説明

超常磁性ガドリニウム酸化物ナノスケール粒子およびそのような粒子を含む組成物

高信号強度、高緩和度および高固有磁気を有する造影剤を提供するために有用な超常磁性ナノスケール粒子が、開示されている。該開示された造影剤は、実用性および磁気共鳴画像法(MRI)および関連する技法を有するであろう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超常磁性ガドリニウム酸化物ナノ粒子、ならびに選択的組織画像化および細胞または分子分析におけるそれらの有用性に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法(MRI)は、高空間解像力、および軟部組織を識別する特有の能力によって、臨床用画像診断に対する最も重要な手段の1つになった。MRI造影剤の存在は、水素核の緩和時間TおよびTを変えることにより、画像に影響を及ぼす。異なる組織における異なる水素緩和時間は、MRIにおける画像コントラストを引き起こす。MRIにおける水素緩和時間には、TおよびTの2つの型が存在する。Tは、縦緩和時間と呼ばれ、磁場パルスによる摂動の後の平衡への磁化の回復を決定する。Tは、横緩和時間と呼ばれ、磁気モーメントの間の相互作用による信号の脱位相を決定する。更に、T(「T星印」)は、磁場不均一性による効果も含む実際の横緩和時間である。Tを減少させることの効果は信号増加であり、Tを減少させることの効果は信号減少である。造影剤の存在下において信号が増加するかまたは減少するかに応じて、造影剤を、陽性または陰性の造影剤のいずれかとして分類できる。
【0003】
全ての造影剤は、両方の緩和時間に影響するが、いくつかの造影剤は、TまたはTのいずれかにおいて卓越した効果を有する。造影剤の常磁性元素のいくつかの特性は、MR画像のコントラストに影響を及ぼす。最も重要な特性は、磁気モーメント、電子緩和時間、および内または外の配位圏のいずれかにおける水を配位する能力である。常磁性造影剤の循環、拡散および水交換はまた、重要な機構である。スキャニング条件の機能としてのスピンエコーシーケンスからの信号は、以下の式のように表すことが出来る。
【0004】
【数1】

(式中、ρ=スピン密度、TE=エコー時間、およびTR=繰り返し時間である。)式1から、緩和時間が信号に高度に影響を及ぼすことを見受けることが出来る。2つの緩和時間の間には競合的関係が存在し、これは、観察された造影剤濃度に対する信号におけるピークを説明する。観察された緩和率(1/T、i=1、2)は、造影剤の濃度(C)に対し比例する:
【0005】
【数2】

(式中、1/T(観察された)は、造影剤の存在下における緩和時間であり、1/T(固有の)は、固有組織緩和時間であり、rは、緩和定数である。)
【0006】
Gd3+のイオン錯体(キレート)は、その磁気特性ゆえに、臨床用MRIにおける造影剤として一般に使用されている。しかし、そのような造影剤の弱い信号強度増強は、分子画像化に対して不十分である。より良好なコントラスト、異なる組織のより良好な描写に対する増加する要望によって、より大きい信号強度増強を有する造影剤に対する、増加する要求が存在する。動脈硬化性プラークまたは肺塞栓症の選択的画像化は、広範な疾患の早期診断に対する大きな可能性を有する新規のMRI適用の例である。MRI造影剤の新たな世代のものの中で、特有の磁気特性を有する生体適合性のナノ粒子は、非常に興味深い開発対象である。超常磁性ナノ粒子は、分子結合部位につき、より高度な緩和性を有するので、キレートと比較して、分子画像化に対する有利な特性を有する。従って、超常磁性ナノ粒子による磁気追跡のための新たな方法は、インビボ細胞および分子MRIに対する新たな可能性を提供する(Jaffer FA et al.,JAMA,2005;293:855−862;Gillies RJ.J Cell Biochem.2002;39:231−238;Dijkhuizen RM,et al.J Cerebral Blood Flow and Metabolism,2003;23:1383−1402;and Wickline SA et al.,J Cellular Biochemistry.2002;S39:90−97を参照)。超常磁性酸化鉄(SPIO)粒子は、新規の臨床適用および分子画像化のために、調査された(Perez et al.Nature Biotech 20:816(2002))。SPIOは、非常に高いT緩和効果を有するので、細胞および分子相互作用のT‐マッピングにふさわしい。しかしながら、SPIOsは、磁化率アーチファクトによる信号損失を引き起こす。これらのアーチファクトは、組織空隙から識別することが出来ない信号空隙として、画像中で示される。このようなアーチファクトはまた、組織中の微細構造の描写を妨げる可能性がある。これらは陰性造影剤の主な不利な点である。
