説明

超音波モータ及びそれを有するレンズ装置

【課題】超音波モータにおいて、振動子を被駆動部に対して良好な加圧接触状態で保持するためには構成が複雑であり、部品点数が多く、組立ても容易ではなかった。
【解決手段】超音波モータは、接触面101aを有する被駆動部101と、圧電素子103によって励振された超音波振動によって被駆動部101を駆動する振動子109と、振動子109を保持する保持部104と、接触面101aを被駆動部101に押圧するために、保持部104を被駆動部101に向かって付勢する加圧手段106とを備え、保持部104と加圧手段106の一方は凸部を有する当接部を備え、もう一方は溝部を備え、当接部と前記溝部は互いに係合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押圧された振動子に楕円振動を発生させることにより被駆動部を駆動する超音波モータと、その超音波モータを使用したレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無音動作、低速から高速までの駆動が可能、高トルク出力などの特徴を活かして、例えば、カメラやレンズの駆動源として超音波モータが採用されている。特許文献1に開示された超音波モータは、回転軸を有する円環状の被駆動部と、当該被駆動部と接触する接触部を備える複数の振動子とから構成されている。振動子は被駆動部に押圧された状態、所謂、加圧接触状態で保持されており、円環状の被駆動部上に所定の間隔を隔てて配置されている。その加圧接触状態下で当該振動子に超音波振動が励起されると、振動子の被駆動部と接している接触部に楕円運動が生じ、被駆動部が被駆動部の回転軸を中心に回転駆動される。当該振動子の被駆動部への加圧接触状態は、振動子の中央付近に設定された振動の節にあたる部分を板バネにより付勢することで得られる。そして、その押圧力の調節は、当該板バネの固定部近傍に設けられたビスと調節ワッシャーによってなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4667839号公報
【特許文献2】特開2004−304887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された超音波モータにおいては、振動子に付勢される押圧力の保持機構は構成部品が多く複雑であった。特に、振動子と被駆動部の間を良好な加圧接触状態で保持するために支持軸を振動子の中央付近に設ける必要があり、部品点数が多く、組立ても複雑で、コストがかかる構成となっていた。
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、振動子に発生する超音波振動による楕円運動により被駆動部を駆動する超音波モータにおいて、簡単な構成により振動子と被駆動部の間で良好な加圧接触状態が得られる超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の超音波モータは以下のような構成としている。
超音波モータは、接触面を有する被駆動部と、前記接触面と接触し、圧電素子が固定されており、前記圧電素子によって励振された超音波振動によって前記被駆動部を駆動する振動子と、前記振動子を保持する保持部と、前記接触面を前記被駆動部に押圧するために、前記保持部を前記被駆動部に向かって付勢する加圧手段とを備え、前記保持部と前記加圧手段の一方は凸部を有する当接部を備え、もう一方は溝部を備え、前記当接部と前記溝部は互いに係合している。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、振動子に発生する超音波振動による楕円運動により被駆動体を駆動する超音波モータにおいて、簡単な構成により振動子と被駆動部の間で良好な加圧接触状態が得られる超音波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1における超音波モータの分解斜視図である。
【図2】図1に示される各部材を組込んだ状態の斜視図である。
【図3】(A)は、実施例1における振動子と小基台の接合状態を示す拡大斜視図であり、(B)は、小基台を当接部側から見た拡大斜視図である。
【図4】(A)及び(B)は、実施例1における各部材を組込んだ状態を示す拡大断面図である。(C)は、加圧部材が有する溝部の拡大斜視図であり、(D)は、(B)のA部の拡大詳細図であり、弾性部材の押圧力の成分ベクトルを示す。
【図5】(A)及び(B)は、実施例1におけるロータが傾いた状態を示す拡大断面図である。
