説明

超臨界流動媒体を用いたアルミニウムの水素化

アルミニウムをアランに制御可能に変換する装置及び方法。本発明のシステムにおいて、アランを形成するアルミニウムと水素との反応は、反応容器内にエーテル等の補助溶媒を任意に含んで、反応媒体としてCO等の超臨界流体を用いて100℃未満の温度で実施される。不活性ガスは、酸素等の望ましくない気体を排除するのに使用される。アルミニウムと水素との反応は、超臨界圧力のCOに添加される溶媒としてMeOを用いて約60℃で進行することが認められた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的に水素化、特に超臨界流動媒体を用いて金属を水素化するシステム及び方法に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、同時係属中の米国仮特許出願第60/873,105号明細書(2006年12月6日出願)に対する優先権及びこの利益を主張しており、この出願全体は参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
水素吸蔵材又は水素吸蔵媒体(HSM)は、化学的に又は物理的に結合した形態で水素を含有する或る種の化学物質である。それらは、輸送、材料製造及び材料加工の分野、並びに研究調査における広い利用可能性を有する。特に、第1の用途である、燃料電池を動力とする輸送手段、又は水素燃料の車載型供給源を必要とする「水素経済」に用いられる内燃機関のためのHSMに目下の関心が注がれていおり、また気体としての又は冷却液体としての水素の吸蔵は、補充容器の間に十分な距離を設けなければならないため極めて困難である。
【0004】
過去30年間にわたり楽観視されていたにもかかわらず、水素経済の見通しは非現実的なままである。米国エネルギー省(DOE)ベーシックサイエンスグループは2003年に、水素経済を実用的なものとする以前に対処しなければならない根本的な科学的課題の概要を示すレポート(landscape report)を発行した。このレポートでは、実用的なHSMに対して以下の要件(desiderata)が特定されている。
1.高い水素吸蔵能(最低6.5wt% H)
2.低いH生成温度(理想的には60℃〜120℃付近のTdec
3.H吸着/脱離の好適な動態
4.低コスト
5.低毒性及び低い危険性
【0005】
アラン(AlHは、10.1wt%水素を含有し且つ脱水素化を経て単純な非毒性Al粉末となるとなる高分子網目構造固体である。これは、長期的なDOEによる水素系の目標を達成する優れた候補材料である。「超臨界流体を用いた水素吸蔵材の合成、再充填及び加工処理(SYNTHESIS, RECHARGING AND PROCESSING OF HYDROGEN STORAGE MATERIALS USING SUPERCRITICAL FLUIDS)」と題された本発明者らの先の特許出願(特許文献1)の出願時から、アランは、輸送手段用の水素の吸蔵に関するHSMとしての重要な候補物質となっていた。しかしながら、アランの分かっている全ての相の脱水素化エンタルピーから、極めて高い圧力下でしか直接的な再水素化が達成され得ないことが示されるため、大規模な技術として実用的でない。このため、実際に実用的な水素吸蔵材としてのアランの利用は、アルミニウムの水素化についての代替法が開発され得なければ実現することができない。現在、式1及び式2に詳述するような、対応するハロゲン化物又は他の誘導体へのAlの変換、その後の生理食塩水又は錯体水素化物とのメタセシス反応を伴う大変な労力を要し多大な費用がかかり且つ無駄の多い経路を除いて、このような結果に至ることが知られている方法はない。
Al+3LiCl+1.5H→AlCl+3LiH(Hの取り込み) 式1
AlCl+3LiH→Al+3LiCl+1.5H(Hの放出) 式2
【0006】
これらの反応は、スキーム1に例示されるサイクルにおいて適用され得る。式1で与えられる水素の取り込み反応は、サイクルの左側に示されるように、Al+3LiClを、中間体Al+Cl+3Li+Hを経てAlCl+3LiHに変換すると考えられる。さらに、式2で与えられる水素放出反応は、サイクルの右側に示されるように、AlCl+3LiHを、中間体AlH+3LiClを経てAl+3LiClに変換すると考えられる。
【0007】
【化1】

【0008】
化学試薬としてのアランの使用を記載しているレポートは、少なくとも1947年には公開文献に掲載されている。Petrie他に対する特許文献2(2001年5月8日発行)は、水素供給源として金属水素化物を用いてアランを調製する種々の方法を記載している。
