説明

走行作業機におけるヒッチ装置

【課題】走行車体2と,この走行車体における昇降機構12と,この昇降機構によって昇降動する昇降部材13とを備え,前記昇降部材に,各種の作業機器(苗植え装置)3を,ローリング軸18及びヒッチ部材19を介してローリング自在な状態で着脱可能に連結して成る走行型作業機において,その着脱の作業性を向上する。
【解決手段】前記ヒッチ部材19を前記作業機器3に前記ローリング軸を介してローリング可能に装着し,このヒッチ部材と前記作業機器との間に前記作業機器のローリング制御用アクチェータ22を設ける一方,前記ヒッチ部材には,前記ローリング軸と直角にしたヒッチ軸27を,前記昇降部材には,前記フック体28を各々設け,更に,前記昇降部材と前記ヒッチ部材とを,前記フック体を前記ヒッチ軸に係合した状態で,ヒッチボルト29にて着脱可能に締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば乗用型田植機やトラクタ等の走行型作業機において,その走行車体に,苗植え装置又はロータリ耕うん機等のような各種の作業機器を,昇降動可能で,且つ,自在にローリング動する状態にして着脱可能に連結するためのヒッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,走行型作業機におけるヒッチ装置は,例えば,先行技術としての特許文献1及び2等に記載されているように,走行車体側の昇降機構にて昇降動する昇降部材に,ヒッチ部材を,略水平の横向きに延びるローリング軸にて,当該ローリング軸の回りに自在にローリング動するように連結し,このヒッチ部材を,苗植え装置等の作業機器側に予め取付けしたブラケット部材に,着脱可能に連結する一方,前記ヒッチ部材と前記昇降部材との間に,前記作業機器のローリング制御用アクチェータを設けるという構成にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−150296号公報
【特許文献2】特開平11−289825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来の構成によると,走行車体側の昇降機構における昇降部材,及び,これにローリング軸を介して連結したヒッチ部材を必要とすることに加えて,前記ヒッチ部材を,作業機器側に着脱可能に連結するためのブラケット部材を必要とすることにより,構造が複雑で,且つ部品点数が多くなるばかりか,ヒッチ装置が大型化するという問題がある。
【0005】
また,従来の構成において,ローリング制御用アクチェータは,作業機器をその傾き等に応じてローリング制御するものであるにもかかわらず,走行車体に取付けた昇降部材と,作業機器側に取付くヒッチ部材との間に設けられていることにより,前記作業機器の着脱に際しては,その都度,前記作業機器側における対地センサ又は傾きセンサ等から前記ローリング制御用アクチェータへの各種の電気配線又は油圧管路を接続したり,切り離したりしなけれならず,これに多大の手数を必要とするという問題もあった。
【0006】
本発明は,これらの問題を,作業機器における着脱の作業性を損なうことなく,解消するとともに,作業機器の着脱可能な連結が,横ずれを生じることを少なくした状態で確実にできるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「走行車体と,この走行車体における昇降機構と,この昇降機構によって昇降動する昇降部材とを備え,前記昇降部材に,各種の作業機器を,ローリング軸及びヒッチ部材を介してローリング自在な状態で着脱可能に連結して成る走行型作業機において,
前記ヒッチ部材は,前記作業機器に,前記ローリング軸を介してローリング可能に装着されており,このヒッチ部材と前記作業機器との間には,前記作業機器のローリング制御用アクチェータが設けられている一方,前記ヒッチ部材及び前記昇降部材のうちいずれか一方には,前記ローリング軸と直角にしたヒッチ軸が,他方には,前記ヒッチ軸に係合するフック体が各々設けられ,更に,前記昇降部材と前記ヒッチ部材とは,前記フック体を前記ヒッチ軸に係合した状態で,ヒッチボルトにて着脱可能に締結されている。」
ことを特徴としている。
【0008】
また,請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記ヒッチ軸は,前記ヒッチ部材及び昇降部材のうちいずれか一方から突出する左右一対の支持片にて両端支持されており,前記フック体は,前記両支持片の内側面に接当又は近接する構成である。」
