説明

走査電子顕微鏡

【課題】低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】
電子銃29と、アパ−チャ26と、試料台3と、電子線31を試料2上に収束するための電子光学系4−1と、偏向手段10と、二次電子検出器8、反射電子検出器9と、電子銃29と試料2の間となる位置に筒状の電子輸送手段5を備え、反射電子検出器9は電子輸送手段5の内部であって、二次電子検出器8及び偏向手段10よりも電子銃29に対して遠方側に設置され、反射電子検出器9の感受面9−1は電子輸送手段5と同電位となるように電気的に配線されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低加速の走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
試料上に収束させた電子線プロ−ブを二次元的に走査し、照射位置で発生した信号電子を検出し、その量に関する信号を一次電子線の走査と同期してマッピングすることで走査領域の二次元画像を得る走査電子顕微鏡が広く知られている。
【0003】
信号電子はそのエネルギ−によって二次電子と反射電子に大別される。反射電子は入射電子が試料内で弾性散乱と非弾性散乱を繰り返した結果、再び試料表面から放出された電子を指す。このため、反射電子は入射電子と同程度のエネルギ−で発生量のピ−クを持つ。一方で二次電子は、反射電子が非弾性散乱を起こした際に発生した低エネルギ−電子のうち、試料表面から放出されたものを指す。このため、二次電子は数eV程度のエネルギ−で発生量のピ−クを持つ。一般的には50 eV未満のエネルギ−を持つ信号電子を二次電子と呼び、反射電子と区別される。
【0004】
反射電子の発生量は試料の平均的な原子番号に依存するため、反射電子の検出画像では組成の違いがコントラストとなって観察される。また、同一組成の試料で、試料表面の結晶方位が部分的に異なる場合や、結晶欠陥などを含んでいる場合に観察されるチャネリングコントラストも反射電子に由来することが知られている。これらのコントラストは反射電子を二次電子と分離して検出する必要がある。
【0005】
一方、近年、一次電子線の照射に伴う試料ダメ−ジや帯電の回避、あるいは試料極表面の観察を目的として、加速電圧が約3 kV以下での低加速観察が重要性を増している。低加速で使用される走査電子顕微鏡では、低加速領域で顕在化する収差を抑制するために、試料直前で一次電子線を減速する観察手法を用いるが、減速法を用いた場合、試料周辺部で形成される電界の影響で二次電子が反射電子と同程度のエネルギ−に加速されるため、二次電子と反射電子を分離して検出することが困難となる。しかし、信号電子の軌道上にエネルギ−障壁やウィ−ンフィルタ等を設けることにより、二次電子または反射電子を弁別検出することが可能となる。走査電子顕微鏡で、加速電圧3 kV以下の低加速領域で信号電子を弁別検出する公知の手段として、以下に挙げる特許文献1〜3が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−331770号公報
【特許文献2】特開2006−278329号公報
【特許文献3】特開2000−030654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走査電子顕微鏡において、これまで画像に含まれる情報を分離して取得するための技術開発を行ってきた。二次電子と反射電子では異なる情報を含んでいることが知られている。二次電子を検出すると凹凸や電位の情報を強調した画像が得られ、反射電子を検出すると組成や結晶方位の情報を強調した画像が得られる。したがって、何らかの手段によって二次電子と反射電子を別々に検出できる機構があれば、同一の観察視野において異なる情報を含む観察画像を取得することができる。しかしながら、低加速電圧で高分解能観察を行うには減速電界を適用する必要があるが、減速電界下では二次電子が反射電子と同程度のエネルギ−まで加速されてしまうため、両者を分離検出するのは容易ではない。そこで、減速光学系を持つ走査電子顕微鏡における二次電子または反射電子の分離検出手段について、先行技術を調べた。
【0008】
特許文献1には、単極レンズ型の対物レンズを持つ走査電子顕微鏡でリタ−ディング観察を行う際に、試料の法線方向に放出された二次電子のみを弁別して検出する手段が開示されている。この手法では、試料および対物レンズの試料側磁路に典型的には−0.5 kV程度のリタ−ディング電圧を印加することで発生する減速電界と単極磁界のレンズ作用により、二次電子と反射電子は電子光学系の光軸上に近い軌道を取る。この時、二次電子と比べて相対的にレンズ作用を受けにくい反射電子は光軸からの離軸が大きい軌道を取る。このため、大部分の反射電子が遮蔽されるように中心に電子通過孔を持つ板を設け、遮蔽されずに孔を通過した二次電子をウィ−ンフィルタで偏向することで、反射電子の混入なく二次電子を弁別して検出することができる。
【0009】
特許文献2と特許文献3には二次電子と反射電子を別々に、同時に検出する手段が開示されている。試料から放出された電子の仰角を、以下のように定義する。試料表面に対して法線方向を90度、水平方向を0度とし、以降では便宜的に角度帯を高角、中角、低角と分ける。仰角90度付近を高角、仰角0度付近を低角、高角と低角の中間帯の45度付近を中角とする。
【0010】
この手法では、減速電界レンズのレンズ作用で収束された二次電子と、高角方向に放出された反射電子を検出する。対物レンズがアウトレンズ型の場合、磁界のレンズ主面が試料から離れた配置となっているために試料付近の磁場強度が小さく、エネルギ−が大きい反射電子は磁場による収束作用をほとんど受けない。このため、光軸からの離軸が小さい高角方向に発生した反射電子のみが走査電子顕微鏡の筐筒内に進行する。一方、二次電子は減速電界レンズの作用で収束された後、光軸からの離軸が大きい軌道を取る。このため、高角方向に放出された反射電子が通過できる比較的大きい孔を中心部に持つ検出器を設ければ、二次電子のみを検出することができる。なお、特許文献2の手法では、二次電子の検出器を通過した反射電子の軌道上に電位障壁を設け、二次電子の検出器よりも電子源側に検出器を配置することによって、反射電子のみを弁別して検出することができる。また、特許文献3の手法では、二次電子の検出器を通過した反射電子の軌道上に変換板を設け、反射電子がぶつかった際に発生する変換電子を軸外に設けた検出器で検出することにより、反射電子に由来する信号電子のみを弁別して検出することができる。
【0011】
しかしながら、先に示した先行特許文献に開示された技術において、特許文献1の手法は二次電子の弁別検出には適用できるが、それよりもエネルギ−の高い反射電子の弁別検出には原理的に適用できない。また、特許文献2や特許文献3の手法はいずれも高角方向に放出された反射電子を二次電子と分離して検出することはできるが、それよりも低角側の角度方向に放出された反射電子の弁別検出には適用できない。このため、発生した信号電子のほんの一部しか検出することができず、特に低プローブ電流で低加速の走査顕微鏡では信号電子の発生量自体が少ないため二次電子と反射電子の弁別検出が困難となる。
【0012】
本発明の目的は、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための一実施形態として、プロ−ブとなる電子線を発生させる電子源と、前記電子線の径を制限するアパ−チャと、前記電子線が照射される試料が搭載される試料台と、
前記電子線を前記試料表面に収束するための対物レンズと、前記電子線を照射する試料上で前記電子線を走査するための偏向手段と、前記試料からの二次電子を検出する二次電子検出器と、前記試料からの反射電子または反射電子に由来する変換電子を検出する反射電子検出器と、前記電子源と前記試料台に搭載される試料の間となる位置に筒状の電子輸送手段を備え、前記反射電子検出器の感受面は前記電子輸送手段の内部であって、前記二次電子検出器及び前記偏向手段よりも前記電子源に対して遠方側に設置され、前記反射電子検出器の前記感受面は前記電子輸送手段と同電位となるように電気的に配線されていることを特徴とする走査電子顕微鏡とする。