【0009】
O'Brienに対する特許文献3(2003年3月25日発行)は、エタン又はヘキサン等の溶媒を用いた水素の室温パッケージング手段を開示している。炭化水素が超臨界相にあれば、大量のHガスをこれらの炭化水素に溶解することができる。O'Brienは、有機溶媒をHSMとして有効に用いて水素と超臨界流体との高い相溶性を利用している。第7欄41行目〜42行目で、本特許は、この特許に開示されるシステム及び方法を用いることにより、「金属水素化物タイプの吸蔵系の重量が大きくなることも回避される」と教示している。この記述から、水素の吸蔵に金属水素化物を使用することは教示していないと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際出願第PCT/CA2005/001908号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,228,388号明細書
【特許文献3】米国特許第6,536,485号明細書
【発明の概要】
【0011】
一態様において、本発明はアルミニウムをアランに変換する装置に関する。当該装置は、大量のアルミニウム粉末又はアランを含有するように構成される圧力容器を備える。当該装置は、圧力容器と流体連通する、溶媒(MeO、EtO及びTHF等)、超臨界状態(CO等)に達することができる気体又は液体(又はより包括的に流体)の供給源と、水素の供給源(ガス状H等)とを備える。必要に応じて、装置は、圧力容器から室内空気を排除又は除去するのに有用であり得る不活性ガスの供給源と、反応装置内に存在する酸素及び水蒸気等の反応気体の濃度を容認可能な低いレベルにまで低減させるような、反応装置の他の構成要素とを備える。装置は、圧力容器内に通される流体の圧力を所望の圧力に上げるような1つ又は複数のポンプを必要に応じて備える。装置は、圧力容器を所望の作業温度に加熱する熱源と、圧力容器を所望の温度に冷却する冷却器とを備える。装置は、反応媒体を攪拌する攪拌器を備える。装置は、装置内の(with)流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御して、それぞれ、所望の流量及び方向、所望の温度、並びに所望の圧力とするように構成される制御機構を備える。実施の形態によっては、アルミニウムは、チタン等のドーパントを含有する(又はドーパントでドープされる)。一実施の形態において、装置内の流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御するように構成される制御機構は、汎用プログラマブルコンピュータベースの制御機構である。
【0012】
別の態様において、本発明はアランを生成する方法に関する。当該方法は、圧力容器を準備する工程と、装置内の流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御して、それぞれ、所望の流量及び方向、所望の温度、並びに所望の圧力とするように構成される制御機構を準備する工程と、アルミニウム金属を圧力容器内に導入する工程と、圧力容器内の望ましくない反応物質の濃度を低減させる工程と、圧力容器内に、超臨界流体状態に達することができる少なくとも1つの物質を導入する工程と、水素の供給源を圧力容器内に導入する工程と、超臨界流体状態に達するように、圧力容器内の温度及び圧力の少なくとも1つを上げる工程と、アランを生成するように、アルミニウムを水素の供給源と反応させる工程とを含む。
【0013】
一実施の形態において、上記方法は、溶媒を圧力容器内に導入する工程をさらに含む。実施の形態によっては、アルミニウム金属が、ドーパント(チタン等)を含有する(又はドーパントでドープされる)。実施の形態によっては、圧力容器内の望ましくない反応物質の濃度を低減させる工程を、不活性ガスを用いて実施する。実施の形態によっては、超臨界流体状態に達することができる物質がCOである。実施の形態によっては、水素の供給源が水素ガスである。実施の形態によっては、溶媒がMeO、EtO又はテトラヒドロフラン等のエーテルである。別の実施の形態において、上記方法は、アランとの付加物を形成するように構成される分子を準備する工程と、アランを生成するように、アルミニウムを水素の供給源と反応させる工程(step of and)の完了後に、付加物を形成するように構成される分子を除去する工程とをさらに含む。得られる生成物は実質的に純粋なアランである。実施の形態によっては、装置内の流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御するように構成される制御機構が、汎用プログラマブルコンピュータベースの制御機構である。一実施の形態において、温度は100℃未満の温度である。
