説明

超合金からのレニウム回収及び関連方法

【課題】レニウムをレニウム含有超合金スクラップから回収する方法を提供する。この超合金は、通常はニッケル基超合金である。
【解決手段】この方法は、超合金スクラップ30からフレーク状形態の酸化用原料を形成するステップと、この酸化用原料を酸化させて、レニウムを揮発性酸化レニウムに転換するステップと、を含む。この超合金スクラップの表面積を拡大することにより、酸化用原料がフレーク状形態になる。ニッケル基超合金は、約1重量パーセントから約10重量パーセントのレニウムを含有するものであってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、レニウムを超合金、例えば超合金スクラップなどから回収する方法に関する。本発明は、特に、超合金スクラップの表面積を拡大することにより、超合金スクラップからレニウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レニウムが高温合金の製造に幅広く使用されていること、レニウムが多様な用途で触媒として使用されていること、並びに、レニウムが高コストで希少であることが、レニウムの回収技術を発展させる重要な誘因になっている(レニウムの使用量が増し、価格が高騰していることが、レニウム含有廃棄物の処理を促す必須要因になっている)。レニウム含有合金の製造時には、多量の機械加工スクラップが生じる。二成分廃棄物、例えばモリブデン−レニウム又はタングステン−レニウム合金などの廃棄物は、容易に分解でき、レニウム回収処理を容易に行える。しかし、レニウムは殆どの場合、超合金、特にニッケル基超合金の廃棄物中に含まれている。
【0003】
超合金は、比較的多数種の金属から成り、高融点、高強度で耐摩耗性が極めて高い合金であり、主に高温用途、通常は500℃超の高温用途で用いられる。超合金は、一般的な合金とは対照的に、酸化腐食環境中でも侵食を受けない。超合金の技術開発は、ガスタービンと密接に関係している。ニッケル基超合金は、ガスタービン構造、特に航空機用タービンに最適である。
【0004】
レニウムが比較的希少貴金属であることから、超合金廃棄物からのレニウム回収は経済的な関心事項である。レニウムが最大で6重量%の比率で存在する特殊な超合金もある。しかし、耐用年数の経過後もレニウムを再生利用するのは、経済的に難しい。
【0005】
超合金からレニウムを回収するにあたり、従来の試みでは、超合金を酸で分解させた後にレニウムを塩沈澱又はイオン交換により分離する、高温冶金法や湿式冶金法に焦点を当てたものが殆どである。しかし、これらの手法は、コストがかさむ複雑さ又は時間がかかる性質により、必ずしも経済的に適切ではないこともある。また、そのような手法では、副産物として結果的に多量の廃棄物が生じることがある。対照的に、酸化ベースで超合金からレニウムを回収する方法は、簡便で効率の良い方法かもしれない。しかし、当業者には明らかなように、レニウムを超合金廃棄物から遊離させる方法は、酸化用原料(オキシデーション・フィードストック)が粗いことが一因となり、非効率的な方法にもなり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6131835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、金属合金、特に超合金原材料からレニウムを効率良く回収するに適した新規な方法の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の幾つかの実施形態において、レニウムをレニウム含有超合金スクラップから回収する方法を提供する。この超合金は、通常はニッケル基超合金である。この方法は、超合金スクラップからフレーク状形態の酸化用原料を形成するステップと、この酸化用原料を酸化させてレニウムを揮発性酸化レニウムに転換するステップと、を含む。スクラップの表面積を拡大することにより、酸化用原料はフレーク状形態になる。
【0009】
本発明の別の幾つかの実施形態において、レニウムをレニウム含有超合金スクラップから回収する方法を提供する。この方法は、超合金スクラップからフレーク状形態の酸化用原料を形成するステップと、この酸化用原料を酸化させてレニウムを揮発性酸化レニウムに転換するステップと、を含む。高エネルギー粉砕技術を用いて超合金スクラップの表面積を拡大することにより、この酸化用原料はフレーク状形態になる。
【0010】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことにより、本発明のこれらとその他の特徴、態様、利点について理解を深めることができよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】未加工の超合金スクラップの走査電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施形態に従った高エネルギー粉砕技術の概略図である。
