説明

超電導線材およびこれを用いた超電導装置

【課題】事故電流が流れたときに徐々に抵抗を増大することによる一部発熱の抑制、偏った電圧分担による絶縁破壊防止することができる超電導線材を提供する。
【解決手段】本超電導線材は、金属基板上に超電導層が形成され、かつこの超電導層の表面に金属層が被着された超電導線材において、前記金属基板と前記金属層はそれぞれ電気抵抗温度特性の異なる金属であり、かつ両者のいずれかは室温における電気抵抗率が1×10−7Ωm以上1×10−5Ωm以下であり、両者は電気的に接続されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導線材およびこれを用いた超電導装置に係り、特に電力系統等に接続され、系統事故により生じる過大電流を抑制、限流する機能を備えた超電導線材およびこれを用いた超電導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導転移温度が低温から高温の範囲にあり、金属基板上に超電導層を形成してなる超電導線材がある。
【0003】
一般に超電導層は、イットリウム・バリウム・銅酸化物であり、高温超電導線材あるいは酸化物超電導線材と呼ばれる超電導線材の一種である。
【0004】
図9に示すように、超電導線材61の金属基板層62は、Ni合金等を材料としている。この金属基板層62上に超電導層63が生成されるが、この際には中間層64を介在させるのが一般的である。超電導層63はイットリウム・バリウム・銅酸化物であり、中間層64は酸化セリウム、イットリウム安定化ジルコニアなどの絶縁体が用いられる。超電導層63の上にさらに安定化金属層65が形成される。超電導層63の超電導が破れ常電導転移したときに電流を安定化金属層65に転流し、超電導層の焼損を防止する目的で用意されている。この安定化金属層65は、銀や銅の電気良導体が一般的である(特許文献1、2、非特許文献1)。
【0005】
このような従来の超電導線材は過電流が流れ、超電導層63の超電導が破れ常電導転移したときの対策として、安定化金属層65が用意されているが、単純ではない側面もある。
【0006】
この超電導線材を用いた超電導機器として、電力応用機器を想定すると、電力側の系統において短絡事故が起きたとき、超電導機器両端に系統電圧が印加される事故を想定する必要がある。この時流れる電流は、印加電圧に比例し、発生抵抗に反比例する。また超電導機器の消費エネルギーは、印加電圧の二乗に比例し発生抵抗に反比例する。重要なことは、電流、消費エネルギーともに発生抵抗に反比例することである。すなわち、安定化金属層に、銀や銅の電気良導体を用いた場合には、大電流、大消費エネルギーを招き、むしろ焼損の可能性もあるという問題点があった。
【特許文献1】特開2001−236834号公報
【特許文献2】特開2004−362784号公報
【非特許文献1】米田出版「超伝導材料」図3.50(p.163)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
事故電流が流れたときに徐々に抵抗が増大することによる一部発熱の抑制、偏った電圧分担による絶縁破壊を防止できる超電導線材及びこれを用いた超電導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明に係る超電導線材は、金属基板上に超電導層が形成され、かつこの超電導層の表面に金属層が被着された超電導線材において、前記金属基板と前記金属層はそれぞれ電気抵抗温度特性の異なる金属であり、かつ両者のいずれかは室温における電気抵抗率が1×10−7Ωm以上1×10−5Ωm以下であり、両者は電気的に接続されてなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る超電導装置は、請求項1乃至6に記載の超電導線材を基材に取着してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、事故電流が流れたときに徐々に抵抗が増大することによる一部発熱の抑制、偏った電圧分担による絶縁破壊を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る超電導線材およびこれを用いた超電導装置の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の第1実施形態に係る超電導線材の概念図であり、図2はその側面を示す概念図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、本第1実施形態の超電導線材1は、細長く断面が扁平長方形状の金属基板2と、この金属基板2上に中間層3を介して形成された超電導層4と、この超電導層4の表面に被着された金属層5から構成され、金属基板2と金属層5は接続手段としての接続端子6により電気的に接続される。
【0014】
金属基板層2上に超電導層4が形成されるが、中間層3を介在させるのが一般的である。
【0015】
超電導層4はイットリウム・バリウム・銅酸化物等であり、中間層3は酸化セリウム、イットリウム安定化ジルコニアなどの絶縁体が用いられ、金属層5は安定化金属層をなす。
【0016】
接続端子6は超電導線材1の両端部間に設けられ、金属基板2と接する金属端子6aと、金属層5と接する金属端子6bからなる断面略y字状をなし、金属基板2と金属層5を電気的に接続する。