【0007】
米国特許出願第2004/0156784号(Haase et al.)は、リン酸ガドリニウムから作成された粒子を記載し、これは、水と比較して100から200%改善された信号強度を示す。しかし、粒子サイズ制御のためのキャッピング方法がそこでは示唆されないので、この方法によって、超常磁性特性のために必要な1から10nmの十分に小さい粒子サイズを得ることが困難であるようである。
【0008】
ガドリニウムを含む粒子のもう1つのタイプは、Morawskiらによって、Magnetic Resonance in Medicine,51:480(2004)において考察され、ここで、ガドリニウムが充填されたペルフルオロカーボンナノ粒子を使用する臨床用MRI装置によって、単一細胞中のピコモル濃度における分子エピトープの量を定量することが示唆されている。しかし、これらの粒子は、比較的大きいサイズ(〜250nm)を有し、超常磁性を示さない。
【0009】
磁気粒子画像法(MPI)は、高解像度画像化のための技法として新たに提起された。この技法は、造影剤それ自身の磁気特性に直接作用し、プロトン緩和時間(これは従来の造影剤の機構である)への間接的な影響に作用しない。MPIは、高空間解像度および高感度の両方に対して可能性を有する。実用的な使用はまだ調査されていないが、MPI(Nature,June 2005)の原理の証明が示されている。将来のMPIは、強度の固有の磁気を有する磁気粒子の検出に依存し、超常磁性は望ましい特性であろう。
【0010】
上で述べられた理由のために、高信号強度、高緩和性、および高固有磁気を有する造影剤の必要性が存在する。本発明は、言及された要求を満たす造影剤として使用することが出来る、生体適合性、超常磁性希土類ナノ粒子を提供する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、超常磁性粒子を提供することであり、超常磁性粒子は、磁気共鳴影像法において、活性物質の低濃度を有する組成物中で使用する場合に、優れたコントラスト増強を可能にする。
【0012】
分子画像化または細胞プロセスの画像化が許容されるために、造影剤のコントラスト特性を改良することも、本発明の目的である。
【0013】
本発明のもう1つの目的は、所望の組織での造影剤蓄積を可能にするために、組織特異的リガンドで標識することに適した生体適合性ナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下の段落に記載の本発明は、言及された要求を満たす、ガドリニウムに基づくナノ粒子製剤を提供することを目的とする。一般に、本発明は、50nm未満、好ましくは約0.1から50nm、およびより好ましくは、約1から15nmの平均サイズを有する希土類金属酸化物を含む超常磁性ナノスケール粒子に関する。このような粒子は、通常、示されたサイズの範囲内で、粒子の1つまたはいくつかの分画を含み得る。好ましい希土類金属酸化物は、ガドリニウムおよびジスプロシウムの酸化物を含む。ガドリニウム酸化物、詳細にはGdを含む粒子が、特に好ましい。本発明の言及された粒子は、それらの特性を修飾するために、鉄材料などの付加的な材料の小さな分画を更に含んでよい。以下の実験の段落中で記載される、ガドリニウム酸化物ナノ粒子の合成方法は、約4nmの中間サイズを有する、約0.5から15nmの間のサイズの粒子を生じる。サイズ分別の方法によって、狭い分布を有する分画:1から3nm、3から6nm、6から9nm、9から15nmが得られる。
【0015】
超常磁性は、材料が非常に小さい結晶構造(およそ1から15nm)から構成される場合に起こる。材料の双極子は、同じ方向を有し、全体の微結晶の得られた磁気モーメントは、外部の磁場と並ぶであろう。この場合、温度がキュリー温度またはネール温度未満であっても、また熱エネルギーが、隣接する原子の間のカップリング力を克服するには低すぎても、熱エネルギーは、完全な微結晶の磁化の方向を変えるのには十分高い。最も重要なことに、本発明によるナノスケール粒子、および該粒子を含む組成物は、超常磁性特性を示す。本発明の粒子は、好適には生体適合性および/または生体特異的な被覆を有する。被覆の導入は、一般に粒子製造過程の一部であり、いくつかのこのような過程は、該適用の以下の実験の部で明示される。