説明

超伝導電磁石システム用導電性シールド

【課題】MRIイメージングに使用される超伝導マグネットシステムのマグネットコイルと極低温に冷却される構造への、時変磁界の伝播を減らす。
【解決手段】イメージング領域に静磁界を提供する極低温に冷却されるマグネットコイル(10)と、イメージング領域に振動磁界を提供するように構成された勾配コイル組立体(32)と、前記マグネットコイルと勾配コイル組立体との間に配置された導電性シールド(34)とを備え、マグネットコイルは外側真空チャンバー(OVC)(20)内に配置され、導電性シールドはOVCの外側の、OVCの表面と勾配コイル組立体との間に配置される、超伝導電磁石システムであって、導電性シールドは、導電性シールドと勾配コイル組立体(32)の間、ならびに導電性シールドとOVCボアチューブ(20)の間の弾性制動マウント(36)上に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温に冷却される超伝導マグネットおよび能動的勾配磁気コイルを利用した磁気共鳴イメージング(MRI)システムに関する。特に、本発明は超伝導マグネットが極低温冷凍機を用いた伝導冷却によって冷却される、または、冷却ループシステムまたはその他の極低温の寒剤容量を用いた冷却システムが使用されるMRIシステムに関する。しかし、本発明は、極低温冷媒浴への部分的な浸漬によって冷却される超伝導マグネットにも好適に利用できる。
【背景技術】
【0002】
図1は、本発明の適用対象となるMRIシステムの円筒形超伝導マグネットの構成要素に亘る軸方向部分断面模式図である。図示された構造は本質的に軸A−Aの周りで軸対象である。環状超伝導コイル10は皮層14を介して冷却ループパイプ12に熱的に接触して取り付けられている。各冷却ループパイプ12は、液体および/または気体の極低温冷媒を、極低温冷凍機へと循環式で運ぶように配設された穴16を有し、これにより、コイル10をその超伝導転移温度より低い動作温度に維持する。この例では循環する極低温冷媒はヘリウムである。マグネットを支持するために機械的保持構造18が配設されている。図のように、この保持構造も一般には冷却ループパイプによって冷却される。超伝導マグネットおよびその他の被冷却構成要素は、外側真空チャンバー(OVC)20内に封入され、それは図では部分的にのみ示されている。OVCと熱輻射シールドは、図示しない関連構成要素とともに、マグネットを極低温に保持するクライオスタットを構成する。
【0003】
OVCは周囲温度にあり、OVCからの熱輻射がマグネットに達する前に遮断するために、マグネットとOVCの間に、1つまたは複数の熱輻射シールド22,24が設けられる。図示の例では、2つの熱輻射シールドが配設されている。外側の熱輻射シールド24は例えば約77Kの温度まで冷却される。これは、液体窒素を犠牲的に沸騰させるか、または、冷凍機を稼動することによって達成される。一般には約300Kの温度でのOVCからの熱輻射は,この外側熱輻射シールドによって遮断されて、外側熱輻射シールドの冷却によってシステムから取り除かれる。内側の熱輻射シールド22は、冷却ループチューブ12によって約4Kまで冷却される。これは、図示の例では、シールド支持構造26および機械的保持構造18を介した内側熱輻射シールドからの熱伝導によって達成される。
【0004】
マグネット自体が円筒形であるため、A−A軸に整列した円筒形ボア30は、マグネットシステムに亘って延在し、撮像される患者へのアクセスを可能にしている。一般に、イメージング領域はボアの軸方向中間点に存在し、本質的に球状であって直径が約40〜50cmである。
【0005】
OVC20のボア内に勾配コイル組立体32が配置されている。周知の如くそのような勾配コイル組立体はMRI画像を形成するときに必要とされ、イメージング領域に直角方向に振動磁界を提供する。これらの振動磁界は一般に1Hz〜4kHzの周波数で動作する。
【0006】
稼働時、勾配コイル組立体の振動磁界がイメージング領域まで延長するだけでなく、勾配コイル組立体からの浮遊磁界がOVCまで達する。
【0007】
勾配コイル32の時変浮遊磁界は両方の熱輻射シールド22,24、ならびにマグネットシステムの超伝導コイル10に対し顕著なオーム加熱作用を誘導する。
【0008】