【0014】
本発明の上記の及び他の目的、態様、特徴及び利点は、以下の説明及び特許請求の範囲からさらに明らかとなる。
【0015】
本発明の目的及び特徴は、以下に説明される図面を参照してさらに理解され得る。図面は必ずしも正確な縮尺でなく、むしろ包括的に、本発明の原理を例示することに重点が置かれている。図面中、同じ数字は種々の図を通じて同様の部材を示すのに使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による、アランを生成する反応を実行するのに有用な装置の概略図である。
【図2】超臨界流体を用いて反応を実行する市販の反応器の画像である。
【図3】以下に記載される条件と同様の条件下で水素化されたチタンによるアルミニウム検体の脱水素化プロセスの進行を示す圧力−組成−等温(PCT)グラフである。
【図4】以下に記載される条件と同様の条件下で水素化されたチタンによるアルミニウム検体の脱水素化プロセスの進行を示す圧力−組成−等温(PCT)グラフである。
【図5】以下に記載される条件と同様の条件下で水素化されたチタンによるアルミニウム試料からの水素の放出を示すガスクロマトグラフ(GC)プロットであり、下の曲線は、窒素キャリアガスの対照プロットを示し、上の曲線は、窒素キャリアガスの存在下でチタンにより水素化されたアルミニウム試料を加熱することによって脱離した気体を示す。
【図6】1:1酸素ドナーリガンド付加物AlH・EtOの例示的な概念図である。
【図7】1:2酸素ドナーリガンド付加物AlH・2THFの例示的な概念図である。
【図8】1:1窒素ドナーリガンド付加物AlH・MeNの例示的な概念図である。
【図9】1:2窒素ドナーリガンド付加物AlH・2TEDAの例示的な概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、アルミニウムの水素化を引き起こすことによりアランを形成する媒体としての超臨界流体(SCF)の使用に関する。この10年間で、SCFは、合成化学及び産業において重要な役割を占めるという研究所の関心により発展してきた。SCFは、液体の最も望ましい特性と、気体の最も望ましい特性とを兼ね備えている。これらとしては固体溶解能、及び永久ガスとの総合的な相溶性が挙げられる。例えば、超臨界(sc)COには、水素化、ヒドロホルミル化及びオレフィンメタセシスのようなプロセスを含む、均一系触媒作用の広範な用途が見出されている。scCOにおいて行われる均一系触媒作用としては、Fischer−Tropsch合成及び水素化が挙げられる。さらに、scHOにも、有機反応を高める上での広範な利用が見出された。
【0018】
アランは、148g/LのH理論密度を有する10.1wt%水素を含有し、且つ液体水素よりも大きな水素容量を保有する単純な二成分水素化物である、水素の吸蔵に関する非常に魅力的な系である。この材料は、室温で辛うじて安定であり、60℃〜140℃でHを放出する。アルミニウムは、安く、安全且つ豊富であり、また21世紀の技術において広く使用されている。このため、アランは5つのDOE規準のうち4つを確実に満たす。本発明以前の認識によれば、主な欠点はその可逆性の欠如である。AlとHとの直接的な化合は、厳密な圧力(25kbar超)を必要とする。AlHの熱力学特性により従来の気固合成は行われない。AlHは熱力学的にAl及びHへの分解に関するカスプ(cusp:極限域)にある(AlHのα相、β相及びγ相はそれぞれ、約+6kJ mol−1、−4kJ mol−1及び+1kJ mol−1のΔHdehyd値を有する)。それゆえ、Hの圧力がかなり高くとも、活性障壁を超えるのに必要とされる最も穏やかな熱入力では、熱力学的に元素を優位とする系をもたらす(即ち、式3の左側へと移行する)。
【0019】
【化2】

【0020】
SCFは、この系の動態特性と熱力学特性との拮抗相互作用を克服することを可能にする特有の特性を有する。HとSCFとの総合的な相溶性はこの観点から別の利点であり、数百barに相当する水素の有効濃度を容易且つ効率的に達成し、また元素よりもAlHの熱力学を優位なものとする。また、従来の溶媒をSCF媒体に添加して、反応物及び/又は生成物の溶解性を高め、これにより反応(参照)の動態プロファイル及び/又は熱力学プロファイルを変えてもよい。これは、熱に脆弱であるAlHのような系に関して特に重要である。さらに、SCF媒体における永久ガスの高い拡散率が、室温付近で確立される好ましい動態を促す。
