説明

赤外線反射層システム及びその製造方法

本発明は、ガラス窓等用の赤外線反射層システムに関し、該層システムの特製は、熱処理後、例えば、ガラス窓を曲げたり、硬化した後でも維持される。銀を赤外線反射層として用いる。NiCrOxとZn(Al)Oxの組み合わせを銀の下層ブロッカーとして用いる。また、化学量論的層もプレブロッカー層として用いる。具体的な作用点を、TiOxNyの第1の誘電体層について選択する。二重下層ブロッカーとしてのNiCrOxとZnAlOxの層の厚さ及び酸化の程度と、TiOxNy基層の作用点の調和が、コーティングの焼き戻し性にとって重要である。

【発明の詳細な説明】
【説明】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルによる赤外線反射層システム及び請求項29によるその製造方法に関する。
【0002】
コートされた基材は、ビルや車両に用いられるとき、主要な役割を果たす。ここでは、ビルの建築用ガラスとして、又は車両の自動車ガラスとして、後に据え付けるためにコートしなければならない特に大面積ガラス窓のことである。
【0003】
ガラスの作製に対する要求は高い。ガラスは可視光を十分に通さなければならないが、UV光は通過できないようにすることが多い。ガラスはまた同時に、熱調節の役目も果たさなければならない。これは、非常に低い放射線放出係数を有するCu、Ag、Au等の金属のことが多い導電性層をガラスに適用することにより達成される。Cu、Ag又はAuの赤外線反射層として、少なくとも1枚の層を含むこれらの層システムはまた低e(低放射率又は低放射)層とも呼ばれる。ビル内から屋外へ僅かの熱放射線しか出さないからである。
【0004】
これらの低e層の非常に大きなことが多い光反射のために、これらの層には、反射防止層として機能する追加の透明コーティングが提供されている。これらの透明層を適用することにより、ガラス板に所望の色合いを設定することもできる。更に、赤外線反射層に適用された層もまた、層システムの高耐化学及び機械性のために機能する。
【0005】
慣習的な機械的及び化学的負荷は別にして、このようにして作製されたガラス板は、曲げる、且つ/又は焼き戻しされていなくても、破損することなく、温度や曲げプロセスに耐えるものでなければならない。
【0006】
可視範囲における高透過挙動及び熱放射線範囲における非常に高い反射挙動を備えた半透明材料窓、及びその製造方法は既に知られている(DE第19520843A1号)。この窓の上に、数枚の層を含むコーティングが適用され、Agが、赤外線反射層を適切に形成している。コーティングを備えた窓は、ここでは、焼き戻しされたり曲げられていない。
【0007】
少なくとも1枚の金属コーティング層及び更に誘電体層を備えたコートした基材も知られている(EP第1089947B1号)。コートされた基材は、ここでは、1回だけ熱処理されている。金属層を保護するために、コーティングプロセスにおいては、金属層は、部分酸化金属に基づく副層間に挟まれる。このコートされた基材は、焼き戻ししたり、曲げられるような構造である。このため、各熱処理の前に、各誘電体コーティング層には、部分酸化された2種類の金属の組み合わせに基づく副層が提供される。
【0008】
焼き戻したり曲げることができる基材に適用された多層システムも知られている(米国特許第6576349B2号、米国特許第6686050B2号)。多層システムは、ここでは、2枚の赤外線反射層を含み、夫々が、2枚のNiCrOx層間に挟まれている。
【0009】
最後に、コーティング後に焼き戻ししたり、曲げられる断熱層システムが知られている(DE第19850023A1号又はEP第0999192B1号)。この層システムは、TiO層上に配置された不活性金属層を含み、2枚の層が低酸化NiCrOx間に挟まれている。
【0010】
DE第19850023A1号に基づいて、本発明は、基材上に焼き戻ししたり、曲げることの可能なコーティングを形成し、コーティングには、少なくとも1枚の赤外線反射層が含まれ、例えば、Ag等の金属層の焼き戻し中、そこを通過する酸素やNaイオンによる攻撃を防ぐという問題に取り組むものである。
【0011】
本発明が取り組む問題は、請求項1又は29の構成により解決される。
【0012】