【図3】本発明の実施形態に従った形態を有する超合金スクラップの走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施形態に従った、レニウム拡散時間を温度の関数で示したグラフである。
【図5】本発明の実施形態に従った、Ni/Re比を粉砕時間の関数で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書及び請求項において、近似を表す文言により、関連のある基本的な機能に変化をきたさない限り変化可能な分量を修飾していることがある。したがって、「約」などの用語で修飾されている分量は、記載した分量そのものに限られない。近似を表す文言が示す内容は、分量を計測する機器の精度によって異なる場合もある。
【0013】
以下の説明と請求項において、特に明記しない限り、単数名詞や「前記」には複数名詞の意味も含む。
【0014】
本明細書において、「よい」「できる」といった用語は、特定の性質、特性、又は機能を有する場合;及び/又は、修飾される動詞に関連して能力、性能、又は可能性のうち1つ以上を表して動詞を修飾する場合に、存在の可能性を示す。したがって、「よい」及び「できる」という表現の使用は、修飾されている用語が提示した能力、機能、用法に対して適当ではなかったり、能力を有さなかったり、適切ではなかったりする場合も含意しつつ、修飾されている用語が提示した能力、機能、用法に対して適当であったり、能力があったり、適切であったりすると思われることを示す。例えば、或る事象又は能力が見込める場合もあればそうでない場合もあるとき、「よい」「できる」といった用語によってその特質をとらえている。
【0015】
以下に詳細に考察するように、本発明の幾つかの実施形態において、レニウムをレニウム含有超合金スクラップから回収する方法を提供する。これらの実施形態では、有利なことに、レニウムを遊離し易くし、その結果として、スクラップ材料処理中のレニウム回収率を高める。本発明の複数の実施形態において、レニウムが酸化中に遊離し易くなるように、超合金スクラップの表面積を拡大する方法を説明する。ここでは、レニウムの酸化中の遊離速度を向上させることに関連した例を示すが、そのような処理は、その他の回収方法、例えば化学的回収方法や電気化学的方法などにも適用可能である。
【0016】
本明細書において、「超合金」という用語は通常、ニッケル基超合金、好適には、例えばレニウムなどの耐熱性金属を1つ以上、かなりの量で含有する、先進的な第二、第三又は第四世代の単結晶のニッケル基超合金を指す。この超合金の形態は、多結晶材料が少量存在していてもよいが、実質的に単結晶ではある。このニッケル基超合金の強化は、通常はガンマ相、ガンマプライム相及び/又は関連相の析出により行われる。幾つかの実施形態において、強化用ガンマ(ガンマプライム)相の体積分率が充分に高くなるように、少なくとも約5重量パーセントのアルミニウムが存在している。このような超合金の幾つかにおいて、レニウムの含有量は大抵、約1から約8重量パーセントであるが、最も好適には約2から約6重量パーセントである。
【0017】
そのような超合金の非限定的な具体例として、Rene(登録商標)N5があるが、その組成は、7.5重量パーセントのコバルトと、7重量パーセントのクロム、6.2重量パーセントのアルミニウム、6.5重量パーセントのタンタル、5重量パーセントのタングステン、1.5重量パーセントのモリブデン、3重量パーセントのレニウムと、残りがニッケルである。任意により、幾らかのイットリウム及び/又はハフニウムが存在していてもよい。注目すべき他の例として、Rene(登録商標)N6の名称で商業的に公知の高耐熱性の単結晶超合金(米国特許第5,455,120号)があるが、その組成は、12.5重量パーセントのコバルトと、4.5重量パーセントのクロム、6重量パーセントのアルミニウム、7.5重量パーセントのタンタル、5.8重量パーセントのタングステン、1.1重量パーセントのモリブデン、5.4重量パーセントのレニウム、0.15重量パーセントのハフニウムと、残りがニッケルである。本発明の手法はまた別の先進的な合金、例えば「MX4」として公知の、米国特許第5,482,789号に開示されている第四世代の単結晶超合金などにも適用可能である。この超合金は、公称量で、約0.4重量%から約6.5重量%のルテニウム、約4.5重量%から約5.75重量%のレニウム、約5.8重量%から約10.7重量%のタンタル、約4.25重量%から約17.0重量%のコバルト、約0.05重量%以下のハフニウム、約0.06重量%以下の炭素、約0.01重量%以下のホウ素、約0.02重量%以下のイットリウム、約0.9重量%から約2.0重量%のモリブデン、約1.25重量%から約6.0重量%のクロム、約1.0重量%以下のニオブ、約5.0重量%から約6.6重量%のアルミニウム、約1.0重量%以下のチタン、約3.0重量%から約7.5重量%のタングステンを含有する。これらの合金が含有するモリブデン+クロム+ニオブの含有量は約2.15%から約9.0%、アルミニウム+チタン+タングステンの含有量は約8.0%から約15.1%であり、残りはニッケルであってよい。超合金の注目すべき更に別の例には、それぞれR142、CMSX−10、CMSX−4及びTMS−75という名称で商業的に公知の単結晶超合金も含まれる。
