説明

超分子イオノマー

本発明は、超分子イオノマー、即ちその構造内に四重水素結合単位(4H単位)及びイオン基又はイオノゲン基を有するポリマーに関する。この超分子イオノマーは、低粘度を維持しながら高い固形成分含有量で水に分散又は可溶化することができ、得られる水性配合物の容易な使用及び加工が促進される。この水性超分子イオノマー組成物は、優れた塗膜形成能を有する。さらに、このポリマー材料は、粘着性がなく高弾性及び低クリープ若しくはゼロクリープを示すので、乾燥後の良好な機械的特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共有結合したイオン基又はイオノゲン基も含有している、超分子イオノマー、即ちその構造内に四重水素結合単位(quadruple hydrogen bonding units)(4H単位)を有するポリマーに関する。これらのいわゆる超分子イオノマー(又はイオノマー性超分子ポリマー)は、低粘度を保ちながら高い固形成分含有量で水に分散又は可溶化することができ、得られる水性製剤(aqueous formulation)の容易な使用及び加工が促進される。上記水性イオノマー混合物は、優れた塗膜形成能を有する。さらに、上記ポリマー材料は、粘着性がなく高弾性及び低クリープ若しくはゼロクリープを示すので、乾燥後の良好な機械的性質を有する。紹介するポリマー材料の有益な性質は、(i)ポリマー構造中のイオン基及び(ii)複数の水素結合相互作用(4H単位に基づく超分子相互作用)に基づくポリマー鎖間の物理的相互作用の両方の、新規な挙動に起因する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、異なるポリマー鎖間の物理的相互作用をもたらす他のこのような単位と(少なくとも)4つのH−架橋を形成することができる自己補完型(self−complementary)四重水素結合単位(4H単位)を含有する超分子ポリマーに関する。一列に少なくとも4つの水素結合を有し、従って少なくとも4つの水素結合を形成することができる、自己補完型四重水素結合単位は、本特許出願において四重水素結合単位、四重水素結合サイト、4H結合単位、4H単位、4H単体又は構造要素(4H)と略され、本特許出願において交換可能な用語として使用される。Sijbesma他(米国特許第6,320,018号;Science,278,1601;参照により本明細書に組込み済み)は、特に2−ウレイド−4−ピリミドンに基づくこのような自己補完型単位を開示している。
【0003】
テレケリックポリマー(Telechelic polymer)又は三官能性ポリマーは、4H単位で修飾されている(Folmer,B.J.B.他、Adv.Mater.、2000年、12巻、874頁;Hirschberg他、Macromolecules、1999年、32巻、2696頁;Lange,R.F.M.他、J.Polym.Sci,PartA、1999年、37、3657-3670頁)。しかし、これらのポリマーは、ポリマーの末端に結合した4H単位を有し、従って末端基の数は2に限られ、官能性単位は常にポリマーの末梢に位置している。さらに、これらのポリマーは、水に不溶性、又は水に難溶性である。
【0004】
国際公開第02/46260号は、エンドキャッパー(end−cappers)としての4H結合単位を、また場合によってはグラフト化した4H結合単位を有するポリウレタンベースのポリマーを開示しており、この開示されたポリマーは、熱溶融型接着剤又はTPU発泡体として使用することができる。国際公開第03/099875号は、TPU発泡体として使用することができる、エンドキャッパーとしての4H結合単位を有するポリウレタンベースのポリマーを開示している。両方の特許出願は、Lange,R.F.M.他、J.Polym.Sci,PartA、1999年、37、3657-3670頁に記載されたものと類似又は同じ化学作用を使用しており、水溶性又は水分散性ではない。
【0005】
米国特許実務のために参照により本明細書に組み込んだ国際公開第04/016598号は、グラフト化した四重水素結合単位を有するポリマーを開示している。例えば、グラフト化した4H単位を有するポリアクリレート及びポリメタクリレートが、様々な種類の重合技術を用いて生成された。しかし、4H単位は、主鎖に組み込まれてなく、さらに重要なことには、水溶性又は水分散性のイオノマーは開示されていない。
【0006】
米国特許実務のために参照により本明細書に組み込んだ国際公開第04/052963号は、ポリマー主鎖に4H単位を含有するポリシロキサンを開示している。しかし、これらのポリマーは、イオン基を含有せず、水溶性/水分散性ではない。
【0007】
米国特許実務のために参照により本明細書に組み込んだ国際公開第05/042641号は、ポリマー主鎖に4H単位を含有するポリシロキサンを開示している。しかし、これらのポリマーは、イオン基を含有せず、水溶性又は水分散性ではない。
【0008】
米国特許実務のために参照により本明細書に組み込んだ米国特許出願公開第2004/023155号は、A−L−Bの構造を有する超分子ポリマーを開示しており、式中、A及びBは、連結基Lにより連結された4H単位(米国特許出願公開第2004/023155号においては、4H単位は「QHB」で表されている)を含有するポリマーである。ポリマーA及びBの調製は、適切なポリマーを末端イソシアネート基を有する4H単位前駆体(米国特許出願公開第2004/023155号においては、「QHBE」によって示される)と反応させることによって可能であると言われている。米国特許出願公開第2004/023155号によれば、適切なポリマーの1つは、アクリル酸の(コ)ポリマーなどの、カルボキシル基で置換されたアクリルポリマーである。その実施例(実施例12及び13)によれば、4H単位は、修飾後のステップにおいて、4H単位がそのポリマー構造の一体化した部分を構成せず、末端基として存在しないように、カルボキシル基で置換されたアクリルポリマーにグラフト化される。米国特許出願公開第2004/023155号は、さらに、適切なポリマーは、例えばジメチロールプロピオン酸、及びジイソシアネートなどのカルボキシル官能性ジオールから作製されるポリウレタンでよいことを開示している。アニオン基を含有するこのようなポリウレタンは、末端イソシアネート基を有する4H単位前駆体とポスト反応(postreact)させて、それにより末端4H単位を有するアニオン基を含有するポリウレタンを提供することができる末端OH基を有する。しかし、米国特許出願公開第2004/023155号は、このような修飾したポリウレタンの実施可能な程度の開示(enabling disclosure)を提供していない。
【特許文献1】米国特許第6,320,018号
【特許文献2】国際公開第02/46260号
【特許文献3】国際公開第03/099875号
【特許文献4】国際公開第04/016598号
【特許文献5】国際公開第04/052963号
【特許文献6】国際公開第05/042641号
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/023155号
【特許文献8】米国特許第3,480,592号
【特許文献9】米国特許第3,388,087号
【非特許文献1】Sijbesma他Science,278,1601
【非特許文献2】Folmer,B.J.B.他、Adv.Mater.、2000年、12巻、874頁
【非特許文献3】Hirschberg他、Macromolecules、1999年、32巻、2696頁
【非特許文献4】Lange,R.F.M.他、J.Polym.Sci,PartA、1999年、37、3657-3670頁
【非特許文献5】Dieterich,D.他、Angew.Chem.、1970年、2巻、53頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
揮発性有機化合物(VOCs)の大気中への排出を管理する環境規制のため、水性システム(waterborne systems)の必要性が生じてきている。ポリウレタンイオノマー、即ち水に分散性又は可溶性であるイオン基を含有するポリウレタンを得る一般的な方法は、例えばDieterich,D.他、Angew.Chem.、1970年、2巻、53頁により記載されている。米国特許第3480592号及び米国特許第3388087号においては、ポリウレタン鎖中へのカチオン基の組込みにより、水分散性であるポリウレタンが、開示されている。弾性材料を得るためには、しかしながら、これらのポリウレタンは、化学的に架橋されるか、高分子量となる必要がある。特に、この架橋材料は、仮にそうなったとしてもほとんど加工することができない。
【0010】
