説明

超音波モータ及び超音波モータ制御方法

【課題】超音波モータに余計な負荷をかけることなく、ステータとロータの固着を解除可能な超音波モータを得る。
【解決手段】交流電源42がVcos(ωt)による交流電圧であるとき、スイッチ25により交流電源42が第2の印加電極に直接接続されると、第2の振動部材320にVcos(ωt)による交流電圧が印加される。このとき、圧電体19のA領域における振幅AaとB領域における振幅Abを加えて得られる振幅Atは以下の式になる。At=(√2)Asin(2πx/λ+π/4)cos(ωt)この式は、振幅が(√2)Aである定在波を示す。そのため、スイッチ25により交流電源42が第2の印加電極24に直接接続されると、スイッチ25により交流電源42が移相器41に接続された場合と比較して、(√2)倍の振幅で圧電体19が振動することがわかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動により形成される進行波を用いて回転力を発生する環状の超音波モータに関し、より詳しくは、超音波モータの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環状のステータと、ステータの軸方向に回転可能に圧着される環状のロータとを備える超音波モータが知られている。ステータは電圧が印加されることにより進行波を発生し、この進行波によりロータが回転する。
【0003】
例えば長期間に渡り超音波モータを動作させなかった場合など、ステータとロータが固着してしまい、ロータが回転しなくなることがある。固着を解除するため、ステータに印加する電圧を一時的に上昇させて進行波の振幅を大きくする方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−42785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ステータに印加する電圧は電圧供給回路の上限に近く、一時的にせよ電圧を上昇させることは電圧供給回路の負荷が大きくなり、超音波モータの寿命を縮めることになる。
【0006】
本発明は、この問題を鑑みてなされたものであり、超音波モータに余計な負荷をかけることなく、ステータとロータの固着を解除可能な超音波モータ及び超音波モータ制御方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願第1の発明による超音波モータは、異なる位相を有する複数の電圧が同時に印加されて進行波を生じるステータと、ステータが生じる進行波により回転するロータとを備え、所定期間の間、同じ位相を有する複数の電圧をステータに同時に印加してステータに定在波を生じさせることを特徴とする。
【0008】
超音波モータは、起動時から所定期間の間、同じ位相を有する複数の電圧をステータに同時に印加してステータに定在波を生じさせることが好ましい。
【0009】
超音波モータは、ロータの回転を検出する検出部材をさらに備え、ロータが回転していないことを検出部材が検出したとき、所定期間、同じ位相を有する複数の電圧をステータに同時に印加してステータに定在波を生じさせてもよい。
【0010】
ステータは、所定の波長で振動する第1の振動部材と、第1の振動部材とは別に設けられ、所定の波長で振動する第2の振動部材とを備え、第1の振動部材及び第2の振動部材は環を形成し、超音波モータは、所定期間の間、同じ位相を有する第1及び第2の電圧を第1及び第2の振動部材に各々同時に印加してステータに定在波を生じさせることが好ましい。
【0011】
ステータは、所定の波長で振動する第1の振動部材と、第1の振動部材とは別に設けられ、所定の波長で振動する第2の振動部材とを備え、第1の振動部材及び第2の振動部材は環を形成し、超音波モータは、異なる位相を有する第1及び第2の電圧を第1及び第2の振動部材に各々同時に印加してステータに進行波を生じさせてもよい。
【0012】
本願第2の発明による超音波モータ制御方法は、進行波を生じるステータと、ステータが生じる進行波により回転可能であるロータとを備える超音波モータ制御方法であって、ステータに進行波を生じさせるステップと、進行波によるロータの回転を検出するステップと、ロータが回転していないことを検出したとき、同じ位相を有する複数の電圧をステータに同時に印加するステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
本願第3の発明による超音波モータ制御方法は、進行波を生じるステータと、ステータが生じる進行波により回転可能であるロータとを備える超音波モータ制御方法であって、起動時においてロータの回転を検出するステップと、起動時から所定期間の間、同じ位相を有する複数の電圧をステータに同時に印加するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、超音波モータに余計な負荷をかけることなく、ステータとロータの固着を解除可能な超音波モータ及び超音波モータ制御方法を得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態による超音波モータの分解斜視図である。