【0014】
また、電子源と、試料台と、加速管と対物レンズを含み前記電子源から放出された電子を加速後、減速して前記試料台に載置される試料に電子線として照射する電子光学系と、前記電子線の照射により生じる前記試料からの二次電子を検出するための二次電子検出器と反射電子または反射電子に由来する変換電子を検出するための反射電子検出器とを備えた走査電子顕微鏡において、前記反射電子検出器はその中央部に開口部を有すると共に、その感受面は前記加速管の内部に設置され、前記反射電子検出器の前記感受面は前記加速管と同電位となるように電気的に配線されていることを特徴とする走査電子顕微鏡とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射電子と二次電子とを弁別検出できる走査電子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1(a)】第1の実施例に係る走査電子顕微鏡の概略断面図である。
【図1(b)】第1の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【図2】第1の実施例に係る走査電子顕微鏡で用いるシンチレ−タ形状を示す斜視図である。
【図3】第1の実施例に係る走査電子顕微鏡で用いるシンチレ−タ形状の他の例を示す斜視図である。
【図4】第1の実施例に係る走査電子顕微鏡で用いるシンチレ−タ形状の他の例を示す斜視図である。
【図5(a)】第2の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【図5(b)】第2の実施例に係る走査電子顕微鏡における反射電子の動きを説明するための要部断面図である。
【図5(c)】第2の実施例に係る走査電子顕微鏡における二次電子の動きを説明するための要部断面図である。
【図6】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【図7】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡における反射電子及び変換電子の動きを説明するための要部断面図である。
【図8】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡における二次電子の動きを説明するための要部断面図である。
【図9】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部斜視図である。
【図10】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部断面図である。
【図11】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部断面図である。
【図12】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部断面図である。
【図13】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部斜視図である。
【図14】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡で用いるシンチレ−タ形状の他の例を示す斜視図である。
【図15】第3の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【図16】第4の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部断面図である。
【図17】第4の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部斜視図である。
【図18】第4の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部断面図である。
【図19】第4の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【図20】第5の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【図21】第6の実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【図22】一般的な放出電子のエネルギ−分布図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
低加速領域での観察で高分解能を得るには、低加速で顕在化する収差を低減するために減速電界レンズを具備した対物レンズを持つ走査電子顕微鏡が利用される。このような電子光学系は、試料周辺部に配置した電極に電圧を印加した際に発生する電界によって、試料の直前で一次電子線が減速されるように構成される。一般的に、対物レンズと試料の間の距離WD(Working Distance)を小さくすると電子光学系の収差係数が小さくなるため、高分解能の観察を行うには試料を対物レンズに近づけて観察する必要がある。しかし、このような短いWDでは、走査電子顕微鏡の筐筒外に設置した検出器への信号電子の飛来頻度が小さくなり、検出効率が低下してしまう。このため、短WDでの高分解能観察と高い検出効率を両立するには、対物レンズを通過した電子を検出する方式(TTL:Through The Lens)が好ましい。
【0018】
以降では便宜上、典型的には数eVのエネルギ−で発生量のピ−クを持つ50 eV未満の信号電子を二次電子と呼び、50 eV以上かつ一次電子線の照射エネルギ−以下で、照射エネルギ−付近にピ−クを持つ信号電子を反射電子と呼ぶ。また、反射電子が電子光学系の構成物にぶつかった際に発生する、主に二次電子と同程度のエネルギ−を持つ電子を変換電子と呼び、試料で発生した二次電子と区別する。
【0019】
発生時の信号電子の仰角を、以下のように定義する。すなわち、試料表面に対して、法線方向を90度、水平方向を0度とする。以降では便宜的に角度帯を高角、中角、低角と分ける。仰角90度付近を高角、仰角0度付近を低角、高角と低角の中間帯の45度付近を中角と呼ぶ。
【0020】
信号電子が発生する際、その角度分布は概ねコサイン則に従っており、コサイン則では仰角45度付近に発生量のピ−クを持つ。このため、全方位角の電子を検出する場合で、仰角方向に同じ角度範囲に含まれる電子数を比較すると、仰角0度付近に放出された電子を検出するよりも、中角度帯に放出された電子を検出する方が、検出収量の点で優位である。したがって、発生量の多い角度領域の反射電子を検出することによって、照射電子線の電流量が小さくても十分なコントラストを持つ反射電子像が得られることが期待される。
【0021】
また、走査電子顕微鏡の対物レンズは減速電界と磁界の両方を利用したレンズ構成とする。試料で発生した時に同じ仰角の角度方向に放出された二次電子と反射電子を比較した場合、エネルギ−の高い反射電子はエネルギ−の低い二次電子よりも同じレンズ場から受ける収束作用が相対的に小さくなるため、比較的試料に近い位置では、二次電子の方が反射電子よりも光軸に近い軌道を取る。このため、光軸から離れた軌道を取る反射電子のみが通過する軌道上に検出器を設けることによって、反射電子の弁別検出が可能となる。
【0022】
そして本発明によれば、反射電子検出器の感受面を電子輸送手段(加速管)の内部に設置し同電位とすることにより発生量の多い中角度帯に含まれる信号電子を検出することが可能となり、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することができる。
以下、実施例により詳細を説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の第1の実施例について、図1(a)、図1(b)、図2〜図4を用いて説明する。図1(a)は本実施例の走査電子顕微鏡の全体概念構成図である。図1(a)に示した走査電子顕微鏡は、大まかには、試料2に対して一次電子線31を照射するための機構を備えた電子光学筐筒30と試料2を保持する試料台3と、試料2を置き移動させて観察領域を決める試料台移動機構(図示せず)、およびSEM像の表示装置(図示せず)、SEM全体を制御するコントローラー(図示せず)、真空排気設備(図示せず)などにより構成される。