本発明は、その分子構造中に4H単位のみならず、イオン基又はイオノゲン基も含有するポリマーを開示する。驚くべきことに、ポリマー鎖中のカチオン基又はアニオン基の存在が、異なる4H水素結合単位間の超分子水素結合相互作用を妨害しないことが、見出された。無極性の4H単位の存在も、得られるポリマーの水溶性又は水分散性を妨害しない。さらに驚くべきことは、乾燥した材料中に残存しうる水分子は、水素結合相互作用を損ねず、従って得られる水性材料は、ポリマー鎖間のH−結合相互作用の可逆性のために、依然として特異な材料特性を示すという事実である。従って、本発明は、高い固形成分含有量でありながら依然として低粘度である水分散液(又は溶液)から、容易に加工、又は例えばスプレーにより塗布することができる、優れた塗膜形成能を有する、弾性の、非粘着性ポリマーの製造を可能にする。記載されたポリマーは、比較的低分子量であり、それにより難加工性の高分子量又は架橋された材料の使用が回避される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリマー構造内に(i)四重水素結合単位(4H単位)及び(ii)イオン基を含有する、超分子イオノマーを提供する。本発明は、超分子イオノマーの調製方法、超分子イオノマーを含有する水性製剤及び多種多様な用途におけるこのようなイオノマーの使用も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本特許出願においては、イオン基は、陽性に又は陰性に帯電する、即ちカチオン性又はアニオン性の性質になり得る有機基として理解される。本発明による超分子イオノマーの前駆体は、この超分子イオノマー自体に重合させることができるモノマー、並びに四重水素結合単位及びイオノゲン基を含有する超分子ポリマーに重合させることができるモノマーを含み、ここでイオノゲン基は、イオン基を形成することができる基として理解される。当分野の技術者には明白であるように、イオノゲン基のイオン基への転換は、重合中、並びに重合停止後に次のステップで実施することができる。従って、本特許出願において「超分子イオノマー」に言及する場合、この用語には、1種又は複数のイオン基が依然として「保護された形態」、即ちイオノゲン基として存在する超分子ポリマーも含まれる。
【0013】
本発明によれば、上記超分子イオノマーは、約2000から約200000、好ましくは約5000から約60000、最も好ましくは約7000から約30000の相対的に低い数平均分子量を有する。本発明による上記超分子イオノマー(e)の数平均分子量は、当分野でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)としても知られる、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定され、ポリスチレン標準に対するものである。
【0014】
本発明によれば、超分子イオノマー(e)は、次の一般的構造を有し、
−[(a)−(b)−(c)−(d)]−
式中、(a)は、少なくとも1つの四重水素結合単位(4H単位)を含有するモノマー単位であり;(b)マクロモノマー単位;(c)イオン基を含有するモノマー単位;(d)は、反応性モノマー単位であり、(a)、(b)、(c)、及び(d)は、ポリマー構造中に、又はより好ましくはポリマー主鎖中に共有結合している。さらに、p、q、r及びsは、ポリマー主鎖におけるそれぞれ(a)、(b)、(c)及び(d)の単位の合計数量を表し、pは、1から200、好ましくは2から50、最も好ましくは3から20であり;qは、0から200、好ましくは2から50、最も好ましくは3から20であり;rは、1から200、好ましくは2から75、最も好ましくは4から30であり;sは、0から200、好ましくは2から75、最も好ましくは4から30である。即ち、好ましい一実施形態によれば、上記超分子イオノマーは、モノマー単位(a)、モノマー単位(c)、並びにマクロモノマー単位(b)及び反応性モノマー単位(d)からなる群から選択される成分を含有する。本発明のより好ましい一実施形態によれば、上記超分子イオノマーは、モノマー単位(a)、マクロモノマー単位(b)、モノマー単位(c)及び反応性モノマー単位(d)を含有する。
【0015】
本発明によれば、超分子イオノマーの調製は、4H単体(の前駆体)を含有するモノマー単位(a)の、イオン基及び/又はイオノゲン基を含有するモノマー単位(c)による延長反応を伴う。前述のように、イオノゲン基は、この鎖延長反応中又は鎖延長反応後に別のステップ中にイオン基に転換することができる。同様に、モノマー単位(a)は、重合中又はその後に別のステップ中に4H単位に転換される、四重水素結合単位の前駆体を含有することができる。本特許出願においては、四重水素結合単位の前駆体は、4H単位と表される。従って、本特許出願においては、4H単位に言及する場合には、この用語は、一般的に必要に応じて4H単位の前駆体も含み、前駆体は4H単位と表される。
【0016】
本発明による超分子イオノマーの分子構造は、相当に変わってよい。一極端では、成分(a)、(c)及び場合によっては(b)及び(d)、好ましくは(a)−(d)は、上記ポリマー鎖に沿ってランダムに配置することができる。しかし、もう一極端では、これらの成分は、厳しく分けられたポリマーが得られるように、あらゆる考えられる順列に互い違いにもなりうる。このような構造の例は、
【0017】
【化1】

【0018】
等であり、式中、nは、成分配列の繰返しの数である。厳しくランダムではない、又は厳しく互い違いにならない成分(a)、(b)(c)及び(d)の他の配列も、当分野のポリマー科学者に明白であるように、明らかに可能である。
【0019】
本発明による超分子イオノマーは、ポリマー構造中に自己補完型四重水素結合単位(4H単体又は4H単位)及びイオン基を含有する。ポリマー構造中に組み込まれた4H単位の量は、用いられた(a)のmol合計量を、用いられた(a)、(c)と、(b)及び(d)が存在する場合には(b)プラス(d)とのmol合計量で割ることによって算出して、好ましくは約5から約50mol%、より好ましくは約10から約40mol%、最も好ましくは約15から約30mol%である。
【0020】
ポリマー構造中に組み込まれたイオン基の量は、用いられた(c)のmol合計量を、用いられた(a)、(c)と(b)及び(d)が存在する場合には(b)プラス(d)とのmol合計量で割ることによって算出して、好ましくは約5から約50mol%、より好ましくは約10から約40mol%、最も好ましくは約20から約35mol%である。
【0021】
本発明の超分子イオノマー(e)は、ポリマーを水中又は水性混合物中で加工可能(分散性又は可溶性)にするのに必要なだけ多くのイオン基又はイオノゲン基を含有する。これらの分散液又は溶液は、例えば、アセトンプロセス、プレポリマー混合プロセス、溶融乳化プロセス、又はケチミン−ケタジンプロセスなど、当分野で周知の任意の方法で作製することができる(このようなプロセスの更なる情報についてはUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、A21巻、677−680頁、第5版、VCH, Weinheim−Polyurethanesを参照されたい)。
【0022】
反応性基(F)の説明
前述のように、本発明による超分子イオノマーの調製は、4H単体(の前駆体)を含有するモノマー単位(a)の、イオン基及び/又はイオノゲン基を含有するモノマー単位(c)による鎖延長反応によって行われる。しかし、超分子イオノマーは、(a)、(b)及び(c)或いは(a)、(c)及び(d)から調製されるのが好ましい。超分子イオノマーは、(a)−(d)から調製されるのがさらに好ましい。
【0023】
成分(a)−(d)は、反応性基(F)で表される反応性基によって互いに結合し、ここでiは反応性基の数を示す。成分(a)−(d)中に存在する反応性基(F)は、ポリマー又は有機化学の分野の技術者にとって明らかなように、他の(補完的な)官能基と反応性の、任意の官能基でよい。
【0024】
本特許出願においては、「反応性基(reactive group)」及び「補完型反応性基(complementary group)」という用語は、(F)で表され、(a)−(d)に存在する反応性基を示すために交換可能に使用される。2種以上の反応性基の補完性は、当分野の技術者に明らかであるように、通常の反応条件下で互いに共有結合を形成できる反応性基と理解される。補完的である反応性基(の組)の好ましい例は、
ウレタンを形成しうるヒドロキシル基及びイソシアネート基;
尿素を形成しうるアミノ基及びイソシアネート基;
ウレタン及び尿素を形成しうるヒドロキシル基、アミノ基及びイソシアネート基;
エステルを形成しうるカルボキシル誘導体及びヒドロキシル基;
アミドを形成しうるカルボキシル誘導体及びアミノ基;及び
アミドを形成しうるカルボン酸及びイソシアネート基である。
【0025】
反応性基(F)及びこれらの基の優先傾向は、本特許出願で後にさらに記載される。好ましくは、反応性基(F)は、活性水素原子を含有する官能基である。とりわけ、好ましい官能基(F)は、ヒドロキシル、チオール、カルボン酸、(活性)カルボン酸エステル、カルボン酸ハロゲン化物、(ブロックト)イソシアネート、(ブロックト)チオイソシアネート、(活性)第一級若しくは第二級アミン、ビニル、(メタ)アクリレート、又はハロゲン基からなる群から選択される。
【0026】
より好ましい反応性基(F)は、ヒドロキシル、チオール、カルボン酸、(活性)カルボン酸エステル、(ブロックト)イソシアネート、(ブロックト)チオイソシアネート、及び(活性)第一級若しくは第二級アミン基からなる群から選択される。
【0027】
さらに好ましくは、反応性基(F)は、ヒドロキシル、第一級アミン、イソシアネート、カルボン酸、及びカルボン酸エステル基からなる群から選択される。
【0028】
最も好ましくは、反応性基(F)は、ヒドロキシル、第一級アミン及びイソシアネート基からなる群から選択される。
【0029】
本特許出願においては、「ヒドロキシ」は−OH基を表す。