【図6】(A)及び(B)は、実施例2における各部材を組込んだ状態を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の実施例3における小基台を当接部側から見た拡大斜視図である。
【図8】本発明の実施例3における加圧部材が有する溝部の拡大斜視図である。
【図9】(A)及び(B)は、実施例3における各部材を組込んだ状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
以下、図を用いて本発明の実施例について説明する。なお、本実施例の超音波モータは、デジタルカメラ用のレンズ鏡筒などの駆動用アクチュエータとしてユニット化した回転駆動型モータを例に説明するが、使用用途はこれに限られたものではない。
【0009】
図1は、本発明の一実施例である超音波モータの分解斜視図である。なお、図において同一部材は同一記号で図示される。101は被駆動部であるロータで、後述する振動子109が加圧接触する接触面101aを備える。102は、接触面101aに押圧を伴う加圧接触状態で接触する振動板であり、103は、振動板102に接着剤などにより圧着されている圧電素子である。そして、振動板102に圧電素子103が圧着された状態で、圧電素子103に電圧を印加することにより超音波振動を発生させ、振動板102に楕円運動を発生させることができる。なお、振動子109は振動板102と圧電素子103により構成される。そして、本実施例では3か所の振動子109でロータ101を回転駆動する。104は、振動子109を保持するための保持部としての小基台である。105は、固定部としてのリング基台であり、後述する加圧部材106、及び板バネ107を保持する。106は、リング基台105の貫通穴部105bに嵌合する加圧部材であり、ロータ101の接触面101aに対して概ね垂直な方向にのみ移動可能に保持され、後述する板バネ107からの押圧力により小基台104を介して振動子109をロータ101に加圧接触させる。107は、弾性部材であるところの板バネであり、両端部はビス108にてリング基台105へ固定され、そして板バネの押圧力により振動子109とロータ101を加圧接触させる。そして、この加圧部材106と板バネ107が、本発明の加圧手段となる。
【0010】
以上のように、上述した各部材が組込まれ、超音波モータとしてユニット化される。
図2は、図1の各部材を組込んだ状態の斜視図である。なお、図2において、振動子109まわりの構成は3か所とも全て同一であるが、図の煩雑さを防ぐため、図中の手前側にだけ番号を付している。図に示すようにリング基台105の3か所において、それぞれ2つのビス108で固定された板バネ107により、加圧部材106と小基台104を介して振動子109に付勢力が付勢され、その結果、振動子109とロータ101の接触面101aが加圧接触する。なお、実際のレンズ鏡筒などに組み込まれる際には、ロータ101をフォーカス機構やズーム機構に連結して駆動する。
【0011】
次に、超音波モータの構成部材の詳細について説明する。図3(A)は、図1及び図2における振動板102と小基台104の接合状態を説明するための拡大斜視図で、ロータ101側から見た図である。図において振動板102の中央の平板部102aには、2か所の突起部102bが形成される。突起部の上端面、すなわち、ロータ101の接触面101aと当接する面は同一平面上に形成され、接触面101aとの当接状態を良好にするため、製造工程時には研磨などにより均一な面に仕上げられる。
【0012】
一方、図3(A)に示す平板部102aの裏面側(2か所の突起部102bが形成されている面と反対の面側)には圧電素子103が接着剤などにより圧着されている。なお、平板部102bの裏面と圧電素子103の圧着は、圧着されればその方法は限定されない。この圧電素子103は複数の圧電素子膜を積層して一体化したものである。そして、この積層された圧電素子103に所望の交流電圧を印加することで励振させ、圧電素子103が圧着された振動板102に2つの振動モードを励起する。このとき2つの振動モードの振動位相が所望の位相差となるように設定することで、突起部102bには、図3(A)の矢印で示すような楕円運動が発生する。この楕円運動を図1及び図2に示すような3か所の振動子109で発生させ、ロータ101の接触面101aに伝達することで、ロータ101を回転駆動させることが可能となる。なお、前述の圧電素子の積層構造や振動モードに関する詳細は、特許文献2に記載されている内容と同様であるため、それらの説明は省略する。
【0013】