本発明は、このように、ガラス板等の赤外線反射層システムに関し、層システムの特性は、例えば、ガラス板を曲げたり、焼き戻すための熱処理後でも維持される。層が赤外線を適切に反射するように、銀を用いる。この銀のサブブロッカーとして、NiCrOx及びZnAlOxの組み合わせを用いる。更に、化学量論的層を、プレブロッカーとして導入する。TiOxNyの第1の誘電体層のために、特別な作用点を選択する。コーティングの焼き戻し性にとって重要なのは、二重サブブロッカーとしてのNiCrOxとZnAlOxの層厚さと酸化度及びTiOxNy基層の作用点の整合である。
【0013】
本発明によれば、焼き戻しプロセスにも関わらず、コーティングの色は無色のままである。
【0014】
焼き戻し中、即ち、加熱及び続く冷却中、酸素が、外側から赤外線反射層に通過できないようにするために、2枚の誘電体層を基材上に直接配置する。
【0015】
第1の誘電体層は、酸素に対するブロッカー層として機能するばかりでなく、これに加えて、むしろ、焼き戻し後の光学パラメータの安定性を確保する。好ましく用いられるのは、TiO又はTiOxNy層である。この場合、コートされた基材の特に良好な機械的安定性が確保されるからである。
【0016】
この第1の誘電体層上に、第2の誘電体層が適用される。この第2の層、好ましくはSiは、プレブロッカー層として機能する。これによって、このプレブロッカー層は、正確に定義された化学量論を有し、酸素の不透過性に関して特に良好な特性を有する。
【0017】
この層の上にブロッカー層、好ましくはNiCrOxが適用される。プレブロッカーを用いる利点はまた、NiCrOx層の酸素含量を正確に設定する必要がないことである。
【0018】
焼き戻し前後の色の無色性、システムに化学及び機械的安定性、並びに、熱負荷性は、プレブロッカー(例えば、Si)、ブロッカー(NiCrOx)及び接着促進剤(例えば、ZnAlOx)の組み合わせにより得られる。
【0019】
第1の層のために、特に、TiOxNyの場合には、1つに、コートされた基材の色の無色性が維持され、もう1つに、プレブロッカーとしての第2の誘電体層の適用により、酸素又はその他物質、例えば、Naイオンが、続く層を通過するのを防ぐ。これによって、コートされた基材の耐化学及び機械性が維持される。
【0020】
第1の誘電体及びプレブロッカーの層の順番を変える場合、ブロッカーは省くことができる。
【0021】
ブロッカーのないこの層の順番のために、特に高い透過率が得られる。
【0022】
本発明の実施形態を図面に示し、以下に詳細に説明する。
【0023】
図1に、基材1上に配置されたコーティングシステム2を示す。このコーティングシステム2は、数枚の層3〜9を含み、スパッタプロセスにより製造される。各層3〜9は連続スパッタリングされる。
【0024】
基材1、好ましくはガラス上に、第1の誘電体層3が、反応性スパッタリングにより適用される。この層3は、誘電体で、例えば、ZnO、SnO、In、Bi、TiO、ZrO、Ta、SiO、Al、AlN、Si又はTiOxNyであるが、好ましくは、TiO、Si又はTiOxNyである。正確には、TiOxNy及びTiOの化合物が特に有利であることが分かっている。コートされた基材1が、焼き戻し後、特に良好な色安定性を与えるからである。所望の耐化学及び機械性は、維持される、或いは、TiOxNy及びTiO以外の化合物でコートされた基材よりも増大する。
【0025】
TiOxNyは、金属ターゲットの遷移モードでの反応性スパッタリングにより得られる。この場合、スパッタリングは、MF技術を用いてなされるのが好ましく、例えば、酸素センサ又はPEM(=プラズマ放出測定)による等、安定調節しながらなされることが多い。
【0026】
しかしながら、TiOが層3を形成する場合には、TiOは、セラミックTiOxターゲットからスパッタすることもできる。少量の酸素がアルゴンに添加されるが、ここでは、スパッタリングには反応性スパッタリングは含まれない。スパッタリングは、MF又はDC技術によりなされ、DC技術だとより費用効率が高い。ヒステリシス特性又は遷移モードは、このプロセスでは生じない。
【0027】
TiOxNyを、基板1上に配置された第1の層3として選択する場合、酸素又はナトリウムイオンが、上層を通過しないようにするために、この層3上に、更に誘電体層4を配置しなければならない。
【0028】