【図2】電極板と周辺回路との接続状態を示したブロック図である。
【図3】電極板をベースから見た背面図である。
【図4】固着解除処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態による超音波モータ10について、図1から3を用いて説明する。
【0017】
超音波モータ10は、出力軸11、係止板12、加圧スプリング13、ロータ14、ステータ15、及びベース17とから主に構成される。
【0018】
出力軸11は、超音波モータ10の回転軸X上に配置され、超音波モータ10の回転力を外部に伝達する。
【0019】
ベース17は、外部の固定部材に取り付けられ、固定部材に対して出力軸11が回転自在となるように図示しないベアリングを介して出力軸11を支持する。
【0020】
ステータ15は、円盤形状であって、円盤の中心軸と同軸の円筒穴を有する。円筒穴の径は出力軸11の径よりも大きく、ステータ15は出力軸11と接触しない。ステータ15は、中心軸が超音波モータ10の回転軸Xと同軸となるようにベース17に固定される。
【0021】
係止板12、加圧スプリング13、ロータ14は、円盤形状を有する。これらは、円盤の中心軸と同軸の円筒穴を各々有し、中心軸は回転軸X上に設けられる。係止板12及び加圧スプリング13は、それらの円筒穴と嵌合する出力軸11に固定される。ロータ14は、その円筒穴が出力軸11と遊嵌することにより、軸方向に自由に移動可能である。以下、回転軸Xにおいて、ベース17から係止板12に向けた方向を正方向として説明する。
【0022】
ロータ14、加圧スプリング13は回転軸X方向に対し弾性を有する。係止板12は、ロータ及び加圧スプリング13を所定の力でステータ15に押しつける。加圧スプリング13は、ロータ14がステータ15に押しつけられる力を一定に保つ。
【0023】
ステータ15は、弾性体である弾性部材16、振動部材である圧電体19、及びフレキシブルプリント基板から成る電極板20により構成される。圧電体19は、電圧を加えると変形するセラミックから成る。
【0024】
弾性部材16は、回転軸Xと一致する軸を有する略円筒形の環状体であって、導電性を有する。また、弾性部材16は、円周方向において等間隔に24個に分割される櫛歯16aを備える。櫛歯16aは、回転軸X正方向に突出し、回転軸X正負方向、及び円周方向に振動自在である。櫛歯16aの頂面は、ロータ14と接触する。弾性部材16は、櫛歯16aが突出する面の裏面に、回転軸Xに対して直角を成す貼着面27を有する。
【0025】
圧電体19は、回転軸Xと一致する軸を有する円盤状の環状体であって、軸方向長さは、径方向長さと比べて短い。また、圧電体19は、回転軸X方向において弾性部材16と電極板20との間に挟まれて、接着剤により貼着面27に貼り付けられる。接着剤は、樹脂系接着剤、例えばエポキシ系接着剤又はアクリル系接着剤が好適である。これにより、圧電体19の片面全体が貼着面27に密着する。
【0026】
電極板20は、薄い円盤形状を有し、中心に円盤と同心円の穴部26を備える。電極板20において、圧電体19及び弾性部材16と接触する面に、第1の印加電極21、第2の印加電極24、及び接地電極22が設けられる。第1の印加電極21は、円盤の略半周に渡って設けられ、第2の印加電極24は、円盤の他方の半周に渡って設けられる。第1の印加電極21及び第2の印加電極24は、電極板20の外周まで伸びる部位をそれぞれ有する。穴部26の全周には、接地電極22が設けられる。接地電極22は、穴部26から電極板20の外周まで伸びる部位を有する。これらの電極板20の外周まで伸びる部位を介して電圧が印加される。
【0027】
第1の印加電極21は、交流電源42に直接接続される。第2の印加電極24は移相器41を介して交流電源42に接続される。接地電極22は接地される。移相器41は、交流電源42の位相をπ/2ずらした交流電圧を第2の印加電極24に印加する。外部検出装置44は、超音波モータ10の外部に設けられ、超音波モータ10の回転数を検出し、入力制御回路43に送信する。入力制御回路43は、外部検出装置44から送信された回転数に応じて、交流電源42の電圧及び駆動周波数を制御する。接地電極22及び電極板20に印加される交流電圧は400V、周波数は60kHzである。
【0028】
図2を用いて圧電体19について説明する。図2は、弾性部材16側から見た圧電体19を示す。図に記載した+及び−は、説明のために記載したものであり、電極に印加される電荷の特性を示すものではない。また、説明のため電力線が圧電体19に直接接続されるが、実際は、第1の印加電極21及び第2の印加電極24に電力線が接続される。
【0029】
