説明

走査プローブ型顕微鏡用の迅速走査ステージ

【課題】走査要素が方向変更点のような、走査方向が急速に変化する点における歪み及び人為的欠陥を回避する。
【解決手段】走査型プローブ顕微鏡用の迅速平行移動ステージが提供される。該ステージは、平行移動ステージの自然の共振周波数にて駆動される少なくとも1つの平行移動の軸線を有し、走査方向の急速な変化に関係した歪みが回避される。1つの実施の形態において、該ステージは、好ましくは1つ又はより多くのピエゾアクチュエータ要素により駆動され、その共振周波数にて迅速走査周波数に沿って平行移動する試料板又は支持体を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、原子間力顕微鏡又はニアフィールド光学顕微鏡のような走査型プローブ顕微鏡、より具体的には、走査方向の急激な変化と関係する作像の歪み、これを回避する、プローブの作像を走査する迅速平行移動ステージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走査型プローブ顕微鏡の作像速度と同程度又はより速い時間尺度にて行われる過程の視覚化ができるよう、(特に流体中における)走査型プローブ顕微鏡の作像可能な速度を速くすることは極めて望ましいことである。現在の商業的に利用可能な走査型プローブ顕微鏡は、固有の機械的な共振により制限され、このため、1つの像を得るのに数秒又はそれ以上、掛かる。これらの作像速度を1桁以上増すことができることは極めて望ましいことであろう。かかる場合、1秒当たり10の像又は数10もの像を得ることができ、ビデオ速度に近いデータの取得を可能にする。
【0003】
共振を制限するものの1つは、力感知カンチレバー自体と関係するものである。メートル当たりニュートン(N/m)で表した有効曲げ力定数K及びキログラム(Kg)で表した質量mのカンチレバーの共振周波数fは、次式で与えられる。
【0004】
【数1】


柔軟な材料を作像するため力定数Kを小さく保つことが望ましいから、共振周波数を増すための方策は、それらの質量mを減少させ得るよう、より小型のカンチレバーを形成することにある。
【0005】
Rev.Sci.Instrum.70:4300−4303(1999)におけるヴィアニ(Viani)その他の者による「小型のカンチレバー用に設計された新しい原子間力顕微鏡に対する単一バイオポリマーの迅速な作像及び迅速な力分光法(Fast imaging and fast force spectroscopy of single biopolymers with a new atomic force microscope designed for small cantilevers)」なる著作物、及びハンズマ(Hansma)その他の者による米国特許明細書5,825,020号には、カンチレバーの長さが光波長の僅か数倍にまで短くされ、米国特許明細書5,825,020号に教示されたような特殊な収束光学素子を使用すれば、100kHz以上の共振周波数(水中にて)及び0.06(N/m)ほどの小さいばね定数を有するカンチレバーが使用可能である顕微鏡が記載されている。Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)98:12468−12472(2001)におけるアンドー(Ando)その他の者による「生物学的巨大分子を研究するための高速度原子間力顕微鏡(A high−speed atomic force microscope for studying biological macromolecules)」は、同様のアプローチを採るものであり、約500kHz(水中にて)の共振周波数及び0.15ないし0.28N/mのばね定数を有するカンチレバーにより、1秒当たり10コマ以上の作像をすると報告している。
【0006】
実際には、試料(又はプローブ)走査ステージにより走査速度に対する別の厳しい制限が課される。500kHzの共振周波数を有するカンチレバーを完全に活用するためには、カンチレバーが振動する各サイクルにて高さデータ点を得なければならないならば、典型的には、100以上の点をサンプリングする各線走査は、(5kHz)−1秒又は20マイクロ秒内に完了していることが必要とされよう。
【0007】
走査型プローブ顕微鏡の現在の方法は、図1Aに示すように、プローブを試料の上方でラスターパターンにて走査するステップを含む。これと代替的に、試料は、不動のプローブの下、ラスターパターンにて走査してもよい。迅速走査軸(ここでは、X軸とする)を考え、且つ図1Aを参照すると、時間と共に変化する電圧V(t)1がピエゾ的に駆動される走査要素4上にて電極2、3に印加され、要素が曲がり且つ、試料6の表面上にてプローブ5を走査するようにする。所望の動作は、プローブを表面上にて直線状に掃引し、図1Bに示すように、変位X(t)が時間と共に変化するようにするものである。
【0008】
ピエゾ材料の変位は、印加された電圧の変化と共に直線状でないため、図1CにV(t)として示したような非線形の傾斜部を与え、形成される変位X(t)が時間の線形関数となるようにするのが通常である。エイリングズ(Eilings)V.B.及びJ.A.ガーレイ(Gurley)の米国特許明細書5,051,646号、Rev.Sci.Instrum.48:1228−1229(1977)におけるリンドセイ(Lindsay)S.M.及びI.W.シェファード(Shephered)による「ピエゾ制御式のファブリ・ペローエタロン用の線形走査回路(Linear Scanning Circuit for a Piezeoelectrically Controlled Fabry−Perot Etalon)」を参照するとよい。このアプローチ法の結果、印加された電圧の導関数は、参照番号8で示すように方向を変化させる点である、走査の方向変更点7にて方向が急速に変化することになる。
【0009】
プローブの速度は、印加された電圧の時間導関数dV(t)/dtに比例するため、モーメントの変化、すなわち走査要素に印加されたインパルスは、第二の導関数dV(t)/dtに比例する。この量は、方向変更点7、8にて無限定であるが、実際には、この量は、駆動エレクトロニクスの時間レスポンスによって制限される。その結果、鋭いインパルスが方向変更点にて走査要素に与えられ、そのため、走査要素は、その共振周波数
【0010】
【数2】


