説明

超電導限流素子およびその製造方法

【課題】超電導体と超電導体の保護抵抗とを並列接続した構成を有し、超電導体と保護抵抗の損傷を防止できる超電導限流素子を提供する。
【解決手段】基材上に設けられた超電導体と、超電導体の保護抵抗とを並列接続した超電導限流素子であって、冷却温度における保護抵抗の値Rnが下記の式
【数1】


(ここで、ρyは臨界温度直上における超電導体の抵抗率、dは超電導体の厚さ、Wは超電導体の幅、lは超電導体が常伝導転移した領域の長さ、Iqは限流開始電流値、Psは超電導体が設けられた基材が破壊しない最大熱負荷である。)
を満足する超電導限流素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地絡や短絡事故により電路に流れる過大な電流を抑制する超電導限流素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷などにより送電線や配電線が地絡したり相間短絡したりする事故が発生すると、数十kAに及ぶ過電流が電路に流れ、電力機器に大きな損傷を与えてしまう。そこで、このような過電流から電力機器を保護するために、過電流を抑制する限流素子の研究が従来から行われている。限流素子には、(1)GTO(gate turn-off thyristor)など半導体を用いるもの、(2)アーク放電現象を利用するもの、(3)超電導体の超電導状態から常伝導状態に転移する現象を利用するものなど様々な方式がある。(3)では、電路に直列に接続された超電導体を用いる。超電導体は、通常時には超電導状態であるが、事故時に超電導体の臨界電流(Ic)を超えて大電流が流れた際に超電導状態から常伝導状態に転移して高抵抗となり過電流を高速に抑制する。(3)の超電導限流素子は、通常時の通電ロスが小さく、また、外部からのトリガ信号が不要となりシンプルなシステムを構成することができるため、実用化が期待されている。
【0003】
また、近年発見された酸化物超電導体は冷却に低価格の液体窒素を用いることができるため、酸化物超電導体を用いた限流素子の開発が進められている。酸化物超電導体の中でもYBa2Cu3x(YBCO)は、配向した基板、すなわちサファイア、SrTiO3(STO)、LaAlO3(LAO)といった単結晶基板上に薄膜成長することにより、結晶配向した臨界電流密度の高い高品質な薄膜が得られるため、小型化に有利である。しかしながら、薄膜形態にすると常伝導状態に転移した際にバルク形態より高抵抗となり、その際のジュール発熱による熱衝撃も大きい。この熱衝撃による超電導薄膜の損傷を防止するため、超電導薄膜上に低抵抗なAgやAuといった金属薄膜を保護抵抗として積層した超電導限流素子や、超電導薄膜とは別に設けた低抵抗な保護抵抗を並列接続した超電導限流素子が開発されている(たとえば特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平2−281765号公報
【特許文献2】特許第2954124号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、超電導薄膜は単結晶基板上に成長させることにより高品質にすることができる。しかし、一般に、単結晶基板や成膜装置の大きさには制限があるため、超電導薄膜の大きさも幅1〜10cm、長さ10〜20cm程度に制限される。例えば、幅1cm、長さ10cmのサファイア基板上YBCO薄膜を用いた限流素子の場合、YBCO薄膜が損傷しない最大電圧は400V、電流容量は50A程度である。ここで、超電導限流素子の配電系統への適用を考えると、電圧は6.6kV、電流容量は400〜2000Aとなるため、実用化にあたっては多数の超電導限流素子を直並列接続させた限流モジュールを作製し、この限流モジュールと冷却装置を組み合わせた超電導限流器を実現する必要がある。
【0005】
超電導限流器は新規の電力機器であり、できるだけ小型であるほうが導入に有利であると考えられる。ここで、超電導限流器の大きさは主に素子数に依存するため、小型化のためには素子数は少ないほうがよい。一方、事故時に瞬時電圧低下を防止することを考慮すると、過電流を抑制するために必要な限流抵抗は10Ω以上が望ましいと考えられる。したがって、少ない素子数で十分な限流抵抗を得るためには一枚の素子の限流抵抗は大きいほうがよい。限流抵抗は、超電導体に並列接続された保護抵抗の値が支配的になるため、保護抵抗の値はできるだけ大きいほうがよいことになる。一方、限流初期に超電導薄膜に加わる熱衝撃を低減するためには、保護抵抗への転流量を大きくすることが効果的であり、そのためには保護抵抗の値はできるだけ小さいほうがよい。これらの点を考慮して、限流初期すなわち冷却温度においては抵抗が小さく、その後に電流が流れることによるジュール発熱で抵抗が大きくなる材料として金属薄膜を保護抵抗に用いた超電導限流素子が提案されている。ところが、こうした超電導限流素子において、超電導薄膜や保護抵抗が損傷するという問題がたびたび発生していた。しかし、現状では、超電導薄膜と保護抵抗の両者が損傷しないようにする保護抵抗の設計方針は不明確であり、超電導限流素子の信頼性は低かった。
【0006】
本発明の目的は、超電導体と超電導体の保護抵抗とを並列接続した構成を有し、超電導体と保護抵抗の損傷を防止できる超電導限流素子、およびこのような超電導限流素子を簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る超電導限流素子は、基材上に設けられた超電導体と、前記超電導体の保護抵抗とを並列接続した超電導限流素子であって、冷却温度における前記保護抵抗の値Rnが下記の式
【数7】

