分析(MS)の固有の方法とを組み合わせて、これによって試験サンプル中のエストロンを検出および定量するための高速アッセイシステムを提供する。好ましい実施形態は特に、大型の臨床実験室への適用によく適している。特異性が向上しており、かつ他のエストロンアッセイで必要とされるよりも少ない時間と少ないサンプル調製とで達成される、エストロンの方法が提供される。
【0054】
好ましい実施形態では、試験サンプル中のエストロンの検出限界(LOD)は、75pg/mL以下;好ましくは50pg/mL以下;好ましくは25pg/mL以下;好ましくは10pg/mL以下;好ましくは5pg/mL以下;好ましくは4.5pg/mL以下;好ましくは4pg/mL以下;好ましくは3.5pg/mL以下;好ましくは3pg/mL以下;好ましくは2.5pg/mL以下;好ましくは2pg/mLである。
【0055】
適切な試験サンプルとしては、目的の分析物を含み得る任意の試験サンプルが挙げられる。例えば、合成エストロンの製造の間に得られるサンプルを分析して、製造プロセスの組成物および収率を決定してもよい。いくつかの好ましい実施形態では、サンプルは生物学的サンプル;すなわち、任意の生物学的供給源、例えば、動物、細胞培養物、臓器培養などから得られるサンプルである。特定の好ましい実施形態では、サンプルは哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマなどから得られる。特に好ましい哺乳動物は霊長類、最も好ましくは男性または女性のヒトである。特に好ましいサンプルとしては血液、血漿、血清、毛髪、筋肉、尿、唾液、涙液、脳脊髄液、または他の組織サンプルが挙げられる。このようなサンプルは、例えば、患者;すなわち、疾患または病態の診断、予防または処置のための臨床状況に自らある生きている人、男性または女性から得てもよい。この試験サンプルは好ましくは、患者から得られる、例えば血清である。
【0056】
質量分析のためのサンプル調製
サンプル中の他の成分(例えば、タンパク質)に対してエストロンを富化するために用いられ得る方法としては、例えば、濾過、遠心分離、薄層クロマトグラフィー(TLC)、電気泳動、例えば、キャピラリー電気泳動、アフィニティ分離、例えば、イムノアフィニティー分離、抽出方法、例えば、酢酸エチル抽出およびメタノール抽出、ならびにカオトロピック剤の使用または上記の任意の組み合わせなどが挙げられる。
【0057】
種々の方法を用いて、サンプル中のエストロンの総量(例えば、遊離のエストロンおよびタンパク質に結合したエストロン)に対して分析が関連し得るように、クロマトグラフィーおよびまたはMSのサンプル分析の前にエストロンとタンパク質との間の相互作用を破壊してもよい。タンパク質沈殿は、試験サンプル、特に生物学的試験サンプル、例えば、血清または血漿を調製する1つの好ましい方法である。このようなタンパク質精製の方法は、当該分野で周知であり、例えば、Polson et al.,Journal of Chromatography B 785:263〜275(2003)は、この方法での使用に適切なタンパク質沈殿技術を記載している。タンパク質沈殿を用いて、上清にエストロンを残したままサンプルからほとんどのタンパク質を除去することができる。サンプルを遠心分離して、沈殿したタンパク質から液体上清を分離してもよい。次いで、得られた上清を液体クロマトグラフィーおよび引き続く質量分析的な分析にかけてもよい。特定の実施形態では、このタンパク質沈殿、例えば、アセトニトリルタンパク質沈殿などの使用によって、HPLCおよび質量分析の前の高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)または他のオンライン抽出の必要性が省略される。このような実施形態によれば、この方法は、(1)目的のサンプルのタンパク質沈殿を行う工程;および(2)オンライン抽出または高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)を用いることなくHPLC−質量分析計に上清を直接ロードする工程を含む。
【0058】
他の好ましい実施形態では、エストロンは、タンパク質の沈殿をする必要なしにタンパク質から遊離され得る。例えば、酸、塩またはアルコールを適切な量で添加して、タンパク質とエストロンとの間の相互作用を破壊してもよい。例示的なこのような試薬としてはギ酸、NaClまたはエタノールが挙げられる。
【0059】
いくつかの好ましい実施形態では、HTLCを、単独で、または1つ以上の精製方法と組み合わせて用いて、質量分析の前にエストロンを精製してもよい。このような実施形態では、サンプルは、分析物を捕獲するHTLC抽出カートリッジを用いて抽出してもよく、次いでイオン化の前に第二のHTLCカラム上で、または分析的HPLCカラム上に溶出およびクロマトグラフされてもよい。これらのクロマトグラフィー手順に関与する工程は、自動的な形式で連結することが可能であるので、分析物の精製の間の操作者の関与についての要件を最小限にすることができる。この特徴によって、時間および費用の節約をもたらし、かつ操作者の過ちの機会を排除することができる。
【0060】