【0018】
本発明の一実施形態において、レニウムをレニウム含有超合金スクラップから回収する方法を提供する。この方法は、超合金スクラップのフレーク状形態の酸化用原料を形成するステップと、この酸化用原料を酸化させてレニウムを揮発性酸化レニウムに転換するステップと、を含む。超合金スクラップの表面積を拡大することにより、酸化用原料がフレーク状形態になる。
【0019】
本明細書において、「超合金スクラップ」という用語は、超合金の機械加工及び粉砕時、例えば製造中などに生じる廃棄物を指す。機械加工及び粉砕工程により、典型的には不規則な粒子を含んだ粗いスクラップが生じる。一般的には、機械加工又は粉砕から生じた粗い超合金スクラップが、未加工の状態で酸化用原料として用いられる。
【0020】
本明細書において、「酸化用原料」という用語は、レニウムを回収する目的で酸化を受ける超合金スクラップを指す。
【0021】
本明細書において「粗いスクラップ」という用語は、平均粒径が約50ミクロン以上の不規則な粒子を含む超合金スクラップを指す。幾つかの実施形態において、平均粒径は約50ミクロンから約80ミクロン、殆どの場合、約50ミクロンから約60ミクロンである。図1に、未加工の超合金スクラップの走査電子顕微鏡写真10を示す。顕微鏡写真10からわかるように、この超合金スクラップは、粒径が様々な不規則な粒子から成る。
【0022】
レニウムを回収するにあたり、このような粗いスクラップに処理を施しても、処理、即ち本明細書で説明する酸化ステップにおいて、レニウムをあまり得られないことがある。これは、かなり大きな粒子からのレニウムの遊離レベルが比較的低いことが一因と思われる。本明細書において、「遊離」という用語は、レニウム回収にあたりスクラップを処理しているあいだ、レニウム原子が粒子の内部から粒子の表面に向かう拡散率を指す。超合金スクラップの粒子が大きい(例えば、粒子の平均最大寸法が約50ミクロン以上の)場合、レニウム原子が拡散する距離(以下に定義する)は、粒子表面に十分に到達する、十分に処理が及ぶ距離である。レニウムの粒径を小さくし、レニウムのほぼ全てをこのように小さくすることにより、処理中の遊離速度を向上させることができる。これは、本明細書で説明するように、超合金スクラップの粒子の表面積を拡大することで可能になる。
【0023】
本明細書において、「拡散距離」という用語は、レニウム原子が単位時間当たりに超合金スクラップの粒子またはプレートレットの中を移動して粒子表面に到達する距離を指す。
【0024】
本明細書において、「拡散時間」又は「拡散する時間」という用語は、レニウム原子が上記の拡散距離を移動する所要時間を指す。
【0025】
本明細書において、「拡散性」という用語は、単位面積当たりのレニウム原子が単位時間当たりに粒子/プレートレット表面に移動する質量又は数を指す。
【0026】
このように、レニウムを超合金スクラップから実質的に回収するために、本発明の複数の実施形態において、超合金スクラップの表面積を拡大することにより、フレーク状形態の酸化用原料を形成する方法を提供する。超合金スクラップを粉砕することにより、酸化用原料がフレーク状形態になる。
【0027】
一実施形態において、超合金スクラップの粉砕を、高エネルギー粉砕技術を用いて実施する。高エネルギー粉砕の非限定的な例には、プラネタリーミリング、摩擦粉砕、ボールミリング、エアジェットミリング、微粉砕技術又はこれらの組み合わせが含まれる。その他の粉砕技術を用いて超合金スクラップを粉砕し、フレーク状形態を得ることもできる。このように、フレーク状形態を得るにあたり、超合金スクラップの表面積を拡大する如何なる方法も、本発明の技術的範囲に含まれるものと理解されたい。
【0028】
