説明

超低屈折率膜及びその作製方法

【課題】屈折率を1.2よりもさらに下げ、空気の持つ値に近い超低屈折率膜を提供する。
【解決手段】空孔形成物質の界面活性剤として塩化セチルトリメチルアンモニウムを50〜65モル%添加した多孔質シリカ材料前駆体溶液を用いて、シリコン基板上に毎秒500回転でスピン塗布し、1Paの真空中400℃で焼成して、屈折率が1.097〜1.117でナノメートルサイズの空孔を持つ超低屈折率膜を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い透過率を有するとともに、屈折率が空気の持つ値に近い超低屈折率膜及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの光取り出し窓材や反射防止膜にシリカゾル粒子を含有する多孔性の低屈折率膜が利用されている。この低屈折率と呼ばれる領域は1.3〜1.5程度であり、超低屈折率と呼ばれる領域は1.2〜1.3程度である。
【0003】
また65nmプロセスの実用化には比誘電率の低い層間絶縁膜が必要とされ、最も比誘電率の低い空気の持つ値(〜1)に近づけるため、空気を含んだ多孔質シリカを層間絶縁膜に利用しようとしている。
【0004】
この種の低屈折率膜として以下の提案がある。
特開2001−163906号公報に示す例では、組成物中に特定粒径のシリカゾル粒子を20%以上含有させることで、組成物被膜にナノポーラス構造を呈させ、このナノポーラス化により見掛けの屈折率を低下させている(特許文献1)。
【0005】
また特開2003−158125号公報に示す例では、アルバック社製ISM−1.5を基板に塗布後、ガス雰囲気及び焼成条件により超低屈折率多孔質SOG膜を得ることが示されている(特許文献2)。
【0006】
さらに特表2005−503312号公報に示す例では、多孔性の誘電性薄膜の機械的一体性を向上させる点で湿潤処理が有用であり、またナノメートルスケールの細孔を有する、界面活性剤でテンプレートされた珪酸塩薄膜の作製方法が示されている(特許文献3)。
【0007】
【特許文献1】特開2001−163906号公報
【特許文献2】特開2003−158125号公報
【特許文献3】特表2005−503312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示す低屈折率膜の屈折率は1.4前後であり(特許文献1の[表1])、上記特許文献2及び特許文献3では屈折率が1.2前後であり(特許文献2の[図1]、特許文献3の[表5])、それ以下の空気に限りなく近い屈折率を持つ膜を得るためには改善の余地がある。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、屈折率を1.2よりもさらに下げ、空気の持つ値に近い超低屈折率膜及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の超低屈折率膜は、無機材料を主成分とする多孔性薄膜であって、屈折率が1.0以上1.15未満の範囲にある構成を有している。
また本発明の他の超低屈折率膜は、無機含有材料及び界面活性剤を含む多孔質シリカ前駆体溶液が塗布された基板を真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれかにて焼成することにより基板上に形成された多孔質シリカであって、屈折率が1.0以上1.15未満の範囲にある構成を有している。
【0011】
さらに本発明の超低屈折率膜の作製方法は、無機含有材料と界面活性剤とを含有した原料液を作製する過程と、原料液を基板表面に塗布して塗布層を形成する過程と、塗布層を加熱し、無機含有材料を加水分解して無機材料を主成分とする多孔質の超低屈折率膜を形成する焼成過程とを備え、超低屈折率膜の屈折率が1.0以上1.15未満の範囲にある構成を有している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の超低屈折率膜はナノメートルサイズの空孔が形成された多孔性の薄膜であるので、屈折率が空気の値に近い1.0〜1.15未満の範囲にあり、透過率が高いという効果を有する。
【0013】
また本発明の超低屈折率膜の作製方法は、ナノメートルサイズの空孔を形成する空孔形成物質となる界面活性剤を適量添加し、適正温度かつ雰囲気で焼成をしているので、屈折率が空気の値に近い1.0〜1.15未満の範囲にある超低屈折率膜を作製することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の超低屈折率膜は、無機材料を主成分とするもので、屈折率を1.15未満に下げた多孔性の薄膜である。主成分の無機材料は好ましくは酸化ケイ素である。
例えば、ナノメートルオーダーの空孔を有する無機多孔質材料としてアルバック社製のISMシリーズ多孔質シリカ溶液をベースにして、空孔形成物質となる界面活性剤を適量に変化させた塗布用前駆体溶液を作製し、この塗布用前駆体溶液を用いて、溶液塗布法によって基板に直接塗布した後、焼成するだけで多孔質シリカ薄膜を成膜することが可能である。
【0015】
以下、本発明による超低屈折率膜の好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施形態に係る超低屈折率膜は、無機含有材料及び界面活性剤を含む多孔質シリカ前駆体溶液が塗布された基板を、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれかにて焼成することにより基板上に形成されたものである。
【0016】
無機含有材料としては、アルコキシシラン原料が利用できる。
アルコキシシラン原料は、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリメトキシシラン等が利用可能である。
【0017】
また界面活性剤としては、空孔形成物質となるものであればよく、例えば、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、臭化アルキルメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ジアルキルジメチルアンモニウム、臭化アルキルジメチルベンジルアンモニウム及びアルキルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が利用できる。