ことを特徴としている。
【0009】
更にまた,請求項3は,
「前記請求項1又は2の記載において,前記ヒッチボルトは,前記ローリング軸における軸線の方向から見て,少なくとも前記ローリング軸の左右両側に配設されている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1は,ヒッチ部材を,作業機器側に,ローリング軸を介してローリング可能に取付け,このヒッチ部材を,走行車体の昇降機構における昇降部材に,フック体のヒッチ軸への嵌まり係合と,ヒッチボルトの締結とによって着脱可能に連結するという構成であることにより,前記した従来の構成に比べて,ブラケット部材を必要としないから,構造が簡単になり,部品点数が少なくなるばかりか,ヒッチ装置の大幅な小型・軽量化を図ることができる。
【0011】
また,前記作業機器に対するローリング制御用アクチェータは,前記作業機器と,この作業機器側に取付けた前記ヒッチ部材との間に設けられていることにより,前記作業機器の着脱に際しては,その都度,前記作業機器側における対地センサ又は傾きセンサ等から前記ローリング制御用アクチェータへの各種の電気配線又は油圧管路を接続したり,切り離したりする必要がなく,これに要する手数を低減できる。
【0012】
そして,前記作業機器の着脱が,フック体のヒッチ軸への係合と,ヒッチボルトの締結とによって,至極簡単にできるから,前記ローリング制御用アクチェータへの電気配線又は油圧管路の接続・分離を必要としないことと相俟って,着脱の作業性を大幅に向上できる。
【0013】
また,請求項2によると,フック体が,ヒッチ軸を両端支持する両支持片の内側面に接当又は近接することによって,横方向へのずれを無くして正しく位置決めでき,且つ,ボルト孔の孔合わせが正確にできるから,連結の精度を向上できるとともに,着脱の作業性をより向上できる。
【0014】
更にまた,請求項3によると,昇降部材に対する作業機器の着脱可能な連結を,より強固にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】乗用型田植機の側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1のうちヒッチ部を拡大した図である。
【図4】図3のIV−IV視側面図である。
【図5】図4のV−V視断面図である。
【図6】図5のVI−VI視断面図である。
【図7】苗植え装置を分離した状態を示す図である。
【図8】図7のVIII−VIII視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の実施の形態を,乗用型田植機に適用した場合の図面(図1〜図8)について説明する。
【0017】
これらの図において,符号1は,乗用型田植機を示し,この乗用型田植機1は,走行車体2と,この走行車体2の後部に着脱可能に連結した苗植え装置(作業機器)3とによって構成されている。
【0018】
前記走行車体2は,左右前輪4と,左右後輪5によって支持されており,その全部に搭載したエンジン6により,前記前輪4及び後輪5を駆動するか,或いは後輪5を駆動することによって,前進又は後退走行するように構成されている。
【0019】
前記走行車体2には,操縦座席7及び操縦ハンドル8が設けられているほか,この走行車体2の後部には,走行車体2の平面視で,その前後方向の中心線に対して左右に配設した一対のロアリンク9と,前後方向の中心線上に配設した一本のトップリンク10と,これらのリンク9,10を上下回動する昇降用シリンダ11とから成る昇降機構12が設けられ,この昇降機構12におけるロアリンク9及びトップリンク10の後端には,昇降部材13が取付けられ,この昇降部材13を昇降動するように構成している。
【0020】
一方,前記苗植え装置3は,伝動ケース14と,その後端に横方向に適宜間隔で設けた複数個の植付け機構15と,この各植付け機構15の下側に設け複数個のフロート16と,前記伝動ケース14の上側に設けた苗載台17とによって構成されており,前記苗載台17は,前記植付け機構15における伝導ケース14から立設した苗台支持フレーム31にて横方向に移動するように支持されている。
【0021】
この苗植え装置3は,前記走行車体2の昇降機構12における昇降部材13に,図3,図4及び図5に示すように,前後方向に延びる構成のローリング軸18と,上下方向に延びる構成のヒッチ部材19とによって,ローリング自在な状態で着脱可能に連結されている。
