説明

走査型光学装置

【課題】簡易な構成で、異なる波長域の光であっても被投射面上の同一領域を照射でき、高精度にレーザ光の走査を行うことが可能な走査型光学装置を提供すること。
【解決手段】異なる波長域のレーザ光を射出する複数の光源21r,21g,21bと、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、複数の光源21r,21g,21bに対応して設けられ複数の光源21r,21g,21bから射出される複数のレーザ光を被投射面15に向かってそれぞれ走査する複数の電気光学素子22r,22g,22bとを備え、波長域が相対的に短いレーザ光を射出する光源21b,21g,21rに対応する電気光学素子22b,22g,22rの順に、電位差が大きくなるように複数の電気光学素子22b,22g,22rに電圧を印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光などのビーム状の光を被投射面上でラスタースキャンして画像を表示する走査型画像表示装置が提案されている。この装置では、レーザ光の供給を停止することで完全な黒を表現できるため、例えば液晶ライトバルブを用いたプロジェクタ等に比べて高コントラストの表示が可能である。また、レーザ光を使用した画像表示装置は、レーザ光が単一波長であるために色純度が高い、コヒーレンスが高いためにビームを整形しやすい(絞りやすい)等の特性を持つことから、高解像度、高色再現性を実現する高画質ディスプレイとして期待されている。また、走査型画像表示装置は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどと異なり、固定された画素を持たないため、画素数という概念がなく、解像度を変換し易いという利点も持っている。
【0003】
走査型画像表示装置で画像を生成するには、ポリゴンミラー、ガルバノミラーなどのスキャナを用いて光を2次元に走査する必要がある。1個のスキャナを水平方向、垂直方向の2方向に振りつつ光を2次元に走査する方法もあるが、その場合、走査系の構成や制御が複雑になるという問題がある。そこで、光を1次元に走査するスキャナを2組用意し、各々に水平走査と垂直走査を受け持たせるようにした走査型画像表示装置が提案されている。従来は、双方のスキャナともにポリゴンミラーやガルバノミラーを使用するのが普通であり、双方のスキャナに回転多面鏡(ポリゴンミラー)を用いた投写装置が下記の特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平1−245780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1ではポリゴンミラーを用いた装置が紹介されているが画像フォーマットの高解像度化に伴い、スキャン周波数も高くなってきており、ポリゴンミラーやガルバノミラーでは限界を迎えつつある。そこで、近年、高速側のスキャナにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したシステムが発表されている。MEMS技術を利用したスキャナ(以下、単にMEMSスキャナという)とは、シリコン等の半導体材料の微細加工技術を用いて製作するものであり、トーションバネ等で支持したミラーを静電力等により駆動するものである。このスキャナは、静電力とバネの復元力との相互作用でミラーを往復運動させて、光を走査することができる。MEMSスキャナを用いることにより、従来のスキャナに比べて高周波数、大偏角のスキャナを実現することができる。これにより、高解像度の画像を表示することが可能になる。
【0005】
ところで、高速のMEMSスキャナを実現するには、ミラーを共振点で往復運動させなければならないため、光利用効率などを考えると、走査線が視聴者から見て左から右へスキャンした後に、次の走査線は右から左にスキャンする(両側スキャン)システムとなる。
一方、画像信号はCRT(Cathode Ray Tube)をベースに規格が決まっているため、左から右へスキャンした後は短い時間で左に戻り、再度右へスキャンする(片側スキャン)に合わせたフォーマットとなっている。したがって、MEMSスキャナの場合、一部のデータは入力された信号の順番を反転して表示しなければならないため、信号の制御が複雑となる。
そこで、MEMSスキャン以外の走査手段としては、電気光学(EO:Electro Optic)スキャナが考えられる。EOスキャナとはEO結晶に電圧を加えることにより、その結晶中を透過する光の進行方向を変える素子である。このようにEOスキャナでは、電圧によりスキャン角を制御できるので、CRTと同様に片側スキャンによる描画が可能となる。
【0006】
また、EOスキャナとは、EO結晶に電圧を印加することにより電子が注入され電子分布に偏りが生じる。そのため、カー効果による屈折率変化にも分布が生じ、入射された光が屈折率の高い側に曲がっていくので、光の走査を可能にしている。また、EO結晶内部の屈折率分布の傾きが、電子注入量、つまり、印加電圧によるため、印加電圧を変化させることで、EO結晶から射出される光のスキャン角度を制御することができる。
【0007】
しかしながら、一般的なEOスキャナは、光の屈折を利用したスキャナのため、図7に示すように、EO結晶101に赤色光Lr,緑色光Lg,青色光Lbを入射させると、波長が短い光(青色光)Lbは、波長が長い光(赤色光)Lrに比べて屈折角が大きくなり、その結果、EO結晶101から射出されるスキャン角が大きくなってしまう。つまり、異なる波長の光をEO結晶101に入射させると、色収差が発生してしまう。そのため、スクリーン102上では、赤色光Lr,緑色光Lg,青色光Lbがバラバラの位置にスキャンされてしまうので、同じタイミングで同画素を表示することができなくなってしまう。