HTLCカラムおよび方法によって提供されるような乱流は、質量移行の速度を向上し得、分離特徴を改善すると考えられる。HTLCカラムは、剛体粒子を含んでいる充填カラムを通じた高いクロマトグラフィー流速の手段によって成分を分ける。高い流速(例えば、3〜5mL/分)を使用することによって、乱流がカラムで起こり、これが目的の固定相と分析物(単数または複数)との間のほぼ完全な相互作用を生じる。HTLCカラムを用いる利点は、生体液基質と関連して構築された高分子は、高い分子量種が乱流条件下では保持されないために避けられるということである。1つの手順で複数の分離を組み合わせるHTLC方法によって、長時間のサンプル調製の必要性が少なくなり、有意に早い速度で操作される。このような方法はまた、層流(HPLC)クロマトグラフィーよりも優れた分離能力を達成する。HTLCによって、生物学的サンプル(血漿、尿など)の直接注入が可能になる。変性したタンパク質および他の生体の砕片が分離カラムを急速に詰まらせるため、直接注入は、クロマトグラフィーの伝統的な形態では達成が困難である。HTLCはまた、1mL未満、好ましくは0.5mL未満、好ましくは0.2mL未満、好ましくは0.1mLというごく少量のサンプルでも可能である。
【0061】
質量分析による分析の前にサンプル調製にかけるHTLCの例はいずれかに記載されている。例えば、Zimmer et al.,J.Chromatogr.A 854:23〜35(1999)を参照のこと;また米国特許第5,968,367号;同第5,919,368号;同第5,795,469号;および同第5,772,874号も参照のこと。この方法の特定の実施形態では、サンプルをHTLCカラムにロードする前に上記のようなタンパク質沈殿に供する;別の好ましい実施形態では、このサンプルを、タンパク質沈殿にかけることなく、HTLCに直接ロードしてもよい。好ましくは、HTLCは、HPLCと組み合わせて用いて、サンプルをタンパク質沈殿にかけることなく、エストロンを抽出および精製する。関連の好ましい実施形態では、この精製工程は、(i)このサンプルをHTLC抽出カラムに加える工程、(ii)エストロンがカラムに保持される条件下でHTLC抽出カラムを洗浄する工程、(iii)HTLC抽出カラムから保持されたエストロンを溶出する工程、(iv)この保持された物質を分析カラムに加える工程、および(v)分析カラムから精製されたエストロンを溶出する工程を含む。HTLC抽出カラムは好ましくは、大粒子のカラムである。種々の実施形態では、この方法の1つ以上の工程は、オンラインで、自動的な方式で行ってもよい。例えば、一実施形態では、工程(i)〜(v)をオンラインで自動方式で行う。別法では、イオン化および検出の工程はオンラインで工程(i)−(v)に従って行う。
【0062】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含めて液体クロマトグラフィー(LC)は、比較的遅い、層流の技術に依拠する。伝統的なHPLC分析は、カラム充填に依拠し、ここではカラムを通じたサンプルの層流がサンプルからの目的の分析物の分離の基礎である。当業者は、このようなカラムでの分離が拡散性プロセスであることを理解するであろう。HPLCは生物学的サンプル中の化合物の分離に首尾よく適用されているが、質量分析(MS)での分離および引き続く分析の前には大量のサンプル調製が必要であり、そのせいでこの技術は労働集約的になっている。さらに、ほとんどのHPLCシステムは質量分析をその最大能力までは利用せず、それによって1つのHPLCシステムだけを単一のMS装置に接続することになり、その結果多数のアッセイを行うためには長時間が必要となる。
【0063】
質量分析前にサンプルを浄化するためのHPLCの使用に関して種々の方法が記載されている。例えば、Taylor et al.,Therapeutic Drug Monitoring 22:608〜12(2000);およびSalm et al.,Clin.Therapeutics 22 Supl.B:B71−B85(2000)を参照のこと。
【0064】
当業者は、エストロンでの使用に適切であるHPLC装置およびカラムを選択できる。クロマトグラフィーカラムは典型的には、化学部分の分離(すなわち、断片化)を容易にする媒体(すなわち、充填材料)を含む。この媒体は、わずかな粒子を含む場合がある。この粒子は、種々の化学的部分と相互作用してその化学的部分の分離を促進する結合された表面を備える。適切な結合された表面の1つは、アルキル結合した表面などの疎水性結合した表面である。アルキル結合した表面としては、C−4、C−8、C−12、またはC−18結合したアルキル基、好ましくはC−18結合した基を挙げることができる。クロマトグラフィーカラムは、サンプルを受容するための入口ポートと、分画されたサンプルを含む溶出液を廃棄するための出口ポートとを備える。一実施形態では、サンプル(または精製前のサンプル)を入口ポートでカラムに加え、溶媒または溶媒混合物で溶出し、出口ポートで排出する。異なる溶媒モードを目的の分析物(単数または複数)を溶出するために選択してもよい。例えば、液体クロマトグラフィーは、勾配モード、アイソクラチックモード、または多型(すなわち、混合)モードを用いて行ってもよい。クロマトグラフィーの間、物質の分離は、溶出液(「移動相」としても公知)の選択、溶出モード、勾配条件、温度などのような変数によって達成される。