にて輪状となる。
【0011】
輪の形成は、
【0012】
【数3】


だけ続き、ここで、Qは、走査要素の機械的Q因子である。走査要素からの急速なレスポンスが望まれ、また、臨界的な減衰は実現が容易でないため、走査要素は、全体として、Q>1を有する。このように、数kHzの共振周波数及び5のQを有する典型的な走査要素とするならば、図1Dにおける輪を形成する動作9は、5ミリ秒又はより長く続く。一方、この歪みが走査の10%以上、影響を与えないならば、迅速な走査時間は、小型の(光波長寸法とされた)カンチレバーにより与えられる潜在的な速度を実現するために必要とされる時間よりも数100倍、遅い、50ミリ秒又はより長い時間に制限されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この問題点に対する1つの解決策としては、一方が試料ステージを走査し、他方がダミー質量体を走査するように、互いに反対方向に向けて動く、平衡した1対の走査要素を使用するものが、上述したアンドー他の者により提案されている。走査要素は、システムの全モーメントが常に約零であるように駆動される。しかし、このことは、走査ステージの質量及び複雑さを大幅に増し、また、走査要素内での偽共振の可能性も増すことになる。
【0014】
従って、走査方向の転換に関連する人為的悪影響が存在しない、迅速走査ステージを提案することが依然として必要とされている。数kHzの速度にて迅速な線走査を完了することができ、また、方向変更の人為的欠陥が存在しない、走査ステージが更に必要とされている。走査要素に対し低電圧(すなわち、約100ボルト以下)が印加されたとき、約1ミクロン程度の走査振幅を有する走査ステージが当該技術にて更に必要とされる。
【0015】
これらの必要性は、例えば、原子間力顕微鏡のような走査型プローブ顕微鏡用の迅速な平行移動ステージが提供される、本発明の実施の形態によって満たされる。該ステージは、平行移動ステージの自然の共振振動数にて駆動される少なくとも1つの平行移動の軸線を有し、このため、走査方向の急速な変化と関係した歪みが回避される。該ステージは、好ましくは、1つ又はより多くのピエゾ要素により駆動される試料板又は支持体を有し、このため、板は、その共振周波数にて迅速な走査周波数に沿って平行移動する。このことは、走査要素が方向変更点のような、走査方向が急速に変化する点における歪み及び人為的欠陥を回避する。この取得されたデータは、例えば、デジタルコンピュータを使用して実質的に線形にされる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の1つの特徴に従って、走査型プローブ顕微鏡用の迅速走査ステージが提供される。該顕微鏡は、プローブを有し、また、迅速走査ステージは、少なくとも1つの平行移動の軸線を有する試料ステージと、該ステージをプローブに対して変位させる手段とを備えている。このように、ステージに固定された試料は、また、プローブに対して変位されよう。ステージを変位させる1つの好ましい手段は、ステージを支持する少なくとも1つのアクチュエータ要素と、該少なくとも1つのアクチュエータ要素を作動させる正弦波形発生器とを備えている。1つの好ましい形態において、該ステージは、該ステージを支持する4つのアクチュエータ要素を有している。
【0017】
該ステージは、プローブに対する試料の平行移動に対応する共振振動数にて駆動されることにより変位する。好ましくは、ステージは、四角形又は矩形の形態を有し、ステージの各隅部は、アクチュエータ要素の1つによって支持されている。好ましくは、アクチュエータ要素は、PZTバイモルフ材料を備えている。ステージは、例えば、セラミック、耐熱性ポリマー、及び陽極処理したアルミニウムのような、電気絶縁性材料から成ることが好ましい。
【0018】
本発明は、また、プローブを有する走査型プローブ顕微鏡用の迅速軸走査ステージを作動させる方法であって、試料を有する試料ステージを提供するステップと、ステージ上の試料をプローブに対して変位させるステップとを備える上記方法も含むものである。1つの好ましい形態において、ステージをその共振振動数にて駆動すれば変位が生ずる。ステージの共振振動数は、プローブの共振振動数の約1/100であることが好ましい。