【0030】
「チオール」は−SH基を表す。
【0031】
「カルボン酸」は−C(O)OH基を表す。
【0032】
「カルボン酸エステル」は、−C(O)OR基を表し、ここでRは、C−Cアルキル、C−C12アリール、C−C12アルカリル及びC−C12アルキルアリール基からなる群から選択され、ここでアルキル基は、直鎖、分枝又は環式でよい。
【0033】
「カルボン酸ハロゲン化物」は−C(O)X基を表し、ここでXは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
【0034】
「イソシアネート」は−NCO基を表す。
【0035】
「ブロックトイソシアネート」は、−NHC(O)R基を表し、ここでRは離脱基である。離脱基の適切な例は、ハロゲン化物、フェノール及びチオフェノール誘導体、カプロラクタム基、例えばイミダゾール等、O、S若しくはNから選択される1−3ヘテロ原子を含有する、複素環式5若しくは6員環などの環式基、ヒドロキシ−スクシンイミド基、ヒドロキシ安息香酸のメチルエステルなどのエステル誘導体、2−エチル−ヘキシル−アルコール及びt−ブチル−アルコールなどのアルコール誘導体、メチル−エチルケトンなどのオキシム誘導体である。
【0036】
「チオイソシアネート」は、−NCS基を表す。
【0037】
「ブロックトチオイソシアネート」は−NHC(S)R基を表し、ここでRは「ブロックトイソシアネート」で記載のように離脱基である。
【0038】
「第一級アミン」は−NH基を表す。
【0039】
「第二級アミン」は−NHR基を表し、ここでRはC−Cアルキル、C−C12アリール、C−C12アルカリル及びC−C12アルキルアリール基からなる群から選択され、ここでアルキル基は直鎖、分枝又は環式である(「カルボン酸エステル」で上記のように)。
【0040】
「活性アミン」は、(ベックマン転位でアミン基に転換することができる)−C(R)=NOH基、(クルチウス転位でアミン基に転換することができる)−C(O)N基、(ホフマン転位でアミン基に転換することができる)−C(O)NH基、−NHC(O)R基を表し、ここでRは、「ブロックトイソシアネート」で上記に定義したように離脱基である。本発明によれば、「活性アミン」は、好ましくは−NHC(O)R基を表し、ここでRはイミダゾール、カプロラクタム又はヒドロキシ−スクシンイミド基である。
【0041】
前述のように、本発明による超分子イオノマーは様々な構造を有してよい。実際には、成分(a)−(d)の配列は、それぞれの成分中の反応性基(F)の補完性により支配され、従って、いくぶんか分けられたポリマーが得られることがある。例えば、成分(b)及び(c)がジオールで、成分(a)及び(d)がジイソシアネートである場合、得られる超分子イオノマー(e)は、[(a)又は(d)]−[(b)又は(c)]の構造を有し、ここでv及びwは、それぞれイオノマー性材料中の成分(a)+(d)及び(b)+(c)の数である。
【0042】
本発明によれば、全4成分(a)−(d)は、好ましくは1個又は複数のその他の成分との結合を可能にして(即ち、4成分(a)−(d)中の反応性基が補完性である)、本発明の超分子イオノマー(e)を生成する2個の反応性基(F)を有する。
【0043】
しかし、成分(a)、(b)、(c)及び/又は(d)のいずれにおける反応性基の他の数(例えば1、3、4)も、これは、分枝及び/又はキャップド(capped)イオノマー材料を可能にするので、本発明の部分である。1個だけの反応性基を有する成分も、イオノマー性材料の分子量を制御し調整する機会を供給する。様々なタイプのモノマー単位(a)、高分子単位(b)、モノマー単位(c)、及び反応性化合物(d)を、単一の合成手順に使用することができる。例えば、高分子単位(b)が、異なる化学的性質、及び/又は異なる分子量である、いく種類かの高分子単位(b)を用いることができ、或いはモノマー単位(c)が、異なる化学的性質、及び/又は正反対同士の電荷を有する、様々なモノマー単位(c)を用いることができ、或いは化合物中の反応性基が、異なる化学的性質である、様々な反応性化合物(d)を使用することができる。
【0044】
モノマー単位(a)の説明
モノマー単位(a)は、この単位に結合した、又はこの単位の部分である、4H単位及びいく種類かの反応性基を含有し、これらの反応性基は、その他の成分(b)−(d)の1種又は複数と反応して共有結合を形成することができる。一般的に、モノマー単位(a)は、式(I)又は(II)によって表すことができ、
(4H)−(F (I)
(4H−(F (II)
式中、4Hは構造要素(4H)を表し;4Hは構造要素(4H)の前駆体を表し;Fは構造要素(4H)に結合している反応性基を表すか、又は構造要素(4H)の前駆体、即ち(4H)に結合しているか、若しくはその部分である反応性基を表し;kはモノマー単位(a)に存在する構造要素(4H)(の前駆体)の数を表し;lはモノマー単位(a)に存在する反応性基の数を表す。本発明によれば、kは1から4であり、lは1から4である。
【0045】
好ましくは、kは1であり、lは1又は2である。より好ましくは、kは1であり、lは2であり、モノマー単位(a)は、従って式(III)又は(IV)によって表される。
−4H−F又はF−4H−F (III)
−4H−F又はF−4H−F (IV)
【0046】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、モノマー単位(a)は、ただ1つの構造要素(4H)(の前駆体)を含有し、それは、同じ(F)又は異なるタイプ(F及びF)である2つの反応性基を含有する。反応性基F及びFは、構造要素(4H)に結合しているか、又は構造要素(4H)の前駆体に結合しているか、若しくは構造要素(4H)の前駆体の部分である。
【0047】
反応性基(F)は、前節で説明され定義されており、このモノマー単位(a)の場合に、最も好ましくは、ヒドロキシル、第一級アミン、イソシアネート、カルボン酸又はカルボン酸エステル誘導体であり、最も好ましくは、ヒドロキシル、第一級アミン又はイソシアネート基である。
【0048】
一般的に、少なくとも4つの水素架橋(4H)を形成することができる構造要素は、一般式(1’)又は(2’)を有する。
【0049】
【化2】

【0050】
構造要素(4H)が、4つの水素架橋を形成することができる場合、そのことは本発明により好ましいが、構造要素(4H)は、好ましくは一般式(1)又は(2)を有する。
【0051】
【化3】

【0052】
上に示された全ての一般式においては、C−X及びC−Y結合は、それぞれ一重結合又は二重結合を表し、nは4以上であり、X...Xは、それらに結合した対応する構造要素(2)を含有するH−架橋形成単位と水素架橋を形成する供与体又は受容体を表し、Xは、供与体を表し、Yは、受容体を表すか、その逆も同様である。一般式(1’)、(2’)、(1)又は(2)を有する構造要素の性質は、米国特許実務のために参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第6,320,018号に開示されている。
【0053】
構造要素(4H)は、それらが2つ一組で互いに少なくとも4つの水素架橋を形成できるように、少なくとも4つの供与体及び/又は受容体、好ましくは4つの供与体及び/又は受容体を有する。好ましくは、構造要素(4H)は、少なくとも2つの連続する供与体と、続いて少なくとも2つの連続する受容体を、好ましくは2つの連続する供与体と、続いて2つの連続する受容体を、好ましくは一般式(1’)による、又はより好ましくはn=4である(1)による構造要素を有し、ここでX及びXが共にそれぞれ供与体若しくは受容体を表し、ここでX及びXが共にそれぞれ受容体若しくは供与体を表す。本発明によれば、供与体及び受容体は、好ましくはO、S、及びN原子である。
【0054】
構造要素(4H)を構成するのに使用できる分子は、イソシアネート、チオイソシアネート若しくは活性アミンと反応して、或いは活性化されて活性アミンを生じ、これが次いで第一級アミンと反応して、四重水素結合サイトの部分である尿素若しくはチオ尿素部分が得られる窒素含有化合物である。このような構造単位の調製方法は、当分野で公知である。上記窒素含有化合物は、好ましくはピリミジン又はトリアジン誘導体である。より好ましくは、上記窒素含有化合物は、イソシトシン若しくはチオ−イソシトシン誘導体(即ち、2−アミノ−4−ヒドロキシ−ピリミジン若しくは2−アミノ−4−メルカプト−ピリミジン誘導体)又はトリアジン誘導体、又はこれらの誘導体の互変異性体及び/若しくは鏡像異性体である。より好ましくは、上記窒素含有化合物は、陽子、又は5−位置に官能基、及び6−位置にアルキル置換基、最も好ましくは5−位置に2−ヒドロキシ−エチル若しくは3−プロピオン酸エステル及び6−位置にメチル、又は5−位置に水素及び6−位置にメチルを含有する脂肪族置換基を有するイソシトシン誘導体である。窒素含有化合物と反応するイソシアネート又はチオイソシアネートは、単官能性又は二官能性(例えば、アルキル又はアリール(ジ)(チオ)イソシアネート)でよく、好ましくは二官能性である。第一級アミンは、どんな種類(芳香族、脂肪族)でもよく、その構造中に別のアミン官能基、アルコール、エステル又はカルボン酸官能基などの他の官能基を含有してよい。
【0055】
