説明

超伝導性薄膜ストリップ導体のための金属基体

【課題】
高度に組織化された緩衝層を持つ化学的方法で生成されたHTSL−CC及びそれのための原料としての金属基体の提供。
【解決手段】
この課題は、金属基体、その上に化学的に生成された、金属基体との関係で結晶学的に回転しないで成長した緩衝層及びその上に化学的に生成された超伝導性被覆よりなる、高温超伝導性薄膜ストリップ導体(HTSL-CC)のための原料として二軸組織化された金属基体を加工する方法において、金属基体の超格子を緩衝層を生成する前に除くことを特徴とする、上記方法によって解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超伝導性薄膜ストリップ導体及び特にそれの金属基体に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超伝導性薄膜ストリップ導体、略して“被覆された導体(Coated Conductors)”――以下、HTSL-CCとも言う――は、従来技術によれば組織化された金属ストリップから出発して製造される。このストリップ(以下、金属基体とも称する)は好ましくは面心立方結晶する金属(例えば、Ni、Cu、Au)よりなる。特にニッケルが適しており、なかでもタングステンを僅かの原子%含有するニッケルが適する(ドイツ特許第10143680 C1号明細書参照)。この組織化された金属基体は、該金属基体の構造が後で公知のように生成される超伝導層に転写する目的のために使用される緩衝層を用いて被覆される。金属基体並びに結晶性高温超電導性薄膜の両方に対しての格子不整合が僅かである材料がこの緩衝層に特に適する。金属基体上で45%だけ回転して成長する材料、例えばジルコン酸ランタニウム、及びフッ化物構造又はパイロクロライド構造を持つ他の材料の上に45°だけ回転して成長する材料並びに回転せずに成長しそしてしばしばペロブスカイト構造を有する材料、例えばチタン酸ストロンチウム及びチタン酸カルシウム、又はスピネル構造を有する材料、例えばルテニウム酸ストロンチウム及びニッケル酸ネオジムが使用される。
【0003】
“微細合金化されたニッケル基体テープにおける立方晶構造形成への硫黄の影響(Effect of sulphur on cube texture formation in micro-alloyed nickel substrate tapes)”、(J. Eickemeyer et al.), Physica C 418 (2005) 9-15、“Ni及び他の技術的に興味の持てる金属基体上での酸化物シード層の成長:構造最適化のための硫黄超格子の生成及び制御に関する問題(Growth of oxide seed layers on Ni and other technologically interesting metal substrates: issues related to formation and control of Sulfur superstructures for texture optimization)”、(C. Cantoni et al.), IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol 13, No. 2, 2003 及び他の刊行物から、通常、既に金属基体の不純物から形成されるカルコゲニド超格子、特に硫黄超格子が、物理的な方法によって、特に高真空状態で金属基体に蒸着することによって析出する緩衝層のエピタクシー成長を促すことが知られている。それ故に従来技術においては、できるだけ一様な超格子を高い被覆率で再現性をもって生成させることを目標としている。しかしながら緩衝層の物理的析出は、多大な費用の掛かる方法である。それ故にこの方法はHTSL−CC又はそれの支持基体だけの製造に適していない。
【0004】
同様に化学的被覆法(CSD/MOD)によるHTSL−CCの製造も知られており、非常に費用が掛かる(“Ni基体の上に<100>配向したSrTiO3緩衝層の化学的固溶体溶着(Chemical solutiondeposition of <100> orientatedSrTiO3 buffer layers on Ni substrates)”; J.T. Dawley et al.; J. Mater. Res., Vol. 17, No.7, 2002参照)。良好な結果は、その上でジルコン酸ランタニウムを成長させる硫黄超格子を持つNi−基体で達成された(“化学固溶体溶着によって製造されたYBCO被覆された導体用の、LaZr緩衝層についての詳細な研究(Detailed investigations on La2Zr207buffer layers for YBCO coated conductors prepared by chemical solution deposition” (K. Knoth 等)、 Acta Materialica55、2007、第517-529頁参照)。
【0005】
