説明

超電導デバイスの冷却装置

【課題】ガラスエポキシ樹脂などの熱伝導性の低い材料を基板に使用しても、高い冷却効率を示す超電導デバイスの冷却装置を提供する。
【解決手段】超電導デバイス4を固定する基板1を備え、基板1はデバイス固定面1aと、デバイス固定面の反対側にデバイス冷却面1bを有し、デバイス冷却面1bを通して基板1を冷却することにより超電導デバイス4を超電導状態に転移させる超電導デバイス4の冷却装置であって、基板1はデバイス冷却面1bに開口する空孔部2を有する。空孔部2はデバイス固定面1a側が高熱伝導度材料3aにより閉口する態様が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスエポキシ樹脂などの熱伝導性が低い材料を基板材料として用いた冷却装置であって、冷却能力に優れた超電導デバイスの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導デバイスは、半導体デバイスと同様に、外部端子との電気接続を行なうため、ワイヤーボンディングを行なう。また、超電導デバイスは、外部からの機械的な圧力により容易に破壊され、特に高温超電導デバイスは、水分により劣化が生じるため、封止して使用される。封止材料は、超電導状態を実現する超低温で変形することがなく、極低温と室温との間での昇温と降温に伴なう熱履歴により劣化が生じないことが必要であり、このような観点から、封止材料には、ガラスエポキシ樹脂またはセラミックスなどの非磁性材料が一般に使用されている。
【0003】
セラミックスは、熱伝導性が良好である点で、超電導デバイスの封止材料として好ましいが、反面、高価であり、加工性が劣る点で、汎用的に使用するのには難点がある。一方、ガラスエポキシ樹脂は、プリント基板材料として多用されており、コスト面および加工面において優れているが、熱伝導性がセラミックスと比べて1桁劣るため、超電導デバイスの封止材料として不利である。したがって、ガラスエポキシ樹脂などの低熱伝導性材料を超電導デバイスの封止材料として使用するに当っては、適切な冷却装置が必要である。
【0004】
半導体デバイスに従来より使用されている冷却装置を図2に例示する(特許文献1参照)。図2(a)には、ファン26で半導体デバイス27に風を当てることにより冷却する装置が示されている。図2(b)には、ヒートシンク28を半導体デバイス27に装着した装置が示されている。また、図2(c)には、冷却能力を増大させるため、半導体デバイス27にヒートシンク28を装着し、ファン26を組み合わせた冷却装置が示されている。この冷却装置は、冷却能力は大きいが、装置が大きくなるという欠点がある。図2(d)には、半導体デバイス27にヒートパイプ29を装着して誘導冷却する強制冷却装置が示されている。この装置は、ヒートパイプ29の内壁に軸方向に沿って溝を形成し、その溝に沿って毛細管現象により液体を移動させ、気化させることにより、半導体デバイス27の熱を奪い、パイプ中を移動してきた気体を冷やすことにより熱を放出し、液体に戻すものであるが、構造が複雑で、高価になるという欠点がある。また、動作にも限界があり、発熱が異常に大きくなった場合には毛細管内の液体が乾燥し、冷却能力が低下する。
【特許文献1】特開平10−184566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラスエポキシ樹脂などの熱伝導性の低い材料を基板に使用しても、冷却効率が高い超電導デバイスの冷却装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
超電導デバイスを固定する基板を備え、基板は、超電導デバイスを固定するデバイス固定面と、デバイス固定面の反対側にデバイス冷却面とを有し、デバイス冷却面を通して基板を冷却することにより超電導デバイスを超電導状態に転移させる超電導デバイスの冷却装置であって、基板は、デバイス冷却面に開口する空孔部を有する。空孔部は、デバイス固定面側が高熱伝導度材料により閉口する態様が好ましい。
【0007】
かかる冷却装置においては、基板の空孔部に高熱伝導度材料を埋設した態様が好ましい。また、基板が、超電導デバイスを封止する蓋をデバイス固定面上に備える態様が好適である。基板として、ガラスエポキシ樹脂製基板を使用することができ、基板を、液体窒素もしくは液体ヘリウムにより冷却し、または冷凍機の冷却ヘッドにより冷却する態様が好ましい。一方、超電導デバイスとして、たとえば、超電導量子干渉素子の冷却に使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
