超音波乾燥装置及び基板処理方法
【課題】装置の構成が簡単且つ安価であって、被処理基板に熱や過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な凹部に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供する。
【解決手段】超音波Φを発生する超音波振動子21と、この超音波振動子21を駆動制御する振動子駆動制御装置35と、超音波Φを反射し、空気中に超音波Φの定在波を励振させる反射板23と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板22aを移動させる基板位置制御機構(25,32)とを備え、最適霧化位置において被処理基板22aの凹部に溜まった液体を霧化して除去する。
【解決手段】超音波Φを発生する超音波振動子21と、この超音波振動子21を駆動制御する振動子駆動制御装置35と、超音波Φを反射し、空気中に超音波Φの定在波を励振させる反射板23と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板22aを移動させる基板位置制御機構(25,32)とを備え、最適霧化位置において被処理基板22aの凹部に溜まった液体を霧化して除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた乾燥装置及び基板処理方法に係り、特に、プリント基板等の種々の被処理基板の水等の液体による洗浄工程、洗浄後の乾燥工程において、被処理基板の微細な凹部に貯まった水等の液体を、効率よく乾燥する超音波乾燥装置及び基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高密度配線が可能で、小型化及び軽量化が図れる多層配線構造を有するプリント基板の需要が急増し、種々の多様な電子機器等に使用されている。加工精度の向上に伴い、多層構造をなす絶縁基板の上面、裏面、及びその内部には導体配線が微細化されて設けられ、個々の導体配線は、ビアと呼ばれる金属製の導電側壁を有する孔によって層間接続がされている。ビアには様々な種類があり、絶縁基板の全層を貫通する貫通孔ビア(スルーホールビア)、絶縁基板の全層を貫通させずに特定の層間のみを接続する有底孔ビア(ブラインドビア)、内層の層間接続をし、基板表面には開口していない埋め込みビア(バリードビア)等の種々の構造が採用されている。貫通孔ビアのビア径は機器の小型化に伴って小径なものが求められることになるが、例えば、50μm〜2mmφ等のものが知られている。
【0003】
プリント基板が電子機器に利用されるにあたって、プリント基板の洗浄工程、洗浄後の乾燥工程が存在する。プリント基板に限らず、基板材料が製品となる過程で、種々の基板の洗浄は不可欠なものとなっており、各種プロセス処理や電子・光学部品の信頼性において悪影響を及ぼす汚れを除去すると共に、表面状況を均質にすることによって電子・光学部品の特性や生産性及び信頼性の向上を図っている。
【0004】
プリント基板を水洗い洗浄後に乾燥するには、従来は、熱風乾燥やスピン乾燥を行なうのが一般的であった。熱風乾燥はコンベアで搬送されるプリント基板に40〜100℃の乾燥した熱風を吹きかけて同基板に付着している水分を蒸発させるものであり、スピン乾燥はプリント基板を高速回転する回転板の上にセットして高速回転させ、遠心力でプリント基板に付着している水を吹き飛ばすものである。熱風乾燥においては、水が乾燥した跡に水のシミが残るという問題があり、更に、プリント基板に熱を加えることによって、プリント基板が反り、層間剥離が生じる可能性がある。
【0005】
スピン乾燥においては、プリント基板の孔内や凹凸部にある水が飛ばされにくく、完全な乾燥が難しい上に、そこに含まれる塵等の不純物がビアに残るという問題があった。更にプリント基板を回転板にセットしなければならないため、流れ作業の一環として乾燥を行なうことができなかった。
【0006】
斯かる事情を鑑み、従来、乾燥室と、プリント基板を搬送して乾燥室内を通過する搬送体と、搬送体により搬送されるプリント基板に20KHZ 〜100KHZ の音波を当てて、プリント基板の表面に付着している水(表面水)を振動させて除去するスピーカとを備え、搬送体は20KHZ 〜100KHZ の音波が通過可能であり、スピーカは乾燥室内における搬送体の上下に配置されて、スピーカから発生された20KHZ 〜100KHZ の音波をプリント基板の上下から当てる表面水除去装置が提案されている(特許文献1参照。)。特許文献1に記載の表面水除去装置では、上方のスピーカから出力される音波はプリント基板の上面側の水滴を活性化して除去し、下方のスピーカから出力される音波はプリント基板の下面側の水滴を活性化して除去し、プリント基板の表面の水を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3163239号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の表面水除去装置では、搬送体の上下にスピーカを配置して、上方のスピーカから出力される音波で上面側の水滴を活性化して除去し、下方のスピーカで下面側の水滴を活性化して除去する必要があり、装置の構成が複雑であるのにも関わらず、20KHZ 〜100KHZ の音波を用いて、プリント基板に付着している水を振動させて、単に、吹き飛ばして(振るい落して)いるにすぎない(特許文献1の段落[0013],[0017],[0019]の欄参照。)。又、特許文献1に記載の発明では、超音波を集中して強力な超音波の場を発生させることの考慮もされていないので、凹部の寸法が微細化された場合は、微細化された凹部に貯まった水を完全に除去することが困難であった。更に、特許文献1に記載の表面水除去装置では、被処理基板に過大な音圧(衝撃)がかかり、被処理基板を損傷する恐れもあった。
【0009】
プリント基板の水洗い洗浄工程、洗浄後の乾燥工程以外でも、種々の基板の液体によるウェット洗浄工程、洗浄後の乾燥工程において、種々の基板の微細な凹部の中に水等の液体が溜まり、故障の原因となるといった問題が生じている。特に、ブラインドビア等の有底孔に溜まった液体は、空気が通過していかないことから、風圧での除去は難しく、大きな問題となっている。
【0010】
上記の問題点を鑑み、本発明は、微細な凹部を有する種々の被処理基板の液体によるウェット洗浄工程、洗浄後の乾燥工程に用いることが可能な超音波乾燥装置であって、装置の構成が簡単且つ安価であって、被処理基板に熱や過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な凹部に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、超音波を発生する超音波振動子と、この超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置と、超音波を反射し、空気中に超音波の定在波を励振させる反射板と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板を移動させる基板位置制御機構とを備え、最適霧化位置において被処理基板の凹部に溜まった液体を霧化して除去する超音波乾燥装置であることを要旨とする。
【0012】
本発明の他の態様は、(イ)凹部を有する被処理基板を、液体でウェット洗浄する洗浄工程と、(ロ)この洗浄工程の後、超音波を発生する超音波振動子、この超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置、超音波を反射し、空気中に超音波の定在波を励振させる反射板を有する超音波乾燥装置を用い、超音波振動子と反射板の間の定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板を移動させる工程と、(ハ)最適霧化位置において、被処理基板の凹部に溜まった液体を超音波によって霧化して除去する工程とを含む基板処理方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微細な凹部を有する種々の被処理基板の液体によるウェット洗浄工程、洗浄後の乾燥工程に用いることが可能な超音波乾燥装置であって、装置の構成が簡単且つ安価であって、被処理基板に熱や過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な凹部に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の原理的な説明するための上面側からみた模式的な部分断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の処理対象となる被処理基板の一例として示す、代表的なプリント基板の上面図(平面図)である。
【図3】図1と直交する角度からみた、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の概略構成を具体的に説明する部分断面図を含むブロック図である。
【図4】被処理基板の貫通孔ビアに溜まった水を、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置を用いて、超音波の音響放射圧の作用で貫通孔ビアの外へ水滴として押し出す様子を説明する模式図である。
【図5】被処理基板の貫通孔ビアに溜まった水を、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置を用いて、キャピラリー波を発生させて超音波霧化し、貫通孔ビアの外へ飛散させる様子を説明する模式図である。
【図6】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、超音波振動子と反射板の間に定在波が励起されて、音圧のピークが生じたことを示す測定データの一例である。
【図7】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子と被処理基板の間隔を変化させながら音圧測定を行なった結果を示し、被処理基板の位置を0.1mm変化させる毎に反射板の最適位置も被処理基板の位置と連動して0.1mmずつ変化し、音圧が極大値をとるのは被処理基板の位置が6.7mmのときであることを示す図である。
【図8】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、被処理基板の位置を6.7mmとした際の、反射板の位置と音圧との関係(黒丸)、印加電圧と超音波検出器の出力電圧の位相差と反射板の位置との関係(白抜きの四角)を示し、音圧が極大となる位置よりも手前側の反射板の位置では位相差がほぼ線形に変化し、位相差が−90°付近で音圧が極大となっていることを示す図である。
【図9】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子の振動面と被処理基板の左側の表面の間隔Lを変化したときの、貫通孔ビアに充填された水の脱水の容易さ(確率)を縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化した間隔Lを横軸に、それぞれ表わした図である。
【図10】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、被処理基板の表面を鉛直方向から角度θだけ傾けて超音波の入射角θを変化し、入射角θの変化が脱水効果に与える影響を調べる実験の測定系を説明する模式図である。
【図11】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、貫通孔ビアの内部に水とイソプロピルアルコール(IPA)をそれぞれ充填し、超音波振動子の振動面と被処理基板の左側の表面の間隔Lを変化させた場合の、脱水の容易さ(確率)を縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化した間隔Lを横軸に、それぞれ表わした図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の原理的な説明するための上面側からみた模式的な部分断面図である。
【図13】第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の概略構成を具体的に説明する上面図(平面図)である。
【図14】貫通孔ビアと有底孔ビアでは、超音波霧化の発現領域が異なることを説明する図である。
【図15】第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子の振動面と被処理基板の左側の表面の間隔Lを変化したときの、有底孔ビアに充填された水の脱水の容易さ(確率)を縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化した間隔Lを横軸に、それぞれ表わした図である。
【図16】第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波の振幅を大きくすればするほど、アスペクト比の高い(より深い)有底孔ビアの水が脱水できることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
又、以下に示す第1及び第2の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、図1及び図3に示すように、超音波Φを発生する超音波振動子21と、この超音波振動子21を駆動制御する振動子駆動制御装置35と、超音波Φを反射し、空気中に超音波Φの定在波を励振させる反射板23と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板22aを移動させる基板位置制御機構(25,32)とを備える(図1は上面側からみた部分断面図であり、図3は図1と直交する角度からみた部分断面図である。)。ここで、「定在波の節の位置の近傍」とは、図9等を用いて後述するように「定在波の節の位置から波長の5%以下の極く僅か離間した位置」を意味する(図9では、最適霧化位置Poptが、節の位置Pnodeから波長の2%程度離れた場合を例示している。)。
【0018】
ここで、被処理基板22aとしてのプリント基板は、図1及び図3に示すように、多層構造をなす絶縁基板221の上面(第1主面)から裏面(第2主面)へ貫通する貫通孔ビア(スルーホールビア)222が開孔されている。紙フェノール基板やガラスエポキシ基板等の通常のプリント基板に用いられている種々の多層構造の絶縁基板が、絶縁基板221の材料として適用可能である。図2に示すように、絶縁基板221の上面(第1主面)には、微細化された所定のパターンをなして、導体配線が形成されている。詳細な図示を省略しているが、絶縁基板221の裏面(第2主面)、及びその内部の多層構造にも、同様な導体配線が微細化されて形成されている。貫通孔ビア222は、多層構造の絶縁基板221の全層を貫通して設けられ、金属製の円筒(カナル)によって貫通孔に導電性の側壁を形成し、上面(第1主面)の導体配線と裏面(第2主面)の導体配線とを接続している。そして、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、被処理基板22aを最適霧化位置に配置することにより、被処理基板22aの凹部である貫通孔ビア222に溜まった水223に超音波Φを集中させる。
【0019】
図4に模式的に示すように、超音波Φが集中した強力な超音波Φの場では、被処理基板22aの貫通孔ビア222に溜まった液体(以下において「水」を例示する。)223は、超音波Φによる音響放射圧の作用により、貫通孔ビア222の外へ液滴(以下において「水滴」を例示する。)223Sとして押し出される。「音響放射圧」とは、図4(a)に示すように、超音波Φを水223等の物体で遮ったとき、超音波Φの伝播方向にその物体としての水223を押す力のことをいう。したがって、図4(b)に示すように水223が音響放射圧により押し上げられ、液柱を形成する。更に、図4(c)に示すように、高まった音響放射圧による力が水223の表面張力に勝り、水滴223Sを貫通孔ビア222から押し出す。
【0020】
もしくは、図5(a)に示すように、超音波Φが集中して強力な超音波Φの場が発生し、貫通孔ビア222に溜まった水223の表面に、音響放射圧Sの作用が強くなると、図5(b)に示すように、水223の表面にキャピラリー波(毛細表面波)が発生し、キャピラリー波の振幅が大きくなると表面張力に打ち勝ち、図5(c)に示すように微小な微粒子としての水滴223mが飛散する。「キャピラリー波」は表面張力波とも呼ばれ、表面張力を復元力とする水面を伝わる短波長の波で、「ささなみ波」とも呼ばれる。キャピラリー波の波長λcplは、液体を励振する励振周波数をf、液体の表面張力をT、液体の密度をρとすると、
λcpl=(8πT/ρf2)1/3 ……(1)
で与えられ、短波長で表面張力の影響を強く受ける。
