説明

赤外線遮蔽フィルム及びそれを用いた赤外線遮蔽体

【課題】製造コストが安く、フィルムの大面積化が可能であり、赤外線の反射性に優れ、可視光透過率が高く、かつ光学特性の均一性に優れる赤外線遮蔽フィルム及びそれを用いた赤外線遮蔽体を提供する。
【解決手段】基材上に、第一の金属酸化物粒子および第一のバインダーを含有する低屈折率層と、該低屈折率層に隣接した位置に、第二の金属酸化物粒子および第二のバインダーを含有し、該低屈折率層より屈折率が0.1以上高い高屈折率層を有するユニットを少なくとも1ユニット有し、該低屈折率層及び該高屈折率層の少なくとも1層が、pH粘度依存性を有するコポリマーを含有することを特徴とする赤外線遮蔽フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光の赤外線などの透過率を減少させる部材に用いられる赤外線遮蔽フィルム及びそれを用いた赤外遮蔽媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策への関心の高まりから、冷房設備にかかる負荷を低減する目的で、建物や車両の窓ガラスに装着して、太陽光の熱線等の透過を遮断する赤外線遮蔽フィィルムの要望が高まってきている。
【0003】
この赤外線遮蔽フィルムの形成方法としては、主には、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた構成からなる積層膜ユニットを、蒸着法、スパッタ法などのドライ製膜法を用いて形成する方法が提案されている。しかし、ドライ製膜法は、形成に用いる真空装置等が大型になり、製造コストが高く、大面積化が困難であり、しかも、基材が耐熱性素材に限定される等の課題を抱えている。
【0004】
上記のような課題を有しているドライ製膜法に代えて、湿式塗布法を用いて赤外線遮蔽フィルムを形成する方法が提案されている。
【0005】
例えば、金属酸化物や金属化合物微粒子を含む熱硬化型シリコーン樹脂や紫外線硬化型アクリル樹脂を有機溶媒中に分散させた高屈折率層塗布液を用い、バーコーターによる湿式塗布方式により基材上に塗布して透明積層体を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、ルチル型の二酸化チタン、複素環系窒素化合物(例えば、ピリジン)、紫外線硬化型バインダー及び有機溶剤から構成される高屈折率塗膜形成用組成物を、バーコーターを用いた湿式塗布方式により基材上に塗布して透明積層体を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
他方、二酸化チタン粒子を含有する層を形成する方法として、例えば、球状ルチル型二酸化チタン粒子のメタノール分散スラリーと、メタノールシリカゾルを用いて交互に積層する方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている方法や特許文献3で開示されている方法を適用し、湿式塗布法を用いて金属酸化物の粒子を含有する層を形成して赤外線遮蔽フィルムを作製する方法では、得られる赤外線遮蔽フィルムのヘイズが高く、所望の赤外線線反射性や可視光透過率を得ることができず、さらに光学特性のムラが見られ、視認性の均一性が不十分であるなどの問題があった。
【0009】
上記課題に対し、本発明者らは、第一の金属酸化物の粒子および水系バインダーを含有する低屈折率層と、該低屈折率層に隣接し第二の金属酸化物の粒子および水系バインダーを含有する高屈折率層とを有するユニットを同時重層塗布して作製した赤外線遮蔽フィルムで、優れた赤外線遮蔽効果を備えた赤外線遮蔽フィルムの提案を行っているが、現在のような、よりより高い省エネ特性を得るため、更に厳しい太陽光の赤外線などの遮蔽性能と光学性能の均一性が求められる状況においては、より一層の技術改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−110401号公報
【特許文献2】特開2004−123766号公報
【特許文献3】特開2003−266577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、製造コストが安く、フィルムの大面積化が可能であり、赤外線の反射性に優れ、可視光透過率が高く、かつ光学特性の均一性に優れる赤外線遮蔽フィルム、及びそれを用いた赤外線遮蔽体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0013】
1.基材上に、第一の金属酸化物粒子および第一のバインダーを含有する低屈折率層と、該低屈折率層に隣接した位置に、第二の金属酸化物粒子および第二のバインダーを含有し、該低屈折率層より屈折率が0.1以上高い高屈折率層を有するユニットを少なくとも1ユニット有し、該低屈折率層及び該高屈折率層の少なくとも1層が、pH粘度依存性を有するコポリマーを含有することを特徴とする赤外線遮蔽フィルム。
【0014】
2.前記pH依存性を有するコポリマーが、重合成分として、少なくともビニルアミドを有する単量体とビニルカルボン酸を有する単量体とから構成されるコポリマーであることを特徴とする前記1に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0015】
3.前記ビニルアミドが、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の単量体であることを特徴とする前記2に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0016】
4.前記ビニルアミドが、ビニルピロリドンであることを特徴とする前記3に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0017】
5.前記ビニルカルボン酸が、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の単量体であることを特徴とする前記2から4のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0018】
6.前記ビニルカルボン酸が、(メタ)アクリル酸であることを特徴とする前記5に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0019】
7.前記pH粘度依存性を有するコポリマーが、少なくとも2つの重合可能なフリーラジカル基を分子中に有する架橋剤を用いて重合されたコポリマーであることを特徴とする前記1から6のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0020】
8.前記架橋剤が、ペンタエリスルトールトリアリルエーテル、ペンタエリスルトールトリアクリレート、ペンタエリスルトールテトラアクリレート及びメチレンビスアクリルアミドから選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする前記7に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0021】
9.前記pH粘度依存性を有するコポリマーの含有量が、該コポリマーを含有する層の全バインダー量に対し、0.2質量%以上、4.0質量%以下であることを特徴とする前記1から8のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【0022】
10.前記1から9のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルムを具備することを特徴とする赤外線遮蔽体。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、製造コストが安く、フィルムの大面積化が可能であり、赤外線の反射性に優れ、可視光透過率が高く、かつ光学特性の均一性に優れる赤外線遮蔽フィルム、及びそれを用いた赤外線遮蔽体製を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材上に、第一の金属酸化物粒子および第一のバインダーを含有する低屈折率層と、該低屈折率層に隣接した位置に、第二の金属酸化物粒子および第二のバインダーを含有し、該低屈折率層より屈折率が0.1以上高い高屈折率層を有するユニットを少なくとも1ユニット有し、該低屈折率層及び該高屈折率層の少なくとも1層が、pH粘度依存性を有するコポリマーを含有することを特徴とする赤外線遮蔽フィルムにより、赤外線の反射性に優れ、可視光透過率が高く、かつ光学特性の均一性に優れる赤外線遮蔽フィルムを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0026】
本発明で規定する上記構成により、本発明の目的とする効果を達成することができた理由としては、以下のように推測している。
【0027】