TiOxNy以外だと、層3上にあるこの層4は、層3にも含まれる化合物の1つを含むことができる。しかしながら、Si又はTiOを用いるのが好ましい。従って、層4は、プレブロッカーとして機能する。酸素が上層を通過するのを防ぐ、又は少なくとも酸素の拡散を大幅に減じるために、化学量論的化合物のみを含み、ブロッカー層の前に配置されているからである。これによって、上層の化学量論は重要ではなくなる。
【0029】
層4は、酸素又はナトリウムイオンが、上層5〜9を透過するのを防ぐ。これによって、焼き戻し後、コートされた基材の耐化学及び機械性も維持される。
【0030】
しかしながら、層3が、化学量論的化合物を含む場合、その上に適用された第2の誘電体層4は不必要となる。層3は、酸素又はナトリウムイオンに対してブロッカー特性を既に有しているためである。それでも、このような層4を、層3に任意で適用することはできる。
【0031】
層3及び4の合計厚さは、約25nmであり、層3の厚さは、約15〜19nmであるため、層4より常に厚い。
【0032】
層4の上に層5を適用する。この層5は、酸素に対してブロッカー層として機能する。この層は、Ti、TiOx、Cr、CrOx、Nb、NbOx、NiCr又はNiCrOxを含むことができるが、NiCr又はNiCrOxを含むのが好ましい。正確には、組成NiCrOxの非化学量論的層の場合には、酸素に対するブロッカー特性が良好と判断されなければならない。酸素は、欠陥のために、NiCr金属格子に組み込まれる可能性があるためである。この層5の層厚さは、約3〜6nmである。
【0033】
この層5上に、反応性スパッタリングにより層6を適用する。この層6は、TaOx、ZnOx、ZnTaOx又はZnAlOxを含む。ZnAlOxが好ましく用いられる。
【0034】
ZnAlOxを適用する1つのやり方は、MF技術により金属ターゲットをスパッタリングするものである。この金属ターゲットは、Al及びZnも含む。
【0035】
ZnAlOxは、セラミックターゲットをスパッタリングすることにより好ましくは得られる。このZnAlOx層は、半化学量論的層であるため、スパッタリングは、Ar雰囲気中でなされ、少量のOがArに添加される。しかしながら、純粋なアルゴン雰囲気中でのスパッタリングもまた行うことができる。
【0036】
ZnAlOx層が、低吸収、例えば、1〜2%の吸収としなければならない場合には、少量のOを添加するのが好ましい。
【0037】
層5の化合物とは対照的に、TaOx、ZnOx、ZnTaOx又はZnAlOxは、酸素に対してブロッカー特性を有するばかりでなく、それらに適用された赤外線反射層に対して良好な接着特性も有している。これらの赤外線反射層は、元素周期系の第1の下位群の金属又はこれらの金属のうち少なくとも1つの合金を含むのが好ましい。赤外線反射層がNiCrOx層に適用されるなら、このNiCrOxの酸素含量は正確に設定する必要はない。酸素含量が少なすぎる場合には、NiCrOx層は金属性が強く、適用された金属層7に関する接着強度が低すぎる。一方、酸素含量が多すぎる場合には、NiCrOx層は、酸素に対して良好なブロッカー特性を有していない。
【0038】
酸素含量が多すぎる場合には、低酸化層NiCrOxは、焼き戻し中、十分に酸素を取り込むことができない。従って、酸素は、赤外線反射層を通過して、この金属層の耐化学性が損なわれる。これらの問題は、第2のブロッカー層6を適用することにより回避される。層6には、ZnAlOxを用いるのが好ましく、これは、反応性スパッタリングにより適用される。よく使用され(例えば、DE第195 20 843A1号)、良好な接着強度も有するZnOxに比べて、ZnAlOxには、焼き戻し中、赤外線反射層に対する接着強度も維持されるという利点がある。
【0039】
層6の非常に薄い層厚さで、赤外線反射層を良好に成長させるのに既に十分であるため、約1nmの層厚さが適切である。
【0040】
層6上に、赤外線反射層7を適用する。この赤外線反射層は、元素周期系の第1の下位群の金属又はこれらの金属のうち少なくとも1つの合金を含む。しかしながら、赤外線反射層は、Agを含むのが好ましく、Agは、酸素中スパッタリングにより適用される。Ag層に組み込まれるこの酸素は、良好な耐化学性を必要とする。これらAg層の層厚さは、約11〜13nmである。
【0041】
Ag層7上に、再び、ブロッカー層8が適用される。この層8は、NiCrOxを含むのが好ましく、Ti、TiOx、Cr、CrOx、Nb、NbOx又はNiCrも層8を形成することができる。
【0042】
