説明

走行型苗移植機

【課題】左右両側の走行輪体4,5にて走行するように構成した走行機体3に,苗を圃場における畝に対して植付ける苗植付け機構11と,前記苗植付け機構に対する苗移送供給機構12と,前記苗植付け機構による植付け箇所に対する埋め戻し体20と,作業者が搭乗する座席34とを設けて成る苗移植機において,その作業性の向上を図る。
【解決手段】前記走行機体3における前部に,前記苗植付け機構11及び埋め戻し体20を,これらの上方に前記苗移送供給機構12を配設する一方,前記座席34を,前記走行機体の後部に,作業者が前向き又は斜め前向きの姿勢で搭乗する向きにして設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば玉葱等の苗を,圃場に対して植付けるようにした走行型の苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,この種の走行型苗移植機は,例えば,先行技術としての特許文献1及び2等に記載されているように,左右両側における走行輪体にて走行するように構成した走行機体に,苗を圃場に対して植付けるようにした苗植付け機構と,苗を一株ずつ前記苗植付け機構に移送してこれに供給するようにした苗移送供給機構と,前記苗植付け機構による植付け箇所に対する埋め戻し体とを設けるとともに,作業者が搭乗する座席を設けて,前記座席に搭乗する作業者が,苗を一株ずつ,前記苗移送供給機構に供給すると,この一株の苗を,前記苗移送供給機構にて前記苗植付け機構に移送・供給したのち,前記苗植付け機構により圃場に植付けるという構成である。
【特許文献1】特開2006−149281号公報
【特許文献2】特開2007−80号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし,従来の走行型苗移植機においては,前記特許文献等に記載されているように,前記走行機体のうち後部に,前記苗植付け機構及び前記埋め戻し体を,その上方に前記苗移送供給機構を配設する一方,その前方の部位に,前記座席を設けるという構成にしており,前記座席に搭乗した作業者は,前記苗移送供給機構に対して苗を一株ずつ供給する作業を,走行機体の走行方向に対して後ろ向きの姿勢で行うようにしなければならず,この後ろ向き姿勢での苗供給作業中に走行方向の状況を容易に認識することができないので,不安感が大きくて,苗供給作業が低下するばかりか,苗供給のミスが発生する度合いが大きくなるという問題があった。
【0004】
本発明は,この問題を解消した走行型の苗移植機を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「左右両側の走行輪体にて走行するように構成した走行機体に,苗を圃場における畝に対して植付けるようにした苗植付け機構と,苗を一株ずつ前記苗植付け機構に移送してこれに供給するようにした苗移送供給機構と,前記苗植付け機構による植付け箇所に対する埋め戻し体と,作業者が搭乗する座席とを設けて成る苗移植機において,
前記走行機体における前部に,前記苗植付け機構及び埋め戻し体を,これらの上方に前記苗移送供給機構を配設する一方,前記座席を,前記走行機体における後部に,作業者が前向き又は斜め前向きの姿勢で搭乗する向きにして設ける。」
ことを特徴としている。
【0006】
請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記各走行輪体を,前後一対の車輪にて構成して,この前後一対の車輪のうち前輪を回転駆動する。」
ことを特徴としている。
【0007】
請求項3は,
「前記請求項2の記載において,前記前後一対の車輪のうち後輪よりも後方の部位に,前記圃場の畝における傾斜面に接当する畝追従用ローラ体を,左右一対設ける。」
ことを特徴としている。
【0008】
請求項4は,
「前記請求項1〜3のいずれかの記載において,前記座席を,左右両側に設ける一方,前記苗移送供給機構を,前記両座席の間の部分まで延びるように構成した。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
前記請求項1に記載した構成によると,座席に搭乗する作業者は,走行方向に対して前方を向いた姿勢で,苗移送供給機構に対する苗の供給作業を行うことができることにより,走行方向の状況を認識しながら,前記した苗供給作業を行うことができて,作業者における不安感を,後ろ向きの姿勢の場合よりも,大幅に軽減できるから,苗供給作業の能率を向上できるとともに,苗供給ミスの発生を低減できる。
【0010】
この場合において,請求項2に記載した構成によると,走行機体を,フロントドライブにて走行できるから,走行機体のピッチング及び蛇行が少なくなり,苗の植付け姿勢及び植付け深さの安定性を向上できる。
【0011】
また,請求項3に記載した構成によると,走行機体を畝に沿って走行することの安定性を,左右一対の畝追従用ローラ体にて確実に向上できる。
【0012】
特に,請求項4に記載した構成によると,前記苗移送供給機構に対する苗の供給作業を,走行機体に搭乗する二人の作業者によって行うことができるから,苗の植付け速度を向上及び苗植付け条数の増加を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明の実施の形態を,図1〜図4の図面について説明する。
【0014】