すなわち、本発明では、基材上に、第一の金属酸化物粒子および第一のバインダーを含有する低屈折率層と、該低屈折率層に隣接し第二の金属酸化物粒子および第二のバインダーを含有し、該低屈折率層より屈折率が0.1以上高い高屈折率層とを形成するための塗布液に、本発明に係るpH粘度依存性コポリマーを含有させることによって、比較的湿潤膜厚が薄い構成で、同時重層塗布を安定に行うために必要となる塗布液の粘度を少量の添加で実現でき、その結果、塗布〜乾燥工程における各層の乱れによって生ずる多層膜の膜面や膜厚の異常を低減でき、加えて、低屈折率層と高屈折率層に所望の屈折率もしくは両層の屈折率差を実現するために求められる、第一の金属酸化物粒子もしくは第二の金属酸化物のそれぞれのバインダーに対する高い含有率を達成しやすくなること、また、塗布〜乾燥時にバインダーや金属酸化物粒子が層間混合することに起因すると思われる、可視光透過率や赤外光遮蔽(反射)率の低下が少なくなることが判明し、本発明に到ったものである。
【0028】
また、前述した低屈折率層の第一のバインダー中に含まれる第一の金属酸化物粒子と、高屈折率層の第二のバインダー中に含まれる第二の金属酸化物粒子が、塗布〜乾燥して固化するまでの間に、隣接する他層へ移動してしまう層間混合に対する改善効果に関しては、薄膜重層内で起こる現象であるために、その理由についての詳しい解析は行えていないが、第一の金属酸化物が二酸化ケイ素(シリカ)で第二の金属酸化物が酸化チタンである場合、これまで第二の金属酸化物である高屈折率層中の酸化チタン微粒子が、隣接する低屈折率層に移動し、その結果、両層の屈折率差が予定していた値より小さくなってしまい、前述した赤外光遮蔽(反射)率の低下が生じてしまうことを防げなかったのに対し、本発明のpH粘度依存性コポリマーを含有させることにより、高屈折率層の塗布液粘度を安定して所望の粘度に維持することが可能になり、優れた赤外光遮蔽(反射)率を得ることが可能になったものと思われる。
【0029】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0030】
《赤外線遮蔽フィルム》
はじめに、本発明の赤外線遮蔽フィルムの各構成要素の詳細について説明する。
【0031】
本発明の赤外線遮蔽フィルムでは、第一の金属酸化物の粒子及び第一のバインダーを含有する低屈折率層と、低屈折率層に隣接した位置に、第二の金属酸化物の粒子および第二のバインダーを含有し、低屈折率層より屈折率が0.1以上高い高屈折率層を有し、低屈折率層及び該高屈折率層の少なくとも1層が、pH粘度依存性コポリマーを含有することを特徴とする。
【0032】
〔pH粘度依存性コポリマー〕
本発明に係るpH粘度依存性であるコポリマーとは、pHの変化に対し粘度変動を生じるコポリマーであれば特に制限はないが、重合成分としてビニルアミドを有する単量体とビニルカルボン酸を有する単量体とから構成されるコポリマーであることが特に好ましい。
【0033】
本発明でいうpH粘度依存性であるコポリマーとは、水溶液とした時のpHが、例えば2〜4といった酸性領域のpHにおいてはその粘度が低く、pHが、例えば4〜10、好ましくは4〜7に高くなると粘度が上昇するといった性質を有する水溶性ポリマーである。具体的には、1%のポリマー水溶液とした時に、pHが3〜10の領域で、pHが1.0高くなった時の粘度が10倍以上増加する領域を有する特性を備えたコポリマーをいう。すなわち、低pH領域内ではpH粘度依存性ポリマーを含む塗布液はより低粘度であり、例えばpHが4を越える領域内では塗布液の粘度がより高くなる特性を備えている。
【0034】
pH粘度依存性を有し、本発明に好適に用いることができるコポリマーとしては、重合成分としてビニルアミドを有する単量体とビニルカルボン酸を有する単量体とからなるコポリマーであることが特に好ましい。
【0035】
ビニルアミドとしては、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド及びそれらの混合物から選ばれる化合物であることが好ましく、その中でも、特に、ビニルピロリドンであることが好ましい。
【0036】
また、ビニルカルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びそれらの混合物から選ばれる化合物であることが好ましく、その中でも、特に、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0037】
本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーの架橋剤としては、少なくとも2つの重合可能なフリーラジカル基を分子中に有する架橋剤であることが好ましく、例えば、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスルトールトリアクリレート、ペンタエリスルトールテトラアクリレートまたはメチレンビスアクリルアミドが好ましい。
【0038】
本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーは、ビニルアミドを有する単量体成分を全組成の25〜80質量%、ビニルカルボン酸を有する単量体成分を全組成の20〜75質量%、架橋剤を全組成の0.2〜3.0質量%の量で含むことが好ましい。また前記各成分の組成が上記で規定する範囲内であれば、1種または複数の他の単量体として、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリレートを含んでもよい。この時のアルキル基としては、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキル基、又はポリエチレンオキシドが挙げられる。
【0039】
本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーの製造方法としては、単量体と架橋剤の総質量に対して、75〜90質量%の非極性で除去可能な有機溶媒中で、単量体の総質量に対し0.1〜5.0質量%のラジカル重合開始剤の存在下に重合させることができる。
【0040】
本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーの重量平均分子量は、得られる各屈折率層形成用塗布液の粘度が、塗布に必要な程度まで充分に高くなるようにするために、150,000以上、特に200,000以上であることが好ましい。また、2,000,000以下であることが好ましい。
【0041】
本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーを、本発明の赤外線遮蔽フィルムの低屈折率層及び高屈折率層の少なくとも一層に含有させるには、0.2〜2.0質量%程度の該コポリマー水溶液として、水、バインダー、金属酸化物粒子を含有する屈折率層形成用塗布液に、所望の量を添加すればよい。該屈折率層形成用塗布液の調製は、30〜80℃の範囲の適当な温度において、公知の撹拌・混合手段を用いて行うことができる。
【0042】
屈折率層形成用塗布液中に含有させる本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーの添加量は、該塗布液の粘度が充分に上昇し、良好なゲル状組成物となるようにするため、0.01質量%以上、好ましくは0.2質量%以上である。また、コストが上昇するだけで、混合内容物の上昇が認められなくなる恐れをなくすためには、上限としては5.0質量%以下、好ましくは4.0質量%以下である。
【0043】
次いで、本発明の赤外線遮蔽フィルムの構成要素、及び本発明を実施するための形態等について、更に詳細な説明をする。
【0044】
〔第一の金属酸化物粒子〕
本発明に係る低屈折率層に用いられる第一の金属酸化物粒子としては、特に制限はないが、二酸化ケイ素を用いることが好ましく、更には酸性のコロイダルシリカゾルを用いることが特に好ましい。
【0045】
本発明で用いることのできる二酸化ケイ素(シリカ)としては、通常の湿式法で合成されたシリカ、コロイダルシリカあるいは気相法で合成されたシリカ等が好ましく用いられるが、本発明において特に好ましく用いられる微粒子シリカとしては、コロイダルシリカまたは気相法で合成された微粒子シリカを挙げることができ、中でも気相法により合成された微粒子シリカは、カチオン性ポリマーに添加したときに、粗大凝集体が形成されにくいので好ましい。
【0046】
また、金属酸化物粒子として、二酸化ケイ素(シリカ)の他に、アルミナまたはアルミナ水和物を用いることができ、アルミナまたはアルミナ水和物としては、結晶性であっても非晶質であってもよく、また不定形粒子、球状粒子、針状粒子など任意の形状のものを使用することができる。
【0047】
金属酸化物微粒子は、本発明に係るカルボキシビニルポリマーと混合する前の金属酸化物微粒子分散液が一次粒子まで分散された状態であるのが好ましい。
【0048】
上記気相法微粒子シリカの場合、一次粒子の状態で分散された金属酸化物微粒子の一次粒子の平均粒径(塗設前の分散液状態での粒径)は、100nm以下のものが好ましく、より好ましくは4〜50nm、最も好ましくは4〜20nmである。最も好ましく用いられる、一次粒子の平均粒径が4〜20nmである気相法により合成されたシリカとしては、例えば、日本アエロジル社製のアエロジルが市販されている。この気相法微粒子シリカは、水中に、例えば、三田村理研工業株式会社製のジェットストリームインダクターミキサーなどにより、容易に吸引分散することで、比較的容易に一次粒子まで分散することができる。該気相法シリカとして現在市販されているものとしては日本アエロジル社の各種のアエロジルが該当する。