幾つかの好適な実施形態における高エネルギー粉砕技術は、摩擦粉砕である。摩擦粉砕機の概略断面図20を図2に示す。円筒形チャンバ22は、軸26のまわりを回転する回転軸24を有する。チャンバ22の一部を、超合金スクラップ30と粉砕用媒体(例えば、粉砕機ボール32)で満たす。好適な実施形態において、粉砕用媒体32にはステンレス鋼ボールが含まれる。更に、一実施形態において、超合金スクラップ30と粉砕用媒体32の重量比を、少なくとも約1:5にする。幾つかの実施形態においては、この比を約1:5から約1:20とし、幾つかの特定の実施形態においては、約1:10から約1:15とする。回転軸24は、チャンバ22内の粉砕機ボール32を動かすための羽根車28を有する。チャンバ22は更に、連続操作用に、超合金スクラップの取り込み(供給)と取り出しを粉砕中に行うための蓋34を有する。
【0029】
一実施形態において、粉砕を空気中で実施する。他の実施形態においては、チャンバを固く密封して、超合金スクラップの粉砕を真空下又は保護雰囲気中で実施することもできる。
【0030】
更に、プロセス制御剤(PCA)を、超合金スクラップと一緒にチャンバに添加することもできる。プロセス制御剤(PCA)により、粉砕機ボール、円筒形チャンバの内壁、羽根車への超合金スクラップの粘着を防止できる。そのようなプロセス制御剤の非限定的な例には、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛なども含まれる。プロセス制御剤(PCA)は、超合金スクラップの約0.1重量%超の量で添加される。一実施形態において、プロセス制御剤(PCA)の量は、約0.1重量%から約5重量%、好適な実施形態においては、約0.5重量%から約1重量%と、様々であってよい。
【0031】
超合金スクラップの粉砕は、選択した時間にわたり実施され、その回転速度は、部分的にではあるが、チャンバに送り込む超合金スクラップの粒子の大きさ(又は表面積)と、粉砕後のスクラップの所望の大きさ(又は表面積)による。幾つかの実施形態においては、超合金スクラップの粉砕を約1000rpmから約1400rpm、幾つかの特定の実施形態においては、約1200rpmから約1400rpmの回転速度で実施する。更に、幾つかの実施形態においては、粉砕を約1時時間から約8時間、幾つかの特定の実施形態においては、約2時間から約6時間の範囲で実施する。
【0032】
上述のように、超合金スクラップの粉砕を高エネルギー粉砕技術により実施すると、超合金スクラップの形態がフレーク状に変化し、これによってレニウムの遊離速度が向上する。本明細書において「フレーク状形態」という用語は、上述のような技術により超合金スクラップが粉砕された後の形態を指す。フレーク状形態とは、幾つかの実施形態において、薄い又は平らな粒子が分散している形態(「プレートレット」とも称する)であり、その厚みは約1ミクロンから約5ミクロンの範囲である。また、その最大寸法は、厚み寸法に対する(厚み以外の)最大寸法の比率が約10を上回るような寸法である。幾つかの好適な実施形態において、プレートレットの厚みは約1ミクロンから約2ミクロンの範囲である。このような平らな粒子又はプレートレットの形状は通常、不規則的である。
【0033】
本発明の実施形態に従って、高エネルギー粉砕した結果、スクラップの表面積は約0.10m/gから約1.50m/gにまで拡大した。図3は、一実施形態に従った約3.5時間の摩擦粉砕後の超合金スクラップの走査電子顕微鏡写真である。この顕微鏡写真は、未加工の超合金スクラップに比べて表面積が拡大した、フレーク状形態の超合金スクラップを示している。
【0034】
表面積が拡大したフレーク状形態の超合金スクラップは、レニウム回収用の酸化用原料として用いられる。酸化雰囲気、好適には空気、酸素、窒素、アルゴン、オゾン又はこれらの組み合わせの雰囲気下の炉内で、このフレーク状形態の酸化用原料を焼成にかける。レニウムが揮発性酸化レニウムに転換される十分な温度で、十分な時間をかけてフレーク状形態の酸化用原料を焼成にかける。レニウムから酸化レニウムへの転換は、解析により測定される。通常は、原料の酸化で発生した蒸気を溶液中に吹き込んだ後、その溶液を濾過して残渣を集める。XRD(x線回折)を用いてこの残渣を解析することにより、酸化レニウムの生成を同定する。更に、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析法)を用いて、蒸気中のレニウムを同定することもできる。ICP−MSは、濃度が非常に低くても、ある程度の金属や様々な非金属を検出できる、高感度の処理である。
【0035】
焼成温度は一般的に、約600℃から約1000℃の範囲で様々であってよいが、好適な範囲は約800℃から約1000℃である。焼成時間は一般的に、約4時間から約24時間の範囲で様々であってよいが、好適な焼成時間は約5時間から約10時間である。焼成時間は焼成温度に依存し、高温になるにつれて短くなる。
【0036】