一般に、勾配コイル組立体からの時変浮遊磁界は、クライオスタットの金属部品、特に、OCV20の金属ボアチューブおよび熱シールド22,24に渦電流を直接間接に誘導する。OVCの構造は、金属製であれば、超伝導コイルおよび熱輻射シールド22,24に対し、勾配コイル組立体32からの浮遊磁界からの遮蔽をもたらす。しかし、マグネットコイル10から生じる背景静磁界のため、勾配コイルからの時変磁界によってOVC本体に誘導される渦電流がローレンツ力を生じさせてOVCの機械的振動をもたらす。マグネットコイル10の静磁界内に発生するこれらの振動は、次にOVC本体内に渦電流を発生させ、さらに二次的な浮遊磁界を生成する。これらの二次的な浮遊磁界は、勾配コイルによって生成する初期浮遊磁界よりもずっと大きくなり得る。OVCの機械的振動は、OVCボアチューブの共鳴振動モードが励起された場合に特に大きくなる。同様に、第3またはそれ以上の浮遊磁界が生成されて、熱輻射シールド22,24を有効に通過し超伝導コイルと直接相互作用する可能性もある。
【0009】
OVC20のボアチューブと熱シールド22,24の共鳴振動モードと周波数が近似していれば、現在のマグネットシステムにおいて一般的であるように、ボアチューブは一連の緊密に結合した振動器として動作し、共鳴バンドが発生する。上記の如く機械的に振動する伝導面から誘導された時変磁界から超伝導マグネットコイルに誘導された渦電流は、冷却システムに熱負荷を構成する。この過剰な熱負荷はコイルの温度上昇をもたらす可能性があり、それは超伝導コイルのクエンチにつながる可能性がある。極低温冷媒への部分的な浸漬によって冷却されるマグネットの場合であっても、熱負荷は極低温冷媒の消費増加および/または、極低温冷凍機の消費電力増加をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、MRIイメージングに使用される超伝導マグネットシステムのマグネットコイル10と極低温に冷却される構造18,26,22への、時変磁界のそのような伝播を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、マグネットのボア内に付加的な導電性シールドを配設して、それによりシステムの他の部分における電力消散を低減することにより、この問題に対処する。
【0012】
米国特許第7,514,928号明細書および米国特許第6,707,302号明細書では、金属チューブでの勾配誘導加熱作用の低減方法について記載しているが、そのようなチューブを拘束または部分的に拘束することの利点や他の観点について詳述していない。
【発明の効果】
【0013】
この目的で付加的なシールドを配設することは過去に試みられてきたが、そのような付加的なチューブはOVCおよび熱輻射シールドに機械的に堅固に取り付けられてきた。本発明は、特許請求の範囲に規定するように、チューブが拘束されないことを確実にすることによって、勾配コイルおよびOVCから機械的に連結解除される導電シールドチューブを提供する。
【0014】
本発明の上述の、またさらなる目的、特徴および利点は、付随する図面と併せて非制限的な例として挙げられる本発明の実施形態の、以下の記述からより明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の適用対象となるMRIシステム内の円筒形超伝導マグネットの構成要素に亘る軸方向部分断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態により改良された、図1のMRIシステムの軸方向部分断面模式図である。
【図3】図2の部分IIIの拡大図である。
【図4】z勾配コイルの励起による励起周波数の関数としての、極低温に冷却される構成要素における熱消散の例を示す図である。
【図5】マグネットコイル10における消散電力をエコープラナーイメージング(EPI)信号で正規化した実験データを示す図である。
【図6】本発明の異なる実施形態により改良された、図1のMRIシステムの軸方向部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、内側熱シールド22および超伝導コイル10における総消散電力は、比較的高伝導性の金属チューブを組み込むことによって減少する。このチューブは、例えば剛性の機械的マウントよりは弾性のマウント上に取り付けることによって、機械的にある程度自由に振動する。
【0017】
本発明による、図2に示す実施形態では、この場合は円筒形チューブの形状である導電性シールド34はマグネットコイル10と勾配コイル組立体32との間に配設されている。図示の例では、導電性シールド34は勾配コイル組立体32とOVC20のボアチューブとの間に配置されている。下記に説明する他の実施形態では、本発明の導電性シールドは他の場所に配置されてよい。
