説明

超音波トランスデューサ

【課題】超音波トランスデューサにおいて、環境温度に基づく信頼性の低下を防ぎつつ温度安定性を高め、底面部をベンディング振動させる。
【解決手段】超音波トランスデューサ1は圧電体2と駆動電極3A,3Bとを備える。圧電体2は、筒状の側壁部2Aと、側壁部2Aの少なくとも一方の開口端を塞ぐ底面部2Bとを一体に形成したものである。駆動電極3A,3Bは電界を圧電体2に印加し、側壁部2Aが径方向に拡縮するモードで駆動される。この構成により、側壁部2Aと、底面部2Bとが物理的に結合されるので、ベンディング振動が底面部2Bに励振される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電体を駆動することで超音波の送信または受信を行う超音波トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波トランスデューサとして、例えば有底筒状のケース底面に圧電体を設け、圧電体の駆動によりケース底面の全体をベンディング振動させるものがある(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。板状のケース底面と圧電体とで振動板部を構成することで、圧電体の広がり振動により間接的にケース底面をベンディング振動させて、ケース底面の大きな変位を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−326987号公報
【特許文献2】特開2007−036301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にケース底面と圧電体とは接着剤で接着されるため、ケース底面と圧電体との線膨張係数の差により、熱応力が作用して圧電体が剥がれるなど信頼性が低下する。また、用いられる接着剤は、温度特性を有するので十分な精度で動作する温度範囲が狭まる。例えば、超音波トランスデューサが150℃以上などの高温下に長時間放置されると、接着剤の種類によっては接着剤に軟化や炭化が生じ信頼性が低下する。
【0005】
本願発明の目的は、環境温度に起因する信頼性の低下を防ぎつつ温度安定性を高められる超音波トランスデューサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の超音波トランスデューサは圧電体と駆動電極とを備える。圧電体は、筒状の側壁部と、側壁部の少なくとも一方の開口端を塞ぐ底面部とを一体に形成したものである。駆動電極は、圧電体に電界を印加し、圧電体の側壁部が径方向に拡縮するモードで圧電体が駆動される。
この構成では、側壁部が径方向に拡縮することで、底面部にベンディング振動が励振される。このベンディング振動は、底面部が側壁部の振動に物理的に結合して励振されるもので、例えば平板状の圧電素子を厚み縦振動又は広がり振動等により振動させる場合よりも変位が大きい。このように圧電素子とケース底面とを接合させて振動板部とする構造を採用することなく側壁部と底面部とが一体となった構造を振動板部として機能させることで、線膨張係数の差や接着剤の熱劣化などの影響を回避して、超音波トランスデューサの環境温度に起因する信頼性の低下を防ぎつつ温度安定性を高められる。
【0007】
この発明の超音波トランスデューサはケースと緩衝体とをさらに備えると好適である。ケースは、ケース内部から底面部を露出させて圧電体を収容する。緩衝体は、圧電体とケースとの接触部分に設けられ、圧電体からケースに伝わる振動を緩衝する。
この構成では、ケースによる圧電体の拘束を、緩衝体によって防げる。したがって、側壁部の拡縮や底面部の変位が小さくなることを防ぐことができ、また、圧電体の振動がケースに伝わって生じる残響を抑制できる。さらには、圧電体がケース内部に収容されることにより、圧電体が保護されるので、超音波トランスデューサの耐環境性を高められる。
【0008】
この発明の底面部の底面視形状は、底面部の中心を通る長辺に対して、底面部の中心を通る短辺のアスペクト比が1よりも大きい形状であることが好適である。
この構成では、超音波の指向性に異方性を持たせられる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、側壁部が径方向に拡縮することで底面部をベンディング振動させられる。このベンディング振動は、底面部が側壁部の振動に物理的に結合して励振されるもので変位が大きい。このように圧電素子とケース底面とを接合させて振動板部とする構造を採用することなく側壁部と底面部とが一体となった構造を振動板部として機能させることで、変位の大きなベンディング振動を利用しつつも、線膨張係数の差や接着剤の熱劣化などの影響を回避して、超音波トランスデューサの環境温度に基づく信頼性の低下を防ぎ温度安定性を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波トランスデューサの構成例を示す概略の図である。
【図2】図1の超音波トランスデューサの有限要素解析の結果を例示する図である。
【図3】図1の超音波トランスデューサの周波数特性を例示する図である。
【図4】図1の超音波トランスデューサの温度特性を例示する図である。