また、印加電圧により屈折率が変わってしまうEOスキャナでは、赤色光,緑色光,青色光の屈折率の違いが一定ではないため、同軸上に射出させるための入射角度も一定ではなく、入射角度を赤色光,緑色光,青色光で変えても、EO結晶から赤色光,緑色光,青色光を常に同軸上に射出させることは困難である。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、簡易な構成で、異なる波長域の光であっても被投射面上の同一領域を照射でき、高精度にレーザ光の走査を行うことが可能な走査型光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の走査型光学装置は、異なる波長域のレーザ光を射出する複数の光源と、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記複数の光源に対応して設けられ前記複数の光源から射出される複数のレーザ光を被投射面に向かってそれぞれ走査する複数の電気光学素子とを備え、前記複数のレーザ光が前記被投射面における同一の領域を照射するように前記複数の電気光学素子にそれぞれ独立に電圧を印加することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子に電圧を印加することにより内部に電界が生じる。この電界により、電気光学素子の屈折率分布が一方向に向かって連続的に増加あるいは減少する。このため、電気光学素子の内部に生じる電界と垂直な方向に進行するレーザ光は、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられ、電気光学素子の射出端面から射出される。
ここで、従来の走査型光学装置では、一つの素子に異なる波長域のレーザ光が入射し、同じ電圧を印加しているため、各レーザ光が異なる位置にスキャンされてしまう。しかしながら、本発明では、光源から射出された異なる波長域のレーザ光は、各電気光学素子を通過し、波長域ごとに異なる偏角で射出される。このとき、前記複数のレーザ光が前記被投射面における同一の領域を照射するように、それぞれ独立に電圧を印加する。すなわち、例えば、赤色のレーザ光に比べて青色のレーザ光の波長域の方が偏角が大きい場合、青色光源装置に対応する電気光学素子に生じる電位差を赤色光源装置に対応する電気光学素子に生じる電位差に比べて低くなるように電圧を印加する。これにより、青色光源装置に対応した電気光学素子から射出される青色レーザ光の偏角が、赤色光源装置に対応する電気光学素子に生じる電位差と同じ場合に射出される青色レーザ光の偏角に比べて小さくなるため、青色レーザ光の偏角と赤色レーザ光の偏角とが同一になる。その結果、複数の電気光学素子から射出されたレーザ光は、被投射面において同一の領域を照射することが可能となる。したがって、異なる波長域のレーザ光が同じタイミングで同じ領域を照射することが可能となるため、高精度なレーザ光の走査を行うことができる。
なお、波長が短いほど屈折率が大きくなる(赤色のレーザ光に比べて青色のレーザ光のほうが偏角が大きくなる)材料を電気光学素子として用いた場合には、相対的に波長域が短いレーザ光を射出する光源に対応する電気光学素子から順に、電位差が大きくなるように電圧を印加する。また、波長が短いほど屈折率が小さくなる(赤色のレーザ光に比べて青色のレーザ光の偏角の方が小さくなる)材料を電気光学素子として用いた場合には、相対的に波長域が短いレーザ光を射出する光源に対応する電気光学素子から順に、電位差が小さくなるように電圧を印加する。
【0011】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子が、水平走査を行うことが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が水平走査を行い、垂直走査として例えば、安価なポリゴンミラー等を用いることにより、安価かつ高性能な走査型光学装置を実現することができる。
なお、ここで言う「水平走査」とは、2方向の走査のうち、高速側の走査であり、垂直走査とは低速側の走査である。
【0012】
また、本発明の走査型光学装置は、前記複数の電気光学素子から射出された複数のレーザ光を合成する色合成手段と、該色合成手段により合成されたレーザ光の垂直走査を行う走査手段とを備えることが好ましい。
【0013】
本発明に係る走査型光学装置では、複数の光源から射出されたレーザ光は、それぞれに対応した電気光学素子により水平走査される。そして、電気光学素子により走査された複数のレーザ光は、色合成手段により合成された後、走査手段により垂直走査される。このように、色合成手段により複数の光源から射出されたレーザ光を合成するため、色合成手段の入射面に複数の光源を配置することで、同一の照明光軸上で合成することができるため、複数の光源から射出されたレーザ光の被投射面までの光路長を同じ(一定)にすることができる。さらに、色合成手段により複数のレーザ光を合成するため、光源及び電気光学素子の配置が簡易になるため、装置全体の組み立てが容易になる。
【0014】
また、本発明の走査型光学装置は、前記複数の電気光学素子が前記被投射面に対して光学的に放射状に配置されていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る走査型光学装置では、複数の光源から射出されたレーザ光は、それぞれに対応した電気光学素子により水平走査される。そして、電気光学素子により走査された複数のレーザ光は、走査手段により垂直走査される。このとき、複数の電気光学素子が走査手段に対して放射状に配置されているため、複数の光源から射出されたレーザ光の被投射面までの光路長を同じ(一定)にすることができる。
また、複数の電気光学素子の配置及び走査手段の走査により、各レーザ光を合成する光学部材を設けなくても良いので、装置全体のコストを抑えることができる。