【0008】
(ここで、ρyは臨界温度直上における超電導体の抵抗率、dは超電導体の厚さ、Wは超電導体の幅、lは超電導体が常伝導転移した領域の長さ、Iqは限流開始電流値、Psは超電導体が設けられた基材が破壊しない最大熱負荷である。)
を満足することを特徴とする。
【0009】
本発明の他の態様に係る超電導限流素子の製造方法は、基材上に設けられた超電導体と、前記超電導体の保護抵抗とを並列接続した超電導限流素子を製造するにあたり、冷却温度における前記保護抵抗の値Rnが上記の式を満足するように設計することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冷却温度における保護抵抗の抵抗値を適正範囲に設定することにより、限流動作中における超電導体と保護抵抗の両者の損傷を防止でき、信頼性の高い超電導限流素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ここでは、図1に示すように、基材上に設けられた超電導薄膜1と保護抵抗2とを並列接続した超電導限流素子3を取り上げ、保護抵抗2の設計方針について詳細に述べる。なお、この超電導限流素子3の限流特性は、図1に示すように超電導限流素子3を電源4に直列に接続し(回路インピーダンス5が含まれているものとする)、スイッチ6を投入することにより事故を模擬した大電流を流して観測することができる。
【0012】
上述したように、限流初期と限流中とでは保護抵抗の適正値が異なっている。そこでまず、限流初期、すなわち冷却温度における保護抵抗の適正値について考える。限流初期に超電導薄膜が局所的に損傷を受ける原因としては、常伝導状態に転移した際の熱負荷により、(1)超電導薄膜が剥がれる、(2)超電導薄膜が融点以上に温度上昇する、(3)基材表面に亀裂が発生する、という3つが考えられる。しかし、損傷を受けた超電導薄膜を光学顕微鏡で観察すると剥がれは観察されないことや、超電導薄膜の損傷は0.1ミリ秒という短時間に生じておりこの時間内に融点以上に温度上昇する可能性は小さいことを考慮すると、(1)や(2)の可能性は小さく、主な原因は(3)であると考えられる。そこで、常伝導状態に転移した熱衝撃が、基材を破壊する最大発熱量(ここでは熱衝撃耐量と表現する)を超える場合に超電導薄膜が損傷すると仮定して保護抵抗の適正値を考察する。
【0013】
図1に示すように、基材上に設けられた超電導薄膜1と保護抵抗2が両端で並列接続された超電導限流素子3を考える。一般に、超電導薄膜のIcは完全に均一ではないため、大電流が流れると局所的に電圧が発生して常伝導転移すると考えられる。そこで、限流初期に長さlの領域が常伝導転移していると仮定すると、超電導薄膜に加わる熱負荷Pyは以下のように表される。
【数8】

【0014】
ここで、Rnは保護抵抗の抵抗値、Iqは限流開始電流値、Ryは超電導薄膜で発生した抵抗値、Wは超電導薄膜の幅である。この熱負荷が、超電導薄膜が設けられた基材の熱衝撃耐量Psを超えると基材に亀裂が生じるため、超電導薄膜が損傷しない条件は、
y<Ps (2)
となり、保護抵抗Rnが下記の式を満たせばよい。
【数9】