【0021】
アルミニウムの直接水素化によってアランを生成するのに使用することができる、超臨界流体系及び反応条件の例としては、CO(75bar)、H(30bar〜50bar)、50℃〜60℃、2時間〜4時間;ジメチルエーテル(8bar)、H(30bar〜40bar)、125℃、2時間〜4時間;エタン(65bar)、H(30bar〜40bar)、90℃、2時間〜4時間;及びMeO、CO及びHの三成分混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
調製例
図1は、物質の脱水素化試料からアランを再生するのに使用される装置の概略図である。図1には、管及びバルブを介して、MeOシリンダ2、COシリンダ3、COポンプ4及びHシリンダ5と流体連通する高圧反応容器1が示される。バルブの慣例的な記号を装置の種々の部材を接続するライン上に示す。
【0023】
の発生及び吸収を促すため、従来方法によって調製されるアラン試料をTiCl(2mol%)でドープした。その後、この物質を脱水素化し、淡灰色粉末を得た。得られる物質の粉末X線回折パターンは、Alに起因するピークのみを示した。次にこの物質を不活性ガスのブランケット下で100mL容のステンレス鋼圧力反応器1に導入した。本発明のシステム及び方法に使用されるのに好適である不活性ガスの例としては、ヘリウム、アルゴン及び窒素が挙げられる。ごくわずかな酸素含量を有する窒素は、液体窒素から、又は高温に加熱された金属(例えば、800℃に加熱された銀)チップ上の窒素をゲッタリングすることによって、ボイルオフガスとして得ることができる。例えば、J.B. Milstein and L.F. Saunders, "Gettering of Gases for High Purity Applications," J. Crystal Growth 89, 124 (1988)を参照のこと。上部圧力を経て蒸気(50psi)として、少量のMeOをタンク2から容器1へと通した。次に、液体CO(890psi)をポンプ4を用いてタンク3から容器1へと通し、最後に、H(500psi)をタンク5から容器1へと加えた。1内の反応混合物を60℃に加熱し、それにより、CO/H混合物を超臨界相とし、内容物を150rpmで1時間攪拌した。好ましくは、100℃未満の温度を用いる。好適な攪拌装置は、機械攪拌器及び磁気攪拌器のいずれかを備え得る。この時点で、容器1を室温まで冷却し、1時間の通気及び排気によって揮発性物質を全て除去した。その後、反応容器1を図1中の他の部材から分離させ、不活性雰囲気グローブボックス内へと移して開き、灰色粉末を得たが、これは出発物質とわずかに色及び外観が異なっていた。
【0024】
図1中に、加熱装置及び冷却装置、成分又は試薬をシステムから除去する開口部、並びに加熱装置、冷却装置及びバルブを動作させる制御機構等の機能部材は示していない。圧力を示す電気信号を提示する従来の圧力検出機器は、機器の種々の部材内の圧力を検出及び制御するのに使用することができる。電気的に又は空圧により動作するバルブは、タイミング及び流量を制御するのに使用することができ、気体及び流体を或る容器から別の容器へと移動させるか、又は容器内に保持するか、又は通気させる。従来の電熱器及び従来の流体(例えば水)に基づく熱変換システムを使用して、反応容器を要求される適度な温度に加熱及び冷却することができる。熱電対等の検出器を用いた従来の熱制御機構、及び温度を検出すると共に温度を設定値と比較するフィードバック回路を用いることができる。実施形態によっては、熱制御のための、且つ排気、質量流量及び圧力制御のための制御機能を実行するのに従来の汎用プログラマブルコンピュータを使用することができる。
【0025】
場合によっては、人がバルブ及び装置の作動を制御することも可能である。アランのより大きな収量が得られ得ることが予想される。特に、幾つかの要因によって、本プロセスで生成されるアランの量に比べて、測定されるアランの量が低減する可能性がある。初めに、アランを除去するようにシステムの圧力を下げなければならないため、生成物との平衡に有効な水素の分圧を下げる。これにより、生成物を或る未知の程度に分解させることが可能である。また、試験すべき検体を容器1から取り出し、(たとえ、検体が分析時の反応性環境から保護されるように意図されていても)分析時に存在する周囲空気中の酸素及び水蒸気のいずれに曝してもよい。