【0024】
電子光学筐筒30は、基本的には、電子銃(電子源)29、加速電極28、1つ以上のコンデンサレンズ27、アパ−チャ26や対物レンズである電子レンズ(ここではセミインレンズ型磁界レンズ4−1を図示)、電子輸送手段として設けられた加速管5、1段以上の偏向器10、二次電子検出器8、反射電子検出器9などで構成され、図1(b)は走査電子顕微鏡のシステムのうち、試料台3から偏向器10までの構成を抜き出したものである。電子銃29としては、CFE(Cold Field Emission)、SE(Schottky Emission)、熱電子(Thermionic Emission)など各種電子銃を用いることができる。図1(a)に示すように、偏向器10および二次電子検出器8は、反射電子検出器9よりも電子銃29側に設置される。符号1は光軸、符号40は磁界レンズの磁路、符号9−1、9−2、9−3はそれぞれ反射電子検出器9のシンチレータ(感受面)、ライトガイド、光電子増倍管(PMT)、符号45はプローブ電子線の通過孔、符号48はシンチレータ9−1表面に設けられた導電体を示す。なお、同一符号は同一構成要素を示す。
【0025】
図1(b)に偏向器10から試料台3の部分の概念構成図を示す。本実施例では走査電子顕微鏡の対物レンズは、試料2に意図的に磁場を界浸させるセミインレンズ型の磁界レンズ4−1である。界浸磁場中に試料2が設置されるため、高分解能の観察が可能である。図1(b)に示すように、加速管5は対物レンズ4−1の上磁路のテ−パ−部分に沿った形状を持ち、対物レンズ4−1の上磁路上部の間隙に確保された空間領域に、試料2付近で開口端を持つように筒状の電極として設置される。電子光学系の対称性を考慮すると、加速管5との開口端は軸対称な形状が好ましい。図1(b)に示すように、本実施例では対物レンズ4−1と試料2は共に接地電位とし、低加速で十分な収差低減が実現される減速電界が形成されるように加速管5には1 kV以上の正電圧を電源6−1により印加する。この時、対物レンズ4−1と加速管5の間隙には、電気的に絶縁されるように図示しない絶縁体が設けられる。本実施例では図1(b)に示すように、対物レンズ4−1付近から二次電子検出器8付近までの領域に部分的に加速管5を設けた場合について説明するが、加速管5の設置範囲を電子銃29付近まで延長した場合であっても、信号電子の検出方法は基本的に同様である。
【0026】
電子銃29から放たれた一次電子線31は、加速電極28で加速され、コンデンサレンズ27で収束され、アパーチャ26を通過して試料2に到達する。一次電子線31が試料2に照射されると、信号電子が放出される。図22に信号電子のエネルギ−分布図を示す。図22に示すように、典型的には数eVのエネルギ−で発生量のピ−クを持つ50 eV未満の信号電子を二次電子32−1と呼び、50 eV以上かつ一次電子線の照射エネルギ−以下で、照射エネルギ−付近にピ−クを持つ信号電子を反射電子32−2と呼ぶ。
【0027】
対物レンズがセミインレンズ型の磁界レンズ4−1の場合は試料2付近の漏洩磁場が大きく、磁界レンズの磁場が試料2に界浸する。このため、短WDでの観察時に一次電子線31の加速電圧が3 kV以下の場合は、一次電子線31と反対方向に進行する反射電子32−2に対しても対物レンズ4−1のレンズ作用で収束される。このため、典型的には1 mm程度の短いWDでは、信号電子32(二次電子32−1、反射電子32−2)の大部分は対物レンズ4−1を通過して走査電子顕微鏡の筐筒内に進行する。
【0028】
図1(b)に示すように、対物レンズ4−1の上磁路上部に設置された筒状の加速管5に正電圧を電源6−1により印加すると、この加速管5内の領域で信号電子が加速される。例えば、加速管5に6 kVの正電圧を電源6−1により印加し、試料2への照射エネルギ−が1 keVとなる条件では、発生する信号電子32(二次電子32−1、反射電子32−2)のエネルギ−は試料2付近では1 keV以下となる。この時試料2付近で、二次電子32−1のエネルギ−は0〜50 eV、反射電子32−2のエネルギ−は50 〜1000 eVとなり、加速管5内の領域では、二次電子32−1のエネルギ−は6000〜6050 eV、反射電子32−2のエネルギ−は6050〜7000 eVに加速される。しかし、本実施例のように加速管5が対物レンズ4−1付近のみに部分的に設置されている場合は、信号電子が加速管5外側の領域に出ると減速され、試料2付近でのエネルギ−と同等となる。一般的に検出器では、高エネルギ−の電子ほど多くの検出信号が得られるため、加速された状態で検出するほど検出感度が大きくなる。このため、加速された状態で信号電子を検出するには、加速管5内に検出器の感受面を設置する必要がある。
【0029】
図1(b)に示す反射電子検出器9は、Everhart−Thornley型検出器(以下、ET検出器)と同様の検出原理を持つ検出器である。これは走査電子顕微鏡の信号電子検出器として一般的に用いられている。反射電子検出器9の構成は信号電子を光に変換するシンチレ−タ9−1と、光を再び電子に変換してその電子を増幅する光電子増倍管9−3(以下、PMT)を備え、シンチレ−タ9−1とPMT9−3はライトガイド9−2で接続される。この構成により、信号電子がシンチレ−タ9−1に入射すると、発生した光がライトガイド9−2を通じてPMT9−3に到達し、PMT9−3で光が電気信号に変換されて検出される。典型的には信号電子がシンチレ−タ9−1に入射する際に5 keV以上の高いエネルギ−を持っていれば十分な発光が起こり、これを検出することができる。一方で、シンチレ−タ9−1に入射する際のエネルギ−が5 keV未満の場合には十分な発光が起こらないため、検出が困難となる。そこで、感受面となるシンチレ−タ9−1の表面部分にAlなどの導電体48を蒸着などの手段によって均一に被覆し、この導電体48部分に5 kV以上の正電圧を印加すると、信号電子のエネルギ−が5 keV未満であっても、検出器の感受面に到達するまでに加速されて十分に発光が起こるため、検出が可能となる。なお、シンチレ−タ9−1の感受面に設けられる導電体48膜の膜厚は、面内分布が±10%以内であれば均一な膜厚と見なすことができる。
【0030】
図1(b)に示す反射電子検出器9は、感受面に設けた導電体48部分を加速管5と電気的に接続し、電源6−1により加速管5に印加した正電圧と同じ電位にすることによって、反射電子検出器9に到達した信号電子をET検出器と同じ原理で検出できる。すなわち、加速管5で5 keV以上に加速された信号電子がシンチレ−タ9−1に入射すると、シンチレ−タ9−1で発光が起こる。この光がライトガイド9−2を通じてPMT9−3に到達すれば、その出力信号が信号電子の検出信号となる。シンチレータ9−1とライトガイド9−2は接続部46で接合されている。(シンチレータの形状は図2、図3、図4を用いて後述)なお、シンチレ−タ9−1で発生した光は、臨界角以下の入射角で境界部に達した場合はシンチレ−タ9−1の外部に光が進行する。このような光量の損失を低減するには、シンチレ−タ9−1表面に導電体48の膜を設けることによって、シンチレ−タ9−1内部に光が反射されることが有効である。このため、ライトガイド9−2との接続部46以外のシンチレ−タ9−1表面を導電体48で被覆することで、信号電子の検出効率の改善が期待できる。なお、上記説明では、導電体を加速管に接続したが、導電体48を電源6−1に直接接続し、加速管と同電位にすることもできる。
【0031】