該被覆は、より大きな単位への粒子の凝塊形成、および超常磁性の結果として起こる損失を防ぎ、粒子を、選択された生物学的環境において適合可能とし、および/または一定の生体分子特異性の導入を可能にする、役目を果たす。適した被覆剤は、ジエチレングリコール(DEG)、ポリエチレングリコール、クエン酸、オレイン酸、16−ヒドロキシヘキサデカン酸、16−アミノヘキサデカン酸、ヘキサデシルアミン、またはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)を含むが、限定されない。より好ましくは、該被覆は、ジエチレングリコール(DEG)および/またはクエン酸を含む。好ましい実施形態において、該粒子は約5nmの平均サイズを有し、ジエチレングリコール(DEG)を含む被覆を有する。もう1つの特異的な実施形態に従って、該被覆は、葉酸に結合した(例えば、アミド結合でまたはスペーサー基で)ポリエチレングリコールを含み、それにより、腫瘍組織に対する増加した特異性を有する粒子を提供する。本発明はまた、言及された超常磁性粒子を含む組成物に関する。該組成物は、通常、磁気共鳴画像法(MRI)に対する造影剤としての有用性を有するであろう。該組成物は、pH調整剤、等張性調整剤、および/または全身、特定の体の部位もしくは組織試料への投与(例えば、非経口投与による)に適したほかの薬剤を限定されずに含む、適切なアジュバントまたは賦形剤を含む。適切には、そのような組成物中のガドリニウムの濃度は、0.01から500mMの範囲、好ましくは約0.01から5mMの間、およびより好ましくは約0.01から2.5mMの間である。投与される該造影剤の濃度は、特定の適用のために望ましいおよび必要である用量に大きく依存し、この理由のために広い範囲が与えられる。しかし、濃度および提供された用量を、本発明によって、有意に減少させることが出来ることが予想される。
【0016】
本発明のガドリニウム酸化物に基づいた超常磁性粒子を含む組成物は、ガドリニウムのイオン錯体の組成物によって得ることが出来るTおよび/またはTの値未満に、プロトンに富む環境における隣接する水素核の緩和時間Tおよび/またはTを減少させる能力を有する。更に、言及された組成物に基づく造影剤は、水よりも、少なくとも500%、好ましくは700%より大きい、より大きい信号強度を有し、0.1mMから1.5mMの濃度範囲におけるナノスケール酸化鉄粒子によって得られるよりも、より高い信号強度を提供する。この比較は、以下により詳細に説明されることになる参照としての、市販の鉄に基づく製剤を使用する比較可能な金属粒子サイズを用いて、同様の濃度範囲(金属原子のmol)に亘って行われる。
【0017】
本発明の以下の実例の記載は、本発明のナノサイズ粒子、およびこのような粒子を含む組成物が、当分野の現状(イオン錯体)と比較して、高いコントラスト増強および有意に改良された緩和性を提供することが出来ることを示す。従って、本発明のナノ粒子およびその組成物は、ガドリニウム濃度に関して高い識別性での細胞追跡に対する有用性を見出すことが出来、分子相互作用または細胞プロセスの研究のためのMRI(磁気共鳴画像法)を行う方法における使用を見出す。更に、本発明の超常磁性粒子および超常磁性粒子を含む組成物は、動脈硬化の早期の診断、塞栓症の診断、移植された細胞の追跡、並びに他の病的状態(広がった損傷が事実となるまで診断および治療することが今までのところ困難または不可能である。)の早期の開始機序の追跡を助けるために、血管中の斑を研究するための方法論の発展を可能にする。特に、本発明は、早い病期の病的状態を識別する、および治療学的効能を決定するための補助ツールとしての選択された療法の開発を調査するのに有用である。これは、投与された治療薬の用量を最適化し、および選ばれた療法を取り替えるか、または補う必要性の早期の指示を提供する可能性を向上させる。
【0018】
(本発明の詳細なおよび例示する記載)
【実施例1】
【0019】
ジエチレングリコール(DEG)で被覆されたGdナノ結晶の合成
ナノ結晶性ガドリニウム酸化物を、ポリオール法によって合成した(Feldmann C.Polyol−mediated synthesis of nanoscale functional materials.Adv.Funct.Mater.2003;13:101−107;Bazzi R et al.,Synthesis and luminescent properties of sub−5−nm lanthanide oxides nanoparticles,Journal of Luminescence.2003;102−103:445−450;およびSoderlind,F.,et al.,Synthesis and characterization of Gd nanocrystals functionalized by organic acids,J.Colloid Interface Sci.,288:140−148 (2005)で、前に記載のように)。
