説明

超音波モータ

【課題】多自由度駆動可能で、且つ、薄型化を実現した超音波モータを提供すること。
【解決手段】超音波モータに、略直方体形状を呈する超音波振動子4であって、その長手方向における振動である縦振動と、互いに直交する2つの平面にそれぞれ沿った2方向の屈曲振動と、を励起し得る超音波振動子4を具備させる。そして、前記超音波振動子4に励起された振動を駆動源として複数の方向に駆動される被駆動体5と、前記超音波振動子4のうち前記被駆動体5に対向する面に設けられた複数の駆動子10−1,10−2と、前記超音波振動子4を前記被駆動体5に向かって押圧する押圧機構7と、を前記超音波モータに具備させる。ここで、前記押圧機構7による押圧方向は、前記超音波振動子4の長手方向に対して垂直な方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば圧電素子等から成る超音波振動子の振動を利用する超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁型モータに代わる新しいモータとして、圧電素子などの振動子の振動を利用した超音波モータが注目されている。この超音波モータは、従来の電磁型モータと比較して、ギア無しで低速高推力が得られる点、保持力が高い点、ストロークが長く高分解能である点、静粛性に富む点、磁気的ノイズを発生せず磁気的ノイズの影響を受けない点等の利点を有している。
【0003】
超音波モータでは、超音波振動子を、摩擦部材である駆動子を介して、相対運動部材である被駆動部材に押し付けることで、前記駆動子と前記被駆動部材との間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によって前記被駆動部材を駆動する。
ところで、特許文献1には、一方向に屈曲励振される振動体を複数個用いることなく、単数の振動体で多軸動作(多自由度駆動)を実現した超音波モータが開示されている。この特許文献1に開示されている超音波モータは、振動体と、振動体と接して回転運動する回転体と、前記振動体と前記回転体とに加圧を与える加圧部材と、から成る。ここで、前記振動体は、複数の電極部を有する圧電素子から成る。そして、それら電極部のうち、少なくとも一つの電極部を選択して電圧を印加することにより、前記振動体に励起される屈曲振動の屈曲方向が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−295657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている超音波モータでは、振動体の長手方向の延長上に被駆動体(前記回転体)及び押圧機構が配設されている。この構成の為、被駆動体(前記回転体)の駆動方向に対して垂直な方向(振動体の長手方向)の寸法が長くなってしまう。なお、振動体自体の小型化については、駆動の為に屈曲振動を用いるという構成上、その長手方向を短くすることができない。従って、特許文献1に開示されている超音波モータは、多自由度駆動が可能なものの、薄型化が非常に困難である。
【0006】
本発明は、前記の事情に鑑みて為されたものであり、多自由度駆動可能で、且つ、薄型化を実現した超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の第1の態様による超音波モータは、
略直方体形状を呈する振動子であり、その長手方向における振動である縦振動と、互いに直交する2つの平面にそれぞれ沿った2方向の屈曲振動と、を励起し得る振動子と、
前記振動子に励起された振動を駆動源として複数の方向に駆動される被駆動部材と、
前記振動子のうち前記被駆動部材に対向する面に設けられた複数の駆動子と、
前記振動子を前記被駆動部材に向かって押圧する押圧機構と、
を具備し、
前記押圧機構による押圧方向は、前記振動子の長手方向に対して垂直な方向である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多自由度駆動可能で、且つ、薄型化を実現した超音波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波モータの一構成例を示す斜視図。
【図2】圧電素子の縦振動を示す図。
【図3】圧電素子の屈曲振動を示す図。
【図4】被駆動体をX軸方向に駆動する為に超音波振動子に励起させる振動の一例を示す模式図。
【図5】被駆動体をY軸方向に駆動する為に超音波振動子に励起させる振動の一例を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る超音波モータの一構成例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る超音波モータについて、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る超音波モータの一構成例を示す斜視図である。図2は、超音波振動子を構成する圧電素子の縦振動を示す図である。図3は、超音波振動子を構成する圧電素子の屈曲振動を示す図である。なお、図2及び図3は、有限要素法によるコンピュータ解析結果を示す図である。
【0011】
図1に示すように、本第1実施形態に係る超音波モータは、第1の圧電素子4−1と第2の圧電素子4−2とを備える超音波振動子4と、被駆動体5と、押圧機構7と、駆動子10−1,10−2と、を具備する。
前記第1の圧電素子4−1は、内部電極が形成された圧電セラミックスシートが積層されて成り、それら内部電極を電気的に接続した外部電極がZ軸方向両端面に形成されている。そして、第1の圧電素子4−1は、交流電源14−1によって交流電圧信号を外部電極に印加されてZ軸方向(両矢印Pzにて示す方向)に分極されている。
【0012】
前記第2の圧電素子4−2は、内部電極が形成された圧電セラミックスシートが積層されて成り、それら内部電極を電気的に接続した外部電極がY軸方向両端面に形成されている。そして、第2の圧電素子4−2は、交流電源14−2によって交流電圧信号を外部電極に印加されてY軸方向(両矢印Pyにて示す方向)に分極されている。