【0065】
特定の実施形態では、分析物は、目的の分析物がカラム充填物質によって可逆性に保持されるが、1つ以上の他の物質が保持されない条件下でカラムにサンプルを加えることによって精製され得る。これらの実施形態では、目的の分析物がカラムによって保持される第一の移動相条件を使用してもよく、そして第二の移動相条件を引き続き使用して、一旦、保持されていない物質が洗い流されれば、カラムから保持された物質を除去してもよい。あるいは、分析物は、目的の分析物が1つ以上の他の物質に比べて種々の速度で溶出する移動相条件下でカラムにサンプルを加えることによって精製されてもよい。このような手順によって、サンプルの1つ以上の他の成分に対して目的の1つ以上の分析物の量が富化され得る。
【0066】
1つの好ましい実施形態では、HTLCの後に、疎水性カラムクロマトグラフィーシステムでのHPLCを続けてもよい。特定の好ましい実施形態では、Cohesive TechnologiesのTurboFlow Cyclone P(登録商標)というポリマーベースのカラム(60μmの粒子、50×1.0mmのカラム、100Åの細孔)を用いる。関連の好ましい実施形態では、親水性のエンドキャップを備える、Phenomenex IncのSynergi Polar−RP(登録商標)エーテル連結フェニル、分析カラム(4μmの粒子、150×2.0mmのカラム、80Åの細孔)を用いる。特定の好ましい実施形態では、HTLCおよびHPLCは、移動相としてHPLC等級の超純水および100%のメタノールを用いて行う。
【0067】
バルブおよびコネクター配管を注意深く選択することによって、なんら手動の工程を要することなく物質をあるところから次に通過させるように、2つ以上のクロマトグラフィーカラムを必要に応じて連結してもよい。好ましい実施形態では、バルブおよび配管の選択を事前プログラムされたコンピューターによって制御して必要な工程を行う。最も好ましくは、クロマトグラフィーシステムもこのようなオンラインの方式で検出システム、例えばMSシステムに接続する。従って、操作者は、オートサンプラーにサンプルのトレイを置いてもよく、残りの操作はコンピューター制御下で行い、選択された全てのサンプルの精製および分析を行う。
【0068】
特定の好ましい実施形態では、試験サンプル中に存在するエストロンをイオン化の前に精製してもよい。特に好ましい実施形態では、クロマトグラフィーはガスクロマトグラフィーではない。好ましくは、この方法は、質量分析の前にガスクロマトグラフィーにエストロンをかけることなく行う。
【0069】
質量分析による検出および定量
種々の実施形態では、試験サンプル中に存在するエストロンを当業者に公知の任意の方法によってイオン化してもよい。質量分析は、質量分析計を用いて行い、この質量分析計には、さらなる分析のために断片化されたサンプルをイオン化し、荷電された分子を作製するためのイオン源を備える。例えば、サンプルのイオン化は、電子イオン化、化学的イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、光子イオン化、大気圧化学イオン化(APCI)、光イオン化、大気圧光イオン化(APPI)、高速原子衝撃(FAB)、液体二次イオン化(LSI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、フィールド・イオン化、フィールド・デソープション、熱スプレー/プラズマスプレーイオン化、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)、誘導結合プラズマ(ICP)および粒子ビームイオン化によって行ってもよい。当業者は、イオン化方法の選択は、測定されるべき分析物、サンプルの種類、検出器の種類、正対負のモードの選択などに基づいて決定できることを理解するであろう。
【0070】
好ましい実施形態では、エストロンはエレクトロスプレーイオン化(ESI)によって負のモードでイオン化される。関連の好ましい実施形態では、エストロンイオンは、ガス状態であり、不活性な衝突ガスはアルゴンまたは窒素である。別の好ましい実施形態では、エストロンを大気圧化学イオン化(APCI)によって負のモードでイオン化する。他の好ましい実施形態では、エストロンは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)または大気圧化学イオン化(APCI)によって正のモードでイオン化される。271.17(前駆イオン)ならびに159.2および133.2(断片イオン)という質量移行(mass transitions)を、正のモードで検出および定量に用いてもよい。
【0071】