【0020】
Gd(NO6HO(2mmol)、固体NaOH(2.5mmol)および脱イオン水(数滴)を、ジエチレングリコール15ml((HOCHCHO、DEG)中に溶解し、該混合物を140℃に加熱する。該反応物が完全に溶解したならば、該温度を180℃に上げ、4時間一定に保ち、暗黄色のコロイドを得る。該コロイドを脱イオン水で稀釈し、ガドリニア濃度を既定の値(例えば、2.5mM)に調整する。試料を、注意深く清潔にしたPtるつぼ中で700℃で3時間、加熱することにより、熱重量分析法で濃度を確認した。X線粉末回折および透過型電子顕微鏡によってあらかじめ確認されたように、DEGでキャップされたGdナノ結晶は、1から15nmの範囲におけるサイズを有する結晶程度の大きさである。これらの結晶は、狭い分布を有する配合された分画である:1から3nm、3から6nm、6から9nm、9から15nmは、結合されたフィルター/遠心分離(A−フィルターAB Vatra Frolunda,SEから得られたVIVASPIN フィルター)によって得られる。
【実施例2】
【0021】
他の試剤で被覆されたGdナノ結晶の合成または代替合成
Gd(NO6HO(2mmol)およびNaOH(6mmol)を、2つの分離ビーカー(それぞれ、DEG10mlを含む)中に溶解した。該2つの溶液を混合し、約210℃に加熱し、攪拌下、30分間その温度を保持した。熱い溶液に、DEG中のオレイン酸(5ml中1.6mmol)を加え、茶色がかったシロップを得た。洗浄およびメタノール中での数回の遠心分離の後、オフホワイト色の粉末を収集した。オレイン酸を、それぞれクエン酸、16−ヒドロキシヘキサデカン酸、16−アミノヘキサデカン酸、またはヘキサデシルアミンで置換した。全ての場合において、DEG5ml中の1.6mmolの酸/アミンを使用した。
【0022】
Gdナノ結晶をまた、やや異なる方法(燃焼方法と、適切に呼ばれる方法)で調製することが可能であり[W.Zhang,et al.,“Optical properties of nanocrystalline Y:Eu depending on its odd structure”,J.Colloid and Interface Sc.,262(2003)588−593]、以下の方法で行った。Gd(NOおよびアミノ酸グリシン(それぞれ0.1M)の等量(10ml)を、フラスコ中で混合し、乾燥近くまで沸騰させた。更なる加熱の1分または2分後、茶色のべとついた物は自己発火し、微細な白色の粉末を形成した。
【実施例3】
【0023】
X線光電子分光法(XPS)による特性決定
組成物および粒子の結合エネルギーを研究することにより、正確なGdナノ結晶が調製されたことを確認するために、XPSスペクトルを、単色化されていないAlKα光子(1486.6eV)およびCLAM2分析計を使用しVG機器上で記録した。X線銃の粉体は、300Wであった。該スペクトルは、基体表面の法線に関して30°の取り出し角を有する光電子に基づいた。測定の間、分析チャンバー中の圧力は、310−10mbar、温度は297Kであった。VGX900データ分析ソフトウェアを使用して、ピークの位置を分析した。ケイ素(SiO)基体を清潔にするために、該表面を、MilliQ水:HCl(37%):H(28%)の6:1:1混合物で5から10分間、80℃で第一に洗浄し、次いで、MilliQ水:NH(25%):H(28%)の5:1:1混合物で5から10分間、80℃で洗浄した。それぞれの洗浄段階の後、該ケイ素表面を、MilliQ水で注意深く濯いだ。ジエチレングリコール(Gd−DEG)でキャップされたガドリニウム酸化物ナノ粒子を、塩基性のMilliQ水と混合し、2000rpmの速度で、新しく清潔にされたケイ素(SiO)基体上で回転被覆し、次いでXPS機器中に直ちに配置した。
【0024】