【0021】
液体の表面にキャピラリー波が発生すると、液体の周辺を反射の境界として、液体の表面に干渉波が起こる。干渉波の発生により、液体の表面での液体の衝突、引きちぎり合うエネルギが表面張力Tに勝り、液体を微粒子化して空中に飛散させる。この現象は超音波霧化と言われ、超音波加湿器やネブライザ等に利用されているが、飛散する微粒子としての水滴223mの直径Dは、
D=0,34(8πT/ρf2)1/3 ……(2)
に相関することが、実験的な経験則として知られている。
【0022】
現在、実用化されている超音波霧化の多くは超音波振動子21から液体に直接超音波Φを励振する方法がとられており、その励振周波数はMHzオーダのものが多い。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置では、空気中を伝わる超音波Φを利用した超音波霧化を目的としているので、空気中では高周波の超音波Φは音波の伝搬減衰が液体、固体に比べ、大きくなり、超音波ΦはkHzオーダの周波数帯が、好ましく、例えば、15kHz〜50kHz程度に選べばよい。励振周波数28kHzでは、飛散する微粒子としての水滴223mの直径Dは、(2)式より、約60μmとなる。このようにして、強力な超音波Φで貫通孔ビア222に溜まった水223が霧化して水滴223mとなることにより、水滴223mが貫通孔ビア222の外へ押し出され、除去され、脱水処理が行なわれる。
【0023】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の超音波振動子21としては、例えば、分極した圧電セラミックスと電極を金属ブロックではさみボルトで締め付けて一体化した、ボルト締めランジュバン型振動子が使用可能であるが、ランジュバン型振動子に限定されるものではない。一般にランジュバン型振動子は、機械的品質係数Qmが高いため、周波数のスパンの狭い共振ピークを持つ特徴を有する。
【0024】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の基板位置制御機構(25,32)は、被処理基板22aを懸架して図3の紙面に垂直方向(X軸方向)に搬送するX軸移動ステージと、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、被処理基板22aの位置を移動(微動)して、被処理基板22aを超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に調整するZ軸移動ステージとを有する2軸移動ステージ25と、この2軸移動ステージ25を駆動制御する基板位置制御装置32とを備える(図3と直交する角度からみた図1には、X軸方向とZ軸方向が示されている。)。基板位置制御装置32には、プロセッサ34から2軸移動ステージ25の駆動制御用の信号が送られる。
【0025】
工業的な実用上の観点からは、X軸移動ステージは、コンベアと同様な逐次搬送機構を備えるように構成すればよい。超音波Φが伝搬する空気の温度・湿度が制御され、同一品種の被処理基板22aが順次搬送される場合であれば、被処理基板22aが所定の最適霧化位置を通過するように、予め、Z軸移動ステージを調整した後、複数枚(多数枚)の被処理基板22aを、順次、X軸移動ステージによって、コンベア搬送し、超音波振動子21と反射板23との間に励振された超音波Φの定在波中を、複数枚の被処理基板22aが通過して、脱水処理されるようにすればよい。
【0026】
一方、温度・湿度が変動する場合や、多品種の被処理基板22aが順次搬送される場合は、それらの変化する条件を追尾して、被処理基板22aが、最適な最適霧化位置を通過するように、逐次、Z軸移動ステージを調整して、複数枚(多数枚)の被処理基板22aを、順次、X軸移動ステージによって、コンベア搬送する必要が生じる。2軸移動ステージ25のX軸のコンベア搬送方向に沿って、超音波振動子21と反射板23の組を平行に対峙して配列させることで、逐次搬送されてくる複数枚の被処理基板22aの、それぞれの全面を超音波でカバーすることができる。
【0027】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、超音波Φにより貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化を行なう際、貫通孔ビア222に溜まった水223だけでなく、被処理基板22aを構成する絶縁基板221が、超音波Φにより振動する。この超音波Φによる絶縁基板221の振動加速度が過大な値となる場合、層間剥離などにより、多層構造をなす絶縁基板221が損傷する可能性がある。
【0028】
そこで、最大加速度が衝撃と等価であるとみなし、絶縁基板221の振動加速度を計測した。即ち、図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、超音波振動子21により空気中に超音波Φを励振し、反射板23としてガラス板を用い、レーザードップラー振動速度計を用いて絶縁基板221の振動速度の計測を行なった。振動速度の計測は、図3に示した2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、被処理基板22aのZ軸方向の位置の制御を行ない、超音波Φによる、貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化が生じるZ軸方向の位置を原点とし、そこから0.5mm毎にZ軸方向の±3mmまで移動させ、絶縁基板221の振動速度を測定した。測定された振動加速度は、Z軸方向の各測定点において、最大でも619m/s2であった。例えば、多層プリント基板が使用されている携帯電話の一般的な許容衝撃強さは980m/s2とされているが、この値よりも低い振動加速度であり、絶縁基板221への振動加速度の許容内である。よって、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置によれば、絶縁基板221への超音波Φの衝撃の影響は、無視して良いと判断できる。
【0029】
なお、図3では、基板位置制御機構(25,32)の2軸移動ステージ25が、被処理基板22aの上方に配置され、被処理基板22aを懸架しているが、例示であり、図3の懸架移動に限定されるものではない。例えば、2軸移動ステージ25を被処理基板22aの下方に配置し、2軸移動ステージ25が被処理基板22aを搭載するような構成でも構わない。この場合も、X軸移動ステージは、コンベアと同様な逐次搬送機構を備えて、X軸移動ステージに搭載された被処理基板22aが、順次、コンベア搬送され、超音波振動子21と反射板23との間に励振された超音波Φの定在波中を、複数枚の被処理基板22aが通過して、順次、複数枚の被処理基板22aが脱水処理されるようにすればよい。
【0030】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置においては、超音波振動子21から空気中に放射された超音波Φを利用する際、反射板23を用いて定在波を形成することで、より音圧の高い音場を形成している。図1及び図3に示すような、超音波Φの垂直入射における反射板23による反射は、二つの媒質が接する境界面で起こり、その反射率Rpは二つの媒質の固有音響インピーダンスZ1,Z2に依存する。よって、反射板23による超音波Φの反射率Rpは、媒質1,2のそれぞれの固有音響インピーダンスをZ1,Z2として、
Rp=(Z2−Z1)/(Z2+Z1) ……(3)
で示される。(3)式により、媒質1を空気、媒質2を反射板23の材料として計算すると、媒質2の固有音響インピーダンスZ2が媒質1の固有音響インピーダンスZ1よりも十分に大きければ(Z1≪Z2)、反射率Rpは反射板23の材質によらず1に近似する。又、斜め入射を考えた場合においても、Z1≪Z2であることから入射波は全反射するといえる。そこで、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、反射板23として厚さ2,5,10mmのガラス板、厚さ2,5,10mmのアルミニウム(Al)板及び厚さ5,10mmの鉄(Fe)板を使用して反射率Rpを測定したが、反射率Rpは、反射板23の固有音響インピーダンスZ2が空気の固有音響インピーダンスZ1よりも十分に大きければ、反射板23の材質及び板厚の影響をほとんど受けないことが確認された。超音波Φの反射率Rpの測定値が1に近似しない理由としては、反射及び屈折時の超音波Φの減衰や反射板23による超音波Φの吸音といったことが考えられる。
【0031】
図3に示すように、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、更に、超音波Φを検出する超音波検出器24を反射板23の裏面に固定している。超音波検出器24は、反射板23中に設けられた貫通孔231を介して超音波Φを検出する。超音波検出器24の出力は、振動子駆動制御装置35に帰還され、超音波振動子21の出力が制御される。そして、更に、超音波検出器24の出力を帰還して、反射板23が定在波を励振するように、反射板23の位置を制御する反射板位置制御機構(26,33)を備えている。反射板位置制御機構(26,33)は、反射板23を搭載して、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、定在波が励振されるように反射板23の位置を移動(微動)して調整するZ軸移動ステージ(1軸移動ステージ)26と、この1軸移動ステージ26を駆動制御する反射板位置制御装置33とを備える、反射板位置制御装置33には、プロセッサ34から1軸移動ステージ26の駆動制御用の信号が送られる。このため、超音波検出器24には増幅器31が接続され、超音波検出器24の出力は、増幅器31を介して、プロセッサ34に入力し、プロセッサ34が必要な信号処理を行ない、1軸移動ステージ26の駆動制御用の信号を反射板位置制御装置33に出力する。超音波検出器24の出力を反射板位置制御装置33に帰還し、最適な条件で超音波Φの定在波を励振することで、被処理基板22aの貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化に必要な強力な音場を効率よく作り出すことができる。
【0032】
更に、増幅器31を介して、プロセッサ34に入力した超音波検出器24の出力は、2軸移動ステージ25の駆動制御用の信号の生成にも利用することも可能で、超音波検出器24の出力を、2軸移動ステージ25を駆動制御する基板位置制御装置32に帰還することにより、被処理基板22aの位置をも最適化することができる。このように、超音波検出器24の出力を、振動子駆動制御装置35、反射板位置制御装置33及び基板位置制御装置32に帰還することにより、超音波Φを集中させ、霧化現象が効率よく発現する条件を自動的に制御し、追尾することが可能になる。
【0033】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、被処理基板22aの貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化現象を瞬時に発現させるためには、霧化条件がそろっている必要がある。具体的には、超音波Φの定在波の振幅が大きくなっていること、貫通孔ビア222が定在波の節の近傍の最適霧化位置に一致していることが必要である。定在波となっている超音波Φが強力になるためには、超音波振動子21と反射板23の距離が最適化されており、反射波と超音波振動子21からの放射波のそれぞれの位相が完全に一致する必要がある。この条件は音速で決定されるが、音速は温度・湿度によって変動し、更に、搬送されてくる被処理基板22aの材質・厚み・ビアの構造で見かけ上の音速は変化する。
【0034】
2軸移動ステージ25によって、材質・厚み・構造等の異なる多品種の被処理基板22aがコンベア搬送される場合は、時事刻々と変化する霧化条件にリアルタイムで対応して、逐次、常に反射板23と超音波振動子21の距離を適正な値に保つ必要がある。又、反射板23と超音波振動子21の距離の変化に応じて、超音波Φの定在波の節の位置も変化するため、定在波の節の位置の変化に応じて、被処理基板22aの相対位置を調整する必要がある。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置によれば、超音波検出器24の出力を、振動子駆動制御装置35、反射板位置制御装置33及び基板位置制御装置32に帰還し、反射板23における音圧の位相と超音波振動子21の印加電圧の位相の関係より、超音波振動子21と反射板23の最適距離を逐次推定し自動調整し、且つ多品種の被処理基板22aの位置を逐次推定し自動調整して、常に、最適条件において霧化現象が効率よく発現するように、自動的に制御し、追尾することができる。最適条件において霧化させるように、帰還制御することにより、超音波Φを照射し始めてから霧化が終了するまでの時間を短くできるので、製造ラインのスループットを低下させることはない。
【0035】
なお、図3では、反射板位置制御機構(26、33)の1軸移動ステージ26が、反射板23の下方に配置され、反射板23を搭載しているが、例示であり、例えば、1軸移動ステージ26を反射板23の上方に配置し、1軸移動ステージ26が反射板23を懸架するような構成でも構わない。
【0036】
図6は、超音波振動子21と反射板23の間隔の変化に対する音圧変化を測定することで、超音波Φが被処理基板22aを透過し、超音波Φの定在波が形成されるときの超音波振動子21と反射板23の間隔を調べた結果である。具体的には、超音波振動子21の振動面と反射板23の表面の間隔を1軸移動ステージ26を用いて0.1mmずつ変化させながら、超音波振動子21の振動面から1mmの距離に固定した超音波検出器(コンデンサマイク)により、音圧の変化を測定した結果である。図6の測定では、反射板23には5mm厚のアルミニウム板を使用した。超音波Φの波長は超音波振動子21の共振周波数と空気の音速から求まり、空気の温度によって変化するので、温度20.0℃、湿度27%の条件で測定している。超音波振動子21の共振周波数28kHzでは、波長λ=12.1mmであるので、理論的には、波長の1/2の奇数倍の距離となる節の位置は、その最初の位置が、超音波振動子21の振動面から約6.05mmの位置となる。超音波Φの音圧のピーク時に、超音波Φが被処理基板22aを透過し、超音波Φの定在波が形成されると考えられるが、図6の測定では、ピーク時の音圧は超音波振動子21と反射板23の間隔が狭いほど大きくなる傾向がみられた。
【0037】
理論的には、超音波Φの定在波は音源と反射板23の間隔が音波の波長の1/2の整数倍の値のとき形成されるはずである。よって、図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置のように被処理基板22aを定在波の節の近傍に挿入する構成においては、nを2以上の正の整数として、音源の超音波振動子21と反射板23の間隔が音波の波長λの(n/2)倍の値のとき定在波が形成され、半波長の奇数倍の位置に節がそれぞれ形成されるはずである。しかし、図6に示される測定結果によれば、音圧のピークの位置として与えられる節の最初の位置(図6で一番左側のピークの位置)は、超音波振動子21の振動面から距離6.4mmの位置に形成され、波長の約1/2より極く僅か大きな値となっている。このことから、被処理基板22aがない場合の一様な空気中に励起される理想的な定在波に比し、被処理基板22aを挿入することにより、定在波の波形に、極く僅かの歪み(擾乱)が発生した複雑な定在波になっていると考えられる。
【0038】
図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子21と被処理基板22aの間隔を変化させながら音圧測定を行なった。反射板23として2mm厚のアルミニウム板を用いた。その反射板23にd=0.8mmφの貫通孔231を開け、超音波振動子21と向き合うようにコンデンサマイクを超音波検出器24として取り付けた。超音波振動子21への印加電圧は150Vp-pとし、被処理基板22a位置は超音波霧化の発現領域の前後である6.5mmから7.5mmまで変化させた。超音波Φが被処理基板22aを透過し、超音波Φの定在波が形成されると音圧が極大となると考えられるため、音圧が極大値となったときの音圧とそのときの反射板23位置を測定した結果を図7に示す。図7に示す結果から、被処理基板22aの位置を0.1mm変化させる毎に反射板23の最適位置も被処理基板22aの位置と連動して0.1mmずつ変化していることが確認できる。又、音圧が極大値をとるのは被処理基板22aの位置が6.7mmのときであり、貫通孔ビア222の霧化現象においては音圧が大きく関係していることが確認できる。実際に貫通孔ビア222に水を充填させ、音圧が極大値をとる位置を最適霧化位置として被処理基板22aを配置すると、超音波霧化が発現させることが確認できた。
【0039】