【0019】
従って、本発明の1つの特徴は、走査方向のすべての方向変換に関する人為的欠陥が存在しない迅速走査ステージを提供することである。本発明の更なる特徴は、数kHzの速度にて迅速線走査を完了することができ、また、方向変更に関する人為的欠陥が存在しない走査ステージを提供することである。本発明の更なる特徴は、低(約100ボルト以下の)電圧が走査要素に印加されたとき、約1ミクロン程度の走査振幅を有する走査ステージを提供することである。本発明の上記及びその他の特徴並びに有利な効果は、以下の詳細な説明、添付図面及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0020】
次に、同様の要素を同様の参照番号で示す添付図面を参照しつつ、単に一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】1Aは、従来技術の走査要素と、基板上をラスター走査するプロ−ブとを示す概略図である。1Bは、時間(t)の関数として所望の迅速走査方向への変位X(t)を表すプロット図である。1Cは、変位を実現し得るよう選ばれた電圧波形を使用して時間関数として所望の迅速走査の方向の変位X(t)を表すプロット図である。1Dは、走査中の方向変更点における走査要素の共振を示す実際のX変位を表すプロット図である。
【図2】2Aは、本発明の1つの実施の形態に従った迅速走査ステージの概略平面図である。2Bは、所要位置にある走査プローブを示す概略立面図である。
【図3】3Aは、その共振周波数にて走査要素に付与された正弦波状駆動波形のプロット図である。3Bは、走査要素が共振状態(レスポンスは駆動体に対し90°位相変移させてある)にて駆動されたときの変位X(t)を表すプロット図である。
【図4】4Aは、1つの実施の形態による走査ステージが駆動されるときの4つのバイモルフ要素の変位を示す概略図である。4Bは、ステージの動力学に対する簡単なモデルの概略図である。
【図5】5Aは、X−Yラスター走査を実現し得るようにPZT積み重ね体と結合した1つの実施の形態による迅速走査ステージを示す概略図である。5Bは、X−Yラスター走査を実現し得るよう従来のチューブ走査要素と結合した1つの実施の形態による迅速走査ステージの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
迅速走査ステージの1つの実施の形態が図2に示されている。走査すべき試料は、例えば、セラミック、耐熱性ポリマー、又は陽極処理したアルミニウムのような、電気絶縁性材料から成る全体として平坦な板を備える試料ステージ21に固定される。該試料は、感熱両面接着剤又は熱可溶性接着剤により所要位置に固定することができる。ステージ21は、マサチューセッツ州のピエゾシステムズ(Piezo Systems)インクがT220という名称にて販売するジルコン酸チタン酸鉛(PZT)要素のような、4つのピエゾ曲げ要素(アクチュエータ)22を使用して不動の支持体23に固定される。
【0023】
組立体は、ピエゾ要素の曲げに相応する方向に均一に僅かに平行移動することのできる平行四辺形の走査要素を形成する。走査要素は、電気的に並列に接続され且つ、走査ステージを平行移動方向に変位させるため共振周波数にて正弦波状波形発生器20により駆動される。図2Bの立面図は、走査ステージ21に対する走査プローブ24の位置を示す。変換器25は、試料ステージ21に対するプローブ24の高さ(Z軸)を制御する。この時点にて、理解を容易にし及び明確化のため、迅速走査軸についてのみ説明する。以下に説明するように、第二の遅速走査軸の追加を具体化することができる。
【0024】
本発明の1つの面は、図3Aに示すような正弦波状駆動波形31を有するその共振周波数にて走査ステージ21を駆動することを可能にする。時間に依存する駆動力をFsin(ωt)にて表すならば、共振におけるレスポンスは、
【0025】
【数4】