ケイ素基体上に回転被覆されたGd−DEGナノ粒子の広いスキャンスペクトルを、図1a中に示す。最も強い光電子ピークは、1120eVおよび1188eVで見受けられる。これらの2つのピークは、それぞれ、Gd(3d3/2)およびGd(3d5/2)に起因する。該ピークの位置は、Gdに対する酸化レベルと一致する[Raiser D,et al.:Study of XPS photoemission of some gadolinium compounds. J Electron Spectrosc.1991;57:91−97]。これは、試料の酸化レベルを実証している。532eVで見受けられるO(1s)ピークは、3つの異なる成分(すなわち、Gd、キャッピング分子DEGおよびケイ素(SiO)基体)からの酸素から成る。ナノ粒子へのキャッピング分子の配位における、より詳細な分析は、進行中である。151eVおよび99eVにおける2つのピークは、基体からの寄与として、Si(2s)およびSi(2p)に起因する。回転被覆されたGd−DEGの塗膜は薄く、従って、XPS測定の間の試料の補充を最小限にする。978eVで見受けられる顕著なピークは、O(KLL)オージェ線に起因する。
【0025】
燃焼方法で作成された、またはオレイン酸もしくはクエン酸でそれぞれキャップされたGdナノ粒子の試料(調製方法は、前に開示された手順と一致する。)をまた、同じ手順で、X線光電子分光法にて調査した。SiO基体上に回転被覆された、オレイン酸をキャップされたGdナノ結晶のGd(3d)スペクトルを、図1bに示す。Gd(3d)レベルは、それぞれ、1187.7eVおよび1220.3eVでのGd(3d5/2)およびGd(3d7/2)ピークを有する、スピン軌道分裂二重項から成り立つ。線形およびピークの位置は、インシート(In sheet)中に圧縮されたGd粉末について先に公開されたデータと良く一致し、これはこの試料がGdから成り立つことを確認する(D.Raiser,et al.,J.Electron.Spec.57(1991)91−97)。クエン酸でキャップされた粒子、および燃焼方法で作成された粒子に対するGd(3d)スペクトルは、驚くにはあたらないが、オレイン酸でキャップされた粒子と一致した。
【0026】
オレイン酸でキャップされた粒子のC(1s)スペクトルは、3つの異なるピークを示す(図1c)。285eVにおける主なピークは、オレイン酸における脂肪族炭素に帰する。約287におけるピークは、炭化水素に帰する可能性があり、ジエチレングリコールにおける末端炭素に対応する。289.1eVにおけるピークは、オレイン酸におけるカルボキシル基に対応する。オレイン酸でキャップされた粒子のO(1s)スペクトルは、3つのピークを示す(図1d)。531.1eVにおけるピークは、Gd酸化物における酸素に対応し、532.1eVにおける顕著なピークは、予想されるように、SiO基体からの寄与である。533eVにおける該ピークは、DEGにおけるC−O−CおよびC−OHと一緒になってオレイン酸の末端基におけるカルボニル炭素に起因する。クエン酸でキャップされた粒子のO(1s)スペクトルは、3つのピークを示す(図1e)。531.2および532.3eVにおけるピークは、それぞれ、ガドリニア酸素、およびクエン酸のカルボニル基(C=Oおよび/またはO−C=O)に対応する。533.9eVにおける第3のピークは、エステル基(C−O−C=O)における酸素に関係する。合成がアルコールおよびカルボキシル酸を含むので、エステル形成は、合成の間に起こる可能性がある。燃焼合成からの試料のO(1s)スペクトルはまた、3つのピークを示す(図1f)。上のように(図1dおよび1e)、531.2eVにおけるピークは、ガドリニア酸素に対応する。532.3における顕著なピーク、および535.6eVにおけるより小さいピークは、興味深い。前者は、カルボニル酸素(C=Oおよび/またはO−C=O)に帰する可能性があり、後者は、最も近い隣接物として窒素を有する酸素に帰することができる。これらのピークに対するソースは、未反応反応物(グリシン、硝酸ガドリニウム)および/またはカルボニルならびに反応生成物を含む窒素のいずれかである。
【実施例4】
【0027】
透過型電子顕微鏡(TEM)による特性決定
TEM調査を、200kV.で操作されるPhilips CM20電子顕微鏡で行った。DEGルートで調製されたGdナノ粒子のサイズは、図3のHREM顕微鏡写真にみられるように、約5nmであった。コントラストが不十分であるが、(222)平面(d=3.1Å)は可視である。オレイン酸による合成において得られるナノ結晶のHREM顕微鏡写真(およそ直径15nm)を図4に示す。キャッピング層(キャッピング層がある場合)からのコントラストは存在しないが、結晶を通り抜ける、乱されていない(222)平面が見られる可能性がある。燃焼合成において得られるナノ結晶のTEM画像は、図5で示される。少なくとも3つのナノ結晶の凝集は、可視であり、サイズは約10nm以下である。TEMからの結果は、一様に結晶のナノ粒子が得られたことを示した。