次に、振動板102の両端には、小基台104の両側に形成された一段高い上面部104aと接合するための2か所の接合部102cが形成されている。そして、振動板102は小基台104に、この接合部102cにおいて溶接や接着などにより接合されるが、振動板102と小基台104が接合されれば、その方法は限定されない。2か所の接合部102cと平板部102aとの間には2か所の腕部102dが形成され、この腕部102dを介して、圧電素子103が圧着された平板部102aは小基台104に固定される。この腕部102dは、平板部102aに発生する振動を接合部102cに伝達しにくい構成とするため、図3に示すように平板部102aや接合部102cに対して細い形状となっている。言い換えると、剛体である小基台104が平板部102aに発生する振動を阻害しないような連結の構成を、当該腕部102dによって実現している。また、小基台104の中央付近の平面部104bと、圧電素子103の平面部104bと対向する面(不図示)の間には所定の隙間203が形成されている。
【0014】
図3(B)は、図3(A)に対し小基台104を下側から、すなわち、振動板102bを接合する面の反対の面側を見た図である。小基台104の中央付近には凸部を有する当接部104eが設けられている。当接部104eは、トーラス形状の一部から構成されている。当該トーラス形状は、詳細に後述するが、ロータ101の駆動方向、及びロータ101の駆動方向と垂直な方向の2つの断面内に、それぞれ円弧の形状を有している。
【0015】
図4(A)、(B)は、各部材を組込んだ状態を示す拡大断面図でロータ101を上側とした図になっており、図2における3か所の振動子109のうち1か所の周囲のみを拡大している。なお、残りの2か所に関しては同様の構成を有するため説明は省略する。
【0016】
図4(A)は、ロータの駆動方向に平行で、振動板102の2つの突起部102bにおいて、ロータ101の接触面101aと接触する2つの突起部102bの上端面を含む全上端面の重心と、当該重心を起点とするロータ101の法線を含む面を切断面としている。
【0017】
図4(B)は、図3における振動板102の突起部102bにおいて、接触面101aと接触する全上端面の重心と接触面101aの法線を含み、且つ図4(A)に直交する面を切断面としている。
ただし、全上端面とは、全ての突起部102bの上端面を含んだものであり、この実施例では2つの上端面である。
【0018】
図4(A)、(B)の201は、振動板102の突起部102bの全上端面の重心を通過し、ロータ101の接触面101aの法線を含む中心線である。
突起部102bの上端面はロータ101の接触面101aと当接し、加圧接触状態にある。また、振動板102は、両端の接合部102cが2か所の上面部104aで小基台104と接合されている。そして、圧電素子103と小基台104の平面部104bの間には所定の隙間203が形成されている。
【0019】
一方、小基台104の下側中央付近には、図3(B)に示されるようなトーラス形状の一部を有する当接部104eが設けられている。当該当接部104eは、加圧部材106に形成された溝部106aと係合している。図4(A)、(B)では、当接部104eと溝部106aは互いに接触していないように見えるが、これは紙面に垂直な方向の前後で接触しているためであり、以下に図を用いて構成を説明する。
【0020】
トーラス形状は、図4(A)の断面で示される当接部104eの第1の円弧207aを、図4(B)の断面で示される当接部104eの第2の円弧207bの中心を通り、図4(B)の紙面に垂直な線を回転軸として回転させた際に形成される。
【0021】
本実施例においては、第1の円弧207aの半径より第2の円弧207bの半径の方が大きく、すなわち、第1の円弧207aの曲率よりも第2の円弧207bの曲率の方が小さく設定した。これは、図4(A)の断面のロータ101の駆動方向における2つの突起部102bの端部間の幅よりも、図4(B)の断面における突起部102bの幅の方が小さいため、図4(B)の左右方向に振動子102がより倒れ易いためである。従って、図4(B)の断面における第2の円弧207bの半径をできるだけ大きく、すなわち、曲率を小さくすることで、後述する所定の傾きに対しては許容しながら、倒れ易さを低減している。
【0022】
なお、本実施例では、円弧を回転させることで得られるトーラス形状を用いて説明したが、円弧に限定されることなく、円弧のような滑らかな曲線を有するものであれば良い。
【0023】
