説明

走行クレーンの操作制御装置

【課題】手元を注目することなく、片手で素早く的確に操作でき、且つ巻上下の無段速変速、微細な速度制御ができる走行クレーンの操作制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】指令信号生成部21は、加速度センサ16で検出した操作筐体の傾き方向と傾き角度から巻上下信号と巻上下速度信号を生成し、昇降決定押釦スイッチ15から昇降決定信号S15により該巻上下信号と巻上下速度信号をモータ駆動制御回路部30に出力し、ジャイロセンサ17で検出した操作筐体方向と走行・横行決定押釦スイッチ13からの信号で操作筐体方向、その反対方向、操作筐体方向に直交する両方向への移動指令信号とその速度信号を生成し、駆動制御するモータ駆動制御回路部30に出力し、走行モータ41、横行モータ42、昇降モータ43を運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平面内の所定方向(例えば、東西方向)に敷設された走行レールと、該走行レールに直交する方向(例えば、南北方向)に配置され且つ走行モータにより、該走行レールに沿って移動する横行レール(ガータ)と、該横行レールに沿って横行する横行モータと荷を巻上下げするための昇降モータを具備する電動巻上機を備えた走行クレーンの操作制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、上記走行クレーンの外観概略構成例を示す図である。本走行クレーン100は、建物天井の水平面内の所定方向(例えば、東西方向)に敷設された走行レール101、101と、該走行レール101、101に直交する方向(例えば、南北方向)に配置され、ギヤードモータ(走行モータ)103により該走行レール101、101上を移動する横行レール(ガータ)102と、横行レール102に沿って横行する横行モータ104と荷巻上下するための昇降モータ105を備えた電動巻上機106を備えて構成されている。
【0003】
上記走行クレーン100において、電動巻上機106にはケーブル108等により操作筐体107が接続されている。この操作筐体107には、例えば「東」、「西」、「南」、「北」、「上」、「下」の各押釦スイッチが取り付けられている。この「東」、「西」、「南」、「北」の押釦スイッチを操作することにより、電動巻上機106は、走行レール101、101に沿って東西方向への走行、横行レール102に沿って南北方向への横行するようになっている。また、「上」、「下」の押釦スイッチの操作により、荷吊下用フック109に吊り下げられた荷(図示せず)を昇降(巻上下げ)する。なお、図1(a)は走行クレーンの全体概略構成例を示す図であり、図1(b)は操作筐体107部分の拡大図である。
【0004】
上記構成の走行クレーンでは、荷吊下用フック109に吊下げた荷(搬送物)の移動する方向(走行、横行、巻上下げ方向)に対応する押釦スイッチを操作筐体107に取付けられた「東」、「西」、「南」、「北」、「上」、「下」の各押釦スイッチの中から探し出す必要がある。また、電動巻上機106を走行・横行両方向に運転する場合、同時に2つの押釦スイッチを押さなければならない。また、走行、横行、巻上下の微細な速度制御ができないという問題がある。
【0005】
また、特許文献1に開示されている走行クレーンのように、作業者は手元を見なくともスイッチを押しつつ、フックに掛けられて移動する搬送物の移動方向を見ながら操作筐体の向きを調整して、所望の方向へ搬送物を平行移動させることができる走行クレーンがある。図2は、特許文献1に開示されている、走行クレーンの外観概略構成例を示す図である。本走行クレーン200は建物天井の水平面内の所定方向に敷設された走行レール201、201と、該走行レール201、201を車輪を介して走行する1対のサドル202、202間に横行レール(ガータ)203を配置し、該横行レール203を車輪を介して横行する電動巻上機204を備えた構成である。電動巻上機204により巻き上げる支持ワイヤーロープ205の先端には荷吊下用フック206を固定している。電動巻上機204からは、撓みはするが捩れない通信ケーブル207が床面近傍まで垂下している。該通信ケーブル207の下端には回転自在な回転接続部209を介して操作筐体210が接続されている。
