説明

超電導臨界電流測定装置および超電導臨界電流測定方法

【課題】超電導線の臨界電流測定において、臨界電流値が基準値を下回っている区間をより狭い範囲に特定することができ、基準値を下回っている超電導線を廃却しなくてはいけない場合、その廃却量を少なくすることができる超電導臨界電流測定装置およびその方法を供給する。
【解決手段】超電導線70の被測定区間の両端に接触して電流を流す少なくとも一対の測定電極30を備え、予め定められた所定長区間61の超電導線70の臨界電流値を測定する所定長区間測定手段と、前記所定長区間内であって前記所定長区間よりも短い区間62の超電導線の臨界電流値を測定する短区間測定手段とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線の臨界電流値を測定する装置およびその方法に関し、特に、長さが100mを超える長尺超電導線の臨界電流値を測定する装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、長さが100mを超える長尺超電導線の臨界電流値を測定する場合には、超電導線の特定の区間をサンプリングして臨界電流値を測定し、その臨界電流値を超電導線全体の臨界電流値とする方法や、長尺の超電導線を冷却槽に収納できるような大きさのコイル状にして臨界電流値を測定し、その臨界電流値を長尺超電導線の臨界電流値とする方法などが用いられていた。
【0003】
しかしながら、超電導線の特定の区間をサンプリングする方法においては、超電導線の臨界電流値は、超電導線全体にわたって一定ではないため、サンプリングした部分の臨界電流値が必ずしも超電導線全体にわたる臨界電流値を示すとは限らないという問題があった。
【0004】
また、コイル状にして臨界電流値を測定する方法では、そのコイルに電流を流すことで磁場が発生し、その磁場によって臨界電流値が影響を受けるため、正確な臨界電流値の測定が困難となるという問題があった。また、超電導線の長さが長くなると、コイル状にした場合でも大きさが大きくなりすぎて、臨界電流値を測定するのが困難となる問題があった。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば特許文献1では、長尺超電導線を冷却槽に収納できる所定の長さ毎に、冷却槽を含む測定装置へ順次移動させ、所定長区間毎に臨界電流値を測定し、所定長区間毎に測定した臨界電流値のデータから全長の臨界電流値を演算させることにより、長尺超電導線全体の臨界電流値を正確に測定する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願平9−40887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した特許文献1に開示されている測定方法では、測定された臨界電流値が基準値を下回る超電導線を廃却する必要がある場合に、ある所定長区間において基準値を下回る臨界電流値が測定されると、所定長区間内のどこの範囲で臨界電流値が基準値を下回っているのか(いわば欠陥がどこにあるのか)判定できないため、少なくとも当該区間の長さ分の超電導線を廃却しなければならない。
【0008】
一方、上記廃却の量を少なくするために、一回に測定する区間(上記の所定長区間)の長さを短くした場合、長尺超電導線の臨界電流値を全て測定するのに時間を要することになり作業効率が悪い。
【0009】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、基準値を下回る臨界電流値が測定されたときの超電導線の廃却量を少なくし、またあるいは長尺超電導線の臨界電流の測定時間を短縮させ、ひいては生産性を向上させることができる超電導線の臨界電流を測定する装置およびその方法を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る超電導臨界電流測定装置は、超電導線の被測定区間の両端に接触して電流を流す少なくとも一対の測定電極を備え、予め定められた所定長区間の超電導線の臨界電流値を測定する所定長区間測定手段と、前記所定長区間内であって前記所定長区間よりも短い区間の超電導線の臨界電流値を測定する短区間測定手段とを具えている。(請求項1)。
【0011】
この超電導臨界電流測定装置を用いれば、所定長区間測定手段によって測定された臨界電流値が基準値を下回った場合に、引き続き当該所定長区間の超電導線を、短区間測定手段によって所定区間よりも短い区間毎に順次測定していくことで、基準値を下回っている超電導線の区間をより狭い範囲に特定することができる。したがって、基準値を下回っている超電導線を廃却しなくてはいけない場合、その廃却量を少なくすることができる。