【0016】
また、本発明の走査型光学装置は、前記複数の電気光学素子から射出されたレーザ光の垂直走査を行うとともに、前記複数の光源から射出された複数のレーザ光が前記被投射面上で合成されるように走査する走査手段を備え、前記走査手段により走査されたレーザ光の光路長を補正する光路長補正手段を備えることが好ましい。
【0017】
本発明に係る走査型光学装置では、複数の光源から射出されたレーザ光は、それぞれに対応した電気光学素子により水平走査される。そして、電気光学素子により走査された複数のレーザ光は、走査手段により垂直走査された後、光路長補正手段により光路長が補正される。ここで、特に走査型光学装置を画像表示装置として用いると、走査手段が回転走査である場合、被投射面の平面上で走査ができず、被投射面上では垂直方向にそれぞれのレーザ光がずれしまい、垂直走査方向に同じタイミングで同画素を表示することができなくなってしまう。しかしながら、本発明の走査型光学装置は、光路長補正手段により、被投射面に投射されるレーザ光の光路長が補正されるため、同じタイミングで同画素を表示することができ、高画質な画像を被投射面に表示することが可能となる。
【0018】
また、本発明の走査型光学装置は、異なる波長域のレーザ光を射出する複数の光源と、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記複数の光源に対応して設けられ前記複数の光源から射出される複数のレーザ光を被投射面に向かってそれぞれ走査する複数の電気光学素子とを備え、前記複数の電気光学素子は、前記複数のレーザ光が前記被投射面における同一の領域を照射するように前記複数の電気光学素子から前記被投射面までの距離をそれぞれ異ならせて配置されていること。
【0019】
本発明に係る走査型光学装置では、光源から射出されたレーザ光は、上記と同様に屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられ、電気光学素子の射出端面から射出される。
ここで、光源から射出された異なる波長域のレーザ光は、電気光学素子を通過することにより、波長域ごとに異なる偏角で射出されるので、複数のレーザ光が被投射面における同一の領域を照射するように複数の電気光学素子から前記被投射面までの距離をそれぞれ異ならせて配置されている。すなわち、例えば、赤色のレーザ光に比べて青色のレーザ光の波長域の偏角の方が大きい場合、青色光源装置に対応する電気光学素子を赤色光源装置に対応する電気光学素子に比べて、被投射面側に配置する。ここで、それぞれの電気光学素子に同じ電位差が生じると、赤色光源装置に対応した電気光学素子から射出される赤色レーザ光の偏角に比べて、青色光源装置に対応した電気光学素子から射出される青色レーザ光の偏角の方が大きくなる。しかしながら、本発明では、赤色レーザ光より青色レーザ光の偏角の方が大きくても、青色光源装置に対応する電気光学素子の方が被投射面の近くに配置されているため、被投射面において青色レーザ光と赤色レーザ光とが同一の領域を照射することが可能となる。したがって、異なる波長域のレーザ光が同じタイミングで同じ領域を照射することが可能となるため、高精度なレーザ光の走査を行うことができる。
さらには、複数の電気光学素子の制御を同一にすることができるので、電気光学素子の駆動回路を一つで済ませることが可能となる。したがって、装置全体のコストを低減させることができる。
なお、波長が短いほど屈折率が大きくなる(赤色のレーザ光に比べて青色のレーザ光のほうが偏角が大きくなる)材料を電気光学素子として用いた場合には、波長域が相対的に短いレーザ光を射出する光源に対応する電気光学素子から順に、電気光学素子から被投射面までに距離が長くなるように配置する。また、波長が短いほど屈折率が小さくなる赤色のレーザ光に比べて青色のレーザ光のほうが偏角が小さくなる)材料を電気光学素子として用いた場合には、波長域が相対的に短いレーザ光を射出する光源に対応する電気光学素子から順に、電気光学素子から被投射面までに距離が短くなるように配置する。
【0020】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子が、水平走査を行うことが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が水平走査を行い、垂直走査として例えば、安価なポリゴンミラー等を用いることにより、安価かつ高性能な走査型光学装置を実現することができる。
なお、ここで言う「水平走査」とは、2方向の走査のうち、高速側の走査であり、垂直走査とは低速側の走査である。
【0021】
また、本発明の走査型光学装置は、前記複数の電気光学素子から射出された複数のレーザ光を合成する色合成手段と、該色合成手段により合成されたレーザ光の垂直走査を行う走査手段とを備えることが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、複数の光源から射出されたレーザ光は、それぞれに対応した電気光学素子により水平走査される。そして、電気光学素子により走査された複数のレーザ光は、色合成手段により合成された後、走査手段により垂直走査される。このように、色合成手段により複数の光源から射出されたレーザ光を合成するため、色合成手段の入射面に複数の光源を配置することで、同一の照明光軸上で合成することができるため、複数の光源から射出されたレーザ光の被投射面までの光路長を同じ(一定)にすることができる。さらに、色合成手段により複数のレーザ光を合成するため、光源及び電気光学素子の配置が簡易になるため、装置全体の組み立てが容易になる。
【0022】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することが好ましい。