【0006】
操作筐体210の正面には、2段押釦の操作スイッチ211が設けられ、上下に上昇(巻上げ)スイッチと下降(巻下)スイッチが設けられ、操作スイッチ211を押すとX軸モータ・Y軸モータが作動して、電動巻上機204が操作筐体210の向いている方向、即ち操作筐体210の正面と正反対の方向へ水平移動する。従って、作業者は手元を見なくともスイッチを押しつつ、荷吊下用フック206に掛けられて移動する搬送物の移動方向を見ながら操作筐体210の向きを調整して、所望の方向へ搬送物を平行移動させることができるというものである。
【特許文献1】特開2007−39232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図2に示す従来の走行クレーンでは、電動巻上機204の水平方向の移動(走行・横行)と昇降(巻上・巻下)がそれぞれ違う押釦スイッチで行う場合、それぞれの押釦スイッチによる操作のため、両手操作が必要になるという問題がある。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、手元を注視することなく、片手で素早く的確に操作でき、且つ巻上下の無段速変速、微細な速度制御ができる走行クレーンの操作制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、水平面内の所定方向に敷設された走行レールと、該走行レールに直交する方向に配置され且つ走行モータにより、該走行レールに沿って移動する横行レールと、該横行レールに沿って移動するための横行モータ及び荷を巻上下する昇降モータとを具備する電動巻上機を備えた走行クレーンの操作制御装置であって、操作筐体と、該操作筐体先端部の垂直面内で上下に向く方向とその傾き角度を検出する操作筐体傾き検出手段と、操作筐体先端部の水平面内で向く方向を検出する操作筐体方向検出手段と、走行モータへの走行指令信号及び走行速度指令信号と横行モータへの横行指令信号及び横行速度指令信号と昇降モータへの昇降指令信号と昇降速度指令信号とを生成する指令信号生成手段を備えた操作装置制御回路と、該操作装置制御回路の指令信号生成手段からの各指令信号に基づいて走行モータ、横行モータ、及び昇降モータを駆動制御するモータ駆動制御回路を備え、操作筐体には、走行・横行決定信号を出力する走行・横行決定手段、昇降決定信号を出力する昇降決定手段とを設け、操作装置制御回路の指令信号生成手段は、走行・横行決定手段からの走行・横行決定信号と操作筐体方向検出手段で検出した操作筐体の向く方向から走行指令信号及び走行速度指令信号を生成すると共に、横行モータへの横行指令信号及び横行速度指令信号を生成し、昇降決定手段からの昇降決定信号とその操作筐体傾き検出手段で検出した操作筐体先端部の向く方向に基づいて昇降指令信号を生成すると共に、その傾き角度に基づいて昇降速度指令信号を生成することを特徴とする。
【0010】
上記のように操作装置制御回路の指令信号生成手段は、走行・横行決定手段からの走行・横行決定信号と操作筐体方向検出手段で検出した操作筐体先端部の向く方向から走行指令信号及び走行速度指令信号を生成すると共に、その横行モータへの横行指令信号及び横行速度指令信号を生成し、昇降決定手段からの昇降決定信号と操作筐体傾き検出手段で検出した操作筐体先端部の向く方向に基づいて昇降指令信号を生成すると共に、その傾き角度に基づいて昇降速度指令信号を生成し、モータ駆動制御回路に出力するので、走行クレーンを操作筐体の手元を注視することなく、巻上下の無段速変速、微細な速度制御ができる。また、走行指令信号、走行速度指令信号、横行指令信号、及び横行速度指令信号の生成を走行・横行決定手段からの走行・横行決定信号があることを条件とし、昇降指令信号、及び昇降速度指令信号の生成を昇降決定手段からの昇降決定信号があることを条件とするので、不用意な操作筐体の上下方向の傾け操作、水平面内の変位操作により、昇降モータ、走行モータ、横行モータが起動し、走行クレーンが動作するのを防止できる。