【0018】
一つの好適な実施形態において導電性シールド34は銅製チューブである。他の導電性材料を用いてもよい。銅は、非常に高い導電性を持ち、機械的振動を制動する傾向にある高い密度を持つため、適切な材料である。銅製チューブは、OVCのボアチューブおよび熱輻射シールドに一般に用いられる材料であるアルミニウムまたはステンレス鋼から構築された同様寸法のチューブとはやや異なる機械的共鳴周波数を有する。このことが、本発明の導電性シールドの、OVCのボアチューブおよび熱輻射シールドに連結された共振器として働く傾向を低下させる。
【0019】
特に好適な実施形態において、導電性シールドは2mm以上の材料厚さを持つ銅製チューブである。
【0020】
本発明の一特徴によれば、導電性シールド34は機械的に堅固に取り付けられるというよりは定位置に弾性的に取り付けられる。図2の例に示すように、このことは、導電性シールド34とOVC20の間、ならびに導電性シールド34と勾配コイル32の間に、商標サイロマー(SYLOMER(登録商標))で販売され、A.プロクターグループ(A.Proctor Group Ltd.(www.proctorgroup.com))から入手できる発泡ポリウレタンエラストマー種目などの、柔軟材料および弾性材料製の挿入パッド36によって達成され得る。サイロマーの種目中、サイロマー(登録商標)ピンク(SYLOMER(登録商標)Pink)およびサイロマー(登録商標)LT(SYLOMER(登録商標)LT)が特に適切であろう。
【0021】
図3は、図2の部分IIIの拡大図を示す。
【0022】
弾性パッド36は、導電性シールド34に対する機械的に弾性の制動取付構造を提供する。
【0023】
この図示された実施形態において、導電性シールド34は、弾性パッド36を介してOVC20および勾配コイル組立体32と接触するだけであって、機械的に拘束されていないと考えられる。従来型の拘束された構成の場合、導電性シールド34はOVC20および/または勾配コイル組立体32に粘着剤または樹脂で堅固に機械的に定位置に固定されている。
【0024】
本発明の一特徴によれば、ボアチューブ内の導電性シールド34は、少なくとも、OVCボアチューブ24に機械的には弱く結合されているという意味で、拘束されていない。したがって導電性シールドは、勾配コイル組立体32およびOVC20に対して一定範囲の比較的自由な動きを有する。
【0025】
励起周波数の関数としての128Aピークピークの電流でのz勾配コイルの励起による、コイル10、内側熱シールド22のボアチューブ、シールド支持構造26および機械的保持構造18を含む、極低温に冷却される構成要素への熱消散を測定する実験が、様々な構成の導電性シールドに関して実行された。これらのシミュレーションの結果の重要な部分は図4に示されている。実験は図2に示すような構造を想定したものであるが、様々な寸法や密度の詳細に関しては、本発明に関係しないため本明細書では記述しない。導電性シールド34とその取付構造の配設以外は、マグネットシステムは従来型構造である。
【0026】
シミュレーションは、100〜5000Hzの周波数範囲にわたりz勾配励起に関して実行されたが、シミュレーション対象システムの極低温に冷却される部品の顕著な電力消散は、図示されている3000〜4800Hzの周波数範囲においてのみ発生した。シミュレーションは、典型的な臨床MRIスキャナの半分の直径を持つシステムに対して実行された。効果は、システムの直径に反比例する機械的共鳴周波数によって決定されるため、典型的な臨床MRIスキャナにおいては同様の効果がここで引用される周波数の半分で起こることとなる。
【0027】
図4に示すシミュレーションされた電力消散曲線は、以下の状況を表す:
41−銅なし−は、様々な構成の導電性シールドのシールド性の有効性の比較基準として、導電性シールドが配設されていない図1の構成のシミュレーションを表す;
42−銅が拘束されている−は、銅製の導電性シールド34がOVCボアチューブ24に機械的に結合されて配設されている、本発明によるものではない構成を表す;
43−銅が拘束されていない−は、あたかも重力ゼロ状態のように自由に動く銅製の導電性シールド34を示す。明らかにこれは理論上シミュレーションであるが、それは、どんな実際の構成でも導電性シールドが重力に抗して支持され、マグネットシステムのボア内の定位置に規制されることを要求し、それは必然的に導電性シールドの動きに対してある程度の拘束を包含するからである;