図4(C)は、加圧部材106を溝部106aの側から見た斜視図である。溝部106aは、図4(A)の断面に一致する第1の溝部106bと、図4(B)の断面に一致する第2の溝部106cを有している。それぞれの断面の溝部の最深部は両断面が交差する直線上に、すなわち、中心線201上に存在しており、四角錐でくりぬかれた形状となっている。そして、図3(B)の当接部104eと4点で接触することで、当接部104eと溝部106aが係合する構成となっている。従って、第1の円弧207aの中心を回転中心とした図4(A)の紙面左右方向の傾きと、第2の円弧207bの中心を回転中心とした図4(B)の紙面左右方向の傾きとを許容することが可能となる。
【0024】
リング基台105は、図1に示されるような板バネ107と対向する面に貫通穴部105bを有し、加圧部材106は、当該貫通穴部105bに嵌合して板バネ107と接触することで、板バネ107と協働することができる。なお、貫通穴部105b及び加圧部材106の中心軸は、中心線201、すなわちロータ101の接触面101aに対して垂直な軸方向と概ね一致している。そして、図4(A)、(B)の加圧部材106の下側の球面部106dには、板バネ107が変形して、その弾性力により加圧部材106を小基台104方向に付勢した状態で接触している。
【0025】
板バネ107は、変形量の変化による押圧力のばらつきを低減するため、ある程度バネ定数を小さくする必要がある。従って、板バネは極力厚みを薄くし、長さもできるだけ長い方がよい。本実施例の板バネ107は薄板を用い、長さについては、円環状の超音波モータ内でできるだけ長いバネ長とするため、円弧形状で形成されている。そうすることで、加圧部材106の押圧方向の変位量に多少の変化が生じても押圧力のばらつきを小さく抑えることができる。
【0026】
以上のような構成で、ロータ101に対して振動子は、小基台104と加圧部材106を介して板バネ107により押圧されている。従って、従来例のような押圧力に対する押圧力の調節機構や位置決め機構を必要せず、低コストかつ簡単な構成で振動子109をロータ101に対して安定して押圧することができる。
【0027】
次に、図4(A)、(B)、(D)を参照し、板バネ107による押圧力の伝達構成について説明する。以下の説明において、押圧力ベクトルとは、各断面図において押圧力の方向及び大きさを含む力のベクトルである。
【0028】
まず、図4(A)において、小基台104は、当接部104eで加圧部材106と4点で接触している。また小基台104は、2か所の突起部102bでロータに接触しており、各接触面の重心は中心線201からロータの駆動方向において等しい距離にある。一方、板バネ107と加圧部材106の接触に関し、本実施例では板バネが円弧形状で形成されているため、板バネ107の両端の支持部と、押圧力の入力点(板バネ107と加圧部材106の接触点)が一直線上に存在しない場合がある。従って、押圧力を発生させる際の板バネ107の断面は、図4(B)で示されるような、傾きを持つ状態となる。結果として、板バネ107によって加圧部材106に入力される押圧力のベクトルは矢印206aとして図示することができる。加圧部材106と板バネ107の接触点は、中心線201上には存在せず、図4(B)においては中心線201の右側の点205にずれてしまう。
【0029】
図4(D)に、図4(B)のA部の点205まわりの拡大詳細図を示す。板バネ107が加圧部材106に付与する押圧力はベクトル206aで表され、中心線201に対して傾いている。従って、当該押圧力ベクトル206aは、中心線201と平行な方向の成分ベクトル206bと、中心線201と垂直な方向の成分ベクトル206cに分解することができる。
【0030】
加圧部材106は、図4(A)、(B)に示されるように、中心線201と概ね平行な方向にのみ自由度を持ってリング基台105に保持されている。すなわち、加圧部材106は、突起部102bとロータ101の接触面101aとが接触する面に対し概ね垂直な方向に移動可能である一方、当該接触する面に対し概ね平行な方向への移動が規制されている。このため、板バネ107が加圧部材106を押圧する押圧力(ベクトル206a)のうち、中心線201方向の成分(ベクトル206b)に対応する力(ベクトル204a)が小基台104に伝達される。
【0031】
一方、小基台104の当接部104eは、図4(C)の加圧部材106の溝部106aと係合し、4点で接触している。すなわち溝部106aの各面の1点と一様に接触することにより、板バネ107が加圧部材106を押圧する押圧力ベクトル206aは、中心線201方向の成分ベクトル206bに対応する力(ベクトル204a)で小基台104に伝達される。
【0032】
