説明

走査型光学装置

【課題】簡易な構成で、高精度なレーザ光の走査を行うことが可能な走査型光学装置を提供すること。
【解決手段】レーザ光を射出する光源装置11と、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、光源装置11から射出されるレーザ光を被投射面に向かって走査する電気光学素子21と、少なくとも電気光学素子21から射出されたレーザ光を集光させるとともに、電気光学素子21の電界方向に沿って集光率が異なる集光素子26を有しレーザ光のビーム径を可変させる径可変光学系とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光などのビーム状の光を被投射面上でラスタースキャンして画像を表示する走査型画像表示装置が提案されている。この装置では、レーザ光の供給を停止することで完全な黒を表現できるため、例えば液晶ライトバルブを用いたプロジェクタ等に比べて高コントラストの表示が可能である。また、レーザ光を使用した画像表示装置は、レーザ光が単一波長であるために色純度が高い、コヒーレンスが高いためにビームを整形しやすい(絞りやすい)等の特性を持つことから、高解像度、高色再現性を実現する高画質ディスプレイとして期待されている。また、走査型画像表示装置は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどと異なり、固定された画素を持たないため、画素数という概念がなく、解像度を変換し易いという利点も持っている。
【0003】
走査型画像表示装置で画像を生成するには、ポリゴンミラー、ガルバノミラーなどのスキャナを用いて光を2次元に走査する必要がある。1個のスキャナを水平方向、垂直方向の2方向に振りつつ光を2次元に走査する方法もあるが、その場合、走査系の構成や制御が複雑になるという問題がある。そこで、光を1次元に走査するスキャナを2組用意し、各々に水平走査と垂直走査を受け持たせるようにした走査型画像表示装置が提案されている。従来は、双方のスキャナともにポリゴンミラーやガルバノミラーを使用するのが普通であり、双方のスキャナに回転多面鏡(ポリゴンミラー)を用いた投写装置が下記の特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平1−245780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1ではポリゴンミラーを用いた装置が紹介されているが画像フォーマットの高解像度化に伴い、スキャン周波数も高くなってきており、ポリゴンミラーやガルバノミラーでは限界を迎えつつある。そこで、近年、高速側のスキャナにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したシステムが発表されている。MEMS技術を利用したスキャナ(以下、単にMEMSスキャナという)とは、シリコン等の半導体材料の微細加工技術を用いて製作するものであり、トーションバネ等で支持したミラーを静電力等により駆動するものである。このスキャナは、静電力とバネの復元力との相互作用でミラーを往復運動させて、光を走査することができる。MEMSスキャナを用いることにより、従来のスキャナに比べて高周波数、大偏角のスキャナを実現することができる。これにより、高解像度の画像を表示することが可能になる。
【0005】
ところで、高速のMEMSスキャナを実現するには、ミラーを共振点で往復運動させなければならないため、光利用効率などを考えると、走査線が視聴者から見て左から右へスキャンした後に、次の走査線は右から左にスキャンする(両側スキャン)システムとなる。
一方、画像信号はCRT(Cathode Ray Tube)をベースに規格が決まっているため、左から右へスキャンした後は短い時間で左に戻り、再度右へスキャンする(片側スキャン)に合わせたフォーマットとなっている。したがって、MEMSスキャナの場合、一部のデータは入力された信号の順番を反転して表示しなければならないため、信号の制御が複雑となる。
そこで、MEMSスキャン以外の走査手段としては、電気光学(EO:Electro Optic)スキャナが考えられる。EOスキャナとはEO結晶に電圧を加えることにより、その結晶中を透過する光の進行方向を変える素子である。このようにEOスキャナでは、電圧によりスキャン角を制御できるので、CRTと同様に片側スキャンによる描画が可能となる。
【0006】
また、EOスキャナとは、EO結晶に電圧を印加することにより電子が注入され電子分布に偏りが生じる。そのため、カー効果による屈折率変化にも分布が生じ、入射された光が屈折率の高い側に曲がっていくので、光の走査を可能にしている。また、EO結晶内部の屈折率分布の傾きが、電子注入量、つまり、印加電圧によるため、印加電圧を変化させることで、EO結晶から射出される光のスキャン角度を制御することができる。
【0007】