冷却装置用の基板および封止材料の熱伝導性を改善し、冷却効率の高い冷却装置を提供することができるため、冷却装置用の基板などにガラスエポキシ樹脂を使用することができる。ガラスエポキシ樹脂は、超電導状態における極低温でも変形がなく、極低温と室温との間での熱履歴による劣化がなく、加工性が良好であり、安価である。本発明の冷却装置は、冷却能力が高いため、基板などの材料としてガラスエポキシ樹脂を使用することができ、加工性および低コストなどのガラスエポキシ樹脂が有する有利な特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の超電導デバイスの冷却装置は、図1に示すように、超電導デバイス4を固定する基板1を備え、基板1は、超電導デバイス4を固定するデバイス固定面1aと、デバイス固定面1aの反対側にデバイス冷却面1bを有する。基板1と超電導デバイス4は、たとえば、図1に示す例では、接着剤8により固定してある。基板1は、デバイス冷却面1bに開口する空孔部2を有する。空孔部2は、デバイス固定面1a側が高熱伝導度材料3aにより閉口されている態様が好ましい。
【0010】
したがって、基板1として熱伝導性が低いガラスエポキシ樹脂製基板を使用する場合でも、デバイス冷却面1b側から、液体窒素または液体ヘリウムを用いて冷却すると、空孔部2により超電導デバイス4を効率よく冷却できる。また、基板のデバイス冷却面1bに冷凍機の冷却ヘッドを当接して冷却する場合、空孔部2を高熱伝導度材料で埋め尽くすことにより、高熱伝導度材料を直接、冷却ヘッドに接触させることができるので、超電導デバイス4の熱量の移動を促進し、冷却効率を高めることができる。ガラスエポキシ樹脂は、超電導状態を実現する極低温でも変形することがなく、極低温と室温との間の熱履歴による劣化がない非磁性材料であり、セラミックス材料に比べ、安価で加工性に優れている。本発明の冷却装置は、優れた冷却効果を有するため、ガラスエポキシ樹脂製基板を使用することができ、ガラスエポキシ樹脂が有する上記の優れた利点を生かすことができる。
【0011】
超電導デバイスとしては、たとえば、超電導量子干渉素子(superconducting quantum interference device;以下、「SQUID」ともいう。)の冷却に使用することができ、高温型SQUIDと低温型SQUIDの双方に使用できる。また、空孔部のデバイス固定面側は、高熱伝導度材料により閉口するが、高熱伝導度材料としては、たとえば、Pb−Snなどからなる通常のハンダを使用することができる。また、超電導状態を実現する77°K以下の極温度で高い熱伝導性を示すAg、Al、Cuが好適である。
【0012】
また、空孔部のデバイス固定面側が、高熱伝導度材料により閉口する態様は、超電導デバイスと基板とを、低熱伝導度の接着材で接着した場合でも、接着材が空孔部を埋めて冷却効率を低下させない点で好ましい。また、基板の空孔部に高熱伝導度材料を埋設した態様が好ましく、かかる態様は、冷凍機の冷却ヘッドをデバイス冷却面に当接して冷却するとき、デバイスの直接的な冷却が可能となり、冷却効率を高めることができる。
【0013】
超電導デバイスは、機械的な外力により容易に破壊され、特に、高温超電導デバイスは、水分により劣化する傾向にある。したがって、超電導デバイスの冷却装置は、図1に示すように、基板1が、超電導デバイス4を封止する蓋9をデバイス固定面1a上に備える態様が好ましい。超電導デバイス4と基板1とは、金線7などを使用して、ワイヤボンディングされ、基板1からは、ハンダ付けされた信号線5が取り出され、外部に接続される。
【0014】
(実施例1)
本実施例における超電導デバイスの冷却装置の構造を図3に示す。図3(a)に示すように、厚さ1mmのガラスエポキシ樹脂製のプリント基板31にビアホール32を形成した。ビアホール32は、プリント基板31の10mm×10mm四方に、11個×11個の比率で形成し、1個のビアホールは、内径0.3mmとした。ビアホール32の形成後、各ビアホールにPb−Sn製の溶融ハンダを流し込み、ビアホール32のデバイス固定面側をハンダにより閉口した後、さらにハンダを加えて、各ビアホールにハンダ33を埋設した。
【0015】
つぎに、プリント基板のデバイス固定面に、10mm×10mm角のSQUID34を樹脂接着剤により接着し、プリント基板31とSQUID34とを金線37によりワイヤーボンディングした。また、プリント基板31から、ハンダ付けされた信号線35を取り出し、外部と接続した。つぎに、SQUID34を固定したプリント基板31のデバイス冷却面を冷凍機の冷却ヘッド36上に樹脂接着剤により接着し、デバイス冷却面を通して基板31を冷却することにより、SQUID34を超電導状態に転移させた。
【0016】
本実施例の態様と異なり、空孔部を形成していない同様の厚さのガラスエポキシ樹脂製のプリント基板を用い、冷凍機により従来のように冷却した場合、室温から77°Kにまで冷却するのに、5Wの冷凍機を使用して2時間を要していた。これに対して、本実施例の冷却装置を使用した場合、冷却時間が1時間に短縮し、効率的に冷却することができた。