44−銅、800mmパッド 変形1−サイロマー(登録商標)ピンク(SYLOMER(登録商標)Pink)などの発泡パッドのような機械的に弾性の制動取付構造がOVCボアチューブ20と導電性シールド34との間に配設されて、導電性シールドを重力に抗して支持し、OVCのボア内の定位置に保持する、第1の構成を表す;
45−銅、800mmパッド 変形2−サイロマー(登録商標)ピンク(SYLOMER(登録商標)Pink)などの発泡パッドのような機械的に弾性の制動取付構造がOVCボアチューブ20と導電性シールド34との間に配設されて、導電性シールドを重力に抗して支持し、OVCのボア内の定位置に保持する、第2の構成を表す。
【0028】
第1の構成44と第2の構成45は、使用されるパッドの制動定数が異なる。
【0029】
図4から明白にわかるように、曲線42で表される従来型の拘束型導電性シールドでさえ、41で示される非シールドの場合に比べて、極低温に冷却される構成要素の消散電力のかなりの減少をもたらしている。
【0030】
しかし、極低温に冷却される構成要素の消散電力に関するさらに大きな減少が、図4の曲線43で表される非拘束の導電性シールドによってもたらされる。上述のように、真に非拘束の導電性シールドを配設するということは実用的展望ではない。
【0031】
本発明の実現可能な実際の実施の例は、弾性制動取付構造の諸例によって保持される導電性シールドを表す曲線44および45によって示される。驚くべきことに、極低温に冷却される構成要素において消散する電力の減少は、弾性制動取付構造によって保持された導電性シールドのほうが、曲線43で示される理論上の拘束されない導電性チューブよりもさらに大きいことを発明者らはシミュレーションによって示した。
【0032】
図5は、マグネットコイル10における消散電力をエコープラナーイメージング(EPI)信号で正規化した実験的データを示し、それ自体に関しては以下により詳細に記述するが、0〜5000Hzの周波数範囲にわたり最大ピークピーク場へと正規化したもので、その場合振幅は周波数とは別個のものである。この実験の目的のため、図1および図2に示すような円筒型マグネット構造を用いたが、OVC20のボアチューブおよび熱輻射シールド22,24は、ガラス強化プラスチックGRPなどの電気的および磁気的に透明な材料である。そのような実用的な提案を表したものではない構成において、勾配コイル組立体と超伝導コイルの間に導電層がないことは、図5の曲線51で示されるように磁気コイルにおいて大きな電力が消散することを意味する。そのようなシステムが最大電流で稼動した場合、マグネットは約230Hzより上の全周波数においてクエンチされることとなる。図5の曲線52は、上記した構造の超伝導コイルにおける電力消散の対応するデータを示すが、この場合本発明による銅製の拘束されない導電性シールドが追加されている。
【0033】
図5に示すように、超伝導コイルにおける消散電力の顕著な減少は、本発明の導電性シールドの付加に起因する。結果が曲線52で示されるその実験において、本発明の導電性シールドは、勾配コイル組立体と超伝導コイルとの間の唯一の導電面であり、超伝導コイルにおける消散電力の減少は、本発明の導電性シールドの付加に帰するものであることは明らかであろう。実際の適用においては、勾配コイル組立体と超伝導コイルとの間に他の導電性層が存在するであろうから、導電性シールドの追加による消散電力の減少はそのように大きな効果を持つことはないであろう。
【0034】
提案された、拘束されない、または弾性的に取り付けられた導電性シールドの欠点の可能性としては、導電性シールドの機械的振動による音響的ノイズ増加の可能性があることであろう。
【0035】
要求されるイメージング速度により、勾配コイルの磁界が可聴範囲内の周波数で振動することを要求され、本発明は導電性シールドが振動できることを要求する。したがって、導電性シールドの機械的振動を抑止する試みで付加的な音響ノイズの問題を緩和しようとすることは不適切である。
【0036】
しかし、本発明のいくつかの実施形態において、以下の緩和策を利用してもよい。
【0037】
導電性シールド34とOVCボアチューブ20との間の隙間ならびに勾配コイル組立体32と導電性シールド34との間の隙間は、Oリングシール、または、封止対象の隙間に配置されて空気または水(または他の適切な流体)で膨張させることによってシールを形成する、膨張する環状チャンバーである空圧または油空圧シールなどの柔軟シールで軸方向端部において封止することができる。