なお、シンチレ−タ9−1は様々な種類があり、組成や混合されるド−パントの種類などによって発光量や減衰時間などの基本特性が異なる。本実施例で用いるシンチレ−タ9−1は後述する形状に成形する必要があるため、固体シンチレ−タであることが望ましい。シンチレータには様々な種類があるが、典型的にはYAG:Ce(イットリウム アルミニウム ガ−ネットにセリウムをド−プ)などが用いられる。シンチレ−タ9−1の断面形状は図1(a)に示すように、電子の通過孔45を備え、試料側端面は光軸1に対して軸対称な配置となるようなテ−パ−を持つことが望ましい。これは、テ−パ−を設けることによって、シンチレ−タ9−1内部で発生した光がライトガイド9−2の方向に進行しやすくなり、ライトガイド9−2によるシンチレ−タ9−1内部で発生した光の集光効率を高め、信号電子の検出効率を改善できるためである。なお、シンチレ−タ9−1とライトガイド9−2の間は、接続部46での屈折率変化が急峻にならないよう、オプティカルセメントなどの接続手段を用いることが望ましい。
【0032】
シンチレ−タ9−1に接続するライトガイド9−2とPMT9−3が1対の場合は、図2または図3のように円錐状に刳り貫かれ、試料側で大きく、電子線側で小さな開口を有するシンチレ−タ形状が望ましい。このような形状にすることで、光軸1に関して、シンチレ−タ9−1とライトガイド9−2の接続部46に近い領域で発生した光だけでなく、シンチレ−タ9−1とライトガイド9−2の接続部46から遠い領域で発生した光がライトガイドで集光されることが期待される。
【0033】
ライトガイド9−2およびPMT9−3を2対用いる場合は、図4に示すように光軸1に関して線対称な配置となるようにシンチレ−タ9−1を分割し、各々のシンチレ−タにライトガイドとPMTを接続する構成にすることで、検出効率を改善することができる。
【0034】
なお、ライトガイド9−2は図1(b)に示すように、磁界対物レンズの磁路40を貫通するようにして設置される。磁路40に穴を設け、一方向だけに異方的にライトガイド9−2を設けることで、磁界のレンズ作用の対称性が著しく損なわれる場合には、光軸1に対称な配置となるように、例えば図1(b)のライトガイドの方向を含む4つの方向に同じ形状の穴を4回対称に対物レンズの磁路40に設けることが望ましい。
【0035】
反射電子の弁別検出方法の原理に関して、図1(b)を用いて説明する。一次電子線31を試料台3に固定された試料2に照射した際に、その照射位置から放出される信号電子は二次電子32−1、反射電子32−2を含む。なお、矢印の向きは各エネルギ−を有する信号電子の移動方向の一例であり、これに限らず多方向に放出される。信号電子のエネルギ−分布は、図22で示すように、試料2付近で二次電子32−1が50 eV未満、反射電子32−2が50 eV以上かつ照射エネルギ−以下となる。一次電子線31を照射した際に試料2で発生した信号電子32(二次電子32−1、反射電子32−2)は試料2表面から電子銃29の方向に進行する。磁界の対物レンズがセミインレンズの場合は漏洩磁界が試料2付近に界浸しているため、典型的には約1 mm程度の短WDでの観察では、試料2から同じ角度方向に放出された二次電子32−1と反射電子32−2を比較すると、定性的にはエネルギ−が大きい反射電子32−2の方が二次電子32−1よりもレンズ場によって収束されにくく、二次電子32−1の方が反射電子32−2よりも光軸1に近い軌道を取る。一方の反射電子32−2は二次電子32−1よりもエネルギ−が高いため、相対的に二次電子32−1よりも光軸1から離れた軌道を取る。このため、50 eV以下のエネルギ−を持つ二次電子32−1の大部分が通過孔45を通過するように、シンチレ−タ9−1に設けた電子通過孔45の口径を設定すれば、図1(b)に示すように対物レンズ4−1を通過して走査電子顕微鏡の筐筒内に進行した反射電子32−2のうち、加速管5で加速された中角方向付近に放出された反射電子32−2を弁別検出することができる。上記構成とし、発生収量の多い仰角45度付近の角度帯に含まれる反射電子を二次電子と分離して検出することで、照射電子線の電流量が小さい場合でも十分なコントラストを持つ反射電子またはそれに由来する信号電子の弁別検出画像が得られる走査電子顕微鏡を提供できる。
【0036】
これらの反射電子検出器9は、一次電子線31を試料2上で走査するために設けられた偏向器10よりも試料2側に設置する。偏向場の領域を通過せずに反射電子32−2が検出されるため、軌道が偏向されることが原因で検出画像のコントラストが異常となる、シェ−ディングの影響を回避することができる。
【0037】
また、図1(b)に示すように、二次電子検出器8は反射電子検出器9よりも電子銃29側に設置される。反射電子検出器9よりも電子源側に進行する信号電子には、二次電子32−1に加え、反射電子検出器9で検出されなかった低角および一部中角方向に放出された反射電子32−2が含まれるが、発生量を比較すると圧倒的に二次電子32−1の方が多いため(総量で1/10程度)、これらの信号電子を検出すると、その画像は主に二次電子の情報を反映した画像となることが期待される。
【0038】
なお、本実施例では試料2を接地電位とした場合について説明したが、低加速領域での収差をさらに低減するために、上記の状態で試料台3に負電圧を印加するリタ−ディング法を適用した場合であっても同様の原理で反射電子32−2を検出できる。リタ−ディング電圧を印加すると、対物レンズ4−1の磁路と試料2間に形成される減速電界によって信号電子は加速される。このため、リタ−ディング電圧を印加する場合には、加速管5に印加する電圧がリタ−ディング電圧と同じ電圧だけ小さい場合でも、加速管5内の検出器での検出感度は変わらない。ただし、リタ−ディング電圧を印加し、加速管5に印加する電圧を変えることによって信号電子の軌道が変化するため、検出される反射電子32−2の角度領域は変化する。
【0039】
本実施例に係る走査電子顕微鏡により、照射エネルギを1 keV、プローブ電流を10pA〜100pAとして生体試料の観察を行ったところ、二次電子と反射電子とを弁別検出でき、良好な結果がえられた。
以上、本実施例によれば、発生量の多い中角度帯に含まれる信号電子を用いることにより、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することができる。
【実施例2】
【0040】
第2の実施例について、図5(a)〜図5(c)を用いて説明する。なお、実施例1に記載され、本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。図5(a)は本実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【0041】
この図は、電子銃29、加速電極28、コンデンサレンズ27、アパ−チャ26や対物レンズである電子レンズ、電子の加速管5、偏向器10、二次電子の検出器8、反射電子の検出器9、試料2を置く試料台3、試料台3を移動させて観察領域を決める試料台移動機構、SEM像の表示装置、SEM全体を制御するコントローラー、真空排気設備などからなる走査電子顕微鏡のシステムのうち、試料台3から二次電子検出器8までの構成を抜き出したものである。電子銃29としては、CFE、SE、熱電子など各種電子銃を用いることができる。図5(a)に示すように、偏向器10と二次電子検出器8は反射電子検出器9よりも電子銃29側に設けられる。
【0042】
本実施例では、走査電子顕微鏡の対物レンズは磁界レンズと電界レンズで構成され、そのうち磁界レンズは試料に磁場を界浸させないアウトレンズ型4−2とした。実施例1に示したセミインレンズ型と異なり、磁界レンズのレンズ主面が試料から離れているため、試料2付近の軸上磁界強度はセミインレンズ型の対物レンズの場合と比べて小さい。このため、磁性体試料の観察も可能となる。図5(a)に示すように、電子輸送手段として設けられた加速管5は、対物レンズ4−2の上磁路と光軸1の間隙に確保された空間領域に、対物レンズ4−2の上磁路に沿って筒状の電極として設けられる。加速管5には1 kV以上の正電圧が電源6−1により印加され、接地電位となっている試料2の間の空間に、3 kV以下の低加速領域でレンズ収差の低減に十分寄与するような減速電界7(図5(b)または図5(c)参照)のレンズ場が形成されるように、試料2側の加速管5開口端部は、試料2近くまでの範囲に渡るように配置される。
【0043】