【図5】図1の超音波トランスデューサの圧電体分極処理を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態に係る超音波トランスデューサの他の構成例を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態に係る超音波トランスデューサの他の構成例を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態に係る超音波トランスデューサの他の構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明の実施形態に係る超音波トランスデューサについて説明する。
図1(A)は、本実施形態に係る超音波トランスデューサ1の概略の断面図である。
この超音波トランスデューサ1は、自動車のバックソナー、コーナーソナー、パーキングスポット等に利用され、物標に超音波を送信する送波器、または物標からの反射波を検出する受波器として測距装置などに利用される。
【0012】
この超音波トランスデューサ1は、圧電体2、駆動電極3A,3B、ケース4、緩衝体5、および端子部6A,6Bを備える。図1(B)は圧電体2の底面図である。圧電体2は有底筒状であり、側壁部2Aと底面部2Bとからなる。側壁部2Aは円筒状である。底面部2Bは、側壁部2Aの軸方向に対して垂直な平板状で、側壁部2Aの天面側開口端を閉塞する。圧電体2は側壁部2Aの軸方向を分極方向としている。駆動電極3Aは底面部2Bの天面に設け、駆動電極3Bは側壁部2Aの底面に設けている。ケース4は開口内に圧電体2を収容する有底円筒状であり、底面側の開口端が閉塞する。なお、ケース4は圧電体の開口部に連通する孔を底面に設けた構成であってもよい。また、圧電体2およびケース4に囲まれる空間に、吸音材を設ける構成であってもよい。緩衝体5はシリコーンゴム等の弾性体であり、ケース4と側壁部2Aの側面との間およびケース4と側壁部2Aの底面との間に設け、ケース4の開口内で圧電体2とケース4とが直接接触することを防いで圧電体2の振動を緩衝する。なお、緩衝体5は側壁部2Aの側面に設けず、側壁部2Aの底面にのみ設けてもよい。端子部6Aは、駆動電極3Aに天面側の端部で接続し、ケース4の底面から底面側の端部が突出する。端子部6Bは、駆動電極3Bに天面側の端部で接続され、ケース4の底面から底面側の端部が突出する。端子部6A,6Bは、金属端子板やインサートモールド等を用いて形成し、端子部6A,6Bが接続された圧電体2をケース4の開口部に収容し、その際に、ケース4に予め設けた孔に端子部6A,6Bを嵌め込んで作製する。
【0013】
この超音波トランスデューサ1は、送波器として利用する際には、駆動電極3A,3B間に駆動信号を印加することで、分極方向である側壁部2Aの軸方向に電界が印加されて、側壁部2Aが径方向に拡縮する広がり振動が生じる。すると、側壁部2Aの軸方向の厚みに対して、底面部2Bの軸方向の厚みが薄いので、底面部2Bにベンディング振動が励振され超音波を送波する。受波器として利用する際には、圧電体2が超音波を受波して振動することで、駆動電極3A,3B間に受波信号が生じる。
【0014】
圧電体2はケース4に収容するので、超音波トランスデューサ1は耐環境性が高い。また、圧電体2とケース4との間に緩衝体5を設けて振動を緩衝するので、ケース4が圧電体2を拘束することを回避できる。また、圧電体2の振動がケース4に伝わることにより生じるケース内での残響を抑制できるとともに、底面部2Bの変位が妨げられることを防げる。
【0015】
図2は、超音波トランスデューサ1の有限要素解析の結果を例示する図である。
側壁部2Aと底面部2Bとは一体構造である。側壁部2Aが広がり振動することで、底面部2Bは側壁部2Aに比べて厚みが薄いため変形し易く、側壁部2Aから引っ張り応力が加わる。これにより、側壁部2Aと底面部2Bとの境界付近を振動の節とするベンディング振動が底面部2Bに励振される。
【0016】
このベンディング振動は、側壁部2Aと底面部Bとの物理的な結合により励振されるものなので、例えば平板状の圧電素子を厚み縦振動又は広がり振動等により振動変位が大きく、超音波の振幅を大きくできる。
【0017】
図3は、超音波トランスデューサ1における周波数特性を例示する図である。図中の実線はインピーダンス特性を示し、図中の破線は位相特性を示す。なお、左側の縦軸はインピーダンス|Z|を、右側の縦軸は位相θzを、横軸は周波数を示す。
超音波トランスデューサ1は、周波数約55kHz,100kHz,157kHz付近に共振反共振周波数を有する。周波数約55kHzは底面部2Bにおけるベンディング振動の共振周波数であり、周波数約157kHzは側壁部2Aにおける広がり振動の共振周波数である。なお、周波数約100kHzは上記2つの振動によるスプリアスモードである。このような周波数特性を有するため、超音波トランスデューサ1を周波数157kHz の駆動信号で駆動することにより、側壁部2Aが広がり振動し、底面部2Bに周波数約55kHzでベンディング振動が励振される。
【0018】
図4は、従来の圧電素子とケース底面とを接合させて振動板部とする構造を採用した超音波トランスデューサと本実施形態の超音波トランスデューサとの温度特性を説明する図である。図4(A)は20℃を基準とした共振周波数の変化割合を、図4(B)は20℃を基準とした感度の変化割合を示す図である。図中の実線は本実施形態の超音波トランスデューサの温度特性を示し、図中の破線は従来の超音波トランスデューサの温度特性を示す。
【0019】
従来構造は圧電素子とケース底面との材料、及び、圧電素子とケース底面との間に用いられる接着剤の線膨張係数の差から、温度変化に略比例して共振周波数が変化する温度特性を有するが、本実施形態は単一の圧電体を用いる構成であり温度変化があっても共振周波数が一定である。
【0020】