【0023】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が、高い誘電率を有する誘電体材料であるKTa1−xNb3(タンタル酸ニオブ酸カリウム)の組成を有する結晶である(以下、KTN結晶と称す)。KTN結晶は、立方晶から正方晶さらに菱面体晶へと温度により結晶系を変える性質を有しており、立方晶においては、大きい2次の電気光学効果を有することが知られている。特に、立方晶から正方晶への相転移温度に近い領域では、比誘電率が発散する現象が起こり、比誘電率の自乗に比例する2次の電気光学効果はきわめて大きい値となる。したがって、KTa1−xNb3の組成を有する結晶は、他の結晶に比べて屈折率を変化させる際に必要になる印加電圧を低く抑えることが可能となる。これにより、省電力化を実現可能な電気光学素子を提供することが可能となる。なお、KTN結晶は、波長が短いほど屈折率が大きくなる材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に係る走査型光学装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0025】
[第1実施形態]
本実施形態に係る走査型光学装置1は、3色の光源装置を用いて、スクリーンに画像を投影させる画像表示装置である。
本実施形態に係る画像表示装置1は、図1に示すように、レーザ光を射出するとと本実施形態に係る画像表示装置1は、図1に示すように、レーザ光を射出するとともにレーザ光をスクリーン(被投射面)15において2方向(垂直方向v、水平方向h)のうちのh方向に走査する赤色用スキャナ部20R,緑色用スキャナ部20G及び青色用スキャナ部20Bを有するスキャナ部20と、複数のスキャナ部20より射出された複数のレーザ光を合成するクロスダイクロイックプリズム(色合成手段)11と、クロスダイクロイックプリズム11により合成されたレーザ光をスクリーン(被投射面)15のv方向に走査するガルバノミラー(走査手段)12とを備えている。
【0026】
また、スキャナ部20は、図1に示すように、各スキャナ部20R,20G,20Bから射出されるレーザ光を水平方向hに走査する水平走査用スキャナである。また、ガルバノミラー12は、軸Pを中心に揺動可能になっており、スキャナ部20から射出されるレーザ光を垂直方向vに走査する垂直走査用スキャナである。
なお、ここで言う「水平走査用スキャナ」は、2方向の走査のうち、高速側の走査を担うスキャナであり、「垂直走査用スキャナ」は、低速側の走査を担うスキャナである。
【0027】
次に、スキャナ部について説明する。
赤色用スキャナ部20Rは、赤色のレーザ光(中心波長:620nm)を射出する赤色光源装置(光源)21rと、赤色光源装置21rから射出されたレーザ光を走査する赤色用電気光学素子(以下赤色用EO素子と称す。)22rとを備えている。また、緑色用スキャナ部20Gは、緑色のレーザ光(中心波長:530nm)を射出する緑色光源装置(光源)21gと、緑色光源装置21gから射出されたレーザ光を走査する緑色用電気光学素子(以下緑色用EO素子と称す。)22gとを備えている。さらに、青色用スキャナ部20Bは、青色のレーザ光(中心波長:460nm)を射出する青色光源装置(光源)21bと、青色光源装置21bから射出されたレーザ光を走査する青色用電気光学素子(以下青色用EO素子と称す。)22bとを備えている。また、複数のEO素子22r,22gには、印加する電圧を独立(個別)に制御する制御部(図示略)が設けられている。この制御部により、各EO素子22r,22gから射出されたレーザ光Lr,Lg,Lbがスクリーン上において同一の領域を照明するように制御されている。
なお、赤色,緑色,青色のレーザ光の波長は一例に過ぎない。
【0028】
次いで、各EO素子22r,22g,22bについて説明する。なお、赤色用EO素子22r,緑色用EO素子22g,青色用EO素子22bの構成は同様であるため、赤色用EO素子22rについて説明する。
赤色用EO素子22rは、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、光源装置21rから射出されるレーザ光を走査するものであり、図1に示すように、第1電極26と、第2電極27と、光学素子28とを備えている。
【0029】
光学素子28は、電気光学効果を有する誘電体結晶(電気光学結晶)であり、本実施形態ではKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1−xNb3)の組成を有する結晶材料で構成されている。また、KTN結晶はカー効果(等方性材料に電場をかけると複屈折性が生じる現象であり、印加電圧により発生した電界の強さの二乗に比例する)を利用した結晶である。また、KTN結晶は、波長が短いほど屈折率が大きくなる材料である。
また、光学素子28は、直方体形状であり、光学素子28の上面28aには第1電極26が配置され、下面28bには第2電極27が配置されている。この第1電極26及び第2電極27には、電圧を印加する電源(図示略)が接続されている。また、第1電極26及び第2電極27は、図1に示すように、光学素子28内を進行するレーザ光Lrの進行方向の寸法がほぼ同じである。これにより、第1電極26と第2電極27との間の光学素子28に電界が生じるようになっている。例えば、第2電極27より第1電極26に高い電圧が印加されると、第1電極26から第2電極27に向かって(矢印Aに示す方向)電界が生じる。その結果、電気光学結晶の屈折率は第1電極26から第2電極27に向かって高くなる。
【0030】
また、光学素子28は、図1に示すように、赤色用EO素子22rの入射端面22cの第1電極26に近い側からレーザ光を入射させるように配置されている。これにより、本実施形態の赤色用EO素子22rは、入射したレーザ光を基準に片側に走査する片側走査を行う。つまり、赤色用EO素子22rの屈折率分布により、光学素子28に入射したレーザ光は第2電極27側のみに曲げられるため、光学素子28の第1電極26に近い側からレーザ光を入射させることにより、スキャン範囲を大きく取ることが可能となっている。
