説明

赤外線検知方法及び赤外線センサ

【課題】日射や空調などの影響により検知エリア内における背景温度が変動するような環境下においても、長時間静止している人体を安定して検知することが可能な赤外線センサを提供すること。
【解決手段】本発明は、赤外線センサを用いて対象物を検出する赤外線センサである。微分回路402は赤外線検出素子から出力される検出信号を微分する。第1判定回路403は微分回路402による微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する。基準値設定回路405は第1判定回路403による比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える。第2判定回路406は検出信号と基準値設定回路405で設定された基準値の差分を第2閾値と比較する検知対象の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検知方法及び赤外線センサに関し、より詳細には、日射や空調などの影響により検知エリア内における背景温度が変動するような環境下においても、長時間静止している人体を安定して検知することが可能な検知アルゴリズム、及び当該検知アルゴリズムを利用した赤外線検知方法及び赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、照明灯やテレビ、パソコン画面の自動点灯・消灯などの様々な場面で人感センサが使用されている。これらの機器に人感機能を付加する目的は、人が不在なのに照明が点灯した状態が継続されたり、テレビがオンのまま放置されるのを防止することにより省エネを図ることにある。あるいはパソコン前から人が離席したのを検知してディスプレイにロックをかけることで第三者が不正にパソコンを操作したり情報を盗み見るのを防止するといったセキュリティ上の目的もある。
【0003】
このような人感センサとしては、人体から発せられる赤外線を検知するものが知られており、その中でも特に焦電センサが広く用いられている。焦電センサはセンサに入射する赤外線エネルギーの変化量に応じた電気信号を出力するものである。例えば、人体が検知エリア内に侵入した場合、侵入前後で検知エリア内の赤外線エネルギー量は変化するので、それに応じた電気信号が出力され人を検知することが可能である。しかし、検知エリア内で人が継続して静止し続けた場合は、センサに入射する赤外線量はほとんど変化しないため、焦電センサから出力される電気信号はわずかな値となり人体検知が困難になるという欠点がある。
【0004】
そのため焦電センサを人感用途に用いる場合、通常はタイマーと組み合わせて使用する方法が知られている。その一例として人感センサで照明灯の自動点灯・消灯することを考える。焦電センサが一旦人体を検知すると、タイマーで設定した時間内は照明灯の点灯を継続する。タイマー設定時間内に再度人体の動きを検知した場合はタイマーをリセットすることで点灯状態は継続される。もし人が検知エリア外に去った場合は、焦電センサからの出力は観測されなくなるためタイマー設定時間になると消灯する。
【0005】
検知エリア内で人が椅子に座るなどしてほとんど動かない状態が継続し、焦電センサの出力信号が小さくなった場合でも、焦電センサとタイマーを組み合わせることにより、あらかじめ設定された時間までは照明灯は継続して点灯するので、しばらく動かない場合でも勝手に照明灯が消えてしまう確率を低減することができる。しかし、タイマーの設定時間よりも長い時間人体の静止状態が継続すると検知エリア内に人体が存在する場合でも不在と誤判定してしまうという欠点がある。この欠点を回避するためにタイマーの設定時間を長くすると、不在になったにもかかわらず長時間照明が点灯しつづけることになり、省エネ目的という人感センサを設置した本来の目的に反することとなる。
【0006】
焦電センサ以外の赤外線センサとしては、量子型赤外線センサがある。量子型赤外線センサは対象物と自分自身の温度差に応じた赤外線の絶対値を検知することができる。そのため静止した物体の検知をタイマーと組み合わせることなく使用可能であるという特徴を有する。
【0007】
図11(a)乃至(c)は、従来の赤外線センサを用いた対象物の検知方法の動作を説明するための図で、図11(a)は、静止した対象物の検知が可能な赤外線センサによる検知の最も簡単なアルゴリズムを説明するための図、図11(b)は、背景温度と人体温度の関係を説明するための図、図11(c)は、背景温度がドリフトした場合を説明するための図である。
【0008】
図11(a)の縦軸は、赤外線センサが出力する電気信号の値(以下、電圧,電流などの出力値という)を示し、横軸は時間を示している。人体が検知エリアに存在しない場合、量子型赤外線センサは、検知エリア内の壁、床などの背景からの赤外線輻射をうけており、このときの赤外線センサ出力値は、背景温度とセンサ自身の温度差に応じた値をとる。
【0009】
次に、人体が検知エリア内に侵入した場合を考える。人体、特に顔など皮膚の露出した部分の温度は、およそ35℃程度であり、通常の室内温度(例えば、25℃)より高温である。したがって、人体が検知エリアに侵入した場合は、赤外線センサの出力値は上昇する。人体が検知エリアから外れると、赤外線センサの出力値は再び背景温度に応じたレベルに戻る。したがって、人体が検知エリア内に存在するか否かの判定基準となる閾値(固定)を図11(a)に示すように設定し、赤外線センサの出力値と閾値の大小関係を比較することで検知エリア内に人体が存在するかどうか判定することが可能となる。図11(a)においては、区間Aで示す間が人体ありと判定される部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−236751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、実際には壁や床などの背景物体の温度は一定というわけではなく、日照やエアコンなど空調機器の運転状況によって変化する。また、センサの温度自体も周辺環境の影響をうけて変化する。すなわち、タイマーを必要としない量子型赤外線センサであっても正確な検知が出来ない場合が発生する。