【0049】
また、本発明で好ましく用いられるコロイダルシリカとは、珪酸ナトリウムの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通過させて得られるシリカゾルを加熱熟成して得られるものであり、このコロイダルシリカの具体的な内容に関しては、例えば、特開昭57−14091号公報、同60−219083号公報、同60−219084号公報、同61−20792号公報、同61−188183号公報、同63−17807号公報、特開平4−93284号公報、同5−278324号公報、同6−92011号公報、同6−183134号公報、同6−297830号公報、同7−81214号公報、同7−101142号公報、同7−179029号公報、同7−137431号公報、及び国際特許公開WO94/26530号明細書などに記載されており、参考にすることができる。
【0050】
コロイダルシリカの好ましい平均粒子径は、おおよそ5〜100nmであるが、特に7〜30nmの平均粒子径を有するコロイダルシリカが好ましい。
【0051】
本発明において、二酸化ケイ素(シリカ)は、その平均粒径が100nm以下であることが好ましい。一次粒子の状態で分散された二酸化ケイ素の一次粒子の平均粒径(塗設前の分散液状態での粒径)は、20nm以下のものが好ましく、より好ましくは10nm以下である。また二次粒子の平均粒径としては、30nm以下であることが、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
【0052】
本発明に係る金属酸化物の平均粒径は、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定したときの直径で表したものである。
【0053】
〔第二の金属酸化物粒子〕
本発明に係る高屈折率層に用いられる第二の金属酸化物粒子としては、特に制限はないが、屈折率が2.0以上で、体積平均粒径が100nm以下の金属酸化物粒子を好適に用いることができる。そのような金属酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタン等を挙げることができるが、特に、ルチル型酸化チタンの粒子を用いることが好ましい。
【0054】
本発明においては、特に第二の金属酸化物粒子が、可視光透過率の面から、体積平均粒径が100nm以下、特に50nm以下のルチル型(正方晶形)の二酸化チタン粒子であることが好ましく、さらに4nm以上、50nm以下であることがより好ましく、特に好ましくは4nm以上、30nm以下である。
【0055】
ここでいう体積平均粒径とは、媒体中に分散された一次粒子または二次粒子の体積平均粒径であり、レーザー回折/散乱法、動的光散乱法等により測定できる。
【0056】
体積平均粒径とは、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、それぞれd、d・・・d・・・dの粒径を持つ粒子がそれぞれn、n・・・n・・・n個存在する金属酸化物粒子の集団において、粒子1個当りの表面積をa、体積をvとした場合に、体積平均粒径m={Σ(v・d)}/{Σ(v)}で表される体積で重み付けされた平均粒径である。
【0057】
これらの粒子の体積平均粒径は公知の方法で測定することが出来るが、具体的には、マルバーン社製パーテクルサイザーやゼータサイザーナノを用い、測定用ガラスセルに二酸化チタン微粒子の分散液を入れて、溶媒の各種パラメーターを水と同値に設定し、25℃にて動的散乱法により測定することが出来る。
【0058】
さらに、金属酸化物の粒子の粒度の分布としては、単分散であることが好ましい。ここでいう単分散とは、下記式で求められる単分散度が40%以下をいう。更に好ましくは30%以下であり、特に好ましくは0.1〜20%となる粒子である。
【0059】
単分散度=(粒径の標準偏差)/(粒径の平均値)×100
本発明においては、上記高屈折率層塗布液を調製する際、体積平均粒径が100nm以下のルチル型の酸化チタンを添加、分散して調製した水系の高屈折率層塗布液を用いて、高屈折率層を形成することが好ましい。
【0060】
この時、ルチル型の酸化チタンとしては、pHが1.0以上、3.0以下で、かつチタン粒子のゼータ電位が正である水系の酸化チタン分散液として、高屈折率層塗布液に添加して調製することが好ましい。
【0061】
(ルチル型酸化チタン)
一般的に、酸化チタン微粒子は、粒子表面の光触媒活性の抑制や、溶媒等への分散性を向上する目的で、表面処理が施された状態で使用されることが多く、例えば、二酸化チタン粒子表面をシリカからなる被覆層で覆い、粒子表面が負電荷を帯びたものや、アルミニウム酸化物からなる被覆層が形成されたpH8〜10で表面が正電荷を帯びたものなどが知られているが、本発明においては、このような表面処理を施さないルチル型酸化チタンを用いることが好ましい。
【0062】
ルチル型二酸化チタン微粒子の製造方法における第1の工程は、二酸化チタン水和物をアルカリ金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性化合物で処理する工程である(以下、工程(1)と称する)。
【0063】
二酸化チタン水和物は、硫酸チタン、塩化チタン等の水溶性チタン化合物の加水分解によって得ることができる。加水分解の方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。なかでも、硫酸チタンの熱加水分解によって得られたものであることが好ましい。
【0064】
上記工程(1)は、例えば、二酸化チタン水和物の水性懸濁液に塩基性化合物を添加し、所定温度の条件下において、所定時間処理する(反応させる)ことにより行うことができる。
【0065】
二酸化チタン水和物を水性懸濁液とする方法は特に限定されず、水に二酸化チタン水和物を添加して攪拌することによって行うことができる。懸濁液の濃度は特に限定されないが、例えば、TiO濃度が懸濁液中に30〜150g/Lとなる濃度であることが好ましい。上記範囲内とすることによって、反応(処理)を効率よく進行させることができる。
【0066】
上記工程(1)において使用するアルカリ金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。
【0067】
上記工程(1)における塩基性化合物の添加量は、反応(処理)懸濁液中の塩基性化合物濃度で30〜300g/Lであることが好ましい。
【0068】
上記工程(1)は、60〜120℃の反応(処理)温度で行うことが好ましい。反応(処理)時間は、反応(処理)温度によって異なるが、2〜10時間であることが好ましい。反応(処理)は、二酸化チタン水和物の懸濁液に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの水溶液を添加することによって行うことが好ましい。反応(処理)後、反応(処理)混合物を冷却し、必要に応じて塩酸等の無機酸で中和した後、濾過、水洗することによって微粒子二酸化チタン水和物を得ることができる。
【0069】
また、第2の工程として、工程(1)によって得られた化合物をカルボン酸基含有化合物及び無機酸で処理してもよい(以下、工程(2)と称す)。ルチル型微粒子酸化チタンの製造において、上記工程(1)によって得られた化合物を無機酸で処理する方法は公知の方法であるが、無機酸に加えてカルボン酸基含有化合物を使用して、粒子径を調整することができる。
【0070】
上記カルボン酸基含有化合物は、−COOH基を有する有機化合物である。上記カルボン酸基含有化合物としては、2以上、より好ましくは2以上4以下のカルボン酸基を有するポリカルボン酸であることが好ましい。上記ポリカルボン酸は、金属原子への配位能を有することから、配位によって微粒子間の凝集を抑制し、これによって好適にルチル型微粒子二酸化チタンを得ることができるものと推測される。
【0071】
上記カルボン酸基含有化合物としては、特に限定されず、例えば、蓚酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、プロピルマロン酸、マレイン酸等のジカルボン酸;リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸等の芳香族ポリカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸等を挙げることができる。これらのなかから、2種以上の化合物を同時に併用するものであってもよい。
【0072】
なお、上記カルボン酸基含有化合物の全部又は一部は、−COOH基を有する有機化合物の中和物(例えば、−COONa基等を有する有機化合物)であってもよい。
【0073】
上記無機酸としては特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等を挙げることができる。上記無機酸は、反応(処理)用液中の濃度が0.5〜2.5モル/L、より好ましくは0.8〜1.4モル/Lになるように加えるとよい。