【実施例5】
【0028】
試料調製
実施例1からのGd−DEGの試料(約5nmの平均粒子サイズおよび約1から15nmの範囲の粒子サイズを有する)およびGd−DTPA(Magnevist(登録商標))を、HOを有する10mmのNMR試験管内で、0.1から2.5mMの9つの異なるGd濃度で調製した。測定において、試験管を、生理食塩水を有するボウル中で、22から23℃(これはスキャナー室の温度であった)で浸漬した。
【実施例6】
【0029】
緩和時間測定および磁気共鳴画像法
およびT緩和時間を、頭部用コイルを使用して1.5T Philips Achieva全身スキャナーで測定した。マルチエコーIRシーケンスで交互配列された2D混合マルチエコーSEを、測定のために使用した[kleef_mrm_1987]。画像化時間パラメーターを変化させて、緩和時間計算における標準偏差を最小限にした:TE=30ms、TR(SE)=500ms、TI=150msおよびTR(IR)=1150ms(セット1);TE=50ms、TR(SE)=760ms、TI=370msおよびTR(IR)=2290ms(セット2)。他のMRパラメーターは、FOV=23cm、スライスの厚み=7mm、エコーの数=4であった。
【0030】
Gd−DTRAと比較して、HO中のガドリニウムナノ粒子に対するプロトン緩和性における実質的な増加が、得られた。表1は、Gdの緩和性が、Gd−DTRA:r(Gd)/r(Gd−DTPA)=1.89、r(Gd)/r(Gd−DTPA)=1.94に対する値のほぼ2倍であった。図5aおよび5b中の1/Ti対ガドリニウム濃度のプロットは、式2に従う良好な適合を有する直線関係(r、r>0.99、表1)を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
信号強度の分析は、緩和時間測定のために使用されたシーケンスのスピンエコー部分における第1のエコーからのデータ(TE=30ms、TR=500ms(図6))を使用して、Gd−DTPAと比較して、Gd試料の低濃度において、より高い信号強度を示した。より高濃度(>0.9mM)において、強いT効果は、ナノ粒子試料に対する信号を弱めた。すなわち、Gd試料は、このシーケンスにおけるおよそ1.2mMで頂点に達するGd−DTPA信号強度と比較して、より低濃度(0.6mM)における信号強度ピークに到達した。
【0033】
該分析は、Gd−DTPAと比較して、HOにおけるGdに対する緩和性においてかなりの増加を示した。これらの実験のもう1つの興味深い特徴は、顕著なT減少効果、および低濃度でみられる、結果として起こる信号増加であった。血漿における0.6mM未満の濃度範囲は、臨床適用に対して最も関連性のあるものである。Magnevist0.1mmol/kgの用量において(製造業者によって推奨されるような)、Gdの検出された血漿濃度は、注射後の3分において0.6mM、注射後の60分において0.24mMである(Medical Product Agency of Sweden,FASSにより提供されたデータ)。
【0034】
図6に示されたスピンエコーシーケンスにおけるGdに対する信号強度は、両方とも、Gd−DTPA信号よりも、より急激に上昇および降下した。低濃度(<0.6mM)における急激な信号強度の増加を、高いT緩和性により説明することが出来る。しかし、高濃度において、T低下効果は、Gd粒子に対して、より明白であった。より早い信号降下は、粒子部位における磁場不均一性による磁化率効果によって引き起こされる可能性がある。
【0035】
更に、Gd−DEGおよびResovist(登録商標)の試料を、上のような同様の条件下で調製し、試験した。0.1と1.5mMの間の、6つの異なるGdおよびFe濃度が存在した。Resovist(登録商標)は、超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPIO)のフェルカルボトラン(ferrocarbotran)コロイドゾルに基づいている。該粒子は、4nmの鉄心上の、60nmの流体力学的直径を有する。緩和率および信号強度は、図8、9および10に示されている。これらの結果は、Resovist(登録商標)が、Gd−DEGと比較してより高いTおよびT緩和率を有することを実証する。曲線を比較する場合、Resovist(登録商標)が、有意により高いT緩和率を有することは明らかである。これは、Resovistが、Gd−DEG(これは陽性コントラストを提供する。)と比較して陰性コントラストを提供することを意味する(図10における信号強度曲線を参照)。従って、Gd−DEG粒子は、SPIOに基づくものに対して補完的な特性を有する造影剤を可能にする。