これらの図に示す苗移植機1は,圃場における畝2を跨いだ状態でこの畝2の長手方向に沿って矢印Aの方向に前進走行しながら,玉葱の苗を,前記畝2における幅方向の複数の各植付け条箇所ごとに,走行方向に沿って一定の間隔で植付けるものである。
【0015】
この玉葱用の苗移植機1は,走行機体3を備えるとともに,後述するように,前記走行機体3をその左右両側において支持した状態で走行する左右一対の前車輪4と,同じく左右一対の後車輪5とを備えている。
【0016】
前記走行機体3の略中央部分には,後述するエンジン6からの動力を入力とするミッションケース7を備え,このミッションケース7から後方に突出するエンジン台8には,前記エンジン6が搭載されている一方,前記ミッションケース7から前方に延びるフレーム9の前端には,操縦ハンドル10が前向きに延びるように設けられている。
【0017】
前記走行機体3のうちミッションケース7における前端部の部分には,詳しくは後述する苗植付け機構11の複数個が,前記畝2の幅方向に適宜の条間隔Pで並べて設けられている一方,前記走行機体3のうちミッションケース7の上方の部分には,詳しくは後述する苗移送供給機構12が設けられている。
【0018】
前記各苗植付け機構11は,従来から前記特許文献1,2等において良く知られているように,圃場における畝2との間を上下方向に往復動する植付け体13を備え,この植付け体13は,中空の略逆円錐形で,前後又は左右に二つ割りの構成であり,この植付け体13が上昇位置にあるときにおいて閉じてその内部に前記苗移送供給機構12からの苗を受け入れると,当該植付け体13が,下降動して,その下端における尖り部が前記畝2の上面2aに突き刺さり,この状態で開き,次いで,開いた状態で元の上昇位置に戻って閉じるという作動を繰り返すことにより,苗を畝2に対して植付けるという構成である。
【0019】
前記苗移送供給機構12は,前記走行機体3のうち左右両側の部位と,後部の部位とに設けた三つのスプロケット14,15,16の間に平面視で略三角形に巻掛けした無端チエン17と,この無端チエン17に適宜ピッチの間隔で設けた複数個の縦型苗入れ筒18とを備え,前記無端チエン17にて列状に連ねた各苗入れ筒18を,平面視(図2)で略三角形の閉ループに構成したガイドレール19に沿って,当該各苗入れ筒18のピッチ間隔で間欠的に循環移動するという構成であり,前記各苗入れ筒18は,これに作業者が一株の苗を投入(供給)すると,前記ガイドレール19に沿って前記各苗植付け機構11における植付け体13の真上箇所にまで移動したのち,その底部におけるシャッタ(図示せず)を開くことで,内部における一株の苗を前記各苗植付け機構11における植付け体13内に落とし込み供給するという構成になっている。
【0020】
更に,前記走行機体3には,前記畝2における上面2aのうち前記各苗植付け機構11にて苗の植付けをした部分を埋め戻すようにしたローラ式の埋め戻し体20が,前記各苗植付け機構11の後方箇所ごとに設けられている。
【0021】
前記走行機体3の左右両側を支持する前車輪4及び後車輪5は,前記走行機体3におけるミッションケース7の側面に基端を枢着した前部リンク体21と,前記走行機体3におけるエンジン台8から水平横向きに延びる横部材25に基端を枢着した後部リンク体22と,前記前後両リンク体21,22の相互間を連結するリンク体23とで構成した平行リンク機構24にて,前記走行機体3に対して上下動可能に取付けられ,前記平行リンク機構24における前後両リンク体21,22のうちいずれか一方を,走行機体3に設けた昇降用油圧シリンダ(図示せず)にて,基端を中心にして回動して,前記前後両車輪4,5を前記走行機体3に介して一斉に上下動することにより,前記走行機体3を前記畝2に対して昇降動するように構成している。
【0022】
また,前記前後両車輪4,5に対する平行リンク機構24における前後一対のリンク体21,22のうち前部リンク体21を,中空体に構成して,その内部に前記ミッションケース7から前記前車輪4への動力伝達用チエン(図示せず)を設けて,前記左右の前車輪21を回転することにより,前記走行機体3における前進又は後退走行を行うように構成している。
【0023】
前記走行機体3のうち最後部には,畝追従機構26が設けられている。
【0024】
この畝追従機構26は,図4に示すように,前記エンジン台8に水平横向きに延びるように設けた横支持部材27と,この両横支持部材27に,上下動可能で且つ任意の上下位置で上下動不能に着脱自在に固定できるように取付けた支持部材28と,前記畝2における左右両側面2bに接当する畝追従用ローラ体29にて構成されている。
【0025】
前記ローラ体29は,前記支持部材28にピン30にて回転自在に枢着したL型レバー31に,当該L型レバー31の回動にて前記畝2における左右両側面2bから離れるように外向き回動するように取付けられ,更に,前記レバー29と支持部材27との間に設けたばね32にて,前記畝2における左右両側面2bに対して押圧されている。
【0026】
一方,前記L型レバー31は,前記走行機体3における操縦ハンドル10の箇所等に設けたした操作レバー(図示せず)に,ワイヤー33を介して連結することにより,当該操作レバーにおける回動操作にて,前記畝追従用ローラ体29を外向き回動するように構成している。
【0027】
これに加えて,前記走行機体3における中程における左右両側には,座席34を,当該座席34に作業者が斜め前向きの姿勢で搭乗するように配設して,この座席34を,支柱35を介して,前記前後一対の車輪4,5に対する平行リンク機構24に取付けるという構成にしている。
【0028】