本発明によれば、構造要素(4H)を含有するモノマー単位(a)は、一般式(3)又は(4)を有する化合物、及びその互変異性体及び/又は鏡像異性体によって特に適切に代表される(下記参照)。構造要素(4H)の前駆体、即ち(4H)を含有するモノマー単位(a)は、一般式(5)又は(6)を有する化合物によって特に適切に代表される。式(4)及び(6)中のXは、好ましくは窒素原子であるが、結合したR4基を有する炭素原子でもよい。
【0056】
【化4】

【0057】
R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素、又は、(チオ)尿素又はチオ(ウレタン)等の1種又は複数の官能基による置換の有無にかかわらない、(ブロックト)イソシアネート、(ブロックト)チオ−イソシアネート、第一級、第二級又は第三級ヒドロキシル基(即ちアルコール)、第一級、第二級、第三級又は第四級アミン、活性アミン、(チオ)フェノール、チオール、(活性)エステル及びカルボン酸等の1種又は複数の反応性基(F)による置換の有無にかかわらない、あらゆる種類の短鎖若しくは長鎖、例えば、飽和若しくは不飽和の、分枝、環式若しくは直鎖アルキル鎖、アリール鎖、アルカリル鎖、アルキルアリール鎖、エステル鎖、エーテル鎖、及び通常の(ポリマー)化学に使用される任意の原子の鎖でよい。R1、R2、R3及びR4は、これら又は他の官能基又は反応性基(F)の1つを直接的に構成してもよい。
【0058】
好ましくは、「飽和又は不飽和の、分枝、環式又は直鎖アルキル鎖」は、C−C10アルキレン基を表す。
【0059】
「アリール鎖」は、好ましくはC−C12アリレン基を表す。
【0060】
「アルカリル鎖」及び「アルキルアリール鎖」は、好ましくはそれぞれC−C12アルカリル基及びC−C12アルキルアリール基を表す。
【0061】
「エステル鎖」は、好ましくは次の一般式を有するC−Cラクトン又はジラクチド又はグリコリドの開環重合によって得られるポリエステルを表し、
【0062】
【化5】


式中、R基はそれぞれ独立に直鎖又は分枝C−Cアルキル基からなる群から選択される。しかし、「エステル鎖」については、R基はそれぞれ独立に水素原子及びメチル基から選択されることが好ましい。
【0063】
「エーテル鎖」は、好ましくはエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドを含有するポリエーテル鎖を表し、ここでポリエーテル鎖は次式で表され、
−(CRH−CRH−O)
式中、Rは水素原子又はメチル基でよく、wは1〜100、好ましくは1〜20の範囲である。
【0064】
好ましくは、R1、R2、R3及びR4のいずれか1つが、反応性基(F)の部分であるか、反応性基(F)を構成するか、或いはそれが1個又は複数の反応性基(F)を含有し、従って構造要素(4H)(の前駆体)を反応性基(F)に結合させる場合、結合部分は、水素、化学結合又はC−C12直鎖、分枝アルキレン基、C−C12アリレン、C−C12アルカリレン又はC−C12アリールアルキレン基であり、ここでアルキレン、アリレン、アルカリレン又はアリールアルキレン基は、他の基で置換されていてもよく、或いは置換基として又は主鎖中に環式基を含有してもよい。このような基の例は、メチレン、エチレン、プロピレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、1,6−ビス(エチレン)シクロヘキサン、1,3,3−トリメチル−1−メチレン−シクロヘキサン、1,6−ビスメチレンベンゼン等である。アルキレン、アリレン、アルカリレン又はアリールアルキレン基は、ヘテロ原子、特に酸素、窒素、及びイオウからなる群から選択されるヘテロ原子によって中断されてよい。
【0065】
しかし、本発明によれば、化合物(3)及び(4)又は(5)及び(6)それぞれの中の構造要素(4H)又は(4H)は、R1、R2、R3、R4の組の、1つ又は2つのR基によって、2つの反応性基(F)に結合していることがさらに好ましく、その他のR基は、それぞれ独立にランダム側鎖又は水素原子を表す。本発明によれば、ランダム側鎖は、好ましくはC−C12アルキル基、最も好ましくはメチル、1−エチルペンチル又は2−エチルヘキシルである。本発明によれば、「アルキル」という用語は、ランダム側鎖に関連して用いられるとき、直鎖、分枝及び環式アルキル基を包含するが、ランダム側鎖は、好ましくは直鎖アルキル基である。
【0066】
従って、式(3)については、構造要素(4H)は、好ましくは、R1により反応性基(F)に、R2により反応性基(F)又は(F)に結合しているが、R3は、ランダム側鎖又は水素原子であり;或いは構造要素(4H)は、R1により反応性基(F)に、R3により反応性基(F)又は(F)に結合しているが、R2は、ランダム側鎖又は水素原子であり;或いは構造要素(4H)は、R1により2つの反応性基(F)の両方に結合しているが、R2及びR3は、それぞれ独立にランダム側鎖又は水素原子である。反応性基(F)は、異なるタイプでもよいことを示すために、これらは(F)又は(F)として指定される。最も好ましくは、式(3)については、1つの反応性基(F)は、R1により結合しており、1つの反応性基(F)又は(F)は、R3により結合しており、R2は、上記に定義のように水素又はランダム側鎖である。
【0067】
好ましくは、式(5)については、構造要素(4H)は、R1により反応性基(F)に、R2により反応性基(F)又は(F)に結合しているが、R3は、上記に定義のようにランダム側鎖又は水素原子であり、或いは構造要素(4H)は、R1により反応性基(F1)に、R3により反応性基(F1)又は(F2)に結合しているが、R2は、上記に定義のようにランダム側鎖又は水素原子である。最も好ましくは、式(5)については、1つの反応性基(F)は、R1により結合しており、1つの反応性基(F)又は(F)は、R3により結合しており、R2は、上記に定義のようにランダム側鎖又は水素である。
【0068】
モノマー単位(a)の好ましい実施形態は、
【0069】
【化6】

【0070】
及びその互変異性体又は鏡像異性体であり、式中、Xは、直鎖、分枝又は環式C−C16アルキル基、C−C16アリール基、C−C16アルカリル又はC−C16アルキルアリール基である。例は、ブチル、ヘキシル、1−メチレン−1,3,3−トリメチル−シクロヘキサン、2,2,4−トリメチルヘキシル、2,4,4−トリメチルヘキシル、2,2,5−トリメチルヘキシル、トルイル、メチレンジフェニル又はメチレンジシクロヘキシルである。好ましくは、n=0、1又は2、Rは、水素、メチル又はエチルであり、Yは、2から16個の炭素原子を含有する、N、S及びOなどのヘテロ原子を含有することができる、短い直鎖、分枝又は環式アルキレン、アリレン又はアルキルアリレンスペーサーであり、F及びFは、上記に定義された、好ましくは、それぞれ独立にヒドロキシル、第一級アミン、カルボン酸及びカルボン酸エステル基からなる群から選択される反応性基である。R2は、上記に定義のようにランダム側鎖である。
【0071】
マクロモノマー単位(b)の説明
マクロモノマー単位(b)は、任意の官能性ポリマー又はオリゴマーでよく、次の概略式に表すことができ、
P−(F (V)
式中、Pはポリマー鎖を表し、Fはマクロモノマー単位(b)中の反応性基を表し、lはマクロモノマー単位(b)中の反応性基(F)の数を表す。式(V)においては、lは1から30、好ましくは1から6である。より好ましくは、lは1から3、最も好ましくは、(VII)が次のように書けるように、lは2である。
−P−F又はF−P−F (VI)
【0072】
この好ましい実施形態によれば、マクロモノマー単位(b)は、同じ(F)タイプになり得る、又は異なるタイプ(F及びF)になり得る2つの反応性基(F)を含有する。反応性基又は官能基(F)は、上記に説明及び定義され、このマクロモノマー単位(b)の場合に、好ましくは、ヒドロキシル、第一級アミン又はイソシアネート基である。Pは、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、水素化ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリシロキサン、ペルフルオロ化ポリエーテル等、任意のポリマー主鎖を表す。Pは、任意の種類のコポリマーを表すこともできる。本発明の好ましい実施形態によれば、Pは、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリシロキサン又は水素化ポリオレフィンからなる群から選択される。最も好ましくは、Pは、ポリエステル、ポリエーテル又は水素化ポリオレフィンであり、さらに最も好ましくは、Pは、ポリエステルである。ポリマーPの数平均分子量は、約100から約100000、より好ましくは約300から約50000、さらに好ましくは約400から約20000、最も好ましくは約500から約5000の範囲である。
【0073】
マクロモノマー単位(b)は、従って、好ましくは、約100から約100000、より好ましくは約300から約50000、さらに好ましくは約400から約20000、最も好ましくは約500から約5000の数平均分子量を有する。
【0074】