また、小基台104に伝達された押圧力(ベクトル204a)は、2つの突起部102bによって接触面101aに伝達され、それぞれの突起部102bが接触面を押圧する力は押圧力ベクトル204aの半分の大きさの押圧力(ベクトル204b)となる。従って、2か所の突起部102bにおける押圧力を安定して均等に保つことが可能となる。
【0033】
なお、突起部102bと接触面101aとの接触は面接触であるため、実際にはその面内で均一に分布した押圧力を呈するが、理解を容易にするため、面内の重心位置に働く力のベクトルとして表現している。また、加圧部材106と小基台104は、溝部106aと当接部104eが4点で均一に接しているため、4点の接触部を頂点として形成される四角形の重心、すなわち、図4(A)、(B)では中心線201上の点に全ての押圧力が働くとして表現している。以後、面接触や線接触の場合も各重心位置における力のベクトルで表現する。
【0034】
また、加圧部材106にはその側面部において、板バネ107によって、加圧部材106に入力される押圧力ベクトル206aの中心線201と垂直な方向の成分ベクトル206cによる摩擦力が発生する。これらの摩擦力は押圧力に対して十分に小さいため無視している。実際、この側面の仕上げをある程度滑らかにすれば、摩擦力の影響は無視できる程度に小さくなる。
【0035】
本実施例では前述のように、加圧部材106がリング基台105に対して、概して、中心線201方向のみ自由度を有した状態で保持される構成となっている。従って、加圧部材106が小基台104へ与える押圧力ベクトル204aは、中心線201と概ね一致させることができる。このとき、押圧力ベクトル204aの大きさは、板バネ107による押圧力ベクトル206aの中心線201と平行な方向の成分ベクトル206bと等しくなる。これは、押圧力ベクトル206aの成分ベクトル206bのみが押圧力ベクトル204aとなるためである。押圧力ベクトル206aの中心線201と垂直な方向の成分ベクトル206cは、加圧部材106の側面部における摩擦力に影響する。なお、加圧部材106の側面と貫通穴部105bの内面は、滑らかに仕上げることで、生じる摩擦力は押圧力に比べて十分小さく、加圧部材106のスムーズな進退を阻害することもない。そして、1か所の突起部102bが接触面101aに与える押圧力ベクトルは204bとなり、その大きさは押圧力ベクトル204aの半分となる。これは、本実施例では図4(A)、(B)に示されるような構成によって、突起部102bが2か所存在するためである。このように、図4(A)、(B)の断面図を参照することにより、入力される押圧力ベクトル206aの力点は中心線201からずれてしまい、またその方向は中心線201と平行ではないが、2つの突起部102bは、ロータ101の接触面101aに対して良好な加圧接触状態を保つことが可能となる。
【0036】
ところで、小基台104は当接部104eの接触部を介して押圧される。従って、詳細に後述するが、図4(A)、(B)における断面においては、小基台104が傾き可能な構成となっており、仮に製造時の寸法誤差や外乱による部材の傾きが生じても、良好な加圧接触状態を保つことができる。
【0037】
図5(A)は、図4(A)が示すのと同じ断面における断面図であり、図4(A)の状態と比較してロータ101とリング基台105に、小基台104の当接部104eを回転中心として相対的な傾きが生じた場合を示している。図5(B)は、図4(B)が示すのと同じ断面における断面図であり、図4(B)の状態と比較してロータ101とリング基台105に、小基台104の当接部104eを回転中心として相対的な傾きが生じた場合を示している。図5(A)、(B)のどちらの場合においも、振動板102の突起部102bは、ロータ101の接触面101aに追従し、良好な加圧接触状態を保っている。よって、仮にロータ101やリング基台105に製造時の寸法誤差や組立て誤差で傾きが生じた場合や、駆動時の振動や外乱により傾きが生じた場合でも、2か所の突起部102bにおける接触面101aへの良好な押圧が可能となる。すなわち、ロータ101に対する振動子102のイコライズ性を向上させている。ここでイコライズとは、加圧接触状態における押圧力の不均一を緩和することである。
【0038】
以上のように、本実施例では、小基台104の当接部104eと加圧部材106の溝部106aを4点で接触させて係合させることで、製造時の寸法誤差や組立て誤差、また外乱による部材の傾きに影響されず、良好な加圧接触状態を保つことが可能となる。
【0039】