【0013】
第1の圧電素子4−1の分極方向Pzは、第2の圧電素子4−2の分極方向Pyに対して90度回転した方向である。換言すれば、超音波振動子4は、分極方向が互いに90度を為す2つの部分(分極方向Pzである第1の圧電素子4−1、及び分極方向Pyの第2の圧電素子4−2)から成る。
【0014】
なお、第1の圧電素子4−1と第2の圧電素子4−2とは、別個に製造して貼り合わせて構成してもよいし、一体的に製造してもよい。
ここで、駆動の際に超音波振動子4に励起させる振動(縦振動及び屈曲振動)の一例について説明する。本例では、第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2は共に、A相及びB相による2相駆動の圧電素子として構成されている。
【0015】
第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2のうち何れか一方の圧電素子(例えば第1の圧電素子4−1)にはA相とB相とに同位相で共振周波数又はその近傍の周波数に対応する周波数の交番電圧を印加し、且つ、他方の圧電素子(例えば第2の圧電素子4−2)にはA相とB相とに互いに逆位相で共振周波数に対応する交番電圧を印加する。
このように第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2に交番電圧を印加することで、超音波振動子4には共振によって図2に示すような1次の縦振動(図2において両矢印DLで示す方向における振動)が励起され、且つ、図3に示すような2次の屈曲振動(図3において両矢印DTで示す方向における屈曲振動)が励起される。
【0016】
ところで、前記駆動子10−1,10−2は、超音波振動子4のうち被駆動体5に対向する面のX軸方向における両端部位に設けられた摩擦接触子である。詳細には、第1の圧電素子4−1には駆動子10−1が例えば接着固定等により設けられており、第2の圧電素子4−2には駆動子10−2が例えば接着固定等により設けられている。
【0017】
前記超音波振動子4においては、上述のように交番電圧が印加されて励起された縦1次振動と、互いに直交する2つの平面(詳細は図4及び図5を参照して後述するが、XZ面及びYZ面の2平面)にそれぞれ沿った2方向の屈曲2次振動とが合成されて、駆動子10−1,10−2が設けられた位置に楕円振動が励起される(詳細は後述する)。
なお、第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2のうち何れか一方の圧電素子にY軸方向の二次屈曲振動を励起し、且つ、他方の圧電素子にZ軸方向の二次屈曲振動を励起させることでも、それらの振動が合成され、超音波振動子4において駆動子10−1,10−2が設けられた位置に楕円振動が励起される(詳細は後述する)。
前記被駆動体5は、後述する超音波振動子4の振動を駆動源として駆動子10−1,10−2によって摩擦駆動される略平板形状の被駆動体である。なお、被駆動体5には、X軸方向及びY軸方向への移動を可能とするガイド機構(不図示)が設けられている。
【0018】
前記押圧機構7は、超音波振動子4を被駆動体5に向かって押圧する為の機構である。詳細には、押圧機構7による押圧方向は、超音波振動子4の縦1次振動方向(超音波振動子4の長手方向)に対して垂直な方向(Z軸方向)である。具体的には、押圧機構7は、例えばコイルバネ等から成り、超音波振動子4の上面(被駆動体5に対向する面の逆側の面)における略中央部位(当該矩形面を構成する長辺及び短辺の中央に該当する部位)を被駆動体5に向かって押圧し、駆動子10−1,10−2を被駆動体5に対して加圧接触させる。
【0019】
ところで、従来の技術に係る超音波モータでは、略直方体形状を呈する振動体の長手方向(屈曲振動の軸方向)端面に被駆動体及び押圧機構を設けている。換言すれば、長手方向の長さと、被駆動体及び押圧機構の厚みとが一方向に(振動体の長手方向に)集中してしまう。このような構成は、当該超音波モータの厚みを増す一因となっているが、振動体の屈曲振動を駆動に利用するという駆動原理上、やむを得ない構成であった。
【0020】
しかしながら、本第1実施形態に係る超音波モータでは、上述の構成を採る略直方体形状を呈する超音波振動子4の長手方向端面に垂直な面(短手方向端面)に被駆動体5及び押圧機構7を設ける。このように構成することにより、当該超音波モータの大幅な薄型化が実現した。
【0021】
以下、図4及び図5を参照して、本第1実施形態に係る超音波モータの一駆動例を説明する。図4は、被駆動体をX軸方向に駆動する為に超音波振動子4に励起させる振動の一例を示す模式図である。図5は、被駆動体をY軸方向に駆動する為に超音波振動子4に励起させる振動の一例を示す模式図である。図4及び図5においては、振動していない状態の第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2を破線で示し、振動状態の第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2を実線で示している。
《X軸方向への駆動》
第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2のうち何れか一方の圧電素子にX軸方向の縦1次振動を励起し、且つ、他方の圧電素子にZ軸方向の二次屈曲振動を励起させる。
【0022】
このように各圧電素子にそれぞれ上述の振動を励起させることで、それらの振動が合成され、超音波振動子4において駆動子10−1,10−2が設けられた位置に楕円振動が発生する。そして、楕円振動する駆動子10−1,10−2によって、被駆動体5がX軸方向に摩擦駆動される。
【0023】
詳細には、超音波振動子4において、図4中にて両矢印xで示す方向(X軸方向)の振動と、両矢印zで示す方向(Z軸方向)の屈曲振動とが合成されることで、矢印eで示す方向のXZ面内における楕円振動が、当該超音波振動子4のうち駆動子10−1,10−2が設けられた位置に励起される。この楕円振動する駆動子10−1,10−2により、被駆動体5が矢印Dxで示す方向(X軸方向)に摩擦摺動される。
