説明

走査荷電粒子顕微鏡

【課題】 離散化した検出信号を効率よくディジタル信号に変換し、像質の良い走査像を得ることができる走査荷電粒子顕微鏡を実現する。
【解決手段】 検出信号をアナログ積分器7でアナログ積分し、アナログ積分器7の出力が指定した値を越えたらA/D変換器8でディジタル値に変換し、そのディジタル値をディジタル積分器9でディジタル積分する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡や走査イオン顕微鏡などの走査荷電粒子顕微鏡装置において、二次電子信号などの検出信号を効率よく取り込み、コントラストのある像を得る走査荷電粒子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡や走査イオン顕微鏡などの走査荷電粒子顕微鏡装置において、取り込んだ二次電子像などの検出信号を表示するには、検出器の信号をそのまま長残光のCRTを使用して表示するか、アナログ信号をA/D変換器でディジタル値に変換してメモリーに記憶させ、そのデータを画像として表示している。この検出信号を取り込み表示する方法は、得られる走査画像の品質を決めるため、いろいろな工夫がされてきた。
【0003】
非特許文献1は、検出信号をアナログ積分器で積分する方法や、アナログ積分器に放電抵抗を挿入する方法を示している。
【0004】
特許文献1は、ディジタル積分器とFIRフィルターを使ってサンプリング時のノイズを減少する方法を示している。
【非特許文献1】浜松ホトニクス株式会社編集委員会著「光電子増倍管」発行:浜松ホトニクス株式会社、1993年4月20日、p179−190(7章 7.3外部回路との接続)
【特許文献1】特開平11−120952
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走査電子顕微鏡や走査イオン顕微鏡などにおいて、高い分解能を得るためや試料のダメージを少なくするためなどで一次プローブの電流を小さくすると、一次プローブ電流の粒子性が顕在化するため、試料より得られる検出信号はサンプル時間内に離散的な多数のパルス状の信号として現れるようになる。また、取り込み速度を速くするために回路の応答速度を速くすると、同様に検出信号が離散的な多数のパルス状の信号となる。
【0006】
この検出信号をディジタル値に変換して取り込む装置においては、離散化したアナログ信号をA/D変換しようとしても、そのピークをちょうど捕らえる確率は非常に低く、コントラストの高い走査像を得ることが困難であった。この解決のためには、サンプリング周期の間に複数回のサンプリングを繰り返し行い、周期の間に取り込んだデータをディジタル演算で平均化処理してコントラストを上げる工夫をしているが、個々のサンプリングで信号のピークを捕らえる確率が低いため取り込み回数の割にはコントラストを向上できなかった。
【0007】
他にも、サンプリングの前にローパスフィルタを挿入して信号を平均化する手法を用いることもあったが、離散化した信号では振幅が非常に小さくなってしまい、信号のS/N比が悪くなる問題があった。
【0008】
非特許文献1にあるように、アナログ積分器のみを使用して検出信号を取り込もうとすると、ダイナミックレンジが狭い問題があった。また、同文献の別の例にあるようにアナログ積分器に放電抵抗を挿入する例では、放電による信号の減衰が次の検出信号が発生するまでの時間の関数になるため、正しい波高値を捕らえることができない問題があった。
【0009】
特許文献1の例は、フィルターを工夫することで、検出信号の取り込み速度を大幅に変えてもエリアシング雑音を少なくして良好な像を得ようとする物であるが、A/D変換するときに離散化した信号をうまく捕らえることができない問題があった。
【0010】
走査電子顕微鏡や走査イオン顕微鏡などが開発された当初より使われていた様な、表示装置に長残光CRTを使用し、CRTの蛍光体にパルス状の検出信号を積分する、全ての段階でアナログ処理をする方法があるが、像を観察するときに部屋を暗くするなど装置の取り扱いが簡単でない問題があった。
【0011】
そこで、本願発明による走査荷電粒子顕微鏡においては、上記問題を解決し、離散化した検出信号を効率よくディジタル値に変換して良好な走査像を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明による荷電粒子顕微鏡においては、