【0017】
また、金属基板2及び金属層5は、それぞれ電気抵抗温度特性の異なる金属であり、金属基板2及び金属層5のいずれかは、室温における電気抵抗率が1×10−7Ωm以上1×10−5Ωm以下である。電気抵抗率が1×10−7Ωm未満であると、事故電流を抑制できず、また、消費エネルギーの抑制効果がない。
【0018】
さらに、金属基板2及び金属層5のうちの一方は、室温での電気抵抗率と使用時の温度例えば、超電導装置での使用時にあっては運転温度での電気抵抗率との比が2以下であり、他の一方は、その比が2以上であるのが好ましい。
【0019】
金属基板2及び金属層5の材質としては、例えば、金属基板2がNi−W合金(電気抵抗率比が2以上)、金属層5がステンレス(電気抵抗率比が2以下)が好ましい。これにより、短絡事故等が起き過電流が流れたとき、電流はまずは抵抗の低い電気抵抗率比が2以上の金属板側(この場合は金属基板2側)に流れる。大電流を生ずるが、もう一方側の電気抵抗率比が2以下の金属板側(この場合は金属層5側)が熱容量として寄与するので、温度上昇を抑制できる。さらに、温度上昇とともに抵抗が上昇することも有効な特徴である。事故初期に、大抵抗が発生してしまうと急激に電流を抑制して、線材長手方向の一部に発熱部を招く危険がある。本実施形態の構成は、徐々に抵抗を増大することでこれを防止している。また、本構成には線材長手方向一様の抵抗発生により、偏った電圧分担による絶縁破壊防止効果もあり、さらに、線材の抵抗監視により、超電導装置の温度モニターの効果もある。
【0020】
また、金属基板2と金属層5の合成電気抵抗において、室温での合成電気抵抗と使用時の温度での合成電気抵抗との比が2以上であるのが好ましい。
【0021】
これにより、上記と同様、事故電流が流れたときに徐々に抵抗を増大することによる一部発熱の抑制、偏った電圧分担による絶縁破壊防止、および超電導装置の温度モニターの効果がある。室温と使用時の温度での合成電気抵抗比が2未満であると、一部発熱の発生、偏った電圧分担による絶縁破壊が生じる。
【0022】
このような高抵抗金属を安定化金属層に用いた場合、事故電流を抑制し、消費エネルギーの抑制効果が生じる。
【0023】
図3は、本超電導線材1の事故電流促成効果を示し、金属基板がNi−W合金(電気抵抗率比が2以上)、安定化金属層としての金属層がステンレス(電気抵抗率比が2以下)の例である。超電導線材の限流効果がなければ、約4kA流れる事故電流を、第1波より300A程度に抑制していることがわかる。また、図中には発生抵抗をプロットしたが、徐々に抵抗が増大する過程も見られる。
【0024】
次に本実施形態の超電導線材を用いた超電導装置について説明する。
【0025】
図4は本実施形態の超電導線材を用いた超電導装置の概念図であり、本超電導装置11は、巻枠12に接続端子6を備えた本超電導線材1を複数層取着例えば巻回し、冷却手段によって冷却される。
【0026】
この冷却手段としては、図示しない液体窒素槽が用いられ、巻枠及びこれに巻回された超電導線材を液体窒素槽の液体窒素中に浸漬させることによって行われる。
【0027】
なお、本超電導線材は基材に巻回して用いるのが好ましいが、基材を用いず単にコイル状に巻回して用いることもでき、また、必ずしもコイル状に巻回して用いる必要はない。
【0028】
上記のように本実施形態に係る超電導線材及びこれを用いた超電導装置によれば、事故電流が流れたときに徐々に抵抗を増大することによる一部発熱の抑制、偏った電圧分担による絶縁破壊を防止することができる超電導線材及び超電導装置が実現される。
【0029】
また、本発明に係る超電導線材の第2実施形態について説明する。
【0030】
本第2実施形態は、第1実施形態が接続手段として断面略y字状の接続端子を用いるのに対して、断面略コ字状の接続端子を用いる。
【0031】
例えば、図5に示すように、本第2実施形態の超電導線材21の両端部あるいは線材長手方向一部には、金属基板2及び金属層5と接する断面略コ字状の接続端子23が取り付けられ、接続端子23により金属基板2と金属層5を電気的に接続する。これにより、第1実施形態と同様の効果が得られる。超電導装置として用いる場合には、巻枠に本超電導線材を複数層巻回して使用する。なお、他の構成は図1に示す超電導線材と異ならないので、同一符号を付して説明は省略する。
【0032】
さらに、本発明に係る超電導線材の第3実施形態について説明する。
【0033】
本第3実施形態は、第1実施形態が接続手段として断面略y字状の接続端子を用いるのに対して、接続端子としてシャント金属を用いる。
【0034】
例えば、図6に示すように、本第3実施形態の超電導線材31には、金属基板2、中間層3及び超電導層の少なくとも片縁周面にシャント金属33が電気的に接続するように設けられ、これが接続端子の機能をなす。超電導装置として用いる場合には、巻枠に本超電導線材を複数層巻回して使用する。これにより、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0035】
また、本発明に係る超電導線材の第4実施形態について説明する。
【0036】
本第4実施形態は、第3実施形態の超電導線材全体を絶縁被覆層で覆うものである。
【0037】