層8の厚さは、約3〜6nmである。最後の層は誘電体層9で、第2の誘電体層4にも含まれる元素の1つを含むことができる。層9は、図1に示す通り、Siを含むのが好ましい。層9の層厚さは、約30〜45nmである。
【0043】
他の層システムに比べて、図1に示す層システムには、以下の利点がある。
【0044】
TiOxNyを含む層3のために、コートされた基材の耐機械及び化学性を損なうことなく、焼き戻し中、コートされた基材を確実に曲げることができる。TiO中の窒素によって応力が減少し、比較的厚い層の場合には、コーティングの亀裂やピンホールが生じる傾向が減少するという利点がある。
【0045】
プレブロッカーとして機能する層4は、ナトリウムイオン及び酸素が、上層5〜9を通過するのを減らす。
【0046】
NiCrOxを含む層5上に、ブロッカー層としても同時に機能する接着層6を適用する。NiCrOx層の酸素含量は、従って、正確に設定する必要はもはやない。この層6は、ZnAlOxを含むのが好ましい。
【0047】
層6は、赤外線反射層7に対して、良好な接着強度を有する。
【0048】
SiとAgは、互いに接着し難いため、他の材料の少なくとも1層を接着促進剤として間に適用しなければならない。ZnAlOxは、閉鎖層を形成しないよう薄くできるため、更なる材料を、SiとAgの間に配置しなければならない。この材料は、TiO又はTiOxNy又はNiCrOxのいずれかである。「ガラス/Si/TiO/Ag...TiOxNy」の構成では、Ag中NiCrOxは省くことができるため、二重銀低e2コーティングステーションについてのコーティング設置のレイアウトにおいては、関連のガス分離を省くことができ、場所とコストの節約になる。TiOの代わりに、TiOxNyを層システムの各側で用いることもできる。
【0049】
層6の良好な接着強度のために、図1で、ZnAlOx上に配置されたAg層7は、Ag層が配置された他の層に比べて非常に層厚さを薄くすることができる。
【0050】
この薄い層厚さにも関わらず、Ag層は、非常に良好なIR反射を有する。表面抵抗が維持されているからである。これは、Ag層がZnAlOx層で最良に成長できるという事実に特によるものである。
【0051】
図2に、図1に示したコートされた基材1の変形を示す。図1のコーティングシステム2とは対照的に、更なる層11がコーティングシステム10に適用されている。この層11は、ZnO、SnO、In、Bi、TiO、ZrO、Ta、SiO、Al、AlN又はSiからなる、又はこれらを含むことができるが、好ましくは、Si又はTiOである。カバー層として、TiOは、層システム10の耐化学性を改善する。
【0052】
層9はSiを含むため、層11は、反応性スパッタリングによりTiOでコートされる。しかしながら、層11は、セラミックターゲットのスパッタリングにより適用されることもあり得る。層9上に更に層11が適用されるため、層9の層厚さを減じることができる。層9と11の2層の厚さの合計は、合計厚さが約37〜44nmとなるようにするのが好ましい。利点は、異なる組成の2枚の誘電体層9及び11を適用することによって、化合物の特性が互いに補われることである。
【0053】
以下に、個々の層の適用方法を説明する。
【0054】
図1の層システム10の層3〜9及び11、又は層システム2の層3〜9は、反応性スパッタリングにより、且つ/又はセラミックターゲットのスパッタリングにより適用されるのが好ましい。層5、6、7、8は、アルゴン中、対応の金属ターゲットをスパッタリングすることによっても適用可能であるが、例えば、Ti、Nb、Cr、Ag、NiCrの場合には、少量の酸素と共にアルゴン中でスパッタリングすると有利である。層5、6、8は、低酸化化合物を含む場合には、酸素に対して良好なブロッカー特性を有するからである。Agの場合には、純粋なAg層に比べて、酸素の組み込みにより、耐化学性が改善される。
【0055】
銀は、酸素の添加によりスパッタされることがあるが、この手順は、反応性スパッタリングとは考えられない。酸素の添加によるスパッタリングでは、プラズマ放電は酸素により決まらない。ターゲット表面は実質的に金属であり、放電は、金属スパッタプロセスのように挙動する。むしろ、スパッタされた層は、酸素ドープと呼ばれ、即ち、数パーセントの酸化銀を含有する銀を実質的に含む。プロセスガスは明らかに10%未満であり、酸素割合は1〜5%である。銀を反応的にスパッタリングするには、少なくとも50%の酸素割合がプロセスガスにおいて必要とされる。反応的に堆積した酸化銀の層は、実際、暗色から黒色である。