【0012】
また従来の測定装置では、ある所定長区間において基準値を下回る臨界電流値が測定されると、少なくとも当該区間の長さ分の超電導線を廃却しなければならないため、所定長区間を長く設計することに懸念があった。しかしながら、本発明に係る超電導臨界電流測定装置を用いれば、上述の通り、ある所定長区間において基準値を下回る臨界電流値が測定されても、基準値を下回っている超電導線の区間をより狭い範囲に特定することができる。よって所定長区間を長く設計しても、そのために超電導線の廃却量が多くなることは無い。所定長区間を長く設計することで、一回に測定する区間が長くなるため、長尺超電導線の臨界電流測定に要する時間を短縮させることができる。
【0013】
また本発明に係る超電導臨界電流測定装置の前記所定長区間測定手段は、前記所定長区間の両端に位置する一対の第一測定電極によって超電導線の臨界電流値を測定する測定手段であり、前記短区間測定手段は、一対の前記第一測定電極のどちらか一つと、前記所定長区間の内部に位置する一つの第二測定電極とによって、超電導線の臨界電流値を測定する測定手段であることが好ましい。(請求項2)。
【0014】
このようにすれば、所定長区間測定手段によって測定された臨界電流値が基準値を下回り、引き続き短区間測定手段によって測定する際、短区間測定手段で最初に測定する区間は当該所定区間の内側で且つ端部となる。したがって、短区間測定手段により臨界電流値が基準値を下回っている超電導線の区間を特定する際には、測定電極の位置は固定したままで、超電導線を一方向に、短区間測定手段で測定する区間の長さだけ順次移動させるだけで良い。このため測定電極を超電導線の長さ方向に移動させる装置は不要であり、また効率的に測定ができる。
【0015】
また超電導線の臨界電流値を測定するときに、前記第一測定電極または前記第二測定電極が超電導線に接触した位置を記録するために、超電導線にマーキングする手段を備えることが好ましい。(請求項3)。
【0016】
例えば、長尺超電導線の臨界電流測定において、臨界電流値が基準値を下回っている区間があった場合、その都度、超電導線を切断し廃却していると、その都度、超電導線を測定装置にセッティングする作業が必要となり作業効率が悪い。そのため一般的には、途中で臨界電流値が基準値を下回る区間があっても、超電導線の移動量をカウンターで測定し当該区間の位置を記録しておき、長尺超電導線全長の臨界電流値を測定し終えてから、別の工程により、臨界電流値が基準値を下回っていた区間のみを切断し廃却する作業を行う。このとき、超電導線の移動量を測定するカウンターの誤差を考慮して、廃却する超電導線の量は長めにする(例えば当該区間の前後区間を合わせて3区間分の長さにする)のが一般的である。
【0017】
しかしながら、請求項3に記載の超電導臨界電流測定装置を用いれば、臨界電流が基準値を下回っている超電導線の区間をより正確に特定することができるため、廃却量をより少なくすることができる。
【0018】
本発明に係る超電導臨界電流測定方法は、前記所定長区間の超電導線の臨界電流値を、前記所定長区間測定手段によって測定する所定長測定工程と、前記所定長測定工程で測定された臨界電流値の大きさと、予め定められた臨界電流の基準値の大きさとを比較する判定工程と、前記判定工程で、前記所定長測定工程で測定された臨界電流値の大きさよりも、予め定められた臨界電流の基準値の大きさが、小さいと判定された場合に、前記所定長区間よりも短い区間の超電導線の臨界電流値を、前記短区間測定手段によって測定する短区間測定工程とを含む。(請求項4)。
【0019】
このようにすれば、上述の通り超電導線の廃却量を少なくすることができる。また長尺超電導線の臨界電流測定に要する時間を短縮させることができる。
【0020】
また前記短区間測定工程の後に、前記短区間測定工程で臨界電流値を測定された超電導線の区間の両端をマーキングするマーキング工程を含むことが好ましい。(請求項5)。
【0021】
