説明

走行用ホイール

【課題】 砂地や泥地等の軟弱地盤での走行性を高めたホイールを提供する。
【解決手段】
月探査用等に用いられるロボットは、ボデイ1と、このボデイ1の左右において前後に離れて設けられたホイール2を備えている。各ホイール2は、ループアッセンブリ10と一対のガイド板20とを備えている。ループアッセンブリ10は、ハブ11と、ハブ11の外周に等間隔をおいて固定された複数の内側弾性ループ12と、内側弾性ループ12に外接固定された外側弾性ループ13とを備えている。弾性ループ12,13はスチールベルトからなり、バネ弾性を有している。一対のガイド板20は水平方向に細長く形成されて外側弾性ループ13の両側縁部に嵌り、これにより外側弾性ループ13を上下に潰した形状に弾性変形させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂地や泥濘地等の軟弱地盤での走行、特に月等の引力の小さな天体や浮力がかかる水中の砂地や泥地での走行に適したホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールを用いたロボット(走行装置)は周知である。このロボットは、整地された路面を走行するのに適しているものの、砂地や泥濘地等の軟弱地盤での走行には適さない。ホイールの接地面積が小さく接地圧が大きいため、ホイールが砂や泥濘を掘り、走行不能になったり砂塵等を巻き上げるからである。
【0003】
ホイールの代わりにクローラを用いたロボットも周知である。このクローラは、前後に配置されたスプロケットにベルトを掛け渡すことにより構成されており、接地面積が大きく接地圧が小さいので砂や泥濘を掘ることがなく軟弱地盤の走行に適しているが、重量が増大したり、ベルトを駆動するために必要となる動力の負担が大きい欠点があり、特にロボットのような小型走行装置には不向きである。
【0004】
特に引力の小さな砂地の天体や浮力のかかる深海の砂地や泥地を走行するロボットでは、運搬状の制約のため極軽量であることが必要で、遠隔操作しかできないため壊れにくい簡単な構造であり、かつ砂や泥を掘って走行不能となることがないことが必要である。
特許文献1に記載のホイールは、ハブとこのハブを囲うようにして配置された無端状のベルトとを備えている。ハブからは多数のロッド状の第1支持体が放射状にベルトに向かって延び、ベルトの内周からは多数のロッド状の第1支持体がハブに向かって延びている。これら第1支持体と第2支持体をバネによって連結し、このバネにより第2支持体を径方向、外方向に付勢し、これにより上記ベルトをハブと同心をなす円形に維持している。
【0005】
上記構成のホイールでは、ベルトが接地した状態で、この接地した部位に固定された第2支持体がバネに抗してハブ方向へ移動するため、ベルトの接地部が平坦になり大きな接地面積を確保することができる。その結果、ホイールでありながら、天体の軟弱地盤を掘ることなく走行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−214612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されたホイールは多数のロッド状の支持体やバネを必要とするため構造が複雑となり、故障のリスクが高く、特に修理が不可能な月面等の天体での走行には適さない。また複雑な構造のため、高価であり重量を軽減することもできない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためなされたものであり、走行用ホイールにおいて、ハブと、このハブの外周に等間隔をおいて固定された複数の内側弾性ループと、これら複数の内側弾性ループを囲み各内側弾性ループに外接して固定された外側弾性ループとを備え、外側弾性ループが接地することを特徴とする。
上記構成によれば、接地状態において、外側弾性ループおよび内側弾性ループが上下に潰れた形状に弾性変形するため、外側弾性ループは、大きな接地面積で接地でき、軟弱地盤を掘ることなく安定して走行することができる。
また、部品点数が少なく構造簡単であるため、軽量、安価となり、故障のリスクが極めて小さい。極軽量かつ故障のリスクが小さいので、修理が不可能な月等の天体や深海底での走行にも適用できる。
【0009】