例えば、図7に示すように、本第4実施形態の超電導線材41には、金属基板2、中間層3及び超電導層4の両縁周面に沿って、断面形状が略正方形で線状の接続端子33が設けられ、これら全体が絶縁被覆層42により被覆されている。超電導装置として用いる場合には、巻枠に本超電導線材を複数層巻回して使用する。これにより、事故時の過電流による発熱過程で、線材から線材を冷却する冷媒への排熱が絶縁被覆層により抑制されるため、線材内の温度均一を図る効果が得られる。すなわち、線材内の温度均一が得られることにより、線材断面で一様の抵抗発生が得られ、一部発熱による焼損等が抑制される。
【0038】
また、本発明に係る超電導装置の他の実施形態について説明する。
【0039】
本実施形態の超電導装置は、第4実施形態の超電導線材が超電導線材単位で絶縁被覆層を覆うのに対して、コイル状に巻回された超電導線全体を一括して覆うものである。
【0040】
例えば、図8に示すように、本実施形態の超電導装置51は、図7に示すと同様に金属基板、中間層及び超電導層の両縁周面に沿って、断面形状が略正方形で線状の接続端子が設けられてなる超電導線材52が、巻枠12にコイル状に複数層巻回され、これら全体が絶縁被覆層例えばエポキシ樹脂53により被覆されている。これにより、コイル巻線の周囲をエポキシ樹脂層により含浸する構成としている。この構成により、事故時の過電流による発熱過程で、線材から冷媒への排熱がエポキシ樹脂層により抑制されるため、線材内の温度均一を図る効果が得られる。線材内の温度均一が得られることにより、線材断面で一様の抵抗発生が得られ、一部発熱による焼損等が抑制される。
【0041】
なお、図7及び図8の構成において、絶縁被覆層42あるいはエポキシ樹脂層53の厚さの限定が可能である。ある時間τの熱拡散距離lは次の式で与えられる。
[数1]
l=(πDτ/4)0.5
D=λ/ρC
ここで、Dは熱拡散係数、λは熱伝導率、ρは密度、Cは重量当りの比熱である。
【0042】
絶縁被覆やエポキシ樹脂の室温付近での典型的な値として、下記を使用する。
[数2]
λ=0.3W/mK、ρ=1.2×10kg/m、C=1×10J/kgK
時間τとして、電気系統の遮断時間程度である0.1sを使用すると、熱拡散距離としてl=0.25mmが得られる。
【0043】
この値以上を絶縁被覆層42あるいはエポキシ樹脂層52の厚さを限定することで、線材内の温度均一が得られる確度が増加する。熱絶縁層の厚さが0.25mmより小さいと、線材内の温度均一が得られない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超電導線材の斜視図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る超電導線材の断面図。
【図3】本発明の第1実施形態に係る超電導線材の事故電流促進効果を示す線図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る超電導線材を用いた超電導装置の概念図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る超電導線材の断面図。
【図6】本発明の第3実施形態に係る超電導線材の断面図。
【図7】本発明の第4実施形態に係る超電導線材の断面図。
【図8】本発明の他の実施形態に係る超電導装置の断面図。
【図9】従来の超電導線材の断面図。
【符号の説明】
【0045】
1 超電導線材
2 金属基板
3 中間層
4 超電導層
5 金属層
6 接続端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上に超電導層が形成され、かつこの超電導層の表面に金属層が被着された超電導線材において、前記金属基板と前記金属層はそれぞれ電気抵抗温度特性の異なる金属であり、かつ両者のいずれかは室温における電気抵抗率が1×10−7Ωm以上1×10−5Ωm以下であり、両者は電気的に接続されてなることを特徴とする超電導線材。
【請求項2】
前記金属基板と前記金属層のうちの一方は、室温での電気抵抗率と使用時の温度での電気抵抗率との比が2以下であり、他の一方は、その比が2以上であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
【請求項3】
前記金属基板と前記金属層の合成電気抵抗において、室温での合成電気抵抗と使用時の温度での合成電気抵抗との比が2以上であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記金属基板と前記金属層を包括する熱絶縁層を有することを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
【請求項5】
前記熱絶縁層の厚さは、0.25mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の超電導線材を基材に取着し、超電導線材を冷却する冷却手段を備えてなることを特徴とする超電導装置。
【請求項7】
前記超電導線材の熱絶縁層は樹脂を含浸することを特徴とする請求項6に記載の超電導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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