このようにすれば、臨界電流が基準値を下回っている超電導線の区間をより正確に特定することができるため、廃却量をより少なくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、基準値を下回る臨界電流値が測定されたときの超電導線の廃却量を少なくし、またあるいは長尺超電導線の臨界電流の測定時間を短縮させ、ひいては生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態の超電導臨界電流測定装置の構成を示す概略模式図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の超電導臨界電流測定装置の構成を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態の超電導臨界電流測定装置の構成を示す図である。測定装置1は、送りローラ11と、受けローラ12と、演算・制御用コンピュータ20と、測定電極30と、冷却槽40と、測定器50を備えている。
【0026】
送りローラ11および受けローラ12は円筒形状であり、超電導線70が巻付けられている。測定を開始する前には、送りローラ11にのみ超電導線70が巻付けられており、受けローラ12には超電導線70の端部が固定されているのみである。
【0027】
超電導線70は銀などのシース材に収められた金属被覆超電導材や、金属基板上に中間層および超電導層を積層して形成された薄膜超電導線材からなる。金属被覆超電導材の材質は特に限定されるものではないが、たとえば、(Bi −Pb2−X )Sr Ca Cu10を用いることができる。また薄膜超電導線材の材質は特に限定されるものではないが、たとえば、REBaCu7−δ(REは希土類元素を示す。)を用いることができる。また、超電導線70の長さは100m以上であることが好ましい。また、超電導線70の形状は特に限定されるものではないが、好ましくは、テープ状であり、幅が4mm程度、厚さが0.2mm程度であればよい。
【0028】
測定が開始されると、超電導線70は、送りローラ11から補助ローラを介して受けローラ12へ順次巻取られる。また、送りローラ11、受けローラ12、補助ローラ13はともに回転可能である。演算・制御用コンピュータ20が送りローラ11と受けローラ12と測定器50に接続されている。演算・制御用コンピュータ20は送りローラ11および受けローラ12に信号を与え、送りローラ11および受けローラ12を回転させる。また、演算・制御用コンピュータ20は測定器50と接続されているため、測定器50で得られたデータから、さまざまな演算を行なうことができる。
【0029】
測定電極30は、第一測定電極31と第二測定電極32とから構成されている。図1では第一測定電極31が2個(一対)、第二測定電極32が1個であるが、測定電極の数はこれに限定されるものではなく、例えば第二測定電極32が2個(一対)でもよい。測定電極30は、それぞれ電流電極34と、電圧電極35とを備えている。また測定電極30は、駆動部(図示せず)によって上下方向に移動可能であり、測定電極30が下方向に移動すれば、電流電極34および電圧電極35は、超電導線70と接触する。通常は、電流電極34および電圧電極35の、超電導線70を介した下方向に、それぞれ受け台(図示せず)が冷却槽40に固定されており、電流電極34と電圧電極35が下方向に移動すれば、電流電極34および電圧電極35と、受け台とが、超電導線70を挟み込むような形となり、電流電極34および電圧電極35と、超電導線70とが確実に接触するようになっている。測定電極30の駆動部は、演算・制御用コンピュータ20と接続されており、演算・制御用コンピュータ20からの信号を受けて測定電極30を移動させる。
【0030】
測定器50は、電流源51と、電圧計52とを備えている。電流電極34は電流源51に接続され、電圧電極35は電圧計52に接続されている。電流源51は、超電導線70に一定値の電流を流すことができる。電圧計52は、一対の電圧電極35の間の電位差を計測することができる。電流源51および電圧計52より得られたデータは、演算・制御用コンピュータ20に渡される。
【0031】
冷却槽40には液体窒素41が満たされている。液体窒素41は超電導線70を冷却するためのものである。
【0032】
次に、このように構成された測定装置を用いて超電導線の臨界電流値を測定する方法について説明する。まず、長尺の超電導線70を用意する。超電導線70を図1で示されるように配置する。次に、演算・制御用コンピュータ20が、所定長区間61を測定する一対の第一測定電極31を下へ動かすように信号を送り、一対の第一測定電極31が下へ移動し超電導線70と接触する。このような状態で、電流源51から所定の電流が超電導線70に流される。このときの一対の電圧電極35の間の電位差、すなわち所定長区間61の電位差が電圧計52により計測される。
【0033】
ここで所定長区間61の長さは、より長く設計した方が、一回に測定する区間が長くなり、長尺超電導線の臨界電流測定に要する時間を短縮させることができるので好ましい。具体的には、3m以上が好ましく、10m以上がより好ましい。一方、所定長区間61の長さの上限は特に定められたものではないが、測定装置の設置スペースなどの問題から、20m以下が好ましい。
