説明

起立補助型座椅子

【課題】座椅子を昇降可能にすると共に昇降した座部を前傾することにより、着座者の起立または着座動作を楽に行うようにする。
【解決手段】座椅子1における左右の肘掛3の両側に同構成のリンク機構4、4を設け、該リンク機構は支承部材7に互いに噛合状態に設けられた前後一対のギア8a、8bに下端部を固設した一対の下方リンク10a、10bと、夫々の下方リンクに連結されると共に交差状に連結された一対の上方リンク11a、11bとを有し、上方リンク11bの前方上端を肘掛3に支承する一方、肘掛の側面に固設された案内板17の水平溝18aから連続的に下り勾配を成した傾斜溝18bとから成る案内溝18に沿って上方リンク11aの後方の上端に設けたプーリ16を係合し、前後の下方リンク10bと上方リンク11bとの連結部材12、13に設けられた雌ネジ部材12b、13bに螺合したネジ棒19をモータ22によって回動することにより、座椅子を一定高さまで平行に上昇し、またこの上昇した座椅子を前傾するようにした。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、座椅子に関するものであり、着座者の起立または着座動作を楽に行うように、座椅子を昇降可能にすると共に上昇した座椅子を前傾し得るようにした起立補助型座椅子に関する。
【0002】
【従来の技術】
座椅子は、座部が床近くに設けられているため、座椅子に座った姿勢から立ち上がったり、立った姿勢から座椅子に座ったりする動作は、高齢者または身障者等にとって非常に労力を要するものである。
【0003】
このため、従来から高齢者または身障者等が楽に座ったり立ち上がったりすることができるように、座部を昇降する機構を備えた座椅子が開発されている。
【0004】
ところが、従来の昇降機構は、座部を略水平に保った状態で昇降するものであるため、上昇した座部から立ち上がったり座ったりするには、膝に力を入れて起立姿勢あるいは着座姿勢に移行する必要があり、着座者の身体状況によっては、上昇した座部に腰を降ろしたり立ったりすることさえ困難な場合がある。
【0005】
ところで、座椅子ではなく、座部が通常の高さを有する椅子には、座部を前傾させるための駆動機構を座部の下方空間に構成することにより、着座者の起立あるいは着座を補助するようにした座部の前傾機構を備えたものがあった。
【0006】
しかしながら、座椅子には座部の下方に前傾機構を構成するための空間が存在しないため、この前傾機構を座部の下方以外の周辺部に設けると、座椅子全体が大掛かりな構成となって座椅子の設置スペース等に問題が生じる。
【0007】
また、座椅子を使用する場合、座卓に接近して着座するのが通常であるが、座椅子から立ち上がる場合には、座卓との間に空間が必要となる。このために、座卓を移動することは通常困難であるから、座椅子を後方に移動して、座卓との間に空間を作ることが必要となる。
【0008】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、上記の事情に鑑みて成されたもので、簡単かつ省スペースの機構により、座椅子を昇降可能にすると共に昇降した座椅子を前傾することにより、着座者の起立または着座動作を楽に行うようにした起立補助型座椅子を提供することを目的とする。
【0009】
また、本考案は、座椅子に着座した者が起立する際に、座卓との間に空間を作って起立を容易に行うと共に、着座する際には、着座と同時に座卓に接近するようにした起立補助型座椅子を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本考案の起立補助型座椅子は、座椅子における左右の肘掛の両側に同構成のリンク機構を設けて夫々のリンク機構を床に設置した支持部材に支承して成り、前記リンク機構は、前記支持部材の左右両側に固設された支承部材に回動自在且つ互いに噛合状態に設けられた前後一対のギアの夫々の中心位置に下端部を固設して上方に拡開された前後一対の下方リンクと、夫々の下方リンクの上端に回動自在に連結されると共に互いに回動自在且つ交差状に連結された前後一対の上方リンクとから成り、該上方リンクの前方上端を前記肘掛の前部に回動自在に支承する一方、前記肘掛の側面に固設された案内板の水平溝から連続的に下り勾配を成す傾斜溝を形成した案内溝に沿って前記上方リンクの後方上端に回動自在に設けられたプーリを従動自在に係合し、前記リンク機構の前後の上方リンクと下方リンクの連結部材に設けられた雌ネジに螺合したネジ棒の後端をモータ駆動によって回動することにより、前記左右のリンク機構を上下方向に伸縮することによって前記プーリが前記案内板の平行溝に従動するに従って前記座椅子を一定高さまで平行に上昇し、前記プーリが前記案内板の傾斜溝に従動するに伴って前記座椅子が前傾するようにしたことを特徴とするものである。