【0026】
図2は、超臨界流体を用いた反応を実行する市販の反応器の画像である。この反応器及び同様の高圧力の小型研究室用反応器は、Parr Instrument Company(211 Fifty Third Street, Moline, Illinois 61265-9984)から、又は幾つかの他の供給業者から入手可能である。これらの反応器は、温度制御、攪拌速度制御を含む種々のパラメータをモニタリング、制御、データロギング及び達成し、圧力をモニタリングし、データをロギングし、気体供給及び液体供給を制御し、且つ生成される生成物を処理するのに使用される制御機構を備えて得ることができる。場合によっては、1つ又は複数の反応器を制御するのにPCユーザーインターフェースを使用する。
【0027】
図3及び図4は、段落
【0028】
([0026])に記載の条件と同様の条件下で水素化されたチタンによるアルミニウム検体の脱水素化プロセスの進行を示す圧力−組成−等温(PCT)グラフである。
【0029】
図5は、scCO(約70bar)/H(約35bar)を用いて60℃の温度で20時間水素化されたチタンによるアルミニウム試料からの水素の放出を示すガスクロマトグラフ(GC)プロットであり、下の曲線は、窒素キャリアガスの対照プロットを示し、上の曲線は、窒素キャリアガスの存在下でチタンにより水素化されたアルミニウム試料を加熱することによって脱離した気体を示す。
【0030】
代替合成法
第2の方法では、ドープした超臨界CO反応媒体を使用してアランを調製し得ることが、本発明者らにより予想される。また、全く異なる超臨界流体を使用してより良好な熱力学環境を作り出すことができることも、本発明者らにより予想される。
【0031】
そのままのAlHよりも錯体形成エンタルピー(ΔHc)が好ましく、その後、ドナーLを除去するような環境に近い温度まで加熱されて所望の高分子(AlH物質を生成することができる中間分子アラン付加物L・AlHを形成し得ることが予想される。類似の二段階プロセスを用いてアランを安定化させた後、現在、この物質を生成する唯一の方法である、いわゆる「有機金属経路」においてそれを脱錯体化(decomplex)するため、この手法が実行される可能性は高いと考えられる。ドナー分子Lは、エーテル(MeO及びEtO等)及びアミン(MeN及びEtN等)を含む一連の物質のいずれか1つであり得ることが予想される。1:1及び2:1のL・AlH錯体のいずれか又は両方が、アランの形成において有用な安定化中間体として作用し得ることが、本発明者らにより予想される。Al基質に組み込まれる固体状態の触媒(例えばTi)に加えて、SCF反応混合物への分子水素輸送触媒(例えば、ウィルキンソン触媒)の添加も有用となり得ることが、本発明者らにより予想される。
【0032】
既に説明したように、極端な温度及び極端な圧力の条件下以外では、アランの限界熱力学安定性によって、上記に挙げられる式3に示される反応に従うAl及びHからのその直接的な調製が妨害されている。水素輸送触媒の使用に加えて、代替的なSCF媒体、並びにドナー溶媒能又は補助溶媒能を有する混合物の使用により、nL・AlH中間体(n=1又はn=2である)の分子付加物の安定化と共に、その後のドナーLの除去、及び高分子二成分水素化物への変換(式4及び式5)が可能となることが、本発明者らにより予想される。既に示したように、トリエチレンジアミン(TEDA)は、従来の炭化水素溶媒中におけるAlとHとの直接反応を可能にするのに十分AlHを安定化して、高分子AlH・TEDAを形成することができる。しかしながら、強く結合したTEDAリガンドはこの生成物におけるAlHから脱離し得ないため、この付加物は純粋なアランを調製するのに有効でない。「アミンアランの直接合成(The Direct Synthesis of Amine Alanes)」、E. C. Ashby, Journal of the American Chemical Society, 1964, vol. 86, p. 1882を参照のこと。また「活性Al及び水素から開始される、トリエチレンジアミン(TEDA)のAlH付加物の直接的な可逆合成(The Direct and Reversible Synthesis of the AlH3 Adduct of Triethylenediamine (TEDA) Starting with Activated Al and Hydrogen)」、James Joseph Reilly, Jason Graetz, James Wegryzn, Yusuf Celibi, John Johnson and Wei-Min Zhou, MRS Fall Meeting, Boston, 2007を参照のこと。