好ましくは、マクロモノマー単位(b)は、反応性基としてのヒドロキシル基を有するポリマー、より好ましくは、2つのヒドロキシル末端基を有するポリマーである。例は、α,ω−ジヒドロキシポリエチレングリコール、α,ω−ジヒドロキシポリプロピレングリコール、α,ω−ジヒドロキシポリ(エチレン−コ−プロピレン)グリコール、α,ω−ジヒドロキシポリ(エチレン−コ−プロピレン−コ−エチレン)グリコール、α,ω−ジヒドロキシポリテトラメチレングリコールなどの、ポリオキシアルキレン鎖及びヒドロキシル末端基を有する、α,ω−ジヒドロキシポリエーテル、又はα,ω−ジヒドロキシポリカプロラクトン、α,ω−ジヒドロキシポリアジペート(例えば、ヒドロキシ終端ポリ(1,2−エチレンアジペート)、ヒドロキシ終端ポリ(1,4−ブチレンアジペート)、ヒドロキシ終端ポリ−(2−メチル−1,3−プロピレンアジペート))、α,ω−ジヒドロキシポリグルタレート(例えば、ヒドロキシ終端ポリ(1,4−ブチレングルタレート、ヒドロキシ終端ポリ(2−メチル−1,3−プロピレングルタレート))、α,ω−ジヒドロキシポリテレフタレート、α,ω−ジヒドロキシポリフタレート(例えば、フタル酸のヒドロキシ終端コポリマー(「フタル酸」という用語は、フタル酸の位置異性体、即ちホモフタル酸及びテレフタル酸も含むのもと理解される)及びジエチレングリコール、フタル酸及び1,6−ヘキサンジオール又は1,4−ブタンジオールのヒドロキシ終端コポリマー)、カルボキシレートが1−12個の炭素原子を含有する脂肪族ジカルボン酸から誘導され、脂肪族部分が直鎖、分枝又は環式であり、脂肪族部分が場合によっては1個又は複数の不飽和炭素炭素結合を含有するα,ω−ジヒドロキシポリカルボキシレート、α,ω−ジヒドロキシポリイソフタレート(例えば、5−NaSO−イソフタル酸、イソフタル酸、ジエチレングリコール及びビス−ヒドロキシメチレン−シクロヘキサンのヒドロキシ終端コポリマー、イソフタル酸及び1,4−ブタンジオールのヒドロキシ終端コポリマー、5−NaSO−イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸及び1,6−ヘキサンジオールのヒドロキシ終端コポリマー)、α,ω−ジヒドロキシポリラクチド、α,ω−ジヒドロキシポリグリコリド、α,ω−ジヒドロキシポリ(ヒドロキシブチレート)などのα,ω−ジヒドロキシポリエステル、又はヒドロキシル官能化ポリブタジエン、ヒドロキシル官能化ポリ(エチレン−ブチレン)などのα,ω−ジヒドロキシ(水素化)ポリオレフィン、又はポリ(1,3−プロパンジオールカーボネート)グリコール又はポリ(1,6−ヘキサンジオールカーボネート)グリコールなどのα,ω−ジヒドロキシポリカーボネート、又はα,ω−ビス(6−ヒドロキシヘキシル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(オリゴ−エチレンオキシド)ポリジメチルシロキサンなどのα,ω−ジヒドロキシポリシロキサン、又はα,ω−ジヒドロキシ−ヒドロキシポリアミドである。
【0075】
別の好ましいマクロモノマー単位(b)は、第一級アミン反応性基を有するポリマーである。例は、Jeffamines(登録商標)(Huntsmanにより製造され販売されているポリオキシアルキレンアミン)、又はα,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサンなどのアミノ終端ポリシロキサン、又はアミノ終端脂肪族ポリアミドである。
【0076】
別の好ましいマクロモノマー単位(b)は、イソシアネート反応性基を有するポリマーである。マクロモノマー単位(b)のこれらのタイプは、通常、ヒドロキシル又はアミン官能化ポリマー(これらのポリマーの例について上記を参照されたい)から、これらのポリマーとジイソシアネートとの反応により誘導される。このようなジイソシアネートの例及び優先傾向は、反応性化合物(d)の説明において以下に記載されている。
【0077】
モノマー単位(c)の説明
モノマー単位(c)は、少なくとも1つのイオン基を含有し、次の一般式により表すことができる任意の官能性分子でよく、
(I)−(F (VII)
式中、Iはイオン基を表し、Fは反応性基を表し、kはイオン基の数を表し、lは反応性基(F)の数を表す。好ましくは、kは1から3であり、lは1から5であり、より好ましくは、モノマー単位(c)が式(VIII)により表されるようにkは1でありlは2である。
−I−F又はF−I−F (VIII)
【0078】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、モノマー単位(c)は、同じ(F)タイプになり得る、又は異なるタイプ(F及びF)になり得る2つの反応性基(F)を含有する。反応性基又は官能基(F)は、先に説明及び定義され、このモノマー単位(c)の場合に、好ましくはヒドロキシル又は第一級アミン基、最も好ましくはヒドロキシル基である。
【0079】
上記に説明のように、イオノゲン基はイオン基の前駆体である。適切なイオノゲン基は、例えば(第三級)アミン、ピリジン、カルボン酸又はカルボン酸エステル基であるが、適切なイオン基は、例えば第四級アミン(直鎖、分枝、又は環中に窒素原子を有する化合物、例えばピペリジニウムを含めた環式でよいアンモニウム誘導体)、ピリジニウム、カルボキシレート、スルホネート及びホスフェート基である。イオノゲン基からイオン基への転換は、一般的にプロトン化又は脱プロトン化により実現される。別法として、転換はイオノゲン基のアルキル化又はケン化により実現される。好ましくは、イオン基は−N(R、−S(O)OH;−S(O)OH;−P(O)(R)(OH);−P(O)(OH)から誘導される基から選択され、ここでRはそれぞれ独立に、直鎖、分枝又は環式C−C16アルキル基、C−C16アリール基、C−C16アルカリル基又はC−C16アルキルアリール基からなる群から選択され、ここでXは下記に定義される対イオンYである。
【0080】
1個又は複数の窒素原子を含有するモノマー単位(c)を、カチオン性イオノマー(e)を得るために使用することができる。使用することができる、1個又は複数の窒素原子を含有するモノマー単位(c)は、例えば次の一般分子式の化合物であり、
【0081】
【化7】

【0082】
式中、R5及びR6は、それぞれ独立に、直鎖、分枝又は環式C−Cアルキル基からなる群から選択され、R7、R10、及びR11は、それぞれ独立に、直鎖、又は分枝C−Cアルキル基、フェニル基又は(C−C)アルキルフェニル基からなる群から選択され、R8及びR9は、それぞれ独立に、H又は直鎖又は分枝C−Cアルキル基からなる群から選択され、R12は、H、直鎖又は分枝C−Cアルキル基、フェニル基又は(C−C)アルキルフェニル基からなる群から選択される。
【0083】
好ましくは、pは1、2又は3である。
【0084】
は、任意の対イオンでよいが、好ましくは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、リン酸(PO3−/3)、硫酸(SO2−/2)、[C−C]アルキル硫酸、[C−C]アルキルリン酸又は[C−C]カルボン酸である。
【0085】
スルホン酸基又はカルボン酸基を含有するモノマー単位(c)を、アニオン性イオノマー(e)を得るために使用することができる。使用できる、スルホン酸基又はカルボン酸基を有するモノマー単位(c)は、例えば2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−プロピオン酸、又は次の一般式の化合物であり、
【0086】
【化8】

【0087】
式中、m及びnは、それぞれ独立に1から8の、特に1から6の整数であり、Mは任意の正電荷(即ち1+、2+、3+、4+等)を有する金属カチオン、好ましくはアルカリ金属又はアルカリ土類金属から誘導されるカチオン、より好ましくはLi、Na、又はKを表し、p及びqは、p+q>0を条件に、それぞれ独立に0から50の整数である。アルキレンオキシド単位の種類は任意であり、ポリエーテルコポリマーの分子量は、好ましくは約400から約3000である。R14は、好ましくはC−C18直鎖、分枝又は環式アルキレン基である。
【0088】
本発明の好ましい実施形態においては、モノマー単位(c)は、N−メチル−ジ−2−エタノールアミン、2,6−ビス−(ヒドロキシメチル)−ピリジン、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−プロピオン酸、又はジオールと5−スルホイソフタル酸のアルカリ塩のジエステルである。より好ましくは、モノマー単位(c)は、N−メチル−ジエタノールアミン、2,6−ビス−(ヒドロキシメチル)−ピリジン又は2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−プロピオン酸であり、最も好ましくはモノマー単位(c)はN−メチル−ジエタノールアミンである。
【0089】
反応性化合物(d)の説明
反応性モノマー単位(d)は、ポリマー(e)の所望の構造及び分子量が得られるように、反応において補完型反応性基のモル量を均衡させるため、又は制御するために、重合反応中で使用される。反応性モノマー単位(d)の使用はしばしば求められるが、その使用は任意選択である。反応性モノマー単位(d)の使用は、イオノマー(e)に特別な機能又は特性を導入する機会を提供する。例えば、反応性モノマー単位(d)は、反応性(蛍光性)染料、界面活性成分、紫外線安定剤、抗酸化剤又は機能を有するその他の化合物でよい。
【0090】
反応性モノマー単位(d)は、任意の官能性化合物でよく、次の一般式(IX)で表され、
J−(F (IX)