【0011】
また、前記支持部材に敷設して該支持部材を前後方向に移動自在にしたガイドレールを設けると共に、前記リンク機構の上方リンクと下方リンクの連結部に係合した縦長の案内孔を有するガイド部材を前記ガイドレールの所定箇所に固定して立設することにより、前記リンク機構の上下方向への伸縮に伴って前記座椅子を前後移動するようにしてもよい。
【0012】
さらに、前記背部に支承された連結棒の両端を前記両側の肘掛に回動自在に支承する共に、前記背部に固設したモータの回転駆動を前記連結棒に伝達することにより、前記背部がリクライニング動作を行うようにしてもよい。
【0013】
【考案の実施の形態】
以下、本考案の実施例について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、前後または左右の関係は座椅子に着座した着座者から見た位置関係によって規定されるものである。
【0014】
図1に示すように、本考案の起立補助型座椅子は、座椅子1における座部2の両側に固設した肘掛3、3の両側に同構成のリンク機構4、4を設けて夫々のリンク機構4、4を床に設置した支持部材5、5に支承して成るものである。
【0015】
なお、本実施例の各図において、座部2は肘掛3、3を成すフレーム3a、3aに複数のパイプを平行に固設した構成としてあるが、板状の部材で構成してもよい。
【0016】
左右両側の支持部材5、5は、左右両側の肘掛3、3のフレーム3a、3aの外側と略同様の離間幅を有して互いに横部材6によって連結された状態で床に設置され、これらの左右両側の支持部材5、5には左右同位置に支承部材7、7が固設されている。
【0017】
以下、夫々のリンク機構4、4は左右同様に構成されているため、片側のリンク機構4について説明する。
【0018】
図1に示すように、上記の支承部材7には回動自在且つ互いに噛合状態に前後一対のギア8a、8bが夫々の中心位置に設けられたネジ8cによって支承されている。なお、これらのギア8a、8bは扇形を成して形成されているが、これは両方のギア8a、8bの噛合関係が所定の円弧幅で済むからであり、円形のギアを使用してもよい。
【0019】
また、両方のギア8a、8bの夫々のネジ8c、8cには前後一対の下方リンク10a、10bの下端部が固設され、これらの下方リンク10a、10bは上方に拡開され、両方のギア8a、8bが噛合していることにより、後述するネジ棒19の回動に従って前後の下方リンク10a、10bが開いたり閉じたりする動作を前後均等な角度で行うようにしている。
【0020】
さらに、夫々の下方リンク10a、10bの上端には前後一対の上方リンク11a、11bが連結部材12、13を介して回動自在に連結されると共に、これらの上方リンク11a、11bは互いに略中央位置で支承軸14によって回動自在且つ交差状に連結されている。
【0021】
このような上方リンク11bの前方上端を肘掛3の前部に固設された支持片15にネジ15aで回動自在に支承する一方、上方リンク11aの後方上端にはプーリ16がネジ16aで回動自在に設けられている。
【0022】
一方、肘掛3の側面に沿って案内板17が固設され、この案内板17に形成された案内溝18は、上方に水平溝18aが形成されると共に、該水平溝18aから前方に向けて連続的に下り勾配を成した傾斜溝18bが形成されている。また、傾斜溝18bの下端に連続して水平状の溝18cが形成されている。
【0023】
このような案内板17の案内溝18に沿って上方リンク11aの上端に回動自在に設けられたプーリ16が従動自在に係合され、プーリ16は案内溝18の形状に案内されながら移動可能とされている。
【0024】
また、前方の下方リンク10aと上方リンク11aとの連結部12には雌ネジ部材12bが回動自在に設けられる一方、後方の下方リンク10bと上方リンク11aの連結部材13には雌ネジ部材13bが回動自在に設けられ、これらの前後の雌ネジ部材12b、13bには略中央を境にして右ネジ19aと左ネジ19bとが同様のピッチで形成された長尺のネジ棒19が螺合され、ネジ棒19の前端にはナット12aが締結されている。
【0025】
さらに、図2に示すように、左右のネジ棒19、19の後端には夫々のネジ棒19、19を回動自在に支承した連結梁20が設けられ、この連結梁20からのネジ棒19、19の突出部にはギア21、21が固定されている。また連結梁20の途中にはモータ22が減速機22aを介して固設され、モータ22の回転軸にチェーン23を介して左右のギア21、21が連結されたことにより、モータ22の回転駆動によって夫々のネジ棒19、19を回転することができる。
【0026】