【0033】
【化3】

【0034】
調製することができる(又は調製することができると考えられる)付加物の例としては分子酸素ドナーリガンド(ジメチルエーテル(MeO)、ジエチルエーテル(EtO)、ジオキサン、エチルメチルエーテル(MeOEt)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuuran)(THF)等)、並びに分子窒素ドナーリガンド(ピリジン、キヌクリジン、トリメチルアミン(MeN)、トリエチルアミン(EtN)及びトリエチレンジアミン(TEDA)等)を用いた付加物が挙げられる。式6及び式7に記載の気相反応について、酸素ドナーリガンドに関する錯体形成の代表的なDFT算出エネルギー(ΔHc)を表Iに挙げ、窒素ドナーリガンドに関するものを表IIに挙げる。
AlH3(s)+L(g)→AlH・L(g) 式6
AlH3(s)+2L(g)→AlH・2L(g) 式7
【0035】
図6〜図9は、表I及び表IIの記載内容から選ばれる、様々な1つのリガンドを有する(one-)付加物及び2つのリガンドを有する(two-ligand)付加物の例示的な概念図である。
【0036】
【表1】

【0037】
図6は、1:1酸素ドナーリガンド付加物AlH・EtOの例示的な概念図である。
【0038】
図7は、1:2酸素ドナーリガンド付加物AlH・THFの例示的な概念図である。
【0039】
【表2】

【0040】
図8は、1:1窒素ドナーリガンド付加物AlH・MeNの例示的な概念図である。
【0041】
図9は、1:2窒素ドナーリガンド付加物AlH・2TEDAの例示的な概念図である。
【0042】
水素の吸蔵、アランから回収される水素の供給、及びブースターロケット用固体燃料におけるアランフューズ(fuses)の使用を含む、アラン材料の様々な使用を示唆することができる。
【0043】
汎用プログラマブルコンピュータ
本明細書による計測器の制御、信号の記録及び信号又はデータの分析に有用な汎用プログラマブルコンピュータは、パーソナルコンピュータ(PC)、マイクロプロセッサベースコンピュータ、ポータブルコンピュータ、又は他のタイプの演算処理装置のいずれかであり得る。汎用プログラマブルコンピュータは典型的に中央演算処理装置、機械可読記憶媒体を用いて情報及びプログラムを記録及び読み取ることができる記憶装置又はメモリ装置、有線通信装置又は無線通信装置等の通信端末装置、表示端末等の出力装置、並びにキーボード等の入力装置を備える。表示端末は、タッチスクリーンディスプレイであってもよく、その場合、表示装置及び入力装置の両方として機能し得る。ポインティング装置(マウス又はジョイスティック等)のような別の且つ/又は付加的な入力装置が存在していてもよく、提示装置(enunciator)(例えば、スピーカ、第2のディスプレイ又はプリンタ)等の別の又は付加的な出力装置が存在していてもよい。コンピュータは、多種多様なオペレーティングシステムのいずれか1つ(例えば、Windows(登録商標)、又はMacOS、又はUnix(登録商標)、又はLinuxの何種類かのバージョンのいずれか1つ)を実行することができる。
【0044】
オペレーションの際、汎用プログラマブルコンピュータは、ソフトウェア又はファームウェアの形態の命令を用いてプログラムされる。これらの命令により、汎用プログラマブルコンピュータのオペレーションが制御される。汎用プログラマブルコンピュータは、数学演算(例えば、計算)、論理演算(例えば、比較、又は規定された規則に従う論理演繹)、及びテキストデータ又は図形データの処理(例えば、ワード処理又は画像処理)等のデータの様々な操作を実施することができる。データは、記録データ又はリアルタイムデータとして汎用プログラマブルコンピュータに提供することができる。任意の算出オペレーション又は処理オペレーションの結果は、即時利用又は後の利用のために、機械可読媒体又はメモリに記録される。例えば、マイクロプロセッサベース分析モジュールでは、データは、マイクロプロセッサ内のレジスタ、マイクロプロセッサ内のキャッシュメモリ、半導体メモリ(例えば、SRAM、DRAM、ROM、EPROM)、磁気メモリ(例えば、フロッピー(登録商標)ディスク又はハードディスク)及び/若しくは光メモリ(例えば、CD−ROM、DVD、HD−DVD)等のローカルメモリ、又は中央データベース等のリモートメモリに記録することができる。機械可読媒体に記録されるデータの後の利用としては、表示、印刷、他には、データをユーザーに通信すること、さらなる計算若しくは操作においてデータを用いること、又は別のコンピュータ若しくはコンピュータベース装置にデータを通信することが挙げられる。