サンプルをイオン化した後、それによって作製された正に荷電されたイオンまたは負に荷電されたイオンを分析して質量対電荷比を決定してもよい。質量対電荷比を決定するための適切な分析装置としては、四重極アナライザー(analyzer)、イオントラップアナライザー、および飛行時間アナライザーが挙げられる。このイオンはいくつかの検出モードを用いて検出され得る。例えば、選択されたイオンを検出してもよく(すなわち、選択性イオンモニタリングモード(selective ion monitoring mode)(SIM)を用いる)、あるいはイオンは、走査モード、例えば、多重反応モニタリング(multiple reaction monitoring)(MRM)または選択反応モニタリング(selected reaction monitoring)(SRM)を用いて検出してもよい。好ましくは、質量対電荷比は、四重極アナライザーを用いて決定される。例えば、「四重極(quadrupole)」または「四重極イオントラップ(quadrupole ion trap)」装置では、振動高周波電界中のイオンは電極間で印加されるDC電位、RFシグナルの振幅および質量/電荷比に対して比例する力を受ける。この電圧および振幅は、特定の質量/電荷比を有しているイオンのみが四重極の長さを移動するが、他の全てのイオンは偏向されるように選択され得る。従って、四重極装置は、「質量フィルター」として、および「質量検出器」として両方で、この装置に注入されたイオンのために作用し得る。
【0072】
当業者は、「タンデム型質量分析」または「MS/MS」を使用することによってMS技術の分解能を増強し得る。この技術では、目的の分子から作製された前駆イオン(親イオンとも呼ばれる)をMS装置中で濾過してもよく、この前駆イオンが引き続き、断片化されて1つ以上の断片イオン(娘イオンまたは生成物イオンとも呼ばれる)を生じ、次にこれが第二のMS手順で分析される。前駆イオンの注意深い選択によって、特定の分析物によって作製されるイオンのみが断片化チャンバに渡され、ここで不活性ガスの原子と衝突して娘イオンを生じる。前駆イオンおよび断片イオンの両方が所定のセットのイオン化/断片化条件下で再現性の方式で産生されるので、MS/MS技術は、極めて強力な分析ツールをもたらすことができる。例えば、濾過/断片化の組み合わせを用いることによって妨害物質を排除することが可能で、特に、生体サンプルなどの複雑なサンプルでは有用であり得る。
【0073】
質量分析計によって典型的には、使用者はイオンスキャン(すなわち、所定の範囲にわたって特定の質量/電荷を有する各々のイオンの相対量(例えば、100〜1000amu))を得る。分析アッセイの結果、すなわち、質量スペクトルは、当該分野で公知の多数の方法によって元のサンプル中の分析物の量に対して関連付けられ得る。例えば、サンプリングおよび分析パラメーターが注意深く制御されていることを考慮すれば、所定のイオンの相対量を、元の分子の相対量から絶対量に変換する表と比較することができる。あるいは、分子標準はサンプルとともに流されてもよく、標準的な曲線をそれらの標準から作製したイオンに基づいて作製してもよい。このような標準曲線を用いて、所定のイオンの相対量を、もとの分子の絶対量に変換してもよい。特定の好ましい実施形態では、内部標準を用いて、エストロンの量を計算するための標準曲線を作製する。このような標準曲線を作製および用いる方法は、当該分野で周知であり、かつ当業者は適切な内部標準を選択できる。例えば、エストロンの同位体を内部標準として用いてもよく、特定の好ましい実施形態では、この標準はd4−エストロンである。もとの分子の量に対してイオンの量を関連付けるための多数の他の方法が当業者に周知である。
【0074】
この方法の1つ以上の工程を、自動的な機械を用いて行ってもよい。特定の実施形態では、1つ以上の精製工程をオンラインで行い、さらに好ましくは全ての精製および質量分析工程を、オンライン方式で行ってもよい。
【0075】
特定の実施形態では、例えば、MS/MSでは前駆イオンをさらなる断片化のために単離し、衝突活性化解離(CAD)を、さらなる検出のための断片イオンを作製するために用いる場合が多い。CADでは、前駆イオンは、不活性ガスとの衝突、およびその後の「単分子分解」と呼ばれるプロセスによる断片を通じてエネルギーを得る。十分なエネルギーが前駆イオン中に沈着されなければならず、その結果イオン内の特定の結合が振動エネルギーの増大によって破壊され得る。
【0076】
特に好ましい実施形態では、エストロンは、以下の様にMS/MSを用いて検出および/または定量される。そのサンプルを液体クロマトグラフィー、好ましくはHTLCに続いてHPLCに供し、このクロマトグラフィーのカラムからの液体溶媒の流れは、MS/MSアナライザーの加熱されたネブライザーの界面に入り、その溶媒/分析物の混合物がその界面の加熱配管中で蒸気に変換される。噴霧溶媒に含まれたその分析物(例えば、エストロン)をその界面のコロナ放電針でイオン化し、これによって噴霧された溶媒/分析物混合物に大きい電圧を印加する。このイオン、例えば、前駆イオンは、装置の開口部を通過して、第一の四重極に入る。四重極1および3(Q1およびQ3)は質量フィルターであって、それによって、その質量対電荷比(m/z)に基づいてイオン(すなわち、「前駆」イオンおよび「断片」イオン)を選択することが可能になる。四重極2(Q2)は衝突セルであり、ここでイオンが断片化される。質量分析計の第一の四重極(Q1)は、特定の質量対電荷比を有する前駆エストロンイオンを選択する。正確な質量/電荷比を有する前駆エストロンイオンは衝突チャンバ(Q2)に通ることが可能であるが、いかなる他の質量/電荷比を有する望ましくないイオンも四重極の横で衝突して排除される。Q2に入る前駆イオンは中性のアルゴンガス分子および断片と衝突する。この過程は衝突活性化解離(CAD)と呼ばれる。作製された断片イオンは、四重極3(Q3)に通過し、ここでエストロンの断片イオンが選択されるが、他のイオンは排除される。