超音波Φも波長λよりも小さな内径dを有する貫通孔ビア222中を、超音波Φは減衰波(エバネッセント波)の形で、減衰しながら透過する。よって、被処理基板22aの厚さが、超音波Φの波長λよりも十分薄ければ、超音波Φは、ある程度、被処理基板22aを透過する。減衰波として、貫通孔ビア222を有する被処理基板22aを透過した超音波Φは、超音波振動子21と被処理基板22aとの間の超音波Φとともに定在波を形成する。測定によれば、被処理基板22aを設置せずに測定した音圧と比較して、透過した超音波Φの音圧はその約10%である。よって、被処理基板22aを透過後の音圧の被処理基板22aに与える影響は、被処理基板22aを透過する前の音圧が被処理基板22aに与える影響よりも小さい。又、被処理基板22aを構成するが紙フェノール基板とガラスエポキシ基板では、僅かに紙フェノール基板の方が超音波Φを透過しやすい傾向がみられることから、被処理基板22aを透過する超音波Φには、貫通孔ビア222の内部を伝搬する成分と、被処理基板22aの絶縁基板221を透過する成分の両方が寄与していることが分かる。実際には、超音波振動子21と被処理基板22aとの間には、被処理基板22aを反射板とする第1の定在波と、被処理基板22aを透過して反射板23で反射した第2の定在波の合成波が、互いに相関しながら形成されていると推定される。
【0040】
又、被処理基板22aの位置を、音圧が最大であった6.7mmとした際の、反射板23の位置と音圧との関係(黒丸)、印加電圧と超音波検出器24の出力電圧(マイク出力)の位相差と反射板23の位置との関係(白抜きの四角)を測定した測定結果を図8に示す。図8に示す結果から、黒丸で示した音圧が極大となる位置よりも手前側の反射板23の位置では、白抜きの四角で示した位相差がほぼ線形に変化し、位相差が−90°付近で音圧が極大となっていることが確認できる。黒丸で示した超音波検出器24の出力電圧(マイク出力)が極大になっているときに系が共振系となり、強力な超音波Φが励振される。図8に示す変化の様子より、距離の最適値を推定することができる。推定をもとに超音波振動子21と反射板23のそれぞれの位置を調整し、定在波の節の近傍の最適霧化位置に被処理基板22aをコンベア搬送して、超音波Φの励振効率を最大にして、順次、脱水処理を行なうことができる。
【0041】
図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、厚さt=1.6mmの3枚の被処理基板22aに、それぞれ内径d=0.8mm、1.5mm、3.0mmの貫通孔ビア222を設けて、3種の被処理基板22aを用意した。そして、これらの内径dの異なる貫通孔ビア222をそれぞれを介して、温度20.0℃、湿度27%の条件で、それぞれ28kHzの超音波Φを検出するように、3種の被処理基板22aのそれぞれに超音波検出器を貼り付けた。
【0042】
前述したとおり、温度20.0℃、湿度27%の条件での28kHzの超音波Φの定在波の節の位置Pnodeは6.4mmと測定されたが、被処理基板22aがない場合の一様な空気中の定在波に対し、被処理基板22aの挿入が、波形の歪み(擾乱)を発生させていると考えられるので、超音波Φの定在波の節の位置Pnodeは、厳密には、貫通孔ビア222の内径dの値に依存し、0.2mm程度変化する。しかし、図9は、貫通孔ビア222の内径dの値の変化に対する節の位置Pnodeの依存性は無視できると近似して、図3に示した2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、超音波振動子21の振動面と被処理基板22aの左側の表面の間隔Lを変化させながら、貫通孔ビア222に充填された水223の脱水の可否(容易さ)を確率として縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化して間隔Lを横軸に表現している。
【0043】
貫通孔ビア222の内径dの値の変化に対する節の位置Pnodeの依存性が無視できると近似した条件では、3種の被処理基板22aのいずれも、節の位置Pnodeから0.02波長ほど離れた最適霧化位置Poptを中心に霧化現象が分布し、貫通孔ビア222の内径dの値に対する最適霧化位置Poptの依存性は無視できると近似できるが、分布の幅(半値幅)に差異が認められる。貫通孔ビア222の内径dが小さいほど、毛細管力が大きくなるため、脱水に必要な超音波Φの音圧が高くなり、超音波Φの音圧が高い最適霧化位置Poptの近傍のみに局在して霧化現象が発生し、分布の幅が狭いが、貫通孔ビア222の内径dが次第に大きくなると、次第に毛細管力が小さくなり、次第に脱水に必要な超音波Φの音圧も低くなり、最適霧化位置Poptから離れた位置でも霧化現象が発生可能となり、分布の幅が次第に広がると考えられる。
【0044】
更に、表1に示すとおり、厚さt=1.6mmの3枚の被処理基板22aに、それぞれ、内径d=0.3mm、0.5mm、0.8mm、1.0mm、1.2mm、1.5mm、2.0mm、3.0mmの8種の貫通孔ビア222を設けて、それぞれの貫通孔ビア222に水223を充填し、充填された水223の脱水の可否を測定したが、内径d=0.3mm〜3.0mmのすべての貫通孔ビア222で脱水可能であった。
【表1】
【0045】
表1には、28kHzの超音波Φの波長λ=12.1mmに対する貫通孔ビア222の内径dの比(d/λ)も示しているが、d/λ=2.5%〜24.8%の範囲内では、脱水の可否における、貫通孔ビア222の内径dの超音波Φの波長λに対する依存性はないと判断できる。
【0046】
又、表1には、被処理基板22aの厚さt=1.6mmと、貫通孔ビア222の内径dとの比で貫通孔ビア222のアスペクト比t/dを示しているが、アスペクト比t/d=5.3〜0.5の範囲内では、脱水の可否における、貫通孔ビア222のアスペクト比t/dに対する依存性はないと判断できる。表1に示した結果から、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、内径d=3mm以下、特に内径d=1mm以下、更には内径d=0.8mm以下の微細な口径を有する貫通孔ビア222を備えた被処理基板22aのウェット洗浄及びその後の乾燥工程に有効であることが分かる。なお、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、内径d=3mm以上の口径の貫通孔ビア222を備えた被処理基板22aのウェット洗浄及びその後の乾燥工程にも適用可能ではあるが、内径d=3mm以上の場合、他の方法でも脱水や乾燥が可能であるため、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置としての特徴は、相対的に薄いものとなる。
【0047】
図10に示すように、被処理基板22aの表面を鉛直方向から角度θだけ傾けて、超音波Φの入射角θを変化して、入射角θの変化が脱水効果に与える影響を調べた結果を表2に示す。
【表2】
【0048】
表2において、○は脱水できた場合、△は脱水できた場合とできなかった場合が混在した状態、×は脱水できなかた場合を意味する。表2の結果から、許容できる被処理基板22aの傾斜角度θ(=超音波入射角θ)は、1.4°までとなる。よって、図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の2軸移動ステージ25のX軸移動ステージを用いて、複数枚(多数枚)の被処理基板22aを、順次、コンベア搬送する際、被処理基板22aが搬送方向のX軸方向から傾斜する角度θは、1.4°程度まで許容できると判断される。
【0049】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、水洗い洗浄工程後の脱水工程のみに限定的に用いられるのではなく、種々の液体によるウェット洗浄工程後の、乾燥工程に適用可能である。図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、被処理基板22aの厚みt=1.6mm、貫通孔ビア222の内径d=0.5mmの場合において、貫通孔ビア222の内部に液体の種類として、水とイソプロピルアルコール(IPA)を充填した。そして、2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、超音波振動子21の振動面と被処理基板22aの左側の表面の間隔Lを変化させた場合の、乾燥の可否(容易さ)を確率として縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化して間隔Lを横軸に表現したのが、図11である。
【0050】
IPAは水と比べて表面張力が小さいため、乾燥に必要な超音波Φの音圧が水の場合よりも低く、最適霧化位置Poptから離れた位置でも霧化現象が発生可能となるので、分布の幅が広がり、広い範囲で霧化現象が観測できることが分かる。
【0051】
以上のように、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法によれば、図1や図3に示した簡単且つ安価な構造で、種々の貫通孔ビア222に溜まった液体を効率よく霧化できる。特に、被処理基板を、超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に配置しているので、被処理基板に過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な貫通孔ビア222に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
高密度配線されたなプリント基板の場合、特に、小さな内径を有する有底孔ビアの場合は、洗浄工程の際に有底孔ビアに溜まった水の除去が困難である。
【0053】
本発明の第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、図12に示すように、超音波Φを発生する超音波振動子21と、この超音波振動子21を駆動制御する振動子駆動制御装置35と、超音波Φを反射し、空気中に超音波Φの定在波を励振させる反射板23と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板22bを移動させる基板位置制御機構とを備える。第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置においても、「定在波の節の位置の近傍」とは、「定在波の節の位置から波長の5%以下の極く僅か離間した位置」を意味することは、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と同様である。
【0054】
ここで、被処理基板22bとしてのプリント基板は、図12に示すように、多層構造をなす絶縁基板221の上面(第1主面)側から裏面(第2主面)に向かって、有底孔ビア(ブラインドビア)225が開孔されている。図示を省略しているが、図2に示したのと同様に、絶縁基板221の上面(第1主面)、裏面(第2主面)、及びその内部の多層構造にも、導体配線が微細化されて形成され、有底孔ビア225は、多層構造の絶縁基板221の全層を貫通せず、上面(第1主面)側のみ設けられているが、貫通孔ビア222の場合と同様に、金属製の円筒(カナル)によって有底孔に導電性の側壁が形成され、導電性の側壁は有底孔の底面の導電性の底面に連続して電気的に接続されている。有底孔の底面は、被処理基板22bの内部の多層構造配線のいずれかと電気的に接続されている。そして、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、被処理基板22bを最適霧化位置に配置することにより、被処理基板22bの凹部である有底孔ビア225に溜まった液体(水)223に超音波Φを集中させる。
【0055】
有底孔ビア225の場合は、図4に模式的に示したように、超音波Φが集中しても、高まった音響放射圧による力で水滴223Sを有底孔ビア225から押し出すことができない。そこで、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置においては、有底孔ビア225の開口側を超音波振動子21の方向に向け、有底孔ビア225の内部に超音波Φを集中させて強力な超音波Φの場を発生させる。強力な超音波Φによって、有底孔ビア225に溜まった水223の表面に、音響放射圧Sの作用を強くすると、水223の表面にキャピラリー波が発生する。そこで、キャピラリー波の振幅が大きくなり表面張力に打ち勝つように超音波Φを照射すれば、図12に示すように、微小な微粒子としての水滴223mが飛散し、脱水処理が行なわれる。
【0056】
一方、有底孔ビア225の開口側を反射板23側に向けた場合、霧化は観測されなかった。その理由として、有底孔ビア225の場合は、十分な超音波Φの強度が被処理基板22b内を透過しないため、被処理基板22bがない場合の、超音波振動子21と反射板23の間の一様な空気中に励起される理想的な定在波に対し、被処理基板22bを挿入することにより、被処理基板22bと反射板23の間の定在波の振幅が非常に小さくなり、定在波の波形が大きく歪んでいると考えられる。実際には、超音波振動子21と被処理基板22bとの間には、被処理基板22bを反射板とする第1の定在波と、被処理基板22b中を減衰波として透過して反射板23で反射した第2の定在波の合成波が、互いに相関しながら形成されていると推定されるが、第2の定在波の振幅は非常に小さい。したがって、有底孔ビア225に溜まった水等の液体の霧化を行なう際は、有底孔ビア225の開口側を超音波振動子21側に向け、第1の定在波を利用する必要がある(なお、図12では左側の主面を上面(第1主面)、右側の主面を裏面(第2主面)と、便宜上定義しているが、単なる定義であり、この定義に限定されるものではない。要は、超音波振動子21の方向を向く主面に、有底孔ビア225の開口側が向いていればよい。)。
【0057】
第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の基板位置制御機構は、被処理基板22bを懸架して図13のX軸方向に搬送するX軸移動ステージと、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、被処理基板22bの位置を移動(微動)して、被処理基板22bを超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に調整するZ軸移動ステージとを有する2軸移動ステージ27と、この2軸移動ステージ27を駆動制御する基板位置制御装置(図3と同様であるので図示を省略する。)とを備える。基板位置制御装置には、プロセッサ(図示省略。)から2軸移動ステージ27の駆動制御用の信号が送られる。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と同様に、X軸移動ステージは、コンベアと同様な逐次搬送機構を備えるように構成し、Z軸移動ステージを調整して、被処理基板22bが最適な最適霧化位置を通過するようにして、複数枚(多数枚)の被処理基板22bを、順次、搬送する。2軸移動ステージ27のX軸のコンベア搬送方向に沿って、超音波振動子21と反射板23の組を平行に対峙して配列させることで、逐次搬送されてくる複数枚の被処理基板22bの、それぞれの全面を超音波でカバーすることができる。
【0058】
図3に示したのと同様に、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、更に、超音波Φを検出する超音波検出器(図示省略。)を反射板23の裏面に固定している。超音波検出器は、反射板23中に設けられた有底孔を介して超音波Φを検出する。超音波検出器の出力は、振動子駆動制御装置(図示省略。)に帰還され、超音波振動子21の出力が制御される。そして、更に、超音波検出器の出力を帰還して、反射板23が定在波を励振するように、反射板23の位置を制御する反射板位置制御機構(図示省略。)を備えている。反射板位置制御機構は、反射板23を搭載して、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、定在波が励振されるように反射板23の位置を移動(微動)して調整するZ軸移動ステージである1軸移動ステージ(図示省略。)と、この1軸移動ステージを駆動制御する反射板位置制御装置(図示省略。)とを備える、反射板位置制御装置には、プロセッサから1軸移動ステージの駆動制御用の信号が送られる。このため、超音波検出器には増幅器(図示省略。)が接続され、超音波検出器の出力は、増幅器を介して、プロセッサに入力し、プロセッサが必要な折り信号処理を行ない、1軸移動ステージの駆動制御用の信号を反射板位置制御装置に出力する。超音波検出器の出力を反射板位置制御装置に帰還し、最適な条件で超音波Φの定在波を励振することで、被処理基板22bの有底孔ビア225に溜まった水223の霧化に必要な強力な音場を効率よく作り出すことができる。