【0034】
演算・制御用コンピュータ20は、電流源51から流される電流の値を変化させ、それぞれの電流値に対する電圧値を測定する。電流値と電圧値との関係データより超電導線70の長さに応じた基準電圧における臨界電流値を計算する。例えば、超電導線の長さ1cm当りの基準発生電圧を1μVとした場合、所定長区間61の長さが4mならば、基準電圧は0.4mVとなるので、電圧計52で計測される電圧が0.4mVを超えたときの電流値が、所定長区間61での臨界電流値となる。
【0035】
次に、演算・制御用コンピュータ20は、一対の第一測定電極31を上へ動かすように信号を送り、一対の第一測定電極31が上へ移動し超電導線70との接触が外れる。次に、演算・制御用コンピュータ20は、送りローラ11には、超電導線70を所定長区間61の長さだけ送るように、受けローラ12には、超電導線70を所定長区間61の長さだけ巻取るように信号を与える。この信号を受けた送りローラ11は超電導線70を所定長区間61の長さだけ送り、受けローラ12は超電導線70を定長区間61の長さだけ巻取る。これにより、前のステップで計測した超電導線70の第1区間に隣接する第2区間が所定長区間61に位置することになる。そして、上述のようなステップを経ることにより、この第2区間でも電流と電圧との関係を測定し、臨界電流値を求めることができる。これを繰り返すことにより、長尺の超電導線全長の臨界電流値を測定することができる。
【0036】
次に、ある所定長区間での臨界電流値が基準値を下回った場合について説明する。演算・制御用コンピュータ20が、ある所定長区間での臨界電流値が基準値を下回った値を測定した場合、一対の第一測定電極31が上へ移動させ超電導線70との接触を外した後、超電導線70を送らずに、短区間62を測定するための一対の測定電極30を下へ移動させて超電導線70と接触させる。ここで短区間62を測定するための一対の測定電極30は、図1では、一対の第一測定電極31のうち受けローラに近い方の第一測定電極31と、所定長区間内に位置している第二測定電極32とで構成されているが、一対の測定電極30の両方が、所定長区間内に位置している一対の第二測定電極32で構成されても良い。
【0037】
次に、短区間62の臨界電流値を測定した後、超電導線70に接触していた一対の測定電極30を上方向へ移動させ超電導線70との接触を外す。次に、演算・制御用コンピュータ20は、送りローラ11には、超電導線70を短区間62の長さだけ送るように、受けローラ12には、超電導線70を短区間62の長さだけ巻取るように信号を与える。この信号を受けた送りローラ11は超電導線70を短区間62の長さだけ送り、受けローラ12は超電導線70を短区間62の長さだけ巻取る。これにより、前のステップで計測した超電導線70の第1短区間に隣接する第2短区間が短区間62の測定位置に来ることになる。そして、同様のステップを経ることにより、この第2短区間でも臨界電流値を求めることができる。これを繰り返すことにより、臨界電流値が基準値を下回った所定長区間において、短区間の長さ毎に臨界電流値を測定することができる。
【0038】
そして、臨界電流値が基準値を下回った所定長区間61内には、少なくとも一つ以上の、基準値を下回る臨界電流値が測定される短区間62の長さ分の超電導線70が、含まれるはずである。したがって、基準値を下回っている超電導線の区間をより狭い範囲に特定することができる。これにより、基準値を下回っている超電導線を廃却しなくてはいけない場合、その廃却量を少なくすることができる。また所定長区間61を長く設計してもそのために超電導線の廃却量が多くなることは無いため、所定長区間を長く設計することで、一回に測定する区間が長くなり、長尺超電導線の臨界電流測定に要する時間を短縮させることができる。
【0039】
ここで短区間62の長さは、より短く設計した方が、超電導線70の廃却量を少なくすることができるので好ましい。具体的には、1.5m以下が好ましく、1m以下がより好ましい。一方、短区間62の長さを0.4m以下にすると、ノイズなどの影響により臨界電流が測定できない場合があるとの知見を得ている。したがって、短区間62の長さは、0.4m以上にするのが好ましく、0.8m以上にするのがより好ましい。
【0040】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態の超電導臨界電流測定装置の構成を示す図である。図2に示す測定装置1は、補助ローラ13と受けローラ12との間にマーカー81を備えている点で図1と相違している。以下では、相違部分を中心に説明する。