さらに、赤色用EO素子22rは、クロスダイクロイックプリズム11から射出されたレーザ光Lrが入射端面22cに対して垂直に入射するように配置されている。
また、赤色用,緑色用,青色用スキャナ部20R,20G,20Bは、各EO素子22r,22g,22bに電圧が印加されていない時に射出されるレーザ光の光路がすべて重なるように配置されている。すなわち、赤色用,緑色用,青色用スキャナ部20R,20G,20Bから射出されたレーザ光Lr,Lg,Lbは、クロスダイクロイックプリズム(色合成手段)によって合成され同一軸上で合成されている。
【0031】
次に、光源装置から射出されるレーザ光の走査について説明する。
第1電極26に印加される電圧の波形は、例えば、図2に示すように、鋸歯状の波形である。この初期値S1(0V)の電圧を第1電極26に印加すると、図1に示すように、光源装置21rから射出され光学素子28を進行するレーザ光Lrは直進し赤色用EO素子22rの射出端面22dから射出される。なお、第2電極27には、例えば0Vの電圧が印加されている。
【0032】
また、第1電極26に印加する電圧値を、図2の電圧の波形に示すように徐々に上げると、光学素子28の屈折率勾配が大きくなる。これにより、第1電極26に印加する電圧を徐々に最大の電圧値として、例えば、S2rまで上げると、図1に示すように、赤色光源装置21rから射出され光学素子28を進行するレーザ光Lは、光学素子28内において印加電圧の上昇とともに徐々に大きく屈折する。これにより、EO素子22rの射出端面22dから射出される光は、スキャン範囲において電界方向Aと同じ方向に走査される。
【0033】
また、各光源装置21r,21b,21gから射出されるレーザ光の波長域の違いにより、光学素子28内において各色光の屈折角が異なる。KTN結晶は、波長が短いほど屈折率が大きくなる材料であるので、光学素子28の内部を進行する青色光Lbは、赤色レーザ光Lrに比べて屈折角が大きくなるので、射出端面22dから射出されるレーザ光の偏角が大きくなる。言い換えると、波長が短いほど光学素子28の内部における屈折角が大きくなるので、赤色レーザ光Lr,緑色レーザ光Lg,青色レーザ光Lbの順に射出端面22dから射出されるレーザ光の偏角が大きくなる。
【0034】
そこで、制御部により、相対的に波長域が短いレーザ光を射出する光源装置21b,21g,21rに対応するEO素子22b,22g,22rの順に、電位差が大きくなるように電圧を印加する。
つまり、第2電極27には0Vの電圧が印加されているため、図2に示すように、青色用EO素子22bに印加される電圧の波形W3、緑色用EO素子22gに印加される電圧の波形W2、赤色用EO素子22rに印加される電圧の波形W1の順に電位差が大きくなっている。なお、印加電圧の位相はいずれも同じである。
【0035】
次に、赤色用,緑色用,青色用EO素子22r,22g,22bに印加する電圧について説明する。
ここで、KTN結晶は、電界分布が電圧印加方向の深さの1/2乗に比例し、屈折率が電界強さの二乗に比例するカー効果を有することから、印加電圧と偏角とが略比例の関係となる。そこで、赤色用EO素子22r及び青色用EO素子22bの第1電極26に同じ電圧を印加する。このとき、青色用EO素子22bから射出される青色レーザ光Lbの偏角が、赤色用EO素子22rから射出される赤色レーザ光Lrの偏角の1.5倍である場合、青色用EO素子22bに印加する電圧を赤色用EO素子22rに印加する電圧の1/1.5倍にする。これにより、赤色用EO素子22rの第1電極26には、例えば、電源により最大電圧値+30V(S2r)の電圧が印加されるとき、青色用EO素子22bの第1電極26には最大電圧値+20V(S2b)の電圧を印加する。
【0036】
また、赤色用EO素子22r及び緑色用EO素子22gの第1電極26に同じ電圧を印加する。このとき、緑色用EO素子22gから射出される緑色レーザ光Lgの偏角が、赤色用EO素子22rから射出される赤色レーザ光Lrの偏角の1.2倍である場合、緑色用EO素子22gに印加する電圧を緑色用EO素子22gに印加する電圧の1/1.2倍にする。これにより、赤色用EO素子22rの第1電極26には、例えば、電源により最大電圧値+30V(S2r)の電圧が印加されるとき、緑色用EO素子22gの第1電極26には最大電圧値+24V(S2g)の電圧を印加する。
【0037】
このように、EO素子22r,22g,22bのうち、波長域が最も短い青色レーザ光を射出する青色光源装置21bに対応する青色用EO素子22bに、最も小さい電位差が生じるようになっている。そして、次に波長域が短い緑色レーザ光を射出する緑色光源装置21gに対応する緑色用EO素子22gに、青色用EO素子22bの次に小さい電位差が生じるようになっている。さらに、最も波長域の長い赤色レーザ光を射出する赤色光源装置21rに対応する赤色用EO素子22rに、最も大きい電位差が生じるようになっている。
なお、赤色用,緑色用,青色用EO素子22r,22g,22bに印加される印加電圧の値である初期値0V,最大電圧値は一例に過ぎず、赤色用,緑色用,青色用EO素子22r,22g,22bから射出される光の偏角の大きさや、光学素子28の厚みによって適宜変更が可能である。
また、青色レーザ光Lbの偏角が、赤色レーザ光Lrの偏角の1.5倍とし、緑色レーザ光Lgの偏角が赤色レーザ光Lrの偏角の1.2倍としたが、これらの関係はEO素子22r,22g,22bの特性によって変わる。これにより、EO素子22r,22g,22bに生じる電位差の関係もEO素子22r,22g,22bの特性によって適宜変更が可能である。
【0038】