【0038】
導電性シールド34とOVCボアチューブ20の間の隙間ならびに勾配コイル組立体32と導電性シールド34の間の隙間は、アクゾーノーベル(Akzo Nobel N.V.)から入手できるシルコセット(Silcoset登録商標)封止剤などの軟性、柔軟性材料で軸方向端部において封止することができる。
【0039】
これらの変形形態いずれにおいても、隙間内の音響ノイズの伝達を低減するために、封止処理の前に隙間を排気してもよい。
【0040】
より極端な変形形態では、導電性シールド34とOVCボアチューブ20の間の隙間ならびに勾配コイル組立体32と導電性シールド34との間の全ての隙間を、アクゾーノーベル(Akzo Nobel N.V).から入手できるシルコセット(Silcoset登録商標)封止剤などの軟性、柔軟性材料で充填されてもよい。
【0041】
導電性シールドから音響ノイズの伝達を低減する別の試み、かつ本発明の別の実施形態において、図2および図3の20で示すように、導電性シールド34はOVC内のOVCボアチューブの半径方向外側に配置されている。
【0042】
図6はそのような実施形態を示す。OVC内に導電性シールド34を収容するために、OVCボアチューブは直径を縮小している。導電性シールドは、導電性シールドと熱輻射シールド24との間にではなくて導電性シールドとOVCボアチューブの間の隙間にある可撓性弾性取付ブロック36の上に取り付けられている。そのような実施形態において、導電性シールドはOVC20ボアチューブと熱シールド24のボアチューブの間の真空空間内で振動するため、MRIシステムのボア内での顕著な音響ノイズの発生はあり得ない。
【0043】
【表1】

【0044】
表1は、一定の振動電流がz勾配コイルに印加された場合の、本発明による導電性シールドの有効性を調査するためになされた実験の主な結果の概要を示す。
【0045】
表1は、z勾配コイルに適用したエコープラナーイメージング(EPI)信号の実験を表す。この信号は、ゼロ電流の期間と、或る電流、この例では、最大電流の約10%の電流、の反復サイクルを含み、その際、前記2つの電流値の間で一定の立ち上がり時間(RT)にわたって電流は線形ランプを辿る。表1の上部ではこの線形ランプは1μsの立ち上がり時間(RT)で動作する一方、表1の下部は、100μsの立ち上がり時間(RT)で動作した同様の信号の結果を表す。
【0046】
図2に関連して上述したような銅製チューブ(CT)の形状で導電性シールドが配設されている本発明の一実施形態を表すデータが提供される。比較のため、図1に関連して上述したような導電性シールドを設けていない同様なマグネットシステムのデータも提供されている。
【0047】
z勾配コイルに適用された、数種のEPI信号の周波数のデータも提供される:1kHz,1.33kHzおよび4kHz。
【0048】
それぞれのケースにおいて、内側熱シールド22の温度変化(ΔT(K))、および内側熱シールド22内での消散電力の変化(P(mW))を表すデータが提供されている。
【0049】
消散電力に関する2つの表記は太字かつ下線を施して示されている。これらの場合、シミュレーションされた超伝導コイルは熱消散のために冷却された。
【0050】
「k」を筆頭とする列は、本発明の導電性シールドの付加によって内側熱シールド内における消散電力が減少する係数を示す。表からわかるように、17.8までの係数k分の消散電力の減少がこの実験で示され、導電性シールドがない(NCT)場合に発生したクエンチは導電性シールド(CT)の存在下では発生しなかった。むしろ、0.291〜1.775Kの僅かな温度上昇だけが観察された。
【0051】
表1の結果は、本発明の導電性シールドが存在する場合、全条件下で、内側熱シールド22内での消散電力の大きな減少、ならびにそれに伴う温度上昇があることを示している。
【0052】
したがって、本発明はMRIイメージングシステムに用いられるような超伝導電磁システムに改良を提供し、その改良は、極低温に冷却される装置と勾配コイル組立体の間に導電性シールドを付加することを含み、導電性シールドは拘束されないか、または、弾性の制動取付構造上に取り付けられて弱めに拘束される。導電性シールドは、OVC内でありOVC20のボアチューブと極低温に冷却される装置の間において、OVC20のボアチューブ内に半径方向に配置されるか、OVCボアチューブと勾配コイル組立体との間に配置されるか、またはOVC20ボアチューブの半径方向外側に配置されるかのいずれかである。