なお、図2において、連結梁20に対する取付位置を自在に固定したギア24を介してチェーン23を張設することにより、チェーン23の張り具合を調節自在にしている。また、連結梁20に対する取付位置を自在に固定した他のギア25を介してチェーン23を折返し状態に噛合することにより、不図示のモータ回転軸に固設されたギアに対するチェーン23の噛合数を多くとってチェーン23の脱落を防止するようにしている。
【0027】
上記の構成により、モータ22を回転すると、左右のネジ棒19、19が所定方向に回転して、図3のように座部2が床付近の最底位置に接近した状態から、図4に示すように、夫々のネジ棒19、19の右ネジ19aと左ネジ19bのネジ山の進む方向に雌ネジ部材12b、13bが互いに接近する方向に移動することにより、下方リンク10a、10bと上方リンク11a、11bとを立上り方向に移動する。このような動作において、夫々のネジ棒19、19は水平位置を変動することがなく、前後の連結部材12、13から夫々のネジ棒19、19のネジ山を均等に露出する。
【0028】
また、前後の下方リンク10a、10bの夫々の下端に結合された前後のギア8a、8bが互いに噛合していることにより、前後の下方リンク10a、10bが立上り方向に均等に移動される。
【0029】
さらに、下方リンク10aに回動自在に連結された上方リンク11aが立上り方向に移動するに従い、図4に示すように、上方リンク11aと肘掛3との連結位置(ネジ15aの位置)を上方に押し上げると共に、上方リンク11bの上端に設けられたプーリ16が案内板17の水平溝18aに従動してその係合位置を前方へと移動する。そして、このようにリンク機構4が上方へ伸長するに従って座椅子1は上昇する。
【0030】
さらに、モータ22を同方向に駆動すると、図5に示すように、上記のリンク機構4を上方へ伸長すると共に、上方リンク11bのプーリ16が案内板17の傾斜溝18bに従動して座椅子1を前傾する。
【0031】
なお、傾斜溝18bの下端にも水平状の溝18cが形成されているため、上方リンク11aのプーリ16が水平状の溝18cに係合されたときの座椅子1の勾配を大きくすることができる。
【0032】
このような移動において、図3のように座部2が床付近の最底位置に近接した状態にて着座者が座椅子1に座った状態からモータ22を駆動すると、図4のように着座者は水平状態を保った座部2に着座した状態で座り位置を上昇して膝を略伸ばした姿勢となり、さらにモータ22を駆動することにより、図5のように座椅子1が前傾することにより、腰部を膝の上に伸ばして立上り姿勢をとることができる。
【0033】
また、座椅子1が図5の状態にあるとき、着座者は膝を略伸ばした状態で座部2に腰を掛けることができ、この状態でモータ22を逆回転すると、座椅子1は図4に示す平行状態に移動し、図3に示すように座部2を床に接近させて、通常の座椅子に座った状態となる。
【0034】
また、本考案においては、上記の座椅子1の昇降に従ってこの座椅子1を前後移動するようにした機構を設けるようにしてもよい。即ち、図6に示すように、支持部材5、5の両側に敷設して該支持部材5、5を前後方向に移動自在にしたガイドレール30、30(夫々のガイドレール30には複数のローラ30aが内蔵されている)を設けると共に、下方リンク10bと上方リンク11bとの連結部13の垂直下方位置における左右のガイドレール30、30に縦長の案内孔31を有するガイド部材32、32をネジ32a、32aで固設し、夫々のガイド部材32の案内孔31に下方リンク10bと上方リンク11bとの連結部13を係合することにより、下方リンク10bと上方リンク11bとの連結部13をガイド部材32、32の案内孔31に沿って定位置で上下動することができる。
【0035】
このような構成により、図6において二点鎖線で示す座椅子1の最下方位置からモータ22を駆動してリンク機構4、4を上方に伸長すると、座椅子1の高さHが高くなるに従って座椅子1が距離Dだけ後方へ移動するため、座椅子1の上昇によってこの座椅子1を後方へ移動することができる。
【0036】
また、これとは逆に、モータ22を逆回転してリンク機構4、4を下方へ縮小すると、座椅子1の下降によって座椅子1を前方へ移動することができる。
【0037】
従って、不図示の座卓に向かって本考案の座椅子1に着座した者は、座椅子1を上方へ伸長したとき、座卓の手前に空間をあけて立ち上がることができる。
【0038】
さらに、本考案においては、図2に示すように、背部35の両側に固設された軸受36b、36bに回動自在に支承された連結棒36の両端を両側の肘掛3、3の後部に固設された軸受36a、36aに回動自在に支承する共に、背部35にブラケット39を介して固設したモータ37の回転駆動を不図示のウォームに噛合するホイールギア38等によって連結棒36に伝達することにより、背部35がリクライニング動作を行うようにしている。
【0039】