本実施形態に係る画像表示装置1では、赤色用,緑色用,青色用EO素子22r,22g,22bごとに異なる電圧を印加することにより、赤色用,緑色用,青色用EO素子22r,22g,22bのそれぞれの射出端面22dから射出されるレーザ光の偏角を同一にすることができる。その結果、スクリーン15において同一の領域を照射することが可能となる。
つまり、本実施形態の画像表示装置1は、簡易な構成で、高精度なレーザ光の走査を行うことが可能である。
【0039】
また、本実施形態に係る画像表示装置1では、走査手段として偏角の大きい電気光学素子1を用いているため、DCI(Digital Cinema Initiatives)仕様の4k等の解像度に対応可能となる。したがって、画質の劣化を生じさせることなく、画像をより鮮明にスクリーン15に表示させることができる。
しかも、EO素子22r,22g,22bからなる走査手段は、MEMSスキャナより高速に走査することができるため、本実施形態のように、高速走査が必要とされる水平走査側に電気光学スキャナを用い、垂直走査側に走査自由度が高いガルバノミラー(動くことにより光を反射させる可動型の走査手段)12を用いることにより、高性能な画像表示装置の実現が期待できる。
なお、ガルバノミラー12に代えて、可動型の走査手段の一つである安価なポリゴンミラーにより走査を行っても良い。すなわち、画像表示装置としては、安価なポリゴンミラーを使用することで、コストを抑えつつ高性能な画像表示を行うことが可能となる。なお、本願実施形態では、スクリーン15(被投射面)から各色用EO素子までの光学的距離が略等しくなるように構成しているが、これに限られない。光学的距離が異なっていても、スクリーン15において同一の領域を照射するように赤色用,緑色用,青色用EO素子22r,22g,22bごとに異なる電圧を印加すれば良い。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態について、図3を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る画像表示装置1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係る画像表示装置(走査型光学装置)30では、クロスダイクロイックプリズム11を用いず、スキャナ部20がスクリーン(被投射面)15に対して光学的に放射状に配置されており、被投射面において略同一の点を各色光が照射する点において、第1実施形態と異なる。
【0041】
赤色用スキャナ部20R,緑色用スキャナ部20G及び青色用スキャナ部20Bは、ガルバノミラー31に対向して配置されており、スクリーン15に近い側から青色用スキャナ部20B,緑色用スキャナ部20G,赤色用スキャナ部20Rの順に配置されている。これにより、スクリーン15から離れて配置された赤色用スキャナ部20R,緑色用スキャナ部20G,青色用スキャナ部20Bの順にガルバノミラー31に近く配置されている。このようにして、EO素子22r,22g,22bは、当該EO素子22r,22g,22bからガルバノミラー31までの距離と、ガルバノミラー31からスクリーン15までの距離との和が略等しくなるように配置されている。すなわち、赤色用スキャナ部20R,緑色用スキャナ部20G,青色用スキャナ部20Bは、赤色光源装置21r,緑色光源装置21g,青色光源装置21bから射出され、スクリーン15に到達するまでの各レーザ光Lr,Lg,Lbの光学的距離が同じになるように配置されている。すなわち、光学的には、スクリーン(照射領域)に対して放射状に配置されている。
また、ガルバノミラー31は、各光源装置21r,21g,21bから射出されたレーザ光がスクリーン15上で合成するように走査するミラーである。
なお、各スキャナ部20R,20G,20BのEO素子22r,22g,22bに印加する電圧は、第1実施形態と同様である。
【0042】
これにより、各光源装置21r,21g,21bから射出されたレーザ光は、各EO素子22r,22g,22bにおいてスクリーン15の水平方向hに走査される。そして、赤色レーザ光,緑色レーザ光,青色レーザ光は、ガルバノミラー12において異なる位置で反射された後、スクリーン15上の同一領域に照射される。すなわち、第1実施形態の画像表示装置1では、クロスダイクロイックプリズム11において合成されたレーザ光をスクリーン15に照射していたが、本実施形態の画像表示装置30はスクリーン15上で各レーザ光が合成される。
【0043】
本実施形態に係る画像表示装置30では、第1実施形態の画像表示装置1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の画像表示装置30では、各光源装置21r,21g,21bから射出されたレーザ光は、各レーザ光を合成する光学部材を用いずスクリーン15上で合成されるため、装置全体のコストを抑えることができる。
【0044】
[第2実施形態の変形例]
本変形例では、第2実施形態の図3の構成において、ガルバノミラー31の反射により生じる光路差を補正する場合について図4を参照して説明する。
図4に示すように、ガルバノミラー31において反射されたレーザ光Lr,Lg,Lbの等距離の位置、つまりレーザ光Lr,Lg,Lbが同一の点を照射できる位置は、破線Qに示すガルバノミラー31の軸Pを中心とした同一円上になる。これにより、スクリーン15上の両端部ではレーザ光Lr,Lg,Lbが同一点を照射できず、v方向にずれてしまうので、v方向において同じタイミングで同画素を表示することができなくなってしまう。
そこで、ガルバノミラー31とスクリーン15との間に、レンズ(光路長補正手段)35を配置する。このとき、ガルバノミラー12において反射したレーザ光Lr,Lg,Lbが、スクリーン15上のv方向において略同一の位置に照射されるようにレンズ35を配置する。