【0056】
全ての層のスパッタプロセスは、約2x10−3〜5x10−3mbarの圧力で実施される。不活性ガス、好ましくはArを、反応性ガス、好ましくはO又はNに添加する。Ar:Oの比率は、好ましくは3:1であり、TiOxNy層の場合のように、層の製造にNも必要な場合には、O:Nの比率は、5:1である。
【0057】
この圧力及びガスの相対比は、これらの層を製造するスパッタプロセスにとって最良であることが分かっている。ただし、他の圧力及びガス混合物の他の組成でも実行可能である。
【0058】
これら2つのパラメータとは別に、スパッタリングを行う電力も大きな役割を果たす。
【0059】
図3に、図1に示したコーティングシステム2の更なる変形例を示す。図3に示すコーティングシステム29においては、層3ではなく、層4が、基材上に直接配置されている。従って、層3と4は場所が変わっている。
【0060】
図3の層3は、TiOxNyを含むが、層3はまたTiOも含むことができる。そのため、層3は基材1上に配置されておらず、耐化学及び機械性が減少する。しかしながら、層5のこの配置により、NiCrOxブロッカー層を省くことができる。ZnAlOx層は、Si層よりもTiOxNyに良好に接合するためである。
【0061】
このコーティングシステム29においては、第1のブロッカー層を排除することによって、図1又は2に示すコーティングシステム2に比べて透過率が増大するという利点がある。
【0062】
このように、このコーティングシステムには、透過率の増大が望ましく、耐機械及び化学性の要求が低い場合は利点がある。
【0063】
図3には示していないが、図2と同様に、層9の上に更に層11を適用することができ、層11はTiOを含むのが好ましい。
【0064】
図4に、2枚の赤外線反射層18、25のある基材12上に配置されたコーティングシステム13を示す。
【0065】
図4に示す通り、層14〜21は、図2に示すコーティングシステム10と組成や順番に違いはない。層21上に更に7枚の層、即ち、層22〜28が適用されている。層25は、更に適用された赤外線反射層である。
【0066】
層21にスパッタされた層22〜28は、7枚の層15〜21と同じ組成及び順番を有している。従って、基材12を第1の誘電体層14でコートした後、層をSi、NiCrOx、ZnAlOx、Ag、NiCrOx、Si及びTiOの順で続けて2回コートする。これによって、1枚のみの赤外線反射層を備えたコーティングシステムは、2枚の赤外線反射層を備えたコーティングシステム13になる。
【0067】
明らかに、TiOxNy層とは別に、コーティングシステム13は、原理上、一方が他方の上にスタックされた2つのコーティングシステム10を含む。これには、スパッタプロセスにおいて、同じターゲット材料を用いることができるという利点がある。基材12上に、層14〜21を適用した場合、ターゲット材料を、全く新しい異なるターゲット材料に交換することなく、コーティングプロセスを単純に繰り返すことができる。
【0068】
図4は、2枚の赤外線反射層18、25を備えた好ましいコーティングシステム13を示しているが、組成は変えることができる。
【0069】
層14は、好ましくはTiOxNyからなるが、層14は、ZnO、SnO、In、Bi、TiO、ZrO、Ta、SiO、Al、AlN又はSiを含むことができる。
【0070】
対照的に、層15、20、21、22、27、28は、一連のSi、AlN、Al、SiO、Ta、ZrO、TiO、Bi、In、SnO及び/又はZnOからの少なくとも1種類の化合物を含むことができる。これらの層は、対応のセラミックターゲットの反応性スパッタリング又はスパッタリングにより適用される。
【0071】
層16、19、23、26は、Ti、TiOx、Cr、CrOx、Nb、NbOx、NiCr又はNiCrOxを含むことができる。接着層17、24は、TaO、ZnOx、ZnTaOx又はZnAlOxを含む。
【0072】
赤外線反射層18、25は、好ましくはAgを含むが、Cu、Au又はこれら金属の合金も含むことができる。
【0073】
コーティングシステム13の、図1〜3に示す1枚のみの赤外線反射層を有するコーティングシステムとの層厚さの違いは最小である。
【0074】
層20〜22の厚さだけが違う。層20〜22の厚さは変えることができるが、これらの層20〜22の層厚さの合計は約70〜90nmである。