【0011】
また、本発明は、上記走行クレーンの操作制御装置において、操作筐体傾き検出手段に加速度センサを用い操作筐体の上下方向傾き方向と傾き角度を検出し、操作筐体方向検出手段にジャイロセンサを用い操作筐体の水平面内での向く方向を検出することを特徴とする。
【0012】
操作筐体傾き検出手段に加速度センサを用い、操作筐体方向検出手段にジャイロセンサを用いることにより、比較的簡単な構成で操作筐体の上下の傾き方向及び角度、水平面内の向きを検出できる。
【0013】
また、本発明は、上記走行クレーンの操作制御装置において、走行・横行決定手段は、操作筐体の先後端方向と該先後端方向に直交する十字状の押釦スイッチであり、該十字状の押釦スイッチの4個の押圧端部のそれぞれの押圧操作により、操作装置制御回路の指令信号生成手段は、操作筐体の先端部方向、後端方向、先後端方向に直交する左右両方向に走行する走行指令信号及び走行速度指令信号と横行指令信号及び横行速度指令信号を生成することを特徴とする。
【0014】
上記のように十字状の押釦スイッチである走行・横行決定スイッチの4個の押圧端部のそれぞれの押圧操作により、操作装置制御回路の指令信号生成手段は、操作筐体の先端部方向、後端方向、先後端方向に直交する左右両方向に走行する走行指令信号及び走行速度指令信号と横行指令信号及び横行速度指令信号を生成しモータ駆動制御回路に出力するので、簡単な押圧操作で指令信号を出力して走行クレーンの走行、横行とその速度制御ができる。
【0015】
また、本発明は、上記走行クレーンの操作制御装置において、走行・横行決定手段は、中立位置から操作筐体の先端方向、後端方向、該先後端方向に直交する左右方向に倒すことができるレバーの付いたレバー付きスイッチであり、該レバー付スイッチのレバーの傾き方向と傾き角度により、操作装置制御回路の指令信号生成手段は、操作筐体の先端部方向、後端方向、先後端方向に直交する左右両方向に走行する走行指令信号及び走行速度指令信号と横行指令信号及び横行速度指令信号を生成することを特徴とする。
【0016】
上記のように操作装置制御回路の指令信号生成手段は、レバー付スイッチである走行・横行決定スイッチのレバーを傾倒操作し、その傾き方向と傾き角度で、操作筐体の先端部方向、後端方向、先後端方向に直交する左右両方向に走行する走行指令信号及び走行速度指令信号と横行指令信号及び横行速度指令信号を生成し、モータ駆動制御回路に出力するので、簡単な傾倒操作で指令信号を出力して走行クレーンの走行、横行とその速度制御ができる。
【0017】
また、本発明は、上記走行クレーンの操作制御装置において、巻上下決定手段及び走行・横行決定手段は、操作筐体を把持する片手の指で操作できる位置に設けられていることを特徴とする。
【0018】
上記のように巻上下決定手段及び走行・横行決定手段を操作筐体を把持する片手の指で操作できる位置に設けることにより、走行クレーンの巻上下げ、走行、横行運転を片手操作で実行できる。
【0019】
また、本発明は、上記走行クレーンの操作制御装置において、操作筐体は、平面、正面及び側面が矩形状の6面体からなることを特徴とする。
【0020】
上記のように操作筐体を平面、正面及び側面が矩形状の6面体とすることにより、操作筐体を水平面内の所定方向に向け、走行・横行決定スイッチの操作により該操作筐体の先端が向く方向、反対方向、直交する左右方向に任意の速度で走行、横行運転ができると共に、操作筐体を上方又は下方に傾け巻上下げ決定スイッチの操作により任意の速度で巻上下げ運転でき、操作性がよくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、下記のような優れた効果が得られる。
・手元を注視する必要なく、素早く、的確な走行クレーンの巻上下、走行・横行運転操作が可能となる。
・操作筐体の傾き角度で巻上下げ速度を無段速で変速制御できるから、微細な速度制御ができる。