圧電体19は、第1から第5のA圧電体311、313、315、323、325と、第1から第5のB圧電体312、314、322、324、326とから成る。第1から第5のA圧電体311−325及び第1から第5のB圧電体312−326に交流電圧を印加すると、第1から第5のA圧電体311−325においては回転軸X方向に対する長さが伸張、収縮を繰り返し、第1から第5のB圧電体312−326においては回転軸X方向に対する長さが収縮、伸張を繰り返す。
【0030】
第1から第3のA圧電体311、313、315及び第1、第2のB圧電体312、314が、第1の振動部材である第1の領域310を成し、第4、第5のA圧電体323、325及び第3から第5のB圧電体322、324、326が、第2の振動部材である第2の領域320を成す。第1の領域310と第2の領域320との間には、中立領域30が設けられる。中立領域30には、電圧が印加されない。
【0031】
第1の領域310には第1の印加電極21が貼り付けられ、第2の領域320には第2の印加電極24が貼り付けられる。そして、第1の印加電極21及び第2の印加電極24が貼り付けられる面の裏面には、弾性部材16を介して圧電体19と接地電極22が接触する。これにより、圧電体19が接地される。圧電体19に電圧が印加されると、第1の領域310及び第2の領域320が回転軸X方向に変位するが、第2の領域320は、第1の領域310に対してπ/2ずれた位相で回転軸X方向に変位する。
【0032】
次に、超音波モータ10の動作について説明する。
【0033】
電極板20、すなわち第1から第5のA圧電体311、313、315、323、325と、第1から第5のB圧電体312、314、322、324、326に交流電圧が印加されると、圧電体19の第1の領域310と第2の領域320とが、印加電圧に応じて所定の周期で振動する。この振動により、弾性部材16が回転軸方向及び周方向に振動して、波長λの進行波が弾性部材16の頂面に生成される。加圧スプリング13により弾性部材16に押しつけられるロータ14は、この進行波により回転する。ロータ14による回転力は出力軸11を介して外部に伝達される。なお、第2の領域320と第1の領域310とのπ/2のずれは、進行波の波長λの1/4、つまりλ/4に相当する。また、第1から第5のA圧電体311、313、315、323、325及び第1から第5のB圧電体312、314、322、324、326の周方向における長さは、進行波の波長λの1/2、つまりλ/2に相当する。
【0034】
交流電源42がVcos(ωt)による交流電圧であるとき、スイッチ25により交流電源42が移相器41に接続されると、第2の領域320にVcos((ω−π/2)t)による交流電圧が印加される。
【0035】
このとき、圧電体19の第1の領域310における振幅Aaと第2の領域320における振幅Abは以下の式による。
Aa=Asin(2πx/λ)cos(ωt)
Ab=Asin(2π(x−λ/4))sin(ωt)=Acos(2πx/λ)sin(ωt)
ここで、xは圧電体19の周方向において所定の点を原点とする座標である。
【0036】
そして、第1の領域310における振幅Aaと第2の領域320における振幅Abを加えて得られる振幅Atは以下の式になる。
At=Aa+Ab=Asin(2πx/λ+ωt)
この式は、振幅がAである進行波がステータ15に生じることを示すものであるから、ロータ14がこの式に応じて回転することがわかる。
【0037】
一方、交流電源42がVcos(ωt)による交流電圧であるとき、スイッチ25により交流電源42が第2の印加電極24に直接接続されると、第2の領域320にVcos(ωt)による交流電圧が印加される。
【0038】
このとき、圧電体19の第1の領域310における振幅Aaと第2の領域320における振幅Abは以下の式による。
Aa=Asin(2πx/λ)cos(ωt)
Ab=Asin(2πx/λ)cos(ωt)
ここで、xは圧電体19の周方向において所定の点を原点とする座標である。
【0039】
そして、A領域における振幅AaとB領域における振幅Abを加えて得られる振幅Atは以下の式になる。
At=Aa+Ab=(√2)Asin(2πx/λ+π/4)cos(ωt)
この式は、振幅が(√2)Aである定在波を示す。
【0040】
そのため、スイッチ25により交流電源42が第2の印加電極24に直接接続されると、スイッチ25により交流電源42が移相器41に接続された場合と比較して、(√2)倍の振幅で圧電体19が振動することがわかる。
【0041】
次に、図3を用いて、固着解除処理について説明する。固着解除処理は、超音波モータ10が起動されたときに実行される。
【0042】
ステップS31では、超音波モータ10、すなわちロータ14の回転を外部検出装置44が検出したか否かを判断する。回転を検出しないとき、処理はステップS32に進み、回転を検出するとき、処理は終了する。
【0043】