第1に、一次プローブビームにより試料から得られる検出信号をアナログ積分して出力するアナログ積分器と、該アナログ積分した信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、前記A/D変換器からのディジタル信号を積分して画像記憶装置に出力するディジタル積分器とを有する。すなわち、離散化した検出信号をアナログ積分器にてアナログ積分し、さらにこの積分した信号をA/D変換してからディジタル積分するようにした。
【0013】
第2に、アナログ積分器で積分した信号値を判定するコンパレータを有し、前記アナログ積分器の信号がコンパレータにより指定された値を超えた事を検出したらA/D変換器でディジタル値に変換し、変換されたディジタル値をディジタル積分器で積分する。すなわち、アナログ積分器が飽和する前に信号をA/D変換して、ディジタル値をディジタル積分器に出力するとともに、アナログ積分器をリセットしてアナログ積分を再開する。
【0014】
第3に、前記アナログ積分器とA/D変換器の組を少なくとも2つ備え、該組を交互にあるいは順に切り替えて使用する。
【発明の効果】
【0015】
アナログ積分器により、サンプリングの際に信号の取りこぼしを少なくし、ディジタル積分器によりダイナミックレンジを拡大した。この結果、コントラストの良い走査像を得ることができるようになった。また、アナログ積分器を複数持つことで処理の高速化を実現することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明による走査荷電粒子顕微鏡の1実施例である。荷電粒子ビーム鏡筒1で発生し収束された例えば電子ビームのような一次プローブビーム2は、偏向電極3で偏向され、試料4の表面に照射される。試料4の表面からは二次電子5などが発生し、二次電子検出器6などで捕らえられ、アナログの検出信号となる。ここでは、検出信号は、一般的なシンチレータと光電子増倍管を利用した二次電子検出器などの出力信号を想定し、図2で示される入力信号波形25の様な、信号が無いときは0V、信号が到来すると二次電子などの強度に比例した正方向の電圧パルスとして出力されるものとする。二次電子検出器6などで捕らえられたアナログ信号はアナログ積分器7で積分され、アナログ積分器7の信号が指定された値を超えたらA/D変換器8でディジタル値に変換してディジタル積分器9に送り、同時にアナログ積分器7をリセットする。ディジタル積分器9は、送られてきたディジタル値をディジタル積分する。二次電子信号のサンプル開始時点でアナログ積分器7およびディジタル積分器9をリセットし、サンプル期間の終了時にディジタル積分器の持つ積分値をそのサンプル期間の二次電子信号値として画像記憶装置10に送る。また、走査制御回路11は走査信号を発生し偏向電極3に供給して、一次プローブビーム2を試料4の表面上で走査し、その結果得られる前述の二次電子5の信号値として画像記憶装置10の試料面のビーム照射位置に対応したアドレスに記憶するように制御する。画像記憶装置10に記憶された情報は、画像表示装置12に送り、試料面の状態を画像として表示する。
【0018】
図2は、本発明による走査荷電粒子顕微鏡の1実施例の詳細図である。本発明の想定している二次電子などの検出信号は、入力信号波形25の様に高さも間隔も不均一なパルス状の信号である。これをアナログ積分器14で積分すると、積分信号波形26の様に単調増加の波形になる。この波形の高さは、積分開始からの入力信号の総和となり、信号パルスの到来間隔には影響されない。しかし、アナログ積分器はその性質上出力電圧に限界があるため、積分できる入力信号に制限があることになる。そこで、本実施例ではアナログ積分器出力15がある値よりも大きくなったら、アナログ積分からディジタル積分に情報を伝達し、アナログ積分のダイナミックレンジを拡大する様にしている。このアナログ積分器出力15が“ある値”よりも大きいかの判定は、アナログ積分器出力信号15をアナログコンパレータ16で基準信号17と比較することにより検出する。以下、その動作を説明する。
【0019】
二次電子信号は入力信号13としてアナログ積分器14で積分する。アナログ積分器出力15がコンパレータ16により基準信号17で指定された値を超え判定信号18が発生したら、A/D変換器20で例えば8ビットのディジタル値に変換するとともに、アナログリセット信号19によりアナログ積分器14をリセットし、変換されたディジタル値は、レジスタ22に記憶された値と加算器21で加算して再度レジスタ22に書き戻す。この加算器21とレジスタ22はディジタル積分器を構成しており、データ取り込み期間の最初にディジタルリセット信号24でデータをゼロにリセットしておき、期間の間はアナログ積分とA/D変換を繰り返して得たデータを、ディジタル的に積分する。期間の終わりにディジタル積分器出力23として取り込み期間のサンプリングされたデータとなる。この加算器21とレジスタ22のビット数を例えば16ビットとすると、アナログのみで処理するよりも256倍のダイナミックレンジを獲得することができる。