【0077】
この方法は、正または負のイオンモードで行われるMS/MSを必要とする場合がある。当該分野で周知の標準的な方法を用いて、当業者は、四重極3(Q3)での選択のために用いられ得るエストロンの特定の前駆イオンの1つ以上の断片イオンを特定することができる。
【0078】
エストロンの前駆イオンがアルコール基またはアミン基を含む場合、それぞれ前駆イオンの脱水または脱アミノを呈する断片イオンが共通して形成される。アルコール基を含む前駆イオンの場合、脱水によって形成されるこのような断片イオンは、前駆イオンからの1つ以上の水分子の損失によって生じる(すなわち、前駆イオンと断片イオンとの間の質量対電荷比における相違は1つの水分子の損失について約18、または2つの水分子の損失について約36などである場合)。アミン基を含む前駆イオンの場合、脱アミノによって形成されるこのような断片イオンは、1つ以上のアンモニア分子の損失によって生じる(すなわち、前駆イオンと断片イオンとの間の質量対電荷比における相違が、1つのアンモニア分子の損失について約17、または2つのアンモニア分子の損失について約34などである場合)。同様に、1つ以上のアルコール基およびアミン基を含む前駆イオンは共通して、1つ以上の水分子および/または1つ以上のアンモニア分子の損失を呈する断片イオンを形成する(すなわち、前駆イオンと断片イオンとの間の質量対電荷比の相違が1つの水分子の損失および1つのアンモニア分子の損失について約35である場合)。一般には、前駆イオンの脱水または脱アミノを呈する断片イオンは、特定の分析物について特定の断片イオンではない。従って、本発明の好ましい実施形態では、MS/MSは、前駆イオンからの1つ以上の水分子の損失および/または1つ以上のアンモニア分子の損失のみを呈するのではない、エストロンの少なくとも1つの断片イオンが検出されるように行われる。
【0079】
イオンは検出器と衝突するので、イオンは、デジタルシグナルに変換される電子のパルスを生じる。得られたデータを、コンピューターに中継して、これがイオン収集対時間のカウントをプロットする。得られた質量クロマトグラムは、伝統的なHPLC方法で作製したクロマトグラムと同様である。特定のイオンに相当するピーク下面積、またはこのようなピークの振幅を測定して、面積または振幅を目的の分析物(エストロン)の量と相関させる。特定の実施形態では、断片イオン(単数または複数)および/または前駆イオンについて曲線下面積、またはピークの振幅を測定してエストロンの量を決定する。上記のとおり、所定のイオンの相対量を、内部分子標準、例えば、d4−エストロンの1つ以上のイオンのピークに基づいた較正標準曲線を用いて、元の分析物、例えば、エストロンの絶対量に変換してもよい。
【0080】
以下の実施例は、本発明の例示に役立つ。これらの実施例は、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0081】
サンプルおよび試薬の調製
血液は、添加物なしでVacutainer中に収集して、室温、18〜25℃で30分間凝固させた。全体的な溶血、脂肪血症および/または黄疸を呈したサンプルは除外した。
【0082】
メタノール中に含まれる1mg/mLのエストロンのストック標準を調製して、メタノール中でさらに希釈して、1,000,000pg/mLのエストロン中間ストック標準を調製し、これを用いて10,000pg/mLの2つのエストロン作業標準を調製し、A標準についてはメタノールで、B標準については剥離血清で希釈した。
【0083】
重水素化メタノール(メチル−d1アルコール;Fisherのカタログ番号AC29913−1000または等価物)を用いて、1mg/mLのd4−エストロンストック標準(2,4,16,16−d4エストロン)を調製し、これを用いて1,000,000pg/mLの中間体ストック標準を重水素化メタノールで調製した。このd4−エストロン中間体ストック標準を用いて、DI水中で5000pg/mLの作業用d4−エストロン内部標準を調製した。1mLのd4−エストロン中間ストック標準を、200mLのメスフラスコでDI水を用いて容積希釈した。
【0084】
20%のギ酸溶液は、250mLのメスフラスコに50mLのギ酸(約98%純粋Aldrichのカタログ番号06440または等価物)を添加することによって調製し、これを超純粋なHPLC等級の水で容積希釈した。
【0085】
各々の試行において用いる全てのキャリブレータ/標準物質を、剥離血清中の10,000pg/mLのエストロン標準の凍結アリコートの連続希釈から新鮮に毎週調製した。その標準は、最高濃度から最低まで調製し、ここでは各々の標準について10mLの最終の総容積であった。
【実施例2】
【0086】
液体クロマトグラフィーを用いる血清からのエストロンの抽出