好ましくは、さらに、上記ハブの軸線と直交するとともに水平方向に長く延びる一対のガイド板を備え、上記ハブがこれらガイド板に回転可能に支持され、上記内側弾性ループがこれらガイド板間に配置され、上記外側弾性ループは、上記ハブの軸線方向の両側縁部が上記一対のガイド板の水平方向両端部に外接して水平方向に長くなるように弾性変形された状態で、回転する。
この構成によれば、ガイド板で外側弾性ループを強制的に上下に潰すため、外側弾性ループの接地面積を確実に大きくすることができる。そのため、ホイールが装着されるロボット等の走行装置が軽量の場合や、重力の小さな月等の天体で走行する場合にも、十分な接地面積を確保できる。
また、一対のガイド板により外側弾性ループの捩じれを規制でき、あらに内側弾性ループの捩じれも規制できるため、安定した走行が可能である。
さらに、外側弾性ループが一対のガイド板により上下に潰れた形状に弾性変形しているため、プリロードによる対荷重剛性が向上し、走行時における走行装置の高さ変動を抑制することができる。
【0010】
好ましくは、上記外側弾性ループおよび内側弾性ループが弾性帯板からなり、外側弾性ループは、内側弾性ループより幅広で、その両側縁部が内側弾性ループからハブの軸線方向に突出している。
これによれば、内側弾性ループと外側弾性ループを簡単な構成とすることができる。
【0011】
好ましくは、上記弾性帯板が金属製の帯板からなる。
これによれば、砂漠や月面等の温度変化の激しい環境にも耐えることができる。
【0012】
好ましくは、上記外側弾性ループの外周に間隔をおいてラグが設けられている。
これによれば、軟弱地盤において接地部位での牽引力を確保でき、走行をより安定させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のホイールによれば、遠隔操作しかできない月等の引力の小さな天体や浮力がかかる水中の砂地や泥地等の軟弱地盤を安定して走行することができ、構造が簡単であるため、軽量かつ安価であり、故障も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係わる月面探査ロボットのホイールを示し、(A)は側面図、(B)は同ホイール中央での縦断面図である。
【図2】図2は、同ホイールの上半部分を拡大して示すとともに弾性ループの厚みを誇張して示す縦断面図である。
【図3】図3は、同ホイールのループアッセンブリを、ガイド板を組み込む前の無負荷状態で示し、(A)は側面図、(B)は同ループアッセンブリ中央での縦断面図である。
【図4】図4は、同ループアッセンブリの上半部分を拡大して示すとともに弾性ループの厚みを誇張して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施形態に係わる月面探査用の軽量小型のロボット(走行装置)について、図面を参照して説明する。
図1(B)に示すように、ロボットは、前後方向に細長いボデイ1と、このボデイ1の左右両側において前後に離間して設けられた合計4つのホイール2(1つのみ示す)とを備えている。
【0016】
上記ボデイ1にはビデオカメラや通信機等が搭載されている。さらに、このボデイ1にはロボットの求められる役割に応じて、ロボットアーム等の種々の付属器具やセンサーを搭載してもよい。
【0017】
上記ホイール2の各々は、ループアッセンブリ10と、このループアッセンブリ10に組み込まれる一対のガイド板20とを備えている。
【0018】
まず、ループアッセンブリ10について図3,図4を参照しながら説明する。ループアッセンブリ10は、中央の円筒形状のハブ11と、このハブ11の外周に等間隔をおいて固定された複数例えば4個の内側弾性ループ12と、これら内側弾性ループ12を囲み、各内側弾性ループ12に外接固定された外側弾性ループ13とを有している。
【0019】
本実施形態では、上記内側弾性ループ12および外側弾性ループ13の各々は、全周にわたって均一厚さの帯板、例えばスチールベルト(金属製帯板)の長手方向両端を溶接(固定)することにより構成されている。本実施形態では、外側弾性ループ13が約1.0mm厚で、内側弾性ループ12がこれより薄く0.5mm厚であるが、これらループ12,13の板厚はボデイ1の重量、使用環境等に応じて適宜選択できる。
【0020】
上記弾性ループ12,13は、バネ弾性を有しているため、無拘束,無負荷状態(自然状態)では円形であり、荷重を加えると非円形に弾性変形し、荷重を除くと元の円形に弾性復帰する。
【0021】