《Y軸方向への駆動》
第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2のうち何れか一方の圧電素子にY軸方向の二次屈曲振動を励起し、且つ、他方の圧電素子にZ軸方向の二次屈曲振動を励起させる。
【0024】
このように各圧電素子にそれぞれ上述の振動を励起させることで、それらの振動が合成され、超音波振動子4において駆動子10−1,10−2が設けられた位置に楕円振動が発生する。そして、楕円振動する駆動子10−1,10−2によって、被駆動体5がY軸方向に摩擦駆動される。
【0025】
詳細には、超音波振動子4において、図5中にて両矢印yで示す方向(Y軸方向)の屈曲振動と、両矢印zで示す方向(Z軸方向)の屈曲振動とが合成されることで、矢印eで示す方向のYZ面内における楕円振動が、当該超音波振動子4のうち駆動子10−1,10−2が設けられた位置に励起される。この楕円振動する駆動子10−1,10−2により、被駆動体5が矢印Dyで示す方向(Y軸方向)に摩擦摺動される。
【0026】
なお、第1の圧電素子4−1及び第2の圧電素子4−2に対して交番電圧を印加する方向は、例えば各圧電素子の分極方向Pz,Pyと同方向であるとする。
以上説明したように、本第1実施形態によれば、多自由度駆動可能で、且つ、薄型化を実現した超音波モータを提供することができる。
【0027】
具体的には、縦1次振動と、互いに直交する2つの平面にそれぞれ沿った2方向の屈曲2次振動と、を励起し得る略直方体形状の超音波振動子4を用いて、その長手方向に対して垂直な方向に被駆動体5及び押圧機構7を配設する。主としてこのように構成することで、被駆動体5の駆動方向(X軸方向及びY軸方向)に対して垂直な方向(Z軸方向)についての寸法を小さくした薄型の多自由度駆動の超音波モータが実現した。
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る超音波モータについて、図面を参照して説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る超音波モータの一構成例を示す斜視図である。
【0028】
なお、説明の重複を避ける為、上述の第1実施形態に係る超音波モータとの相違点について説明する。第1実施形態に係る超音波モータとの主な相違点の一つは被駆動体の形状である。上述の第1実施形態に係る超音波モータでは略平板形状を呈する被駆動体5を利用しているが、本第2実施形態に係る超音波モータでは図6に示すように略円柱形状を呈する(所謂シャフト部材である)被駆動体5´を利用する。
【0029】
本第2実施形態は、略円柱形状の被駆動体5´を用いることで、駆動子10−1,10−2と被駆動体5´との接触態様を、第1実施形態におけるそれとは異るものとしている。なお、被駆動体5´は、不図示のガイド機構(例えば滑り軸受け等)によって支持されている。
【0030】
このように構成することで、駆動子10−1,10−2によって、被駆動体5´を、Y軸方向に摩擦駆動するように超音波振動子4に交番電圧を印加することで、被駆動体5´をX軸回りに回転させることができる。
【0031】
なお、駆動子10−1,10−2によって、被駆動体5´を、X軸方向に摩擦駆動するように超音波振動子4に交番電圧を印加することで、被駆動体5´をX軸方向に進退させることができる。
以上説明したように、本第2実施形態によれば、シャフト(被駆動体5´)を回転及び進退させることが可能な薄型で多自由度駆動の超音波モータを提供することができる。
【0032】
以上、第1実施形態及び第2実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、例えば次のような変形及び応用が可能なことは勿論である。
さらに、上述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示した複数の構成要件の適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示す全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0033】
4−1…第1の圧電素子、 4−2…第2の圧電素子、 4…超音波振動子、 5,5´…被駆動体、 7…押圧機構、 10−1,10−2…駆動子、 14−1,14−2…交流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略直方体形状を呈する振動子であり、その長手方向における振動である縦振動と、互いに直交する2つの平面にそれぞれ沿った2方向の屈曲振動と、を励起し得る振動子と、
前記振動子に励起された振動を駆動源として複数の方向に駆動される被駆動部材と、
前記振動子のうち前記被駆動部材に対向する面に設けられた複数の駆動子と、
前記振動子を前記被駆動部材に向かって押圧する押圧機構と、
を具備し、
前記押圧機構による押圧方向は、前記振動子の長手方向に対して垂直な方向である
ことを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記被駆動部材は、前記複数の駆動子に対して当接する略平板形状を呈する部材である
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記被駆動部材は、略円柱形状を呈し、その側周面において前記複数の駆動子に対して接触している部材である
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記振動子は、圧電効果を示す第1の部位と第2の部位とから成り、
前記複数の駆動子は、少なくとも、前記第1の部位と前記第2の部位とに一つずつ設けられた駆動子である
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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