【0015】
なお、ρyはTc直上の超電導薄膜の抵抗率であり、厚さをdとすると以下のように表される。
【数10】

【0016】
(3)式のPsは基材の種類や熱衝撃の印加条件に依存する。そこで、基材に薄膜ヒーターを設けて限流素子の試験条件と同様に50Hz半波の電流を流して基材であるサファイア、LAO、STOの熱衝撃耐量Psを評価したところ、1〜4kW/cm2であった。また、超電導薄膜の膜質に依存するが、実験より単位長さの超電導薄膜のlは100μm〜1mm程度、Tc直上のρyは50〜150μmΩ程度であった。なお、超電導薄膜のlは次のような方法で推定した。まず、幅1cm、長さ10cmの超電導薄膜に長手方向1cm間隔で電圧測定端子を設けて、電流を増加させながら各端子間に発生する電圧を観測した。このときV0=1μV/cmの電圧が発生した電流値をIcと定義すると、Ic以上に電流を増加させた場合にはV=V0(I/Icnで表される電圧が各端子間で発生した。ここでnは基材によって異なりサファイアの場合には15〜20であった。さらに電流を増加させると1つの端子間の電圧が階段状に急激に大きくなり、超電導薄膜が局所的に常伝導に転移したことが分かった。このとき端子間に発生した電圧と電流から求めた抵抗を電圧端子間距離1cmの領域が均一に常伝導転移した場合の抵抗と比較して常伝導に転移した領域の長さlを見積った。
【0017】
また、限流開始電流Iq
q=αIc=αJcWd (5)
と表すことができる。高品質の超電導薄膜の場合、Jcは106〜107A/cm2、dは0.1〜1μm、Wは1〜10cm程度である。αは基材の熱的性質に依存するが、実験より基材がサファイア、LAO、STOの場合には1.5〜2程度の値が得られている。なお、αは次のような方法により評価した。まず、超電導薄膜に取り外し可能な保護抵抗を並列に接続した超電導限流素子を作製し、図1に示すような回路を用いてスイッチ6を投入することにより50Hz半波の電流を流して限流特性を調べた。このとき、超電導限流素子の電圧が階段状に急激に増加した電流を限流開始電流Iqと定義しαを求めた。
【0018】
これら基板の耐熱衝撃耐量、超電導薄膜の特性を(3)式に代入することより、限流初期、すなわち冷却温度のRnの適正値を求めることができる。
【0019】
次に、限流中の保護抵抗の適正値について考察する。超電導薄膜が破壊しない最大電圧(ここでは印加可能電圧と表す)には上限があり、超電導薄膜の能力を最大限に生かすためには、保護抵抗も超電導薄膜と同等の電圧に耐える必要がある。保護抵抗の電極には半田など低融点の金属を用いているため、超電導薄膜の印加可能電圧と同等の電圧が印加された際、限流中の保護抵抗の温度上昇は室温以下であることが好ましい。この条件を満たす保護抵抗の適正値は保護抵抗の構造により異なる。このため、後述のように本発明の保護抵抗の構造である(1)バルク、(2)絶縁基板上の薄膜、(3)薄膜とバルクの積層の3種類に分けて求める。本明細書において、バルク形態の保護抵抗とは、厚さが100μm以上で自己支持性の部材からなる保護抵抗のことをいう。また、絶縁基板上の薄膜形態の保護抵抗とは、絶縁基板上に厚さ100μm未満の薄膜として形成された部材からなる保護抵抗のことをいう。
【0020】
まず、バルク形態の保護抵抗の値Rbについて考える。図2(a)の平面図および図2(b)の断面図に示す超電導限流素子は、絶縁基材12の表面に成膜した超電導薄膜11と、絶縁基材12の裏面に配置したバルク形態の保護抵抗21の両端を低融点半田7で並列接続した構造を有する。この超電導限流素子に超電導薄膜11の損傷しない最大電圧に相当するVyの電圧が時間Δtの間、保護抵抗21に印加された場合、保護抵抗21の発熱量Qnは以下のように表される。
【数11】

【0021】
ここで、Rbは保護抵抗の値である。したがって、温度上昇ΔTbは発熱量を熱容量で割ればよく、以下のように表される。
【数12】

【0022】
ここで、Cbは保護抵抗の比熱、σbは密度、Wbは幅、dbは厚さ、lbは長さである。そして、ΔTbが冷却温度と室温との温度差であるΔTmaxより小さいという条件から、以下の式を満足すればよい。なお、比熱は温度変化するが、ここでは室温の値を用いる。
【数13】

