説明

赤外線ガス分析計

【課題】 圧力センサーパッケージをブロック内の外気から遮断された気密空間に収納し、この気密空間に検出部の前室並びに後室に充填された受感ガスと同じ成分の受感ガスを充填することによって、性能的に安定したNDIRを提供する。
【解決手段】 光源21から投射された赤外線の光路上に試料ガスが導入されるセル部30と、セル部に隣接するブロック47に形成されセル部30を通過した赤外線を検出する検出部40を備えた赤外線分析計であって、前記検出部40が、前室41及び後室42と、これら2室に充填された受感ガスの圧力差を検出する圧力センサーパッケージSとを備え、該パッケージSはブロック47内の外気から遮断された気密空間54に収納され、この気密空間54に検出部30の前室並びに後室に充填された受感ガスと同じ成分の受感ガスが充填されている構成にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定成分ガスの赤外スペクトル吸収に伴うガス圧変動を利用して、試料ガス濃度(特定ガス種の濃度)を計測する赤外線ガス分析計に関し、詳しくは、内部にガスを封入して用いるガス検出部の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二つ以上の異なる原子からなる異核分子の多くは、波長1〜20μmの赤外光を照射すると、その化学種に特有の振動および回転の運動エネルギー準位の遷位が起こり、特定の赤外線スペクトルを吸収し、内部エネルギーや体積或いは圧力の増加等など、熱力学的な変化を引き起こす。非分散型赤外線ガス分析計(以下、NDIRという)は、このようなガス成分の特性を利用して、その濃度を計測する分析機器であって、例えば、特許文献1〜特許文献3に示すものがある。
【0003】
図2はこの種のシングルビーム式NDIRの基本的な構成を示す。このNDIRは、赤外光を発生させるための光源部20,試料ガス(被測定ガス)が導入されるセル部30、セル部30を通過した赤外光の強度を計測することで最終的な試料濃度を計測する検出部40の3つの要素から構成されている。
【0004】
光源部20は赤外光の発生を担い、光源であるヒーター21と、赤外光を断続してセル部30及び検出部40に入射させるためにモーター23によって回転するチョッパー22とから構成されている。
【0005】
セル部30は、試料ガスが導入される部位であって、パイプ31の前後端にはCaF2等の赤外線透過性窓板32で封止されている。パイプ31の側面には一端から他端へガスが流れるようにガスの導出入孔33が形成されている。また、パイプ31の内面は赤外光を効率よく反射させるために、鏡面仕上げや金メッキ等のコーティングが施されている。
【0006】
検出部40は、アルミニウム製ブロック47で構成され、ブロック47内には受感ガスが封入された前室41と後室42が形成されており、この前、後2室間の圧力差を検出するセンサー44が前室41と後室42を連通する連通路43に配置されている。前室41の前方(赤外線入射側)はCaF2等の赤外線通過性窓板49で封止され、前室41及び後室42の間は同じくCaF2等の赤外線透過性窓板で仕切られ、後室42の背後は、外部からの赤外光入射を防ぐために例えば黒色のバックプレート46で遮断されている。前室41と後室42に封入される受感ガスは、NDIRの被測定対象となるCO等の高濃度のガス、あるいはAr、He、N等の不活性ガスで希釈されたガスが使用される。この受感ガスは、ガス導入管48により前後室41、42を真空排気したあとに充填され、充填後、ガス導入管48の開口部をカシメ等の手段によって閉塞することによって封止される。
【0007】
試料ガス濃度を計測するにあたって、試料ガスが導入されたセル部30を通過してきた赤外光を検出部40の前室41,後室42に入射させる。この際、受感ガスの吸収スペクトルに相当する赤外光は、その殆どを前室中の受感ガスに分子振動エネルギーとして吸収され、この振動エネルギーが緩和により並進運動エネルギーに変換されることで圧力が上昇する。この時、前室と後室間に圧力差が生じるので、これを連通路43、43間に配置されたセンサー44によって検出するこの圧力差は試料ガスを通過する赤外線強度に依存しており、この赤外線強度は試料ガス中の赤外線吸収ガスの濃度に依存するものであるから、センサーにより検出した圧力差に基づいて試料ガス中の赤外線吸収ガス濃度を測定することができる。
【0008】
図3は、NDIRに使用されるセンサー44の詳細を示すものであって、マイクロマシニング技術によって加工されたミクロンオーダーのシリコンダイアフラム1が、ガラス等の基板2でテンションをかけて固着して形成されており、圧力によるダイアフラム1の変化を静電容量変化として検出するものである。このセンサー44は、本体保護の観点からセンサー単体で市販されることは少なく、一般的にパッケージ化されて市場に供給されている。
【0009】