しかしながら、EOスキャナ100は、光の屈折を利用したスキャナのため、図7に示すように、所定の電圧を印加した時のEO結晶から射出される光は、屈折率の高い側の方が僅かに屈折率が大きいため、スキャン角が大きくなってしまう。その結果、電圧無印加時におけるEO結晶101から射出される光のビーム径C1に比べて、電圧印加時におけるEO結晶101から射出される光のビーム径C2の方が大きくなってしまう。しかも、印加電圧を上げるほど、EO結晶101から射出される光のスキャン角は大きくなり、ビーム径C3はビーム径C2に比べてさらに大きくなるという問題が生じる。このようなスキャナを表示装置に用いると、被投射面の端に行くほど画素が大きくなってしまう。
【0008】
例えば、EO結晶としてカー効果を有する結晶を用いた場合、図8に示すように、EO結晶に所定の電圧を印加したときの光束について見てみると、EO結晶101の内部を進行する光の上端102の光線のスキャン角θ1は2.95度であり、中央(光軸)103の光線のスキャン角θ2は5.96度であり、下端104の光線のスキャン角θ3は8.92度である。すなわち、屈折率が高い側(下端104)の光線に向かうに連れてスキャン角が大きくなってしまうため、EO結晶に電圧を印加したときに射出されるレーザ光のビーム径は大きくなってしまう。また、EO結晶としてポッケルス効果を有する結晶を用いた場合、カー効果を有するEO結晶ほどではないが、屈折率が高い側の光のスキャン角が最も大きくなる。その結果、同様に、EO結晶に電圧を印加したときに射出されるレーザ光のビーム径は大きくなってしまう。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、簡易な構成で、高精度なレーザ光の走査を行うことが可能な走査型光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の走査型光学装置は、レーザ光を射出する光源装置と、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記光源装置から射出されるレーザ光を被投射面に向かって走査する電気光学素子と、少なくとも前記電気光学素子から射出されたレーザ光を集光させるとともに、前記電気光学素子の電界方向に沿って集光率が異なる集光素子を有し前記レーザ光のビーム径を可変させる径可変光学系とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子に電圧を印加することにより内部に電界が生じる。この電界により、電気光学素子の屈折率分布が一方向に向かって連続的に増加あるいは減少する。このため、電気光学素子の内部に生じる電界と垂直な方向に進行するレーザ光は、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられ、電気光学素子の射出端面から射出される。そして、電気光学素子から射出されたレーザ光は、ビーム径可変光学系を通過する。
このとき、電圧無印加時の電気光学素子を通過し射出されるレーザ光のビーム径と、電圧印加時の電気光学素子を通過し射出されるレーザ光のビーム径とは異なる。また、電気光学素子に印加させる電圧を変化させた時も、印加電圧の値に応じて射出される光のビーム径は異なる。ここで、ビーム径可変光学系の集光素子により、電気光学素子から射出されるレーザ光のビーム径は集光される。すなわち、電気光学素子に電圧が印加され、電気光学素子から射出される光のビーム径が大きくなった場合でも、電気光学素子から射出される光は、電気光学素子の電界方向に沿って集光率の異なる集光素子により集光され、ビーム径が小さくなる。これにより、電気光学素子に電圧を印加しても同じ大きさ(一定の大きさ)のビーム径の光を走査することができるため、高精度なレーザ光の走査を行うことが可能となる。
【0012】
本発明の走査型光学装置は、前記ビーム径可変光学系は、前記集光素子により、所定の距離での前記レーザ光のビーム径が一定になるようにレーザ光を集光することが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子から射出されたレーザ光は、ビーム径可変光学系の集光素子により、所定の距離、例えば、スクリーン上でのレーザ光のビーム径が一定になるように集光される。このように、集光素子の光学設計を行うことにより、所定の位置で同じ大きさのビーム径を走査することが可能となる。
【0013】
また、本発明の走査型光学装置は、前記ビーム径可変光学系が前記集光素子により集光されたレーザ光を平行化する平行化手段を備えていることが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子から射出され集光素子により集光された光は、平行化手段により平行光となる。すなわち、電気光学素子から射出されたレーザ光が投射される被投射面と電気光学素子との距離に関わらず、一定の大きさのビーム径の光を被投射面に向かって走査することができる。
【0014】
また、本発明の走査型光学装置は、前記ビーム径可変光学系を当該ビーム径可変光学系の光軸に対して平行に移動させる移動機構が設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子と被投射面との距離が変化した場合、ビーム径可変光学系は移動機構によりビーム径可変光学系の光軸に対して平行に移動される。これにより、電気光学素子から射出されたレーザ光は、ビーム径可変光学系により、被投射面においてレーザ光のビーム径が同じになるように集光される。したがって、一定の大きさのビーム径のレーザ光を被投射面に向かって走査することができるため、例えば、本発明の走査型光学装置を画像表示装置として用いた場合、高画質な画像を被投射面に表示させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の走査型光学装置は、前記ビーム径可変光学系が、前記電気光学素子から射出された光の単位時間あたりの前記被投射面における走査距離が前記電気光学素子から射出されるレーザ光の偏角によらず一定となるようにレーザ光を集光させることが好ましい。
【0017】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子から射出された光は、ビーム径可変光学系により、単位時間あたりの被投射面における走査距離が同じになるようになるように走査される。これにより、電気光学素子から射出されたレーザ光は、被投射面上を等速で走査される。このため、本発明では、特に走査型光学装置を画像表示装置として用いた場合、非等速で走査されたときに生じる被投射面における画像の歪みが発生することがない。したがって、高画質な画像を被投射面に表示することが可能となる。
【0018】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子が水平走査を行うことを特徴とすることが好ましい。
【0019】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が水平走査を行い、垂直走査として例えば、安価なガルバノミラー等を用いることにより、安価かつ高性能な走査型光学装置を実現することができる。
なお、ここで言う「水平走査」とは、2方向の走査のうち、高速側の走査であり、垂直走査とは低速側の走査である。
【0020】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することが好ましい。
【0021】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が、高い誘電率を有する誘電体材料であるKTa1−xNb3(タンタル酸ニオブ酸カリウム)の組成を有する結晶である(以下、KTN結晶と称す)。KTN結晶は、立方晶から正方晶さらに菱面体晶へと温度により結晶系を変える性質を有しており、立方晶においては、大きい2次の電気光学効果を有することが知られている。特に、立方晶から正方晶への相転移温度に近い領域では、比誘電率が発散する現象が起こり、比誘電率の自乗に比例する2次の電気光学効果はきわめて大きい値となる。したがって、KTa1−xNb3の組成を有する結晶は、他の結晶に比べて屈折率を変化させる際に必要になる印加電圧を低く抑えることが可能となる。これにより、省電力化を実現可能な走査型光学装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る走査型光学装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0023】
[第1実施形態]
走査型光学装置1は、図1に示すように、レーザ光を射出する光源装置(LD:レーザダイオード)11と、光源装置11から射出されたレーザ光を走査する光走査部20とを備えている。
【0024】
光走査部20は、図1に示すように、光源装置11から射出されたレーザ光が入射する電気光学素子21と、電気光学素子21の射出端面21bから射出された光が入射されるビーム径可変光学系25とを備えている。
まず、電気光学素子の構成について説明する。
電気光学素子21は、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、光源装置11から射出されるレーザ光を走査するものであり、図1に示すように、第1電極22と、第2電極23と、光学素子24とを備えている。
【0025】
光学素子24は、電気光学効果を有する誘電体結晶(電気光学結晶)であり、本実施形態ではKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1−xNb3)の組成を有する結晶材料で構成されている。また、KTN結晶はカー効果(等方性材料に電場をかけると複屈折性が生じる現象であり、印加電圧により発生した電界の強さの二乗に比例する)を利用した結晶である。
また、光学素子24は、直方体形状であり、光学素子24の上面24aには第1電極22が配置され、下面24bには第2電極23が配置されている。この第1電極22及び第2電極23には、電圧を印加する電源Eが接続されている。また、第1電極22及び第2電極23は、図1に示すように、光学素子24内を進行するレーザ光Lの進行方向の寸法がほぼ同じである。これにより、第1電極22と第2電極23との間の光学素子24に電界が生じるようになっている。例えば、第2電極23より第1電極22に高い電圧が印加されると、第1電極22から第2電極23に向かって(矢印Pに示す方向)電界が生じる。その結果、電気光学結晶の屈折率は第1電極22から第2電極23に向かって高くなる。
【0026】
また、光学素子24は、図1に示すように、電気光学素子21の入射端面21aの第1電極22に近い側からレーザ光を入射させるように配置されている。これにより、本実施形態の電気光学素子21は、入射したレーザ光を基準に片側に走査する片側走査を行う。つまり、電気光学素子21の屈折率分布により、光学素子24に入射したレーザ光は第2電極23側のみに曲げられるため、光学素子24の第1電極22側からレーザ光を入射させることにより、スキャン範囲を大きく取ることが可能となっている。
さらに、電気光学素子21は、光源装置11から射出されたレーザ光Lが入射端面21aに対して垂直に入射するように配置されている。
【0027】
次に、電気光学素子の動作について説明する。
第1電極22には、電源Eにより例えば+100Vの電圧が印加され、第2電極23には、電源Eにより例えば0Vの電圧が印加される。第1,第2電極22,23に電圧を印加することで、光学素子24には第1電極22から第2電極23に向かって電界が生じる。これにより、図1に示すように、光学素子24の屈折率は、第1電極22側が低くなり、第2電極23側に向かって屈折率が徐々に高くなる。これにより、光学素子24の内部に生じる電界方向Pと垂直な方向に進行するレーザ光は、偏向する。具体的には、電気光学素子21の入射端面21aから入射したレーザ光Lは、光学素子24の屈折率が高い第2電極23側に向かって曲げられる。
【0028】
次に、光源装置から射出されるレーザ光の走査について説明する。
第1電極22に印加される電圧の波形は、例えば、図2に示すように、鋸歯状の波形である。この初期値S1(0V)の電圧を第1電極22に印加すると、図1に示すように、光源装置11から射出され光学素子24を進行するレーザ光L0は直進し電気光学素子21の射出端面21bから射出される。
【0029】
また、第1電極22に印加する電圧値を、図2の電圧の波形に示すように徐々に上げると、光学素子24の屈折率勾配が大きくなる。これにより、第1電極22に印加する電圧を上げ徐々に最大の電圧値S2(+100V)まで上げると、図1に示すように、光源装置11から射出され光学素子24を進行するレーザ光Lは、光学素子24内において印加電圧の上昇とともに徐々に大きく屈折する。これにより、電気光学素子21の射出端面21bから射出される光は、スキャン範囲において電界方向Pと同じ方向に走査される。
なお、電気光学素子21に印加される印加電圧の値である初期値0V,最大電圧値+100Vは一例に過ぎず、電気光学素子21から射出される光の偏角の大きさや、光学素子24の厚みによって適宜変更が可能である。
【0030】
次に、ビーム径可変光学系について図1を参照して説明する。
なお、図1は、電気光学素子21から射出されスクリーン(被投射面)15に向かう光の光路図を分かり易く説明するために、電圧無印加時と、ある特定の電圧が印加されたときとの光の光路のみを示している。
ビーム径可変光学系25は、図1に示すように、集光レンズ(集光素子)26を備えている。また、集光レンズ26は、電界方向Aに沿って切ったときの断面形状が第1電極22側から第2電極23側に向かって漸次曲率半径が小さくなるレンズである。この集光レンズ26は、電気光学素子21の射出端面21bから射出されたレーザ光を集光させるとともに、電界方向Aに沿って集光率が異なるレンズであるため、レーザ光のビーム径を変化させることが可能となっている。具体的には、集光レンズ26は、光学素子24に電圧を印加したときのスクリーン15上でレーザ光Lのスポット径が同一径になるように集光させるものである。
【0031】
ところで、光学素子24に所定の電圧を印加したときのレーザ光Lは、上端L1側(第1電極22側)の光線に比べて下端L2側(第2電極23側)の光線の方が僅かに屈折率が大きい。これにより、光学素子24に電圧を印加していないときの電気光学素子21から射出されるレーザ光L0のビーム径Aに比べて、電圧を印加したときのレーザ光Lのビーム径B1の方が大きくなる。
ここで、電気光学素子21の射出端面21bから射出されるレーザ光Lは集光レンズ26を通過することにより集光されるため、スクリーン15上でレーザ光Lのスポット径(ビーム径)B2が、ビーム径Aと同一の大きさになる。
すなわち、電気光学素子21から射出されるレーザ光は、射出端面21bのどの位置から射出されても、集光レンズ26により、スクリーン15上でレーザ光のスポット径が同一になるように集光される。
なお、上記のレーザ光が進行する方向に直交する方向のレーザ光のスポット径と、スクリーン15上のレーザ光(スクリーン15の面方向のレーザ光)のスポット径とは厳密には異なる。しかしながら、レーザ光のビーム径は微小であるため、両者のスポット径は略同等と考えることができる。また、その微小な差を補正するように、進行する方向に直行する方向のレーザ光のスポット径をわずかに小さくするように集光してもよい。
【0032】
本実施形態に係る走査型光学装置1では、ビーム径可変光学系25を備えることにより、電気光学素子21に電圧が印加され、電気光学素子21から射出される光のビーム径が大きくなった場合、電気光学素子21から射出されるレーザ光Lは集光されビーム径が小さくなる。したがって、スクリーン15上のどの位置においてもレーザ光のスポット径は等しいものとなる。これにより、電気光学素子21に電圧を印加しても、同じ大きさ(一定の大きさ)のビーム径のレーザ光を走査することができるため、本実施形態の走査型光学装置を画像表示装置として用いた場合、スクリーン15上にボケの少ない高画質な画像を表示することができる。
つまり、本実施形態の走査型光学装置1は、簡易な構成で、高精度なレーザ光の走査を行うことが可能である。
なお、ビーム径可変光学系25を構成するレンズの枚数及び形状は集光レンズ26に示すものに限るものではない。
【0033】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態について、図3を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る走査型光学装置1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係る走査型光学装置30では、ビーム径可変光学系31の構成において第1実施形態と異なる。
【0034】
ビーム径可変光学系31は、集光レンズ(集光素子)32と、平行化レンズ(平行化手段)33とを備えている。集光レンズ32は、第1実施形態の集光レンズ26と同様に、電気光学素子21の射出端面21bから射出されたレーザ光を集光させ、レーザ光のビーム径を変化させるレンズである。
平行化レンズ33は、集光レンズ32の後段側に配置され、集光レンズ32により集光されたレーザ光を平行光に変換するレンズである。また、平行化レンズ33は、集光レンズ32のどの位置において集光されたレーザ光でも、同一のビーム径の平行光として射出させるレンズである。
【0035】
本実施形態に係る走査型光学装置30では、第1実施形態の走査型光学装置1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の走査型光学装置30では、平行化レンズ33により、電気光学素子21から射出されるレーザ光を平行光、かつ、同一のビーム径に変換する。したがって、電気光学素子21とスクリーン15との距離に関わらず、一定の大きさのビーム径をスクリーン15に向かって走査することができる。すなわち、スクリーン15の位置が変化する、例えば、フロント型のプロジェクタに好適に用いることが可能となる。
【0036】
[第2実施形態の変形例]
図3に示す第2実施形態では、スクリーン15上におけるレーザ光のスポット径を同一にする手段として、平行化レンズ33を用いたが、平行化レンズ33に代えて集光レンズ32に移動機構36が設けられた走査型光学装置35であっても良い。この移動機構36は、集光レンズ32をビーム径可変光学系の光軸O1に対して平行に移動させるものである。
例えば、図4に示すように、スクリーン15aが、電気光学素子21から離れる方向のスクリーン15bの位置に移動した場合、スクリーン15bでは、電気光学素子21から射出され集光レンズ32aにより集光されたレーザ光(破線)のスポット径は、光学素子24に電圧を印加していないときの電気光学素子21から射出されるレーザ光L0のビーム径Aに比べて小さくなってしまう。そこで、移動機構36により、集光レンズ32aを電気光学素子21から離れる方向の集光レンズ32bの位置に移動させる。これにより、スクリーン15bの位置において、電気光学素子21から射出されたレーザ光のスポット径B3をビーム径Aと同一の大きさにすることができる。
なお、本変形例の移動機構36を第2実施形態の走査型光学装置30に用い、ビーム径可変光学系31の全体または一部を移動させても良い。この構成では、移動機構36によりビーム径可変光学系31の全体または一部を移動させることで、スクリーン15におけるスポット径の大きさを均一に大きくしたり、均一に小さくしたりすることができる。
【0037】
[第3実施形態]
ビーム径可変光学系41は、図5に示すように、集光レンズ42及び平行化レンズ43により構成されている。このビーム径可変光学系41は、第2電極23側から射出されるレーザ光ほど屈折角が大きくなるように偏向させるものである。これにより、単位時間あたりのスクリーン15におけるレーザ光の走査距離が同じになるように補正するものである。
【0038】
ビーム径可変光学系41は、図5に示すように、集光レンズ42及び平行化レンズ43により構成されている。このビーム径可変光学系41は、ビーム径可変光学系41は、第2電極23側から射出されるレーザ光ほど屈折角が大きくなるように偏向させるものである。これにより、単位時間あたりのスクリーン15におけるレーザ光の走査距離が同じになるように補正するものである。
【0039】
ビーム径可変光学系41について具体的に説明する。
電気光学素子21から射出される光のうち、光学素子24に電圧を印加する直前の時刻T1における電気光学素子21から射出されるレーザ光を符号LT1で示す。