【0059】
更に、増幅器を介して、プロセッサに入力した超音波検出器の出力は、2軸移動ステージ27の駆動制御用の信号の生成にも利用することも可能で、超音波検出器の出力を、2軸移動ステージ27を駆動制御する基板位置制御装置に帰還することにより、被処理基板22bの位置をも最適化することができる。このように、超音波検出器の出力を、振動子駆動制御装置、反射板位置制御装置及び基板位置制御装置に帰還することにより、超音波Φを集中させ、有底孔ビア225における霧化現象が効率よく発現する条件を自動的に制御し、追尾することが可能になる。
【0060】
第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、被処理基板22bの有底孔ビア225に溜まった水223の霧化現象を瞬時に発現させるためには、霧化条件がそろっている必要がある。具体的には、超音波Φの定在波の振幅が大きくなっていること、有底孔ビア225が定在波の節の近傍の最適霧化位置に一致していることが必要であることは第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と同様である。定在波となっている超音波Φが強力になるためには、超音波振動子21と反射板23の距離が最適化されており、反射波と超音波振動子21からの放射波のそれぞれの位相が完全に一致する必要がある。この条件は音速で決定されるが、音速は温度・湿度によって変動し、更に、搬送されてくる被処理基板22bの材質・厚み・ビアの構造で見かけ上の音速は変化するので、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置によれば、超音波検出器の出力を、振動子駆動制御装置、反射板位置制御装置及び基板位置制御装置に帰還し、反射板23における音圧の位相と超音波振動子21の印加電圧の位相の関係より、超音波振動子21と反射板23の最適距離を逐次推定し自動調整し、且つ多品種の被処理基板22bの位置を逐次推定し自動調整して、常に、最適条件において霧化現象が効率よく発現するように、自動的に制御し、追尾することができる。最適条件において霧化させるように、帰還制御することにより、超音波Φを照射し始めてから霧化が終了するまでの時間を短くできるので、製造ラインのスループットを低下させることはない。
【0061】
図12及び図13に示す第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、反射板23として5mm厚のアルミニウム板を使用し、超音波振動子21の振動面と内径d=0.8mmの有底孔ビア225を設けた被処理基板22bの表面との間隔Lを、2軸移動ステージ27を用いて、X軸方向に0.5mm、Z軸方向に0.1mmずつ変化させながら実験した結果を図14に示す。図14では、比較のために内径d=0.8mmの貫通孔ビアを有する被処理基板のデータもプロットしている。超音波振動子21への印加電圧を150Vp-pとし、被処理基板22bは厚さt=1.6mmのガラスエポキシ基板である。超音波振動子21と反射板23の間隔は32.0mmで固定している。図14に示すように、有底孔ビア225は貫通孔ビアと比較して霧化が起こりにくい傾向がみられる。
【0062】
第1の実施の形態で説明した貫通孔ビア222を有する被処理基板22aにおいては、超音波Φがある程度、被処理基板22aを透過し、定在波が形成されていることが確認できた。但し、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置においても、被処理基板22aを設置せずに測定した音圧と比較して、透過した超音波Φはその約10%であるため、被処理基板22aを透過後の音圧の影響は、被処理基板22aを透過前の音圧の影響よりも小さいことがいえる。一方、有底孔ビア225を有する被処理基板22bでは、超音波Φは被処理基板22bを十分には透過せず、その音圧は貫通孔ビア222を有する被処理基板22aでの音圧の約15〜30%である。つまり、被処理基板22bを設置せずに測定した音圧の約1.5〜3%しか得ていないことが分かる。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、被処理基板22aを構成する材質が紙フェノール基板とガラスエポキシ基板では、僅かに紙フェノール基板の方が超音波Φを透過しやすい傾向がみられることから、被処理基板22aを透過する超音波Φには、貫通孔ビア222の内部を伝搬する成分と、被処理基板22aの絶縁基板221を透過する成分の両方があることを述べたが、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の被処理基板22bの場合は、被処理基板22bを透過する超音波Φには、有底孔ビア225を経由して有底孔ビア225の底に位置する絶縁基板221の薄い部分を伝搬する成分と、被処理基板22bの絶縁基板221の全体の厚み部分を透過する成分の両方が存在すると推定できるが、有底孔ビア225を経由する成分は非常に小さい。したがって、有底孔ビア225を有する被処理基板22bでは、被処理基板22bと反射板23の間の定在波の振幅が非常に小さくなっており、超音波振動子21と反射板23の間に、極度に非対称な定在波の励起を仮想できる。このため、被処理基板22bは、超音波振動子21と反射板23の間の音圧の影響をほとんど受けないため、有底孔ビア225の開口側を反射板23側に向けても、有底孔ビア225に溜まった水223の霧化は困難である。
【0063】
又、図13に示す第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成を用い、被処理基板22bの厚みt=1.6mm、有底孔ビア225の内径d=0.5mmの場合において、有底孔ビア225の内部に、水を充填し、2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、超音波振動子21の振動面と被処理基板22bの左側の表面の間隔Lを変化させた場合の、脱水の可否(容易さ)を確率として縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化して間隔Lを横軸に表現したのが、図15である。図15からも、有底孔ビア225の場合は、図9に示した貫通孔ビアの場合に比べて霧化現象がみられる範囲が狭い。
【0064】
図14(及び図15)に示すように、貫通孔ビア222と有底孔ビア225では、被処理基板22a,22bを透過する超音波Φの強度や、定在波の状況(波形)が異なり、超音波霧化の発現領域が異なるため、同一の条件で、同時に脱水することは不可能である。そのため、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置とは、それぞれの発現領域に対応できるように、条件設定を変更する必要があり、有底孔ビア225に溜まった水の霧化には、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置よりも高い音圧を被処理基板22bに与える必要があり、振動振幅の高い超音波振動子21を使用することが効率のよい霧化に好ましい。
【0065】
有底孔の深さの影響を調べるために、t=1.6mm厚の被処理基板22bに深さの異なる内径d=0.3mmφの有底孔ビア225を開け、超音波振動子21への印加電圧を100Vp-p,125Vp-p,150Vp-pと変化させて、超音波Φの強さの霧化に与える効果について調べた結果を図16に示す。有底孔ビア225の深さを有底孔ビア225の内径dで規格化し、アスペクト比とし、図16の横軸とした。超音波振動子21への印加電圧を100Vp-p→125Vp-p→150Vp-pと変化させて、超音波Φの振幅を大きくすればするほど、アスペクト比の高い(より深い)有底孔ビア225の液体を霧化して乾燥できることが分かる。このことは、被処理基板22bを透過する超音波Φとしては、有底孔ビア225を経由して有底孔ビア225の底に位置する絶縁基板221の薄い部分を伝搬する超音波Φの成分が非常に小さいことを確認させるものである。
【0066】
図16に示した結果から、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、内径d=0.3mmφの有底孔ビア225の場合、超音波Φの振幅を大きくすれば、アスペクト比が2.5以上であっても、有効に霧化して乾燥することが可能であり、内径d=0.3mmφ以下の微細な口径を有する有底孔ビア225を備えた被処理基板22bのウェット洗浄及びその後の乾燥工程に有効であることが分かる。
【0067】
以上のように、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法によれば、図12や図13に示した簡単且つ安価な構造で、種々の有底孔ビア225に溜まった液体を効率よく霧化できる。特に、被処理基板を、超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に配置しているので、被処理基板に過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な有底孔ビア225に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することができる。
【0068】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1及び第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0069】
例えば、第1及び第2の実施の形態での説明は、図1に例示したように、X−Z平面を水平面とし、被処理基板22aの主面方向が垂直、即ちY−方向に沿った場合を前提として議論しているが、X軸、Y軸、Z軸の定義は図1に例示した方位に限定されるものでなく、互いに直交する座標系であれば任意に座標軸を選択可能である。例えば、定在波の方向が鉛直方向となり、被処理基板22aの主面方向が水平方向になるような、他の直交座標系を選定しても構わない。
【0070】
なお、定在波の方向を鉛直方向とし、被処理基板22aの主面方向を水平方向とする直交座標系を選定した場合、図1,図3,図12,図13等に例示した構成において、超音波振動子21をステージに搭載して、超音波振動子21をZ軸方向に移動して、超音波振動子21と被処理基板22a,22bとの相対的距離、超音波振動子21と反射板23との相対的距離を調整する態様をも、含んで構わない。よって、より一般的には、本発明の「基板位置制御機構」は、超音波振動子21と被処理基板22a,22bとの相対的距離及び被処理基板22a,22bと反射板23との相対的距離を制御可能な機構であり、本発明の「反射板位置制御機構」は、超音波振動子21と反射板23との相対的距離、及び被処理基板22a,22bと反射板23との相対的距離を制御可能な機構であると理解すべきである。
【0071】
又、第1の実施の形態で説明した2軸移動ステージ25、第2の実施の形態で説明した2軸移動ステージ27の動作方法(運用)には、種々の変形等の態様が可能である。例えば、被処理基板22a,22bの品種が予め決まっているルーチンの洗浄工程及び乾燥工程であれば、予め、貫通孔ビア222の内径・絶縁基板221の材質・厚み・構造等の異なる種々の被処理基板22a、有底孔ビア225の内径・絶縁基板221の材質・厚み・構造等の異なる種々の被処理基板22aのそれぞれについて、最適霧化位置Poptのデータを逐次測定しておき、最適霧化位置データベースにレシピとして蓄積しておくような運用も可能であり、こうすることにより、プロセッサ34が最適霧化位置データベースの情報を参照しながら、2軸移動ステージ25,27の動作をプログラム制御できる。この場合、乾燥工程に先立ち、貫通孔ビア222の内径、有底孔ビア225の内径、絶縁基板221の材質・厚み・構造等の種々の被処理基板22a,22bの製品情報を、被処理基板情報データベースに格納しておき、プロセッサ34が最適霧化位置データベースと被処理基板情報データベースとに格納された情報をそれぞれ読み出しながら、2軸移動ステージ25,27をプログラム制御するような運用にしても良い。
【0072】
更に、2軸移動ステージ25,27の移動の粗調整を、最適霧化位置データベースと被処理基板情報データベースとに格納された情報を用いてプログラム制御で行い、最終的な微調整は、超音波検出器24の出力を、振動子駆動制御装置35、反射板位置制御装置33及び基板位置制御装置32に帰還し、反射板23における音圧の位相と超音波振動子21の印加電圧の位相の関係より、超音波振動子21と反射板23の最適距離を微調整し、且つ被処理基板22a,22bの位置を微調整するような運用とし、常に、最適条件において霧化現象が効率よく発現するように、自動的に制御し、追尾するようにしてもよい。このように、プログラム制御を併用しながら、帰還制御することにより、製造ラインのスループットを向上させることも可能である。
【0073】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な、特許請求の範囲の記載に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0074】
21…超音波振動子
22a,22b…被処理基板
23…反射板
24…超音波検出器
25,27…2軸移動ステージ
26…1軸移動ステージ
31…増幅器
32…基板位置制御装置
33…反射板位置制御装置
34…プロセッサ
35…振動子駆動制御装置
221…絶縁基板
222…貫通孔ビア
223…水
223S…水滴
223m…水滴
225…有底孔ビア
231…貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた乾燥装置及び基板処理方法に係り、特に、プリント基板等の種々の被処理基板の水等の液体による洗浄工程、洗浄後の乾燥工程において、被処理基板の微細な凹部に貯まった水等の液体を、効率よく乾燥する超音波乾燥装置及び基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高密度配線が可能で、小型化及び軽量化が図れる多層配線構造を有するプリント基板の需要が急増し、種々の多様な電子機器等に使用されている。加工精度の向上に伴い、多層構造をなす絶縁基板の上面、裏面、及びその内部には導体配線が微細化されて設けられ、個々の導体配線は、ビアと呼ばれる金属製の導電側壁を有する孔によって層間接続がされている。ビアには様々な種類があり、絶縁基板の全層を貫通する貫通孔ビア(スルーホールビア)、絶縁基板の全層を貫通させずに特定の層間のみを接続する有底孔ビア(ブラインドビア)、内層の層間接続をし、基板表面には開口していない埋め込みビア(バリードビア)等の種々の構造が採用されている。貫通孔ビアのビア径は機器の小型化に伴って小径なものが求められることになるが、例えば、50μm〜2mmφ等のものが知られている。
【0003】
プリント基板が電子機器に利用されるにあたって、プリント基板の洗浄工程、洗浄後の乾燥工程が存在する。プリント基板に限らず、基板材料が製品となる過程で、種々の基板の洗浄は不可欠なものとなっており、各種プロセス処理や電子・光学部品の信頼性において悪影響を及ぼす汚れを除去すると共に、表面状況を均質にすることによって電子・光学部品の特性や生産性及び信頼性の向上を図っている。
【0004】
プリント基板を水洗い洗浄後に乾燥するには、従来は、熱風乾燥やスピン乾燥を行なうのが一般的であった。熱風乾燥はコンベアで搬送されるプリント基板に40〜100℃の乾燥した熱風を吹きかけて同基板に付着している水分を蒸発させるものであり、スピン乾燥はプリント基板を高速回転する回転板の上にセットして高速回転させ、遠心力でプリント基板に付着している水を吹き飛ばすものである。熱風乾燥においては、水が乾燥した跡に水のシミが残るという問題があり、更に、プリント基板に熱を加えることによって、プリント基板が反り、層間剥離が生じる可能性がある。
【0005】
スピン乾燥においては、プリント基板の孔内や凹凸部にある水が飛ばされにくく、完全な乾燥が難しい上に、そこに含まれる塵等の不純物がビアに残るという問題があった。更にプリント基板を回転板にセットしなければならないため、流れ作業の一環として乾燥を行なうことができなかった。
【0006】