しかしながら匹敵する結果は、ジルコン酸ランタニウムのように45°回転して成長するのでなく、回転せずに成長する材料、例えばチタン酸ストロンチウム等では、少ない表面粗さの金属基体を自体公知のように使用した場合には達成されていない。適用されたチタン酸ストロンチウム層は組織化されていないか又は僅かにしか組織化されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高度に組織化された緩衝層を持つ化学的方法で生成されたHTSL−CC及びそれのための原料としての金属基体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は本発明に従って、超格子を緩衝層の適用前に金属基体の表面から除く請求項1に記載の方法によって達成される。
【0008】
すなわち、驚くべきことに物理的方法を用いて生成される緩衝層及び化学的方法によって生成される、フッ化物構造又はパイロクロライド構造を持つ緩衝層の場合に必要とされる超格子、特にカルコゲニド超格子、なかでも硫黄超格子がペロブスカイト構造又はスピネル構造を持つ材料のような回転せずに成長する材料を用いて化学的に被覆した場合に良好な組織の形成が反対に回避されることを見出した。
【0009】
この結果は超格子を除去する方法(機械的研磨、電気的研磨、ピーニング物体、例えばドライアイス粒子を用いたピーニング、又は弱濃硝酸を用いた選択的エッチング)又は化学的被覆技術の方法、すなわちスピンコーティング、ディプコーティング又はプリンティング法(スロット・ダイ・キャスト法、インクジェット印刷)の両方の種類に無関係でありそして後続の方法段階のパラメータ、例えばアニーリング温度、雰囲気及び保持時間にも無関係である。
【0010】
最良の結果は、基体を超格子を除く過程で10nmより少ない表面粗さに研磨する場合に得られる。
【0011】
緩衝層のためには、格子定数が金属基体の格子定数から±15より少なく、好ましくは±10より少なくしかずれていない金属を用いるのが有利である。
【0012】
更に本発明は、請求項9に記載の特徴事項を有する二軸組織化された金属基体の用途にも関する。
【0013】
緩衝層は、その格子定数が金属基体の格子定数から±15%より少なく、好ましくは±10%より少なくしかずれていない金属よりなるのが特に有利である。しかしながら格子定数が金属基体のそれから−5%〜+15%の範囲内でずれている材料も考慮される。
【0014】
従って本発明は、請求項11の特徴事項を有する高温超伝導性薄膜ストリップ導体を提供する。
【0015】
金属基体としてはニッケル又は85原子%、好ましくは90原子%のニッケルを含有するニッケル合金であるのが特に適している。この場合には緩衝層材料としてなかでもチタン酸塩、ルテニウム酸塩、マンガン酸塩、ニッケル酸塩及び銅酸塩、例えばCaTiO、LaNiO、SrRuO、NdBaCu、GdCuO、SrTiO、NdCuO、BaTiO、(CaSr1−x)TiO及び(SrBa1−x)TiOが適している。
【0016】
実施例:
evico社の2種類の異なるNi(5原子%のW含有)金属基体を使用した(ストリップ幅10mm、ストリップ厚さ80μm)。これらの両方の金属基体は、5.5°の半値幅(FWHM)を有する立方晶構造(001)を有している。
【0017】
両方の基体を同じ圧延成形に付し、次いで浴アニーリング法で再結晶化処理した。浴アニーリング法でゆっくり冷やすことによって両方の基体の上に硫黄超格子を生じさせた。
【0018】
両方の金属基体の表面粗さはAFM顕微鏡によって次の通り測定された:
基体1:RMS = 40nm
基体2:RMS = 5nm
基体1の一部を機械的に研磨した。この研磨は0.1μmのダイヤモンド懸濁物を用いて研磨台(Struers社製)の上で行った。基体の表面粗さをこの研磨によってRMS=5nmに低減させることができた。この研磨によって、付着する全ての表面層、すなわち硫黄超格子も除かれた。アニーリング処理を被覆前には未だ行っていないので、この構造は再生できなかった。
【0019】
基体1(研磨されている):RMS = 5nm
全ての基体を超音波浴中で最初にアセトンを用いてそして次にイソプパノールを用いてそれぞれ5分間清浄化した。
【0020】
以下の基体を後続の実験のために使用することができた:
基体1:RMS = 40nm;硫黄超格子
基体2:RMS = 5nm;硫黄超格子
基体3:RMS = 5nm;硫黄超格子なし(すなわち、研磨していない基体1)
三種類の被覆用溶液を製造した:
溶液1:純粋のチタン酸ストロンチウム(STO)
溶液2:NbでドープしたSTO(電導性)
溶液3:CdでドープしたSTO(Ni基体に対してより良好な格子適合性あり)
溶液1の為に、0.15モルのTi(OCHCHCHCHをアセチルアセトン中に1:2のモル比で溶解した。次いで0.15モルの酢酸ストロンチウムを氷酢酸中に1:5のモル比で溶解した。両方の溶液を一緒にしそして表酢酸とメトキシエタノールとの混合物で希釈して500mLとする。その際に氷酢酸とメトキシエタノールとの総量比は1:2である。この溶液を次に濾過して、場合によって生じる沈殿物を除いた。ICP−OES分析(SPECTRO Genesis社)で化学量論的に0.3モル溶液が得られた。
【0021】
溶液2の為に、0.1425モルのTi(OCHCHCHCHをアセチルアセトン中に1:2のモル比で溶解しそしてブタノールに溶解した0.0075モルのNb(OCHCHと混合した。他の全ての段階は溶液1についてと同様に実施し、5%のNbドープ含有量の0.3モルの被覆用溶液を得た。
【0022】
溶液3を溶液1と同様に製造したが、0.15モルの酢酸ストロンチウムの代わりに0.135モルの酢酸ストロンチウムと0.015モルの酢酸カルシウムとの混合物を使用した。Ca置換されたチタン酸ストロンチウムの0.3モル被覆溶液を得た。