【0023】
次に、薄膜形態の保護抵抗の値Rfについて考える。図3(a)の平面図および図3(b)の断面図に示す超電導限流素子は、絶縁基材12の表面に成膜した超電導薄膜11と、それとは別の絶縁基材23の表面に成膜した金属薄膜22とを積層し、これらを両端で並列接続した構造を有する。Vyの電圧がΔtの間、保護抵抗である金属薄膜22に印加された場合、発熱量Qfは以下のように表される。
【数14】

【0024】
この金属薄膜22の厚さが薄く、熱容量が無視できるほど小さい場合、発熱量が保護抵抗の絶縁基材23中に熱拡散長Dまで均一に伝わったとすると温度上昇ΔTfは以下のように表される。
【数15】

【0025】
ここで、Wkとlkは金属薄膜22の幅と長さ、κs、Csおよびσsは絶縁基材23の熱伝導率、比熱および密度であり、熱拡散長はD=(4κΔt/Csσs1/2である。
【0026】
ΔTfが冷却温度と室温との温度差であるΔTmaxより小さいという条件から、下記の式を満足すればよい。なお、熱伝導率、比熱は温度変化するが、ここでは室温の値を用いる。
【数16】

【0027】
次に、薄膜形態とバルク形態の部材が積層され電気的に接続されている保護抵抗の適正値Rtについて考える。図4(a)の平面図および図4(b)の断面図に示す超電導限流素子は、絶縁基材12の表面に成膜した超電導薄膜11と、それとは別にバルク形態の部材21に薄膜形態の部材22を積層した保護抵抗とを両端で並列接続した構造を持っている。温度上昇ΔTtは(7)式と(10)式の合計で表され、冷却温度と室温との温度差であるΔTmaxより小さいという条件より、下記の式を満足するようにRbとRfを決定すればよい。
【数17】

【0028】
上述したように限流中に保護抵抗が損傷しないためには、室温における保護抵抗の値が(8)式、(11)式または(12)式を満足することが必要となる。一方、保護抵抗の値が大きすぎて電流を絞りすぎると、常伝導転移しない領域が発生し、分担電圧に偏りができて保護抵抗が損傷するという問題が発生する。そのため、電流を絞りすぎないためには、室温での保護抵抗Rmは下記の式を満たす必要がある。ここでIcは臨界電流である。
【数18】

【0029】
以上のように保護抵抗の値は限流初期の冷却温度において(3)式を満足すると超電導薄膜が損傷しない限流素子を得ることができる。また、限流中に超電導薄膜の印加可能電圧に相当する電圧を印加した場合、室温における保護抵抗の値は構造により(8)式、(11)式または(12)式を満足し、さらに(13)式を満足すると、保護抵抗が損傷せず信頼性の高い限流素子を得ることができる。
【0030】
ところで、保護抵抗の抵抗値は限流初期の小さな値から限流中の大きな値へと温度に応じて変化するが、その変化の仕方には図5に示すA、B、Cに代表される3種類がある。保護抵抗自体の温度上昇が小さいほうが復帰時間、すなわち限流動作後に冷却温度まで冷却され再び動作可能となる状態までの時間は早くなるという利点がある。そのためには、保護抵抗の抵抗値は早く大きくなったほうがよく、曲線Aのように変化することが好ましい。曲線Aに示すように温度に対する抵抗の増加率が温度とともに小さくなるような保護抵抗としては、単体の保護抵抗を用いる他に、図6に示すように温度に対する抵抗の増加率の異なる部材24と部材25とを超電導薄膜1に電気的に並列接続して超電導限流素子3を構成することが考えられる。なお、既述の図4に示した超電導限流素子は、図6と等価な構成を有する。ここで、図6に示した部材24の抵抗をR24、部材25の抵抗をR25として、下記の式のように表す。
【数19】