【0074】
上記工程(2)は、上記工程(1)によって得られた化合物を純水中に懸濁させ、攪拌下、必要に応じて加熱して行うことが好ましい。カルボン酸基含有化合物及び無機酸の添加は同時であっても順次添加するものであってもよいが、順次添加することが好ましい。
【0075】
添加は、カルボン酸基含有化合物添加後に無機酸を添加するものであっても、無機酸添加後にカルボン酸基含有化合物を添加するものであってもよい。
【0076】
例えば、上記工程(1)によって得られた化合物の懸濁液中にカルボキシル基含有化合物を添加し、加熱を開始し、液温が60℃以上、好ましくは90℃以上になったところで無機酸を添加し、液温を維持しつつ、好ましくは15分〜5時間、より好ましくは2〜3時間攪拌する方法(方法1);上記工程(1)によって得られた化合物の懸濁液中を加熱し、液温が60℃以上、好ましくは90℃以上になったところで無機酸を添加し、無機酸添加から10〜15分後にカルボン酸基含有化合物を添加し、液温を維持しつつ、好ましくは15分〜5時間、より好ましくは2〜3時間攪拌する方法(方法2)等を挙げることができる。これらの方法によって行うことにより、好適な微粒子状のルチル型二酸化チタンを得ることができる。
【0077】
工程(2)を上記方法1によって行う場合、上記カルボン酸基含有化合物は、TiO 100モル%に対し0.25〜1.5モル%使用することが好ましく、0.4〜0.8モル%の割合で使用することがより好ましい。カルボン酸基含有化合物の添加量が0.25モル%より少ない場合は粒子成長が進んでしまい目的とする粒子サイズの粒子が得られないおそれがあり、カルボン酸基含有化合物の添加量が1.5モル%より多い場合は粒子のルチル化が進まずアナタースの粒子ができてしまうおそれがある。
【0078】
上記工程(2)を上記方法2によって行う場合、上記カルボン酸基含有化合物は、TiO100モル%に対し1.6〜4.0モル%使用するものであることが好ましく、2.0〜2.4モル%の割合で使用することがより好ましい。
【0079】
カルボン酸基含有化合物の添加量が1.6モル%より少ない場合は粒子成長が進んでしまい目的とする粒子サイズの粒子が得られないおそれがあり、カルボン酸基含有化合物の添加量が4.0モル%より多い場合は粒子のルチル化が進まずアナタースの粒子ができてしまうおそれがあり、カルボン酸基含有化合物の添加量が4.0モル%を超えても効果は良好なものとならず、経済的に不利である。また、上記カルボン酸基含有化合物の添加を無機酸添加から10分未満で行うと、ルチル化が進まず、アナタース型の粒子ができてしまうおそれがあり、無機酸添加から15分を超えて行うと、粒子成長が進みすぎ、目的とする粒子サイズの粒子が得られない場合がある。
【0080】
上記工程(2)においては、反応(処理)終了後冷却し、更にpH5.0〜pH10.0になるように中和することが好ましい。上記中和は、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水等のアルカリ性化合物によって行うことができる。中和後に濾過、水洗することによって目的のルチル型微粒子二酸化チタンを分離することができる。
【0081】
また、二酸化チタン微粒子の製造方法として、「酸化チタン−物性と応用技術」(清野学 255〜258ページ(2000年)技報堂出版株式会社)等に記載の公知の方法を用いることができる。
【0082】
二酸化チタン微粒子の好ましい一次粒子径は、粒径4〜50nm、より好ましくは4〜30nmである。
【0083】
本発明に係る金属酸化物粒子の平均粒径は、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定したときの直径で表したものである。
【0084】
〔バインダー材料〕
本発明に係る低屈折率層に用いられる第一のバインダー材料としては、金属酸化物粒子を含有した低屈折率層塗布液を用い、塗膜として形成することができればどのような種類のものでも構わないが、環境の問題や塗膜の柔軟性を考慮すると、25℃の水に5質量%以上溶解する水溶性高分子、特に、ゼラチン、コラーゲンペプチド、ポリビニルアルコール、セルロース類、増粘多糖類、反応性官能基を有するポリマー(樹脂)が好ましい。これらの水溶性高分子は単独で用いても構わないし、2種類以上を混合して用いても構わない。
【0085】
本発明に係る高屈折率層に用いられる第二のバインダー材料としては、上記第一のバインダー材料として記載したポリマー(樹脂)と同様のものが好ましく用いられる。それらの水溶性高分子は単独で用いても構わないし、2種類以上を混合して用いても構わない。また、低屈折率層に用いる第一のバインダー材料と同一であっても異なっていても良いが、同一であることが、安定した同時重層塗布を実施することができる観点から好ましい。
【0086】
本発明においては、低屈折率層及及び高屈折率層の少なくとも一層に、バインダー材料とともに増粘多糖類を併用することが好ましい。さらには高屈折率層の少なくとも一層に増粘多糖類を併用することが特に好ましい。適用できる増粘多糖類については後述するが、中でもローカストビーンガムが好ましい。
【0087】
本発明においては、バインダー材料と金属酸化物粒子の比率は、バインダー材料1に対して金属酸化物粒子が0.3〜10、好ましくは0.5〜5.0の範囲が好ましい。金属酸化物粒子の割合が10以下であれば、塗工した後の乾燥時に、膜面が乱れて透明性が劣化する現象を抑制することができる。一方、金属酸化物粒子の割合が0.3以上であれば、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を所望の範囲に調整でき、良好な赤外反射率を得ることができる。
【0088】
(ゼラチン)
本発明に適用可能なゼラチンとしては、従来、ハロゲン化銀写真感光材料分野で広く用いられてきた各種ゼラチンを適用することができ、例えば、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチンの他に、ゼラチンの製造過程で酵素処理をする酵素処理ゼラチン及びゼラチン誘導体、すなわち分子中に官能基としてのアミノ基、イミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基を持ち、それと反応して得る基を持った試薬で処理し改質したものでもよい。ゼラチンの一般的製造法に関しては良く知られており、例えばT.H.James:The Theory of Photographic Process 4th. ed. 1977(Macmillan)55項、科学写真便覧(上)72〜75項(丸善)、写真工学の基礎−銀塩写真編119〜124(コロナ社)等の記載を参考にすることができる。また、リサーチ・ディスクロージャー誌第176巻、No.17643(1978年12月)のIX項に記載されているゼラチンを挙げることができる。
【0089】
本発明で用いることのできるゼラチンの平均分子量は、10万以上、20万以下が好ましいが、その他に、分子量が3万以下のゼラチンやコラーゲンペプチドであっても良い。このような低分子量ゼラチンあるいはコラーゲンペプチドは、通常用いられる平均分子量10万程度の高分子ゼラチンの水溶液にゼラチン分解酵素を加えて酵素分解したり、酸またはアルカリを加えて加熱し加水分解したり、大気圧下または加圧下での加熱により熱分解したり、超音波照射して分解したり、それらの方法を併用したりして得ることができる。
【0090】
ゼラチンの平均分子量は、例えば、PAGI法として知られているゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いた方法によって測定することができる。
【0091】
(増粘多糖類)
本発明で用いることのできる増粘多糖類としては、特に制限はなく、例えば、一般に知られている天然単純多糖類、天然複合多糖類、合成単純多糖類及び合成複合多糖類に挙げることができ、これら多糖類の詳細については、「生化学事典(第2版),東京化学同人出版」、「食品工業」第31巻(1988)21頁等を参照することができる。
【0092】
本発明でいう増粘多糖類とは、糖類の重合体であり分子内に水素結合基を多数有するもので、温度により分子間の水素結合力の違いにより、低温時の粘度と高温時の粘度差が大きな特性を備えた多糖類であり、さらに金属酸化物微粒子を添加すると、低温時にその金属酸化物微粒子との水素結合によると思われる粘度上昇を起こすものであり、その粘度上昇幅は、添加することにより15℃における粘度が1.0mPa・s以上の上昇を生じる多糖類であり、好ましくは5.0mPa・s以上であり、更に好ましくは10.0mPa・s以上の粘度上昇能を備えた多糖類である。
【0093】