なお、上記の構成において、図1等に示すように、肘掛3、座部2、背部35等にはクッション等を省略しているが、完成品においては、肘掛3、座部2、背部35等に適当なクッションを設けて使用の便宜を図るものであり、さらに上記の機構を覆うカバーを適宜設けるものである。
【0040】
【考案の効果】
以上説明したように、本考案の起立補助型座椅子によれば、座椅子を上昇及び前傾するためのリンク機構は肘掛の側部に設けられ、リンク機構を駆動するモータも背部の下方に設けることができるため、極めて省スペースに構成でき、また座部の下部には駆動機構等の部材を設ける必要がないため、座部を床近くに接近させて通常の座椅子としての使用が可能となる。
【0041】
このような本考案の座椅子によって、着座者は、座椅子に腰を下ろしたままの姿勢で座椅子を上昇してから所定高さで座椅子を前傾させることができるため、膝に無理な力を入れることなく立ち姿勢に近い状態で立ち上がることができ、座椅子に座るときも、立ち姿勢に近い状態で座椅子に腰を下ろした後に通常の座椅子と同様の低位置まで座椅子を下降することができるため、着座者の起立または着座動作を極めて楽に行うことが可能となる。
【0042】
また、本考案において、座椅子の昇降移動に従って座椅子を前後移動する機構を設けることにより、座椅子に着座した者が起立する際に、座卓との間に空間を作って起立を容易に行うと共に、着座する際には、着座と同時に座卓に接近することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案による起立補助型座椅子の全体斜視図である。
【図2】本考案による起立補助型座椅子の後方に設けられた駆動部の斜視図である。
【図3】本考案による起立補助型座椅子の座部が最も低い位置になるように短縮したリンク機構を示す側面図である。
【図4】本考案による起立補助型座椅子の座部が水平状態を保つ最高位置まで伸長したリンク機構を示す側面図である。
【図5】本考案による起立補助型座椅子の座部が前傾したリンク機構を示す側面図である。
【図6】本考案による起立補助型座椅子の前後移動を説明するための部分側面図である。
【符合の説明】
1…座椅子
2…座部
3…肘掛
4…リンク機構
5…支持部材
7…支承部材
8a、8b…ギア
10a、10b…下方リンク
11a、11b…上方リンク
12、13…連結部材
12a、13a…雌ネジ部材
17…案内板
18a…水平溝
18b…傾斜溝
18…案内溝
16…プーリ
19…ネジ棒
22…モータ
30…ガイドレール
31…縦溝
32…ガイド部材
35…背部
36…連結棒
37…モータ

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】座椅子における左右の肘掛の両側に同構成のリンク機構を設けて夫々のリンク機構を床に設置した支持部材に支承して成り、前記リンク機構は、前記支持部材の左右両側に固設された支承部材に回動自在且つ互いに噛合状態に設けられた前後一対のギアの夫々の中心位置に下端部を固設して上方に拡開された前後一対の下方リンクと、夫々の下方リンクの上端に回動自在に連結されると共に互いに回動自在且つ交差状に連結された前後一対の上方リンクとから成り、該上方リンクの前方上端を前記肘掛の前部に回動自在に支承する一方、前記肘掛の側面に固設された案内板の水平溝から連続的に下り勾配を成す傾斜溝を形成した案内溝に沿って前記上方リンクの後方上端に回動自在に設けられたプーリを従動自在に係合し、前記リンク機構の前後の上方リンクと下方リンクの連結部材に設けられた雌ネジに螺合したネジ棒の後端をモータ駆動によって回動することにより、前記左右のリンク機構を上下方向に伸縮することによって前記プーリが前記案内板の平行溝に従動するに従って前記座椅子を一定高さまで平行に上昇し、前記プーリが前記案内板の傾斜溝に従動するに伴って前記座椅子が前傾するようにしたことを特徴とする起立補助型座椅子。
【請求項2】前記支持部材に敷設して該支持部材を前後方向に移動自在にしたガイドレールを設けると共に、前記リンク機構の上方リンクと下方リンクの連結部に係合した縦長の案内孔を有するガイド部材を前記ガイドレールの所定箇所に固定して立設することにより、前記リンク機構の上下方向への伸縮に伴って前記座椅子を前後移動するようにしたことを特徴とする請求項1記載の起立補助型座椅子。
【請求項3】前記背部に支承された連結棒の両端を前記両側の肘掛に回動自在に支承する共に、前記背部に固設したモータの回転駆動を前記連結棒に伝達することにより、前記背部がリクライニング動作を行うようにしたことを特徴とする請求項1記載の起立補助型座椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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