上記内側弾性ループ12は、一箇所でハブ11の外周に接し、この接点12aで固定され、180°離間したもう一箇所で外側弾性ループ13の内周に接し、この接点12bで固定されている。上記内側弾性ループ12の固定点12a,12bを結ぶ線はハブ11の中心軸線L(以下、ハブ軸線称す)を通る。
【0022】
図4に示すように、上記内側弾性ループ12は、上記固定点12aにおいてハブ軸線L方向に並んだ複数のボルト14により、ハブ11の外周に固定されている。
上記外側弾性ループ13と内側弾性ループ12は、上記固定点12bにおいてハブ軸線L方向に並んだ複数のボルト15とナット16により、互いに固定されている。
【0023】
上記ループアッセンブリ10において、隣接する内側弾性ループ12同士は非固定である。
上記内側弾性ループ12と外側弾性ループ13は、ハブ軸線Lと直交する平面上に配置されている。
【0024】
上記外側弾性ループ13は内側弾性ループ12より幅が広く、その幅方向(ハブ軸線L方向)の中央に内側弾性ループ12が固定されている。外側弾性ループ13の両側縁部13aが内側弾性ループ12から幅方向に突出している。
【0025】
上記外側弾性ループ13の外周には等間隔をなして接地ラグ18が設けられている。この接地ラグ18は、例えば断面L字形で外側弾性ループ13の幅とほぼ等しい長さの板金からなり、外側弾性ループ13の幅方向に沿って延び、一辺が外側弾性ループ13の外周に溶接され、他方の辺が外側弾性ループ13の外周と直交するように起立している。
【0026】
図3(A)に示すように、ループアッセンブリ10が無拘束、無負荷状態(自然状態)にある時、外側弾性ループ13は略円形をなしており、内側弾性ループ12は互いに僅かに接しながら略円形をなしている。
【0027】
図1に示すように、上記一対のガイド板20は同一形状で水平に長く形成されており、その周縁部は、上部21および前後端部22,23が凸曲面をなし、下部24が凹曲面をなし、上部21と前後端部22,23間の部位25,26も凹曲面をなしている。
【0028】
次に、上記一対のガイド板20の上記ループアッセンブリ10への組み込みについて詳述する。
図2に最も良く示すように、各ガイド板20の中央には円径の穴20aが形成されており、この穴20aの周縁の内側には予めベアリング30がベアリング押さえ31により取り付けられている。
【0029】
上記外側弾性ループ13を弾性変形させた状態で、上記一対のガイド板20のベアリング30をハブ11の小径をなす軸方向両端部に嵌め込むとともに、一対のガイド板20の周縁部を外側弾性ループ13の両側縁部13aに嵌め込むことにより、ガイド板20がハブ11に仮組みされる。
【0030】
次に、円盤形状の一対のベアリング押さえ32をハブ11の軸方向両端面に固定することにより、ガイド板20のループアッセンブリ10への組み込みが完了する。
【0031】
上記のように一対のガイド板20をループアッセンブリ10に組み込んだ状態では、これらガイド板20がハブ軸線Lと直交している。ハブ11は、ベアリング30によりガイド板20に回転可能に支持されている。また、上記内側弾性ループ12は一対のガイド板20間に配置され、ガイド板20とはハブ軸線L方向に離れている。
【0032】
上記外側弾性ループ13は、その両側縁部13aがガイド板20の上部21および前後端部22,23の外周に接していて、水平方向に長く上下に潰れた形状に弾性変形されており、これに伴い、内側弾性ループ12も上下に潰れた楕円形状に弾性変形されている。
【0033】
上記構成をなすホイールが、従動輪の場合には、一方のガイド板20がボデイ1に固定されることにより、ボデイ1に取り付けられる。
ロボットが4輪の場合には、少なくとも前後いずれかのホイール2は駆動輪となるが、ホイール2が駆動輪の場合には、ボデイ1に搭載されたモータを含む駆動源の出力軸が一方のベアリング押さえ32に連結されるか、このベアリング押さえ32を貫通して、ハブ11の内周に連結される。他の態様として、ハブ11の一端部を延長してボデイ1内に突出させ、この延長端部と駆動源の出力軸を連結してもよい。
【0034】
上記構成において、ボデイ1側のモータを駆動させると、ハブ11が回転し、このハブ11の回転が内側弾性ループ12を介して外側弾性ループ13に伝達される。外側弾性ループ13は、接地するとともに、ガイド板20の周縁部の上部21および前後端部22,23の外周に接し擦れながら回転し、これにより、ロボットが走行する。ラグ18は接地面に食い込み、牽引力を提供する。
【0035】
