説明

走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法及び装置

【課題】本発明は走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法及び装置に関し、任意のリフト量を設定した際、最適なカンチレバ加振電圧を自動的に求めることができる走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】走査プローブ顕微鏡で、試料表面の形状を測定後、試料20とカンチレバ1間の距離を変化させて試料表面の磁気力測定を行なう磁気力測定装置において、磁気力測定の前に、カンチレバ1の加振電圧と試料20とカンチレバ間の距離の関係を求めて記憶しておく記憶手段と、試料20のリフト量を設定して磁気力測定を行なう際、設定したリフト量に対応するカンチレバ加振電圧を前記関係から求めて現加振電圧を修正する加振電圧修正手段、とを具備して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法及び装置に関し、更に詳しくは任意のリフト量を設定した際に、最適なカンチレバ加振電圧を自動的に求めることができるようにした走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)は、カンチレバ先端と試料表面の間に働く原子間力を検出し、この原子間力が一定となるようにフィードバックを行ないながら試料を走査し、試料の表面形状を得る装置である。このAFMには、多くの測定モードがあり、カンチレバ先端を試料とコンタクトさせるコンタクトモードAFM、カンチレバを振動させながら試料に近付け、カンチレバの振幅が一定となるように測定するACモードAFM(Tapping Mode)、カンチレバを試料表面に接触させずに測定するノンコンタクトモードAFMが代表的なものである。
【0003】
図2はACモードAFMの構成例を示す図である。FMデモジュレータ5でアッテネータ6を駆動し、該アッテネータ6で所定の減衰を行わせたものでカンチレバ1に取り付けられたPZT2を駆動する。この結果、カンチレバ1は一定出力で加振され、振動を始める。この場合において、カンチレバ1の先端部にレーザダイオード(LD)4からの光がスポットでくるようにレーザダイオード4とカンチレバ1の機械的位置の調整を行なう。
【0004】
このように、機械的位置の調整が終了したカンチレバ1から反射したレーザ光をフォトディテクタ(PD)3で検出する。該フォトディテクタで検出された信号は、電気信号に変換され、プリアンプ7でフィルタ処理された後、増幅されRMS−DCコンバータ8に入り、直流の実効値に変換される。
【0005】
この際、カンチレバ1に印加する波形と、フォトディテクタ3で検出した波形の間には位相差が生じているため、RMS−DCコンバータ8から出力される電圧値が最大になるようにFMデモジュレータ(D−PLL)5で位相の調整を行なう。次に、RMS−DC値が基準電圧発生器9の出力と同じ値になるまで、誤差アンプ(エラーアンプ)10の出力でフィードバック回路11を駆動する。このフィードバック回路11の出力(トポグラフィー)は、A/D変換器12に入りデジタルデータに変換される。このA/D変換器12の出力は、パソコン(PC)13に入る。
【0006】
該パソコン13からはモータ14を駆動する信号が出力され、モータ14はRMS−DC値が基準電圧発生器9の出力と同じになるまでステージ15をカンチレバ1に近付ける。以上がアプローチ動作である。このアプローチが完了した状態で、スキャナ16に走査電圧を印加し、エラーアンプ10の出力が0になるようにフィードバック回路11を動作させ、測定を行なう。この場合の走査において、スキャナ16のXY方向の走査は、スキャンジェネレータ17からの信号を受けて、HVアンプ18でスキャナ16を駆動することにより行われる。
【0007】
一方、Z軸方向の駆動は、フィードバック回路11の出力を受けるHVアンプ19の出力をスキャナ16に印加することにより行なう。なお、必要に応じて試料20にバイアスを印加するための電圧がバイアスアンプ21から与えられる。該バイアスアンプ21はパソコン13からの制御信号で駆動される。
【0008】