図4は、パッケージ化された圧力センサーSを示すものであって、一体成形された樹脂製のモールド部材3の内部にセンサー44が電子回路基板4上に配置された状態で分解不能に組み込まれている。モールド部材3の内部は、センサー44と、貫通孔を有する電子回路基板4によって、連通孔8に連なる上部空間5と、圧力導入孔9に連なる下部空間6に隔離され、更に下部空間6はカバー7によって覆われていて、圧力導入孔8、9から夫々導入される圧力P1、P2の圧力差を感知できるようになっている。また、電子回路基板4の回路で前段処理された信号は端子10より出力される。この圧力センサーパッケージSは図5に示すように、圧力導入孔8、9を夫々備えた筒状の差し込み部11、11を前室41並びに後室42に通じる連通孔43に差し込んで取り付けられる。
【特許文献1】特開平09−049797号公報
【特許文献2】特開平09−304278号公報
【特許文献3】特開2003−83891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記した構成にあっては、カバー7で隔離される空間6、即ち、圧力感知側が、検出部の作用系といえるものであり、カバー7の外側に必然的に形成される空間12が外部大気に開放されているので、電子回路基板4とモールド部材3,並びに電子回路基板4とカバー10とのシールが不完全だと、例えばシール剤がガス通過性を有する高分子素材であった場合など、内部に充填されている受感ガスやシール材のガス拡散による通過などでリークするし、外気が内部に流入してガス交換が生じて受感ガス成分が変化し、計測精度が劣化するといった問題点があった。
【0011】
そこで、本出願人は、図6に示すようなNDIRの検出部を試作案した。図6の(イ)は、圧力センサー未搭載の検出部の金属ブロック47であって、組み込まれる圧力センサーパッケージSを収めるだけの収納室49がブロック47の下方に開放した状態で設けられている。また収納室49の側壁にはセンサーリード線取出し孔50が設けられている。この収納室49に、図6の(ロ)に示すように、下方から圧力センサーパッケージSを収納して、その外周をエポキシ接着剤層51で隙間無く埋めた状態で蓋52を接合することによって収納室開口部を閉じ、外気より圧力センサーパッケージSを遮断するようにしたものである。
【0012】
しかしながら、この手段では、圧力センサーパッケージS内部の空間20に大気が残存するので、この残存大気がスローリークにより検出部の作用系に拡散し、不純物による検出部の干渉応答や感度変化が避けられなかった。
【0013】
そこで本発明は、圧力センサーパッケージをブロック内の外気から遮断された気密空間に収納し、この気密空間に検出部の前室並びに後室に充填された受感ガスと同じ成分の受感ガスを充填することによって、上記した従来課題を克服したNDIRを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する為に本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明は、光源から投射された赤外線の光路上に試料ガスが導入されるセル部と、セル部に隣接するブロックに形成されセル部を通過した赤外線を検出する検出部を備えた赤外線分析計であって、前記検出部が、ブロックの壁面に囲まれた前室及び後室と、これら2室に充填された受感ガスの圧力差を検出する圧力センサーパッケージとを備え、該圧力センサーパッケージはブロック内の外気から遮断された気密空間に収納され、この気密空間に検出部の前室並びに後室に充填された受感ガスと同じ受感ガスが充填されている構造としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の赤外線ガス分析計は上記のごとく構成したから、圧力センサーパッケージを収納した気密空間から残存大気がなくなり、気密空間には検出部の前室並びに後室内の受感ガスと同じ成分の受感ガスで満たされるので、万一、圧力センサーパッケージ内の隔離部分から機密空間にリークが生じても、同じ成分の受感ガスが混ざり合うだけで、不純物による検出部の干渉応答や感度変化は生じることがなく、性能的に安定した赤外線ガス分析計を得ることができるとともに、市販の圧力センサーパッケージを赤外線ガス分析計の検知素子としてそのまま利用できるのでコストダウンを図ることができる、といった効果がある。なお、「同じ受感ガス」とは、成分比率がほぼ同等のガスを指す。前後室内の受感ガスとほぼ同じ圧力にすることがさらに好ましい。
【0016】
(その他の問題を解決するための手段及び効果)
上記発明において、ブロックの下部に圧力センサーパッケージを外部から装着することができる収納空間が形成され、この収納空間に圧力センサーパッケージを収納したあとに蓋で収納空間の開口部を密閉することにより前記気密空間が形成されている構成とするのがよい。