【0045】
本発明で使用することができる機械可読記憶媒体としては、磁気フロッピー(登録商標)ディスク及びハードディスク等の電子記憶媒体、磁気記憶媒体及び/又は光記憶媒体;実施形態によってはDVDディスク、CD−ROMディスク(即ち、読み取り専用光記憶ディスク)、CD−Rディスク(即ち、ライトワンスリードメニー光記憶ディスク)及びCD−RWディスク(即ち、書き換え可能光記憶ディスク)のいずれかを使用することができるDVDドライブ、CDドライブ;並びに、RAM、ROM、EPROM、コンパクトフラッシュ(登録商標)カード、PCMCIAカード、又は代替的にSD若しくはSDIOメモリ等の電子記憶媒体;並びに、記憶媒体を収容し且つ記憶媒体から読み出し且つ/又は記憶媒体に書き込む電子部品(例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、DVDドライブ、CD/CD−R/CD−RWドライブ、又はコンパクトフラッシュ(登録商標)/PCMCIA/SDアダプタ)が挙げられる。機械可読記憶媒体分野における当業者に既知のように、データを記憶する新たな媒体及びフォーマットは絶えず考案されており、将来利用可能となるであろう任意の好適な市販の記憶媒体及び対応する読取/書込装置が、特に、より大きな記憶容量、より速いアクセス速度、より小さいサイズ及びストレージ情報1ビット当たりのより低いコストをもたらすのであれば、使用に適切であると考えられる。或る特定の条件下では、穿孔紙テープ又は穿孔カード、テープ又はワイヤ上の磁気記録、印刷文字の光学記録又は磁気記録(例えば、OCR及び磁気によりコード化された記号)、並びに一次元バーコード及び二次元バーコード等の機械可読記号といった既知の古くからある機械可読媒体も使用に利用可能である。
【0046】
本発明は、本明細書中に開示される構造及び方法を参照して、且つ図面に例示されるように特に示され且つ説明されているが、記載されている詳細に限定されるものでなく、また本発明は、以下の特許請求の範囲及びこの精神に含まれ得る任意の変更形態及び変形を包含するように意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムをアランに変換する装置であって、
大量のアルミニウム粉末又はアランを含有するように構成される圧力容器と、
前記圧力容器と流体連通する溶媒の供給源と、
前記圧力容器と流体連通する、超臨界状態に達することができる流体の供給源と、
前記圧力容器と流体連通する水素の供給源と、
前記圧力容器内に通される流体の圧力を所望の圧力に上げるように構成される1つ又は複数のポンプと、
前記圧力容器を所望の作業温度に加熱するように構成される熱源、及び該圧力容器を所望の温度に冷却するように構成される冷却器と、
該装置内の流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御して、それぞれ、所望の流量及び方向、前記所望の温度、並びに前記所望の圧力とするように構成される制御機構と、
この反応媒体を攪拌する攪拌器と、
を備える、アルミニウムをアランに変換する装置。
【請求項2】
前記溶媒が、MeO、EtO及びTHFのうちの選択される1つである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
超臨界状態に達することができる前記気体がCOである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記水素の供給源がHを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
不活性ガスの供給源をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記アルミニウムがドーパントを含有する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記ドーパントがチタンを含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記装置内の流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御するように構成される前記制御機構が、汎用プログラマブルコンピュータベースの制御機構である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