斯かる事情を鑑み、従来、乾燥室と、プリント基板を搬送して乾燥室内を通過する搬送体と、搬送体により搬送されるプリント基板に20KHZ 〜100KHZ の音波を当てて、プリント基板の表面に付着している水(表面水)を振動させて除去するスピーカとを備え、搬送体は20KHZ 〜100KHZ の音波が通過可能であり、スピーカは乾燥室内における搬送体の上下に配置されて、スピーカから発生された20KHZ 〜100KHZ の音波をプリント基板の上下から当てる表面水除去装置が提案されている(特許文献1参照。)。特許文献1に記載の表面水除去装置では、上方のスピーカから出力される音波はプリント基板の上面側の水滴を活性化して除去し、下方のスピーカから出力される音波はプリント基板の下面側の水滴を活性化して除去し、プリント基板の表面の水を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3163239号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の表面水除去装置では、搬送体の上下にスピーカを配置して、上方のスピーカから出力される音波で上面側の水滴を活性化して除去し、下方のスピーカで下面側の水滴を活性化して除去する必要があり、装置の構成が複雑であるのにも関わらず、20KHZ 〜100KHZ の音波を用いて、プリント基板に付着している水を振動させて、単に、吹き飛ばして(振るい落して)いるにすぎない(特許文献1の段落[0013],[0017],[0019]の欄参照。)。又、特許文献1に記載の発明では、超音波を集中して強力な超音波の場を発生させることの考慮もされていないので、凹部の寸法が微細化された場合は、微細化された凹部に貯まった水を完全に除去することが困難であった。更に、特許文献1に記載の表面水除去装置では、被処理基板に過大な音圧(衝撃)がかかり、被処理基板を損傷する恐れもあった。
【0009】
プリント基板の水洗い洗浄工程、洗浄後の乾燥工程以外でも、種々の基板の液体によるウェット洗浄工程、洗浄後の乾燥工程において、種々の基板の微細な凹部の中に水等の液体が溜まり、故障の原因となるといった問題が生じている。特に、ブラインドビア等の有底孔に溜まった液体は、空気が通過していかないことから、風圧での除去は難しく、大きな問題となっている。
【0010】
上記の問題点を鑑み、本発明は、微細な凹部を有する種々の被処理基板の液体によるウェット洗浄工程、洗浄後の乾燥工程に用いることが可能な超音波乾燥装置であって、装置の構成が簡単且つ安価であって、被処理基板に熱や過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な凹部に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、超音波を発生する超音波振動子と、この超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置と、超音波を反射し、空気中に超音波の定在波を励振させる反射板と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板を移動させる基板位置制御機構とを備え、最適霧化位置において被処理基板の凹部に溜まった液体を霧化して除去する超音波乾燥装置であることを要旨とする。
【0012】
本発明の他の態様は、(イ)凹部を有する被処理基板を、液体でウェット洗浄する洗浄工程と、(ロ)この洗浄工程の後、超音波を発生する超音波振動子、この超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置、超音波を反射し、空気中に超音波の定在波を励振させる反射板を有する超音波乾燥装置を用い、超音波振動子と反射板の間の定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板を移動させる工程と、(ハ)最適霧化位置において、被処理基板の凹部に溜まった液体を超音波によって霧化して除去する工程とを含む基板処理方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微細な凹部を有する種々の被処理基板の液体によるウェット洗浄工程、洗浄後の乾燥工程に用いることが可能な超音波乾燥装置であって、装置の構成が簡単且つ安価であって、被処理基板に熱や過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な凹部に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の原理的な説明するための上面側からみた模式的な部分断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の処理対象となる被処理基板の一例として示す、代表的なプリント基板の上面図(平面図)である。
【図3】図1と直交する角度からみた、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の概略構成を具体的に説明する部分断面図を含むブロック図である。
【図4】被処理基板の貫通孔ビアに溜まった水を、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置を用いて、超音波の音響放射圧の作用で貫通孔ビアの外へ水滴として押し出す様子を説明する模式図である。
【図5】被処理基板の貫通孔ビアに溜まった水を、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置を用いて、キャピラリー波を発生させて超音波霧化し、貫通孔ビアの外へ飛散させる様子を説明する模式図である。
【図6】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、超音波振動子と反射板の間に定在波が励起されて、音圧のピークが生じたことを示す測定データの一例である。
【図7】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子と被処理基板の間隔を変化させながら音圧測定を行なった結果を示し、被処理基板の位置を0.1mm変化させる毎に反射板の最適位置も被処理基板の位置と連動して0.1mmずつ変化し、音圧が極大値をとるのは被処理基板の位置が6.7mmのときであることを示す図である。
【図8】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、被処理基板の位置を6.7mmとした際の、反射板の位置と音圧との関係(黒丸)、印加電圧と超音波検出器の出力電圧の位相差と反射板の位置との関係(白抜きの四角)を示し、音圧が極大となる位置よりも手前側の反射板の位置では位相差がほぼ線形に変化し、位相差が−90°付近で音圧が極大となっていることを示す図である。
【図9】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子の振動面と被処理基板の左側の表面の間隔Lを変化したときの、貫通孔ビアに充填された水の脱水の容易さ(確率)を縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化した間隔Lを横軸に、それぞれ表わした図である。
【図10】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、被処理基板の表面を鉛直方向から角度θだけ傾けて超音波の入射角θを変化し、入射角θの変化が脱水効果に与える影響を調べる実験の測定系を説明する模式図である。
【図11】第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、貫通孔ビアの内部に水とイソプロピルアルコール(IPA)をそれぞれ充填し、超音波振動子の振動面と被処理基板の左側の表面の間隔Lを変化させた場合の、脱水の容易さ(確率)を縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化した間隔Lを横軸に、それぞれ表わした図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の原理的な説明するための上面側からみた模式的な部分断面図である。
【図13】第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の概略構成を具体的に説明する上面図(平面図)である。
【図14】貫通孔ビアと有底孔ビアでは、超音波霧化の発現領域が異なることを説明する図である。
【図15】第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子の振動面と被処理基板の左側の表面の間隔Lを変化したときの、有底孔ビアに充填された水の脱水の容易さ(確率)を縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化した間隔Lを横軸に、それぞれ表わした図である。
【図16】第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波の振幅を大きくすればするほど、アスペクト比の高い(より深い)有底孔ビアの水が脱水できることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
又、以下に示す第1及び第2の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、図1及び図3に示すように、超音波Φを発生する超音波振動子21と、この超音波振動子21を駆動制御する振動子駆動制御装置35と、超音波Φを反射し、空気中に超音波Φの定在波を励振させる反射板23と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板22aを移動させる基板位置制御機構(25,32)とを備える(図1は上面側からみた部分断面図であり、図3は図1と直交する角度からみた部分断面図である。)。ここで、「定在波の節の位置の近傍」とは、図9等を用いて後述するように「定在波の節の位置から波長の5%以下の極く僅か離間した位置」を意味する(図9では、最適霧化位置Poptが、節の位置Pnodeから波長の2%程度離れた場合を例示している。)。
【0018】
ここで、被処理基板22aとしてのプリント基板は、図1及び図3に示すように、多層構造をなす絶縁基板221の上面(第1主面)から裏面(第2主面)へ貫通する貫通孔ビア(スルーホールビア)222が開孔されている。紙フェノール基板やガラスエポキシ基板等の通常のプリント基板に用いられている種々の多層構造の絶縁基板が、絶縁基板221の材料として適用可能である。図2に示すように、絶縁基板221の上面(第1主面)には、微細化された所定のパターンをなして、導体配線が形成されている。詳細な図示を省略しているが、絶縁基板221の裏面(第2主面)、及びその内部の多層構造にも、同様な導体配線が微細化されて形成されている。貫通孔ビア222は、多層構造の絶縁基板221の全層を貫通して設けられ、金属製の円筒(カナル)によって貫通孔に導電性の側壁を形成し、上面(第1主面)の導体配線と裏面(第2主面)の導体配線とを接続している。そして、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、被処理基板22aを最適霧化位置に配置することにより、被処理基板22aの凹部である貫通孔ビア222に溜まった水223に超音波Φを集中させる。
【0019】
図4に模式的に示すように、超音波Φが集中した強力な超音波Φの場では、被処理基板22aの貫通孔ビア222に溜まった液体(以下において「水」を例示する。)223は、超音波Φによる音響放射圧の作用により、貫通孔ビア222の外へ液滴(以下において「水滴」を例示する。)223Sとして押し出される。「音響放射圧」とは、図4(a)に示すように、超音波Φを水223等の物体で遮ったとき、超音波Φの伝播方向にその物体としての水223を押す力のことをいう。したがって、図4(b)に示すように水223が音響放射圧により押し上げられ、液柱を形成する。更に、図4(c)に示すように、高まった音響放射圧による力が水223の表面張力に勝り、水滴223Sを貫通孔ビア222から押し出す。
【0020】
もしくは、図5(a)に示すように、超音波Φが集中して強力な超音波Φの場が発生し、貫通孔ビア222に溜まった水223の表面に、音響放射圧Sの作用が強くなると、図5(b)に示すように、水223の表面にキャピラリー波(毛細表面波)が発生し、キャピラリー波の振幅が大きくなると表面張力に打ち勝ち、図5(c)に示すように微小な微粒子としての水滴223mが飛散する。「キャピラリー波」は表面張力波とも呼ばれ、表面張力を復元力とする水面を伝わる短波長の波で、「ささなみ波」とも呼ばれる。キャピラリー波の波長λcplは、液体を励振する励振周波数をf、液体の表面張力をT、液体の密度をρとすると、
λcpl=(8πT/ρf2)1/3 ……(1)
で与えられ、短波長で表面張力の影響を強く受ける。
【0021】
液体の表面にキャピラリー波が発生すると、液体の周辺を反射の境界として、液体の表面に干渉波が起こる。干渉波の発生により、液体の表面での液体の衝突、引きちぎり合うエネルギが表面張力Tに勝り、液体を微粒子化して空中に飛散させる。この現象は超音波霧化と言われ、超音波加湿器やネブライザ等に利用されているが、飛散する微粒子としての水滴223mの直径Dは、
D=0,34(8πT/ρf2)1/3 ……(2)
に相関することが、実験的な経験則として知られている。
【0022】
現在、実用化されている超音波霧化の多くは超音波振動子21から液体に直接超音波Φを励振する方法がとられており、その励振周波数はMHzオーダのものが多い。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置では、空気中を伝わる超音波Φを利用した超音波霧化を目的としているので、空気中では高周波の超音波Φは音波の伝搬減衰が液体、固体に比べ、大きくなり、超音波ΦはkHzオーダの周波数帯が、好ましく、例えば、15kHz〜50kHz程度に選べばよい。励振周波数28kHzでは、飛散する微粒子としての水滴223mの直径Dは、(2)式より、約60μmとなる。このようにして、強力な超音波Φで貫通孔ビア222に溜まった水223が霧化して水滴223mとなることにより、水滴223mが貫通孔ビア222の外へ押し出され、除去され、脱水処理が行なわれる。
【0023】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の超音波振動子21としては、例えば、分極した圧電セラミックスと電極を金属ブロックではさみボルトで締め付けて一体化した、ボルト締めランジュバン型振動子が使用可能であるが、ランジュバン型振動子に限定されるものではない。一般にランジュバン型振動子は、機械的品質係数Qmが高いため、周波数のスパンの狭い共振ピークを持つ特徴を有する。
【0024】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の基板位置制御機構(25,32)は、被処理基板22aを懸架して図3の紙面に垂直方向(X軸方向)に搬送するX軸移動ステージと、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、被処理基板22aの位置を移動(微動)して、被処理基板22aを超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に調整するZ軸移動ステージとを有する2軸移動ステージ25と、この2軸移動ステージ25を駆動制御する基板位置制御装置32とを備える(図3と直交する角度からみた図1には、X軸方向とZ軸方向が示されている。)。基板位置制御装置32には、プロセッサ34から2軸移動ステージ25の駆動制御用の信号が送られる。
【0025】
工業的な実用上の観点からは、X軸移動ステージは、コンベアと同様な逐次搬送機構を備えるように構成すればよい。超音波Φが伝搬する空気の温度・湿度が制御され、同一品種の被処理基板22aが順次搬送される場合であれば、被処理基板22aが所定の最適霧化位置を通過するように、予め、Z軸移動ステージを調整した後、複数枚(多数枚)の被処理基板22aを、順次、X軸移動ステージによって、コンベア搬送し、超音波振動子21と反射板23との間に励振された超音波Φの定在波中を、複数枚の被処理基板22aが通過して、脱水処理されるようにすればよい。
【0026】
一方、温度・湿度が変動する場合や、多品種の被処理基板22aが順次搬送される場合は、それらの変化する条件を追尾して、被処理基板22aが、最適な最適霧化位置を通過するように、逐次、Z軸移動ステージを調整して、複数枚(多数枚)の被処理基板22aを、順次、X軸移動ステージによって、コンベア搬送する必要が生じる。2軸移動ステージ25のX軸のコンベア搬送方向に沿って、超音波振動子21と反射板23の組を平行に対峙して配列させることで、逐次搬送されてくる複数枚の被処理基板22aの、それぞれの全面を超音波でカバーすることができる。
【0027】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、超音波Φにより貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化を行なう際、貫通孔ビア222に溜まった水223だけでなく、被処理基板22aを構成する絶縁基板221が、超音波Φにより振動する。この超音波Φによる絶縁基板221の振動加速度が過大な値となる場合、層間剥離などにより、多層構造をなす絶縁基板221が損傷する可能性がある。