・走行クレーンの巻上下げ、走行、横行の運転の操作を片手できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明に係る操作制御装置を用いる走行クレーンの構成は図1及び図2に示す構成と同様であるのでその説明は省略する。図3は本発明に係る走行クレーンの操作制御装置の操作装置制御回路部の外観構成例を示す図で、図3(a)は操作装置制御回路部の全体の外観構成例、図3(b)は走行・横行決定押釦スイッチの平面構成例を示す。操作装置制御回路部10は平面、正面、及び側面が矩形状の6面体からなる操作筐体11を備えている。該操作筐体11の上面には筐体の先端方向を示す矢印Aを付している。また、操作筐体11の上面には電源をON/OFFする電源押釦スイッチ12、走行及び横行を決定する走行・横行決定押釦スイッチ13、リセット用押釦スイッチ14が取り付けられ、裏面には巻上下げ(昇降)を決定する昇降決定押釦スイッチ15が設けられている。
【0023】
走行・横行決定押釦スイッチ13は十字状の押釦スイッチで、そのY軸が操作筐体11の先後端方向に、該Y軸に直交するX軸が操作筐体11の先後端方向に直交する方向になるように配置されている。電源押釦スイッチ12、走行・横行決定押釦スイッチ13、リセット用押釦スイッチ14、及び昇降決定押釦スイッチ15は、操作筐体11を把持する片手の指で操作できる位置に取り付けられている。また、図示は省略するが操作筐体11内には、操作筐体11の先端が向いている方向(操作筐体が向いている方向)を検出するジャイロセンサや、操作筐体11の先端の傾き方向(上方又は下方)とその傾き角度を検出する加速度センサ16が取り付けられている。
【0024】
図4は本発明に係る走行クレーンの操作制御装置の全体システム構成を示すブロック図である。走行クレーンの操作制御装置は、操作装置制御回路部10と、モータ駆動制御回路部30とから構成されている。操作装置制御回路部10は、指令信号生成部21と通信部22を備えている。モータ駆動制御回路部30は、通信部31、制御部32、走行インバータ33、横行インバータ34、昇降インバータ35を備えている。上記操作装置制御回路部10の指令信号生成部21や通信部22を構成する電子部品や機器は操作筐体11内に実装され、モータ駆動制御回路部30の通信部31や制御部32を構成する電子部品や機器は電動巻上機(図1の電動巻上機106、図2の電動巻上機204参照)に搭載配置される。
【0025】
操作装置制御回路部10の指令信号生成部21には、加速度センサ16で検出された操作筐体11の上下傾き方向検出信号S16aとその傾き角度検出信号S16b、走行・横行決定押釦スイッチ13が押圧された場合の走行・横行決定速度信号S13、走行・横行速度信号SV13、昇降決定押釦スイッチ15の押圧操作による昇降決定信号S15、リセット用押釦スイッチ14の押圧操作によるリセット信号S14、ジャイロセンサ17で検出された操作筐体11の先端部が向く方向(操作筐体方向)を検した操作筐体方向検出信号S17がそれぞれ入力されるようになっている。なお、走行・横行決定押釦スイッチ13は、その端部13a、13b、13c、13dを押圧する押圧力に応じた大きさの信号が出力できるように、例えば感圧ゴム(押圧力に応じて抵抗値が変化するゴム材)を用いた押釦スイッチとする。
【0026】
上記走行・横行決定速度信号S13は、走行・横行決定押釦スイッチ13の4つの端部のどの端部が押圧操作されたかによって、異なる走行決定信号とその押圧力に応じた異なる走行方向の速度信号が出力される。即ち、端部13aが押圧操作された場合は操作筐体11の先端が向いている操作筐体方向(図3(b)の矢印a方向)への走行決定信号S13aとその速度信号SV13a、端部13bが押圧操作された場合は操作筐体方向と直交する左方向(図3(b)の矢印b方向)への走行決定信号S13bとその速度信号SV13b、端部13cが押圧操作された場合は操作筐体方向に直交する右方向(図3(b)の矢印c方向)への走行決定信号S13cとその速度信号SV13c、端部13dが押圧操作された場合は操作筐体方向とは反対方向(図3(b)の矢印d方向)への走行決定信号S13dとその速度信号SV13dがそれぞれ出力される。