具体的には、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、n一ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルジメチルニチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルジメチルニチルアンモニウムブロマイド及びメチルドデシルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等が利用できる。
【0018】
この界面活性剤は55モル%以上65モル%未満添加するのが好ましい。
【0019】
基板は例えばガラス基板を利用することができる。
本発明の超低屈折率膜をLSIの層間絶縁膜に利用する場合、基板は通常シリコン基板であり、用途に応じて適宜選択されるものである。
【0020】
多孔質シリカ前駆体溶液を基板に塗布するが、この塗布方法は薄膜形成が可能であればよく、例えば、スプレーコーティング、フローコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング等が利用できる。
【0021】
焼成温度は180℃以上400℃以下が好ましい。
真空中で焼成する場合、気圧は1Pa程度でよい。
不活性ガスとしては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が利用でき、これらのうちいくつかを組み合わせた混合ガスでもよい。
【0022】
このような構成の本実施形態に係る超低屈折率膜は、ナノメートルサイズの空孔が形成された多孔質の薄膜であるため、空気の値に近い1.0〜1.15未満の範囲の屈折率を有することができ(図1をご参照のこと)、透過率が高くなる。
【0023】
次に、本発明の超低屈折率膜の作製方法に係る実施形態について説明する。
本実施形態の超低屈折率膜の作製方法は、無機含有材料と界面活性剤とを含有した原料液を作製する第1の過程と、この原料液を基板表面に塗布して塗布層を形成する第2の過程と、この塗布層を加熱し、無機含有材料を加水分解して無機材料を主成分とする多孔質の超低屈折率膜を形成する焼成過程(第3の過程)とを備える。
本実施形態では、原料液として多孔質シリカ材料前駆体溶液を用い、ガラス基板上にスピン塗布法により成膜する。
【0024】
以下、本実施形態の超低屈折率膜の作製方法を詳細に説明する。
先ず、原料液の多孔質シリカ材料前駆体溶液として、例えばISM−2.0(アルバック社製)などの空孔形成物質となる界面活性剤を含むものをべースにして、空孔形成物質を適量に変化させたものを作製する(第1の過程)。
【0025】
この多孔質シリカ材料前駆体溶液は、ナノメートルサイズの空孔が形成可能な前躯体溶液であれぱよく、これに限定されるものではない。
例えば、無機含有材料の有機シランに、水と、界面活性剤とを加えることにより多孔質シリカ材料前駆体溶液を作製することができる。
【0026】
より具体的には、屈折率1.15以下となるように、テトラエトキシシラン(TEOS)1モルに対して空孔形成物質となる界面活性剤の塩化セチルトリメチルアンモニウムを50〜65モル%まで添加した多孔質シリカ材料前駆体溶液を作製し、これを用いて、上記の方法で超低屈折率膜を作製する。
【0027】
この前駆体溶液は適当な溶媒によって希釈しても構わない。
溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒であれば、特に制限されることなく用いられる。
【0028】
無機含有材料としては有機シランを利用することができ、有機シランとしてはテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等の上述したアルコシキシラン原料が利用可能である。
無機含有材料は複数のアルコキシシラン原料を含有したものでもよい。
【0029】
空孔形成物質となる系面活性剤は、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、臭化アルキルメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ジアルキルジメチルアンモニウム、臭化アルキルジメチルベンジルアンモニウム及びアルキルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が利用できる。
具体的には、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、n一ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメテルアンモニウムクロライド、セチルジメチルエチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルジメチルエチルアンモニウムブロマイド及びメチルドデシルペンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどのハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウム系陽イオン性のものであれぱよく、これらに限定されない。
【0030】
次いで、超低屈折率膜を成膜する際のスピン回転数は500rpmとして、基板上に原料液をスピン塗布する(第2の過程)。
【0031】
スピン回転数により成膜する膜厚を制御することができ、500rpmの場合、膜厚は1000nm程度である。
この塗布方法は、薄膜形成が可能な方法であればよく、スピン塗布法に限定されない。例えば上述したスプレーコーティング等を利用することができる。
【0032】
そして最後に、真空中400℃で15分間焼成をすることにより超低屈折率膜を得る(第3の過程)。
【0033】
この第3の過程の焼成条件としては、真空中の焼成に限らず、不活性ガス中での焼成処理でもよく、温度や時問に関しても溶液中の溶媒や水、空孔形成物質などを蒸発させて取り除くことができる温度及び時間であればよい。
好ましくは、空孔形成物質やその他の有機物質が蒸発する180℃からガラス基板の耐熱温度以下である400℃までで焼成を行うのが良い。
【0034】
このような構成の超低屈折率膜の作製方法では、ナノメートルサイズの空孔を有する多孔質の薄膜を形成可能なので、屈折率が空気の値に近い1.0〜1.15未満の範囲にある超低屈折率膜を作製することができる。
【実施例1】
【0035】
以下に具体的条件を記した実施例を挙げて説明する。
空孔形成物質の界面活性剤として塩化セチルトリメチルアンモニウム(商品名:C16TACL、化学式CH3(CH215N(CH33Cl、関東化学(株)製)を50〜65モル%添加した多孔質シリカ材料前駆体溶液を用いて、シリコン基板上に毎秒500回転でスピン塗布し、1Paの真空中400℃で焼成したところ、図1に示す膜厚及び屈折率が得られた。
なお、界面活性剤がC16TACLの場合、50%添加で飽和した。
【実施例2】
【0036】
実施例1と同じように空孔形成物質(呼び名:C8TACL、化学式CH3(CH27N(CH33Cl、関東化学(株)製)を50〜65モル%添加した多孔質シリカ材料前駆体溶液を用いて、シリコン基板上に毎秒500回転でスピン塗布し、窒素雰囲気中400℃で焼成したところ、図1に示す膜厚及び屈折率が得られた。
なお、界面活性剤がC8TACLの場合、70%まで添加可能であり、図で示していないが屈折率としては45%添加でもよい。
【0037】
比較例として、空孔形成物質(C16TACL、関東化学(株)製)添加量45%以下、若しくは70%以上となるような多孔質シリカ材料前駆体溶液を用いて、シリコン基板の上に低屈折率膜を作製した。
本発明により得られた超低屈折率膜と比較すると、添加量45%以下の膜では届折率が1.219、添加量70%以上の膜では添加物が飽和状態に達しており、筋及びムラといったものが見られ、きれいな膜が形成できなかった。
【0038】
図1に示すように、空孔形成物質添加量が55〜65モル%で、真空中雰囲気で焼成した場合、屈折率が1.097〜1.117となっており、空気の屈折率1.0に極めて近い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明に係る超低屈折率膜は、有機ELディスプレイなどには欠かせない光取り出し窓材、反射防止膜及び光導波路などに極めて有用であり、透過率向上等の効果を発揮する。
また、本発明に係る超低屈折率膜の作製方法は、作製プロセスが非常に簡易なため、タクト面及びコスト面にも優れており、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】空孔形成物質添加量、焼成雰囲気、膜厚及び屈折率の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を主成分とする多孔性薄膜であって、屈折率が1.0以上1.15未満の範囲にある超低屈折率膜。
【請求項2】
前記無機材料が酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1記載の超低屈折率膜。
【請求項3】
無機含有材料及び界面活性剤を含む多孔質シリカ前駆体溶液が塗布された基板を真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれかにて焼成することにより上記基板上に形成された多孔質シリカであって、
屈折率が1.0以上1.15未満の範囲にある超低屈折率膜。
【請求項4】
前記界面活性剤が55モル%以上65モル%未満であることを特徴とする請求項3記載の超低屈折率膜。
【請求項5】
前記無機含有材料が、アルコキシシラン原料であること特徴とする請求項3記載の超低屈折率膜。
【請求項6】
前記界面活性剤が、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、臭化アルキルメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ジアルキルジメチルアンモニウム、臭化アルキルジメチルベンジルアンモニウム及びアルキルトリメチルアンモニウムヒドロキシドのいずれかであることを特徴とする請求項3又は4に記載の超低屈折率膜。
【請求項7】
無機含有材料と界面活性剤とを含有した原料液を作製する過程と、この原料液を基板表面に塗布して塗布層を形成する過程と、この塗布層を加熱し、無機含有材料を加水分解して無機材料を主成分とする多孔質の超低屈折率膜を形成する焼成過程とを備え、
上記超低屈折率膜の屈折率が1.0以上1.15未満の範囲にある超低屈折率膜の作製方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が、55モル%以上65モル%未満添加されていることを特徴とする請求項7記載の超低屈折率膜の作製方法。
【請求項9】
前記焼成過程が、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれかにて焼成する過程であることを特徴とする請求項7記載の超低屈折率膜の作製方法。
【請求項10】
前記無機含有材料が有機シランであることを特徴とする請求項7記載の超低屈折率膜の作製方法。
【請求項11】
前記有機シランが、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシランのいずれか、或いは両方を含有していること特徴とする請求項10記載の超低屈折率膜の作製方法。
【請求項12】
前記界面活性剤が、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、臭化アルキルメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化ジアルキルジメチルアンモニウム、臭化アルキルジメチルベンジルアンモニウム及びアルキルトリメチルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選択されるいずれか1種類の界面活性剤を含有することを特徴とする請求項7又は8のいずれかに記載の超低屈折率腹の作製方法。
【請求項13】
前記塗布層の加熱は、当該塗布層を180℃以上400℃以下に昇温させることを特徴とする請求項7記載の超低屈折率膜の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−350025(P2006−350025A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176707(P2005−176707)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】