ステップS32では、所定期間、例えば零コンマ数秒間、スイッチ25を電極側端子25aに接続させ、第1の印加電極21及び第2の印加電極24に交流電源42を直接接続する。これにより、A領域及びB領域には、振幅が(√2)Aである定在波が発生し、ロータ14とステータ15との固着が解除される。
【0044】
本実施形態によれば、進行波と比較して振幅が大きな定在波をステータ15に発生させることができ、これによりロータ14とステータ15との間に進行波と比較して大きな力を発生させることができる。そのため、ロータ14とステータ15との間に加圧スプリング13が加えている圧力を一時的に緩和して、ロータ14とステータ15との固着を解除することができる。
【0045】
なお、起動時にロータ14の回転を検出しないときにスイッチ25を電極側端子25aに接続させるのではなく、超音波モータ10の起動時にスイッチ25を電極側端子25aに所定期間だけ、あるいはロータ14の回転を検出するまで接続させてもよい。
【0046】
交流電源42が生じる交流電圧は、Vcos(ωt)に限定されない。
【0047】
櫛歯16aの数は24個に限定されず、超音波モータ10に対する要求性能に応じて任意の値を採用しうる。
【0048】
また、印加される交流電圧及び周波数は、400V及び60kHzに限定されない。
【符号の説明】
【0049】
10 超音波モータ
11 出力軸
12 係止板
13 加圧スプリング
14 ロータ
15 ステータ
16 弾性部材
16a 櫛歯
17 ベース
19 圧電体
20 電極板
21 第1の印加電極
22 接地電極
24 第2の印加電極
25 スイッチ
25a 電極側端子
25b 移相器側端子
26 穴部
27 貼着面
30 中立領域
41 移相器
42 交流電源
43 入力制御回路
44 外部検出装置
310 第1の領域
320 第2の領域
X 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる位相を有する複数の電圧が同時に印加されて進行波を生じるステータと、
前記ステータが生じる進行波により回転するロータとを備え、
所定期間の間、同じ位相を有する複数の電圧を前記ステータに同時に印加して前記ステータに定在波を生じさせる超音波モータ。
【請求項2】
起動時から所定期間の間、同じ位相を有する複数の電圧を前記ステータに同時に印加して前記ステータに定在波を生じさせる請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記ロータの回転を検出する検出部材をさらに備え、
前記ロータが回転していないことを前記検出部材が検出したとき、所定期間、同じ位相を有する複数の電圧を前記ステータに同時に印加して前記ステータに定在波を生じさせる請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記ステータは、所定の波長で振動する第1の振動部材と、第1の振動部材とは別に設けられ、前記所定の波長で振動する第2の振動部材とを備え、
前記第1の振動部材及び前記第2の振動部材は環を形成し、
所定期間の間、同じ位相を有する第1及び第2の電圧を前記第1及び第2の振動部材に各々同時に印加して前記ステータに定在波を生じさせる請求項1から3に記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記ステータは、所定の波長で振動する第1の振動部材と、第1の振動部材とは別に設けられ、前記所定の波長で振動する第2の振動部材とを備え、
前記第1の振動部材及び前記第2の振動部材は環を形成し、
異なる位相を有する第1及び第2の電圧を前記第1及び第2の振動部材に各々同時に印加して前記ステータに進行波を生じさせる請求項1から3に記載の超音波モータ。
【請求項6】
進行波を生じるステータと、前記ステータが生じる進行波により回転可能であるロータとを備える超音波モータ制御方法であって、
前記ステータに進行波を生じさせるステップと、
前記進行波による前記ロータの回転を検出するステップと、
前記ロータが回転していないことを検出したとき、同じ位相を有する複数の電圧を前記ステータに同時に印加するステップとを備える超音波モータ制御方法。
【請求項7】
進行波を生じるステータと、前記ステータが生じる進行波により回転可能であるロータとを備える超音波モータ制御方法であって、
起動時において前記ロータの回転を検出するステップと、
起動時から所定期間の間、同じ位相を有する複数の電圧を前記ステータに同時に印加するステップとを備える超音波モータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−30414(P2011−30414A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147707(P2010−147707)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】