【0041】
図2に示すマーカー81は、駆動部(図示せず)によって上下方向に移動可能である。マーカー81が下方向に移動すれば、マーカー81は超電導線70と接触し、超電導線70の表面をマーキングする。このマーカーの種類は特に限定されるものではなく、超電導線70の表面にマーキングすることができ、超電導線を溶解させるなどの悪影響を及ぼすものでなければよい。またマーカー81は、インクを用いたものである場合、インクの補充頻度を少なくするために、乾燥に強い種類のものを用いる方が好ましい。マーカー81の駆動部は演算・制御用コンピュータ20と接続されており、演算・制御用コンピュータ20からの信号を受けてマーカー81を上下に移動させる。
【0042】
次に、このように構成された測定装置の測定方法について説明する。第1の実施の形態と同様の測定方法で、超電導線70の所定長区間61の長さ毎に臨界電流値を測定し、ある所定長区間で臨界電流値が基準値を下回った場合は、その所定長区間内の超電導線70を、短区間62の長さ毎に臨界電流値を測定する。
【0043】
さらに短区間62の長さ毎に測定して、ある短区間で臨界電流値が基準値を下回った場合、そのときの超電導線70の被測定区間を区別するために、演算・制御用コンピュータ20は、当該区間の超電導線70にマーキングする制御を行う。以下は、その具体的な制御方法である。
【0044】
短区間62を測定する一対の測定電極30の内、受けローラ12に近い方(図2では一対の第一測定電極31のうち受けローラに近い方の第一測定電極31)の電圧電極35と、マーカー81との間の、超電導線70が移動する距離Aを、予め演算・制御用コンピュータ20に記憶させておく。ある短区間での臨界電流値が基準値を下回ったとき、その測定位置から上記の距離Aだけ超電導線70を移動させる。そしてマーカー81を下へ移動させて、超電導線70の表面をマーキングする。次に一旦、マーカー81を上へ移動させて、短区間62の長さだけ超電導線を移動させる、そしてマーカー81を下へ移動させて、超電導線70の表面をマーキングする。この結果、超電導線70の内、臨界電流値が基準値を下回った短区間62の長さの部分の両端が、マーキングされることになる。
【0045】
上記の測定方法により、臨界電流値が基準を下回っている超電導線70の区間をより正確に特定することができるため、廃却量をより少なくすることができる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0047】
(実施例1)
実施例として、図2と同様の超電導臨界電流測定装置を構成した。超電導線70は、Bi系の酸化物超電導材を銀のシース材に収めた金属被覆超電導線材を用いた。また超電導線70の長さは1000mで、幅は4mm、厚さは0.23mmである。
【0048】
所定長区間61の長さは12m、短区間62の長さは0.8mである。また一対の第一測定電極31のうち受けローラ12に近い方の第一測定電極31の電圧電極35と、マーカー81との間を、超電導線が移動する距離は3mである。
【0049】
送りローラ11に巻き付けられていた超電導線70を、12m毎に臨界電流値を測定し、順に受けローラ12に巻き付けていったところ、11回目に測定した臨界電流値が基準値を下回った。ここで、12m毎に10回分の臨界電流値を測定し終えた時点で、測定開始端から120mまでの位置までは、臨界電流値が基準値以上のいわば健全な超電導線であることが確認できたが、測定開始端から120mの位置から132mの位置までの12mの区間に、臨界電流値が基準値を下回る、いわば劣化している箇所が含まれていることが分かった。
【0050】
次に、測定電極30を切り替え、測定開始端から120mの位置から132mの位置までの12mの区間について、0.8m毎に臨界電流値を測定した。すると、測定電極30を切り替えてから6回目に測定した臨界電流値が基準値を下回った。ここで、測定電極30を切り替えてから0.8m毎に5回分の臨界電流値を測定し終えた時点で、測定開始端から120mの位置から124mの位置までの4mの区間は、臨界電流値が基準値以上のいわば健全な超電導線であることが確認できたが、測定開始端から124mの位置から124.8mの位置までの0.8mの区間に、臨界電流値が基準値を下回る、いわば劣化している箇所が含まれていることが分かった。
【0051】