なお,前記各苗植付け機構11より前方の部位には,前記畝2の上面2aに接当するローラ型の高さセンサー36を設けて,この高さセンサー36にて前記昇降用油圧シリンダを作動することにより,前記走行機体3における前記畝2の上面2aからの高さ,つまり,苗の植付け深さを略一定に保持するように構成している。
【0029】
この構成において,前記走行機体3を前進走行しながら前記各苗植付け機構11及び前記苗移送供給機構12を駆動する。
【0030】
作業者は,前記座席34に,斜め前向きの姿勢で搭乗した状態で,前記走行機体3に設けた予備苗載台37における苗を,前記苗移送供給機構12における各苗入れ筒18内に一株ずつ供給する。
【0031】
すると,前記苗移送供給機構12における各苗入れ筒18が,前記各苗植付け機構11における植付け体13の真上箇所にまで移動したのち,その底部におけるシャッターを開くことにより,その内部における一株の苗を,前記各苗植付け機構11における植付け体13内に落とし込み供給する。
【0032】
次いで,前記各苗植付け機構11における植付け体13が下降動して,その下端における尖り部が前記畝2の上面2aに突き刺さり,この状態で開くことにより,前記畝2に対して苗の植付けを行い,そして,前記畝2における上面2aのうち苗の植付けをした部分は,埋め戻し体20にて埋め戻される。
【0033】
前記走行機体3の前進走行は,前後一対の車輪4,5のうち前車輪4の駆動によるフロントドライブであるから,走行機体3のピッチング及び蛇行を,リアドライブの場合よりも少なくできる。
【0034】
また,前記走行機体3の最後部に設けた畝追従機構26における両ローラ体29が,前記畝2における左右両側面2bに接当しているから,前記走行機体3における畝2に沿って走行することの安定性を確実に向上できる。
【0035】
この場合,前記畝2における左右両側面2bに接当する両ローラ体29は,その押圧用ばね32に抗して外向きに回動することができるように構成されていることにより,この両ローラ体29が,走行機体3の畝越え又は畦越えに際して邪魔になることを回避できる。
【0036】
なお,前記操縦ハンドル10の箇所には,前記各苗植付け機構11をON・OFF操作するための操作レバー,前記苗移送供給機構12をON・OFF操作するための操作レバーが設けられていることに加えて,前記左右の前車輪4に対するサイドクラッチレバー及びエンジン6のアクセルレバー等のような各種の操作手段が設けられている。
【0037】
また,前記操縦ハンドル10は,図示したように,走行機体3の前部に前方に延びるように設けることに替えて,又は,これに加えて,図1及び図2に二点鎖線で示すように,走行機体3の後部に後方に延びるように設けて,これに前記した各種の操作手段が設けるという構成にすることができる。
【0038】
更にまた,前記した各種の操作手段は,前記座席34の近傍の箇所に設けて,これを座席34に搭乗する作業者が操作するように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明における実施の形態による苗移植機を示す側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1のIII −III 視後面図である。
【図4】図1のIV−IV視前面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 苗移植機
2 畝
3 走行機体 4 前車輪
5 後車輪
6 エンジン
7 ミッションケース
10 操縦ハンドル
11 苗植付け機構
12 苗移送供給機構
13 植付け体
17 無端チエン
18 苗入れ筒
19 ループ状ガイドレール
20 埋め戻し体
24 平行リンク機構
29 畝追従用ローラ体
34 座席

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右両側の走行輪体にて走行するように構成した走行機体に,苗を圃場における畝に対して植付けるようにした苗植付け機構と,苗を一株ずつ前記苗植付け機構に移送してこれに供給するようにした苗移送供給機構と,前記苗植付け機構による植付け箇所に対する埋め戻し体と,作業者が搭乗する座席とを設けて成る苗移植機において,
前記走行機体における前部に,前記苗植付け機構及び埋め戻し体を,これらの上方に前記苗移送供給機構を配設する一方,前記座席を,前記走行機体における後部に,作業者が前向き又は斜め前向きの姿勢で搭乗する向きにして設けることを特徴とする走行型苗移植機。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記各走行輪体を,前後一対の車輪にて構成して,この前後一対の車輪のうち前輪を回転駆動することを特徴とする走行型苗移植機。
【請求項3】
前記請求項2の記載において,前記前後一対の車輪のうち後輪よりも後方の部位に,前記圃場の畝における傾斜面に接当する畝追従用ローラ体を,左右一対設けることを特徴とする走行型苗移植機。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかの記載において,前記座席を,左右両側に設ける一方,前記苗移送供給機構を,前記両座席の間の部分まで延びるように構成したことを特徴とする走行型苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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