対物レンズ4−2と加速管5の間隙には、電気的に絶縁されるように図示しない絶縁体が設けられる。なお、本実施例は図5(a)に示すように、対物レンズ4−2付近に部分的に加速管5を設けた場合の信号電子32(二次電子32−1、反射電子32−2)の検出方法について説明するが、加速管5の設置範囲を電子銃29付近まで延長した場合であっても、信号電子の検出方法は同様である。なお、反射電子検出器9の構成は実施例1と同様、ET検出器を用いる。シンチレ−タ9−1の形状やライトガイド9−2、PMT9−3の構成や配置は実施例1と同様である。
【0044】
反射電子の弁別検出方法の原理に関して、図5(b)および図5(c)を用いて説明する。加速管5と試料2の間に形成される減速電界7は、図5(b)および図5(c)に示す等電位面によって特徴付けられる。
【0045】
試料台3に固定された試料2から放出された信号電子は二次電子32−1、反射電子32−2を含む。なお、矢印の向きは各エネルギ−を有する信号電子の移動方向の一例であり、これに限らず多方向に放出される。試料2で発生する信号電子は、図22に示すように、二次電子32−1が50 eV未満、反射電子32−2が50 eV以上かつ照射エネルギ−以下となる。
【0046】
例えば、加速管5には8 kVの正電圧を電源6−1により印加し、磁界レンズ4−2のレンズ強度を調整することで試料2へのフォ−カス調整を行う。これにより、特に加速電圧3 kV以下の低加速領域において、収差係数の低減が期待される。実施例1とは異なり、アウトレンズ型の磁界レンズ4−2が用いられる場合は、試料2付近の漏洩磁場が小さく、3 kV以下の低加速領域で使用する場合は磁界レンズ4−2よりも減速電界7による電界レンズの収束作用が主体となる。このため、減速電界7の収束作用により試料2から発生した一次電子線31と逆方向に進行する50 eV以下のエネルギ−を持つ二次電子32−1は十分な収束作用を受けるが、1 keV以上の高いエネルギ−を持つ反射電子32−2を収束するほどの収束は持っていない。したがって、図5(b)に示すように低角方向に発生した反射電子32−2の大部分は走査電子顕微鏡の加速管5内に進行せず、加速管5内に進行する反射電子32−2は高角〜中角方向に発生する反射電子32−2に限定される。一方で二次電子32−1には減速電界7による十分なレンズ作用がはたらくため、典型的には5 mm以内の短WDでは、図5(c)に示すように、発生した全角度帯の二次電子32−1の大部分が収束されて加速管5内を進行する。
【0047】
以上より、加速管5内を進行する信号電子は全角度帯に含まれる二次電子32−1と、高角〜中角方向に発生した反射電子32−2となる。反射電子32−2は二次電子32−1よりもエネルギ−が高いため、同じ角度方向に放出された信号電子の軌道を比べると、相対的に二次電子32−1よりも光軸1から離れた軌道を取る。試料の高角方向に放出された信号電子では軌道の違いが小さいが、低角方向に放出される信号電子ほど軌道の違いが大きく現れる。このため、実施例1と同様に、反射電子検出器9で検出される信号電子は、走査電子顕微鏡の加速管5内に進行する低角方向に放出された二次電子32−1が反射電子に較べ十分少なくなるように、大半(できれば全て)の二次電子32−1が反射電子検出器9に設けられた通過孔45を通過するようにシンチレ−タ9−1に設けた電子通過孔45の口径を設定すれば、対物レンズ4−2を通過して走査電子顕微鏡の加速管5内に進行した反射電子32−2のうち、中角方向に放出されたものを弁別検出することができる。
【0048】
本実施例に係る走査電子顕微鏡により、照射エネルギを1 keV、プローブ電流を10pA〜100pAとして磁性体試料の観察を行ったところ、二次電子と反射電子とを弁別検出でき、良好な結果がえられた。
以上、本実施例によれば、発生量の多い中角度帯に含まれる信号電子を用いることにより、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することができる。また、対物レンズとしてアウトレンズ型磁界レンズを用いることにより、磁性体の観察が可能となる。
【実施例3】
【0049】
第3の実施例について、図6〜図15を用いて説明する。なお、実施例1又は2に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。図6は、本実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【0050】
この図は、電子銃29、加速電極28、コンデンサレンズ27、アパ−チャ26や対物レンズである電子レンズ、電子の加速管5、偏向器10、二次電子の検出器8、反射電子の検出器9、試料2を置く試料台3、試料台3を移動させて観察領域を決める試料台移動機構、SEM像の表示装置、SEM全体を制御するコントローラー、真空排気設備などからなる走査電子顕微鏡のシステムのうち、試料台3から二次電子検出器8までの構成を抜き出したものである。電子銃29としては、CFE、SE、熱電子など各種電子銃を用いることができる。図6に示すように、偏向器10と二次電子検出器8の設置位置は反射電子検出器9よりも電子銃29側に設置される。
【0051】
実施例2と同様に、対物レンズ4−2と加速管5の間隙には、電気的に絶縁されるように図示しない絶縁体が設けられる。なお、本実施例は図6に示すように、電界レンズとアウトレンズ型磁界レンズを備えた対物レンズ4−2付近に部分的に加速管5を設けた場合の信号電子32(二次電子32−1、反射電子32−2)の検出方法について説明するが、加速管5の設置範囲を電子銃29付近まで延長した場合であっても検出方法は同様である。なお、検出器の構成は実施例2と同様で、ET検出器を用いる。
【0052】
本実施例では、対物レンズ4−2と試料2の間に変換電極43を設け、これに反射電子32−2がぶつかった際に二次電子である変換電子32−3を発生する変換板として利用する。
【0053】
変換電極43は対物レンズ4−2と試料2の間の減速電界7(図7または図8参照)が、試料2付近光軸1上で緩やかに変化するように設けられる。本実施例では変換電極43および試料2はともに接地電位とする。実施例2では、接地された試料と加速管の間で電界が急激に変化するため、試料の傾斜観察が難しい。また、試料表面に局所的な凹凸がある場合には、減速電界7の均一性が乱れ、電子光学系の光軸1の調整が困難となる。これに対し本実施例では、試料2と同電位の変換電極43の設置により局所的な減速電界7の乱れが抑制されるため、試料2の傾斜観察も可能となる。
【0054】
実施例2の方法で反射電子32−2を検出する場合、走査電子顕微鏡の加速管5内に進行しない中角〜低角方向に放出された1 keV以上のエネルギ−を持つ反射電子32−2は、走査電子顕微鏡の加速管5内では検出できない。そこで、試料2から放出された反射電子32−2のうち、中角〜低角方向に放出される1 keV以上のエネルギ−を持つ反射電子32−2を二次電子32−1と分離して検出するために、変換電極43によって反射電子32−2のみを変換電子32−3に変換し、これを走査電子顕微鏡の筐筒30内で検出する。これについて、以下で詳細を述べる。
【0055】
信号電子が変換電極43にぶつかると変換電子32−3を発生する。この変換電子32−3は、変換電極43の材質によらず、ぶつかる信号電子のエネルギ−が約1 keV付近の時に発生量のピ−クを持つことが知られている。また、変換電子32−3の発生量は変換電極43の材質によって異なるため、発生量が多い材料として、導電対、典型的には金(Au、原子番号79)を用いることが好ましい。なお、絶縁体材料の中には導電体よりも変換電子の発生量が多い材料が存在するが、信号電子がぶつかることで変換電極が帯電し、発生量が変化することは検出原理上好ましくないため、変換電極には導電体を用いることが望ましい。また、変換電極43における変換電子32−3は、信号電子がぶつかった部位の表面から数10 nm程度までの領域となる。このため、変換電極43は土台となる部品はAlなどの導電体で成形し、その表面を蒸着などの手段によって別の変換効率の良い導電体の膜を形成しても良い。なお、この時の変換効率の良い導電体の膜厚は、50 nm以上であることが望ましい。
【0056】