これにより圧力センサーパッケージのブロックへの組付けが容易であると共に、気密空間も簡単に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下において本発明にかかるNDIRについて図面を用いて説明する。図1は本発明に係るNDIRの検出部を示す断面図である。NDIRの他の構成、即ち光源部及びセル部の構成は、先に図2で示した構造と同じであるから省略してある。検出部40’も、圧力センサーパッケージSを収納する部分を除き、図2で示したものと同じ構造で構成されており、故に、複雑化を避けるために、図2と同じ構成要素は同じ符号を附した。
【0018】
検出部40’は、アルミニウム製ブロック47’で構成され、ブロック47’内には受感ガスが封入された前室41と後室42が形成されており、この前室41、後室42に連なる連通路43が設けられている。前室41並びに後室42は赤外光透過性の窓板で仕切られ、後室42の背後は、外部からの赤外光入射を防ぐために例えば黒色のバックプレート46で遮断されている。バックプレートは、場合によってはアルミなどの金属プレートを使用したり、或いは異種の受感ガスを封入した検出器を連設する場合には、赤外線通過性窓板を用いることもできる。前室41と後室42に封入される受感ガスは、NDIRの被測定対象となるCO等の高濃度のガス、あるいはAr、He、N等の不活性ガスで希釈されたガスが使用される。この受感ガスは、ガス導入管48により前後室41、42を真空排気したあとに充填され、充填後、ガス導入管48の開口部をカシメ等の手段によって閉塞することによって封止される。
【0019】
ブロック47’の下部に、図3,図4で示したものと同じ構造の圧力センサーパッケージSを収納するための収納空間が設けられ、圧力センサーパッケージSの筒状の差し込み部11、12を前室41並びに後室42に通じる連通孔43に差し込むことによって圧力センサーパッケージSが収納空間に装着される。そして、圧力センサーパッケージSとの間に若干の空間54を残すようにして、蓋55で空間54を気密に密閉するようにしている。
【0020】
外気と遮断されたこの空間54(気密空間)には、前室41並びに後室42へのガス充填と同じように、ガス導入管56により真空排気したあとに受感ガスが充填され、充填後、ガス導入管56の開口部をカシメ等の手段によって閉塞することによって封止される。充填される受感ガスは、前室41並びに後室42に充填される受感ガスと同じ成分のものが使用される。
【0021】
圧力センサーパッケージSのセンサー44の電子回路基板4から電力供給並びに信号を取り出すためのリード線57が接続され、このリード線57を取り出すためにブロック47’に形成された孔58はシール材59で完全に密閉されている。
【0022】
上記の構成により、圧力センサーパッケージを含むブロック47’内の全ての空間から残存大気がなくなり、気密の空間54には前室41並びに後室42内の受感ガスと同じ成分の受感ガスで満たされるので、万一、圧力センサーパッケージS内の隔離部分、即ち、電子回路基板4とモールド部材3との間や、カバー7の接合部分からガスのリークが生じても、同じ成分の受感ガスが混ざり合うだけで、不純物による検出部の干渉応答や感度変化は生じることがなく、性能的に安定したNDIRを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、市販の圧力センサーパッケージを、性能的に安定した検知素子として使用可能なNDIRを製造する際に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例である赤外線ガス分析計の検出部の構造を示す断面図。
【図2】従来の赤外線ガス分析計の概略的な構成図。
【図3】圧力センサーの拡大断面図。
【図4】圧力センサーパッケージの断面図。
【図5】圧力センサーパッケージを装着した従来の赤外線ガス分析計の検出部を示す断面図。
【図6】圧力センサーパッケージを装着した従来の他の例を示すもので、(イ)は装着前であり、(ロ)は装着後を示す。
【符号の説明】
【0025】
S 圧力センサーパッケージ
20 光源部
21 光源
30 セル部
40 検出部
41 前室
42 後室
47 ブロック
54 空間(気密空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から投射された赤外線の光路上に試料ガスが導入されるセル部と、セル部に隣接するブロックに形成されセル部を通過した赤外線を検出する検出部を備えた赤外線分析計であって、
前記検出部が、ブロックの壁面に囲まれた前室及び後室と、これら2室に充填された受感ガスの圧力差を検出する圧力センサーパッケージとを備え、該圧力センサーパッケージはブロック内の外気から遮断された気密空間に収納され、この気密空間に、前室並びに後室に充填された受感ガスと同じ受感ガスが充填されていることを特徴とする赤外線ガス分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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