【0017】
(実施例2)
本実施例では、まず、図3(b)に示すように、厚さ1mmのガラスエポキシ樹脂製のプリント基板31にビアホール32を形成した。ビアホール32は、プリント基板31の5mm×5mm四方に、6個×6個の比率で形成し、1個のビアホールは、内径0.3mmとした。ビアホール32の形成後、各ビアホールにおけるデバイス固定面側をPb−Sn製の溶融ハンダにより、薄くハンダを溶触させるように閉口した結果、デバイス冷却面に開口する空孔部が得られた。
【0018】
つぎに、プリント基板のデバイス固定面に、10mm×10mm角のSQUID34を樹脂接着剤により接着し、プリント基板31とSQUID34とを金線37によりワイヤーボンディングした。また、外部と電気的に接続するため、ビアホールにピン38をハンダ付けし、SQUID34を封止するためにデバイス固定面上にガラスエポキシ樹脂製の蓋39を形成した。その後、プリント基板31のデバイス冷却面を液体窒素により冷却し、基板31を冷却することによりSQUID34を超電導状態に転移させた。
【0019】
本実施例の態様と異なり、空孔部を形成していない同様の厚さのガラスエポキシ樹脂製プリント基板を用いて従来のように液体窒素で冷却した場合、室温から77°Kまで冷却するのに、2分30秒を要していた。これに対して、本実施例の冷却装置を使用した場合、液体窒素がビアホール内に侵入し、効率的に冷却するため、冷却時間を1分間に短縮することができた。
【0020】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0021】
冷却装置の基板や封止材料として、ガラスエポキシ樹脂を使用することができる。また、冷却効率の高い超電導デバイスの冷却装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の超電導デバイスの冷却装置の基本構造を示す図である。
【図2】半導体デバイスに従来より使用されている冷却装置を示す図である。
【図3】本発明の実施例における超電導デバイスの冷却装置の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 基板、1a デバイス固定面、1b デバイス冷却面、2 空孔部、3a 高熱伝導度材料、4 超電導デバイス、5 信号線、7 金線、9 蓋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導デバイスを固定する基板を備え、該基板は、超電導デバイスを固定するデバイス固定面と、デバイス固定面の反対側にデバイス冷却面を有し、デバイス冷却面を通して基板を冷却することにより超電導デバイスを超電導状態に転移させる超電導デバイスの冷却装置であって、
前記基板は、デバイス冷却面に開口する空孔部を有することを特徴とする超電導デバイスの冷却装置。
【請求項2】
前記基板の空孔部は、デバイス固定面側が高熱伝導度材料により閉口する請求項1に記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項3】
前記基板の空孔部に高熱伝導度材料を埋設した請求項1または2に記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項4】
前記基板は、超電導デバイスを封止する蓋をデバイス固定面上に備える請求項1〜3のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項5】
前記基板は、ガラスエポキシ樹脂製基板である請求項1〜4のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項6】
前記基板は、液体窒素もしくは液体ヘリウムにより冷却され、または冷凍機の冷却ヘッドにより冷却される請求項1〜5のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。
【請求項7】
前記超電導デバイスは、超電導量子干渉素子である請求項1〜6のいずれかに記載の超電導デバイスの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−85155(P2008−85155A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264827(P2006−264827)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(504126112)住友電工システムソリューション株式会社 (78)
【Fターム(参考)】