【0027】
指令信号生成部21は、昇降決定押釦スイッチ15からの昇降決定信号(巻上下げ決定信号)S15と加速度センサ16からの上下傾き方向検出信号S16aと傾き角度検出信号S16bを受けて昇降指令信号と昇降速度指令信号、リセット用押釦スイッチ14からのリセット信号S14を受けてリセット信号をそれぞれ生成する。また、指令信号生成部21は、ジャイロセンサ17からの操作筐体方向検出信号S17と走行・横行決定押釦スイッチ13からの走行決定信号S13aと速度信号SV13aにより矢印a方向への走行指令信号と速度信号を、操作筐体方向信号と走行決定信号S13bと速度信号SV13bにより矢印b方向への走行指令信号と速度指令信号を、操作筐体方向信号と走行決定信号S13cと速度信号SV13cにより矢印c方向への走行指令信号と速度指令信号を、操作筐体方向検出信号S17と走行決定信号S13dと速度信号SV13dにより矢印d方向への走行指令信号と速度指令信号をそれぞれ生成する。そして指令信号生成部21で生成された上記各指令信号は通信部22を介してモータ駆動制御回路部30の通信部31に伝送される。
【0028】
通信部31は操作装置制御回路部10からの上記昇降指令信号と昇降速度信号、矢印a、b、c、d(図3(b)参照)で示す方向への走行指令信号とその速度指令信号を受けてその信号を制御部32に出力する。制御部32は矢印a、b、c、d(図3(b)参照)で示す方向への走行指令信号と速度指令信号、昇降指令信号と昇降速度指令信号を受け、走行モータ41の起動信号と速度信号、横行モータ42の起動信号と速度信号、及び昇降モータ43の起動信号と速度信号を生成して、走行インバータ33、横行インバータ34、及び昇降インバータ35を起動する。これにより走行インバータ33、横行インバータ34、及び昇降インバータ35から、それぞれ走行モータ41、横行モータ42、及び昇降モータ43に電力が供給され、走行モータ41、横行モータ42、及び昇降モータ43が起動し走行クレーンを矢印a、b、c、d(図3(b)参照)で示す方向に設定された速度で走行・横行すると共に、昇降モータ43を指定された方向に設定された速度で昇降(巻上下)する。このとき操作筐体11の上下方向の傾き角度が変われば、それに応じて昇降速度(巻上下速度)も変化する。また、走行速度及び横行速度も走行・横行決定押釦スイッチ13の各端部の押圧力を変化させることで走行・横行速度も変化する。
【0029】
上記のように走行モータ41、横行モータ42、及び昇降モータ43の起動を走行・横行決定押釦スイッチ13の押圧操作による走行・横行速度決定信号S13、昇降決定押釦スイッチ15による昇降決定信号S15があることを条件とすることにより、オペレータが走行クレーンの移動、巻上下げを意図して操作筐体11の水平面内の向きや上下方向の傾き変えた場合にのみ、走行クレーンが走行・横行、昇降(巻上下げ)運転が行われる。即ち、オペレータが不用意に操作筐体11を水平面内で変位させたり、上下方向の傾きを変えても走行・横行決定押釦スイッチ13、昇降決定押釦スイッチ15が押圧操作されない限り走行クレーンが走行、横行、巻上下げ動作をしないことになり、安全性が維持できる。なお、操作装置制御回路部10の指令信号生成部21及びモータ駆動制御回路部30の制御部32はそれぞれマイクロコンピュータで構成される。また、通信部22と通信部31の信号伝送手段としては、有線による信号伝送、電波や光等の無線による信号伝送を用いる。
【0030】
ここで、加速度センサ16で操作筐体11の上下傾き方向及び傾き角度を検出することについて説明する。加速度センサ16を取り付けている操作筐体11を角度θだけ傾斜させた場合、図5に示すように、加速度センサ16の取り付け方向には重力加速度gの分解成分g・sinθがかかることになる。従って、加速度センサ16の出力としてg・sinθに相当する値が電圧として出力される。ここで、角度θが0からπ/2まで変化すると、sinθの値は0.0から1.0まで変化し、最も傾いたθ=g・sinθは1gに等しくなる。上記のように加速度センサ16の出力は電圧値として出力されるから、操作筐体11を水平にした時の出力電圧値を基準として、垂直に配置した時までの変化幅を求め基準となる出力電圧値を取得する。そして現在の加速度センサ16の出力電圧と上記基準値の差を求め、逆サインを用いてこの値を角度に変換することにより、この変換した角度が現在の操作筐体11の傾き角度となる。
