説明

起泡性水中油型乳化物

【課題】乳化安定性に優れ、ボテ耐性が高く、生産が容易で、油脂分含有量が低いにもかかわらず、乳化物をホイップして得たホイップクリームに“しまり”が生じ難く、長期間にわたり優れた食感が保持される起泡性水中油型乳化物を提供する。
【解決手段】起泡性水中油型乳化物は、構成脂肪酸中にラウリン酸を40%以上含み、且つ融点50℃未満である油脂Aと、融点50℃以上の油脂Bとを、重量比で油脂A:油脂B=99:1〜87:13の割合で含み、35℃のSFCが6%以上、16%未満であり、15℃における固体脂含有量と35℃における固体脂含有量の差が55〜69%である混合油脂を10〜35重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は起泡性水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生クリームを起泡させたホイップクリームは、ケーキ、デザート、コーヒーなどのナッペ、サンド、トッピング用等として用いられているが、生クリームは乳化物の安定性に劣り、水中油型の状態で振動や温度による乳化破壊を生じやすく、また起泡してホイップクリームとして使用する時も、終点幅が極端に短く使いづらい事が知られている。このため近年は生クリームの代わりに、植物性油脂を乳化した起泡性水中油型乳化物が用いられている。近年、食品の低カロリー化の要望が高まり、起泡性水中油型乳化物も低カロリー化のために油脂分の量を低減する傾向にある。しかしながら従来の起泡性水中油型乳化物は、油脂分の量を少なくするとホイップ時間を長くしないとオーバーランが得られず、ホイップクリームの食感、保型性も低下するという問題がある。
【0003】
油脂分含有量が低い起泡性水中油型乳化物の上記問題を解決するために、水中油型乳化物の油脂分として、ラウリン系油脂を含有し、固体脂含有量(SFC)、SUS型トリグリセリドの割合等を特定の範囲とした油脂を使用することが提案されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−100646号公報
【特許文献2】特開平5−219887号公報
【特許文献3】特開平8−70807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ラウリン系油脂を含む油脂分を用いると、起泡後のホイップクリームが経時的に硬くなる“しまり”という現象が生じやすく、特に油脂分の割合が少ない場合には“しまり”現象は顕著に生じ、食感がボソボソして悪くなるという問題があった。また、SUS型トリグリセリドをラウリン系油脂と組合わせる特許文献3の方法は、乳化が不安定になり、ボテ耐性が落ちることが問題視されていた。本発明は上記の点に鑑みなされたもので、従来のラウリン系油脂を油脂分として用いた低油脂含有量の起泡性水中油型乳化物の問題を解決した起泡性水中油型乳化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
(1)構成脂肪酸中にラウリン酸を40%以上含み、且つ融点50℃未満である油脂Aと、融点50℃以上の油脂Bとを、重量比で油脂A:油脂B=99:1〜87:13の割合で含み、35℃のSFCが6%以上、16%未満であり、15℃における固体脂含有量と35℃における固体脂含有量の差が55〜69%である混合油脂を10〜35重量%含有することを特徴とする起泡性水中油型乳化物、
(2)油脂Aが、ラウリン系油脂の極度硬化油を含有する上記(1)の起泡性水中油型乳化物、
(3)油脂Bが、パーム油の極度硬化油を含有する上記(1)又は(2)の起泡性水中油型乳化物、
(4)炭素数18以上の飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤を含有する上記(1)〜(3)のいずれかの起泡性水中油型乳化物、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、ホイップ性に優れるとともに、ホイップクリームは口溶けが良好で優れた食感を有する。本発明の起泡性水中油型乳化物をホイップして得たホイップクリームは、油脂分の割合が低いにもかかわらず“しまり”が生じ難く、長期間にわたり優れた食感が保持される。乳化安定性も優れているため、ボテ耐性が高く、生産が容易である。また本発明の起泡性水中油型乳化物は、油脂含有量が少ないため低カロリーであり、消費者の健康志向に適合するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水中油型乳化物は、油脂分として構成脂肪酸中にラウリン酸を40%以上含み、且つ融点が50℃未満である油脂Aと、融点50℃以上の油脂Bとの混合物を用いる。