液体クロマトグラフィー(LC)サンプルは、200μLの標準、コントロール、または患者サンプルを96−ウェルのプレートにピペッティングすることによって準備した。さらに、300μLの20%ギ酸を、各々のウェルに約11%(V/V)の最終濃度で与えた。最終的に、50μLの5000pg/mLのd4−エストロン標準を各々のウェルに添加した。このサンプルをLCの前に30分間室温でインキュベートした。
【0087】
液体クロマトグラフィーは、Aria OS V 1.5またはそれより新しいソフトウェアを用いてCohesive Technologies Aria TX−4 HTLCシステムで行った。オートサンプラー洗浄溶液は、60%アセトニトリル、30%イソプロパノール、および10%アセトン(v/v)を用いて調製した。
【0088】
HTLCシステムは、大きい粒子を充填されたTurboFlowカラム(Cohesive Technologiesの50×1.0mm、60μmのCyclone P Extractionカラム)中に75μLの上記で調製したサンプルを自動的に注入した。サンプルを高い流速でロードして(5mL/分、ローディング試薬100%DI水)、抽出カラムの内側に乱流を形成した。この乱流によって、カラム中の大きい粒子に対するエストロンの最適化結合、および残りのタンパク質および砕片の廃棄物への通過を確実にした。
【0089】
ローディング後、流れの方向を逆転して、ループ中で200μLの90%メタノールを用いて、サンプルを分析カラム(Phenomenex 分析カラム,Synergi Polar−RP(登録商標)150×2.0mm、4μmカラム)に溶出させた。二成分のHPLC勾配を分析カラムに加えて、サンプルに含まれる他の分析物からエストロンを分離した。移動相Aは超純水(HPLC等級)であって、移動相Bは100%メタノールであった。HPLC勾配は、10%の有機勾配で開始し、これは最大75%まで傾斜し、次に5〜10%ずつ約3.35分で99%まで増大した。総勾配時間は6.58分であった。次に、分離されたサンプルをエストロンの定量のためにMS/MSに供した。
【0090】
他の分子との干渉を決定するために、ブランクの血清を、以下のステロイドの1000pg/mLを用いてスパイクした:17−βエストラジオール、エストリオール、テストステロン、17−αヒドロキシプロゲステロン、プロゲステロン、アンドロステンジオン、アルドステロン、11−デオキシコルチゾール、コルチコステロンおよびジヒドロキシテストステロン。そのサンプルをLCに供した。これらのステロイドからは干渉は観察されなかった;エストロンと同時溶出するステロイドはない。
【実施例3】
【0091】
MS/MSによるエストロンの検出および定量
MS/MSは、Finnigan TSQ Quantum Ultra MS/MSシステム(Thermo Electron Corporation)を用いて行った。全てがThermoElectronの以下のソフトウェアプログラムを、本明細書に記載の実施例に用いた:Tune Master V1.2、またはそれより新しいもの、Excalibur V2.0 SR1、またはそれより新しいもの、TSQ Quantum 1.4またはそれより新しいもの、LCQuan V2.5 SUR1またはそれより新しいもの、およびXReport 1.0またはそれより新しいもの。分析HPLCカラムを出ていく液体の溶媒/分析物は、Thermo Finnigan MS/MSアナライザーの加熱されたネブライザー界面に流れた。その溶媒/分析物混合物を、界面の加熱配管中で蒸気に変換した。噴霧された溶媒中の分析物を、界面のコロナ放電針によってイオン化し、これによって噴霧された溶媒/分析物混合物に電圧を印加した。
【0092】
イオンは、第一の四重極(Q1)に通過し、これが269.07±0.5m/zの質量対電荷比を有するイオンを選択した。四重極2(Q2)に入るイオンは、アルゴンガスと衝突して、イオン断片を生じ、これがさらなる選択のために四重極3(Q3)へ通過した。同時に、同位体希釈質量分析を用いる同じプロセスを、内部標準である4−重水素化エストロン分子で行った。以下の質量移行を、負の極性でのバリデーションの間の検出および定量のために用いた。
【表1】

【0093】
以下の質量移行を、正の極性でのバリデーションの間の検出および定量のために用いた。
【表2】

【実施例4】
【0094】
アッセイ内およびアッセイ間の正確性および精度
3つの品質管理(QC)プールをチャコール剥離血清から調製して、25、200および800pg/mLの濃度までエストロンでスパイクした。
【0095】
3つのQCプールの各々由来の10個のアリコートを、単独のアッセイで分析して、アッセイ内のサンプルの再現性(CV)を決定した。以下の値を決定した:
【表3】

【0096】
各々の3つのQCプール由来の10個のアリコートを5日にわたってアッセイして、アッセイの間の再現性(RSD%)を決定した。以下の値を決定した:
【表4】

【実施例5】
【0097】
分析の感度:検出限界(LOD)および定量限界(LOQ)