【0028】
そこで、最大加速度が衝撃と等価であるとみなし、絶縁基板221の振動加速度を計測した。即ち、図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、超音波振動子21により空気中に超音波Φを励振し、反射板23としてガラス板を用い、レーザードップラー振動速度計を用いて絶縁基板221の振動速度の計測を行なった。振動速度の計測は、図3に示した2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、被処理基板22aのZ軸方向の位置の制御を行ない、超音波Φによる、貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化が生じるZ軸方向の位置を原点とし、そこから0.5mm毎にZ軸方向の±3mmまで移動させ、絶縁基板221の振動速度を測定した。測定された振動加速度は、Z軸方向の各測定点において、最大でも619m/s2であった。例えば、多層プリント基板が使用されている携帯電話の一般的な許容衝撃強さは980m/s2とされているが、この値よりも低い振動加速度であり、絶縁基板221への振動加速度の許容内である。よって、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置によれば、絶縁基板221への超音波Φの衝撃の影響は、無視して良いと判断できる。
【0029】
なお、図3では、基板位置制御機構(25,32)の2軸移動ステージ25が、被処理基板22aの上方に配置され、被処理基板22aを懸架しているが、例示であり、図3の懸架移動に限定されるものではない。例えば、2軸移動ステージ25を被処理基板22aの下方に配置し、2軸移動ステージ25が被処理基板22aを搭載するような構成でも構わない。この場合も、X軸移動ステージは、コンベアと同様な逐次搬送機構を備えて、X軸移動ステージに搭載された被処理基板22aが、順次、コンベア搬送され、超音波振動子21と反射板23との間に励振された超音波Φの定在波中を、複数枚の被処理基板22aが通過して、順次、複数枚の被処理基板22aが脱水処理されるようにすればよい。
【0030】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置においては、超音波振動子21から空気中に放射された超音波Φを利用する際、反射板23を用いて定在波を形成することで、より音圧の高い音場を形成している。図1及び図3に示すような、超音波Φの垂直入射における反射板23による反射は、二つの媒質が接する境界面で起こり、その反射率Rpは二つの媒質の固有音響インピーダンスZ1,Z2に依存する。よって、反射板23による超音波Φの反射率Rpは、媒質1,2のそれぞれの固有音響インピーダンスをZ1,Z2として、
Rp=(Z2−Z1)/(Z2+Z1) ……(3)
で示される。(3)式により、媒質1を空気、媒質2を反射板23の材料として計算すると、媒質2の固有音響インピーダンスZ2が媒質1の固有音響インピーダンスZ1よりも十分に大きければ(Z1≪Z2)、反射率Rpは反射板23の材質によらず1に近似する。又、斜め入射を考えた場合においても、Z1≪Z2であることから入射波は全反射するといえる。そこで、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、反射板23として厚さ2,5,10mmのガラス板、厚さ2,5,10mmのアルミニウム(Al)板及び厚さ5,10mmの鉄(Fe)板を使用して反射率Rpを測定したが、反射率Rpは、反射板23の固有音響インピーダンスZ2が空気の固有音響インピーダンスZ1よりも十分に大きければ、反射板23の材質及び板厚の影響をほとんど受けないことが確認された。超音波Φの反射率Rpの測定値が1に近似しない理由としては、反射及び屈折時の超音波Φの減衰や反射板23による超音波Φの吸音といったことが考えられる。
【0031】
図3に示すように、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、更に、超音波Φを検出する超音波検出器24を反射板23の裏面に固定している。超音波検出器24は、反射板23中に設けられた貫通孔231を介して超音波Φを検出する。超音波検出器24の出力は、振動子駆動制御装置35に帰還され、超音波振動子21の出力が制御される。そして、更に、超音波検出器24の出力を帰還して、反射板23が定在波を励振するように、反射板23の位置を制御する反射板位置制御機構(26,33)を備えている。反射板位置制御機構(26,33)は、反射板23を搭載して、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、定在波が励振されるように反射板23の位置を移動(微動)して調整するZ軸移動ステージ(1軸移動ステージ)26と、この1軸移動ステージ26を駆動制御する反射板位置制御装置33とを備える、反射板位置制御装置33には、プロセッサ34から1軸移動ステージ26の駆動制御用の信号が送られる。このため、超音波検出器24には増幅器31が接続され、超音波検出器24の出力は、増幅器31を介して、プロセッサ34に入力し、プロセッサ34が必要な信号処理を行ない、1軸移動ステージ26の駆動制御用の信号を反射板位置制御装置33に出力する。超音波検出器24の出力を反射板位置制御装置33に帰還し、最適な条件で超音波Φの定在波を励振することで、被処理基板22aの貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化に必要な強力な音場を効率よく作り出すことができる。
【0032】
更に、増幅器31を介して、プロセッサ34に入力した超音波検出器24の出力は、2軸移動ステージ25の駆動制御用の信号の生成にも利用することも可能で、超音波検出器24の出力を、2軸移動ステージ25を駆動制御する基板位置制御装置32に帰還することにより、被処理基板22aの位置をも最適化することができる。このように、超音波検出器24の出力を、振動子駆動制御装置35、反射板位置制御装置33及び基板位置制御装置32に帰還することにより、超音波Φを集中させ、霧化現象が効率よく発現する条件を自動的に制御し、追尾することが可能になる。
【0033】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、被処理基板22aの貫通孔ビア222に溜まった水223の霧化現象を瞬時に発現させるためには、霧化条件がそろっている必要がある。具体的には、超音波Φの定在波の振幅が大きくなっていること、貫通孔ビア222が定在波の節の近傍の最適霧化位置に一致していることが必要である。定在波となっている超音波Φが強力になるためには、超音波振動子21と反射板23の距離が最適化されており、反射波と超音波振動子21からの放射波のそれぞれの位相が完全に一致する必要がある。この条件は音速で決定されるが、音速は温度・湿度によって変動し、更に、搬送されてくる被処理基板22aの材質・厚み・ビアの構造で見かけ上の音速は変化する。
【0034】
2軸移動ステージ25によって、材質・厚み・構造等の異なる多品種の被処理基板22aがコンベア搬送される場合は、時事刻々と変化する霧化条件にリアルタイムで対応して、逐次、常に反射板23と超音波振動子21の距離を適正な値に保つ必要がある。又、反射板23と超音波振動子21の距離の変化に応じて、超音波Φの定在波の節の位置も変化するため、定在波の節の位置の変化に応じて、被処理基板22aの相対位置を調整する必要がある。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置によれば、超音波検出器24の出力を、振動子駆動制御装置35、反射板位置制御装置33及び基板位置制御装置32に帰還し、反射板23における音圧の位相と超音波振動子21の印加電圧の位相の関係より、超音波振動子21と反射板23の最適距離を逐次推定し自動調整し、且つ多品種の被処理基板22aの位置を逐次推定し自動調整して、常に、最適条件において霧化現象が効率よく発現するように、自動的に制御し、追尾することができる。最適条件において霧化させるように、帰還制御することにより、超音波Φを照射し始めてから霧化が終了するまでの時間を短くできるので、製造ラインのスループットを低下させることはない。
【0035】
なお、図3では、反射板位置制御機構(26、33)の1軸移動ステージ26が、反射板23の下方に配置され、反射板23を搭載しているが、例示であり、例えば、1軸移動ステージ26を反射板23の上方に配置し、1軸移動ステージ26が反射板23を懸架するような構成でも構わない。
【0036】
図6は、超音波振動子21と反射板23の間隔の変化に対する音圧変化を測定することで、超音波Φが被処理基板22aを透過し、超音波Φの定在波が形成されるときの超音波振動子21と反射板23の間隔を調べた結果である。具体的には、超音波振動子21の振動面と反射板23の表面の間隔を1軸移動ステージ26を用いて0.1mmずつ変化させながら、超音波振動子21の振動面から1mmの距離に固定した超音波検出器(コンデンサマイク)により、音圧の変化を測定した結果である。図6の測定では、反射板23には5mm厚のアルミニウム板を使用した。超音波Φの波長は超音波振動子21の共振周波数と空気の音速から求まり、空気の温度によって変化するので、温度20.0℃、湿度27%の条件で測定している。超音波振動子21の共振周波数28kHzでは、波長λ=12.1mmであるので、理論的には、波長の1/2の奇数倍の距離となる節の位置は、その最初の位置が、超音波振動子21の振動面から約6.05mmの位置となる。超音波Φの音圧のピーク時に、超音波Φが被処理基板22aを透過し、超音波Φの定在波が形成されると考えられるが、図6の測定では、ピーク時の音圧は超音波振動子21と反射板23の間隔が狭いほど大きくなる傾向がみられた。
【0037】
理論的には、超音波Φの定在波は音源と反射板23の間隔が音波の波長の1/2の整数倍の値のとき形成されるはずである。よって、図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置のように被処理基板22aを定在波の節の近傍に挿入する構成においては、nを2以上の正の整数として、音源の超音波振動子21と反射板23の間隔が音波の波長λの(n/2)倍の値のとき定在波が形成され、半波長の奇数倍の位置に節がそれぞれ形成されるはずである。しかし、図6に示される測定結果によれば、音圧のピークの位置として与えられる節の最初の位置(図6で一番左側のピークの位置)は、超音波振動子21の振動面から距離6.4mmの位置に形成され、波長の約1/2より極く僅か大きな値となっている。このことから、被処理基板22aがない場合の一様な空気中に励起される理想的な定在波に比し、被処理基板22aを挿入することにより、定在波の波形に、極く僅かの歪み(擾乱)が発生した複雑な定在波になっていると考えられる。
【0038】
図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、超音波振動子21と被処理基板22aの間隔を変化させながら音圧測定を行なった。反射板23として2mm厚のアルミニウム板を用いた。その反射板23にd=0.8mmφの貫通孔231を開け、超音波振動子21と向き合うようにコンデンサマイクを超音波検出器24として取り付けた。超音波振動子21への印加電圧は150Vp-pとし、被処理基板22a位置は超音波霧化の発現領域の前後である6.5mmから7.5mmまで変化させた。超音波Φが被処理基板22aを透過し、超音波Φの定在波が形成されると音圧が極大となると考えられるため、音圧が極大値となったときの音圧とそのときの反射板23位置を測定した結果を図7に示す。図7に示す結果から、被処理基板22aの位置を0.1mm変化させる毎に反射板23の最適位置も被処理基板22aの位置と連動して0.1mmずつ変化していることが確認できる。又、音圧が極大値をとるのは被処理基板22aの位置が6.7mmのときであり、貫通孔ビア222の霧化現象においては音圧が大きく関係していることが確認できる。実際に貫通孔ビア222に水を充填させ、音圧が極大値をとる位置を最適霧化位置として被処理基板22aを配置すると、超音波霧化が発現させることが確認できた。
【0039】
超音波Φも波長λよりも小さな内径dを有する貫通孔ビア222中を、超音波Φは減衰波(エバネッセント波)の形で、減衰しながら透過する。よって、被処理基板22aの厚さが、超音波Φの波長λよりも十分薄ければ、超音波Φは、ある程度、被処理基板22aを透過する。減衰波として、貫通孔ビア222を有する被処理基板22aを透過した超音波Φは、超音波振動子21と被処理基板22aとの間の超音波Φとともに定在波を形成する。測定によれば、被処理基板22aを設置せずに測定した音圧と比較して、透過した超音波Φの音圧はその約10%である。よって、被処理基板22aを透過後の音圧の被処理基板22aに与える影響は、被処理基板22aを透過する前の音圧が被処理基板22aに与える影響よりも小さい。又、被処理基板22aを構成するが紙フェノール基板とガラスエポキシ基板では、僅かに紙フェノール基板の方が超音波Φを透過しやすい傾向がみられることから、被処理基板22aを透過する超音波Φには、貫通孔ビア222の内部を伝搬する成分と、被処理基板22aの絶縁基板221を透過する成分の両方が寄与していることが分かる。実際には、超音波振動子21と被処理基板22aとの間には、被処理基板22aを反射板とする第1の定在波と、被処理基板22aを透過して反射板23で反射した第2の定在波の合成波が、互いに相関しながら形成されていると推定される。
【0040】
又、被処理基板22aの位置を、音圧が最大であった6.7mmとした際の、反射板23の位置と音圧との関係(黒丸)、印加電圧と超音波検出器24の出力電圧(マイク出力)の位相差と反射板23の位置との関係(白抜きの四角)を測定した測定結果を図8に示す。図8に示す結果から、黒丸で示した音圧が極大となる位置よりも手前側の反射板23の位置では、白抜きの四角で示した位相差がほぼ線形に変化し、位相差が−90°付近で音圧が極大となっていることが確認できる。黒丸で示した超音波検出器24の出力電圧(マイク出力)が極大になっているときに系が共振系となり、強力な超音波Φが励振される。図8に示す変化の様子より、距離の最適値を推定することができる。推定をもとに超音波振動子21と反射板23のそれぞれの位置を調整し、定在波の節の近傍の最適霧化位置に被処理基板22aをコンベア搬送して、超音波Φの励振効率を最大にして、順次、脱水処理を行なうことができる。
【0041】
図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、厚さt=1.6mmの3枚の被処理基板22aに、それぞれ内径d=0.8mm、1.5mm、3.0mmの貫通孔ビア222を設けて、3種の被処理基板22aを用意した。そして、これらの内径dの異なる貫通孔ビア222をそれぞれを介して、温度20.0℃、湿度27%の条件で、それぞれ28kHzの超音波Φを検出するように、3種の被処理基板22aのそれぞれに超音波検出器を貼り付けた。
【0042】
前述したとおり、温度20.0℃、湿度27%の条件での28kHzの超音波Φの定在波の節の位置Pnodeは6.4mmと測定されたが、被処理基板22aがない場合の一様な空気中の定在波に対し、被処理基板22aの挿入が、波形の歪み(擾乱)を発生させていると考えられるので、超音波Φの定在波の節の位置Pnodeは、厳密には、貫通孔ビア222の内径dの値に依存し、0.2mm程度変化する。しかし、図9は、貫通孔ビア222の内径dの値の変化に対する節の位置Pnodeの依存性は無視できると近似して、図3に示した2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、超音波振動子21の振動面と被処理基板22aの左側の表面の間隔Lを変化させながら、貫通孔ビア222に充填された水223の脱水の可否(容易さ)を確率として縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化して間隔Lを横軸に表現している。
【0043】
貫通孔ビア222の内径dの値の変化に対する節の位置Pnodeの依存性が無視できると近似した条件では、3種の被処理基板22aのいずれも、節の位置Pnodeから0.02波長ほど離れた最適霧化位置Poptを中心に霧化現象が分布し、貫通孔ビア222の内径dの値に対する最適霧化位置Poptの依存性は無視できると近似できるが、分布の幅(半値幅)に差異が認められる。貫通孔ビア222の内径dが小さいほど、毛細管力が大きくなるため、脱水に必要な超音波Φの音圧が高くなり、超音波Φの音圧が高い最適霧化位置Poptの近傍のみに局在して霧化現象が発生し、分布の幅が狭いが、貫通孔ビア222の内径dが次第に大きくなると、次第に毛細管力が小さくなり、次第に脱水に必要な超音波Φの音圧も低くなり、最適霧化位置Poptから離れた位置でも霧化現象が発生可能となり、分布の幅が次第に広がると考えられる。