さらに小基台104の当接部104eをトーラス形状の一部で構成し、加圧部材106の溝部106aをトーラス形状と4点で接触が可能である形状とすることで、ロータ101に対する小基台104のずれも規制することもでき、低コストかつ簡単な構成で、位置決めとイコライズ性の向上の両立を実現している。
なお、本実施例では、振動子を小基台104により保持し、小基台104を介して押圧する構成としたが、従来例のように振動の節が振動子の中央にある場合は、小基台104を介さず、この中央付近を直接押圧する構成としてもよい。
【0040】
[実施例2]
実施例2は、実施例1の変形型であり、実施例1の小基台104の当接部104eと加圧部材106の溝部106aを入れ替えた例である。なお、小基台104と加圧部材106の形状以外は、実施例1と同様な構成である。
【0041】
図6(A)、(B)は、本実施例における各部材を組込んだ状態を示す拡大断面図であり、図6(A)が実施例1の図4(A)の断面図に対応し、図6(B)が実施例1の図4(B)の断面図に対応している。
【0042】
図6(A)、(B)においては、小基台104の下側に溝部104fが設けられ、加圧部材106の上側にはトーラス形状の一部で凸部が形成された当接部106eが設けられている。そして、小基台104の溝部104fと加圧部材106の当接部106eが、実施例1と同様な、4点の接触により係合することで、所定の傾きは許容しながらも、振動子102のずれや位置を規制することが可能となっている。
【0043】
[実施例3]
実施例3は、実施例1において小基台104と加圧部材106の形状を変更したタイプであり、特に、実施例1の当接部104eが有するトーラス形状を円筒形状に変更した場合を示す。なお、小基台104と加圧部材106の形状以外は、実施例1と同様な構成である。
【0044】
図7は、図3(B)と同じ方向から、本実施例の小基台104を見た斜視図である。小基台104の中央付近の両端部には2か所の支持部104gが形成され、当該支持部の間には当接溝部104hが設けられている。そして、当該当接溝部104hの内には、円筒207cの一部の凸部により形成された当接部104iが設けられている。
【0045】
図8は、溝部の側より、加圧部材106を見た斜視図である。加圧部材106は、紙面手前側の面106hと紙面背面側の面106h(不図示)の互いに平行な面で切り取られた軸部材、すなわち、平行な2面により面取りがされた軸部材であって、上部に面106fに対し垂直に交差する3面を有するV字型の溝部106gを備える。そして、小基台104の当接溝部104h、すなわち、当接部104iに隣接する2つの支持部104gの間において、加圧部材106の2つの面106hと2つの支持部104gの互いに向かい合う面104jとが面接触により接し、さらに当接部104iと溝部106gが線接触により係合する。
【0046】
図9(A)、(B)は、本実施例における各部材を組込んだ状態を示す拡大断面図であり、図9(A)が実施例1の図4(A)の断面図に対応し、図9(B)が実施例1の図4(B)の断面図に対応している。図4(A)、(B)と同様に図9(A)、(B)も、1か所の振動子の周りのみを拡大している。なお、残りの2か所の振動子についても同様な構成であるため説明は省略する。
【0047】
小基台104の当接部104iは、図9(A)の断面に垂直な方向に中心軸を有して延在する円筒207cの一部からなる形状の円弧側面部となっている。当該円筒207cの中心軸は、図9(A)においては、中心線201上に存在し、ロータ101の駆動部と垂直な方向を有する。また、小基台104で円筒207cの一部を有する当接部104iと加圧部材106の溝部106gは係合されており、溝部106gは、図9(A)の紙面奥行方向(図9(B)においては左右方向)に長さを有する2つの線接触により当接部104iと接触するように形成されている。
【0048】
従って、図5(A)と同様に、駆動時の振動や外乱、もしくは製造時における部品の寸法誤差や組立て誤差などにより、図9(A)の紙面左右方向にロータ101とリング基台105の間の相対的な傾きが生じた場合においても、小基台104と加圧部材106は、円筒207cの中心軸を回転中心として傾くことができる。よって、2か所の突起部102bとロータの接触面101aの間において、良好な加圧接触状態を保つことができる。また、前述の線接触により、ロータ101に対する小基台104の、図9(A)の紙面左右方向へのずれは規制される。
【0049】