MFMの測定は図3に示すように(a)に示すように試料20の表面とカンチレバ1との距離を縮めた状態で原子間力を用いて表面形状像を先ず初めに測定を行ない、次に同じ走査線上をスキャナとカンチレバの間を任意の設定分量だけ変化させ(例えはリフトアップ)、図2で使用している位相信号(磁気パターン信号:MFM信号)を検出する。リフトアップしてMFM信号を検出するのは、試料20の近傍では原子間力が強く試料のMFM像を検出することができないからである。試料20の表面とカンチレバ1の距離を離すと、原子間力の影響を排除した形でMFM信号を得ることができる。前記位相信号は、FMデモジュレータ5の出力に表れる。磁気力は微弱であるので、表面形状像には表れず、表面の状態を高分解能で検出できる。(b)に示す状態で測定すると、磁気パターン像を得ることができ、FMデモジュレータ5の出力から位相信号が出力され、FMデモジュレータ5からの位相信号がMFM信号となる。
【0009】
カンチレバ1をリフトアップして磁気パターン像(MFM像)を見る時は、フィードバック回路11からZ方向のHVアンプをホールド状態にしておき、測定する。試料20とカンチレバ1間の距離が変動すると、正確なMFM像を得ることができないためである。この信号をX,Yスキャンと同期して輝度変調をかけるとMFM像を得ることができる。そして、装置の表示画面には、表面形状像とMFM像が表示される。これにより、表面形状像と対応した位置のMFM像を観察することが可能となる。
【0010】
従来のこの種の装置としては、高分解能観察可能なFM検出法による磁気力の影響を含んだ凹凸像と、スロープ検出法またはコンタクトモードによる磁気力の影響を殆ど含まない凹凸像を得、これらの両凹凸像の差分から磁気力像を得るようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−160333号公報(段落0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
MFM測定の際には、試料とカンチレバ間の距離を変化させて測定を行なうため、発振調整終了後のカンチレバの状態(カンチレバの振幅値)が変化する。特にカンチレバと試料間が離れる場合、カンチレバの振幅値が大きくなり、発振状態となるため、見た目がいいMFM像を取得することができない。このような問題を解決するために、MFM像を取得する際に、カンチレバの振幅値を再度設定する方法が採用されている。しかしながら、手動で行われてるものが多く、測定を完了するまでに手間がかかるという問題がある。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、磁気力像を測定する前に、カンチレバ加振電圧と試料間距離の関係式を求めることで、任意のリフト量を設定した際、最適なカンチレバ加振電圧を自動的に求めることができる走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
【0015】
(1)請求項1記載の発明は、走査プローブ顕微鏡で、試料表面の形状を測定後、試料とカンチレバ間の距離を変化させて試料表面の磁気力測定を行なう磁気力測定方法において、磁気力測定の前に、カンチレバの加振電圧と試料とカンチレバ間の距離の関係を求めておき、試料のリフト量を設定して磁気力測定を行なう際、設定したリフト量に対応するカンチレバ加振電圧を前記関係から求めて現加振電圧を修正する、ようにしたことを特徴とする。
【0016】
(2)請求項2記載の発明は、試料表面形状測定モード時にカンチレバの加振電圧を変化させてカンチレバの振幅値を測定して加振電圧と振幅値の関係を求め、更に設定値だけでステージモータを移動させた後、カンチレバと試料間距離を変化させてカンチレバの振幅値を測定して距離と振幅値の関係を求め、該関係を前記加振電圧と振幅値とからカンチレバ加振電圧と試料とカンチレバ間の関係式を求めることを特徴とする。
【0017】
(3)請求項3記載の発明は、走査プローブ顕微鏡で、試料表面の形状を測定後、試料とカンチレバ間の距離を変化させて試料表面の磁気力測定を行なう磁気力測定装置において、磁気力測定の前に、カンチレバの加振電圧と試料とカンチレバ間の距離の関係を求めて記憶しておく記憶手段と、試料のリフト量を設定して磁気力測定を行なう際、設定したリフト量に対応するカンチレバ加振電圧を前記関係から求めて現加振電圧を修正する加振電圧修正手段、とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下に示すような効果を奏する。
【0019】
