説明

超音波モータ

【課題】モータ出力が大きな超音波モータを提供する。
【解決手段】ステータ2と、圧電素子3と、ベース部材4とはそれぞれ円環形状を有し、これらが同心状に、かつ、圧電素子3がステータ2及びベース部材4に挟まれて配置されている。圧電素子3に、固有値解析で得られた周波数の電圧を厚さ方向に印加することにより、圧電素子3には、ステータ2が接触配置されている面の振動と、ベース部材4が接触配置されている面の振動とが逆位相となる振動が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波モータに係り、特に、ステータに超音波振動を発生させることにより、ステータに接触するロータを回転させる超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、従来の超音波モータが記載されている。この超音波モータは、ステータに固定した圧電素子に高周波電圧を印加してステータ表面に楕円振動を形成する進行波を生じさせることにより、ステータ表面に加圧接触させたロータを摩擦駆動するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平1−17353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の超音波モータでは、圧電素子に印加される電圧の印加方向と直交する方向の変形を利用している。しかしながら、電圧の印加方向と直交する方向の変形は、電圧の印加方向の変形と比較して小さい。このため、振動のパワーが小さくなり、モータ出力が小さいといった問題点があった。
【0005】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、モータ出力が大きな超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る超音波モータは、振動子と、振動子に接触配置されるステータと、振動子におけるステータが接触配置されている面と反対側の面に接触配置され、ステータと共に振動子を挟み込むためのベース部材と、ステータにおける振動子に接触配置する面と反対側の面に接触配置され、ステータに予圧により押し付けられた可動子とを備える。振動子に電圧を印加すると、振動子におけるステータが接触配置されている面の振動と、振動子におけるベース部材が接触配置されている面の振動とが逆位相となる。これにより、振動子とステータとの接触面に平行な方向の変形よりも大きな、接触面に直交する方向の変形が利用可能になる。
ステータの表面には楕円振動が形成され、この楕円振動において、接触面に平行な方向の歪に対する、接触面に直交する方向の歪の比は0.5以上である。
ステータとベース部材とは同材質からなり、かつ、同重量を有してもよい。
可動子はロータであり、ステータと、振動子と、ベース部材とはそれぞれ環状部材であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、ステータ及びベース部材に挟まれるようにして振動子を設け、振動子に電圧を印加することによって、振動子におけるステータが接触配置されている面の振動と、振動子におけるベース部材が接触配置されている面の振動とが逆位相となり、振動子とステータとの接触面に平行な方向の変形よりも大きな、当該接触面に直交する方向の変形が利用可能となるので、モータ出力を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波モータの断面図である。
【図2】実施の形態1に係る超音波モータに設けられた圧電素子の平面図である。
【図3】実施の形態1に係る超音波モータに設けられた圧電素子の振動を説明するための側面図である。
【図4】実施の形態2に係る超音波モータに設けられた圧電素子の平面図である。
【図5】実施の形態2に係る超音波モータに設けられた圧電素子の振動を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波モータの断面図を示す。超音波モータ1は、ステータ2と、振動子である圧電素子3と、ベース部材4と、可動子であるロータ5と、固定部材6とを備えている。ステータ2と、圧電素子3と、ベース部材4とはそれぞれ環状部材として円環形状を有し、これらが同心状に、かつ、圧電素子3がステータ2及びベース部材4に挟まれて配置されている。ベース部材4の穴4aの内周面には、ねじ溝が形成されている。ステータ2の上面には、その外径よりも小さな直径を有する円柱形状の窪み部2bが形成されている。ステータ2と、ベース部材4とはそれぞれ、同材質の金属、例えばステンレスからなり、かつ、同重量となっている。
【0010】