【0031】
βが1より大きい場合、部材25のみの場合と比較して、抵抗の増加率が温度とともに小さくなる。R24とR25の関係には、(1)冷却温度から室温までR24>R25、(2)冷却温度から室温までR24<R25、(3)冷却温度から室温までの間でR24とR25の大小関係が変化する、の3種類考えられる。いずれの場合にも、温度に対する抵抗の増加率を、温度とともに小さくすることができる。このため、部材の抵抗率や作製のしやすさに応じてR24とR25の関係を選べばよい。いずれの場合もR24とR25の合成抵抗が、限流初期の冷却温度に(3)式を満足するようにする。また、限流中には保護抵抗の構造に応じて、(8)式、(11)式または(12)式を満足し、さらに(13)式を満足するようにする。ここでは2つの部材の組合せを一例にあげたが、部材の数は2つに限定されず、3つ以上でもよい。
【0032】
また、電圧印加時の分担電圧を均一にするためには、電気的に接続している部分が多いほうがよい。このため、図7に示すように絶縁基板23の表面に薄膜の部材26、22を積層して成膜したり、図8に示すようにバルクの部材21とバルクの部材27を積層したり、図4に示すようにバルクの部材21と薄膜22の部材を積層するとさらによい。保護抵抗の形は直方体に限定されるものではなく、円柱状やらせん状などの形態でもよい。ただし、分担電圧を均一にするためには、抵抗が長さ方向に均一であるほうがよく、抵抗率や断面積が均一なほうがよい。さらに、限流初期に超電導薄膜から保護抵抗へ速やかに電流を転流させたほうが、超電導薄膜の温度上昇を小さくすることができ、限流動作後に超電導状態へ復帰する時間を早くすることができる。そのため、抵抗値の小さい部材が超電導体の近傍にあるほうがよい。そのためには、例えば、図4に示す超電導限流素子の保護抵抗において、単位長さ当りの抵抗の小さい部材を22、単位長さ当りの抵抗の大きい部材を21とすると、部材22を部材21より超電導薄膜11の近くに配置することが好ましい。具体的には、部材22として抵抗率の小さいAg、Au、Pt、Cu、Ni、Crなどの単体金属、部材21として抵抗率の大きいAuAgやNiCrなどの合金や、炭化珪素、アルミナなどと金属添加物を混合したセラミックス、Mn酸化物などの電気伝導酸化物を用いるとよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0034】
[実施例1]
図1に示す試験回路により実施例1に係る超電導限流素子を試験した。実施例1に係る超電導限流素子は図2(a)の平面図および図2(b)の断面図(図2(a)のB−B’線に沿った断面)に示す構造を有する。図2においては、サファイア基板12の表面に成膜したYBCO薄膜11と、炭化珪素に金属を添加したセラミックスからなるバルク形態の保護抵抗21を、低融点半田7を用いて両端で並列接続している。超電導限流素子3を液体窒素中で冷却し、配電系を模擬して電源4により50Hzの電圧をΔt=0.3sだけ印加して限流特性を評価した。表1に各パラメータの値を示す。
【表1】

【0035】
表1の値を(3)式に代入すると、保護抵抗21の適正値は、液体窒素温度で0.76Ω以下になる。そこで、炭化珪素に添加する金属の量を変えることにより、冷却温度である液体窒素温度で0.7Ωとなるように調整した。この超電導限流素子を20枚作製し、100Vまで電圧を増加させ限流試験を10回繰返し行ったところ、すべての素子が損傷することなく限流動作した。
【0036】
[実施例2]
実施例2では実施例1と同様の構造の超電導限流素子において、さらに室温での保護抵抗の値を調整した。表1のパラメータを(8)式、(13)式に代入すると室温での保護抵抗21の適正範囲は1.5Ω以上3.7Ω以下になる。また、実施例1で述べたように冷却温度での保護抵抗21の値は0.76Ω以下であることが必要である。そこで、炭化珪素に添加する金属の量を変えることにより、図9に示すように、保護抵抗21の値を、冷却温度である液体窒素温度で0.7Ω、室温で1.6Ωとなるように調整した。この超電導限流素子を20枚作製し、YBCO薄膜11に印加できる最大電圧の400Vまで電圧を増加させ限流試験を10回繰返し行ったところ、すべての素子が損傷することなく限流動作した。また、限流特性から保護抵抗21の温度上昇を見積もったところすべて室温以下であった。
【0037】
[比較例1、2、3]
液体窒素温度での保護抵抗21の値を1Ωと大きくした以外は実施例1と同様の限流素子を作製した(比較例1)。限流試験を行ったところ、限流初期にYBCO薄膜11が断線してしまった。また、室温での保護抵抗21の値を1.1Ωと小さくした以外は実施例2と同様の限流素子を作製した(比較例2)。その限流特性から見積もったところ、限流中に保護抵抗21は350Kと室温以上に温度上昇していることが判明した。また、室温での保護抵抗21の値を5Ωと大きくした以外は実施例1と同様の限流素子を作製した(比較例3)。限流特性を調べたところ、限流中に80A(実効値)とIcの2倍以下に電流が絞られ、保護抵抗が損傷することが判明した。
【0038】
[実施例3]
実施例3に係る超電導限流素子は図3(a)の平面図および図3(b)の断面図(図3(a)のB−B’線に沿った断面)に示す構造を有する。図3に示すように、サファイア基板12の表面に成膜したYBCO薄膜11と、AlN基板23の表面に成膜したNi薄膜22を、両端で低融点半田7により電気的に並列接続した。表2に各パラメータの値を示す。
【表2】