(1)カンチレバの加振電圧と試料とカンチレバ間の距離の関係を求めておき、試料のリフト量を設定して磁気力測定行なう際、設定したリフト量に対応するカンチレバ加振電圧を前記関係から求めて現加振電圧を修正するようにしたので、任意のリフト量を設定した際、最適なカンチレバ加振電圧を自動的に求めることができる走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法を提供することができる。
【0020】
(2)請求項2記載の発明によれば、カンチレバと試料間距離を変化させてカンチレバの振幅値を測定して距離と振幅値の関係を求め、該関係を前記加振電圧と振幅値とからカンチレバ加振電圧と試料とカンチレバ間の関係式を求めることができる。
【0021】
(3)カンチレバの加振電圧と試料とカンチレバ間の距離の関係を求めておき、試料のリフト量を設定して磁気力測定行ない際、設定したリフト量に対応するカンチレバ加振電圧を前記関係から求めて現加振電圧を修正するようにしたので、任意のリフト量を設定した際、最適なカンチレバ加振電圧を自動的に求めることができる走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】MFM測定アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図2】ACモードAFMの構成例を示す図である。
【図3】MFMの測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
本発明は、先ず初めにカンチレバの発振自動調整を行った際に、カンチレバ振幅値と加振電圧の関係を取得する。次に、AC−AFMでアプローチ状態(カンチレバが試料表面に近づき、試料表面の観察が行なえる状態)にし、フォースカーブ(磁気力カーブ)測定を行なうものである。図1はMFM測定アルゴリズムを示すフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って本発明の動作を説明する。そのシステム構成は、図2に示すものと同じである。
(S1):AC−AFMでカンチレバ加振設定
a)カンチレバ1を測定機器にセットし、カンチレバ1の先端にレーザダイオード4のレーザフォーカスを合わせる。
b)フォトディテクタ3の出力を受けて調整し、装置の自動調整ができる環境にする。
c)基準電圧発生器9の基準電圧を設定する。
(S2):リファレンス値の算出・位相の調整
図2に示す装置は、リファレンス(基準)値を図示しないキーボードから設定して基準電圧発生器9から出力する。そして、その時のフォトディテクタ3の出力がプリアンプ7を経由してRMS−DC変換器8でRMS−DC値が出力され、誤差アンプ10に入り、該誤差アンプ10で双方の入力端子から入力される。
【0025】
誤差アンプ10には、RMS−DC値が一方の入力に、基準電圧発生器9の出力が他方の入力に入る。そして、該誤差アンプ10は双方の入力信号の値が等しくなるようにフィードバック回路11でトポロジ像として出力し、高電圧(HV)アンプ19に印加され、スキャナ16を駆動する。この結果、RMS−DC変換器8の出力であるRMS−DC信号と、基準電圧発生器9の出力である基準電圧Vsが等しくなるようにフィードバック回路11により調整されることになる。
【0026】
このように自動調整が終了した時点でのカンチレバ1の加振電圧が求まることになる。
(S3):カンチレバへ供給する加振電圧を変化させその際のカンチレバ振幅値の測定
カンチレバ1へ供給する加振電圧を0〜10Vまで可変させて、その時のカンチレバ1の振幅値を取得する。この加振電圧の値とカンチレバ1の振幅値のデータは、パソコン13内のメモリに記憶させておく。
(S4):モータアプローチ開始
カンチレバ1の振幅の自動調整終了後、RMS−DC変換器8の出力が設定した基準値になるようにパソコン13からモータ14を駆動する。
(S5):指定基準値
RMS−DC変換器8の出力が指定した基準値に到達した場合、パソコン13はモータ14のZ軸方向のモータ14の動作を停止させる。
(S6):モータアプローチ停止
(S7):フォースカーブ測定
カンチレバ1と試料20間の距離を現在位置より数10nm変化させ、フォースカーブ(磁気力)を測定する。
(S8):関係式の導出
ステップS3とS7より、カンチレバ加振電圧と試料間距離の関係式を取得する。取得した関係式はパソコン13内の図示しないメモリに記憶される。
(S9):測定開始