【0031】
次に、ジャイロセンサ17で操作筐体11の先端部が向く方向(操作筐体方向)を検出することについて説明する。ジャイロセンサには、振動式、機械式、光学式、流体式等がある。本走行クレーンの操作制御装置には、上記いずれのジャイロセンサも利用可能であるが、小型・量産化に有利などの理由で、圧電型振動ジャイロセンサがよく使用される。図7は圧電型振動ジャイロセンサの原理を示す図で、図7(a)は静止時、図7(b)は回転時をそれぞれ示す。圧電型振動ジャイロセンサ18は圧電素子からなる振動子18aを具備し、静止時は矢印Cに示すように駆動振動している。回転時に振動子18aに軸を回転中心とする角速度ωを与えると、矢印Dに示すように矢印Cに直交する方向にコリオリの力が作用し、振動子18aに電荷18bが発生する。この電荷18bを検出することにより、角速度ωを検出する。このように圧電型振動ジャイロセンサ18は角速度ωを検出するセンサであることから、角速度センサと呼ばれることもある。
【0032】
上記圧電型振動ジャイロセンサ(角速度センサ)18をジャイロセンサ17として操作筐体11内の所定位置に設置する。そして操作筐体11の矢印Aを予め決められた方向に設定(例えば走行方向である東西方向の東方向に向けて設定)し、操作筐体11に設けたリセット用押釦スイッチ14(図3(a)参照)を押すことにより、ジャイロセンサ17の初期設定と累積誤差を消去するようになっている。このリセット時点から、ジャイロセンサ17(圧電型振動ジャイロセンサ18)で検出した角速度ωを操作筐体方向検出信号S17として指令信号生成部21に出力する。指令信号生成部21は、操作筐体方向検出信号S17と経過時間(角速度ωの積分)から操作筐体11が上記予め決められた方向(東方向)から水平方向にどれだけ回転したかを演算し、操作筐体11の矢印Aが向く方向を求める。
【0033】
操作筐体11の矢印Aを例えば東方向(走行方向)に向け、リセット用押釦スイッチ14を押圧操作してジャイロセンサ17の初期設定と累積誤差を消去した後、十字状の走行・横行決定押釦スイッチ13の端部13aを押圧操作すると、指令信号生成部21は走行モータ41を東方向(正転)に走行させる走行指令信号を、端部13bを押圧操作すると横行モータ42を北方向(正転)に横行させる横行指令信号を、端部13cを押圧操作すると横行モータ42を南方向(逆転)に横行させる横行指令信号を、端部13dを押圧操作すると走行モータ41を西方向(逆転)に走行させる走行指令信号をそれぞれ生成する。操作筐体11の矢印Aを東方向からずらすと、ジャイロセンサ17はその角速度ωを検出し、操作筐体方向検出信号S17として指令信号生成部21に出力する。指令信号生成部21は指令信号生成部21と経過時間(角速度ωの積分)から東方向からのずれ角度を算出し、その角度方向に応じて走行モータ41、横行モータ42の回転方向(走行方向、横行方向)と回転速度を算出し、その指令信号を生成する。
【0034】
例えば図8に示すように、操作筐体11を東方向(基準方向)からθ°水平に北側に回転し、十字状の走行・横行決定押釦スイッチ13の端部13aを押圧操作した場合、指令信号生成部21は、走行モータ41を東方向(正転)に走行させる走行指令信号を生成すると共に、横行モータ42を北方向(逆転)に横行させる横行指令信号を生成し、更に走行モータ41の回転数(速度)に対する横行モータ42の回転数(速度)の比は、Vacosθ:Vasinθとなるように制御される。ここでVaは押釦スイッチ13の端部13aを押圧する押圧力に応じた速度信号を示す。
【0035】