固定部材6は、下端付近の外周面にねじ溝が形成された円柱形状のボルト部6aと、ボルト部6aの上端部に設けられると共にボルト部6aの外径よりも大きな外径を有する円盤形状のフランジ部6bと、フランジ部6bの上部に設けられた円柱形状の把持部6cとを有している。ボルト部6aが、ステータ2の穴2aと、圧電素子3の穴3aと、ベース部材4の穴4aとに挿入され、ボルト部6aのねじ溝が穴4aのねじ溝と螺合することにより、固定部材6がベース部材4と連結される。この際、フランジ部6bが、窪み部2bに嵌まり込み、フランジ部6bがステータ2をベース部材4の方向に押し付けることにより、圧電素子3がステータ2とベース部材4とによって挟まれて固定される。
【0011】
ステータ2の上面には、円環形状のロータ5が接触配置されている。すなわち、ステータ2の上側円周面の一部に、ロータ5の下側円周面の一部が、円周方向に沿って接触されて配置される。ロータ5の上面には、その外径よりも小さな直径を有する円柱形状の窪み部5bが形成され、窪み部5bの下方には、窪み部5bの内径よりも小さな内径を有する穴5aが、窪み部5bと同心状に形成されている。固定部材6の把持部6cは、穴5a及び窪み部5bに挿入され、穴5aの内周面と把持部6cとの間には、円環形状の滑り軸受7が設けられている。窪み部5bには、円環形状のスラスト軸受8が設けられている。スラスト軸受8の上には皿ばね9が設けられ、予圧調整ナット10により、皿ばね9がスラスト軸受8に押し付けられて予圧をかけられている。尚、把持部6cの上端部分は、予圧調整ナット10よりも上方に突出しており、図示しない他の装置との接続部分となる。
【0012】
図2に示されるように、圧電素子3は、周方向に同形状で8つの領域3b〜3iに分割されている。各領域3b〜3iにはそれぞれ、圧電素子3の厚さ方向に電圧を印加するように、図示しない電極が設けられている。
【0013】
次に、この発明の実施の形態1に係る超音波モータの動作について説明する。
まず、圧電素子3に印加する電圧の周波数を決定する方法について述べる。圧電素子3の材質と、直径と、厚さとを用い、領域3b,3d,3f,3hにVsin(2πft)の電圧を印加すると共に領域3c,3e,3g,3iにVsin(2πft+α)の電圧を印加する条件で固有値解析を行い、希望の振動が得られる周波数を決定する。尚、fは周波数(kHz)、tは時間(秒)、V及びVは圧電素子3の積層枚数に依存する電圧の定数(実施の形態1では、両者とも1kVとする)、αは定数(実施の形態1ではπ/2とする)である。
【0014】
ここで、希望の振動とは、圧電素子とステータとの接触面に直交する方向(ステータの厚さ方向)の歪が大きい振動、具体的には、図3に示されるように、圧電素子3の表面に形成される楕円振動において、当該接触面に平行な方向(ステータの周方向)の歪εに対する当該接触面に直交する方向の歪εの比ε/εが0.5以上となるような振動である。このとき、図3に示されるように、圧電素子3の両表面は互いに逆位相となるように振動する。すなわち、圧電素子3の一方の面の任意の位置yが厚さ方向に厚くなる方向へ変異すると、位置yに対応する反対側の面の位置y’も厚さ方向に厚くなる方向へ変異し、逆に、圧電素子3の一方の面の任意の位置zが厚さ方向に薄くなる方向へ変異すると、位置zに対応する反対側の面の位置z’も厚さ方向に薄くなる方向へ変異する。これにより、圧電素子3の各面にはそれぞれ、厚さ方向に突出した2つの山の部分11(図3には1つのみ図示されている)と、厚さ方向に凹んだ2つの谷の部分12とが形成される。
例えば、圧電素子3の直径が50mm、厚さが25mmの場合の固有値解析の結果は、f=61.3kHzとなった。
【0015】
次に、上記の条件における超音波モータ1の動作について説明する。周波数f=61.3kHzとして、領域3b,3d,3f,3hにVsin(2πft)の電圧を印加すると共に領域3c,3e,3g,3iにVsin(2πft+α)の電圧を印加する。固有値解析結果から得られる周波数(61.3kHz)では理論上は、図3に示されるような希望の振動が得られることになるが、実際には必ずしも希望の振動が得られるかどうかはわからない。そこで、固有値解析結果通りの周波数(61.3kHz)の電圧を圧電素子3に印加した後、圧電素子3の振動状況を観察しながら、周波数の調整を行う。圧電素子3に、図3に示されるような振動が形成されると、ステータ2にも同様の振動が形成される。ステータ2に接するロータ5は、摩擦力により回転する。このとき、ロータ5を回転させるステータ2の振動は、ステータ2の厚さ方向に対する変位によって励起されているため、ステータ2の周方向に対する変位によって励起された振動を利用する場合に比べて、超音波モータ1の出力が大きくなる。
【0016】
このように、ステータ2及びベース部材4に挟まれて圧電素子3を設け、圧電素子3に電圧を印加することによって、圧電素子3におけるステータ2が接触配置されている面の振動と、圧電素子3におけるベース部材4が接触配置されている面の振動とが逆位相となり、圧電素子3とステータ2との接触面に平行な方向の変形よりも大きな、当該接触面に直交する方向の変形が利用可能となるので、超音波モータ1のモータ出力を大きくすることができる。