そして、例えば、時刻T1から時間t経過後の時刻T2における電気光学素子21から射出されるレーザ光を符号LT2で示す。さらに、時刻T2から時間t経過後の時刻T3における電気光学素子21から射出されるレーザ光を符号LT3で示す。
ここで、スクリーン15においてレーザ光LT1により照射される画素領域P1とレーザ光LT2により照射される画素領域P2との走査距離をQ1とする。また、スクリーン15においてレーザ光LT2により照射される画素領域P2とレーザ光LT3により照射される画素領域P3との走査距離をQ2とする。
【0040】
ところで、仮に、走査型光学装置40においてビーム径可変光学系41を備えていない場合、電気光学素子21から射出されるレーザ光の偏角は、第2電極23に近づくに連れて大きくなる。これにより、スクリーン15上の一端部を走査するレーザ光の速度の方が速くなり、スクリーン15に投射される画像が歪んでしまう。
そこで、本実施形態では、ビーム径可変光学系41が単位時間あたりのスクリーン15におけるレーザ光の走査距離が同じになるように補正するため、光学素子24の内部の屈折率変化により射出端面21bから射出されるレーザ光の偏角が異なっていても、電気光学素子21から射出されたレーザ光は、走査距離Q1と走査距離Q2とが同じ距離になるように補正される。その結果、電気光学素子21から射出されたレーザ光は、スクリーン15上を等速走査される。
【0041】
本実施形態に係る走査型光学装置40は、第1実施形態の画像表示装置1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の走査型光学装置40では、電気光学素子21から射出されたレーザ光は、スクリーン15上を等速で走査される。すなわち、第2電極23に近い射出端面21bから射出されるレーザ光ほど偏角が大きいため、スクリーン15に照射されるレーザ光の走査速度が速くなるが、本実施形態のビーム径可変光学系41を用いることにより、非等速で走査された場合に生じるスクリーン15上での画像の歪みが発生することがない。したがって、高画質な画像を表示することが可能となる。
なお、ビーム径可変光学系41を構成するレンズの枚数及び形状は、集光レンズ42及び平行化レンズ43に示すものに限るものではない。
【0042】
[第4実施形態]
次に、本発明に係る第4実施形態について、図6を参照して説明する。
第1実施形態では、単色の光源装置を用いた走査型光学装置であったが、本実施形態に係る走査型光学装置50は、3色の光源装置を用いて、スクリーンに画像を投影させる画像表示装置である。また、本実施形態に用いられる光走査部20は第1実施形態と同様の構成である。
【0043】
本実施形態に係る画像表示装置50は、図6に示すように、赤色のレーザ光を射出する赤色光源装置(光源装置)50Rと、緑色のレーザ光を射出する緑色光源装置(光源装置)50Gと、青色のレーザ光を射出する青色光源装置(光源装置)50Bと、クロスダイクロイックプリズム51と、クロスダイクロイックプリズム51から射出されたレーザ光をスクリーン55の水平方向に走査する電気光学素子21と、電気光学素子21から射出されたレーザ光をスクリーン55の垂直方向に走査するガルバノミラー52とを備えている。
【0044】
すなわち、光走査部20は、図1に示すように、スクリーン55において2方向(垂直方向v、水平方向h)の走査のうち、各光源装置50R,50G,50Bから射出される光を水平方向hに走査する水平走査用スキャナであり、ガルバノミラー52は、光走査部20から射出される光を垂直方向vに走査する垂直走査用スキャナである。
なお、ここで言う「水平走査用スキャナ」は、2方向の走査のうち、高速側の走査を担うスキャナであり、「垂直走査用スキャナ」は、低速側の走査を担うスキャナである。
【0045】
次に、以上の構成からなる本実施形態の画像表示装置50を用いて、画像をスクリーン55に投射する方法について説明する。
各光源装置50R,50G,50Bから射出されたレーザ光は、クロスダイクロイックプリズム51で各色のレーザが照明光軸上で重なるように合成され電気光学素子21に入射する。電気光学素子21の入射端面21aから入射したレーザ光は、射出端面21bからガルバノミラー52に向かって射出される。このようにして、レーザ光は電気光学素子21によりスクリーン55の水平方向に走査され、ガルバノミラー52により垂直方向に走査されてスクリーン55に投影される。
【0046】
本実施形態に係る画像表示装置50では、第1実施形態の走査型光学装置1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の画像表示装置50では、電気光学素子21から射出されるレーザ光のスポット径がスクリーン55上で同一であるため、スクリーン15に投射される画像において、すべての画素を同じ大きさで表示させることができる。したがって、例えばボケを抑え、画質の劣化を生じさせることなく、画像をより鮮明にスクリーン55に表示させることができる。
【0047】
しかも、電気光学素子21からなる走査手段は、MEMSスキャナより高速に走査することができるため、本実施形態のように、水平走査として電気光学スキャナを用い、走査自由度が高い垂直走査としてガルバノミラー52(動くことにより光を反射させる可動型の走査手段)を用いることにより、高性能な画像表示装置の実現が期待できる。