【0022】
また,前記苗植え装置3は,前記走行車体2におけるエンジン6の動力を,PTO軸20を介して前記伝動ケース14における入力軸14aに入力することにより,その各植付け機構15の駆動と,前記苗載台17の左右方向への横送り駆動とを行なうように構成されている。
【0023】
なお,前記PTO軸20と,前記伝動ケース14における入力軸14aとは,自在軸継ぎ手20aによって,着脱可能に連結されており,前記入力軸14aは,前記ローリング軸18より下側に配設されている。
【0024】
そして,前記苗植え装置3を前記走行車体2の昇降機構12における昇降部材13にローリング軸18とヒッチ部材19とでローリング自在な状態で着脱可能に連結するに際しては,以下に述べる構成を採用している。
【0025】
すなわち,前記ローリング軸18を,前記走行車体2の平面視で,その前後方向の中心線上に前後方向に延びるように配設して,このローリング軸18を,前記苗植え装置3における伝動ケース14に,当該伝動ケース14から前記昇降部材13に向かって突出するように取付け,このローリング軸18に,前記ヒッチ部材19の下端に一体に設けたローリング用ボス部21を被嵌することにより,前記ヒッチ部材19を,前記ローリング軸18を中心にして自在に回転するように構成する。
【0026】
前記ヒッチ部材19と,前記苗植え装置3における苗台支持フレーム31との間に,前記苗植え装置3のローリング制御用アクチェータ22を設けるとともに,前記ヒッチ部材19の上端片23と,前記苗植え装置3における苗台支持フレーム31の左右両側との間に,引っ張りばね24,25を装架している。
【0027】
この両引っ張りばね24,25は,前記苗植え装置3を,当該苗植え装置3が前記ローリング軸18を中心にして左右に傾斜した場合に,この傾斜を修正する方向に付勢するという機能を備えている。
【0028】
更に,前記ヒッチ部材19のうち前記ローリング軸18よりも上部において前記昇降部材13に対面する部分には,左右一対の支持片26を,前記昇降部材13に向かって突出するように一体に設けて,この両支持片26の間に,前記ローリング軸18と直角の横向きにしたヒッチ軸27を,両端支持の状態で固着している。
【0029】
一方,前記昇降部材13のうち前記ヒッチ部材19に対面する部分には,前記ヒッチ軸27に下から上向きに嵌まり係合するフック体28を一体に設けて,このフック体28の左右両側面28aが,前記ヒッチ軸27の両支持片26の内側面26aに接当又は近接するという構成にする(図6及び図8を参照)。
【0030】
これに加えて,前記昇降部材13と前記ヒッチ部材19とを,前記昇降部材13におけるフック体28を前記ヒッチ部材19におけるヒッチ軸27に下から上向きに係合した状態のもとで,複数本のヒッチボルト29によって締結するという構成にしている。
【0031】
この場合,前記複数本のヒッチボルト29は,図4に示すように,前記ローリング軸18の軸線方向から見て,前記ローリング軸18より上部で前記ヒッチ軸27の下側における左右両側に配設した二本と,前記ローリング軸18の下部に配設した一本との合計三本の構成にしている。
【0032】
この構成によると,苗植え装置3を,走行車体2の昇降機構12における昇降部材13に,ローリング軸18及びヒッチ部材19を介してローリング自在な状態で着脱可能に連結できる。
【0033】
前記苗植え装置3を,走行車体2から切り離すに際しては,例えば,先ず,前記苗植え装置3に図1に二点鎖線で示すように,支持スタンド30を取付け,次いで,この支持スタンド30が接地するまで前記苗植え装置3を,前記昇降機構12によって昇降操作する。
【0034】
この状態で,三本のヒッチボルト29を取り外したのち,前記昇降機構12の昇降部材13を下降動することにより,この昇降部材13に設けたフック体28が,ヒッチ軸27から外れることになるから,前記苗植え装置3は,図7に示すように,前記走行車体2から切り離されることになる。
【0035】
また,前記苗植え装置3を,前記走行車体2に連結するに際しては,前記切り離す場合とは逆に,前記昇降機構12を昇降操作して,その昇降部材13に設けたフック体28を,ヒッチ部材19における両支持片26間に差し込んだのち上昇することにより,前記フック体28は,前記ヒッチ軸27に係合すると同時に,前記支持片26の内側面に接当するから,これによって,前記昇降部材13と,ヒッチ部材19との横方向及び縦方向の位置決めができ,両方のボルト孔における孔合わせができる。