アランを生成する方法であって、
圧力容器を準備する工程と、
前記装置内の流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御して、それぞれ、所望の流量及び方向、所望の温度、並びに所望の圧力とするように構成される制御機構を準備する工程と、
アルミニウム金属を前記圧力容器内に導入する工程と、
前記圧力容器内の望ましくない反応物質の濃度を低減させる工程と、
前記圧力容器内に、超臨界流体状態に達することができる流体を導入する工程と、
水素の供給源を前記圧力容器内に導入する工程と、
超臨界流体状態に達するように、前記圧力容器内の温度及び圧力の少なくとも1つを上げる工程と、
アランを生成するように、前記アルミニウムを前記水素の供給源と反応させる工程と、
を含む、アランを生成する方法。
【請求項10】
溶媒又は補助溶媒を前記圧力容器内に導入する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アルミニウム金属がドーパントを含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ドーパントがチタンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記圧力容器内の望ましくない反応物質の濃度を低減させる工程を、不活性ガスを用いて実施する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記不活性ガスが、ヘリウム及びアルゴンのうちの選択される1つである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記不活性ガスが窒素である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
超臨界流体状態に達することができる前記物質がCOである、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記水素の供給源が水素ガスである、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒がエーテルである、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記エーテルが、MeO、EtO及びテトラヒドロフランのうちの選択される1つである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
アランとの付加物を形成するように構成される分子を準備する工程と、
アランを生成するように、前記アルミニウムを前記水素の供給源と反応させる工程の完了後に、付加物を形成するように構成される前記分子を除去する工程であって、それにより、実質的に純粋なアランを生成物としてもたらす、除去する工程と、
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
前記装置内の流体の流れ、温度及び圧力の少なくとも1つを制御するように構成される前記制御機構が、汎用プログラマブルコンピュータベースの制御機構である、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
前記温度が100℃未満の温度である、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−521392(P2010−521392A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539838(P2009−539838)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004661
【国際公開番号】WO2009/010829
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(509161037)ユニヴァーシティ オブ ニューブランズウィック (2)
【出願人】(509161048)
【Fターム(参考)】