【0044】
更に、表1に示すとおり、厚さt=1.6mmの3枚の被処理基板22aに、それぞれ、内径d=0.3mm、0.5mm、0.8mm、1.0mm、1.2mm、1.5mm、2.0mm、3.0mmの8種の貫通孔ビア222を設けて、それぞれの貫通孔ビア222に水223を充填し、充填された水223の脱水の可否を測定したが、内径d=0.3mm〜3.0mmのすべての貫通孔ビア222で脱水可能であった。
【表1】
【0045】
表1には、28kHzの超音波Φの波長λ=12.1mmに対する貫通孔ビア222の内径dの比(d/λ)も示しているが、d/λ=2.5%〜24.8%の範囲内では、脱水の可否における、貫通孔ビア222の内径dの超音波Φの波長λに対する依存性はないと判断できる。
【0046】
又、表1には、被処理基板22aの厚さt=1.6mmと、貫通孔ビア222の内径dとの比で貫通孔ビア222のアスペクト比t/dを示しているが、アスペクト比t/d=5.3〜0.5の範囲内では、脱水の可否における、貫通孔ビア222のアスペクト比t/dに対する依存性はないと判断できる。表1に示した結果から、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、内径d=3mm以下、特に内径d=1mm以下、更には内径d=0.8mm以下の微細な口径を有する貫通孔ビア222を備えた被処理基板22aのウェット洗浄及びその後の乾燥工程に有効であることが分かる。なお、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、内径d=3mm以上の口径の貫通孔ビア222を備えた被処理基板22aのウェット洗浄及びその後の乾燥工程にも適用可能ではあるが、内径d=3mm以上の場合、他の方法でも脱水や乾燥が可能であるため、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置としての特徴は、相対的に薄いものとなる。
【0047】
図10に示すように、被処理基板22aの表面を鉛直方向から角度θだけ傾けて、超音波Φの入射角θを変化して、入射角θの変化が脱水効果に与える影響を調べた結果を表2に示す。
【表2】
【0048】
表2において、○は脱水できた場合、△は脱水できた場合とできなかった場合が混在した状態、×は脱水できなかた場合を意味する。表2の結果から、許容できる被処理基板22aの傾斜角度θ(=超音波入射角θ)は、1.4°までとなる。よって、図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の2軸移動ステージ25のX軸移動ステージを用いて、複数枚(多数枚)の被処理基板22aを、順次、コンベア搬送する際、被処理基板22aが搬送方向のX軸方向から傾斜する角度θは、1.4°程度まで許容できると判断される。
【0049】
第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、水洗い洗浄工程後の脱水工程のみに限定的に用いられるのではなく、種々の液体によるウェット洗浄工程後の、乾燥工程に適用可能である。図3に示す第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成において、被処理基板22aの厚みt=1.6mm、貫通孔ビア222の内径d=0.5mmの場合において、貫通孔ビア222の内部に液体の種類として、水とイソプロピルアルコール(IPA)を充填した。そして、2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、超音波振動子21の振動面と被処理基板22aの左側の表面の間隔Lを変化させた場合の、乾燥の可否(容易さ)を確率として縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化して間隔Lを横軸に表現したのが、図11である。
【0050】
IPAは水と比べて表面張力が小さいため、乾燥に必要な超音波Φの音圧が水の場合よりも低く、最適霧化位置Poptから離れた位置でも霧化現象が発生可能となるので、分布の幅が広がり、広い範囲で霧化現象が観測できることが分かる。
【0051】
以上のように、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法によれば、図1や図3に示した簡単且つ安価な構造で、種々の貫通孔ビア222に溜まった液体を効率よく霧化できる。特に、被処理基板を、超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に配置しているので、被処理基板に過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な貫通孔ビア222に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
高密度配線されたなプリント基板の場合、特に、小さな内径を有する有底孔ビアの場合は、洗浄工程の際に有底孔ビアに溜まった水の除去が困難である。
【0053】
本発明の第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、図12に示すように、超音波Φを発生する超音波振動子21と、この超音波振動子21を駆動制御する振動子駆動制御装置35と、超音波Φを反射し、空気中に超音波Φの定在波を励振させる反射板23と、定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板22bを移動させる基板位置制御機構とを備える。第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置においても、「定在波の節の位置の近傍」とは、「定在波の節の位置から波長の5%以下の極く僅か離間した位置」を意味することは、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と同様である。
【0054】
ここで、被処理基板22bとしてのプリント基板は、図12に示すように、多層構造をなす絶縁基板221の上面(第1主面)側から裏面(第2主面)に向かって、有底孔ビア(ブラインドビア)225が開孔されている。図示を省略しているが、図2に示したのと同様に、絶縁基板221の上面(第1主面)、裏面(第2主面)、及びその内部の多層構造にも、導体配線が微細化されて形成され、有底孔ビア225は、多層構造の絶縁基板221の全層を貫通せず、上面(第1主面)側のみ設けられているが、貫通孔ビア222の場合と同様に、金属製の円筒(カナル)によって有底孔に導電性の側壁が形成され、導電性の側壁は有底孔の底面の導電性の底面に連続して電気的に接続されている。有底孔の底面は、被処理基板22bの内部の多層構造配線のいずれかと電気的に接続されている。そして、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、被処理基板22bを最適霧化位置に配置することにより、被処理基板22bの凹部である有底孔ビア225に溜まった液体(水)223に超音波Φを集中させる。
【0055】
有底孔ビア225の場合は、図4に模式的に示したように、超音波Φが集中しても、高まった音響放射圧による力で水滴223Sを有底孔ビア225から押し出すことができない。そこで、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置においては、有底孔ビア225の開口側を超音波振動子21の方向に向け、有底孔ビア225の内部に超音波Φを集中させて強力な超音波Φの場を発生させる。強力な超音波Φによって、有底孔ビア225に溜まった水223の表面に、音響放射圧Sの作用を強くすると、水223の表面にキャピラリー波が発生する。そこで、キャピラリー波の振幅が大きくなり表面張力に打ち勝つように超音波Φを照射すれば、図12に示すように、微小な微粒子としての水滴223mが飛散し、脱水処理が行なわれる。
【0056】
一方、有底孔ビア225の開口側を反射板23側に向けた場合、霧化は観測されなかった。その理由として、有底孔ビア225の場合は、十分な超音波Φの強度が被処理基板22b内を透過しないため、被処理基板22bがない場合の、超音波振動子21と反射板23の間の一様な空気中に励起される理想的な定在波に対し、被処理基板22bを挿入することにより、被処理基板22bと反射板23の間の定在波の振幅が非常に小さくなり、定在波の波形が大きく歪んでいると考えられる。実際には、超音波振動子21と被処理基板22bとの間には、被処理基板22bを反射板とする第1の定在波と、被処理基板22b中を減衰波として透過して反射板23で反射した第2の定在波の合成波が、互いに相関しながら形成されていると推定されるが、第2の定在波の振幅は非常に小さい。したがって、有底孔ビア225に溜まった水等の液体の霧化を行なう際は、有底孔ビア225の開口側を超音波振動子21側に向け、第1の定在波を利用する必要がある(なお、図12では左側の主面を上面(第1主面)、右側の主面を裏面(第2主面)と、便宜上定義しているが、単なる定義であり、この定義に限定されるものではない。要は、超音波振動子21の方向を向く主面に、有底孔ビア225の開口側が向いていればよい。)。
【0057】
第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の基板位置制御機構は、被処理基板22bを懸架して図13のX軸方向に搬送するX軸移動ステージと、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、被処理基板22bの位置を移動(微動)して、被処理基板22bを超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に調整するZ軸移動ステージとを有する2軸移動ステージ27と、この2軸移動ステージ27を駆動制御する基板位置制御装置(図3と同様であるので図示を省略する。)とを備える。基板位置制御装置には、プロセッサ(図示省略。)から2軸移動ステージ27の駆動制御用の信号が送られる。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と同様に、X軸移動ステージは、コンベアと同様な逐次搬送機構を備えるように構成し、Z軸移動ステージを調整して、被処理基板22bが最適な最適霧化位置を通過するようにして、複数枚(多数枚)の被処理基板22bを、順次、搬送する。2軸移動ステージ27のX軸のコンベア搬送方向に沿って、超音波振動子21と反射板23の組を平行に対峙して配列させることで、逐次搬送されてくる複数枚の被処理基板22bの、それぞれの全面を超音波でカバーすることができる。
【0058】
図3に示したのと同様に、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、更に、超音波Φを検出する超音波検出器(図示省略。)を反射板23の裏面に固定している。超音波検出器は、反射板23中に設けられた有底孔を介して超音波Φを検出する。超音波検出器の出力は、振動子駆動制御装置(図示省略。)に帰還され、超音波振動子21の出力が制御される。そして、更に、超音波検出器の出力を帰還して、反射板23が定在波を励振するように、反射板23の位置を制御する反射板位置制御機構(図示省略。)を備えている。反射板位置制御機構は、反射板23を搭載して、超音波振動子21から反射板23に向かう方向(Z軸方向)に、定在波が励振されるように反射板23の位置を移動(微動)して調整するZ軸移動ステージである1軸移動ステージ(図示省略。)と、この1軸移動ステージを駆動制御する反射板位置制御装置(図示省略。)とを備える、反射板位置制御装置には、プロセッサから1軸移動ステージの駆動制御用の信号が送られる。このため、超音波検出器には増幅器(図示省略。)が接続され、超音波検出器の出力は、増幅器を介して、プロセッサに入力し、プロセッサが必要な折り信号処理を行ない、1軸移動ステージの駆動制御用の信号を反射板位置制御装置に出力する。超音波検出器の出力を反射板位置制御装置に帰還し、最適な条件で超音波Φの定在波を励振することで、被処理基板22bの有底孔ビア225に溜まった水223の霧化に必要な強力な音場を効率よく作り出すことができる。
【0059】
更に、増幅器を介して、プロセッサに入力した超音波検出器の出力は、2軸移動ステージ27の駆動制御用の信号の生成にも利用することも可能で、超音波検出器の出力を、2軸移動ステージ27を駆動制御する基板位置制御装置に帰還することにより、被処理基板22bの位置をも最適化することができる。このように、超音波検出器の出力を、振動子駆動制御装置、反射板位置制御装置及び基板位置制御装置に帰還することにより、超音波Φを集中させ、有底孔ビア225における霧化現象が効率よく発現する条件を自動的に制御し、追尾することが可能になる。
【0060】
第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、被処理基板22bの有底孔ビア225に溜まった水223の霧化現象を瞬時に発現させるためには、霧化条件がそろっている必要がある。具体的には、超音波Φの定在波の振幅が大きくなっていること、有底孔ビア225が定在波の節の近傍の最適霧化位置に一致していることが必要であることは第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と同様である。定在波となっている超音波Φが強力になるためには、超音波振動子21と反射板23の距離が最適化されており、反射波と超音波振動子21からの放射波のそれぞれの位相が完全に一致する必要がある。この条件は音速で決定されるが、音速は温度・湿度によって変動し、更に、搬送されてくる被処理基板22bの材質・厚み・ビアの構造で見かけ上の音速は変化するので、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置によれば、超音波検出器の出力を、振動子駆動制御装置、反射板位置制御装置及び基板位置制御装置に帰還し、反射板23における音圧の位相と超音波振動子21の印加電圧の位相の関係より、超音波振動子21と反射板23の最適距離を逐次推定し自動調整し、且つ多品種の被処理基板22bの位置を逐次推定し自動調整して、常に、最適条件において霧化現象が効率よく発現するように、自動的に制御し、追尾することができる。最適条件において霧化させるように、帰還制御することにより、超音波Φを照射し始めてから霧化が終了するまでの時間を短くできるので、製造ラインのスループットを低下させることはない。
【0061】
図12及び図13に示す第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、反射板23として5mm厚のアルミニウム板を使用し、超音波振動子21の振動面と内径d=0.8mmの有底孔ビア225を設けた被処理基板22bの表面との間隔Lを、2軸移動ステージ27を用いて、X軸方向に0.5mm、Z軸方向に0.1mmずつ変化させながら実験した結果を図14に示す。図14では、比較のために内径d=0.8mmの貫通孔ビアを有する被処理基板のデータもプロットしている。超音波振動子21への印加電圧を150Vp-pとし、被処理基板22bは厚さt=1.6mmのガラスエポキシ基板である。超音波振動子21と反射板23の間隔は32.0mmで固定している。図14に示すように、有底孔ビア225は貫通孔ビアと比較して霧化が起こりにくい傾向がみられる。
【0062】
第1の実施の形態で説明した貫通孔ビア222を有する被処理基板22aにおいては、超音波Φがある程度、被処理基板22aを透過し、定在波が形成されていることが確認できた。但し、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置においても、被処理基板22aを設置せずに測定した音圧と比較して、透過した超音波Φはその約10%であるため、被処理基板22aを透過後の音圧の影響は、被処理基板22aを透過前の音圧の影響よりも小さいことがいえる。一方、有底孔ビア225を有する被処理基板22bでは、超音波Φは被処理基板22bを十分には透過せず、その音圧は貫通孔ビア222を有する被処理基板22aでの音圧の約15〜30%である。つまり、被処理基板22bを設置せずに測定した音圧の約1.5〜3%しか得ていないことが分かる。第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置において、被処理基板22aを構成する材質が紙フェノール基板とガラスエポキシ基板では、僅かに紙フェノール基板の方が超音波Φを透過しやすい傾向がみられることから、被処理基板22aを透過する超音波Φには、貫通孔ビア222の内部を伝搬する成分と、被処理基板22aの絶縁基板221を透過する成分の両方があることを述べたが、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の被処理基板22bの場合は、被処理基板22bを透過する超音波Φには、有底孔ビア225を経由して有底孔ビア225の底に位置する絶縁基板221の薄い部分を伝搬する成分と、被処理基板22bの絶縁基板221の全体の厚み部分を透過する成分の両方が存在すると推定できるが、有底孔ビア225を経由する成分は非常に小さい。したがって、有底孔ビア225を有する被処理基板22bでは、被処理基板22bと反射板23の間の定在波の振幅が非常に小さくなっており、超音波振動子21と反射板23の間に、極度に非対称な定在波の励起を仮想できる。このため、被処理基板22bは、超音波振動子21と反射板23の間の音圧の影響をほとんど受けないため、有底孔ビア225の開口側を反射板23側に向けても、有底孔ビア225に溜まった水223の霧化は困難である。