【0012】
例えば、図11(b)に示すように、背景温度と人体温度の大小関係によっては、人体検出時の出力値の極性が変化する場合、判定の閾値を図中に示した固定値に設定してしまうと、直射日光で壁が温められるなどして背景温度が人体温度より高温になった場合には検知不能になってしまう。
【0013】
また、図11(c)に示すように、背景からの赤外線輻射が時間とともに変化する場合も正確な検知ができない場合が有り得る。具体的には空調設備により室内が冷房もしくは暖房されて周囲温度が徐々に変化する場合や、日射の影響で床や壁の温度が上昇する場合である。このような状況下で、赤外線センサの出力が図11(c)のように変化した場合、人体判定の閾値の設定が図中の閾値1であれば正しい判定が可能だが、閾値2に示す値であった場合は、人の侵入は正確に検知できるが人がいなくなったことを正しく検知できず、人が存在し続けていると誤判定してしまう。閾値3のような設定の場合は、実際に人がいてもいなくても常に人が存在すると誤判定することになる。
【0014】
以上のように、量子型赤外線センサ出力信号の絶対値とある固定された閾値との大小を単純に比較する従来の量子型赤外線センサでは、人体の有無を正確に判定することは困難な場合があった。
【0015】
その他の方法としては、赤外線センサの出力信号の絶対値だけでなく、出力信号の微分値も同時に活用して人体検知する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、人体が検知エリア内に侵入したかどうかを出力の微分信号をもとに判定し、侵入した瞬間における絶対値信号を基準に閾値を設定するという方法が開示されている。
【0016】
このアルゴリズムは、短時間の静止人体検知には有効であると考えられる。しかし、長時間にわたる人体検知、例えば、パソコンで30分〜1時間程度、あるいはそれ以上の時間作業した後に離席したような場合において、パソコン作業中に空調機器の運転状況や日射の影響で検知エリア内の背景温度が大きく変化してしまうと、最初に設定した基準電圧が時間の経過とともに適切ではなくなってしまい、人がいるのにいなくなったと誤認識したり、人がいなくなったことを検知できない事例が発生する場合がある。
【0017】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、日射や空調などの影響により検知エリア内における背景温度が変動するような環境下においても、長時間静止している人体を安定して検知することが可能な検知アルゴリズム、及び当該検知アルゴリズムを利用した赤外線検知方法及び赤外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、赤外線センサを用いて対象物を検出する赤外線検知方法において、赤外線検出素子から出力される検出信号を微分して微分値を得る微分ステップと、該微分ステップによる微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する第1比較ステップと、該第1比較ステップによる比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定ステップと、前記検出信号と前記基準値設定ステップで設定された基準値の差分を、第2閾値と比較することで検知対象物の有無を判定する第2比較ステップとを有することを特徴とする。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1比較ステップが、微分値に基づく信号と第1閾値とを比較して、前記微分値が正負の微分閾値の範囲内であるか範囲外であるかを判定するステップであり、前記基準値設定ステップが、1周期前の第2比較ステップにおける検知対象物の有無の判定結果と、前記第1比較ステップの判定結果に基づいて判定基準値を書き換えるステップであることを特徴とする。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記微分値が正負の微分閾値の範囲外であり、かつ、1周期前の微分値が正負の微分閾値の範囲内にあり、かつ、1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合、そのときの検出信号を第1基準信号として記憶し、
前記微分値が正負の微分閾値の範囲内であり、かつ、1周期前の微分値が正負の微分閾値の範囲外にある場合、そのときの検出信号を第2基準信号として記憶し、前記基準値設定ステップが、(1)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在すると判定していた場合は、検出信号に前記第1基準信号を加算し、かつ、前記第2基準信号を減算した値を前記判定基準値として書き換え、(2)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合であって、前記微分値が正負の微分閾値の範囲外であるときは、1周期前の判定基準値を保持し、(3)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合であって、前記微分値が正負の微分閾値の範囲内であるときは、1周期前の検出信号を判定基準値として書き換えることを特徴とする。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1,2又は3に記載の発明において、前記赤外線検出素子が、量子型赤外線検出素子であることを特徴とする。
【0022】
また、請求項5に記載の発明は、赤外線センサを用いて対象物を検出する赤外線センサにおいて、赤外線検出素子から出力される検出信号を微分する微分手段と、該微分手段による微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する第1比較手段と、該第1比較手段による比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定手段と、前記検出信号と前記基準値設定手段で設定された基準値の差分を第2閾値と比較する検知対象の有無を判定する第2比較手段とを備えていることを特徴とする。
【0023】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記第1比較手段が、前記微分手段による微分値に基づく信号と、第1閾値とを比較することで、前記微分値に基づく信号が正負の微分閾値の範囲内であるか範囲外であるかを判定する手段であり、前記基準値設定手段が、1周期前の第2比較手段における検知対象物の有無の判定結果と、前記第1比較手段の判定結果に基づいて判定基準値を書き換える手段であることを特徴とする。
【0024】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の発明において、前記微分値が正負の第1閾値の範囲を超えたときの検出信号を第1基準信号として記憶し、前記微分値が正負の第1閾値の範囲内に入ったときの検出信号を第2基準信号として記憶することが可能な記憶手段を更に備えていることを特徴とする。
【0025】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記基準値設定手段が、(1)検出信号に前記第1基準信号を加算し、かつ、前記第2基準信号を減算した値を前記判定基準値として書き換える動作、(2)1周期前の判定基準値を保持する動作、(3)1周期前の検出信号を判定基準値として書き換える動作、が可能な手段であることを特徴とする。
【0026】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の発明において、前記赤外線検出素子が、量子型赤外線検出素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、赤外線検出素子から出力される検出信号を微分する微分手段と、微分手段による微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する第1比較手段と、第1比較手段による比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定手段と、検出信号と基準値設定手段で設定された基準値の差分を第2閾値と比較する検知対象の有無を判定する第2比較手段とを備えているので、日射や空調などの影響により検知エリア内における背景温度が変動するような環境下においても、長時間静止している人体を安定して検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)及び(b)は、本発明に係る赤外線検知方法の実施形態1の動作原理を説明するための図である。
【図2】(a)及び(b)は、図1における点線A及びBで囲んだ部分をそれぞれ拡大したものであり、人が検知エリア内に侵入した瞬間の出力Vout及びその微分値の変化、及び人が検知エリアからいなくなった瞬間の出力Vout及びその微分値の変化を表す図である。
【図3】図1(a)に示す赤外線検出素子の出力に実施形態1の信号処理手法を適用して赤外線検出素子の出力Voutと判定基準値Vrefの差(Vout−Vref)を計算した結果を示す図である。
【図4】本発明に係る赤外線センサの実施形態1を説明するための構成図である。
【図5】図4に示した実施形態1に係る赤外線センサの動作を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図6】図4に示した基準値設定回路の動作を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図7】(a)及び(b)は、図6に示した第1基準値Vref1及び第2基準値Vref2の設定方法について説明するためのフローチャートを示す図である。
【図8】本発明に係る赤外線センサの実施形態2を説明するための構成図である。
【図9】本発明に係る赤外線センサの実施形態3を説明するための構成図である。
【図10】(a)乃至(c)は、検知エリア内の背景温度が変動する環境下において実施形態1に示した本発明の赤外線センサ及び従来の赤外線センサを用いた実施例・比較例を示す図である。
【図11】(a)乃至(c)は、従来の赤外線検知方法の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本実施形態において用いられる、赤外線検出素子は、いずれも光子がPN接合又はPIN接合に入射したときに生じる電荷を検出する量子型の赤外線検出素子である。以下の実施形態においては、赤外線が入射する受光部としてInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を用いた赤外線検出素子を用いたが、本発明は、これに限定されるものではない。赤外線が入射する受光部としてInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)が用いられた赤外線検出素子は、高感度、低ノイズ、高速応答といった特徴を有し、本発明に適用される赤外線検出素子として好ましい。また、本実施形態においては、検出対象として人体を例にとって説明するが、本発明はこれに限られず、環境温度とは異なる温度を有するものであればよい。
【0030】
<赤外線検知方法>
図1(a),(b)は、本発明に係る赤外線検知方法の実施形態1の動作原理を説明するための図で、図1(a)は本発明の赤外線センサを用いてエアコン運転中の室内で椅子に着席した人体を検知したときのセンサ出力波形の一例を示す図で、縦軸は赤外線センサの出力値、横軸は時間を示している。図1(b)の縦軸は赤外線センサ出力値を微分した微分値を示す図で、横軸は時間を示している。
【0031】
図1(a),(b)に示した例では図中にTで示した期間、検知エリア内に人が着席している。図1(a)において波形が全体的に小さく波打っているのはエアコンの風向がスイングしているために環境温度がゆらいでいる様子が検知されているためである。図1乃至図3に基づく本実施形態1の説明は、人体の温度が環境温度よりも高い場合を例に説明をしている。
【0032】
本実施形態1の赤外線センサでは、赤外線検出素子が出力する検出信号に基づく値の値を一定の間隔(例えば、0.01秒〜1秒程度の間隔)で取り込む。
【0033】
検出信号に基づく値としては、赤外線検出素子の出力電圧値又は出力電流を電流電圧変換した値(出力電流値)である。出力電流値の方が赤外線検出素子の抵抗値の温度依存性の影響をうけないので望ましい。
【0034】
微分処理については、一定間隔で取り込んだ検出信号に基づく値をもとに演算で求めてもよいし、センサの検出信号に基づく値を直接微分回路に入力し、微分処理したものを取り込んでも構わない。
【0035】
微分処理によって求まる微分値は、赤外線センサが人体を検知していない状態から検知した状態へ移行したとき(図1(b)中のAp)、又は検知している状態から検知していない状態に移行したとき(図1(b)中のBp)に特に大きく変化する。そのため赤外線センサの出力の微分値を用いれば、人体が検知エリアへの人の出入りを判断することができる。判定に用いられる第1閾値は、図中+Vth_diff及び−Vth_diffで示されている。
【0036】
図2(a),(b)は、図1における点線A及びBで囲んだ部分をそれぞれ拡大した図であり、人が検知エリア内に侵入した瞬間の出力Vout及びその微分値の変化、及び人が検知エリアからいなくなった瞬間の出力Vout及びその微分値の変化を表す図である。
【0037】
図2(a)は、図1(a)の点線Aで囲んだ部分を拡大した図であり、人が検知エリア内に侵入した瞬間の出力Vout及びその微分値の変化を表している。図2(b)は、図1(a)の点線Bで囲んだ部分を拡大した図であり、人が検知エリア内から外に出て行った瞬間の出力Vout及びその微分値の変化をそれぞれ表している。
【0038】
ここで、人体が検知エリアに存在しない期間をP1、検知エリアに侵入して微分閾値Vth_diffより大きな微分出力が観測されている期間をP2,人体が検知エリア内に存在する期間をP3,検知エリアから外に出ようとして微分閾値−Vth_diffより大きな微分出力が観測されている期間をP4とする。本実施形態1における赤外線検知方法及び赤外線センサは、出力値Voutと判定基準値Vrefの差分(Vout−Vref)と、第2閾値である人体判定閾値Vthとの大小関係によって人体の有無を判定するが、判定基準値Vrefは区間P1,P2,P3,P4においてそれぞれ異なる値に設定するものである。以下にその方法について説明する。
【0039】
<区間P1>
区間P1は、人体非検知状態で、かつ微分出力も正の微分閾値及び負の微分閾値の間、すなわち、−Vth_diff以上+Vth_diff以下の場合である。また、本実施形態1においては、所定の更新時間が設定されたサンプリング周期を有しており、各周期時点における信号(例えば、赤外線検出素子からの出力Vout等)を取得することが可能になっている。
【0040】
区間P1における判定基準値Vrefは、所定の更新間隔が設定されたサンプリング周期の中、判定基準値Vrefを設定する時点より1つ前の周期の赤外線検出素子からの出力Vout(i−1)に設定される。一般の生活環境における空調や日射の影響による背景の温度(環境温度)変化は、非常にゆるやかであり、測定に影響を与える程度の背景温度の変化には、例えば、数十秒〜数分、あるいは、それ以上の時間を要する。したがって、基準値Vrefの更新間隔を空調や日射による温度変化の所要時間より十分短く、特に制限されないが、例えば、1秒以下に設定して、判定基準値Vrefを随時更新すれば、空調や日射の影響で赤外線センサの出力が変動しても、それを人の侵入と誤判定することはない。
【0041】
<区間P2>
区間P2は、人体非検知中に微分値が正の微分閾値+Vth_diffより大きな値が観測されている区間である。微分値が微分閾値+Vth_diffより大きくなった時刻をt1、再び微分閾値以下にもどった時刻をt2としたとき、区間P2、すなわち、時刻t1から時刻t2の間における判定基準値Vrefの値は、時刻t1における赤外線検出素子の出力Vout(t1)に固定される。すなわち、区間P2においてVref=Vout(t1)とされる。
【0042】
また、区間P2においては、判定基準値Vrefの他に第1基準値Vref1及び第2基準値Vref2の値をそれぞれ、Vref1=Vout(t1)、Vref2=Vout(t2)という値に設定され、記憶される。これらの値は、次に説明する区間P3における判定基準値Vrefの設定に使用する。
【0043】
<区間P3>
区間P3は、人体が検知エリアに完全に侵入し、微分値が再度正の微分閾値及び負の微分閾値の間にもどっている区間である。区間P3での判定基準値Vrefは、上述した方法で設定された第1基準値Vref1及び第2基準値Vref2、及びそのときの赤外線検出素子からの出力値Vout(i)を用いてVref=Vref1−Vref2+Vout(i)に設定される。人体検知中の赤外線検出素子出力Voutの値を判定基準値Vrefの設定のパラメータに用いることで、最終的な信号処理結果から空調などの影響による出力の揺らぎを除去することができる。
【0044】
<区間P4>
区間P4は、人体検知中に微分値が負の微分閾値−Vth_diffを越えた場合である。この区間における判定基準値Vrefの値は、微分値が負の微分閾値−Vth_diffを越えた瞬間の時刻t3における赤外線検出素子の出力Vout(t3)に固定される。すなわち、Vref=Vout(t3)とされる。
【0045】
<判定>
そして本実施形態1の赤外線検知方法及び赤外線センサは、各区間に応じて判定基準値Vrefを以上のように設定し、各区間及び各時間周期における赤外線検出素子の出力Voutと判定基準値Vrefの差分(Vout−Vref)を計算し、あらかじめ設定された第2閾値である人体判定閾値Vthとの大小関係を比較することで人体の有無を判定する。
【0046】
図1(a)に示す赤外線検出素子の出力に本発明の信号処理手法を適用して赤外線検出素子の出力Voutと判定基準値Vrefの差(Vout−Vref)を計算した結果を図3に示す。
【0047】
図3は、図1(a)に示す赤外線検出素子の出力に実施形態1の信号処理手法を適用して赤外線検出素子の出力Voutと判定基準値Vrefの差(Vout−Vref)を計算した結果を示す図である。図1(a)に示されるように、赤外線検出素子の出力それ自体は、空調機器の影響で揺らいでいるが、本発明の信号処理手法を適用することで、図3に示すように揺らぎのない安定した信号を得ることができ、図中に示した人体判定閾値Vthとの大小を比較することで正確な人体検知が可能となる。
【0048】
以上説明した例では、人体の温度が環境温度よりも高い場合、すなわち、人体を検知した場合に出力値が増加する方向に変化する例を示している。本発明の赤外線検知方法は、第1閾値としての微分閾値Vth_diff、第2閾値としての人体判定閾値Vthをいずれも絶対値とし、出力の微分値の絶対値や、出力Voutと判定基準値Vrefの差の絶対値(|Vout−Vref|)と比較することによって、人体の温度が環境温度よりも高い場合、すなわち、人体を検知した場合に出力値が増加する方向に変化する場合であっても、人体の温度が環境温度より低い場合、すなわち、人体を検知した場合に出力値が減少する方向に変化する場合であっても、同様の検出が可能であり、環境温度によらず人体を検知することが可能である。
【0049】
<赤外線センサ>
図4は、本発明に係る赤外線センサの実施形態1を説明するための構成図である。図中符号401は赤外線検出素子、402は微分回路(微分手段)、403は第1判定回路(第1比較手段)、404は記憶回路(記憶手段)、405は基準値設定回路(基準値設定手段)、406は第2判定回路(第2比較手段)、407は出力回路を示している。
【0050】
本実施形態1は、赤外線センサを用いて対象物を検出する赤外線センサである。微分回路402は赤外線検出素子から出力される検出信号を微分する。第1判定回路403は微分回路402による微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する。基準値設定回路405は第1判定回路403による比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える。第2判定回路406は検出信号と基準値設定回路405で設定された基準値の差分を第2閾値と比較する検知対象の有無を判定する。この場合、赤外線検出素子は、量子型の赤外線検出素子であることが望ましい。
【0051】
第1判定回路403は、微分回路402による微分値に基づく信号と第1閾値とを比較することで、微分値に基づく信号が正負の微分閾値の範囲内であるか範囲外であるかを判定する。基準値設定回路405は、1周期前の第2判定回路406における検知対象物の有無の判定結果と、第1判定回路403の判定結果に基づいて判定基準値を書き換える回路である。
【0052】
また、微分値が正の第1閾値を超えたときの検出信号を第1基準信号として記憶し、微分値が正の第1閾値よりも小さくなったときの検出信号を第2基準信号として記憶することが可能な記憶回路404を更に備えている。
【0053】
また、基準値設定回路405は、(1)検出信号に第1基準信号を加算し、かつ、第2基準信号を減算した値を判定基準値として書き換える動作、(2)1周期前の判定基準値を保持する動作、(3)1周期前の検出信号を判定基準値として書き換える動作が可能な回路である。
【0054】
以下、本発明に係る赤外線センサの各構成要素について説明する。本発明に係る赤外線センサの実施形態1において、量子型の赤外線検出素子401は検出信号を出力する。
【0055】
<微分手段>
実施形態1の赤外線センサは、量子型の赤外線検出素子から出力される検出信号を微分する微分手段として、赤外線検出素子の出力値を入力して微分値を得る微分回路402を備えている。
【0056】
<第1比較手段>
本実施形態1の赤外線センサは、微分回路402による微分値に基づく信号と、あらかじめ定められた第1閾値とを比較する第1比較手段として、微分回路402によって得られた微分値を微分信号に基づく信号とし、微分閾値Vth_diffを前記第1閾値として両者を比較し、微分値の絶対値が微分閾値Vth_diffより大きい場合、この微分値に対応する出力値の出力タイミングに基づいた所定のタイミングの赤外線センサの検出信号を第1基準値Vref1及び第2基準値Vref2に設定する第1判定回路403とを備えている。
【0057】
また、実施形態1の赤外線センサは記憶回路404を備えており、第1判定回路で設定された第1基準値Vref1、第2基準値Vref2が記憶される。
【0058】
<基準値設定手段>
本実施形態1の赤外線センサは、第1判定回路403による比較の結果に基づいて、検知対象の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定手段として、第1判定回路403及び第2判定回路406の判定結果と、赤外線検出素子401の出力及び記憶回路404に記憶されている第1基準値Vref1及び第2基準値Vref2に基づいて、基準値Vrefを設定する基準値設定回路405を備えている。
【0059】
<第2比較手段>
本実施形態1の赤外線センサは、検出信号と基準値設定回路405で設定された基準値の差分をあらかじめ定められた第2閾値と比較する検知対象の有無を判定する第2比較手段として、赤外線検出素子401の出力(Vout)と、基準値設定回路405において設定された判定基準値(Vref)との差分信号の絶対値(|Vout−Vref|)を計算し、人体判定用の第2閾値と比較し、その結果に基づいて検知対象の有無を判定する第2判定回路406とを備えている。