【0075】
層20〜22の材料は交換可能で、層21がSiを含み、層20、22がTiOを含むようにすることができる。
【0076】
NiCrOx層19、23間に、2枚、更には1枚のみの層を配置することもできる。例えば、2枚の層を2枚のNiCrOx層19、23間に配置する場合には、一方の層が、例えば、TiOを含み、もう一方の層がSiを含むことができる。層の順番は重要ではない。
【0077】
このコーティングシステム13において、層15を層14と交換することもできる。層15が基材12上に配置されるため、耐化学及び機械性は減少しないが、層16及び23を省くことができる。これによって、コーティングシステム13の透過率が増大する。
【0078】
3枚以上の赤外線反射層を備えたコーティングシステムも考えられる。1枚のみの赤外線反射層を備えたコーティングシステムは、2枚の赤外線反射層を備えたコーティングシステムに比べて、約5〜10%可視光透過率が減少することは考慮に入れなければならない。このように、赤外線反射層の数が増えると、透過率は減少する。しかしながら、2枚の赤外線反射層を備えたコーティングシステムには、IR反射率が100%近くまで増大するという利点がある。2枚の赤外線反射層を備えたコーティングシステムは、このように、透過率の損失はほんの僅かで、非常に良好な熱調節が行える。
【0079】
これらの層の選択性Sは、大幅に高くなる。選択性Sは、S=TVIS/TVISで計算される。式中、TVIS=可視範囲の透過率、TVIS=赤外範囲の透過率である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】赤外線反射層を備えた基材上に配置されたコーティングシステムを示す図である。
【図2】図1に示すコーティングシステムの変形例を示す図である。
【図3】図1に示すコーティングシステムの更なる変形例を示す図である。
【図4】2枚の赤外線反射層を備えた基材上に配置されたコーティングシステムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線反射層システムであって、特に、曲げる、且つ/又は焼き戻しされるガラスシート用であって、少なくとも1枚の赤外線反射層を備えており、
a)基材(1、12)上に配置された第1の誘電体層(3、14)、それに続いて、
b)第1のブロッカー層(5、16)、
c)接着介在層(6、17、24)、
d)赤外線反射層(7、18、25)、
e)第2のブロッカー層(8、19、26)及び
f)第2の誘電体層(9、20、27)を含み、
前記第1の誘電体層(3、14)及び前記第1のブロッカー層(5、16)の間に、プレブロッカー層(4、15)が配置されていることを特徴とする赤外線反射層システム。
【請求項2】
前記第1の誘電体層(3、14)が、ZnO、SnO、In、Bi、TiO、ZrO、Ta、Al、AlN、Si及び/又はTiOxNyからなり、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項1記載の層システム。
【請求項3】
前記第1の誘電体層(3、14)が、TiOxNyであることを特徴とする請求項2記載の層システム。
【請求項4】
前記第1の誘電体層(3、14)が、TiOであることを特徴とする請求項2記載の層システム。
【請求項5】
前記第1及び第2のブロッカー層(5、8、16、19、23、26)が、TiOx、Ti、Ni、Cr、NiCr、Nb、NbOx、CrOx及び/又はNiCrOxからなり、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項1記載の層システム。
【請求項6】
前記接着介在層(6、17、24)が、ZnOx、TaOx、ZnTaOx及び/又はZnAlOxからなり、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項1記載の層システム。
【請求項7】
前記赤外線反射層(7、18、25)が、元素周期系の第1の下位群の金属及び/又はこれらの金属の少なくとも1つからなり、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項1記載の層システム。
【請求項8】
前記赤外線反射層(7、18、25)がAgからなり、又はAgを含むことを特徴とする請求項6記載の層システム。
【請求項9】