【0036】
この場合,前記フック体28における幅寸法は,図6及び図8に示すように,当該フック体28の先端において狭くなっていて,両支持片26間への差し込みが容易にできるように構成されている。
【0037】
そこで,前記昇降部材13とヒッチ部材19とを三本のヒッチボルト29にて締結することにより,前記苗植え装置3を,図1,図3等に示すように,走行車体2に対して,前記ローリング軸18を中心にしてローリングできる状態にして連結することができる。
【0038】
この場合,前記苗植え装置3に対するローリング制御用アクチェータ22,及び両引っ張りばね24,25は,当該苗植え装置3と,これにローリング軸18を介して取付けたヒッチ部材19との間に設けられていて,前記苗植え装置3と一緒に着脱されるから,前記苗植え装置3の着脱に際して,その都度,前記前記ローリング制御用アクチェータ22への各種の電気配線又は油圧管路の接続・分離,及び,前記両引っ張りばね24,25の係脱を必要としないから,前記苗植え装置3の着脱の作業性を向上できる。
【0039】
なお,前記実施の形態は,前記昇降部材13におけるフック体28を,ヒッチ部材19におけるヒッチ軸27に,下から上向きに係合する構成にした場合であったが,本発明は,これに限らず,前記フック体28を,前記ヒッチ軸27に上から下向きに係合する構成にすることができる。この場合,他の実施の形態においては,前記フック体28を前記ヒッチ部材19に設け,前記ヒッチ軸27を前記ヒッチ部材19に設けるという構成にすることができる。
【0040】
更にまた,前記実施の形態は,乗用型田植機に適用した場合であったが,本発明は,これに限らず,例えば,トラクタにロータリ耕うん機等のような各種の作業機器を連結して成る走行作業機等のようなその他の走行作業機にも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0041】
1 乗用型田植機
2 走行車体
3 苗植え装置(作業機器)
4 前輪
5 後輪
9 ロアリンク
10 トップリンク
12 昇降機構
13 昇降部材
14 伝動ケース
15 植付け機構
16 フロート
17 苗載台
18 ローリング軸
19 ヒッチ部材
21 ローリング用ボス部
22 ローリング制御用アクチェータ
24,25 引っ張りばね
26 支持片
27 ヒッチ軸
28 フック体
29 ヒッチボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体と,この走行車体における昇降機構と,この昇降機構によって昇降動する昇降部材とを備え,前記昇降部材に,各種の作業機器を,ローリング軸及びヒッチ部材を介してローリング自在な状態で着脱可能に連結して成る走行型作業機において,
前記ヒッチ部材は,前記作業機器に,前記ローリング軸を介してローリング可能に装着されており,このヒッチ部材と前記作業機器との間には,前記作業機器のローリング制御用アクチェータが設けられている一方,前記ヒッチ部材及び前記昇降部材のうちいずれか一方には,前記ローリング軸と直角にしたヒッチ軸が,他方には,前記ヒッチ軸に係合するフック体が各々設けられ,更に,前記昇降部材と前記ヒッチ部材とは,前記フック体を前記ヒッチ軸に係合した状態で,ヒッチボルトにて着脱可能に締結されていることを特徴とする走行作業機におけるヒッチ装置。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記ヒッチ軸は,前記ヒッチ部材及び昇降部材のうちいずれか一方から突出する左右一対の支持片にて両端支持されており,前記フック体は,前記両支持片の内側面に接当又は近接する構成であることを特徴とする走行作業機におけるヒッチ装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2の記載において,前記ヒッチボルトは,前記ローリング軸における軸線の方向から見て,少なくとも前記ローリング軸の左右両側に配設されていることを特徴とする走行作業機におけるヒッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−105621(P2012−105621A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258817(P2010−258817)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】