【0060】
<出力回路>
また、本実施形態1の赤外線センサは、第2判定回路406によって出力される判定結果を示す信号を入力し、判定結果を外部に知らせるための出力する出力回路407を備えている。出力回路407によって出力される信号は、ブザー等の音声信号であってもよいし、テキストや画像データであっても良い。更に照明器具やパソコン画面を消灯させるための制御信号であっても良い。
【0061】
<各要素の具体的な動作説明>
本発明に係る赤外線検知方法は、赤外線センサを用いて対象物を検出する赤外線検知方法である。まず、赤外線検出素子から出力される検出信号を微分して微分値を得る微分ステップと、この微分ステップによる微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する第1比較ステップと、この第1比較ステップによる比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定ステップと、検出信号と基準値設定ステップで設定された基準値の差分を、第2閾値と比較することで検知対象物の有無を判定する第2比較ステップとを有している。この場合、赤外線検出素子は、量子型の赤外線検出素子であることが望ましい。
【0062】
また、第1比較ステップは、微分値に基づく信号と第1閾値とを比較して、微分値が正負の微分閾値の範囲内であるか範囲外であるかを判定するステップであり、基準値設定ステップは、1周期前の第2比較ステップにおける検知対象物の有無の判定結果と、第1比較ステップの判定結果に基づいて判定基準値を書き換えるステップである。
【0063】
また、微分値が正負の微分閾値の範囲外であり、かつ、1周期前の微分値が正負の微分閾値の範囲内にある場合、または、1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合、そのときの検出信号を第1基準信号として記憶し、微分値が正負の微分閾値の範囲内であり、かつ、1周期前の微分値が正負の微分閾値の範囲外にある場合、そのときの検出信号を第2基準信号として記憶し、基準値設定ステップは、(1)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在すると判定していた場合は、検出信号に第1基準信号を加算し、かつ第2基準信号を減算した値を判定基準値として書き換え、(2)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合であって、微分値が正負の微分閾値の範囲外であるときは、1周期前の判定基準値を保持し、(3)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合であって、微分値が正負の微分閾値の範囲内であるときは、1周期前の検出信号を判定基準値として書き換える。
【0064】
図5は、図4に示した実施形態1に係る赤外線センサの動作を説明するためのフローチャートを示す図である。図5に示した赤外線センサは、赤外線検出素子401が出力した検出信号を入力している(取り込んでいる)(ステップS501)。赤外線検出素子の出力電圧をそのまま取り込んでも良いし、出力電流を電流電圧変換回路を経由して取り込んでも構わない。また、オペアンプなどの増幅回路で増幅した後に取り込んでもよい。なお、赤外線検出素子の出力値の入力は連続的に行っても良いし0.1秒程度の周期で行っても良い。
【0065】
赤外線検出素子から出力される検出信号を微分する微分ステップとして、ステップS501で取り込まれた検出信号は、微分回路402において微分処理される(ステップS502)。
【0066】
上述した微分ステップによる微分値に基づく信号と、あらかじめ定められた第1閾値とを比較する第1比較ステップとして、微分処理によって得られた微分値に基づく信号は、第1判定回路403によって第1閾値である微分閾値Vth_diffと比較され、正負の微分閾値の範囲(−Vth_diff〜+Vth_diff)内であるか、範囲外であるかの判定が行われる(ステップS503)。
【0067】
上述した第1比較ステップによる比較の結果に基づいて検知対象の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定ステップとして、第1判定回路403での判定結果と1周期前の第2判定回路の結果に基づいて、基準値設定回路406が判定基準値Vrefを設定する(ステップS504)。基準値設定回路406で設定された判定基準値Vrefは第2判定回路406に送られる。
【0068】
上述した検出信号と上述した基準値設定ステップで設定された基準値の差分を、あらかじめ定められた第2閾値と比較することで検知対象の有無を判定する第2比較ステップとして、第2判定回路406においては、赤外線検出素子401の出力Voutと基準値設定回路405で設定された判定基準値Vrefとの差分の絶対値(|Vout−Vref|)が、あらかじめ設定されている人体判定用の第2閾値Vthより大きい場合は、検知エリア内に人体ありと判定(ステップS506)し、人体を検知したことを示す信号を出力回路407に出力し、人体の検知を外部に通知する。もし、|Vout−Vref|が人体判定用の第2閾値Vthより小さい場合は、検知エリア内に人体なしと判定し(ステップS507)、次の時間周期における赤外線検出素子の出力値を取り込む。
【0069】
<基準値設定回路の動作説明>
図6は、図4に示した基準値設定回路の動作を説明するためのフローチャートを示す図である。基準値設定回路406において、1周期前の人体判定結果が「人体あり」だった場合、判定基準値Vrefの値は、記憶回路に格納されている第1基準値Vref1、第2基準値Vref2及びそのときの赤外線検出素子からの出力値Vout(i)を用いてVref=Vref1−Vref2+Vout(i)で計算される値に書き換えられる(ステップS601)。
【0070】