このような焼成処理によって、酸化レニウムは昇華後、凝縮する。焼成処理後に炉を冷却した後、凝縮した酸化レニウムを炉から回収する。次に、化学還元などの従来の方法を用いて酸化レニウムを処理し、レニウム金属を回収してもよい。合金スクラップの酸化後にレニウムを回収して精製する方法がB. Heshmatpourらによる論文”Recovery And Refining Of Rhenium, Tungsten And Molybdenum From W-Re, Mo-Re And Other Alloy Scraps”(1982年)の121〜128頁第86節Less-Common Metals(引用により本明細書に組み込まれる)において考察されている。
【0037】
超合金スクラップから回収したレニウムの量は、酸化後の酸化用原料(超合金スクラップ)に残存するレニウムを算出することで求められる。酸化させた超合金スクラップ中のレニウム量を算出する一方法としては、図5に示すNi/Re比解析があるが、これは実施例の部分で詳細に考察する。
【0038】
超合金スクラップの酸化用原料の形態を修飾することにより、酸化中にレニウムを遊離し易くすると有利なことが多い。酸化用原料をフレーク状形態にすると、表面積が拡大するとともに粒径が小さくなるので、レニウムが遊離し易くなる。まず、プレートレット(粒子)の寸法が小さいので、レニウムの大部分がプレートレット(粒子)の表面で酸化を受ける。また、幾らかのレニウムが表面になかったとしても、プレートレットが薄い分、拡散距離が短くなり、レニウム原子が拡散してプレートレットの表面で酸化を受ける。このように、本発明の方法を用いることにより、ほぼ全てのレニウムを回収することができる。
【0039】
レニウムから酸化レニウムへの酸化に要する時間は、超合金中のレニウム原子の拡散性と、レニウム原子が移動する拡散距離によって決まる。粉砕の目的は、少なくとも1つの寸法における拡散距離を短くすることで遊離速度を高めることにある。それぞれの温度でレニウムが示す拡散性を利用して、レニウム原子が粒子(プレートレット)の表面に拡散する時間を求めることができる。例えば、Rene(登録商標)N5の粒子がある一定の大きさを有するとすると、異なる複数の温度においてレニウム原子が拡散する時間を計算できる。便宜上、Rene(登録商標)N5粒子の形状を球形とすると、拡散距離は粒子の半径に等しくなる。
【0040】
図4に、レニウム原子の拡散時間と温度、拡散距離を示したグラフ40を示す。温度をx軸42にプロットし、レニウム原子が粒子の表面に拡散する時間をy軸44にプロットする。拡散距離を約5μmから約2μmに短縮し、これに対応するプロットをプロット46及びプロット48でそれぞれ示す。グラフから明らかなように、暴露温度を高くし、拡散距離を短くすると、拡散時間を大幅に短縮できる。
【0041】
以下の実施例はあくまでも例であって、特許請求の範囲に含まれる技術的範囲を限定するものでは決してない。
【実施例1】
【0042】
Rene(登録商標)N6とRene(登録商標)N5の混合物である加工スクラップ(約50ミクロンの大きさの粒子から成る)0.15kgを、摩擦粉砕機で粉砕した。Rene(登録商標)N6のレニウム含有量は5.4重量%、Rene(登録商標)N5のレニウム含有量は3重量%である。このスクラップに、ステアリン酸をプロセス制御剤として0.5体積(重量)%程度添加した。粉砕を約1200rpmの回転速度で約3.5時間実施した。上記した図3は、超合金スクラップの粉砕後に撮影した走査電子顕微鏡写真である。顕微鏡写真からわかるように、粉砕した超合金スクラップはフレーク状形態である。粉砕後、超合金スクラップの平均粒径は約5ミクロンまで縮小し、スクラップの表面積が約0.15m/gから約1.41m/gまで拡大する。(表面積が拡大した)このフレーク状形態のスクラップを、1000℃の空気流下で3時間、管炉内のアルミナ製るつぼの中で加熱し、酸化させた。レニウムを酸化レニウムから回収するにあたり、例えば電気化学還元などのいかなる適宜の還元処理を用いてもよい。場合によって、スクラップ材料からレニウムを遊離させる酸化ベースの方法に、湿式スクラバーを使用して、揮発酸化レニウムを収集した。この手法の結果得られたレニウム生成物は過レニウム酸を含有していた。
【実施例2】
【0043】
上述の実施例で用いたRene(登録商標)N6とRene(登録商標)N5の加工スクラップ0.15kgを、摩擦粉砕機で粉砕した。プロセス制御剤としてステアリン酸をそれぞれ0.5重量%及び3重量%程度添加した、2種類のスクラップサンプルを作製した。サンプル毎に粉砕を約1200rpmの回転速度でそれぞれ約0.5時間、3時間、並びに6時間実施した。0.5時間、3時間、並びに6時間粉砕を行った後の(表面積が拡大した)フレーク状形態のサンプルを、実施例1で考察したように酸化させた。図5は、その2種類のサンプルが酸化後に示したNi/Re比を粉砕時間の関数として示したグラフ50である。X軸52は粉砕時間、y軸54は超合金スクラップ中のNi/Re比を示す。曲線56及び58はそれぞれ、ステアリン酸が0.5重量%のサンプルと3重量%のサンプルに対応している。