なお、本願における融点は、基準油脂分析法2.2.4.2−1996に記載のある上昇融点によって測定する。ラウリン酸を40%以上含み、且つ融点が50℃未満である油脂としては、ラウリン系油脂又はラウリン系油脂とラウリン系以外の油脂との混合物を用いることができる。ラウリン系油脂としてはヤシ油、パーム核油や、これらの分別油、硬化油、エステル交換油が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。ラウリン系油脂と混合して用いるラウリン系以外の油脂としては、パーム油、菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ラード、牛脂、魚油等の動植物油脂、乳脂肪等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。また融点が50℃未満であれば、上記油脂の硬化油も油脂Aとして使用することが出来る。油脂Aの全構成脂肪酸中のラウリン酸の割合が40%以上となるようにするため、油脂A中のラウリン系油脂の割合が60重量%以上であることが好ましい。特に油脂Aは構成脂肪酸中にラウリン酸を42%以上含むことが好ましく、油脂A中にラウリン系油脂を90重量%以上含むことが好ましい。油脂Aとしては、上記ラウリン系油脂の極度硬化油を含有するものが保型、保水が良好となるため好ましく、特に油脂A中にラウリン系油脂の極度硬化油を70重量%以上含むことが好ましい。
【0009】
融点が50℃以上の油脂Bとしては、菜種油、大豆油、パーム油、ラード、牛脂等の硬化油が挙げられる。これら、融点50℃以上の油脂を1種又は2種以上混合したものを油脂Bとする。なお、融点50℃以下の油脂は油脂Bの構成油脂とすることはできない(融点50℃未満の油脂は油脂Aの構成油脂として分類する)。油脂Bは、特に融点が55℃以上のものが好ましい。油脂Bは、パーム油の極度硬化油を含有するものが、他の極度硬化油を使用するよりも、良好な口溶けを示し、しまり抑制に効果が高いので好ましく、油脂Aと油脂Bの混合油脂中のパーム油極度硬化油の割合が3〜10重量%となるように油脂Bに加えることが好ましい。
【0010】
本発明乳化物に使用する油脂分は、上記油脂Aと油脂Bとを重量比で、油脂A:油脂B=99:1〜87:13の割合で含有する混合油脂であるが、97:3〜90:10で含有する混合油脂が好ましい。油脂Bに対する油脂Aの割合が99:1を超える場合、しまり抑制の効果が著しく減少し、87:13未満の場合、口溶けが悪くなる。本発明において用いる混合油脂は、35℃のSFCが6%以上、16%未満であり、15℃におけるSFCと、35℃におけるSFCとの差が、55〜69%であるが、好ましくは15℃と35℃のSFCの差が60〜69%のものを用いる。SFCの差が55%未満であると、保水性が悪くなり、69%を超えるとしまり抑制の効果が著しく減少する。35℃のSFCが6%以上、16%未満であり、15℃と35℃のSFCの差が55〜69%の混合油脂を調製する方法の一例を以下に示す。
【0011】
油脂Aとして、融点50℃未満の油脂のなかから、35℃のSFCが10%以下であり、15℃と35℃のSFCの差が60〜74%であり、構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が40%以上のものを選択して用いる。例えばヤシ油、ヤシ硬化油、ヤシエステル交換油、パーム核硬化油は、構成脂肪酸中にラウリン酸を40%以上含み、融点が50℃未満であり、15℃と35℃のSFCの差はおおよそ65〜70%であるので、これらの油脂を油脂Aとして用いるか、これらの油脂に例えばパーム核油(15℃と35℃のSFCの差はおおよそ49%)やパーム核エステル交換油等や他の融点が50℃未満の油脂を混合し、混合油脂の構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が40%以上で、融点が50℃未満という条件を満たし、更に、15℃と35℃のSFCの差が60〜74%の範囲となるような割合で配合して油脂Aとして用いる。