1周期前の人体判定結果S508が「人体なし」だった場合、ステップS602において、微分回路402で得られた微分値が正負の微分閾値の範囲(−Vth_diff〜+Vth_diff)の範囲外にあると判定された場合(ステップS602:True)、判定基準値Vrefの値は前の周期における値のまま保持される(ステップS603)。
【0071】
ステップS602において、微分回路402で得られた微分値が正負の微分閾値の範囲(−Vth_diff〜+Vth_diff)の範囲内と判断された場合(ステップS602:False)、判定基準値Vrefは更新され、その値は1つ前の周期で入力された赤外線検出素子の出力に書き換えられる(ステップS604)。
【0072】
<第1基準値及び第2基準値の設定方法>
図7(a),(b)は、図6に示した第1基準値Vref1及び第2基準値Vref2の設定方法について説明するためのフローチャートを示す図である。まず、第1基準値Vref1の設定について図7(a)を用いて説明する。
【0073】
ある時間周期iにおける微分回路402で計算された微分値が正負の微分閾値の範囲(−Vth_diff〜+Vth_diff)の範囲外にあり、かつ1つ前の時間周期i−1における微分値が正負の微分閾値の範囲(−Vth_diff〜+Vth_diff)の範囲内にある場合(ステップS701:True)で、なおかつ周期i−1における人体判定結果が人体なし判定(ステップS508:False)である場合は、第1基準値Vref1の値は1つ前の周期i−1における赤外線検出素子401の出力Vo(i−1)に書き換えられる。それ以外の場合、すなわち、ステップS701の判定結果がFalseであった場合、もしくはステップS508の判定結果がTrueであった場合は、第1閾値Vref1は更新されない。
【0074】
次に、第2基準値Vref2の設定について図7(b)を用いて説明する。
ある時間周期iにおいて微分回路402で計算された微分値が正負の微分閾値の範囲(−Vth_diff〜+Vth_diff)の範囲内にあり、それより1つ前の時間周期i−1における微分値が正負の微分閾値の範囲(−Vth_diff〜+Vth_diff)の範囲外にある場合(ステップS704:True)、第2閾値Vref2は1つ前の時間周期における赤外線検出素子401の出力Vo(i−1)に書き換えられ、そうでない場合(ステップS704:False)は、第2基準値Vref2の値はそのまま保持される(ステップS706)。
【0075】
<平均化回路を備えた赤外線センサ>
図8は、本発明に係る赤外線センサの実施形態2を説明するための構成図で、上述した実施形態1の赤外線センサに平均化回路を更に備えた赤外線センサの構成図である。図中符号801は平均化回路を示している。なお、図4と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
【0076】
図8に示した赤外線センサは、赤外線検出素子401の直後に平均化回路801を設けるものである。このような構成によれば、赤外線検出素子の出力を平均化することで電気回路中のノイズの影響を低減して、人体検知の信頼性を高めることができる。
【0077】
<温度検出素子と温度補正回路を備えた赤外線センサ>
図9は、本発明に係る赤外線センサの実施形態3を説明するための構成図で、上述した実施形態1の赤外線センサに温度検出素子と温度補正回路を更に備えた赤外線センサの構成図である。図中符号901は温度検出素子、902は温度補正回路を示している。なお、図4と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
【0078】
図9に示した赤外線センサは、温度検出素子901と赤外線検出素子401の直後に温度補正回路902を設けるものである。温度検出素子901は、赤外線検出素子の温度を検出するために設置されるものであり、可能な限り赤外線検出素子の近くに設置するのが望ましい。
【0079】
温度検出素子901と温度補正回路902を加えることにより、赤外線検出素子の温度が変動した時の赤外線検出素子の出力の変動を抑制することが可能となり、より正確な判定を行うことができる。
【0080】
図10(a)乃至(c)は、検知エリア内の背景温度が変動する環境下において実施形態1に示した本発明に係る赤外線センサ及び従来の赤外線センサを用いた実施例・比較例を示す図である。
【0081】
図10(a)に示すような天井にエアコンが設置された部屋において、エアコンのルーバーを稼動させた状態で、エアコンの真下に配置した机の上に実施形態1に示した赤外線センサを配置し、センサから距離60cmの位置で着席、離席を行って人体あり、なしの判定を実施した。
【0082】
このときの赤外線検出素子の出力波形を図10(b)に示す。縦軸が出力を示し、横軸が時間を示している。図10(b)中に示す時刻t1において着席し、約10分経過後の時刻t2において離席している。図10(b)を見れば着席中においてもエアコンの影響で壁や床といった周囲温度や赤外線検出素子の温度が常に変動しているため、赤外線検出素子の絶対値は大きく変化している。
【0083】
<比較例>
従来技術である特許文献1に開示されている赤外線検知方法では、赤外線検出素子の出力の微分値の変化をもとに、着席の瞬間(図10(b)中の時刻t1における赤外線検出素子の出力Vout(t1)を基準値Vrefと設定するため、時刻t1からt3の間は正確に人体の存在を検知することができるが、時刻t3以降の時間においては赤外線検出素子の出力Voutが基準値より小さくなってしまうため、離席したと誤検知してしまう。
【0084】
<実施例>
一方、実施形態1に示した赤外線検知方法を適用した例を図10(c)に示す。図10(c)は、赤外線検出素子の出力Voutと先に説明した実施形態1の信号処理方法に基づいて設定した判定基準値Vrefの差分Vout−Vrefの値を示したものである。図中に示した人体検知閾値との大小関係を比較することで、検知エリア内における背景温度が変動する環境下において長時間静止している人体を安定して検知することが可能となることが理解される。