引き続き、0.8m毎に臨界電流値を測定したところ、測定開始端から124.8mの位置から132mの位置までの区間に、基準値を下回る箇所は無かった。また測定開始端から124mの位置および124.8mの位置が、マーカー81の位置まで移動した時点で、マーカー81により超電導線70の表面をマーキングした。
【0052】
さらに、測定開始端から132mの位置から、測定電極30を切り替え、再び12m毎に臨界電流値を測定したところ、以降は臨界電流値が基準値を下回ることは無かった。
【0053】
臨界電流測定が終了した後、受けローラ12に巻き取られた1000mの超電導線70を、別の巻き替え装置にセッティングした。そして、再度別のローラに巻き取りながら、超電導線70の表面にマーキングされている0.8mの区間と、安全を見てその前後0.1mずつ、合計1mの超電導線70を切断し廃却した。
【0054】
本実施例では、1000mの超電導線70に対して、1箇所の劣化が検出されたが、廃却量はわずか1mだった。一方、従来であれば、所定長区間の長さが本実施例と同じ12mの場合の廃却量は、少なくとも12mで、巻き替えの誤差を考慮し所定長区間の前後区間をを廃却する場合は36mとなる。したがって本実施例では、従来と比較して超電導線の廃却量を大幅に削減できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、基準値を下回る臨界電流値が測定されたときの超電導線の廃却量を少なくし、またあるいは長尺超電導線の臨界電流の測定時間を短縮させ、ひいては生産性を向上させることができるので、特に長さが100mを超える長尺超電導線の臨界電流値を測定する装置およびその方法として好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 測定装置、11 送りローラ、12 受けローラ、13 補助ローラ、20 演算・制御用コンピュータ、30 測定電極、31 第一測定電極、32 第二測定電極、34 電流電極、35 電圧電極、40 冷却槽、41 液体窒素、50 測定器、51 電流源、52 電圧計、61 所定長区間、62 短区間、70 超電導線、81 マーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線の臨界電流値を測定する超電導臨界電流測定装置であって、
超電導線の被測定区間の両端に接触して電流を流す少なくとも一対の測定電極を備え、
予め定められた所定長区間の超電導線の臨界電流値を測定する所定長区間測定手段と、前記所定長区間内であって前記所定長区間よりも短い区間の超電導線の臨界電流値を測定する短区間測定手段とを具えたことを特徴とする超電導臨界電流測定装置。
【請求項2】
前記所定長区間測定手段は、前記所定長区間の両端に位置する一対の第一測定電極によって超電導線の臨界電流値を測定する測定手段であり、
前記短区間測定手段は、一対の前記第一測定電極のどちらか一つと、前記所定長区間の内部に位置する一つの第二測定電極とによって、超電導線の臨界電流値を測定する測定手段であることを特徴とする請求項1に記載の超電導臨界電流測定装置。
【請求項3】
超電導線の臨界電流値を測定するときに、前記第一測定電極または前記第二測定電極が超電導線に接触した位置を記録するために、超電導線にマーキングする手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超電導臨界電流測定装置。
【請求項4】
超電導線の臨界電流値を測定する超電導臨界電流測定方法であって、
前記所定長区間の超電導線の臨界電流値を、前記所定長区間測定手段によって測定する所定長測定工程と、
前記所定長測定工程で測定された臨界電流値を、予め定められた条件によって判定し、その判定結果に応じて、次の工程を決める判定工程と、
前記判定工程で判定された場合に、前記所定長区間よりも短い区間の超電導線の臨界電流値を、前記短区間測定手段によって測定する短区間測定工程とを含むことを特徴とする超電導臨界電流測定方法。
【請求項5】
前記短区間測定工程の後に、前記短区間測定工程で臨界電流値を測定された超電導線の区間の両端をマーキングするマーキング工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の超電導臨界電流測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−215064(P2011−215064A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84858(P2010−84858)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】