【0023】
清浄化した全ての基体を全ての溶液を用いて以下の通りに被覆した:
5cmの長さの清浄化した基体に、スピンコーター上で500回転/分にて最初に6倍希釈した被覆溶液を用いて被覆する。この希釈は氷酢酸とメトキシエタノールとの2:1混合物を用いて行った。次に10%H含有Nの雰囲気で5分間800℃の温度で熱処理を行った。溶液の希釈によって第一の被覆段階でいわゆるシード層(すなわち、非凝集層:20〜80%の被覆率)が生じる。該シード層の小島は後続の層のための結晶核として役立つ。
【0024】
同じ条件のもとで2種類の他の被覆及び温度処理を行ったが、未希釈の溶液を使用した。得られる全体層厚は3回の被覆処理の後にそれぞれ250nmであった。この層厚は層辺縁部について側面計測器を用いて測定した。
【0025】
750〜900℃の間のアニーリング温度並びに5〜15%の間のH含有量のNのアニーリング雰囲気の範囲内で変更する実験で、実験結果に顕著な影響を及ぼさないことがわかった。浸漬被覆装置(デップコーティング)を用いる場合、全ての溶液は同じ結果を達成するために10m/時の被覆速度で2倍の程度まで希釈しなければならない。早い浸漬速度はより低い希釈度を必要とする。
【0026】
3つの基体について溶液1(STO)では以下の結果が観察された:
構造の目安として200(32℃)〜110(47℃)反射の比Iを使用した。約5の値から良好な組織ということができる。
【0027】
【表1】

【0028】
結果:
基体3の場合の硫黄超格子の除去は、基体2と同じ表面粗さにおいて緩衝層の構造を3倍ほどまで改善した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体、その上に化学的に生成された、金属基体との関係で結晶学的に回転しないで成長した緩衝層及びその上に化学的に生成された超伝導性被覆よりなる、高温超伝導性薄膜ストリップ導体(HTSL-CC)のための原料として二軸組織化された金属基体を加工する方法において、金属基体の超格子を、緩衝層を生成する前に除くことを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
カルコゲニド超格子を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属基体が、<50nm、好ましくは<20nmで、特に好ましくは<10nmの表面粗さRMSに加工される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
超格子が研磨によって除かれる請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
緩衝層のために、格子定数が金属基体の格子定数から±15%より少なく、好ましくは±10%より少なくしかずれていない材料を用いる、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
金属基体を超格子の除去後に清浄化する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
金属基体を超音波浴中で清浄化する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
金属基体を脱脂する、特にアセトン及びイソプロパノールを用いて脱脂する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
金属基体、その上に化学的に生成された、金属基体との関係で結晶学的に回転しないで成長した緩衝層及びその上に化学的に生成された超伝導性被覆よりなる、高温超伝導性薄膜ストリップ導体(HTSL-CC)のための原料としての、超格子を有さず、かつ、<50nm、殊に<20nm,特に<10の表面粗さRMSを有する二軸組織化された金属基体の用途。
【請求項10】
緩衝層が、格子定数が金属基体の格子定数から±15%より少なく、好ましくは±10%より少なくしかずれていない材料よりなる、請求項9に記載の金属基体の用途。
【請求項11】
金属基体、その上に化学的に生成された緩衝層及びその上に化学的に生成された超伝導性被覆よりなる高温超伝導性薄膜ストリップ導体(HTSL-CC)において、金属基体が<50nm、好ましくは<20nmで、特に好ましくは<10nmの表面粗さRMSを有しそして緩衝層が、金属基体の表面上に中間層なしに直接的に、金属基体の結晶構造に対して回転しないで成長していることを特徴とする、上記高温超伝導性薄膜ストリップ導体(HTSL-CC)。
【請求項12】
少なくとも85原子%、好ましくは90原子%のニッケルを含有する、請求項1に記載の金属基体。

【公開番号】特開2008−293976(P2008−293976A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135080(P2008−135080)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(507037068)ゼナジー・パワー・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (10)
【Fターム(参考)】