試料20若しくはカンチレバ1をスキャンし、試料20の表面形状を測定する。試料表面形状の画像は、図3の(a)に示す配置で行なう。
(S10):MFM測定を行ない、リフト量を設定する。
【0027】
このリフト量の設定は、パソコン10に付属のキーボード等からオペレータがマニュアルで行なう。ステップS9の状態で、MFM像を測定するためにリフト量を設定する。カンチレバ1が試料20と接近している状態では、原子間力のためにMFM像を測定することができない。そこで、カンチレバ1を試料20から離して原子間力の影響の及ばない状態にリフト量を設定する必要がある。
(S11)カンチレバ加振電圧の再計算
a)ステップS8の関係式を使用して、設定されたリフト量からカンチレバ1の加振電圧を求める。つまり所定のリフト量を得るためのカンチレバ1の加振電圧を求めるものである。
b)a)の値と、現在設定されているカンチレバ加振電圧と比較を行なう。
c)b)で求まる増加分を、ステップS2で設定されているカンチレバ加振電圧から減算し、現リフト時のカンチレバ加振電圧として再設定する。
(S12)求める画像か
a)現在設定しているリフト量で、明確なMFM像が求められているかどうか検証し、求めているMFM像が取得されていない場合には、
(S13):リフト量を変更する。
【0028】
リフト量を変更する指示はステップS11に戻され、カンチレバ加振電圧の再計算シーケンスに入る。
(S14):測定完了
明確なMFM像が取得された場合、測定を終了する。
【0029】
このように本発明によれば、磁気像を測定する前に、カンチレバ加速電圧と試料間距離の関係式を求めることで、任意のリフト量を設定した際、最適なカンチレバ加振電圧を自動的に求めることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 カンチレバ
2 PZT
3 フォトディテクタ
4 レーザダイオード
5 FMデモジュレータ
6 アッテネータ
7 プリアンプ
8 RMS−DCコンバータ
9 基準電圧発生器
10 誤差アンプ
11 フィードバック回路
12 A/Dコンバータ
13 パソコン
14 モータ
15 ステージ
16 スキャナ
17 スキャンジェネレータ
18 HVアンプ
19 HVアンプ
20 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査プローブ顕微鏡で、試料表面の形状を測定後、試料とカンチレバ間の距離を変化させて試料表面の磁気力測定を行なう磁気力測定方法において、
磁気力測定の前に、カンチレバの加振電圧と試料とカンチレバ間の距離の関係を求めておき、
試料のリフト量を設定して磁気力測定を行なう際、設定したリフト量に対応するカンチレバ加振電圧を前記関係から求めて現加振電圧を修正する、
ようにしたことを特徴とする走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法。
【請求項2】
試料表面形状測定モード時にカンチレバの加振電圧を変化させてカンチレバの振幅値を測定して加振電圧と振幅値の関係を求め、更に設定値だけでステージモータを移動させた後、カンチレバと試料間距離を変化させてカンチレバの振幅値を測定して距離と振幅値の関係を求め、該関係を前記加振電圧と振幅値の関係とからカンチレバ加振電圧と試料とカンチレバ間の関係式を求めることを特徴とする請求項1記載の走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定方法。
【請求項3】
走査プローブ顕微鏡で、試料表面の形状を測定後、試料とカンチレバ間の距離を変化させて試料表面の磁気力測定を行なう磁気力測定装置において、
磁気力測定の前に、カンチレバの加振電圧と試料とカンチレバ間の距離の関係を求めて記憶しておく記憶手段と、
試料のリフト量を設定して磁気力測定を行なう際、設定したリフト量に対応するカンチレバ加振電圧を前記関係から求めて現加振電圧を修正する加振電圧修正手段、
とを具備することを特徴とする走査プローブ顕微鏡を用いた試料の磁気力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−18076(P2012−18076A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155529(P2010−155529)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)