により与えられ、ここでQは、ステージの機械的Q因子であり、Kは曲げ動作のためのばね定数である。このように、走査ステージのレスポンスもまた、偽共振が存在しない正弦波状である(図3Bの参照番号32)。その理由は、駆動力の導関数は、ラスタースキャンの方向変更点にて印加されたインパルスが存在しない平滑な共正弦波状関数であるからである。
【0026】
走査ステージの動作は、平行な電気的駆動体によって行なわれる4つのピエゾ曲げ要素の全ての曲げ変位を考慮することで更に説明することができる。これは図4Aに概略図的に示されている。自由共振(非駆動)は、4つの曲げ要素又はアクチュエータ42の全てに対する走査ステージ41の動作に相応する。しかし、このようにして4つの曲げ要素の全てが駆動されるとき、1つの要素が他の何れかにより加速され又は減速されるようにする相互作用は存在しない。このように、この動作は、一端にて不動面44に取り付けられ(図4B)、また、他端45にて自由に動くが、試料ステージの質量体43が装填された任意の1つの曲げ要素42の自己共振と等価的である。
【0027】
図示した曲げ要素42の長さL、幅w、厚さtの項において(図4B参照)、自己共振は、次式にて与えられる(モルガンエレクトロセラミックス(Morgan Electro Ceramics)からの技術出版物TP−237)。
【0028】
【数5】


ここでY11は、短絡状態にて付与された曲げヤング弾性率であり、ρは材料の密度である。非装填状態にある曲げ要素(すなわち試料ステージの質量m=0)の場合、曲げ要素の幾何学的形態は次式のようになる。
【0029】
【数6】


ここでMは曲げ要素の質量である。
【0030】
ステージの質量が追加されるとき、Mは、αmにより置換することができ、ここにおいて、mは、ステージの質量であり、αは、この単純なモデル内の質量の分布と実際の質量の分布との差を反映する単位量の程度に基づく因子である。システムに対する曲げばね定数の項にて表わせば、次式となる。
【0031】
【数7】


PZT5Bバイモルフ材料(モルガンエレクトロセラミックスからの技術出版物TP−237)の場合、Y11は、6×1010N/mである。
【0032】
図2A及び図2Bに示した試料ステージの実際的な実施例の一例として、マサチューセッツ州のピエゾシステムインク(Piezo Systems Inc.)が製造するT220ピエゾ要素22を4つ有するステージ21について検討する。これらの要素の寸法は、t=0.5mm及びw=1mmである。各要素の自由部分の便宜な長さは、6mmである(但し、この寸法は容易に短くできる)。使用可能な試料ステージは、厚さ1mmの陽極処理したアルミニウムの1cm×1cmのスラブから出来たものとすることができる。この試料ステージは、0.26gmの質量を有する。
【0033】
kが4×10N/mと等しくなるよう計算し、α=1とし、また、ステージの質量と比較して曲げ要素の質量を無視して、等式2は、f=2kHzであると予測する。これらの材料にて製造された実際のステージは、平行移動動作に対して2.8kHzの測定された自己共振を有し、このため、αは、経験的に、0.51であると決定されることが分かった。このため、自己共振周波数に対する経験的関係は、次式となる。
【0034】
【数8】