この構成では、レンズ35が入射したレーザ光Lr,Lg,Lbの光路をスクリーン15上の略同一の位置に偏向させているため、v方向において同じタイミングで同画素を表示することができるので、高画質な画像をスクリーン15に表示させることができる。
【0045】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態について、図5を参照して説明する。
上記第1,第2実施形態の画像表示装置1,30では、スクリーン15において同一の領域を照射するために、各スキャナ部20R,20G,20Bに印加する電圧を異ならせた。本第3実施形態に係る画像表示装置(走査型光学装置)40では、各スキャナ部20R,20G,20Bからスクリーン15までの距離を異ならせる点において、第1,第2実施形態の画像表示装置1,30と異なる。
【0046】
青色用スキャナ部20B,緑色スキャナ部20G,赤色用スキャナ部20Rは、図5に示すように、この順でガルバノミラー(走査手段)41側から配置されている。すなわち、青色用スキャナ部20B,緑色スキャナ部20G,赤色用スキャナ部20Rは、波長域が相対的に短い青色レーザ光,緑色レーザ光,赤色レーザ光を射出する各光源装置21b,21g,21rに対応する青色用EO素子22b,緑色用EO素子22g,赤色用EO素子22rの順に、スクリーン15までの距離が長くなるように配置されている。
【0047】
赤色用スキャナ部20Rは、ガルバノミラー41に対向して配置されており、赤色光源装置21rから射出したレーザ光が直進してガルバノミラー41に入射するように設けられている。
緑色用スキャナ部20Gは、緑色光源装置21gから射出されるレーザ光が赤色用スキャナ部20Rの赤色光源装置21rから射出されたレーザ光の中心軸O1に直交するように配置されている。また、赤色光源装置21rから射出された赤色レーザ光の光路上にはダイクロイックミラー42が配置されている。このダイクロイックミラー42は、緑色レーザ光が45度で入射するように配置されており、緑色レーザ光を反射させ、赤色レーザ光を透過させるミラーである。したがって、EO素子22gから射出される緑色レーザ光は、ダイクロイックミラー42によって光路を90度折り曲げられる。
また、青色用スキャナ部20Bは、緑色用スキャナ部20Gとガルバノミラー41との間に配置されており、青色光源装置21bから射出されるレーザ光が赤色用スキャナ部20Rの光源装置21rから射出されたレーザ光の中心軸O1に直交するように配置されている。また、ダイクロイックミラー42とガルバノミラー41との間の光路上にはダイクロイックミラー43が配置されている。このダイクロイックミラー43は、青色レーザ光が45度で入射するように配置されており、青色レーザ光を反射させ、赤色レーザ光及び緑色レーザ光を透過させるミラーである。したがって、EO素子22bから射出される青色レーザ光は、ダイクロイックミラー43によって光路を90度折り曲げられる。
【0048】
これらにより、赤色レーザ光は、ダイクロイックミラー42及びダイクロイックミラー43を透過してガルバノミラー41に照射される。また、緑色レーザ光は、ダイクロイックミラー42において反射され、ダイクロイックミラー43を透過してガルバノミラー41に照射される。さらに、青色レーザ光は、ダイクロイックミラー43において反射されガルバノミラー41に照射される。
また、赤色用,緑色用,青色用スキャナ部20R,20G,20Bは、各EO素子22r,22g,22bに電圧が印加されていない時に射出されるレーザ光の光路がすべて重なるように配置されている。
さらに、各スキャナ部20R,20G,20BのEO素子22r,22b,22gの第1電極26に印加される電圧の波形はどれも同じであり、例えば、図2に示すように、最大電圧値+30Vの鋸歯状の波形である。
【0049】
次に、各スキャナ部20R,20G,20Bからスクリーン15までの距離について図6を参照して具体的に説明する。なお、図6は、EO素子22r,22b,22gからスクリーン15までのレーザ光の光路図を分かり易く説明するために、EO素子22r,22b,22gの各射出端面22dとスクリーン15とを直線配置とした模式図である。
各スキャナ部20R,20G,20BのEO素子22r,22g,22bに、ある電圧値V1を印加したときのそれぞれのEO素子22r,22g,22bから射出されるレーザ光の屈折角(偏角)をθr,θg,θbとし、各EO素子22r,22g,22bの射出端面22dからスクリーン15までの距離をTr,Tg,Tbとする。
ここで、まずEO素子22rに電圧を印加していないときと、電圧を印加しているときとのスクリーン15上でのスキャン範囲の距離Dは、
【0050】
【数1】

【0051】
で表される。
また、赤色レーザ光,緑色レーザ光,青色レーザ光が同一の領域を照射するには、距離Dは、緑色用EO素子22g及び青色用EO素子22bの場合も同じ値にしなければならない。よって、距離Tg及び距離Tbは、
【0052】
【数2】

【0053】
で表される。
また、各スキャナ部20R,20G,20Bにおいて、KTN結晶は印加電圧とスキャン角とが略比例の関係であるため、V1以外の印加電圧でも同様の関係が成り立つ。したがって、赤色,緑色,青色レーザ光の屈折角の関係はθr<θg<θbであるため、[数2]よりTr>Tg>Tbとなる。すなわち、図5に示すように、青色用EO素子22b,緑色用EO素子22b,赤色用EO素子22rをこの順で、[数1]、[数2]を満たすように、ガルバノミラー41側から配置することによりスクリーン15上での距離Dを等しくすることが可能となる。
【0054】