【0036】
Gd信号強度と、水の信号強度との比較に対して、図11で示すように、信号強度は、スピンシーケンス(TE=30ms、TR=500ms)緩和時間測定における第1のエコーで達成された。該試験管を、生理食塩水中に浸漬することにより、水およびGd試料における信号強度を同時に測定した。
【実施例7】
【0037】
単球調査
単球実験について、THP−1細胞を、L−グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Invitrogen)を加えて、10%ウシ胎児血清(GIBCO,Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を有するRPMI1640培地で培養した。細胞を計数し、97%生存可能であることが見出された。細胞を、0.1、0.3、0.6および0.9mMの濃度におけるGd−DEGまたはGd−DTPAで処理した。1つのウェルの細胞を、未処理のままにしておいた。対照系列を、Gd−DEG粒子の濃度だけを変えて、細胞培養培地で調製した。それぞれ24ウェルの2つのプレートを、上記のように調製した;1つのプレートを、Gd−DEGおよびGd−DTPAで2時間インキュベートし、もう一方のプレートを、8時間、37℃でインキュベートした。インキュベーションの後、細胞をファルコンチューブ(Falcon tube)に移し、媒質で2回洗浄し、1100rpmで8分間遠心分離した。単球実験は、洗浄手順の後のナノ粒子が、細胞に付着しているかまたは細胞によって内在化されるかのいずれかであることを示した。Gd−DTPAは、洗浄の後の細胞懸濁液中に存在しなかった。TおよびT緩和時間の両方は、より高いGd濃度、およびまたより長いインキュベーション時間で減少した(データは示されない。)。8時間の培養から得られたTマップを、図7で示す。
【0038】
Magnevist(Gd−DTPA)が製造され、細胞外空間中に残された。図4bにおいて、Gd−DTPAは、試料から効果的に洗い出されたことが見られる。対照的に、Gdは、洗浄後に細胞培地中に残ったままであった(図4a)。マクロファージなどの一定の細胞タイプが、食菌作用を通して小さい粒子を内在化することが出来ることが示された[Weissleder R,et al.:Magnetically labelled cells can be detected by MR imaging,J Magn Res Imag.1997;7:258−263]。酸化鉄ナノ粒子でインキュベートされたTHP−1についての先行の研究は、細胞取り込みおよび用量/インキュベーション時間の間の直線関係を示す[Bowen CV,et al.:Application of the static dephasing regime theory to superparamagnetic iron−oxide loaded cells,Magn Res Med.2002;48:52−61]。これらの先行の結果は、本実験においてまた、Gd−粒子が、細胞によっておそらく取り入れられた可能性があることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1a】図1aから1fは、ケイ素基体上に回転被覆された、合成された異なるGdナノ粒子のワイドスキャンXPSスペクトルを示す。
【図1b】図1aから1fは、ケイ素基体上に回転被覆された、合成された異なるGdナノ粒子のワイドスキャンXPSスペクトルを示す。
【図1c】図1aから1fは、ケイ素基体上に回転被覆された、合成された異なるGdナノ粒子のワイドスキャンXPSスペクトルを示す。
【図1d】図1aから1fは、ケイ素基体上に回転被覆された、合成された異なるGdナノ粒子のワイドスキャンXPSスペクトルを示す。
【図1e】図1aから1fは、ケイ素基体上に回転被覆された、合成された異なるGdナノ粒子のワイドスキャンXPSスペクトルを示す。
【図1f】図1aから1fは、ケイ素基体上に回転被覆された、合成された異なるGdナノ粒子のワイドスキャンXPSスペクトルを示す。
【図2】DEGでキャップされたGdナノ結晶のHREM顕微鏡写真である。
【図3】可視(222)平面を有するオレイン酸でキャップされたGdナノ結晶のHREM顕微鏡写真である。
【図4】燃焼合成からのGdナノ結晶のHREM顕微鏡写真である。
【図5a】図5aおよび5bは、本発明品およびGd−DTPA(Magnevist)によるGdナノ粒子についての、1/T対ガドリニウム濃度のプロットの形態における緩和度を示す。