一方、油脂Bとして、融点が50℃以上の油脂のなかから、15℃と35℃のSFCの差が0〜15%のものを選択して用いる。例えば融点50℃以上の極度硬化油は、15℃のSFCも35℃のSFCもほぼ100%となる(15℃と35℃のSFC差はほぼ0%)ので、融点50℃以上の極度硬化油を油脂Bとして用いることができる。また融点が50℃以上の菜種部分硬化油やパーム部分硬化油も、通常、15℃と35℃のSFCの差が0〜15%であるため、油脂Bとして用いることができるが、融点が50℃以上の菜種部分硬化油やパーム部分硬化油であっても、15℃と35℃のSFCの差が15%を超える場合には、更に水素添加量を多くして融点が高い部分硬化油を選択することで、容易に融点が50℃以上で、15℃と35℃のSFCの差が0〜15%という上記油脂Bの要件を満たす油脂を選択することができる。これらの油脂は2種以上を混合して油脂Bとして用いることもできる。
【0012】
上記の油脂Aと油脂Bとを、油脂A:油脂B=99:1〜87:13の割合で混合したものを本発明において混合油脂として用いるが、下記式(1)より、混合に用いる油脂Aと油脂BのSFCから、混合油脂の35℃におけるSFCが6%以上、16%未満であり、かつ15℃と35℃のSFC差が55〜69%となるような油脂Aと油脂Bとの配合を求め、実際に油脂Aと油脂Bとを配合して得た混合油脂のSFCを測定し、測定値が上記範囲から外れる場合には両者の配合を微調整することで、構成脂肪酸中にラウリン酸を40%以上含み、融点が50℃未満の油脂Aと、融点が50℃以上の油脂Bとを混合して、35℃のSFCが6%以上、16%未満であり、15℃と35℃のSFC差が55〜69%である混合油脂を調製することができる。
【0013】
(数1)
X℃における混合油脂のSFC=
{SFCa×a/(a+b)}+{SFCb×b/(a+b)} (1)
【0014】
尚、上記式(1)中、SFCaは、X℃における油脂AのSFCを、SFCbはX℃における油脂BのSFCを、aは混合油脂中の油脂Aの割合(重量%)を、bは混合油脂中の油脂Bの割合(重量%)をそれぞれ示す(ただしa+b=100)。
【0015】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、上記油脂Aと油脂Bとの混合油脂を水と水中油型に乳化して得られる。本発明の乳化物は上記混合油脂を10〜35重量%含有していることが必要であるが、混合油脂15〜30重量%を含有することが好ましい。乳化物を得るに際し乳化剤が用いられる。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の1種または2種以上を用いることができるが、炭素数18以上の飽和酸のショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤を用いると、特定の混合油脂を用いたこととの相乗的作用により、ボテ耐性の向上と、経時的しまりの抑制効果が向上する。乳化剤は、起泡性水中油型乳化物中の割合が0.05〜2.0重量%程度となるように配合することが好ましい。0.05重量%未満では乳化剤の機能が十分発揮されず、炭素数18以上の飽和酸のショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤を用いても相乗的作用が得られ難い。また2.0重量%を超える量を配合すると、ホイップクリームの風味が悪くなる虞がある。乳化剤中にショ糖飽和脂肪酸エステルを含有していると、ホイップクリームのボテ耐性の向上や経時的しまりの抑制効果が高まるため好ましい。ショ糖飽和脂肪酸エステルは乳化剤中に0.05〜1.0重量%配合することが好ましい。
【0016】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、必要に応じて全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエイパウダー、牛乳、乳タンパク質やその分解物、乳糖等の無脂固形分や、デキストリン、液糖、増粘安定剤、リン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、カリウム塩、呈味剤、香料等を含有していても良い。
【0017】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、水と混合油脂とを60〜70℃で乳化させることにより得られる。使用する乳化剤のうち、水溶性乳化剤は水に、油溶性乳化剤は混合油脂に添加しておく。また必要に応じて粉乳、増粘安定剤、塩類、呈味剤等を用いる場合、これらを溶解した水を用いる。得られた水中油型乳化物は、140℃程度の蒸気を吹き込んで滅菌した後、80℃程度まで冷却し、高圧ホモゲナイザーで均質化した後、急冷して製品化される。
【実施例】
【0018】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜9、比較例1〜6