本実施形態に係る画像表示装置40では、各光源装置21r,21g,21bから射出されたレーザ光は、スクリーン15上での距離Dが略同一、つまり、略同一の点を描画することが可能となる。これにより、各EO素子22r,22g,22bに印加する電圧の波形はそれぞれ同じで良いため、各スキャナ部20R,20G,20B用の駆動回路を一つで済ませることができる。したがって、装置全体のコストを抑えることが可能となる。
【0055】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態において、光学素子としてKTN結晶を例に挙げて説明したが、これに限ることはなく、屈折率が線形的に変化する素子であれば良い。例えば、LiNbO(ニオブ酸リチウム)等の電気光学効果を有する誘電体結晶であっても良いが、LiNbO3等の組成を有する結晶は、KTN結晶に比べて走査偏角が小さく、また、駆動電圧が高いため、KTN結晶を用いることが好ましい。
また、上記実施形態では、走査型光学装置として画像表示装置を例に挙げて説明したが、これに限らず、異なる波長のレーザ光を走査する複数の電気光学素子を備える装置に適用することが可能である。
また、上記各実施形態において、色光合成手段としては、クロスダイクロイックプリズム及びダイクロイックミラーのいずれを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態に係る走査型光学装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る走査型光学装置の電気光学素子の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る走査型光学装置を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る走査型光学装置の変形例を示す要部平面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る走査型光学装置を示す斜視図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る走査型光学装置の電気光学素子の配置を示す説明図である。
【図7】従来の走査型光学装置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0057】
1,30,40…走査型光学装置(画像表示装置)、11…クロスダイクロイックプリズム(色合成手段)、12,31,41…ガルバノミラー(走査手段)、15…スクリーン(被投射面)、21r…赤色光源装置(光源)、21g…緑色光源装置(光源)、21b…青色光源装置(光源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる波長域のレーザ光を射出する複数の光源と、
内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記複数の光源に対応して設けられ前記複数の光源から射出される複数のレーザ光を被投射面に向かってそれぞれ走査する複数の電気光学素子とを備え、
前記複数のレーザ光が前記被投射面における同一の領域を照射するように前記複数の電気光学素子にそれぞれ独立に電圧を印加することを特徴とする走査型光学装置。
【請求項2】
前記電気光学素子が、水平走査を行うことを特徴とする請求項1に記載の走査型光学装置。
【請求項3】
前記複数の電気光学素子から射出された複数のレーザ光を合成する色合成手段と、
該色合成手段により合成されたレーザ光の垂直走査を行う走査手段とを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走査型光学装置。
【請求項4】
前記複数の電気光学素子が前記被投射面に対して光学的に放射状に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の走査型光学装置。
【請求項5】
前記複数の電気光学素子から射出されたレーザ光の垂直走査を行うとともに、前記複数の光源から射出された複数のレーザ光が前記被投射面上で合成されるように走査する走査手段を備え、
前記走査手段により走査されたレーザ光の光路長を補正する光路長補正手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の走査型光学装置。
【請求項6】
異なる波長域のレーザ光を射出する複数の光源と、
内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記複数の光源に対応して設けられ前記複数の光源から射出される複数のレーザ光を被投射面に向かってそれぞれ走査する複数の電気光学素子とを備え、
前記複数の電気光学素子は、前記複数のレーザ光が前記被投射面における同一の領域を照射するように前記複数の電気光学素子から前記被投射面までの距離をそれぞれ異ならせて配置されていることを特徴とする走査型光学装置。
【請求項7】
前記電気光学素子が、水平走査を行うことを特徴とする請求項6に記載の走査型光学装置。
【請求項8】
前記複数の電気光学素子から射出された複数のレーザ光を合成する色合成手段と、
該色合成手段により合成されたレーザ光の垂直走査を行う走査手段とを備えることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の走査型光学装置。
【請求項9】
前記電気光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の走査型光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−116734(P2008−116734A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300371(P2006−300371)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】