上記外側弾性ループ13は、一対のガイド板20により上下に潰れたほぼ楕円形状を維持される。そのため、接地面積が広く、月面の砂地等の軟弱地盤を掘ることなく、安定して走行することができ、砂塵の巻き上げも抑制することができる。
【0036】
ロボットが軽量であったり月面のように重力が小さいために、ロボットの自重だけでは外側弾性ループ13が十分に潰れにくい場合でも、上記のようにガイド板20により外側弾性ループ13を強制的に水平に引っ張り上下に潰すので、十分な接地面積を確保できる。
【0037】
上述したように、外側弾性ループ13はガイド板20により上下に潰れた形状に弾性変形されており、これに伴ない上記内側弾性ループ12も弾性変形されているので、ループアッセンブリ13にはいわゆるプリロードが掛かっている。そのため、対荷重剛性が高く、走行中の荷重の変動に対してこれら弾性ループ12,13の弾性変形が少なくて済み、ロボットの高さの変動を抑えることができ、より一層安定した走行が可能である。
【0038】
なお走行時において、各内側弾性ループ12は、上下に位置している時に固定箇所12a,12bを結ぶ線が短軸をなし、前後に位置している時に当該線が長軸をなすように、弾性変形を繰り返す。
【0039】
上記ガイド板20は、弾性ループ12、13をハブ軸線Lと平行に維持し、ループアッセンブリ10の捩じれを防止する役割も担う。この捩じれ防止によって、より一層安定した走行が可能である。
【0040】
本発明は、上記実施形態に制約されず、種々の態様を採用することができる。例えば、上記構成のホイール2は、地球上の浮力のかかる深海の砂地や泥地等の軟弱地盤でも使用することができる。
接地ラグ18は無くてもよい。
ガイド板20は省いてもよい。この場合、ボデイ1の重量等でループアッセンブリ10が弾性変形するので、通常のホイールに比べて接地面積を広くすることができる。この場合には、弾性ループ12,13を等しい幅にしてもよい。
上記外側弾性ループ13は、ガイド板20の上部に接しなくてもよい。
内側弾性ループ12は、4個に限らず、3個または5個以上であってもよい。
天体で使用する場合、内側弾性ループ12および外側弾性ループは、宇宙線に強いポリイミドの薄板を用いてもよい。海底で使用する場合は水溶性でない樹脂やゴム、また金属との複合体を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のホイールは、砂地等の軟弱地盤の走行のために用いることができ、月面等の天体での走行に用いることもできる。
【符号の説明】
【0042】
10 ループアッセンブリ
11 ハブ
12 内側弾性ループ
13 外側弾性ループ
18 接地ラグ
20 ガイド板
22,23 前後端部
30 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、このハブの外周に等間隔をおいて固定された複数の内側弾性ループと、これら複数の内側弾性ループを囲み各内側弾性ループに外接して固定された外側弾性ループとを備え、外側弾性ループが接地することを特徴とする走行用ホイール。
【請求項2】
さらに、上記ハブの軸線と直交するとともに水平方向に長く延びる一対のガイド板を備え、
上記ハブがこれらガイド板に回転可能に支持され、上記内側弾性ループがこれらガイド板間に配置され、
上記外側弾性ループは、上記ハブの軸線方向の両側縁部が上記一対のガイド板の水平方向両端部に外接して水平方向に長くなるように弾性変形された状態で、回転することを特徴とする請求項1に記載の走行用ホイール。
【請求項3】
上記外側弾性ループおよび内側弾性ループが弾性帯板からなり、外側弾性ループは、内側弾性ループより幅広で、その両側縁部が内側弾性ループからハブの軸線方向に突出していることを特徴とする請求項2に記載の走行用ホイール。
【請求項4】
上記弾性帯板が金属製の帯板からなることを特徴とする請求項3に記載の走行用ホイール。
【請求項5】
上記外側弾性ループの外周に間隔をおいてラグが設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の走行用ホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101590(P2012−101590A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249619(P2010−249619)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)