mは、ステージの質量である。
【0035】
共振時の最高変位振幅は、低周波数における変位振幅のQ倍に等しい。4つの曲げ要素は全て協働して作用するため、自由(無負荷)変位に対する等式2を使用することができる。これは、非線形に対する僅かな補正及び金属製ベーンの厚さを無視して、これらの曲げ要素内に導入され、次式となる(モルガンエレクトロセラミックスからの技術出版物TP−237):
【0036】
【数9】


ここで、d31は、横断歪みを電界に対して関係付けるピエゾ歪み係数であり、Vは、印加されたバイアスである。共振時、等式4は、次式となる
【0037】
【数10】


ここで、Qは、機械的なQ因子である。商業的なPTZ5B製品の場合、d31=−1.8×10−10m/Vとなる。
【0038】
それ以前に使用した寸法(L=6mm、t=0.5mm)を利用し、
【0039】
【数11】


を計算する。これらの寸法にて製造した試料ステージの測定Qは、約2であり、このため、約80nm/ボルトの最大撓みが予想される。ステージの実際の撓みを干渉法により決定する結果、約10nm/Vの測定感度が得られた。この値は、推定値よりも低いが、満足し得るものであり、100Vのバイアスが印加されたとき、1μmの走査を許容する。
【0040】
試料ステージは、その1つを図5Aに示した多数の方法にて既存の原子間力顕微鏡(AFM)内に組み込むことができる。この場合、例えば、日本、東京のトーキン(Tokin)からAD0203D04という名称にて商業的に入手可能な要素のような、PZT積み重ね曲げ要素50を追加することにより、試料ステージは形態変更される。これらの要素は、ステージの全体を迅速走査軸に対して直角の方向に平行移動させる働きをする。これを実現するためには、例えば、要素50bのような他の積み重ね体が収縮するとき、例えば、要素50aのような曲げ要素の1つの積み重ね体を膨張させる。Y方向への走査は、コマ当たりの走査線の数に等しいファクタだけX方向の走査よりも遅いため、これらの積み重ね体は、従来の仕方にて駆動し、時間の線形関数である変位を実現することができる。積み重ね要素50の端部は、剛性なフレーム51に取り付けられる。試料(図示せず)は、走査ステージ21上に配置され且つ、力感知型カンチレバープローブ53の下、ラスタースキャンされる。一方、プローブは、該プローブを図示するように、垂直軸に沿って動かすことのできるZ軸アクチュエータ52によって配置される。
【0041】
迅速な走査ステージの全ての可能性を実現するため、上述したアンドーその他の者により記述されたもののような、小型のカンチレバー及び迅速なサーボ制御機構を使用すべきである。しかし、既存のAFMsは、数N/mのばね定数にて50kHzで水中にて共振する従来のカンチレバーにて作動させることができる。このため、X軸線方向に100のデータ点を取得し且つ、振動周期毎に1回サンプリングする場合、500Hzの迅速走査ステージの共振周波数とするのが適している。像当たりの線が100本の場合、秒当たり5コマのデータを取得することができる。これは、標準的なビデオ速度より遅いが、既存の計測器に優る顕著な速度の向上を表わすものである。
【0042】
別の実施の形態において、従来のAFM(図5B)の迅速走査軸を簡単に不作動にし、迅速走査ステージをプローブの下方に配置する。次に、プローブを既存のスキャナ54により遅速走査方向(Y)及び高さ方向(Z)に向けてのみ動かすことができ、X軸動作は、迅速走査ステージ22、23により生成させる。この実施の形態は、従来の(遅速)AFMに改装取り付けした本発明の迅速走査試料ステージを使用して顕著な速度の増加を得るための極めて簡単な1つの方法を表わす。トポグラフィにおける局部的変化を迅速な速度で記録するため生の撓み(又は振幅)データを収集しつつ、プローブの全体的な位置を制御するため遅速の高さサーボレスポンスを使用することにより、優れた結果を得ることができる。
【0043】
本発明による迅速走査ステージの全ての可能性を実現するため、該ステージは、上述したアンドーその他の者が記述した計測器のような小型のプローブから信号を検出するため、回折制限式光学素子を使用する計測器内に組み込むことができる。
【0044】
共振走査型ステージは、走査は非線形であるため、時間的に等間隔にて取得したデータは、変位的な等間隔に相応しないという不利益な点がある。しかし、この問題点は周知であり、取得後、データを処理するアルゴリズムを使用することにより解決できる。その開示内容を参考として引用し本明細書に含めた、リンドセイ(Lindsay)及びジング(Jing)の米国特許明細書5,805,448号には、これらの方法及びアルゴリズムが記載されている。