【0039】
表1と表2に示したパラメータを(3)式、(11)式、(13)式に代入すると、保護抵抗22の適正値は液体窒素温度では0.76Ω以下、室温では1.8Ω以上3Ω以下となる。そのため、AlN基板23上に厚さ200nmのNi薄膜22を電子ビーム蒸着法により成膜する条件を変えて、保護抵抗22の値が図10に示すように、液体窒素温度で0.6Ω、室温で2.5Ωとなるように調整した。この超電導限流素子を20枚作製し、YBCO薄膜11に印加できる最大電圧の400Vまで電圧を増加させ限流試験を繰返し10回行ったところ、すべての素子が損傷することなく限流動作した。また、限流特性から保護抵抗の温度上昇を見積もったところすべて室温以下であった。
【0040】
[実施例4、5]
実施例4、5に係る超電導限流素子は図4(a)の平面図および図4(b)の断面図(図4(a)のB−B’線に沿った断面)に示す構造を有する。図4に示すように、サファイア基板12の表面に成膜したYBCO薄膜11と、炭化珪素に金属粒子を添加して焼結したバルク部材21にNi薄膜22を被覆した保護抵抗を、両端で低融点半田7により電気的に接続した。表1と表2に示すパラメータを用いて、バルク部材の抵抗R21とNi薄膜の抵抗R22およびR21とR22の合成抵抗R3が(3)式、(12)式、(13)式を満足するように、バルク部材の添加金属の量やNi薄膜の厚さを調整した。その結果、合成抵抗R3は冷却温度で0.5Ω、室温で2Ωであり、R21とR22の値を変えて、図11(実施例3)、図12(実施例4)に示すように温度とともに抵抗の増加率が小さくなるような温度変化をする2種類の保護抵抗を得ることができた。これらの超電導限流素子を10枚ずつ作製し、400Vまで電圧を増加させて限流試験を10回行ったところ、すべての素子が損傷することなく限流動作した。また、限流特性から保護抵抗の温度上昇を見積もったところ、すべて室温以下であった。
【0041】
[比較例4]
保護抵抗として、AlN基板上に厚さ200nmのNi薄膜を電子ビーム蒸着法により成膜した。成膜条件によりNi薄膜の抵抗R4を、冷却温度で0.5Ω、室温で2Ωに調整し、図13に示すような温度変化を示した。比較のために、実施例3の保護抵抗の抵抗R3を図中に示す。このようにR4は温度に対する抵抗の増加率の変化がR3に比べてかなり小さくなっている。この比較例4と実施例3の超電導限流素子を10枚ずつ作製し、400Vまで電圧を増加させて限流試験を行った後、保護抵抗の復帰時間、すなわち保護抵抗が冷却温度まで冷却されるまでの時間を調べた。その結果、実施例3の保護抵抗の復帰時間は20秒であったのに対し、比較例4の保護抵抗の復帰時間は40秒と長かった。
【0042】
[比較例5]
図14は比較例5に係る超電導限流素子の構造を示した図であり、図14(a)は平面図、図14(b)は図14(a)のB−B’線に沿った断面図である。図14に示すように、サファイア基板12の表面に成膜したYBCO薄膜11と炭化珪素に金属粒子を添加して焼結したバルク部材21にNi薄膜22を被覆した保護抵抗とを両端で低融点半田7により電気的に接続している。実施例3においては冷却温度での抵抗が小さいNi薄膜22がYBCO薄膜11の近くに配置されているのに対し、比較例5においては冷却温度での抵抗の大きいバルク部材21がYBCO薄膜11の近くに配置されている。この実施例3と比較例5の超電導限流素子を10枚ずつ作製し、400Vまで電圧を増加させて限流試験を行った後、YBCO薄膜の復帰時間、すなわちYBCO薄膜が常伝導状態から超電導状態へ復帰する時間を調べた。その結果、実施例3のYBCO薄膜の復帰時間は20秒であるのに対し、比較例4のYBCO薄膜の復帰時間は30秒と長くなることが分かった。
【0043】
[実施例6]