【0053】
提案される導電性シールド34は高導電性を持つ材料の完全な円筒からなり、それはマグネットまたはOVCのボア内に取り付けられ、導電性シールドはOVCまたは勾配コイルに強固に機械的に結合されるのではなく、一定範囲内で自由に動くことができるため、拘束されたものとは見做されない。
【0054】
本発明は、導電性シールドと、マグネットシステムの残りの部分に最小の機械的接触をもたらすことで、機械的結合を排除することを可能にしながら導電性シールドの比較的自由な振動を許容する弾性制動マウントの使用を提案する。
【0055】
この導電性シールドを組み込むことは、より効率のよい熱シールドを提供して、MRIシステムの感温性で、極低温に冷却される部品に達する勾配コイル誘導加熱による熱負荷を減少させる。
【0056】
本発明は、「ドライ」接触冷却マグネット、すなわち液体の極低温冷媒なしで冷却されるマグネット、および図1および図2に関連して説明された閉ループ冷却システムを用いたものなどの、小規模極低温冷媒方式で冷却されるマグネットに特に利益をもたらす。それは、液体極低温冷媒の浴が、極低温冷媒のほぼ沸点でコイルが維持されることを確実にすることから、超伝導コイルが液体極低温冷媒の浴に部分的に浸漬される、より従来型の構成に比べて、そのようなシステムは熱負荷に対する感応性がより高いからである。本発明の導電性シールドをそのような浴冷却マグネットで使用しても、冷凍機の電力消費低減および/または極低温冷媒消費の低減という利点をもたらす。
【0057】
本発明を限られた数の実施形態に関して説明してきたが、多くの変更形態および変形形態が当業者には明らかであろう。例えば、本発明は円筒形超伝導マグネット内に配置された円筒型導電性シールドに関して説明されたが、本発明を、「開放型」マグネット、「C字型」マグネット等の他の形状の超伝導マグネットに適用してもよい。本発明は振動磁界源が、極低温に冷却される超伝導マグネットの近くに配設されているすべての構成に適用可能である。
【0058】
上述した特定の例は、銅製チューブとして具現化される導電性シールドを含む。銅は、非常に高い導電性を持ち、機械的振動に抗する高い質量密度と、OVCおよび熱輻射シールドの構築に一般に用いられる材料であるステンレス鋼またはアルミニウムの共鳴周波数とはやや異なる機械的共鳴周波数を持つために、適切な材料と考えられる。しかし、本発明の導電性シールドは、適切な導電性と機械的弾性が保証されるのであれば、アルミニウムまたは金属とプラスチックからなる複合材料などの他の材料から構築されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 超伝導コイル
12 ループパイプ
14 皮層
16 穴
18 保持構造
20 外側真空チャンバー(OVC)
22 内側熱輻射シールド
24 外側熱輻射シールド
26 シールド支持構造
30 円筒形ボア
32 勾配コイル組立体
34 導電性シールド
36 挿入パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イメージング領域に静磁界を提供するように構成された極低温に冷却されるマグネットコイル(10)と、
前記イメージング領域に振動磁界を提供するように構成された勾配コイル組立体(32)と、
前記極低温に冷却されるマグネットコイルと前記勾配コイル組立体との間に配置された導電性シールド(34)と、
を備え、
前記極低温に冷却されるマグネットコイルは外側真空チャンバー(OVC)(20)内に配置され、前記導電性シールドはOVCの外側の、前記OVCの表面と前記勾配コイル組立体との間に配置される、超伝導電磁石システムであって、
前記導電性シールドは、前記導電性シールドと勾配コイル組立体(32)との間、ならびに前記導電性シールドと前記OVCボアチューブ(20)との間の弾性制動マウント(36)上に支持されていることを特徴とする超伝導電磁石システム。
【請求項2】
前記弾性制動マウントが、前記導電性シールドの表面と、前記システムの隣接する構成要素の表面の間に配置されたエラストマーブロックを備えている請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記極低温に冷却されるマグネットコイルと前記OVCとの間に配置された第1の熱輻射シールド(22)をさらに備えた請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の熱輻射シールド(22)は、前記極低温に冷却されるマグネットコイルと伝熱的に接触している請求項3記載のシステム。