【0045】
本発明を示す目的のため、特定の代表的な実施の形態及び詳細について説明したが、当該技術分野の当業者には、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲から逸脱せずに本明細書に開示した方法及び装置の色々な変更が具体化可能であることが明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブを有する走査型プローブ顕微鏡用の迅速走査ステージにおいて、少なくとも1つの平行移動の軸線を有する試料ステージと、前記ステージを前記プローブに対して変位させる手段とを備える、迅速走査ステージ。
【請求項2】
請求項1に記載の迅速走査ステージにおいて、前記試料を変位させる前記手段は、前記ステージを支持する少なくとも1つのアクチュエータ要素と、該少なくとも1つのアクチュエータ要素を作動させる正弦波形発生器とを備える、迅速走査ステージ。
【請求項3】
請求項2に記載の迅速走査ステージにおいて、前記試料を変位させる前記手段は、前記ステージを支持する4つのアクチュエータ要素を備える、迅速走査ステージ。
【請求項4】
請求項2に記載の迅速走査ステージにおいて、前記プローブに対する前記試料の平行移動に対応する共振振動周波数にて駆動されることにより変位されるようになされている、迅速走査ステージ。
【請求項5】
請求項3に記載の迅速走査ステージにおいて、四角形又は矩形の形態を有し、その隅部の各々が、前記アクチュエータ要素の1つにより支持されている、迅速走査ステージ。
【請求項6】
請求項5に記載の迅速走査ステージにおいて、前記アクチュエータ要素が、平行四辺形の走査要素を形成している、迅速走査ステージ。
【請求項7】
請求項6に記載の迅速走査ステージにおいて、前記アクチュエータ要素が、電気的に並列に接続されている、迅速走査ステージ。
【請求項8】
請求項2に記載の迅速走査ステージにおいて、前記少なくとも1つのアクチュエータ要素が、積み重ねられた曲げ要素を備えている、迅速走査ステージ。
【請求項9】
請求項2に記載の迅速軸走査ステージにおいて、前記少なくとも1つのアクチュエータ要素が、PZTバイモルフを備えている、迅速軸走査ステージ。
【請求項10】
請求項3に記載の迅速軸走査ステージにおいて、前記少なくとも1つのアクチュエータ要素が、PZTバイモルフを備えている、迅速軸走査ステージ。
【請求項11】
請求項1に記載の迅速軸走査ステージにおいて、セラミック、耐熱性ポリマー及び陽極処理したアルミニウムから成る群から選ばれた材料から成る、迅速軸走査ステージ。
【請求項12】
プローブと、迅速走査ステージとを有する走査型プローブ顕微鏡において、前記迅速走査ステージは、少なくとも1つの平行移動の軸線を有する試料ステージと、該ステージを支持して該ステージを前記プローブに対して変位させる少なくとも1つのアクチュエータ要素とを備えている、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項13】
プローブを有する走査型プローブ顕微鏡用の迅速走査ステージを作動させる方法において、試料を有する試料ステージを提供するステップと、前記ステージを前記プローブに対して変位させるステップとを備える、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記変位は、前記ステージをその共振周波数にて駆動することにより行われる、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記ステージの共振周波数は、前記プローブの共振周波数の約1/100である、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−8132(P2012−8132A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162343(P2011−162343)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【分割の表示】特願2005−509973(P2005−509973)の分割
【原出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【出願人】(500054721)アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ (4)