前記赤外線反射層(7、18、25)が酸素を含むことを特徴とする請求項7及び8記載の層システム。
【請求項10】
前記第2の誘電体層(9、20、27)が、Si、TiO、AlN、Al、SiO、Ta、ZrO、Bi、In、SnO及び/又はZnOからなり、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項1記載の層システム。
【請求項11】
前記プレブロッカー層(4、15)が化学量論的に構造化されていることを特徴とする請求項1記載の層システム。
【請求項12】
前記プレブロッカー層(4、15)がTiO及び/又はSiからなり、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項11記載の層システム。
【請求項13】
前記第2の誘電体層(9、20、27)上に更なる層(11、21、28)が配置されていることを特徴とする請求項1記載の層システム。
【請求項14】
前記更なる層(11、21、28)が、TiOからなり、又はTiOを含むことを特徴とする請求項13記載の層システム。
【請求項15】
赤外線反射層システムであって、特に、曲げる、且つ/又は焼き戻しされるガラスシート用であって、少なくとも1枚の赤外線反射層を備えており、
a)基材(1、12)上に配置された第1のプレブロッカー(4、15)、それに続いて、
b)第1の誘電体層(3、14)、
c)接着介在層(6、17、24)、
d)赤外線反射層(7、18、25)、
e)ブロッカー層(8、19、26)及び
f)第2の誘電体層(9、20、27)を含むことを特徴とする赤外線反射層システム。
【請求項16】
前記第2の誘電体層(9、20、27)上に、更なる層(11、21、28)が配置されていることを特徴とする請求項15記載の層システム。
【請求項17】
前記更なる層(11、21、28)が、TiOからなる、又はTiOを含むことを特徴とする請求項16記載の層システム。
【請求項18】
前記第1の誘電体層(3、14)が、ZnO、SnO、In、Bi、TiO、ZrO、Ta、Al、AlN、Si及び/又はTiOxNyからなる、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項15記載の層システム。
【請求項19】
前記第1の誘電体層(3、14)が、TiOxNyである、又はTiOxNyを含むことを特徴とする請求項18記載の層システム。
【請求項20】
前記第1の誘電体層(3、14)が、TiOである、又はTiOを含むことを特徴とする請求項18記載の層システム。
【請求項21】
前記ブロッカー層(8、19、26)が、TiOx、Ti、Ni、Cr、NiCr、Nb、NbOx、CrOx及び/又はNiCrOxからなる、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項15記載の層システム。
【請求項22】
前記接着介在層(6、17、24)が、ZrOx、TaOx、ZnTaOx及び/又はZnAlOxからなる、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項15記載の層システム。
【請求項23】
前記赤外線反射層(7、18、25)が、元素周期系の第1の下位群の金属及び/又は合金、或いはこれらの金属の1つを少なくとも含むことを特徴とする請求項15記載の層システム。
【請求項24】
前記赤外線反射層(7、18、25)が、Agからなる、又はAgを含むことを特徴とする請求項23記載の層システム。
【請求項25】
前記赤外線反射層(7、18、25)が酸素を含むことを特徴とする請求項24記載の層システム。
【請求項26】
前記第2の誘電体層(9、20、27)が、Si、TiO、AlN、Al、SiO、Ta、ZrO、Bi、In、SnO及び/又はZnOからなる、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項15記載の層システム。
【請求項27】
前記プレブロッカー層(4、15)が化学量論的に構造化されていることを特徴とする請求項15記載の層システム。
【請求項28】
前記プレブロッカー層(4、15)がTiO及び/又はSiからなる、又はこれらの物質を含むことを特徴とする請求項27記載の層システム。
【請求項29】
曲げる、且つ/又は焼き戻しされるガラスシート用の赤外線反射層を製造する方法であって、
a)基材(1、12)を提供する工程と、