上記の走行クレーンの操作制御装置では、走行・横行決定押釦スイッチ13として、図3に示すように十字状の押釦スイッチで、その端部13a、13b、13c、13dを押圧操作することにより、矢印a方向への走行決定信号S13a、速度信号SV13a、矢印b方向への走行決定信号S13b、速度信号SV13b、矢印c方向への走行決定信号S13c、速度信号SV13c、矢印d方向への走行決定信号S13d、速度信号SV13dを出力する押釦スイッチを示した。しかしながら、走行・横行決定スイッチとしてはこれに限定されるものではなく、例えば、図6(a)に正面、(b)平面を示すように、レバー51を具備するレバー付走行・横行決定スイッチ50を用い、レバー51を矢印a、b、c、dに示す方向に傾倒することにより、走行方向を指示し、レバー51の傾倒角度に応じた速度信号を出力できる、所謂ジョイスティック式スイッチを用いてもよい。
【0036】
そして、レバー51を矢印a方向、矢印b方向、矢印c方向、矢印d方向に傾倒させることにより、その傾倒方向と傾倒角度により、矢印a方向への走行決定信号S13a、速度信号SV13a、矢印b方向への走行決定信号S13b、速度信号SV13b、矢印c方向への走行決定信号S13c、速度信号SV13c、矢印d方向への走行決定信号S13d、速度信号SV13dを出力するようにしてもよい。走行・横行決定押釦スイッチ13としては、要はジャイロセンサ17等の操作筐体方向検出手段で検出した操作筐体方向により、矢印a、b、c、d方向の走行決定信号S13a〜S13d、速度信号SV13a〜SV13dを出力できるものであればよい。
【0037】
また、上記実施形態例では、操作筐体11の上下の傾き方向と傾き角度を検出する操作筐体傾き検出手段として、加速度センサ16を用いる例を示したが、操作筐体11の上下の傾き方向と傾き角度を検出できるものであれば、加速度センサに限定されない。また、操作筐体11の水平面内での向く方向を検出する操作筐体方向検出手段としてジャイロセンサ17を用いる例を示したが、操作筐体11の水平面内での向く方向を検出できるものであれば、ジャイロセンサに限定されない。
【0038】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、傾き方向・角度検出手段として加速度センサを用いたが操作筐体の傾き方向及び傾き角度を検出できるのであれは、加速度センサに限定されるものではない。また、操作筐体の水平面内での方向をジャイロセンサで検出する例を示したが、操作筐体の水平面内での方向を検出できるのであれば、ジャイロセンサに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来の走行クレーンの外観概略構成例を示す図である。
【図2】従来の走行クレーンの外観概略構成例を示す図である。
【図3】本発明に係る走行クレーンの操作制御装置の操作装置制御回路部の外観構成例を示す図である。
【図4】本発明に係る走行クレーンの操作制御装置の全体システム構成を示すブロック図である。
【図5】加速度センサの説明図である。
【図6】本発明に係る走行クレーンの操作制御装置の走行・横行決定スイッチの構成例を示す図である。
【図7】圧電型振動ジャイロセンサの動作原理を示す図である。
【図8】操作筐体の回転状態を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10 操作装置制御回路部
11 操作筐体
12 電源押釦スイッチ
13 走行・横行決定押釦スイッチ
14 リセット用押釦スイッチ
15 昇降決定押釦スイッチ
16 加速度センサ
17 ジャイロセンサ
18 圧電型振動ジャイロセンサ
21 指令信号生成部
22 通信部
30 モータ駆動制御回路部
31 通信部
32 制御部
33 走行インバータ
34 横行インバータ
35 昇降インバータ
41 走行モータ
42 横行モータ
43 昇降モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面内の所定方向に敷設された走行レールと、該走行レールに直交する方向に配置され且つ走行モータにより、該走行レールに沿って移動する横行レールと、該横行レールに沿って移動するための横行モータ及び荷を巻上下する昇降モータとを具備する電動巻上機を備えた走行クレーンの操作制御装置であって、