実施例6に係る超電導限流素子は図7(a)の平面図および図7(b)の断面図(図7(a)のB−B’線に沿った断面)に示す構造を有する。図7に示すように、サファイア基板12の表面に共蒸着法により成膜したYBCO薄膜11と、AlN基板23の表面に電子ビーム蒸着法により成膜したNi薄膜22とNiCr薄膜26の積層からなる保護抵抗を、両端で低融点半田7により電気的に接続した。絶縁基材上に形成された保護抵抗の適正範囲は、実施例3と同様に表1と表2および(3)式、(12)式、(13)式を用いると、液体窒素温度では0.76Ω以下、室温では1.8Ω以上3.7Ω以下となる。そこで、Ni薄膜の抵抗R22とNiCr薄膜の抵抗R26の合成抵抗R4が上記の適正範囲になるように、Ni薄膜とNiCr薄膜の厚さをそれぞれ200nmと1μmとした。その結果、合成抵抗R4は図15に示すような温度変化を示した。このような超電導限流素子を20枚作製し、400Vまで電圧を増加させ限流試験を繰返し10回行ったところ、すべての素子が損傷することなく限流動作した。また、限流特性から保護抵抗の温度上昇を見積もったところすべて室温以下であった。
【0044】
[実施例7]
実施例7に係る超電導限流素子は図8(a)の平面図および図8(b)の断面図(図8(a)のB−B’線に沿った断面)に示す構造を有する。図8に示すように、サファイア基板12の表面に成膜したYBCO薄膜11と、炭化珪素に金属粒子を添加して焼結したバルク部材21およびMn酸化物のバルク部材27からなる保護抵抗を、両端で低融点半田7により電気的に接続した。表1と表2に示すパラメータを用いて、保護抵抗の抵抗値が(3)式、(12)式を満足するように、バルク部材の添加金属の量や厚さを調整した。その結果、保護抵抗の値は冷却温度で0.7Ω、室温で1.6Ωとなった。この超電導限流素子を10枚ずつ作製し、400Vまで電圧を増加させて限流試験を10回行ったところ、すべての素子が損傷することなく限流動作した。また、限流特性から保護抵抗の温度上昇を見積もったところ、すべて室温以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1に係る超電導限流素子の構成と試験回路を示す図。
【図2】本発明の実施例1に係る超電導限流素子の構造を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B’線に沿った断面図。
【図3】本発明の実施例3に係る超電導限流素子の構造を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B’線に沿った断面図。
【図4】本発明の実施例4および5に係る超電導限流素子の構造を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B’線に沿った断面図。
【図5】保護抵抗の温度変化を示す図。
【図6】本発明の実施例4、5および6に係る超電導限流素子の構成を示す図。
【図7】本発明の実施例6に係る超電導限流素子の構造を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B’線に沿った断面図。
【図8】本発明の実施例7に係る超電導限流素子の構造を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B’線に沿った断面図。
【図9】本発明の実施例2に係る超電導限流素子の保護抵抗の温度変化を示す図。
【図10】本発明の実施例3に係る超電導限流素子の保護抵抗の温度変化を示す図。
【図11】本発明の実施例4に係る超電導限流素子の保護抵抗の温度変化を示す図。
【図12】本発明の実施例5に係る超電導限流素子の保護抵抗の温度変化を示す図。
【図13】比較例4に係る超電導限流素子の保護抵抗の温度変化を示す図。
【図14】比較例5に係る超電導限流素子の保護抵抗の温度変化を示す図。
【図15】本発明の実施例6に係る超電導限流素子の保護抵抗の温度変化を示す図。
【符号の説明】
【0046】
1…超電導薄膜、11…超電導薄膜、12…基材、2…保護抵抗、21…バルク形態の保護抵抗、22…薄膜形態の保護抵抗、23…薄膜形態の保護抵抗が設けられた基材、24…保護抵抗、25…保護抵抗、26…薄膜形態の保護抵抗、27…バルク形態の保護抵抗、3…超電導限流素子、4…電源、5…回路インピーダンス、6…スイッチ、7…低融点半田。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられた超電導体と、前記超電導体の保護抵抗とを並列接続した超電導限流素子であって、冷却温度における前記保護抵抗の値Rnが下記の式
【数1】