エストロンのゼロ標準を、10個の複製で行って、測定された値の方がそれにともなう不確実度よりも大きいポイントである、アッセイの検出限界を決めた。LODは、ゼロ濃度からの2標準偏差(SD)として適宜決定した。ゼロ標準についての得られたピーク面積比を統計学的に分析し、ここでは0.014の平均値および0.004のSDであった。エストロンのアッセイのLODは2.0pg/mLであった。
【0098】
20%の正確性および80%〜120%の精度を有する定量の限界を決定するため、予想のLOQに近い濃度の5つの異なるサンプルをアッセイして、各々について再現性を決定した。エストロンアッセイのLOQは10.0pg/mLで規定した。
【実施例6】
【0099】
アッセイ報告可能な範囲および直線性
アッセイ中のエストロン検出の直線性を確立するため、ゼロ標準に割り当てた1つのブランク、および10個のスパイクした血清標準を調製して、5つの別の日に分析した。5つの連続試行からの二次回帰で0.995以上の相関係数が得られ、ここでは±20%の精度で10〜2000pg/mLの定量可能な線形範囲が明らかになった。
【実施例7】
【0100】
基質特異性
基質特異性は、水、剥離血清およびBiocell正常ヒト血清を用いて評価して、患者サンプルが線形の方式で希釈できるか否かを決定した。中間のコントロール(MC)および高いコントロール(HC)を2倍および4倍希釈した。このサンプルは、較正実施後に二連で行った。精度は以下のとおりであった:
【表5】

【0101】
本明細書において言及または引用される、論文、特許および特許出願、ならびに全ての他の文書および電気的に利用可能な情報の内容は、あたかも各々の個々の刊行物が参照によって援用されると詳細にかつ個々に示されるのと同じ程度までその全体が出典明記によって本明細書に援用される。出願人は、任意のこのような論文、特許、特許出願または他の物理的および電子的な文書由来の任意のかつ全ての物質および情報を本出願に物理的に組み込む権利を留保する。
【0102】
本明細書に例示的に記載される方法は、本明細書に詳細に開示されないいずれの要素(単数または複数)、制限(単数または複数)もなしに適切に実施され得る。従って、例えば、「含んでいる(comprising)」、「含んでいる、包含している、挙げられる(including)」、「含有する、含んでいる(containing)」などの用語は、広範にかつ限定なしに読みとられるべきである。さらに、本明細書に使用される用語および表現は説明の用語として用いられており、限定ではなく、このような用語および表現の使用において、示されかつ記載される特徴の任意の等価物またはその一部を排除するという意図はない。種々の改変が特許請求される本発明の範囲内で可能であるということが認識される。従って、本発明は、本明細書に具体化される本発明の好ましい実施形態および任意の特徴、修飾および変動によって詳細に記載されているが、本明細書の開示は当業者によって頼られる場合があり、このような改変および変動は、本発明の範囲内であるとみなされることが理解されるべきである。
【0103】
本発明は、本明細書に広範にかつ一般的に記載されている。一般的な開示内におさまっている下位の種および亜属の分類の各々も、本発明の一部を形成する。これは、本発明の方法の一般的記述を包含しており、ただし、条件付きであるかまたは消極的な限定があり、除外される物質が本明細書に特に引用されるか否かにかかわらず、その属からなんらかの対象を取り除く。
【0104】
他の実施形態が以下の特許請求の範囲内である。さらに、本発明の特徴または局面は、マーカッシュグループに関して記載されており、当業者は本発明がマーカッシュグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関して本明細書に記載されていることを認識する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液サンプル中のエストロンの量を決定するための方法であって:
(a)前記体液サンプルを、前記体液サンプル中に存在し得るタンパク質由来の遊離のエストロンに対して十分な量の試薬を用いて酸性にする工程と;
(b)前記体液サンプルからエストロンを液体クロマトグラフィーによって精製する工程と;
(c)前記体液サンプルから精製された前記エストロンをイオン化して、タンデム型質量分析によって検出可能な1つ以上のイオンを作製する工程と:
(d)前記エストロンイオン(単数または複数)の量をタンデム型質量分析によって負のイオンモードで検出し、ここで前記エストロンイオン(単数または複数)の量が前記体液サンプル中のエストロンの量に対して関連付けられる工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記方法が500pg/mL以下の定量限界を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エストロンが、質量分析の前に誘導体化されない、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記液体クロマトグラフィーが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記精製工程がさらに、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