本発明に適用可能な増粘多糖類としては、例えば、ガラクタン(例えば、アガロース、アガロペクチン等)、ガラクトマンノグリカン(例えば、ローカストビーンガム、グアラン等)、キシログルカン(例えば、タマリンドガム等)、グルコマンノグリカン(例えば、蒟蒻マンナン、木材由来グルコマンナン、キサンタンガム等)、ガラクトグルコマンノグリカン(例えば、針葉樹材由来グリカン)、アラビノガラクトグリカン(例えば、大豆由来グリカン、微生物由来グリカン等)、グルコラムノグリカン(例えば、ジェランガム等)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸等)、アルギン酸及びアルギン酸塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ファーセレラン等の紅藻類に由来する天然高分子多糖類等が挙げられ、その様な多糖類としては、例えば、L−アラビトース、D−リボース、2−デオキシリボース、D−キシロースなどのペントース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、D−ガラクトースなどのヘキソースのみからなる多糖類であることが好ましい。具体的には、主鎖がグルコースであり、側鎖もグルコースであるキシログルカンとして知られるタマリンドシードガムや、主鎖がマンノースで側鎖がグルコースであるガラクトマンナンとして知られるグアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、ローカストビーンガム、タラガムや、主鎖がガラクトースで側鎖がアラビノースであるアラビノガラクタン併用することができる。本発明においては、特には、タマリンド、グアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガムが好ましい。
【0094】
また、本発明においては、増粘多糖類の1種としてセルロース類を用いることができる。本発明で用いることのできるセルロース類としては、水溶性のセルロース誘導体が好まし、例えば、カルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース誘導体や、カルボン酸基含有セルロース類であるカルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、カルボキシエチルセルロース等を挙げることができる。その他には、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、酢酸セルロース、セルロース硫酸エステル等のセルロース誘導体を挙げることができる。
【0095】
本発明においては、二種類以上の増粘多糖類を併用することも可能である。
【0096】
(反応性官能基を有するポリマー類)
本発明に適用可能なゼラチン、コラーゲンペプチド以外の水溶性高分子としては、反応性官能基を有するポリマー類が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、若しくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、若しくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート−スチレンスルホン酸カリウム共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に好ましい例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン類及びそれを含有する共重合体が挙げられる。
【0097】
水溶性高分子の重量平均分子量は、1,000以上200,000以下が好ましい。更には、3,000以上40,000以下がより好ましい。
【0098】
本発明で好ましく用いられるポリビニルアルコールには、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。
【0099】
酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは、平均重合度が1,000以上のものが好ましく用いられ、特に平均重合度が1,500〜5,000のものが好ましく用いられる。また、ケン化度は、70〜100%のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。
【0100】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号に記載されているような、第一〜三級アミノ基や第四級アンモニウム基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールであり、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0101】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、トリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(2−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
【0102】
アニオン変性ポリビニルアルコールは、例えば、特開平1−206088号に記載されているようなアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号および同63−307979号に記載されているような、ビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体及び特開平7−285265号に記載されているような水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0103】
また、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平7−9758号に記載されているようなポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号に記載されている疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。ポリビニルアルコールは、重合度や変性の種類違いなど二種類以上を併用することもできる。
【0104】
本発明においては、反応性官能基を有するポリマーを使用する場合には、硬化剤を使用してもよい。反応性官能基を有するポリマーがポリビニルアルコールの場合には、ホウ酸及びその塩やエポキシ系硬化剤が好ましい。
【0105】
本発明においては、上記各水溶性高分子は、特に、高屈折率層の全質量に対し、5.0質量%以上、50質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、10質量%以上、40質量%以下がより好ましい。但し、水溶性高分子と共に、例えば、エマルジョン樹脂を併用する場合には、3.0質量%以上含有すればよい。水溶性高分子が少ないと、高屈折率層を塗工した後の乾燥時に、膜面が乱れて透明性が劣化する傾向が大きくなる。一方、含有量が50質量%以下であれば、相対的な金属酸化物の含有量が適切となり、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を大きくすることが容易になる。
【0106】
〔エマルジョン樹脂〕
本発明においては、本発明に係る低屈折率層または高屈折率層が、更にエマルジョン樹脂を含有することが好ましい。
【0107】
本発明でいうエマルジョン樹脂とは、油溶性のモノマーを、分散剤を含む水溶液中でエマルジョン状態に保ち、重合開始剤を用いて乳化重合させた樹脂微粒子である。
【0108】
エマルジョン樹脂の重合時に使用される分散剤としては、一般的には、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジエチルアミン、エチレンジアミン、4級アンモニウム塩のような低分子の分散剤の他に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエキシエチレンラウリル酸エーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンのような高分子分散剤が挙げられる。
【0109】
本発明に係るエマルジョン樹脂とは、水系媒体中に微細な、例えば、平均粒径が0.01〜2.0μm程度の樹脂粒子がエマルジョン状態で分散されている樹脂で、油溶性のモノマーを、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合して得られる。用いる分散剤の種類によって、得られるエマルジョン樹脂のポリマー成分に基本的な違いは見られないが、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合すると、微細な微粒子の少なくとも表面に水酸基の存在が推定され、他の分散剤を用いて重合したエマルジョン樹脂とはエマルジョンの化学的、物理的性質が異なる。
【0110】
水酸基を含む高分子分散剤とは、重量平均分子量が10000以上の高分子の分散剤で、側鎖または末端に水酸基が置換されたものであり、例えばポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドのようなアクリル系の高分子で2−エチルヘキシルアクリレートが共重合されたもの、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのようなポリエーテル、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0111】