なお、信号電子が1 keV付近よりも小さいエネルギ−で変換電極43にぶつかった場合は、変換電極43の内部で損失するエネルギ−が小さく、変換電子32−3の発生量が少ない。このため、50 eV以下の信号電子が変換電極43にぶつかった場合は、変換電子32−3はほとんど発生しない。したがって、試料2と変換電極43がともに同電位に設定されている場合は、信号電子の変換電極43への入射エネルギ−が、試料2で発生した時のエネルギ−と等しく、50 eV未満の二次電子32−1が変換電極43にぶつかっても、変換電子32−3はほとんど発生しない。
【0057】
反射電子の弁別検出方法の原理に関して、図7と図8を用いて説明する。試料台3に固定された試料2から放出された信号電子は二次電子32−1、反射電子32−2を含む。なお、矢印の向きは各エネルギ−を有する信号電子の移動方向の一例であり、これに限らず多方向に放出される。試料2で発生する信号電子は、図22に示すように、二次電子32−1が50 eV未満、反射電子32−2が50 eV以上かつ照射エネルギ−以下となる。試料2で発生した信号電子の一部は試料2表面から電子銃29の方向に進行する。
【0058】
照射エネルギ−が3 kV以下の時、50 eV以上3.0 keV以下のエネルギ−を持つ反射電子32−2が変換電極43にぶつかると、各反射電子32−2から1つ以上の変換電子32−3が発生することが期待される。この変換電子32−3を走査電子顕微鏡の加速管5内で弁別検出することによって、反射電子32−2に由来する信号を得ることができる。これについて、以下で詳細を述べる。
【0059】
加速管5と変換電極43の間に形成される減速電界7は、図7に示す等電位面によって特徴付けられる。このような減速電界7が形成されると、図7の変換電極43の表面で発生した変換電子32−3は電界によるレンズ作用にしたがって加速管5の試料2側開口部に向かって収束作用を受けた後、開口部通過後は発散作用を受ける。このため、変換電子32−3の典型的な軌道は図7のようになる。また、変換電極43で発生した変換電子32−3は、発生時のエネルギ−は典型的には50 eV以下であるが、変換電極43と加速管5の間の電位差のため、加速管5の内壁に到達するまでに加速される。したがって、例えば加速管5に6 kVの正電圧を電源6−1により印加し、変換電極43で3 eVの変換電子32−3が発生したとすると、これが加速管5の内壁に到達した時には6003 eVに加速される。このため、加速管5の内部に設置された反射電子検出器9でこの変換電子32−3を検出することによって、反射電子32−2に由来する信号を高い増倍率で検出できる。
【0060】
一方で、試料2で発生した二次電子32−1は、その大半が変換電極43に設けられた一次電子線31の通過孔45より走査電子顕微鏡の加速管5内に進行し、図8に示す軌道で一次電子線31とは逆向きに加速管5内を進行する。ここで、少なくとも50 eV以下の二次電子32−1の大部分が電子通過孔45を通過するように、変換電極43の内径が決定される。なお、二次電子32−1が変換電極43にぶつかっても、上記の理由により二次電子32−1は変換電極43にぶつかる時のエネルギ−が50 eV未満と小さいため、変換電子32−3はほとんど発生しない。
【0061】
したがって、走査電子顕微鏡の加速管5内で二次電子32−1が通過しない領域で、反射電子32−2に由来する変換電子32−3が到達する加速管5の内壁上に反射電子検出器9を設置することによって、反射電子32−2に由来する信号を弁別して検出することができる。反射電子検出器9の形状や配置の詳細は後述する。
【0062】
次に、変換電極43の形状について述べる。変換電極43の接地電極としての役割は、試料2付近での光軸1上の減速電界7の変化を緩やかにし、試料2を傾斜して観察することや表面に凹凸を持つ試料2の観察を可能とするために設けられるものである。一方で変換電極43の変換板としての役割は、反射電子32−2がぶつかった時に効率良く変換電子32−3を発生させ、それを走査電子顕微鏡の加速管5内に進行するように放出することである。このような機能を満たすように、変換電極43の形状や開口率を設定する必要がある。
【0063】
図9〜図12に変換電極43の形状の概略図を示す。
図9は、同心円状に配置したリング状の変換板44を支柱50で固定した形状である。光軸1に最も近い電極は、一次電子線31および二次電子32−1の通過孔45となるため、軸対称な形状が好ましい。各変換板44の間の距離で決まる変換電極43の開口率は、反射電子32−2の変換効率を考慮して決定される。変換電極43の形状の例として、図9の変換電極43の断面が図10〜図12に示すような形状となっているものが考えられる。図10は、光軸1に平行な方向の厚みが同じ3枚のリング状の変換板44を同心円状に並べたものである。図11は、図10の3枚のリング状の変換板44を、光軸1に近い変換板44ほど、試料2に近い位置に設置したものである。電極配置43を図10のような形状にすることで、試料2を傾斜して観察する場合でも、変換電極43の先端が対物レンズ4−2の先端から試料側に伸びているため、短いWDを維持することができる。また、図10や図11のような形状の場合、あるWD、特に長いWDに設定した場合、一部の反射電子32−2が変換板にぶつからずに、走査電子顕微鏡の加速管5内に直接進行する可能性が生じる。これを回避するには、図12のような断面形状が望ましく、WDを変更した場合でも反射電子32−2が変換板44にぶつかり、変換電子32−3が発生しやすい構成とすることができる。
【0064】
図13は、変換電極43に一次電子線31の通過孔45と、反射電子32−2の変換孔44を多数設けた形状となっている。この場合の変換電極43の断面形状も図10〜図12のようにすることで、上記と同様の効果を期待することができる。なお、変換電極43の形状は図9〜図12の形状に限定するものではなく、同じ機能を持つ類似の形状もこれと同様と考える。また、5 keV以上の比較的高加速電圧では、図9〜図13に示す変換電極を複数枚重ねて使用することで、一枚目の変換電極でエネルギ−を損失した反射電子32−2を二枚目以降の変換電極で変換電子32−3を放出しやすくすることで、上記と同様の反射電子32−2の変換効果を期待できる。
【0065】
次に、反射電子検出器9の構成要素であるシンチレ−タ9−1の形状について述べる。実施例1や実施例2と同様に、二次電子が通過せず、反射電子に由来する変換電子のみが通過する軌道上の領域にシンチレ−タを設置する必要がある。このため、シンチレ−タ9−1は実施例1および実施例2と同様に、図2や図3に示す形状でも構わない。
【0066】
変換電子32−3を加速管5内の反射電子検出器9で検出する場合、減速電界7の分布状況、変換電子32−3の発生位置、発生時のエネルギ−や放出される角度に依存して変換電子32−3の加速管5内の到達位置が異なる。このため、図2や図3のようなシンチレ−タ9−1の形状にする場合は、大部分の二次電子32−1が通過し、大部分の変換電子32−3のみが検出されるようにシンチレ−タ9−1に設けた一次電子線31の通過孔45の口径を設定する必要がある。磁界のレンズ強度やWDなどの観察条件が変わるとこの二次電子32−1の軌道が変わるため、一次電子線31の通過孔45の口径は大きく設定する必要がある。一方で通過孔45の口径を大きくすると、変換電子32−3の検出効率が低下し好ましくない。これを回避するには、図14および図15に示すシンチレ−タ9−1形状が望ましい。この形状は図3のシンチレ−タ形状を光軸1の方向に複数個連ねた構造をとなっている。図2や図3のシンチレ−タ形状の場合と比べて、一次電子線31および二次電子32−1の通過孔45の開口径を広く確保しつつ、加速管5の試料側開口端部付近の内壁に広範囲に渡って飛来する変換電子を検出することができる。これによって、高い変換電子32−3の検出効率を得ることできるため、十分なコントラストを持つ反射電子32−2画像を取得することができる。
【0067】
本実施例に係る走査電子顕微鏡により、照射エネルギを3 keV、プローブ電流を10pA〜100pAとして生体試料の観察を行ったところ、二次電子と反射電子とを弁別検出でき、良好な結果がえられた。