一方、図9(B)では、加圧部材106の面取りがされた2つの面106fは、小基台104の当接溝部104hにおいて、2つの面104jと面接触で接しており、図9(B)の左右方向への小基台104のずれを規制している。また、小基台104の当接部104iと加圧部材106の溝部106gは、図9(B)の紙面左右方向の長さを有する2つの線接触により接触している。従って、図9(B)の断面においては、実施例1の場合とは異なり紙面左右方向への傾きは規制されている。しかしながら、実施例1に比べ、小基台104と加圧部材106の係合の構成をより簡素にすることができるため、製造における組立性や部品の加工性が向上し、コストダウンの効果が望める。
【0050】
以上のように、小基台104の円筒207cの一部を有する当接部104iと加圧部材106のV字型の溝部106gが線接触で接触して係合し、また加圧部材106の面取りされた面106hが小基台104の面104jと面接触で接している。その結果、図9(A)の当接部104iを中心軸として回転した、ロータ101とリング基台105の間の相対的な傾きのみを許容することで、良好な加圧接触状態を保つことができる。
【0051】
なお、実施例3においても、実施例1と実施例2の関係と同様に、加圧部材106が円筒の一部を有する当接部を備え、小基台104がV字型の溝部を備えることもできる。
【0052】
[実施例4]
フォーカスレンズやズームレンズ等を駆動するための駆動手段として実施例1、2又は3の超音波モータを有するレンズ装置を構成することによって、本発明の効果を享受することができるレンズ装置を実現することができる。
【0053】
以上のように、振動子に発生する超音波振動により被駆動部を駆動する超音波モータにおいて、小基台の当接部を形成する円筒の一部からなる形状の中心軸が全接触重心の近傍を通過することで、振動子の接触部が被接触部との良好な加圧接触が得られることが可能である。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
101 ロータ(被駆動部)
101a 接触面
102 振動板
102b 突起部
103 圧電素子
104 小基台(保持部)
104e 当接部
104f 溝部
104i 当接部
104j 面
105 リング基台(固定部)
106 加圧部材
106a 溝部
106e 当接部
106g 溝部
107 板バネ(弾性部材)
109 振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波モータは、
接触面を有する被駆動部と、
前記接触面と接触し、圧電素子が固定されており、前記圧電素子によって励振された超音波振動によって前記被駆動部を駆動する振動子と、
前記振動子を保持する保持部と、
前記接触面を前記被駆動部に押圧するために、前記保持部を前記被駆動部に向かって付勢する加圧手段と、
を備え、
前記保持部と前記加圧手段の一方は凸部を有する当接部を備え、もう一方は溝部を備え、
前記当接部と前記溝部は互いに係合する、
ことを特徴とする、超音波モータ。
【請求項2】
前記当接部は、前記駆動方向に垂直な断面と前記駆動方向に垂直な断面と直交する断面内に、それぞれ円弧を有するトーラス形状の一部を備え、
前記駆動方向に垂直な断面の円弧の曲率は、前記駆動方向に垂直な断面と直交する前記断面の円弧の曲率よりも小さい、ことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記溝部は四角錐であり、前記四角錐の各面は、前記トーラス形状と4点で接触する、ことを特徴とする請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記当接部は円筒形状の一部を備え、
前記円筒形状は、前記被駆動部の前記接触面に平行かつ前記駆動方向に直交する中心軸を有し、
前記溝部は前記円筒形状と係合する、ことを特徴とする請求項1の超音波モータ。
【請求項5】
前記溝部と前記円筒形状の係合は線接触である、ことを特徴とする請求項4の超音波モータ。
【請求項6】
前記保持部は、前記円筒形状に隣接し、前記駆動方向と垂直な方向への前記保持部のずれを規制している面を備える、ことを特徴とする請求項4又は5の超音波モータ。
【請求項7】
前記加圧手段は弾性部材を備え、前記弾性部材は板バネである、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の超音波モータ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の超音波モータを備える、レンズ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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