(ここで、ρyは臨界温度直上における超電導体の抵抗率、dは超電導体の厚さ、Wは超電導体の幅、lは超電導体が常伝導転移した領域の長さ、Iqは限流開始電流値、Psは超電導体が設けられた基材が破壊しない最大熱負荷である。)
を満足することを特徴とする超電導限流素子。
【請求項2】
前記保護抵抗がバルク形態をなし、室温における前記保護抵抗の値Rbが下記の式
【数2】

(ここで、Vyは保護抵抗に接続された超電導体に印加される最大電圧、Δtは電圧を印加する時間、Cbおよびσbはバルク形態の保護抵抗の室温における比熱および密度、Wb、dbおよびlbはバルク形態の保護抵抗の幅、厚さおよび長さ、ΔTmaxは冷却温度と室温との温度差である。)
を満足することを特徴とする請求項1に記載の超電導限流素子。
【請求項3】
前記保護抵抗が絶縁基材上に形成された薄膜形態をなし、室温における前記保護抵抗の値Rfが下記の式
【数3】

(ここで、Vyは保護抵抗に接続された超電導体に印加される最大電圧、Δtは電圧を印加する時間、Wfは薄膜形態の保護抵抗の幅、lfは薄膜形態の保護抵抗の長さ、ΔTmaxは冷却温度と室温との温度差、κs、Csおよびσsは保護抵抗が設けられた基材の室温における熱伝導率、比熱および密度である。)
を満足することを特徴とする請求項1に記載の超電導限流素子。
【請求項4】
前記保護抵抗が薄膜形態の部材とバルク形態の部材との積層構造を持ち、室温における薄膜形態の部材の抵抗値Rfと室温におけるバルク形態の部材の抵抗値Rbが下記の式
【数4】

(ここで、Vyは保護抵抗に接続された超電導体に印加される最大電圧、Δtは電圧を印加する時間、Cb、κb、σb、Wb、lbおよびdbはバルク形態の部材の室温における比熱、熱伝導率、密度、幅、長さおよび厚さであり、ΔTmaxは冷却温度と室温との温度差である。)
を満足することを特徴とする請求項1に記載の超電導限流素子。
【請求項5】
室温における保護抵抗の値Rmが下記の式
【数5】

(ここで、Vyは保護抵抗に接続された超電導体に印加される最大電圧、Icは超電導体の臨界電流である。)
を満足することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の超電導限流素子。
【請求項6】
前記保護抵抗の温度に対する抵抗の増加率が温度とともに小さくなることを特徴とする請求項5に記載の超電導限流素子。
【請求項7】
前記保護抵抗は、温度に対する抵抗の増加率が異なる2つ以上の部材が電気的に接続されたものであることを特徴とする請求項6に記載の超電導限流素子。
【請求項8】
前記保護抵抗を構成する2つ以上の部材は積層されていることを特徴とする請求項7に記載の超電導限流素子。
【請求項9】
冷却温度の単位長さ当りの抵抗が小さい部材を、冷却温度の単位長さ当りの抵抗が大きい部材よりも、前記超電導体の近くに配置したことを特徴とする請求項7または8に記載の超電導限流素子。
【請求項10】
基材上に設けられた超電導体と、前記超電導体の保護抵抗とを並列接続した超電導限流素子を製造するにあたり、冷却温度における前記保護抵抗の値Rnが下記の式
【数6】

(ここで、ρyは臨界温度直上における超電導体の抵抗率、dは超電導体の厚さ、Wは超電導体の幅、lは超電導体が常伝導転移した領域の長さ、Iqは限流開始電流値、Psは超電導体が設けられた基材が破壊しない最大熱負荷である。)
を満足するように設計することを特徴とする超電導限流素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−13316(P2006−13316A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191344(P2004−191344)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国などの委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「交流超電導電力機器基盤技術研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】