【0063】
又、図13に示す第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置の構成を用い、被処理基板22bの厚みt=1.6mm、有底孔ビア225の内径d=0.5mmの場合において、有底孔ビア225の内部に、水を充填し、2軸移動ステージ25のZ軸移動ステージを用いて、超音波振動子21の振動面と被処理基板22bの左側の表面の間隔Lを変化させた場合の、脱水の可否(容易さ)を確率として縦軸に、波長λ=12.1mmで規格化して間隔Lを横軸に表現したのが、図15である。図15からも、有底孔ビア225の場合は、図9に示した貫通孔ビアの場合に比べて霧化現象がみられる範囲が狭い。
【0064】
図14(及び図15)に示すように、貫通孔ビア222と有底孔ビア225では、被処理基板22a,22bを透過する超音波Φの強度や、定在波の状況(波形)が異なり、超音波霧化の発現領域が異なるため、同一の条件で、同時に脱水することは不可能である。そのため、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置と第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置とは、それぞれの発現領域に対応できるように、条件設定を変更する必要があり、有底孔ビア225に溜まった水の霧化には、第1の実施の形態に係る超音波乾燥装置よりも高い音圧を被処理基板22bに与える必要があり、振動振幅の高い超音波振動子21を使用することが効率のよい霧化に好ましい。
【0065】
有底孔の深さの影響を調べるために、t=1.6mm厚の被処理基板22bに深さの異なる内径d=0.3mmφの有底孔ビア225を開け、超音波振動子21への印加電圧を100Vp-p,125Vp-p,150Vp-pと変化させて、超音波Φの強さの霧化に与える効果について調べた結果を図16に示す。有底孔ビア225の深さを有底孔ビア225の内径dで規格化し、アスペクト比とし、図16の横軸とした。超音波振動子21への印加電圧を100Vp-p→125Vp-p→150Vp-pと変化させて、超音波Φの振幅を大きくすればするほど、アスペクト比の高い(より深い)有底孔ビア225の液体を霧化して乾燥できることが分かる。このことは、被処理基板22bを透過する超音波Φとしては、有底孔ビア225を経由して有底孔ビア225の底に位置する絶縁基板221の薄い部分を伝搬する超音波Φの成分が非常に小さいことを確認させるものである。
【0066】
図16に示した結果から、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置は、内径d=0.3mmφの有底孔ビア225の場合、超音波Φの振幅を大きくすれば、アスペクト比が2.5以上であっても、有効に霧化して乾燥することが可能であり、内径d=0.3mmφ以下の微細な口径を有する有底孔ビア225を備えた被処理基板22bのウェット洗浄及びその後の乾燥工程に有効であることが分かる。
【0067】
以上のように、第2の実施の形態に係る超音波乾燥装置及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法によれば、図12や図13に示した簡単且つ安価な構造で、種々の有底孔ビア225に溜まった液体を効率よく霧化できる。特に、被処理基板を、超音波Φの定在波の節の位置から僅かにずれた最適霧化位置に配置しているので、被処理基板に過大な衝撃を与えることなく、非接触でかつ瞬間的に、微細な有底孔ビア225に溜まった液体を飛散させ、液体と同時に不純物を除去できる超音波乾燥装置、及びこの超音波乾燥装置を用いた基板処理方法を提供することができる。
【0068】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1及び第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0069】
例えば、第1及び第2の実施の形態での説明は、図1に例示したように、X−Z平面を水平面とし、被処理基板22aの主面方向が垂直、即ちY−方向に沿った場合を前提として議論しているが、X軸、Y軸、Z軸の定義は図1に例示した方位に限定されるものでなく、互いに直交する座標系であれば任意に座標軸を選択可能である。例えば、定在波の方向が鉛直方向となり、被処理基板22aの主面方向が水平方向になるような、他の直交座標系を選定しても構わない。
【0070】
なお、定在波の方向を鉛直方向とし、被処理基板22aの主面方向を水平方向とする直交座標系を選定した場合、図1,図3,図12,図13等に例示した構成において、超音波振動子21をステージに搭載して、超音波振動子21をZ軸方向に移動して、超音波振動子21と被処理基板22a,22bとの相対的距離、超音波振動子21と反射板23との相対的距離を調整する態様をも、含んで構わない。よって、より一般的には、本発明の「基板位置制御機構」は、超音波振動子21と被処理基板22a,22bとの相対的距離及び被処理基板22a,22bと反射板23との相対的距離を制御可能な機構であり、本発明の「反射板位置制御機構」は、超音波振動子21と反射板23との相対的距離、及び被処理基板22a,22bと反射板23との相対的距離を制御可能な機構であると理解すべきである。
【0071】
又、第1の実施の形態で説明した2軸移動ステージ25、第2の実施の形態で説明した2軸移動ステージ27の動作方法(運用)には、種々の変形等の態様が可能である。例えば、被処理基板22a,22bの品種が予め決まっているルーチンの洗浄工程及び乾燥工程であれば、予め、貫通孔ビア222の内径・絶縁基板221の材質・厚み・構造等の異なる種々の被処理基板22a、有底孔ビア225の内径・絶縁基板221の材質・厚み・構造等の異なる種々の被処理基板22aのそれぞれについて、最適霧化位置Poptのデータを逐次測定しておき、最適霧化位置データベースにレシピとして蓄積しておくような運用も可能であり、こうすることにより、プロセッサ34が最適霧化位置データベースの情報を参照しながら、2軸移動ステージ25,27の動作をプログラム制御できる。この場合、乾燥工程に先立ち、貫通孔ビア222の内径、有底孔ビア225の内径、絶縁基板221の材質・厚み・構造等の種々の被処理基板22a,22bの製品情報を、被処理基板情報データベースに格納しておき、プロセッサ34が最適霧化位置データベースと被処理基板情報データベースとに格納された情報をそれぞれ読み出しながら、2軸移動ステージ25,27をプログラム制御するような運用にしても良い。
【0072】
更に、2軸移動ステージ25,27の移動の粗調整を、最適霧化位置データベースと被処理基板情報データベースとに格納された情報を用いてプログラム制御で行い、最終的な微調整は、超音波検出器24の出力を、振動子駆動制御装置35、反射板位置制御装置33及び基板位置制御装置32に帰還し、反射板23における音圧の位相と超音波振動子21の印加電圧の位相の関係より、超音波振動子21と反射板23の最適距離を微調整し、且つ被処理基板22a,22bの位置を微調整するような運用とし、常に、最適条件において霧化現象が効率よく発現するように、自動的に制御し、追尾するようにしてもよい。このように、プログラム制御を併用しながら、帰還制御することにより、製造ラインのスループットを向上させることも可能である。
【0073】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な、特許請求の範囲の記載に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0074】
21…超音波振動子
22a,22b…被処理基板
23…反射板
24…超音波検出器
25,27…2軸移動ステージ
26…1軸移動ステージ
31…増幅器
32…基板位置制御装置
33…反射板位置制御装置
34…プロセッサ
35…振動子駆動制御装置
221…絶縁基板
222…貫通孔ビア
223…水
223S…水滴
223m…水滴
225…有底孔ビア
231…貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発生する超音波振動子と、
該超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置と、
前記超音波を反射し、空気中に前記超音波の定在波を励振させる反射板と、
前記定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板を移動させる基板位置制御機構
とを備え、前記最適霧化位置において前記被処理基板の凹部に溜まった液体を霧化して除去することを特徴とする超音波乾燥装置。
【請求項2】
前記反射板に設けられ、前記超音波を検出する超音波検出器を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波乾燥装置。
【請求項3】
前記超音波検出器の出力が、前記振動子駆動制御装置に帰還され、前記超音波振動子の出力が制御されることを特徴とする請求項2に記載の超音波乾燥装置。
【請求項4】
前記超音波検出器の出力により、前記反射板が前記定在波を励振するように、前記反射板の位置を制御する反射板位置制御機構を更に備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波乾燥装置。
【請求項5】
前記超音波検出器の出力を、更に、前記反射板位置制御機構に帰還して、前記最適霧化位置に前記被処理基板を移動させることを特徴とする請求項4に記載の超音波乾燥装置。
【請求項6】
前記超音波検出器の出力を、前記反射板位置制御機構及び前記反射板位置制御機構にそれぞれ帰還して、前記被処理基板と前記反射板を同時に移動させることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波乾燥装置。
【請求項7】
凹部を有する被処理基板を、液体でウェット洗浄する洗浄工程と、
該洗浄工程の後、超音波を発生する超音波振動子、該超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置、前記超音波を反射し、空気中に前記超音波の定在波を励振させる反射板を有する超音波乾燥装置を用い、前記超音波振動子と前記反射板の間の前記定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に前記被処理基板を移動させる工程と、
前記最適霧化位置において、前記被処理基板の凹部に溜まった液体を前記超音波によって霧化して除去する工程
とを含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項8】
前記霧化して除去する工程において、前記反射板に設けられた超音波検出器によって、前記超音波を検出し、前記超音波検出器の出力を前記振動子駆動制御装置に帰還することにより、前記超音波振動子の出力を制御することを特徴とする請求項7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記霧化して除去する工程において、前記超音波検出器の出力を帰還制御して、前記反射板が前記定在波を励振するように、前記反射板の位置を調整することを特徴とする請求項8に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記霧化して除去する工程において、更に、前記超音波検出器の出力を帰還制御して、前記最適霧化位置に前記被処理基板を移動させることを特徴とする請求項9に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記霧化して除去する工程において、前記超音波検出器の出力を帰還制御して、前記被処理基板と前記反射板を同時に移動させることを特徴とする請求項8に記載の基板処理方法。
【請求項1】
超音波を発生する超音波振動子と、
該超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置と、
前記超音波を反射し、空気中に前記超音波の定在波を励振させる反射板と、
前記定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に被処理基板を移動させる基板位置制御機構
とを備え、前記最適霧化位置において前記被処理基板の凹部に溜まった液体を霧化して除去することを特徴とする超音波乾燥装置。
【請求項2】
前記反射板に設けられ、前記超音波を検出する超音波検出器を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波乾燥装置。
【請求項3】
前記超音波検出器の出力が、前記振動子駆動制御装置に帰還され、前記超音波振動子の出力が制御されることを特徴とする請求項2に記載の超音波乾燥装置。
【請求項4】
前記超音波検出器の出力により、前記反射板が前記定在波を励振するように、前記反射板の位置を制御する反射板位置制御機構を更に備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波乾燥装置。
【請求項5】
前記超音波検出器の出力を、更に、前記反射板位置制御機構に帰還して、前記最適霧化位置に前記被処理基板を移動させることを特徴とする請求項4に記載の超音波乾燥装置。
【請求項6】
前記超音波検出器の出力を、前記反射板位置制御機構及び前記反射板位置制御機構にそれぞれ帰還して、前記被処理基板と前記反射板を同時に移動させることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波乾燥装置。
【請求項7】
凹部を有する被処理基板を、液体でウェット洗浄する洗浄工程と、
該洗浄工程の後、超音波を発生する超音波振動子、該超音波振動子を駆動制御する振動子駆動制御装置、前記超音波を反射し、空気中に前記超音波の定在波を励振させる反射板を有する超音波乾燥装置を用い、前記超音波振動子と前記反射板の間の前記定在波の節の位置の近傍の最適霧化位置に前記被処理基板を移動させる工程と、
前記最適霧化位置において、前記被処理基板の凹部に溜まった液体を前記超音波によって霧化して除去する工程
とを含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項8】
前記霧化して除去する工程において、前記反射板に設けられた超音波検出器によって、前記超音波を検出し、前記超音波検出器の出力を前記振動子駆動制御装置に帰還することにより、前記超音波振動子の出力を制御することを特徴とする請求項7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記霧化して除去する工程において、前記超音波検出器の出力を帰還制御して、前記反射板が前記定在波を励振するように、前記反射板の位置を調整することを特徴とする請求項8に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記霧化して除去する工程において、更に、前記超音波検出器の出力を帰還制御して、前記最適霧化位置に前記被処理基板を移動させることを特徴とする請求項9に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記霧化して除去する工程において、前記超音波検出器の出力を帰還制御して、前記被処理基板と前記反射板を同時に移動させることを特徴とする請求項8に記載の基板処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−57842(P2012−57842A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199923(P2010−199923)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(391052622)株式会社都ローラー工業 (19)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(391052622)株式会社都ローラー工業 (19)
【Fターム(参考)】
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