なお、ガルバノミラー52に代えて、可動型の走査手段の一つである安価なポリゴンミラーにより走査を行っても良い。安価なポリゴンミラーを使用することで、コストを抑えつつ高性能な画像表示を行うことが可能となる。
また、本実施形態の画像表示装置50において、第1実施形態のビーム径可変光学系25を用いて説明したが、第2,第3実施形態(変形例を含む)のビーム径可変光学系31,41を用いることも可能である。
また、走査型光学装置として画像表示装置について説明したが、第1〜第3実施形態(変形例を含む)の走査型光学装置をレーザプリンタに応用することも可能である。
【0048】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態において、光学素子としてKTN結晶を例に挙げて説明したが、これに限ることはなく、屈折率が線形的に変化する素子であれば良い。例えば、LiNbO(ニオブ酸リチウム)等の電気光学効果を有する誘電体結晶であっても良いが、LiNbO3等の組成を有する結晶は、KTN結晶に比べて走査偏角が小さく、また、駆動電圧が高いため、KTN結晶を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態に係る走査型光学装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る走査型光学装置の電気光学素子の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る走査型光学装置の概略構成を示す平面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る走査型光学装置の変形例を示す平面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る走査型光学装置の概略構成を示す平面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る走査型光学装置を示す斜視図である。
【図7】従来の走査型光学装置を示す平面図である。
【図8】従来の走査型光学装置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0050】
1,30,35,40…走査型光学装置、11…光源装置、15…スクリーン(被投射面)、21…電気光学素子、25,31,41…ビーム径可変光学系、26,32…集光レンズ(集光素子)、33…平行化レンズ(平行化手段)、36…移動機構、50…画像表示装置(走査型光学装置)、50R…赤色光源装置(光源装置)、50G…赤色光源装置(光源装置)、50B…赤色光源装置(光源装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を射出する光源装置と、
内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記光源装置から射出されるレーザ光を被投射面に向かって走査する電気光学素子と、
少なくとも前記電気光学素子から射出されたレーザ光を集光させるとともに、前記電気光学素子の電界方向に沿って集光率が異なる集光素子を有し前記レーザ光のビーム径を可変させるビーム径可変光学系とを備えることを特徴とする走査型光学装置。
【請求項2】
前記ビーム径可変光学系は、前記集光素子により、所定の距離での前記レーザ光のビーム径が一定になるようにレーザ光を集光することを特徴とする請求項1に記載の走査型光学装置。
【請求項3】
前記ビーム径可変光学系が、前記集光素子により集光されたレーザ光を平行化する平行化手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の走査型光学装置。
【請求項4】
前記ビーム径可変光学系を当該ビーム径可変光学系の光軸に対して平行に移動させる移動機構が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走査型光学装置。
【請求項5】
前記ビーム径可変光学系が、前記電気光学素子から射出された光の単位時間あたりの前記被投射面における走査距離が前記電気光学素子から射出されるレーザ光の偏角によらず一定となるようにレーザ光を集光させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の走査型光学装置。
【請求項6】
前記電気光学素子が水平走査を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の走査型光学装置。
【請求項7】
前記電気光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の走査型光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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