高分子分散剤として使用されるポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、カチオン変性したポリビニルアルコールやカルボキシル基のようなアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、シリル基を有するシリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。ポリビニルアルコールは、平均重合度は高い方が本発明の赤外線遮蔽フィルムを屈曲させた場合などに、構成する各層におけるクラックの発生を抑制する効果が大きいが、平均重合度が5000以内であると、エマルジョン樹脂の粘度が高くなく、製造時に取り扱いやすい。したがって、平均重合度は300〜5000のものが好ましく、1500〜5000のものがより好ましく、3000〜4500のものが特に好ましい。ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100モル%のものが好ましく、80〜99.5モル%のものがより好ましい。
【0112】
上記の高分子分散剤で乳化重合される樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニル系化合物、スチレン系化合物といったエチレン系単量体、ブタジエン、イソプレンといったジエン系化合物の単独重合体または共重合体が挙げられ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0113】
本発明に係る樹脂粒子に用いられるエマルション樹脂の粒子の平均粒径は、可視光透過率および製造上の観点から、150nm以下が好ましく、さらに20nmから150nmが好ましく、20nmから100nmがより好ましい。
【0114】
〔各屈折率層のその他の添加剤〕
本発明に係る低屈折率層、高屈折率層には、必要に応じて各種添加剤を用いることができる。本発明に係る低屈折率層と高屈折率層に適用可能な各種の添加剤を以下に列挙する。例えば、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報及び同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0115】
〔基材〕
本発明の赤外線遮蔽フィルムに適用する基材としては、フィルム支持体であることが好ましく、フィルム支持体は、透明であっても不透明であってもよく、種々の樹脂フィルムを用いることができ、ポリオレフィンフィルム(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、3酢酸セルロース等を用いることができ、好ましくはポリエステルフィルムである。ポリエステルフィルム(以降ポリエステルと称す)としては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするフィルム形成性を有するポリエステルであることが好ましい。主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
【0116】
本発明に係るフィルム支持体の厚みは、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは20〜150μmである。また、本発明のフィルム支持体は、2枚を重ねたものであっても良く、この場合、その種類が同じでも異なってもよい。
【0117】
《赤外線遮蔽フィルムの構成、特性値について》
本発明の赤外線遮蔽フィルムは、基材上に、低屈折率層と低屈折率層に隣接する高屈折率層から構成されるユニットを少なくとも1つ積層し、隣接する低屈折率層と高屈折率層との屈折率差が0.1以上であることを特徴の一つとする。
【0118】
一般に、赤外線遮蔽フィルムにおいては、低屈折率層と高屈折率層の屈折率の差を大きく設計することが、少ない層数で赤外線反射率を高くすることができる観点で好ましいが、本発明では、低屈折率層と高屈折率層から構成されるユニットの少なくとも1つにおいて、隣接する該低屈折率層と高屈折率層との屈折率差が0.1以上であり、好ましくは0.3以上であり、更に好ましくは0.4以上である。
【0119】
特定波長領域の反射率は、隣接する2層の屈折率差と積層数で決まり、屈折率の差が大きいほど、少ない層数で同じ反射率を得られる。この屈折率差と必要な層数については、市販の光学設計ソフトを用いて計算することができる。例えば、赤外線反射率90%以上を得るためには、屈折率差が0.1より小さいと、20層以上の積層が必要になり、生産性が低下するだけでなく、積層界面での散乱が大きくなり、透明性が低下し、また故障なく製造することも非常に困難になる。反射率の向上と層数を少なくする観点からは、屈折率差に上限はないが、実質的には1.40程度が限界であり、本発明においては0.1以上であることを特徴とする。
【0120】
次いで、本発明の赤外遮蔽フィルムにおける低屈折率層と高屈折率層の基本的な構成概要について説明する。
【0121】
本発明の赤外遮蔽フィルムにおいては、基材上に、低屈折率層と低屈折率層に隣接する高屈折率層から構成されるユニットを少なくとも1つ積層した構成であればよいが、好ましい低屈折率層と高屈折率層の層数としては、上記の観点から、総層数の範囲としては、100層以下、すなわち50ユニット以下であり、より好ましくは40層(20ユニット)以下であり、さらに好ましくは20層(10ユニット)以下である。
【0122】
また、本発明の赤外遮断フィルムにおいては、隣接する該低屈折率層と高屈折率層との屈折率差が0.1以上であるが、低屈折率層と高屈折率層を上記のようにそれぞれ複数層有する場合には、全ての屈折率層が本発明で規定する要件を満たすことが好ましい。ただし、最表層や最下層に関しては、本発明で規定する要件外の構成であっても良い。
【0123】
また、本発明の赤外線遮蔽フィルムにおいては、低屈折率層の好ましい屈折率としては1.10〜1.60であり、より好ましくは1.30〜1.50である。また、高屈折率層の好ましい屈折率としては1.80〜2.50であり、より好ましくは1.90〜2.20である。
【0124】
本発明において、低屈折率層、高屈折率層の屈折率は、下記の方法に従って求めることができる。
【0125】
基材上に屈折率を測定する各屈折率層を単層で塗設したサンプルを作製し、このサンプルを10cm×10cmに断裁した後、下記の方法に従って屈折率を求める。分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、各サンプルの測定面とは反対側の面(裏面)を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率を25点測定して平均値を求め、その測定結果より平均屈折率を求める。
【0126】
《赤外線遮蔽フィルムの製造方法》
本発明の赤外線遮蔽フィルムの製造方法では、基材上に低屈折率層と低屈折率層に隣接した高屈折率層から構成されるユニットを積層して形成されるが、具体的には低屈折率層と高屈折率層とを交互に塗布、乾燥して積層体を形成することが好ましい。
【0127】
塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法、あるいは米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
【0128】
同時重層塗布を行う際の高屈折率層塗布液と低屈折率層塗布液の粘度としては、スライドビード塗布方式を用いる場合には、5〜100mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜50mPa・sの範囲である。また、カーテン塗布方式を用いる場合には、5〜1200mPa・sの範囲が好ましく、さらに好ましくは25〜500mPa・sの範囲である。
【0129】
また、塗布液の15℃における粘度としては、100mPa・s以上が好ましく、100〜30,000mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは3,000〜30,000mPa・sであり、最も好ましいのは10,000〜30,000mPa・sである。
【0130】
塗布および乾燥方法としては、低屈折率層塗布液と高屈折率層塗布液を30℃以上に加温して、塗布を行った後、10℃以上で乾燥することが好ましい。また、形成した塗膜の温度を1〜15℃に一旦冷却し、その後、10℃以上で乾燥することもできる。より好ましくは、乾燥条件として、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件で行うことである。また、塗布直後の冷却を行う場合の冷却方式としては、形成された塗膜均一性の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
【0131】