【図5b】図5aおよび5bは、本発明品およびGd−DTPA(Magnevist)によるGdナノ粒子についての、1/T対ガドリニウム濃度のプロットの形態における緩和度を示す。
【図6】図5aおよび5bの緩和時間測定のために使用されたスピンエコーシーケンスにおける、第1のエコー(TE=30ms、TR=500ms)からの信号強度を示す図である。
【図7】0.1、0.3、0.6および0.9mM Gdで8時間インキュベートされた単球のT‐マップを示す図である:a)Gd、b)Gd−DTPA。
【図8】本発明品およびResovist(登録商標)によるGdナノ粒子についての、1/T対濃度のプロットの形態における緩和度を示す図である。
【図9】本発明品およびResovist(登録商標)によるGdナノ粒子についての、1/T対濃度のプロットの形態における緩和度を示す図である。
【図10】本発明品およびResovist(登録商標)によるGdナノ粒子の緩和時間測定のために使用されたスピンエコーシーケンスにおける第1のエコー(TE=30ms、TR=500ms)からの信号強度を示す図である。
【図11】図11は、0.1から1.5mM Gdの濃度における水およびGdナノ粒子の信号強度における比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約0.5から50nmの間の平均サイズを有するガドリニウム酸化物を含む、超常磁性ナノスケール粒子。
【請求項2】
生体適合性および/または生体特異的被覆を有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
ジエチレングリコール(DEG)および/またはクエン酸を含む被覆を有する、請求項2に記載の粒子。
【請求項4】
葉酸を含む被覆を有する、請求項2に記載の粒子。
【請求項5】
被覆が、葉酸に結合したポリエチレングリコールを含む、請求項4に記載の粒子。
【請求項6】
ジエチレングリコール(DEG)を含む被覆を有する、約5nmの平均サイズの、請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の粒子を含む、組成物。
【請求項8】
0.01から500mM、好ましくは0.01から2.5mMのガドリニウム濃度を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
身体部位への投与に適合された、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
非経口的に投与可能なビヒクルを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
プロトンに富む環境における隣接する水素核の緩和時間Tおよび/またはTを、ガドリニウムのイオン錯体の組成物によって得られたTおよび/またはTの値未満に減少させる能力を有する、請求項7から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
0.1mMから1.5mMの濃度範囲におけるナノスケール酸化鉄粒子によって得られるよりもより高い信号強度有する、請求項7から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
請求項7から12に記載のいずれかの組成物を含む、造影剤。
【請求項14】
水よりも少なくとも500%、好ましくは700%より大きい、より良好な信号強度を有する、請求項13に記載の造影剤。
【請求項15】
分子相互作用または細胞プロセスの研究のための、請求項13または14のいずれかに記載の造影剤を投与することを含む、MRI(磁気共鳴画像法)を行う方法。
【請求項16】
陽性造影剤の調製における、請求項1から12のいずれかに記載の、超常磁性粒子または組成物の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−513053(P2008−513053A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531135(P2007−531135)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001335
【国際公開番号】WO2006/031190
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507081164)オプトクリツト・アー・ベー (2)
【Fターム(参考)】