以上、本実施例によれば、発生量の多い中角度帯に含まれる信号電子を用いることにより、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することができる。また、変換電極を用いることにより反射電子に由来する信号を高い増倍率で検出することができる。
【実施例4】
【0068】
第4の実施例について、図16〜図19を用いて説明する。なお、実施例1乃至3の何れかに記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。図16は、本実施例に係る走査電子顕微鏡の要部断面図である。
【0069】
この図は、電子銃29、加速電極28、コンデンサレンズ27、アパ−チャ26や対物レンズである電子レンズ、電子の加速管5、偏向器10、二次電子検出器8と反射電子検出器9、試料2を置く試料台3、試料台3を移動させて観察領域を決める試料台移動機構、SEM像の表示装置、SEM全体を制御するコントローラー、真空排気設備などからなる走査電子顕微鏡のシステムのうち、反射電子検出器9の構成を抜き出したものである。
【0070】
実施例3に記載のET検出器の原理を用いた反射電子検出器9において、実施例3とは異なる構成の場合について説明する。本実施例では、ライトガイド9−2として直径が数mmの光ファイバ51(図18参照)を用いる。加速管5内での光ファイバ51の配置を図17に示す。加速管5内壁に沿って、らせん状に配置される。図18に示すように、この光ファイバ51の表面には粉末状のシンチレ−タ9−1を比較的均一に固定し、その表面にAlなどの導電体48膜を設け、この導電体48の部分が加速管5と同じ電位になるように電気的に接続する。なお、PMT9−3と加速管5とは電気的に絶縁される必要があるため、導電帯が表面に設けられる部位90は図17および図18に示すように加速管5の内部に収納される部分に限られる。
【0071】
加速管5内に進行した信号電子32は、シンチレ−タ9−1にぶつかると発光し、この光49が光ファイバ51内に入ると、その一部が全反射を繰り返してPMT9−3まで到達する。これにより、実施例3と同様の原理で検出が可能となる。このような検出器の構成にすることで、ライトガイドを磁界対物レンズの磁路40を貫通する穴を設ける必要がなくなり、光ファイバ51を用いることで、ライトガイド9−2の設置自由度を向上することができる。
【0072】
また、同様の効果を得るのに上記の光ファイバ51およびシンチレ−タ9−1の部分をシンチレ−ティングファイバ52で代用しても良い。シンチレ−ティングファイバ52はそれ自身がシンチレ−タとライトガイドの役割を兼ね備えており、図19に示すような断面形状となっている。図19に示すように表面にAlなどの導電体48膜を設け、この導電体48の部分が加速管5と同じ電位になるように電気的に接続すると、上記と同じ検出原理で検出が可能となる。ファイバそのものが蛍光体となっているため、光ファイバの表面に粉末状のシンチレ−タで被覆する場合よりも、全体的に均一な検出感度を得られることが期待できる。
【0073】
なお、本実施例は実施例1、実施例2の反射電子検出器9として利用可能である。
【0074】
本実施例に係る走査電子顕微鏡により、照射エネルギを3 keV、プローブ電流を10pA〜100pAとして生体試料の観察を行ったところ、二次電子と反射電子とを弁別検出でき、良好な結果がえられた。
以上、本実施例によれば、発生量の多い中角度帯に含まれる信号電子を用いることにより、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することができる。また、光ファイバを用いることで、ライトガイドの設置自由度を向上することができる。
【実施例5】
【0075】
第5の実施例について、図20を用いて説明する。なお、実施例1乃至4の何れかに記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。図20は、本実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【0076】
この図は、電子銃29、加速電極28、コンデンサレンズ27、アパ−チャ26や対物レンズである電子レンズ、電子の加速管5、偏向器10、二次電子検出器8と反射電子検出器9、試料2を置く試料台3、試料台3を移動させて観察領域を決める試料台移動機構、SEM像の表示装置、SEM全体を制御するコントローラー、真空排気設備などからなる走査電子顕微鏡のシステムのうち、試料台3から二次電子検出器8までの構成を抜き出したものである。
【0077】
実施例3では加速管5内に設置される反射電子検出器9は、シンチレ−タ9−1、ライトガイド9−2、PMT9−3で構成されるET型の検出器として説明したが、その他の反射電子検出器9として、MCP(マイクロチャネルプレート)などのプレ−ト型の検出器や、pn接合またはpin接合で形成される半導体検出器やアバランシェ増幅機構を備えたアバランシェダイオ−ド検出器等を用いても良い。なお、検出器形状は図20に示すように、検出器の中央に電子の通過孔があるような形状が望ましい。
【0078】
検出器9のアノ−ドは加速管5と電気的に接続し、電源6−1により加速管5に印加した正電圧と同じ電位にする。このような構成では、検出器9のアノ−ドに流れ込んだ電子を信号に変換するために、変換アンプが必要となる。数 kVの高圧を印加したアノ−ドで検出された電流信号は、フロ−ティング状態で電圧信号に変換され、得られた電圧信号はアイソレ−ションアンプによって接地電位に下げて電圧信号が出力される。このようなアンプの接続は、本実施例で上記に示したいずれの検出器を用いた場合も同様の回路構成となる。
【0079】
これらの検出器を用いることで、ライトガイドおよびPMTが不要となり、実施例4と同様に磁界対物レンズの磁路40を貫通する穴を設ける必要がなくなるため、検出器の設置自由度を向上することができる。
【0080】
なお、上記のアンプを使用せずに検出器を接地電位で用いるために加速管5は設置電位とし、対物レンズ4−2、変換電極43、試料2、試料台3に1 kV以上の負電位を電源6−2により印加したリタ−ディング状態で同様の減速電界を形成しても良い。
【0081】
なお、本実施例は実施例1、実施例2の反射電子検出器9としても利用可能である。
【0082】
本実施例に係る走査電子顕微鏡により、照射エネルギを3 keV、プローブ電流を10pA〜100pAとして生体試料の観察を行ったところ、二次電子と反射電子とを弁別検出でき、良好な結果がえられた。
以上、本実施例によれば、発生量の多い中角度帯に含まれる信号電子を用いることにより、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することができる。また、反射電子検出器として、プレ−ト型の検出器、半導体検出器、又はアバランシェダイオ−ド検出器を用いることで、検出器の設置自由度を向上することができる。
【実施例6】
【0083】
第6の実施例について、図21を用いて説明する。なお、実施例1乃至5の何れかに記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。図21は、本実施例に係る走査電子顕微鏡の要部概略断面図である。
【0084】
この図は、電子銃29、加速電極28、コンデンサレンズ27、アパ−チャ26や対物レンズである電子レンズ、電子の加速管5、偏向器10、二次電子検出器8と2つの反射電子検出器9−Aおよび9−B、試料2を置く試料台3、試料台3を移動させて観察領域を決める試料台移動機構、SEM像の表示装置、反射電子検出器9−Aと9−Bの出力信号を加算または減算するための信号演算処理系、SEM全体を制御するコントローラー、真空排気設備などからなる走査電子顕微鏡のシステムのうち、試料台3から二次電子検出器8の構成を抜き出したものである。反射電子検出器9−Aと9−Bは加速管5内に光軸1について線対称な配置となるように2つ設置され、シンチレ−タ9−1は図4に示すような形状が望ましい。実施例4で説明したように、対物レンズは減速電界7と磁界のレンズを重畳したものであり、加速管5内に設けられた反射電子検出器9の試料2側下端よりも電子銃29側に磁界レンズの主面を持つ構成とする。