本発明においては、特に、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して同時に塗布を行う同時重層塗布を用いることが、製造コスト、大面積化の面から好ましい。
【0132】
〔塗布液〕
低屈折率層塗布液の調製方法としては、所望の塗布液を調製することができれば、特に制限はないが、35〜60℃程度に温められた第一の金属酸化物粒子の分散液を攪拌した状態で、45℃程度に調温した第一のバインダー樹脂溶液を該金属酸化物粒子分散液の微粒子が凝集しないように徐々に添加混合し、十分に均一な状態とした後、界面活性剤等のその他の添加剤を添加し、最後に所望の濃度になるように、45℃程度に温めた純水を添加することが好ましい。
【0133】
高屈折率層塗布液の調製方法としては、所望の塗布液を調製することができれば特に制限はないが、35〜60℃程度に温められた第二の金属酸化物粒子分散液を攪拌しているところに、45℃程度に調温した第二のバインダー樹脂溶液を該金属酸化物粒子分散液の微粒子が凝集しないように徐々に添加混合し、十分に均一な状態とした後、界面活性剤等のその他の添加剤を添加し、最後に、所望の濃度になるように、45℃程度に温めた純水を添加することが好ましい。また、金属酸化物分散液とバインダー樹脂を混合する前に、金属酸化物分散液にピコリン酸やアミノカルボン酸、コラーゲンペプチド、平均分子量が3万以下の低分子量ゼラチン等を混合し、金属酸化物粒子に被覆させて用いても良い。
【0134】
《赤外線遮蔽フィルムの応用》
本発明の赤外線遮蔽フィルムは、幅広い分野に応用することができる。例えば、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備に貼り合せ、赤外線遮蔽体として用いることを特徴とする。例えば、熱線反射効果を付与する熱線反射フィルム等の窓貼用フィルムを貼合した遮蔽体、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主として耐候性を高める目的で用いられる赤外線遮蔽体などがある。
【0135】
特に、赤外線遮蔽フィルムを直接もしくは接着剤を介してガラスもしくはガラス代替樹脂基材に貼合せた赤外線遮蔽体(赤外線反射体)には好適である。
【0136】
接着剤は、窓ガラスなどに貼り合わせたとき、赤外線遮蔽フィルムが日光(熱線)入射面側にあるように設置し(内貼り)、外側と内側のガラスもしくは基材の間に挟持すると(合せガラス)、水分等周囲ガスから封止でき耐久性の点で好ましい。
【0137】
本発明に適用可能な接着剤としては、光硬化性もしくは熱硬化性の樹脂を主成分とする接着剤を用いることができる。接着剤は紫外線に対して耐久性を有するものが好ましく、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤が好ましい。更に粘着特性やコストの観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。特に剥離強さの制御が容易なことから、アクリル系粘着剤において、溶剤系及びエマルジョン系の中で溶剤系が好ましい。アクリル溶剤系粘着剤として溶液重合ポリマーを使用する場合、そのモノマーとしては公知のものを使用できる。
【0138】
また、合わせガラスの中間層として用いられるポリビニルブチラール系樹脂、あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂を用いてもよい。具体的には可塑性ポリビニルブチラール(例えば、積水化学工業社製、三菱モンサント社製等)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(例えば、デュポン社製、武田薬品工業社製、デュラミン)、変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(例えば、東ソー社製、メルセンG)等である。なお、接着層には紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色、接着調整剤等を適宜添加配合してもよい。
【実施例】
【0139】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0140】
実施例1
《pH粘度依存性を有するコポリマーの合成》
下記の方法に従って、重合成分としてビニルアミドを有する単量体とビニルカルボン酸を有する単量体とからなるpH粘度依存性を有するコポリマーVP−1〜VP−10を合成した。
【0141】
(コポリマーVP−1の合成)
架橋剤としてペンタエリスリトールトリアリルエーテル(PETE)、重合開始剤1としてルベロックス11(t−ブチル−パーオキシピパレート、アルケマ吉富社製)を用い、ビニルアミド成分としてN−ビニルカプロラクタム(VCL)、ビニルカルボン酸成分としてアクリル酸(AA)から構成されるコポリマーを、特許公表第2008−516950号公報に記載の実施例1〜15の方法に従って重合し、VCL/AA/PETEの質量比が50:50:1.5で、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(PETE)で架橋されたN−ビニルカプロラクタム(VCL)とアクリル酸(AA)が共重合したコポリマーPV−1を合成した。
【0142】
(コポリマーVP−2〜VP−10の合成)
上記コポリマーVP−1の合成において、ビニルアミド成分の種類と構成比率(質量比)、ビニルカルボン酸成分の種類と構成比率(質量比)、架橋剤の種類と構成比率(質量比)、重合開始剤の種類を、表1に記載の組み合わせ、質量比に変更した以外は同様にして、コポリマーVP−2〜VP−10を合成した。
【0143】
【表1】

【0144】
なお、表1に略称で記載した各材料の詳細は、以下の通りである。
【0145】
〈ビニルアミド成分〉
VCL:N−ビニルカプロラクタム
VP:N−ビニルピロリドン
〈ビニルカルボン酸成分〉
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
〈架橋剤〉
PETE:ペンタエリスリトールトリアリルエーテル
PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート
〈重合開始剤〉
重合開始剤1:ルベロックス11(t−ブチル−パーオキシピパレート、アルケマ吉富社製)
重合開始剤2:ルベロックス10(t−ブチル−パーオキシネオデカノエート、アルケマ吉富社製)
《塗布液の調製》
〔低屈折率層用塗布液の調製〕
(低屈折率層用塗布液1の調製)
10質量%コロイダルシリカ215gに、45℃の5.0質量%の酸処理ゼラチン水溶液330gと1.0質量%のヒドロキシエチルセルロース(HEC)127gを撹拌しながら徐々に添加、混合した。次いで界面活性剤として、5.0質量%のニッサンカチオン2−DB−500E(カチオン性界面活性剤、ジデシルジメチル−アンモニウムクロライド、日油株式会社製)を2.66g添加し、45℃の純水で650mlに仕上げて、低屈折率層用塗布液1を調製した。
【0146】
(低屈折率層用の塗布液2の調製)
上記低屈折率層用塗布液1の調製において、5.0質量%の酸処理ゼラチン水溶液と1.0質量%のヒドロキシエチルセルロースに代えて、5.0質量%のポリビニルアルコール水溶液(PVA203とPVA217の1:1混合液)を355g用いた以外は同様にして、低屈折率層用塗布液2を調製した。
【0147】
PVA203:クラレポバール203、ポリビニルアルコール、重合度:300、クラレ社製
PVA217:クラレポバール217、ポリビニルアルコール、重合度:1700、クラレ社製
(低屈折率層用塗布液3〜17の調製)
上記低屈折率層用塗布液2の調製において、本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーを、表2に記載の条件で添加した以外は同様にして、低屈折率層用塗布液3〜17を調製した。なお、各添加剤の添加量に応じて純水の量を適宜調整し、塗布液総量は、低屈折率層用塗布液2と同量になるように調整した。表2に記載のpH粘度依存性を有するコポリマーの添加量は、バインダーであるポリビニルアルコールに対する質量%で表示した。
【0148】
【表2】

【0149】
〔高屈折率層用塗布液の調製〕
(高屈折率層用塗布液1の調製)
20.0質量%酸化チタンゾル(体積平均粒径35nm、ルチル型酸化チタン粒子)の15.2gに、5.0質量%の酸処理ゼラチン水溶液225gを撹拌しながら徐々に添加、混合した。次いで、界面活性剤として、5.0質量%の2−DB−500E(前出、日油株式会社製)を0.43g添加し、純水で450mlに仕上げて、高屈折率層用塗布液1を調製した。
【0150】
(高屈折率層用塗布液2の調製)
上記高屈折率層塗布液1の調製において、酸処理ゼラチン水溶液に代えて、同固形分量のポリビニルアルコールとコラーゲンペプチドの混合物(PVA217とコラーゲンペプチドの1:2.5混合物)を用いた以外は同様にして、高屈折率層用塗布液2を調製した。
【0151】
(高屈折率層用塗布液3の調製)
上記高屈折率層塗布液2の調製において、ポリビニルアルコールとコラーゲンペプチドの混合物の全固形分量に対し、5.0質量%となるようにタマリンドシードガムを水溶液で添加した以外は同様にして、高屈折率層用塗布液3を調製した。