)、続いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記酸性化試薬がギ酸である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記エストロンイオンが、269.07±0.5、145.03±0.5および143.02±0.5の質量/電荷比を有するイオンからなる群より選択される1つ以上のイオンを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記イオン化が、269.07±0.5の質量/電荷比を有する前駆イオンを作製する工程と、145.03±0.5、および143.02±0.5の質量/電荷比を有するイオンからなる群より選択される1つ以上の断片イオンを作製する工程とを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記体液サンプル中に存在するグルクロン酸化エストロンおよび非グルクロン酸化エストロンの両方が前記方法によって検出および測定される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記体液サンプルが血清、血漿または尿である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
タンデム型質量分析によって体液サンプル中のエストロンの量を決定するための方法であって:
(a)前記体液サンプルから液体クロマトグラフィーによってエストロンを精製する工程と;
(b)269.07±0.5の質量/電荷比を有している前記エストロンの前駆イオンを作製する工程と;
(c)前記前駆イオンの1つ以上の断片イオンを作製する工程であって、前記1つ以上の断片イオンの少なくとも1つが、143.02±0.5の質量/電荷比を有しているイオンフラグメントを含む工程と;
(d)工程(b)もしくは(c)またはその両方で作製される1つ以上の前記イオンの量を検出する工程、および前記体液サンプル中の前記エストロンの量に対して前記検出されたイオンを関連付ける工程、
を含む方法。
【請求項12】
前記方法が500pg/mL以下の定量限界を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記エストロンが質量分析前に誘導体化されない、請求項11〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記液体クロマトグラフィーが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)である、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記精製工程がさらに、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)続いて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記前駆イオンが269.07±0.5の質量/電荷比を有し、前記1つ以上の断片イオンが、145.03±0.5の質量/荷電比を有する断片イオンを含む、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記イオン化工程の前に前記体液サンプルに存在し得るタンパク質からエストロンを遊離させるのに十分な量で、試薬が前記体液サンプルに添加される、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記試薬が前記体液サンプルを酸性にするのに十分な量で添加される、請求項11〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記試薬がギ酸である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記体液中に存在するグルクロン酸化エストロンおよび非グルクロン酸化エストロンの両方が前記方法によって検出および測定される、請求項11〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記体液サンプルが血清、血漿または尿である、請求項11〜20のいずれかに記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2011−506965(P2011−506965A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538047(P2010−538047)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/085282
【国際公開番号】WO2009/076106
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(505063050)クエスト ダイアグノスティックス インヴェストメンツ インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】