【0044】
存在するプロセス制御剤の量が多くなるにつれて、レニウムが遊離し易くなるので、酸化レニウムに変換されるレニウムの量が多くなる。このことは、3重量%のステアリン酸を有するスクラップのほうがNi/Re比が大きいことからも明らかである。また、それぞれのサンプルが示すNi/Re比が、粉砕時間に伴って大きくなることも、グラフから明らかである。(粉砕時間に伴って)酸化で用いるレニウム量が増加するので、酸化後、超合金スクラップ中のレニウム含有量は減少する。
【0045】
本明細書では、本発明の一部の特徴のみを図示及び説明したが、当業者には多くの修正及び改変が想到可能であろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、そのような修正及び改変も全て、本発明の技術的範囲の範疇にあるものとして含むことを意図している。
【符号の説明】
【0046】
10 未加工の超合金スクラップの走査電子顕微鏡写真
20 摩擦粉砕機の概略断面図
22 円筒形チャンバ
24 回転軸
26 軸
28 回転軸の羽根車
30 超合金スクラップ
32 粉砕機ボール
34 蓋
40 レニウムの拡散時間を温度の関数で示すグラフ
42 x軸(温度)
44 y軸(拡散時間)
46 拡散距離が5μmの場合のプロット図
48 拡散距離が2μmの場合のプロット図
50 Ni/Re比を粉砕時間の関数として示すグラフ
52 x軸(粉砕時間)
54 y軸(Ni/Re比)
56 0.5重量%のPCAを含有するサンプルに対応する曲線
58 3重量%のPCAを含有するサンプルに対応する曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウム含有ニッケル基超合金スクラップからレニウムを回収する方法であって、
前記超合金スクラップの表面積を拡大することにより、フレーク状形態の酸化用原料を形成するステップと、
前記フレーク状形態の酸化用原料を酸化させて、レニウムを揮発性酸化レニウムに転換するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記ニッケル基超合金が、約1重量パーセントから約10重量パーセントのレニウムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記超合金スクラップが、約50ミクロン超の平均粒径を有する粒子から成る、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フレーク状形態の酸化用原料を形成するステップが、前記超合金スクラップを粉砕するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記粉砕が、高エネルギー粉砕技術により実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記粉砕が、約1000rpmから約1400rpmの回転速度で、約1時間から約8時間の範囲内で実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化用原料のフレーク状形態が、少なくとも1つの寸法が約1ミクロンから約5ミクロンの範囲内である複数のプレートレットから成る、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記超合金スクラップの表面積が、約0.10m/gから約1.50m/gに拡大される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記超合金原料の酸化が、約600℃から約1000℃の範囲内の温度で、空気、酸素、アルゴン、窒素、オゾン、及びこれらの2種以上の組み合わせから成る群から選択される酸化雰囲気中で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
レニウム含有ニッケル基超合金スクラップからレニウムを回収する方法であって、
高エネルギー粉砕技術を用いて前記超合金スクラップの粒子の表面積を拡大することにより、フレーク状形態の酸化用原料を形成するステップと、
前記フレーク状形態の酸化用原料を酸化させて、レニウムを揮発性酸化レニウムに転換するステップと、を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−117080(P2011−117080A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259753(P2010−259753)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】