【0085】
このように、本発明によれば、日射や空調などの影響により検知エリア内における背景温度が変動するような環境下においても、長時間静止している人体を安定して検知することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、赤外線検知方法及び赤外線センサに関し、日射や空調などの影響により検知エリア内における背景温度が変動するような環境下においても、長時間静止している人体を安定して検知することが可能な検知アルゴリズム、及び当該検知アルゴリズムを利用した赤外線検知方法及び赤外線センサを提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
401 赤外線検出素子
402 微分回路
403 第1判定回路
404 記憶回路
405 基準値設定回路
406 第2判定回路
407 出力回路
901 温度検出素子
902 温度補正回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線センサを用いて対象物を検出する赤外線検知方法において、
赤外線検出素子から出力される検出信号を微分して微分値を得る微分ステップと、
該微分ステップによる微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する第1比較ステップと、
該第1比較ステップによる比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定ステップと、
前記検出信号と前記基準値設定ステップで設定された基準値の差分を、第2閾値と比較することで検知対象物の有無を判定する第2比較ステップと
を有することを特徴とする赤外線検知方法。
【請求項2】
前記第1比較ステップが、微分値に基づく信号と第1閾値とを比較して、前記微分値が正負の微分閾値の範囲内であるか範囲外であるかを判定するステップであり、
前記基準値設定ステップが、1周期前の第2比較ステップにおける検知対象物の有無の判定結果と、前記第1比較ステップの判定結果に基づいて判定基準値を書き換えるステップであることを特徴とする請求項1に記載の赤外線検知方法。
【請求項3】
前記微分値が正負の微分閾値の範囲外であり、かつ、1周期前の微分値が正負の微分閾値の範囲内にあり、かつ、1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合、そのときの検出信号を第1基準信号として記憶し、
前記微分値が正負の微分閾値の範囲内であり、かつ、1周期前の微分値が正負の微分閾値の範囲外にある場合、そのときの検出信号を第2基準信号として記憶し、
前記基準値設定ステップが、
(1)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在すると判定していた場合は、検出信号に前記第1基準信号を加算し、かつ、前記第2基準信号を減算した値を前記判定基準値として書き換え、
(2)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合であって、前記微分値が正負の微分閾値の範囲外であるときは、1周期前の判定基準値を保持し、
(3)1周期前の第2比較ステップにおいて検知対象物が存在しないと判定していた場合であって、前記微分値が正負の微分閾値の範囲内であるときは、1周期前の検出信号を判定基準値として書き換える
ことを特徴とする請求項2に記載の赤外線検知方法。
【請求項4】
前記赤外線検出素子が、量子型赤外線検出素子であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の赤外線検知方法。
【請求項5】
赤外線センサを用いて対象物を検出する赤外線センサにおいて、
赤外線検出素子から出力される検出信号を微分する微分手段と、
該微分手段による微分値に基づく信号と第1閾値とを比較する第1比較手段と、
該第1比較手段による比較の結果に基づいて、検知対象物の有無を判定するための判定基準値を書き換える基準値設定手段と、
前記検出信号と前記基準値設定手段で設定された基準値の差分を第2閾値と比較する検知対象の有無を判定する第2比較手段と
を備えていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項6】
前記第1比較手段が、前記微分手段による微分値に基づく信号と、第1閾値とを比較することで、前記微分値に基づく信号が正負の微分閾値の範囲内であるか範囲外であるかを判定する手段であり、
前記基準値設定手段が、1周期前の第2比較手段における検知対象物の有無の判定結果と、前記第1比較手段の判定結果に基づいて判定基準値を書き換える手段であることを特徴とする請求項5に記載の赤外線センサ。
【請求項7】
前記微分値が正負の第1閾値の範囲を超えたときの検出信号を第1基準信号として記憶し、前記微分値が正負の第1閾値の範囲内に入ったときの検出信号を第2基準信号として記憶することが可能な記憶手段を更に備えていることを特徴とする請求項5又は6に記載の赤外線センサ。
【請求項8】
前記基準値設定手段が、
(1)検出信号に前記第1基準信号を加算し、かつ、前記第2基準信号を減算した値を前記判定基準値として書き換える動作、
(2)1周期前の判定基準値を保持する動作、
(3)1周期前の検出信号を判定基準値として書き換える動作、
が可能な手段であることを特徴とする請求項7に記載の赤外線センサ。
【請求項9】
前記赤外線検出素子が、量子型赤外線検出素子であることを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載の赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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