【0152】
(高屈折率層用塗布液4〜20の調製)
上記高屈折率層用塗布液2の調製において、本発明に係るpH粘度依存性を有するコポリマーの種類、その他の添加剤(増粘多糖類)を、表3に記載の条件で添加した以外は同様にして、高屈折率層用塗布液4〜20を調製した。なお、各添加剤の添加量に応じて純水の量を適宜調整し、塗布液総量は、高屈折率層用塗布液2と同量になるように調整した。表3に記載のpH粘度依存性を有するコポリマーの添加量は、バインダーであるポリビニルアルコールに対する質量%で表示した。
【0153】
【表3】

【0154】
なお、表2、表3に記載のpHは、pHメーターとして東亜電波工業社製のデジタルpHメーターHM−30Sを用い、45℃におけるpHを測定した。また、粘度は、東京計器社製のB型粘度計BLを用いて、45℃における塗布液粘度(mN/m)を測定した。
【0155】
《赤外線遮蔽フィルムの作製》
〔赤外線遮蔽フィルム1の作製〕
16層重層塗布可能なスライドホッパー塗布装置を用い、上記調製した低屈折率層用塗布液1と高屈折率層用塗布液1とを45℃に保温しながら、45℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製A4300:両面易接着層)上に、それぞれ交互に8層ずつ、乾燥時の膜厚が低屈折率層の各層が180nm、高屈折率層の各層が130nmとなるように計16層を毎秒100mの速度で同時重層塗布を行った。塗布直後、5℃の冷風を吹き付けてセットさせた。このとき、表面を指でふれても指に何もつかなくなるまでの時間(セット時間)は5分だった。セット完了後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、赤外線遮蔽フィルム1を作製した。
【0156】
〔赤外線遮蔽フィルム2〜20の作製〕
上記赤外線遮蔽フィルム1の作製において、低屈折率層用塗布液1と高屈折率層用塗布液1に代えて、表4に記載のようにそれぞれ低屈折率層塗布液2〜17と、高屈折率層塗布液2〜20を用いた以外は同様にして、赤外線遮蔽フィルム2〜20を作製した。
【0157】
《赤外線遮蔽フィルムの評価》
上記作製した各赤外線遮蔽フィルムについて、下記の各性能評価及び特性値の測定を行った。
【0158】
〔塗布均一性の評価〕
各赤外線遮蔽フィルムの作製において、塗布時のスライドホッパー面上の塗布液性状及び塗布後の各試料の膜面の状態を目視で観察し、下記の基準に従って塗布均一性の評価を行った。
【0159】
○:スライドホッパー面を流下する塗布液は、液の乱れが無く均質な液面であり、かつ形成した赤外線遮蔽フィルム表面も均質である
△:スライドホッパー面を流下する塗布液で、やや液の乱れが認められるが、得られた赤外線遮蔽フィルム表面はほぼ均質であり、実用上許容される品質である
×:スライドホッパー面を流下する塗布液面上で液の強い乱れが認められ、かつ形成した赤外線遮蔽フィルム表面も不均一であり、実用上問題となる品質である
〔層間分離性の評価〕
上記作製した各赤外線遮蔽フィルムの断面を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置により元素測定し、SiとTiの存在分布を観察し、下記の基準に従って、塗布時の層間分離性の評価を行った。
【0160】
○:低屈折率層と高屈折率層間で、明確にSiとTiの存在分布が分離しており、層間の乱れは全く認められず、層間均一性が極めて良好である
△:低屈折率層と高屈折率層間で、SiとTiの存在分布に弱い乱れは認められるが、全体的にはほぼ良好な層間特性である
×:低屈折率層と高屈折率層間でSiとTiの分布で強い乱れが認められ、層間分離性に乏しい
〔低屈折率層及び高屈折率層の屈折率測定〕
上記各低屈折率層用塗布液、高屈折率層用塗布液を、基材上にそれぞれ赤外線遮蔽フィルムの作製と同一条件で単層塗布し、測定用のサンプルを作製し、下記の方法に従って各高屈折率層及び低屈折率層の屈折率を求めた。
【0161】
分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いて、各サンプルの測定面側とは反対側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)における平均反射率を測定し、屈折率を求めた。
【0162】
〔可視光透過率及び赤外線透過率の測定〕
上記分光光度計(積分球使用、日立製作所社製、U−4000型)を用い、各赤外線遮蔽フィルムの300nm〜2000nmの領域における透過率を測定した。可視光透過率は、550nmにおける透過率の値を用い、これを可視光透過性の指標とした。また、赤外線透過率は1200nmにおける透過率の値を測定し、この値を赤外線反射性の指標として評価した。赤外線透過率が低いほど、赤外線反射性が高いことを示す。
【0163】
〔光学特性のばらつきの評価〕
上記分光光度計(積分球使用、日立製作所製、U−4000型)により、550nmにおける透過率及び1200nmにおける透過率の測定を、各点が1mm離れた20の点について行い、得られた透過率の変動係数(標準偏差/平均値、%)を求め、これをばらつきの尺度とした。変動係数が大きいほど、位置による性能ばらつきが大きいことを示しており、5.0%を超える場合は製品品質として問題がある領域と判定した。
【0164】
以上により得られた評価結果及び測定結果を、表4に示す。
【0165】
【表4】

【0166】
表4に記載の結果より、本発明に係るpH依存性を有するコポリマーを用いた本発明の赤外線遮蔽フィルムは、生産性に優れた塗布方法で作製でき、可視光透過率を低下させることなく、高い赤外線反射率を達成させることができ、光学特性のばらつきも少なく、かつ均一性に優れた塗膜を得ることができた。
【0167】
実施例2
《赤外線遮蔽体の作製》
実施例1にて作製した赤外線遮蔽フィルム1〜20を用いて、接着剤を介してガラス基材上に貼合せて、赤外線遮蔽体1〜20を作製した。
【0168】
《赤外線遮蔽体の評価》
上記作製した赤外線遮蔽体を窓ガラスとして装着し、外光に対する赤外遮断性を評価した結果、本発明の赤外線遮蔽体4〜20は、比較例に対し、可視光は十分に透過し、赤外光を遮断する効果が大きく、省エネルギー性の高い窓ガラスであることを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、第一の金属酸化物粒子および第一のバインダーを含有する低屈折率層と、該低屈折率層に隣接した位置に、第二の金属酸化物粒子および第二のバインダーを含有し、該低屈折率層より屈折率が0.1以上高い高屈折率層を有するユニットを少なくとも1ユニット有し、該低屈折率層及び該高屈折率層の少なくとも1層が、pH粘度依存性を有するコポリマーを含有することを特徴とする赤外線遮蔽フィルム。
【請求項2】
前記pH依存性を有するコポリマーが、重合成分として、少なくともビニルアミドを有する単量体とビニルカルボン酸を有する単量体とから構成されるコポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項3】
前記ビニルアミドが、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の単量体であることを特徴とする請求項2に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項4】
前記ビニルアミドが、ビニルピロリドンであることを特徴とする請求項3に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項5】
前記ビニルカルボン酸が、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の単量体であることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項6】
前記ビニルカルボン酸が、(メタ)アクリル酸であることを特徴とする請求項5に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項7】
前記pH粘度依存性を有するコポリマーが、少なくとも2つの重合可能なフリーラジカル基を分子中に有する架橋剤を用いて重合されたコポリマーであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項8】
前記架橋剤が、ペンタエリスルトールトリアリルエーテル、ペンタエリスルトールトリアクリレート、ペンタエリスルトールテトラアクリレート及びメチレンビスアクリルアミドから選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項7に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項9】
前記pH粘度依存性を有するコポリマーの含有量が、該コポリマーを含有する層の全バインダー量に対し、0.2質量%以上、4.0質量%以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の赤外線遮蔽フィルムを具備することを特徴とする赤外線遮蔽体。