また、従来構造は接着剤により異素材を接合する構造であり環境温度がガラス転移点を超えると接着剤が変質して、感度が大幅に低下してしまう。これに対して、本実施形態は単一の圧電体を用いる構成であるために接着剤を利用する必要が無く、温度変化があっても感度が略一定である。
【0021】
したがって、本実施形態の超音波トランスデューサでは、環境温度に基づく信頼性の低下を防ぎつつ温度安定性を高められる。
【0022】
図5は超音波トランスデューサ1における圧電体分極方法を説明する状態図である。
圧電体2は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛等の圧電セラミック材料の未焼成体を焼成することで作製され、焼成体を分極して使用する。その分極時には、電界の印加により開口内の隅部に分極ひずみが集中し、クラックが入る危険性がある。そこで、本実施形態では、圧電体2の開口の軸方向に対して交差する全ての平面に電極を形成し、軸方向の寸法に応じて相違する電圧V1,V2を印加することで、局所的な電界強度が所定範囲に収まるようにコントロールしながら分極を行う。分極後には開口底面に設けた電極を除去する。これにより、分極時にクラックが発生する危険性を抑えることができる。
【0023】
なお、板状の圧電体の両主面に電極を形成しておき、電界を印加して分極した後に開口を刳り抜くことで圧電体2を作製することも可能である。したがって本願発明の超音波トランスデューサは、上述した分極方法に限らず、どのような分極方法を採用して製造してもよい。また、圧電体に形成する電極は、導電性ペーストを塗布後に焼付けて製造しても、レジストを用いてパターン形成しても、スパッタ・蒸着等の薄膜形成法やめっき等の方法で製造してもよく、どのような電極形成方法を採用してもよい。
【0024】
次に、圧電体の他の構成例について説明する。
【0025】
図6は、圧電体の断面形状のバリエーション例を説明する図である。
【0026】
図6(A)は、開口底面にテーパを付けた構成の圧電体の断面図である。図6(B)は、開口底面に突起を付けた構成の圧電体の断面図である。図6(C)は、開口底面を凹形状にした構成の圧電体の断面図である。図6(D)は、開口底面を凸形状にした構成の圧電体の断面図である。図6(E)は、底面部天面を凸形状にした構成の圧電体の断面図である。図6(F)は、底面部天面を凹形状にした構成の圧電体の断面図である。
【0027】
以上のような圧電体を用いて本発明の超音波トランスデューサを構成してもよく、これらの圧電体を利用することで超音波の指向性を制御できる。
【0028】
図7は、駆動電極のバリエーション例を説明する図である。
図7(A)は、底面部天面および側壁部底面それぞれに駆動電極を配置した例である。図7(B)は、底面部天面、底面部底面、および側壁部底面それぞれに駆動電極を配置した例である。図7(C)は、底面部天面−側壁部外側面と、底面部底面−側壁部内側面と、のそれぞれに駆動電極を配置した例である。図7(C)のように圧電体の全表面に電極が形成された構成であっても、分極時の電極及び駆動時の電極をそれぞれ選択することによって、駆動可能である。
【0029】
いずれの例であっても、側壁部の広がり振動を大きく確保しておくことで、底面部にベンディング振動を励振させることが可能である。
【0030】
図8は、圧電体の底面視形状のバリエーション例を説明する図である。
図8(A)は、底面視形状が正方形である圧電体の底面図である。図8(B)は、底面視形状が長方形である圧電体の底面図である。図8(C)は、底面視形状が楕円形である圧電体の底面図である。
正方形や円形等の、底面部の底面視形状では、底面部の中心を通る長辺に対して、底面部の中心を通る短辺のアスペクト比が1であると、超音波の指向性に等方性を持たせられる。一方、長方形や楕円形等の底面部の底面視形状では、底面部の中心を通る長辺に対して、底面部の中心を通る短辺のアスペクト比が1よりも大きいと、超音波の指向性に異方性を持たせられる。
【符号の説明】
【0031】
1…超音波トランスデューサ
2,12,22,32,42,52,62,72,82,92…圧電体
2A…側壁部
2B…底面部
3A,3B…駆動電極
4…ケース
5…緩衝体
6A,6B…端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の側壁部と、前記側壁部の少なくとも一方の開口端を塞ぐ底面部とを一体に形成した圧電体、
および、前記圧電体に電界を印加するための駆動電極と、を備えたことを特徴とする超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記圧電体の前記側壁部が径方向に拡縮するモードで駆動されることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
ケース内部から前記底面部を露出させて前記圧電体を収容するケースと、
前記圧電体と前記ケースとの接触部分に設けられ、前記圧電体から前記ケースに伝わる振動を緩衝する緩衝体と、をさらに備える請求項1または2に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記底面部は、底面視形状で、底面部の中心を通る長辺に対して、底面部の中心を通る短辺のアスペクト比が1よりも大きい、請求項1〜3のいずれかに記載の超音波トランスデューサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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