表1、2に組成を示す油脂Aと油脂Bとを表に示す割合で混合した混合油脂(ただし比較例1、2は油脂Aのみ)、乳化剤、同表に示す他の成分とともに乳化し、起泡性水中油型乳化物を得た。得られた乳化物の性状を試験した結果を表3、4に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
※1:三菱化学フーズ製のショ糖ベヘン酸エステル、B370(HLB=3)
※2:第一工業製薬製のショ糖ステアリン酸エステル、DKF−10(HLB=1)
※3:理研ビタミン製のグリセリン脂肪酸エステル、エマルジーOL−100H
※4:SFCはAOCS法に準じて測定。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
※5:ホイップ時間
5コートのボウルに1kgの起泡性水中油型乳化物を入れ、グラニュー糖100gを添加し、5.0℃に調温してからミキサーで高速でホイップし、ホイップ直後のレオメーターの値が44〜54gに収まった時間をホイップ時間とした。
※6:保型性
起泡性水中油型乳化物をホイップして得たクリームを絞り袋から絞り出して造花し、15℃で24時間保持した後の形状から保型性を以下の基準で判定した。
◎ 造花直後の形状と変化なし。
○ 造花直後の形状よりわずかに変化した。
△ 造花直後の形状と比べて明らかに変化した。
× 造花直後の形状と比べて著しく変化した。
※7:保水性
起泡性水中油型乳化物をホイップして得たクリームを造花し、15℃で24時間保持した後、表面への水分の染み出しにより保水性を以下の基準で判定した。
◎ 水分の染み出しが全く認められない。
○ わずかに水分の染み出しが認められる。
△ 水分の染み出しが容易に確認できる。
× 水分の著しい染み出しが認められた。
※8:造花性
起泡性水中油型乳化物をホイップして得たクリームを絞り袋に入れて絞り、“ひだ”や“つの”の綺麗さ、荒れの有無を目視で確認し、以下のように評価した。
良 “ひだ”も“つの”も綺麗に形成されている。
荒れ “ひだ”の荒れや“つの”に欠けがある。
不良 絞るとダレてしまい“ひだ”がくっきり形成されない。
※9:風味、口溶け
起泡性水中油型乳化物をホイップして得たクリームをパネラー10名が試食し、風味、口溶けについて良い、普通、悪いの3段階で評価し、良いを3点、普通を2点、悪いを1点として10名のパネラーの評価点の平均値で示した。
※10:ボテ耐性
100mlのビーカーに起泡性水中油型乳化物60gを入れ、10℃で2時間保持した後、150r.p.mで攪拌したときのボテ時間を測定し、
◎ ボテ時間が3時間以上
○ ボテ時間が3時間未満、2時間以上
△ ボテ時間が2時間未満、1時間以上
× ボテ時間が1時間未満
と評価した。
※11:固さ
5℃に保持した起泡性水中油型乳化物1kgにグラニュー糖100gを添加し、ホイップして得たクリームを、プラスチックカップに詰め、直後の固さ、カップに詰めて15℃で30分保持した後の固さ、及びカップに詰めて10℃で24時間保持した後の固さを、プランジャーに直径25mmの球を用いたレオメーターにより、測定速度50mm/分、定深度20mmの条件で定深度測定を行って求めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸中にラウリン酸を40%以上含み、且つ融点50℃未満である油脂Aと、融点50℃以上の油脂Bとを、重量比で油脂A:油脂B=99:1〜87:13の割合で含み、35℃のSFCが6%以上、16%未満であり、15℃における固体脂含有量と35℃における固体脂含有量の差が55〜69%である混合油脂10〜35重量%を含有することを特徴とする起泡性水中油型乳化物。
【請求項2】
油脂Aが、ラウリン系油脂の極度硬化油を含有する請求項1記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項3】
油脂Bが、パーム油の極度硬化油を含有する請求項1又は2記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項4】
炭素数18以上の飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化物。

【公開番号】特開2011−83195(P2011−83195A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236249(P2009−236249)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】