【請求項5】
前記第1の熱輻射シールドと前記OVCとの間に配置されて第2の熱輻射シールド(24)
が設けられている請求項4記載のシステム。
【請求項6】
イメージング領域に静磁界を提供するように構成された極低温に冷却されるマグネットコイル(10)と、
前記イメージング領域に振動磁界を提供するように構成された勾配コイル組立体(32)と、
前記極低温に冷却されるマグネットコイルと前記勾配コイル組立体との間に配置された導電性シールド(34)と、
を備え、
前記極低温に冷却されるマグネットコイルは外側真空チャンバー(OVC)内に配置され、前記導電性シールドは前記OVCの内側の、前記OVCの表面と前記極低温に冷却されるマグネットコイルとの間に配置されている、超伝導電磁石システムであって、
前記導電性シールドは、前記導電性シールドと前記OVCボアチューブ(20)との間の弾性制動マウント(36)上に支持されていることを特徴とする超伝導電磁石システム。
【請求項7】
前記弾性制動マウントは前記導電性シールドの表面と、前記システムの隣接する構成要素の表面の間に配置されたエラストマーブロックを備えた請求項6記載のシステム。
【請求項8】
前記極低温に冷却されるマグネットコイルと前記導電性シールドとの間に配置された第1の熱輻射シールド(22)をさらに備えた請求項6または請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の熱輻射シールド(22)は、前記極低温に冷却されるマグネットコイルと伝熱的に接触している請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記第1の熱輻射シールドと前記導電性シールドとの間に配置されて第2の熱輻射シールド(24)が設けられている請求項8記載のシステム。
【請求項11】
前記極低温に冷却されるマグネットコイルそれぞれは環状であって軸方向に整列しており、前記勾配コイル組立体と導電性シールドは円筒型であって、両者とも前記極低温に冷却されるマグネットコイルのボア内に配置されている請求項1から10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
前記極低温に冷却されるマグネットコイルは極低温冷凍機を用いた熱伝導によって冷却される請求項1から11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記極低温に冷却されるマグネットコイルは、前記マグネットコイルと熱的に接触しているパイプ(12)を介して極低温冷媒が循環する閉ループ冷却システムによって冷却される請求項1から11のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
前記極低温に冷却されるマグネットコイルは極低温冷媒浴への部分的浸漬によって冷却される請求項1から11のいずれかに記載のシステム。
【請求項15】
前記導電性シールドは銅から形成されている請求項1から14のいずれかに記載のシステム。
【請求項16】
前記導電性シールドと前記OVCとの間の隙間は1つまたは複数の弾性シールによって封止される請求項1から5のいずれかに記載のシステム。
【請求項17】
前記導電性シールドと前記勾配コイル組立体の隙間は1つまたは複数の弾性シールによって封止される請求項1から5のいずれかに記載のシステム。
【請求項18】
前記封止される隙間が排気される請求項16または請求項17記載のシステム。
【請求項19】
前記封止される隙間が弾性材料で充填される請求項16または請求項17記載のシステム。
【請求項20】
前記シールは油圧または空圧シールからなる請求項16から18のいずれかに記載のシステム。
【請求項21】
前記シールはOリングシールからなる請求項16から18のいずれかに記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−143566(P2012−143566A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3386(P2012−3386)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(509272285)シーメンス ピーエルシー (9)
【Fターム(参考)】