式中、Jは有機部分であり、Fは上記に定義のように反応性基であり、lは1から5である。より好ましくは、lは1又は2、最も好ましくは2である。この好ましい実施形態によれば、反応性化合物(d)は、従って次の一般式(X)により表され、
−J−F又はF−J−F (X)
式中、Jは有機部分であり、F及びFは上記に定義のように反応性基である。最も好ましくは、Jは、2個から24個の炭素原子、好ましくは4個から18個の炭素原子を有する、直鎖、分枝、又は環式アルキレン基である。
【0091】
反応性基(F)は、好ましくはイソシアネート、チオイソシアネート、ヒドロキシル、第一級アミン、カルボン酸又はカルボン酸エステル基である。最も好ましくは、反応性モノマー単位(d)はジイソシアネートである。本発明で最も好ましいジイソシアネートは、ポリウレタン合成に一般的に使用され当分野で周知のものである。本発明で使用することができる適切なジイソシアネートの例は、
1,4−ジイソシアネート−ブタン(BDI)、
1,4−ジイソシアネート−4−メチル−ペンタン、
1,6−ジイソシアネート−2,2,4−トリメチルヘキサン、
1,6−ジイソシアネート−2,4,4−トリメチルヘキサン、
1,5−ジイソシアネート−5−メチルヘキサン、
3(4)−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート、
1,6−ジイソシアネート−6−メチル−ヘプタン、
1,5−ジイソシアネート−2,2,5−トリメチルヘキサン、
1,7−ジイソシアネート−3,7−ジメチルオクタン、
1−イソシアネート−1−メチル−4−(4−イソシアネートブト−2−イル)−シクロヘキサン、
1−イソシアネート−1,2,2−トリメチル−3−(2−イソシアネート−エチル)−シクロペンタン、
1−イソシアネート−1,4−ジメチル−4−イソシアネートメチル−シクロヘキサン、
1−イソシアネート−1,3−ジメチル−3−イソシアネートメチル−シクロヘキサン、
1−イソシアネートール−n−ブチル−3−(4−イソシアネートブト−1−イル)−シクロペンタン、
1−イソシアネート−1,2−ジメチル−3−エチル−3−イソシアネートメチル−シクロペンタン、
3(4)−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート(IMCI)、
トルエンジイソシアネート(TDI)、
メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、
メチレンジシクロヘキサン4,4−ジイソシアネート(HMDI)、
イソホロンジイソシアネート(IPDI)、
α,α,α’,α’−テトラメチル−1,3−キシリレンジイソシアネート(TMXDI)、及び
ヘキサンジイソシアネート(HDI)である。
【0092】
より好ましくは、ジイソシアネートは、IPDI、HDI、BDI、MDI、TDI、TMXDI、1,6−ジイソシアネート−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ジイソシアネート−2,4,4−トリメチルヘキサン又はメチレンジシクロヘキサン4,4−ジイソシアネート(HMDI)である。
【0093】
最も好ましくは、ジイソシアネートは、IPDI、HDI、MDI、TMXDI又はメチレンジシクロヘキサン4,4−ジイソシアネート(HMDI)である。
【0094】
超分子イオノマー(e)の調製方法の説明
本発明において示されるポリマーは、モノマー単位(a)をモノマー単位(c)及び場合によってはマクロモノマー単位(b)及び/又は(d)と反応させることによって、最も好ましくはモノマー単位(a)を(c)−(d)と反応させることによって得ることができる。当然、それぞれの成分中の様々な反応性基は、1つ又は複数のその他の成分との反応を可能にして共有結合を形成しなければならない(即ち、成分の組合せの中の反応性基は補完的である)。従って、イオノマー生成物(e)は、好ましくは、成分(a)−(d)のコポリマーであり、ポリマー構造内に四重水素結合単位(4H単位)及びイオン基を有する。
【0095】
本発明によれば、成分(a)、(c)、及び場合によっては(b)及び/又は(d)、好ましくは(a)−(d)は、任意の所望の割合、様式、又は順序で一緒になり反応してイオノマー(e)を生成する。これらの成分が使用されるモル比は、超分子イオノマー(e)の構造及び分子量を予定し制御できるように、大幅に変えることができる。
【0096】
イオノマー(e)を生成する、成分(a)、(c)、及び場合によっては(b)及び/又は(d)、好ましくは(a)−(d)の重合反応は、当分野で周知の任意の種類の(重合)反応でよいが、好ましくはポリウレタン(PUR−化学)又は縮合重合体(縮合重合)の製造のために一般的な反応を含む。例えば、これらの4成分は、ヒドロキシル若しくはイソシアネート反応性基(F)、又はヒドロキシル、第一級アミン及びイソシアネート基、又はヒドロキシル、第一級アミン、カルボン酸及びイソシアネート基(PUR−化学)のみを有し、或いはヒドロキシル及びカルボン酸若しくはカルボン酸エステル基、又はヒドロキシル、第一級アミン及びカルボン酸若しくはカルボン酸エステル基(縮合重合化学)のみを有する。
【0097】
ポリマー(e)の生成は、重合化学の分野で周知の任意の種類の重合手順又はプロセスを含むことができる。溶液、バルク、懸濁、及びその他のタイプの重合を使用することができ、ワンポット手順又は(重合)反応の連続を含む手順を使用してポリマー(e)を生成することができる。ポリマー(e)を、成分を任意の所望の順序で混合する押出し法で生成することもできる。上記反応温度は、約20°から約250℃、好ましくは約60°から約150℃の範囲である。上記反応は、溶媒を用いずに、又は適切な不活性溶媒若しくは溶媒混合液中で実施することができる。適切な溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、トルエン、N−メチルピロリドン、DMSOなどの非プロトン性極性溶媒であり、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトンである。上記反応は、好ましくは窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施される。上記反応は、好ましくは所望の生成物を得るための当分野で周知の適切な触媒の存在下で実施され、その例にはジブチル錫ジラウレート、DABCO又はTi(IV)テトラ−n−ブトキシドなどのTi(IV)−アルコキシドがある。
【0098】
本発明によれば、モノマー単位(a)の2種以上のタイプ及び/又はマクロモノマー単位(b)のタイプ及び/又はイオン単位又はイオノゲン単位(c)のタイプ及び/又は反応性モノマー単位(d)のタイプを、重合反応に使用することができる。これに含まれるものの例は、
1.例えば、数平均分子量、主鎖の構造及び/又は反応性基の性質において異なる2種以上のタイプのマクロモノマー単位(b)の使用;
2.成分(a)、(b)(c)又は(d)のいずれか1つの単官能性種(monofunctional species)(「ストッパー」分子)(‘stopper’molecules)の使用;式では、これらの「ストッパー」分子は、例えば4H−F、4H−F、P−F又はI−Fとして表すことができる(これらの式の説明について前節を参照されたい)。「ストッパー」分子を添加する手順は、当分野において公知であり(例えば、Flory,P.J.、J.Am.Chem.Soc.1942年、64巻、2205頁参照)、ポリマー生成物(e)の分子量及び末端基の制御を可能にする。特定の「ストッパー」分子の4H−Fは、例えば2−(3−(6−イソシアネートヘキシル)−ウレイド−6−メチル−イソシトシンである。他の特定の例には、例えば色などの特別な機能又は特性を有する単官能性反応モノマー単位(d)が含まれる(例えば、ヒドロキシ官能化染料、チオイソシアネート蛍光染料等)。
3.構造、反応性基の電荷及び/又はタイプが異なる、ポリマー生成物(e)中の、特に電荷分布(charge distribution)を可能にする2種以上のモノマー単位(c)の使用。本発明の一実施形態においては、ポリマー(e)は酸基及びアミノ基の両方を有することができる。酸基及びアミノ基の数の違いは、好ましくは約15から150、より好ましくは30から100である。
【0099】
水性組成物(aqueous composition)
本発明による水性組成物は、水性組成物の合計重量に対して、約0.5から約40.0重量%、好ましくは約1.0から約35.0重量%のイオノマー(e)を含有する。イオノマー(e)は、分子的に溶解するか、好ましくは約10から約250nmの平均サイズを有する、分散した、帯電したナノサイズ粒子として存在してよい。
【0100】
酸性基を含有するイオノマー(e)、即ちアニオン製イオノマーは、塩基を用いることによって部分的又は完全に中和することができる。一般に、ポリマーの得られる塩は、中和されていないポリマーに比べて水中でよりよい分散性又は溶解性を有する。酸性基を含有するポリマー(e)の中和に使用できる塩基は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属塩基(の水溶液)、並びに水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア及びアミンなどのアルカリ土類金属塩基である。(部分的な)中和に適したアミンは、例えばC1−C6アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、ジ−C1−C6−アルキルエタノールアミンなどのジアルキルアルカノールアミン、C1−C6−アルキルジエタノールアミン、好ましくはメチル又はエチルジエタノールアミンなどのアルキルジアルカノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのトリアルカノールアミン、又はリシンのようなジアミンである。当然、アルキル基は、直鎖、分枝又は環式でよい。より好ましくは、上記アミンは、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMPD)、ジエチルアミノプロピルアミン、及びトリイソプロパノールアミンである。酸含有ポリマー(e)の中和は、水酸化ナトリウム及びトリイソプロパノールアミンの混合物などの2種以上の塩基の混合物を用いても実施し得る。予定される用途に応じて、中和は、部分的、例えば40%までに、又は完全、例えば100%までにすることができる。
【0101】
中性の、プロトン化した又は四級化したアミノ基を含有するポリマー(e)は、一般的に乳化剤の助けを借りずに容易に水に溶解できる。帯電したカチオン基は、例えば、乳酸などのカルボン酸、又はリン酸、硫酸及び塩酸などの鉱酸を用いることによるプロトン化、或いは、例えばC−C−ハロゲン化アルキルや硫酸アルキルなどのアルキル化剤を用いることによる四級化により(第三級)アミン窒素から得ることができる。このようなアルキル化剤の例には、塩化メチル、臭化メチル、塩化エチル、臭化エチル、硫酸ジメチル及び硫酸ジエチルがある。好ましくは、帯電したカチオン性種は、プロトン化により得られる。
【0102】
イオノマー(e)の調製における、様々なモノマー単位(c)の使用は、ポリマーが分散又は溶解している水溶液のpHの関数として、イオノマーの溶解性及び分散性の調節を可能にする。7の範囲のpKaを有するイオン基は、中性水溶液に溶解するが、6未満のpKaを有するイオン基は、好ましくは酸性水を必要とし、8を超えるpKaを有するイオン基は、好ましくはアルカリ水を必要とする。従って、当分野の技術者は、(e)の透明の水溶液又は分散液を、単にpHを変えることによりゲル又は不透明な分散液に変えることができる。
【0103】
イオノマー(e)の水性製剤は、スプレー、又は溶液若しくは分散液を基板に塗布するための、当分野で周知の他の方法により基板に塗布することができる。一般的に、マクロモノマー単位(b)が、10℃未満のガラス転移温度を有するとき、得られるイオノマー(e)は、優れた塗膜形成能を有する。場合によっては、弾性ポリエーテル又は疎水性非高分子可塑剤の水分散液等、当分野で周知の可塑剤を、室温での塗膜形成性を改善するために添加することができる。さらに、発明者らは、いかなる科学理論によっても束縛されることを望むものではないが、イオノマー(e)中のイオン基の存在が、成分(a)、(b)、及び(d)のみからなるポリマーに比べたときに、これらのポリマーの接着性の強力な増加をもたらすことが予想外に見出された。
【0104】
用途
本発明による(水性)イオノマーは、皮、人工皮革、織物、光ファイバー、ガラス、紙及び塗料製剤を伴う用途に使用される表面コーティング、印刷、光造形、写真及び石版印刷などの画像技術、薬物の制御された放出用の(生体分解性)材料、創傷包帯若しくは再生医療用のヒドロゲル、錠剤処方などの生物医学的用途、サイズ剤、(熱)可逆性コーティング、接着剤及びシーリング組成物、増粘剤、ゲル化剤、結合剤、及び界面活性剤組成物に関連した用途に特に適している。
【0105】
次の実施例は、本発明の好ましい実施形態をさらに例示する。特に記載されないときは、化学薬品はAldrichから得られる。
【実施例1】
【0106】
本発明のポリマー(e)の調製
表Iは、成分(a)、(b)、(c)及び(d)を所与のモル比で反応させることにより、約5から10グラムのスケールで調製されたポリマー材料(e)の例を示しており、例えば材料Bは成分(a):(b):(c):(d)について0.86(=約6/7):1:1:1のモル比を用いて調製された。ポリマー(e)は、乾燥クロロホルム中、ジブチル錫ジラウレート触媒の存在下、油浴温度60℃、アルゴン雰囲気下の反応により得られた。この反応は、FT−IRで測定してNCO−基が検知される間は保持されたが、一般的に反応は終夜撹拌しながら実施された。完了後、未反応のイソシアネートの痕跡を除去するために、エタノールを反応混合物に添加した。ポリマーを、ヘキサン中に沈殿させることにより単離し乾燥した。この材料を、THFを溶離液として用い、ポリスチレン標準と比較してその分子量を評価するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で分析した。
【0107】
成分(a)には、5−ヒドロキシ−エチル−イソシトシン及び2当量のイソホロンジイソシアネート(IDPI)から誘導される、IUI、即ちウレイド−ピリミドンを使用した。IPDIが様々な(位置)異性体で存在するために、またIPDI中の両方のイソシアネート基が、5−ヒドロキシ−エチル−イソシトシン中のアミン及びヒドロキシル官能基に対して反応性であるために、IUIは(鏡体)異性体の混合物である。従って、下記に示された構造は、成分(a)の可能な異性体の1つにすぎない。ポリマーIの調製のためには、IUIに加えて、ストッパー分子IUも使用した(下記のその異性体の1つを参照されたい)。
【化9】

【0108】
成分(b)には、ヒドロキシ末端基及び2000の分子量Mnを有するポリ−(2−メチル−1,3−プロピレン)アジペート(Poly−(2−MePr−Adp)−2000);ヒドロキシ末端基及び1020のMnを有するポリ−(2−メチル−1,3−プロピレン)グルタレート(Poly−(2−MePr−Glu)−1000);ヒドロキシ末端基及び2500のMnを有するポリ−(ジエチレングリコール)アジペート(Poly−(DEG−Adp)−2500)(全てAldrichより購入)が使用された。これらのポリマーは、使用前に乾燥トルエンを用いた共蒸発を3回行って乾燥した。
【0109】
成分(c)には、N−メチル−ジエタノールアミン(MDEA)、1,4−ビス−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(BHEPip)又は2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−プロピオン酸(DMPA)が使用された。成分(d)には、IPDIが場合によっては使用された。
【0110】
所与のモル比の成分の反応によるポリマー(e)の調製
【0111】
【表1】


1 PS標準と比較してSECで測定したキロダルトン単位の分子量
2 このポリマーには0.4モル比のIPDI−UPyストッパー成分(a)も使用された。
3 比較用の例
【0112】
成分(c)には、N−メチル−ジエタノールアミン(MDEA)、1,4−ビス−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(BHEPip)又は2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−プロピオン酸(DMPA)が使用された。
【0113】
成分(d)には、IPDIが場合によっては使用された。
【実施例2】
【0114】
ポリマー(e)の水性混合物の調製
材料A、B、C、D、E、F、G及びHは、第一にそれらをTHF中に溶解させることによって、或いは別法として、反応用の溶媒がTHF又はケトンであるときにポリマー(e)を含む反応混合物を直接的に用いることによって水に分散させることができる。このTHF溶液に、第三級アミンの0.95当量がプロトン化されるようにHCl水溶液を添加し、このプロトン化はポリマーA(H)−H(H)をもたらす。THFを長時間40℃で蒸発させること、及び水が蒸発しないような真空を適用することによって、少なくとも20重量/重量%までのポリマー材料を含有するときに低粘度である水性混合物が得られる。透明、ミルキーブルー(milky blue)又は乳白の分散液を得ることができる。例えば、ポリマーF(H)及びG(H)は、水中の濃度20重量/重量%で、低粘度の青みをおびた混合物を生じるが、ポリマーH(H)は、低粘度でより透明な混合物を生じ、ポリマーD(H)は、水中の同レベルの濃度で、低粘度のより乳白色の混合物を生じる。30重量/重量%の濃度レベルで調製されたポリマー(e)の均一な水性混合物も、透明、ミルキーブルー又は乳白色であるが、これらの混合物は、20重量/重量%溶液と比べたときに、増加した粘度を示す。上記の水性混合物は、場合により水に可溶化又は分散された特定の用途に求められる添加された成分と共に、所望の表面上にスプレーし、且つ塗布できる製剤に直接的に使用することができる。
【実施例3】
【0115】
調製されたポリマー(e)の性質
表I中のポリマー(e)A−Iは、有機溶媒から表面上に流延又はスプレーされたときに、優れた塗膜形成能を有する。実施例2で示された手順により調製された、A(H)−H(H)で表されるプロトン化ポリマーの水性混合物も、流延又はスプレーして塗膜を得ることができる。いくつかの塗膜を、その機械的特性及びその熱的性質に関して試験した。結果は表IIに示され、ヤング率(Emod)、降伏応力(σyield)及び(Latbreak−L)/L*100%で定義される破断点伸び(εbreak)が示され、ここでLは引張り前の犬用の骨の形をした試験片の狭い中間部分の長さであり、Latbreakは破断時における犬用の骨の狭い部分の長さである。
【0116】
いくつかのポリマー材料(e)の機械的試験データ及び熱的性質
【0117】
【表2】


比較ポリマー、機械的性質があまりに乏しいため測定できない(n.d.=測定されていない;n.p.=存在しない)
【0118】
ポリマー材料ごとに3個から5個の犬用の骨を作製し、平均測定値が表IIに示されている。引張り永久歪みは、犬用の骨の破断後に測定され、従って、本明細書で、(Lafterbreak−L)/L*100%と定義され、Lはのように定義され、Lafterbreakは試験後及び試験片を一緒に継いだ後の、破断した犬用の骨の狭い中間部分の長さである。
【0119】
表IIは、調製されたポリマー(e)、即ちA、B、D、F、G及びそのプロトン化した同等物は、特にその(表Iに示された)比較的低い分子量を考慮すると、極めて弾性があることを示している。引張り永久歪みは、破断(>300%伸び)後に測定されるので、例えば50%又は100%のより低い伸びの後に測定された場合に、TS値はかなり低くなる。ヤング率は、ポリマー(e)は粘着性のない(Emod>1Mpa)固形物であることを示している。さらに、成分(a)、(b)、(c)及び(d)(の比)を変えることによりヤング率を調整することができる。全てのポリマー(e)は、吸湿性でない、又はほとんど吸湿性でない透明の塗膜を生じる。
[比較例4]
【0120】
ポリマーJ
実施例2で言及した通りの手順を材料Jに適用することで、沈殿の形成がもたらされた。従って、材料Jは、イオノゲン基又はイオン基を欠いており、実施例2で示されたポリマーA(H)−H(H)とは対照的に、水に分散又は可溶化することができない。
[比較例5]
【0121】
ポリマーK及びK(H)対ポリマーD及びD(H
実施例2で言及した通りの手順を材料Kに適用することで、ポリマーK(H)の透明の低粘度溶液の形成がもたらされた。しかし、材料K及びK(H)各々の材料特性は、例えば組み込まれた4H単位を有する材料D及びD(H)各々のそれに比べて格段に劣る。ポリマーK及びK(H)は、軟らかく粘着性があるので機械的試験用の試験片を形成できないが、対照的にポリマーD及びD(H)は、非常に弾性のある性質を有する非粘着性材料である。
[比較例6]
【0122】
一般的に、ポリマー(e)、例えば表I及びIIに示されたものは、イオン基又はイオノゲン基を有していないポリマーJなどの比較ポリマーより格段によく様々な表面に接着する。この後者のポリマーJは容易に、或いは本発明のポリマー(e)に比べてより容易に表面から剥離することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー構造内に四重水素結合単位(4H単位)及びイオン基を含有する超分子イオノマーであって、次式
[(a)−(b)−(c)−(d)]−
[式中、(a)は少なくとも1つの四重水素結合単位(4H単位)を含有するモノマー単位であり、(b)はマクロモノマー単位であり、(c)はイオン基を含有するモノマー単位であり、(d)は反応性モノマー単位であり、p=1〜200、q=2〜50、r=1〜200及びsは0〜200である]を有する超分子イオノマー。
【請求項2】
超分子イオノマーが、約2000から約200000の数平均分子量を有する、請求項1に記載の超分子イオノマー。
【請求項3】
ポリマー構造に組み込まれた四重水素結合単位(4H単位)の量が、(a)、(b)、(c)及び(d)のモル合計量に対して約5から約50モル%である、請求項1又は2に記載の超分子イオノマー。
【請求項4】
超分子イオノマーが、少なくとも1つの四重水素結合単位(4H単位)又は少なくとも1つの四重水素結合単位の前駆体(4H単位)を含有するモノマー単位(a)の、イオン基及び/又はイオノゲン基を含有するモノマー単位(c)による鎖延長により調製される、請求項1に記載の超分子イオノマーの調製方法。
【請求項5】
モノマー単位(a)が、反応性モノマー単位(d)によってさらに鎖延長される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
モノマー単位(a)が式(I)又は(II)
(4H)−(F (I)
(4H−(F (II)
[式中、Fは4H単位に結合している、又は4H単位若しくは4H単位の一部に結合している反応性基を含有し、kは1から4であり、lは1から4である]によって表される、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
モノマー単位(a)が、式(III)又は(IV)
−4H−F又はF−4H−F (III)
−4H−F又はF−4H−F (IV)
[式中、F及びFは、4H単位に結合している、又は4H単位若しくは4H単位の一部に結合している反応性基を含有する]によって表される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応性基が、ヒドロキシル基、一級アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
マクロモノマー単位(b)が、式(V)
P−(F (V)
[式中、Pは100から100000の数平均分子量を有するポリマー鎖を表し、Fは反応性基を含有し、lは1から30である]によって表される、請求項4〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
マクロモノマー単位(b)が、式(VI)
−P−F又はF−P−F (VI)
[式中、F及びFは反応性基を含有する]によって表される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Pが、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリシロキサン及び水素化ポリオレフィンからなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
反応性基が、ヒドロキシル基、一級アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
マクロモノマー単位(b)が、約100から約100000の数平均分子量を有する、請求項4〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
イオン基及び/又はイオノゲン基を含有するモノマー単位(c)が、一般式(VII)
(I)−(F (VII)
[式中、Iはイオン基又はイオノゲン基であり、Fは反応性基であり、kは1〜3であり、lは1〜5である]によって表される、請求項4〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
モノマー単位(c)が、一般式(VIII)
−I−F又はF−I−F (VIII)
[式中、F及びFは反応性基であり、Iはイオン基及び/又はイオノゲン基である]によって表される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
反応性基が、ヒドロキシル及び一級アミノ基からなる群から選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
反応性モノマー単位(d)が、一般式(IX)
J−(F (IX)
[式中、Jは有機部分であり、Fは反応性基であり、lは1から5である]によって表される、請求項4〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
反応性モノマー単位(d)が、一般式(X)
−J−F又はF−J−F (X)
[式中、Jは有機部分であり、F及びFは反応性基である]によって表される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
反応性基が、ジイソシアネートからなる群から選択される、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
請求項4〜19のいずれかに記載の方法によって得られる超分子イオノマー。
【請求項21】
請求項1〜3、又は請求項20のいずれかに記載の超分子ポリマーを含有する水性製剤。
【請求項22】
洗剤組成物、表面コーティング、画像技術、生物医学的用途、(熱)可逆性コーティング、接着剤組成物、シーリング組成物、増粘剤、ゲル化剤、結合剤及び界面活性剤組成物における請求項1〜3、又は請求項20のいずれかに記載の超分子イオノマーの使用。

【公表番号】特表2008−506030(P2008−506030A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521419(P2007−521419)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000497
【国際公開番号】WO2006/006855
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(505218096)スープラポリックス ビー.ブイ. (5)
【Fターム(参考)】