b)前記基材(1、12)上に第1の誘電体層(3、14)を適用する工程と、
c)前記第1の誘電体層(3、14)上にプレブロッカー(4、15)を適用する工程と、
d)前記プレブロッカー(4、15)上に第1のブロッカー層(5、16、23)を適用する工程と、
e)前記ブロッカー層(5、16、23)上に接着介在層(6、17、24)を適用する工程と、
f)前記接着介在層(6、17、24)上に赤外線反射層(7、18、25)を適用する工程と、
g)前記赤外線反射層(7、18、25)上に第2のブロッカー層(5、19、26)を適用する工程と、
h)前記第2のブロッカー層(5、19、26)上に第2の誘電体層(9、20、27)を適用する工程とを含む方法。
【請求項30】
前記第1の誘電体層(3、14)TiO及び/又はTiOxNyが、セラミックターゲットのスパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記第1の誘電体層(3、14)TiO及び/又はTiOxNyが、反応性スパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記第1及び第2のブロッカー層(5、8、16、19、25、26)Ti、TiO、Ni、Cr、NiCr、Nb、CrOx、NbOx及び/又はNiCrOxが、反応性スパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記第1及び第2のブロッカー層(5、8、16、19、25、26)Ti、TiOx、Ni、Cr、NiCr、Nb、CrOx、NbOx及び/又はNiCrOxが、アルゴン中セラミック又は金属ターゲットのスパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項34】
前記接着介在層(6、17、24)ZnAlOxが、金属ターゲットのスパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項35】
前記接着介在層(6、17、24)ZnAlOxが、セラミックターゲットのスパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項36】
前記赤外線反射層が、最低量の酸素を添加しながら、スパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項37】
前記第2の誘電体層(9、21)TiO、Si、AlN、Al、SiO、Ta、ZrO、Bi、In、SnO及び/又はZnOが、反応性スパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項38】
前記第2の誘電体層(9、21)TiO、Si、AlN、Al、SiO、Ta、ZrO、Bi、In、SnO及び/又はZnOが、セラミックターゲットのスパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項39】
前記第2の誘電体層(9、20、27)上に更なる誘電体層(21、22)が、反応性スパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項40】
前記第2の誘電体層(9、20、27)上に更なる誘電体層(21、22)が、セラミックターゲットのスパッタリングにより適用されることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項41】
工程d)〜h)を繰り返すことを特徴とする請求項29記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−528560(P2009−528560A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556682(P2008−556682)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001334
【国際公開番号】WO2007/101530
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(502208722)アプライド マテリアルズ ゲーエムベーハー アンド コンパニー カーゲー (28)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】