【実施例2】
【0020】
図3は、本発明による走査荷電粒子顕微鏡の別の実施例である。
【0021】
アナログ積分器をリセットするときには、アナログリセット信号がアナログ積分器に送られて出力がゼロになるまで待機時間が必要なため、アナログ積分器とA/D変換器を2組持ち、交互にアナログ積分とA/D変換を実施することにより、より高速な変換を実現している。
【0022】
第一のアナログ積分器27が入力信号13を積分している間、第二のアナログ積分器28はリセット状態にある。第一のアナログ積分器27の出力が“ある値”より大きくなったら、該出力は第一のA/D変換器29でA/D変換される。変換されたデータは、セレクタ31の切替信号32が第一のA/D変換器29の出力データを選択しているので、加算器21に送られ、ディジタル積分される。A/D変換器29からディジタル値が出力されたら、直ちに第一のアナログ積分器27はリセット状態になると共に、第二のアナログ積分器28が入力信号13の積分を開始する。第二のアナログ積分器28の出力が“ある値”より大きくなったら、該出力は第二のA/D変換器30でA/D変換され、この時セレクタ31の切替信号32が第二のA/D変換器30の出力データを選択しているので、該出力データは加算器21に送られ、ディジタル積分される。以上の動作を交互に繰り返すことにより、積分器のリセットの際のロスを無くし、高速なサンプリングを行うことができる。
【0023】
上記の例においては、アナログ積分器とA/D変換器の組が2組ある場合について説明したが、3組以上あってもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、離散化した信号を取りこぼすことなく、かつダイナミックレンジを広くサンプリングすることができる。それにより、コントラストの高い走査像を得ることができる走査荷電粒子顕微鏡を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本願発明による荷電粒子顕微鏡の1実施例である。
【図2】本願発明による荷電粒子顕微鏡の1実施例の詳細図である。
【図3】本願発明による荷電粒子顕微鏡の別の実施例である。
【符号の説明】
【0026】
1 荷電粒子ビーム鏡筒
2 一次プローブビーム
3 偏向電極
4 試料
5 二次電子
6 二次電子検出器
7 アナログ積分器
8 A/D変換器
9 ディジタル積分器
10 画像記憶装置
11 走査制御回路
12 画像表示装置
13 入力信号
14 アナログ積分器
15 アナログ積分器出力
16 コンパレータ
17 基準信号
18 判定信号
19 アナログリセット信号
20 A/D変換器
21 加算器
22 レジスタ
23 ディジタル積分器出力
24 ディジタルリセット信号
25 入力信号波形
26 積分信号波形
27 アナログ積分器1
28 アナログ積分器2
29 A/D変換器1
30 A/D変換器2
31 セレクタ
32 切替信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次プローブビームにより試料から得られる検出信号をアナログ積分して出力するアナログ積分器と、該アナログ積分した信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、前記A/D変換器からのディジタル信号を積分して画像記憶装置に出力するディジタル積分器とを有する走査荷電粒子顕微鏡。
【請求項2】
前記アナログ積分器で積分した信号値を判定するコンパレータを有し、前記アナログ積分器の信号が、前記コンパレータにより指定された値を超えた事を検出したら、前記アナログ積分器の信号を前記A/D変換器でディジタル値に変換してディジタル積分器に出力すると共に前記アナログ積分器をリセットする請求項1記載の走査荷電粒子顕微鏡。
【請求項3】
前記アナログ積分器とA/D変換器の組を少なくとも2つ備え、該組を交互にあるいは順に切り替えて使用する請求項1記載の走査荷電粒子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−27788(P2008−27788A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200345(P2006−200345)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】