【0085】
本実施例では、反射電子32−2に由来する変換電子32−3が反射電子検出器9−Aと9−Bに到達するまでの間に、アウトレンズ型の磁界レンズ4−2のレンズ作用の影響を受けない、もしくは、受けるレンズ作用の影響が小さい条件で検出することによって、磁界レンズの通過に伴う光軸1を軸とする変換電子32−3の回転を回避し、反射電子32−2が発生した際の方位角の角度方向を保存した状態で、変換電子32−3が検出される。このため、2つの反射電子検出器9−A、9−Bの検出信号を、図示しない信号演算処理系で処理することによって、反射電子32−2に由来する検出情報を強調することができる。すなわち、反射電子検出器9−Aの出力をS、反射電子検出器9−Bの出力をSとすると、S+Sの演算信号により組成情報を、S−Sの演算信号により凹凸情報を強調することができる。本実施例では、反射電子32−2に由来する変換電子32−3を加速管5内で加速して検出するため、反射電子検出器9の増倍率を確保しつつ信号演算を行う。このため、十分なコントラストを持つ組成情報や凹凸情報を強調した画像を同時に取得することが可能である。
【0086】
本実施例に係る走査電子顕微鏡により、照射エネルギを3 keV、プローブ電流を10pA〜100pAとして生体試料の観察を行ったところ、二次電子と反射電子とを弁別検出でき、凹凸情報または組成情報が強調された良好な結果がえられた。
以上、本実施例によれば、発生量の多い中角度帯に含まれる信号電子を用いることにより、低プローブ電流であっても、反射電子と二次電子とを弁別検出できる低加速の走査電子顕微鏡を提供することができる。また、光軸に対して線対称な配置となるように2つの反射電子検出器を設置し、反射電子検出器の試料側下端よりも電子銃側に磁界レンズの主面を持つ構成とすることにより、反射電子に由来する検出情報を強調することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…光軸、2…試料、3…試料台、4−1…セミインレンズ型の磁界レンズ、4−2…アウトレンズ型の磁界レンズ、5…加速管、6−1…加速管への電圧印加用電源、6−2…試料への電圧印加用電源、7…減速電界、8…二次電子検出器、9…反射電子検出器、9−1…反射電子検出器のシンチレ−タ(感受面)、9−2…反射電子検出器のライトガイド、9−3…反射電子検出器の光電子増倍管(PMT)、9−A…反射電子検出器A、9−B…反射電子検出器B、10…偏向器、26…アパ−チャ、27…コンデンサレンズ、28…加速電極、29…電子銃、30…電子光学筐筒、31…一次電子線、32…信号電子、32−1…二次電子、32−2…反射電子、32−3…反射電子に由来する変換電子、40…磁界レンズの磁路、43…変換電極、44…変換板、45…一次電子線の通過孔、46…ライトガイド接合部、48…導電体、49…光、50…変換電極の支柱、51…光ファイバ、52…シンチレ−ティングファイバ、90…ファイバ上で表面に導電体が設けられている領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロ−ブとなる電子線を発生させる電子源と、
前記電子線の径を制限するアパ−チャと、
前記電子線が照射される試料が搭載される試料台と、
前記電子線を前記試料表面に収束するための対物レンズと、
前記電子線を照射する試料上で前記電子線を走査するための偏向手段と、
前記試料からの二次電子を検出する二次電子検出器と、
前記試料からの反射電子または反射電子に由来する変換電子を検出する反射電子検出器と、
前記電子源と前記試料台に搭載される試料の間となる位置に筒状の電子輸送手段を備え、
前記反射電子検出器の感受面は前記電子輸送手段の内部であって、前記二次電子検出器及び前記偏向手段よりも前記電子源に対して遠方側に設置され、
前記反射電子検出器の前記感受面は前記電子輸送手段と同電位となるように電気的に配線されていることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記対物レンズは電界レンズと磁界レンズとを含み、
前記磁界レンズは、セミインレンズ型であることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記対物レンズは電界レンズと磁界レンズとを含み、
前記磁界レンズは、アウトレンズ型であることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記反射電子検出器は、半導体検出器、アバランシェダイオ−ド、または、構成要素としてシンチレ−タ材料を用いる検出器であることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の走査電子顕微鏡において、
前記シンチレ−タ材料を用いる検出器は、シンチレ−タ、ライトガイド、光電子増倍管で構成される、Everhart−Thornley型の検出器であることを特徴する走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5に記載の走査電子顕微鏡において、
前記ライトガイドは、光ファイバであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項5に記載の走査電子顕微鏡において、
前記ライトガイドおよび前記シンチレ−タは、シンチレ−ティングファイバを具備していることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項3に記載の走査電子顕微鏡において、
前記試料と前記電子輸送手段の間隙に、反射電子を変換電子に変換するための電極を備えていることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記反射電子検出器は、前記二次電子を通過させるための開口部を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項5に記載の走査電子顕微鏡において、
前記シンチレータは、その表面に導電体の膜が設けられていることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項3に記載の走査電子顕微鏡において、
前記前記反射電子検出器は光軸に対して線対称な配置となるように2つ設置され、
2つの前記反射電子検出器は、前記磁界レンズの主面が2つ前記反射電子検出器の試料側下端よりも前記電子銃側に形成されるように配置されていることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項12】
電子源と、試料台と、加速管と対物レンズを含み前記電子源から放出された電子を加速後、減速して前記試料台に載置される試料に電子線として照射する電子光学系と、前記電子線の照射により生じる前記試料からの二次電子を検出するための二次電子検出器と反射電子または反射電子に由来する変換電子を検出するための反射電子検出器とを備えた走査電子顕微鏡において、
前記反射電子検出器はその中央部に開口部を有すると共に、その感受面は前記加速管の内部に設置され、
前記反射電子検出器の前記感受面は前記加速管と同電位となるように電気的に配線されていることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項12に記載の走査電子顕微鏡において、
前記二次電子検出器は、前記反射電子検出器の前記開口部を通過した二次電子を検出するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項12に記載の走査電子顕微鏡において、
前記反射電子検出器の感受面は、前記感受面に設けた導電体を介して前記加速管と電気的に接続されていることを特徴とする走査電子顕微鏡。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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