操作筐体と、該操作筐体先端部の垂直面内で上下に向く方向とその傾き角度を検出する操作筐体傾き検出手段と、前記操作筐体先端部の水平面内で向く方向を検出する操作筐体方向検出手段と、前記走行モータへの走行指令信号及び走行速度指令信号と横行モータへの横行指令信号及び横行速度指令信号と前記昇降モータの昇降指令信号と昇降速度指令信号とを生成する指令信号生成手段を備えた操作装置制御回路と、該操作装置制御回路の指令信号生成手段からの前記各指令信号に基づいて前記走行モータ、横行モータ、及び昇降モータを駆動制御するモータ駆動制御回路を備え、
前記操作筐体には、走行・横行決定信号を出力する走行・横行決定手段、昇降決定信号を出力する昇降決定手段とを設け、
前記操作装置制御回路の指令信号生成手段は、前記走行・横行決定手段からの走行・横行決定信号と前記操作筐体方向検出手段で検出した前記操作筐体の向く方向から前記走行指令信号及び前記走行速度指令信号を生成すると共に、前記横行モータへの前記横行指令信号及び前記横行速度指令信号を生成し、前記昇降決定手段からの昇降決定信号と前記操作筐体傾き検出手段で検出した前記操作筐体先端部の向く方向に基づいて前記昇降指令信号を生成すると共に、その傾き角度に基づいて前記昇降速度指令信号を生成することを特徴とする走行クレーンの操作制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走行クレーンの操作制御装置において、
前記操作筐体傾き検出手段に加速度センサを用い前記操作筐体の上下方向傾き方向と傾き角度を検出し、前記操作筐体方向検出手段にジャイロセンサを用い前記操作筐体の水平面内での向く方向を検出することを特徴とする走行クレーンの操作制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の走行クレーンの操作制御装置において、
前記走行・横行決定手段は、前記操作筐体の先後端方向と該先後端方向に直交する十字状の押釦スイッチであり、該十字状の押釦スイッチの4個の押圧端部のそれぞれの押圧操作により、前記操作装置制御回路の指令信号生成手段は、前記操作筐体の先端部方向、後端方向、先後端方向に直交する左右両方向に走行する走行指令信号及び走行速度指令信号と横行指令信号及び横行速度指令信号を生成することを特徴とする走行クレーンの操作制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の走行クレーンの操作制御装置において、
前記走行・横行決定手段は、中立位置から前記操作筐体の先端方向、後端方向、該先後端方向に直交する左右方向に倒すことができるレバーの付いたレバー付きスイッチであり、該レバー付スイッチのレバーの傾き方向と傾き角度により、前記操作装置制御回路の指令信号生成手段は、前記操作筐体の先端部方向、後端方向、先後端方向に直交する左右両方向に走行する走行指令信号及び走行速度指令信号と横行指令信号及び横行速度指令信号を生成することを特徴とする走行クレーンの操作制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の走行クレーンの操作制御装置において、
前記昇降決定手段及び前記走行・横行決定手段は、前記操作筐体を把持する片手の指で操作できる位置に設けられていることを特徴とする走行クレーンの操作制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の走行クレーンの操作制御装置において、
前記操作筐体は、平面、正面及び側面が矩形状の6面体からなることを特徴とする走行クレーンの操作制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−208918(P2009−208918A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54981(P2008−54981)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】