【0017】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係る超音波モータについて説明する。尚、実施の形態2において、図1〜3の参照符号と同一の符号は、同一又は同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
この発明の実施の形態2に係る超音波モータは、実施の形態1に対して、圧電素子の構成を変更したものである。
【0018】
図4に示されるように、圧電素子13は、周方向に同形状で12個の領域13b〜13mに分割されている。各領域13b〜13mにはそれぞれ、圧電素子13の厚さ方向に電圧を印加するように、図示しない電極が設けられている。領域13b,13d,13f,13h,13j,13lにはVsin(2πft)の電圧が印加され、領域13c,13e,13g,13i,13k,13mにはVsin(2πft+α)の電圧が印加されるようになっている。その他の構成については、実施の形態1と同じである。
【0019】
実施の形態1と同様にして、圧電素子13の直径が50mm、厚さが25mmとして固有値解析を行うと、その結果はf=61.8kHzとなった。この周波数で各領域13b〜13mに電圧を印加した後、圧電素子13の振動状況を観察しながら、周波数の調整を行う。これにより、圧電素子13には、図5で示されるように、圧電素子13の両表面が互いに逆位相となるような振動が形成される。実施の形態2では、圧電素子13の各面にはそれぞれ、厚さ方向に突出した3つの山の部分11と、厚さ方向に凹んだ3つの谷の部分12(図5には2つのみ図示されている)とが形成される。
【0020】
実施の形態2においても、圧電素子3とステータ2との接触面に平行な方向の変形よりも大きな、当該接触面に直交する方向の変形を利用してロータ5(図1参照)を回転させているので、実施の形態1と同様に、超音波モータ1(図1参照)のモータ出力を大きくすることができる。
【0021】
実施の形態1及び2では、ステータ2及びベース部材4の材質はステンレスであったが、ステンレスに限定するものではない。アルミニウムや黄銅のような他の金属でもよいし、ジルコニアやアルミナ等のセラミックであってもよい。また、ステータ2と、ベース部材4とは、それぞれの材質の硬さと重量とによって決定される圧電素子3、13を挟み込む力が略等しくすれば、それぞれ別の材質であってもよく、重量もそれぞれ異なっていてもよい。さらに、寸法についても、直径50mm及び厚さ25mmに限定するものではなく、任意の寸法であってもよい。
【0022】
実施の形態1及び2では、超音波モータ1は回転型のモータであったが、この形態に限定するものではない。圧電素子がステータ及びベース部材に挟まれた構成であれば、リニア型の超音波モータであってもよい。
【0023】
圧電素子の分割個数についても、実施の形態1のような8個や実施の形態2のような12個に限定されず、任意の数であってもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 超音波モータ、2 ステータ、3,13 圧電素子(振動子)、4 ベース部材、5 ロータ(可動子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、
前記振動子に接触配置されるステータと、
前記振動子における前記ステータが接触配置されている面と反対側の面に接触配置され、前記ステータと共に前記振動子を挟み込むためのベース部材と、
前記ステータにおける前記振動子に接触配置する面と反対側の面に接触配置され、前記ステータに予圧により押し付けられた可動子と
を備える超音波モータ。
【請求項2】
前記振動子における前記ステータが接触配置されている面の振動と、前記振動子における前記ベース部材が接触配置されている面の振動とが逆位相である、請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記ステータの表面には楕円振動が形成され、
該楕円振動において、前記振動子における前記ステータとの接触面に平行な方向の歪に対する前記接触面に直交する方向の歪の比が0.5以上である、請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記ステータと前記ベース部材とは同材質からなり、かつ、同重量を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記可動子はロータであり、
前記ステータと、前記振動子と、前記ベース部材とはそれぞれ環状部材である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の超音波モータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate