説明

超音波振動子ユニット、及び超音波プローブ

【課題】振動膜に対して衝突に伴う反発力を作用させることにより送受信感度を上昇させることが可能であると共に、振動膜の振動及び衝突に伴う故障が発生しにくい構造の超音波振動子ユニット、及びこの超音波振動子ユニットを備えた超音波プローブの提供を目的とした。
【解決手段】超音波振動子10は、凹部22を有する基板20と、基板20に対して装着された振動膜30と、基板20及び振動膜30の間に形成されたキャビティ40とを有する。キャビティ40の内部には、凹部20の底面22a側から振動膜30側に隆起した隆起部26が形成されている。超音波振動子10は、振動膜30が振動する際に隆起部26と振動膜30とが衝突する。これにより発生する反発力により、振動膜30の振動が増幅される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子ユニット及び、超音波振動子を用いた超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すような構造のCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)型超音波振動子ユニットが提供されている。従来のCMUT型超音波振動子ユニットは、超音波を送受する振動膜200と、基板204の一面に設けられ、基板204と対向するように振動膜200を支持する振動膜支持部201とを備えている。さらに、振動膜200に形成された膜側電極202と、基板204に形成された基板側電極203とが対向配置されている。
【0003】
このような構成のCMUT型超音波振動子ユニットは、受信した超音波(音圧)によって振動膜200及び膜側電極202が振動し、この際に起きる膜側電極202及び基板側電極203の間の静電容量変化に基づき、受信した超音波に係る電気信号を取得することができる。また、このCMUT型超音波振動子ユニットは、膜側電極202及び基板側電極203の間にDC及びAC電圧を印加することによって振動膜200を振動させることにより、超音波を送信することができる。
【0004】
また近年、送受信感度を更に向上させるべく、下記特許文献1〜4に開示されているような構造のCMUT型超音波振動子ユニットが提供されている。特許文献1に開示されている超音波振動子ユニットでは、基板と振動膜との間に形成されるキャビティの略中央部に支柱を設けると共に、支柱に対して被さるように振動膜とは異なる膜(以下、「下層膜」とも称す)を装着した構造とされている。このような構造とした場合、振動膜が振動すると下層膜に対して振動膜が衝突し、衝突による反発力が振動膜に作用する。そのため、下記特許文献1の超音波振動子ユニットにおいては、前述した反発力の分だけ振動膜の振動が増幅され、送受信感度が向上する。
【0005】
また、同様の知見に基づき、下記特許文献2の超音波振動子ユニットでは、振動膜に対して保持部材を装着することにより振動膜を基板側に撓ませた状態を維持可能とした構造とされている。このような構造とすることにより、振動膜が振動した際に、振動膜が基板に対して衝突し、衝突による反発力が振動膜に作用する。そのため、下記特許文献2の超音波振動子ユニットにおいても、上述した特許文献1の構造を採用した場合と同様に、前述した反発力の分だけ振動膜の振動を増幅し、送受信感度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/077961号公報
【特許文献2】WO2010/097729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットは、使用に伴って振動膜、下層膜等が破損してしまう可能性がある。具体的には、特許文献1に開示されている超音波振動子ユニットにおいては、キャビティの略中央部に設けられた支柱によって下層膜が支持されており、支柱が存在しない部分においては空洞(真空)状態とされている。そのため、振動膜に対して下層膜が衝突すると、衝突に伴う応力が下層膜の局所に集中する傾向にある。また、下層膜は、数μm程度の薄膜によって構成されている。従って、特許文献1の構成においては、振動膜の衝突に伴う衝撃によって下層膜等が破損し、故障してしまう可能性がある。更に、特許文献1に開示されている超音波振動子ユニットは、構造が複雑であり、製造が困難である。
【0008】
また、下記特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットにおいては、振動膜に装着されている保持部材によって振動膜が強制的に湾曲させられており、振動膜に対して常時応力が作用している。また、振動膜は、数μm程度の薄膜によって構成されており、振動に伴い基板に衝突することにより更に反発力を受けることになる。そのため、下記特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットにおいては、振動膜の破損に伴う故障が発生しやすい傾向にある。また、特許文献2に開示されている超音波振動子ユニットは、保持部材を設ける等したものであるため、その分だけ構造が複雑であり、製造が困難である。
【0009】
そこで、本発明は、振動膜に対して衝突に伴う反発力を作用させることにより送受信感度を上昇させることが可能であると共に、振動膜の振動及び衝突に伴う故障が発生しにくく容易に製造可能な構造の超音波振動子ユニット、及びこの超音波振動子ユニットを備えた超音波プローブの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の超音波振動子ユニットは、凹部を有する基板と、前記基板に対して装着された周辺部、及び前記周辺部間に形成され基板に対して近接・離反する方向に振動可能なた中間部を有し、可撓性を備えた振動膜と、前記基板の前記凹部及び前記振動膜によって形成されたキャビティと、前記振動膜側に設けられた第一電極と、前記第一電極に対向する位置に設けられた第二電極とを有する。また、本発明の超音波振動子ユニットにおいては、前記基板が、前記キャビティ内に隆起部を有し、前記隆起部が、前記キャビティの端部側から中央側に向かうに連れて前記振動膜に近接する方向に隆起しており、前記振動膜の前記中間部が前記隆起部に倣うように変形可能とされている。
【0011】
本発明の超音波振動子ユニットにおいては、振動膜の中間部が隆起部に倣うように変形(圧潰/collapsed)した状態になることにより、振動膜と隆起部とが衝突し、衝突による反発力が振動膜に付与される。よって、本発明の超音波振動子ユニットにおいては、超音波を受信する際に振動膜の振動が前述した反発力によって増幅され、第一電極及び第二電極の間に流れる電流値が増幅される。また、本発明の超音波振動子ユニットにおいては、超音波を送信する際に、第一電極及び第二電極の間に通電することにより発生する振動膜の振動が、前述した反発力によって増幅される。従って、本発明によれば、送受信感度の高い超音波振動子ユニットを提供することができる。
【0012】
また、本発明の超音波振動子ユニットにおいては、基板がキャビティ内において隆起することによって形成された隆起部に対して振動膜が衝突する構成とされており、振動膜の振動による衝突により隆起部等が破損することがない。従って、本発明の超音波振動子ユニットは、振動膜の振動及び衝突に伴う故障が発生しにくい。
【0013】
また、本発明の超音波振動子ユニットは、凹部内に隆起部を形成する等して上述した振動膜の変形(圧潰/collapsed)に伴う増幅効果を得ようとするものであり、従来技術のものに比べて構造がシンプルである。従って、本発明の超音波振動子ユニットは、容易に製造することができる。
【0014】
本発明の超音波振動子ユニットは、前記振動膜が、前記中間部において前記隆起部に対して接触したものであることが望ましい。
【0015】
かかる構成によれば、振動膜が振動することにより確実に隆起部に衝突させ、振動膜の振動を増幅させることができる。従って、本発明によれば、より一層送受信感度の高い超音波振動子ユニットを提供することができる。
【0016】
また、本発明の超音波振動子ユニットは、前記振動膜が、前記中間部において前記隆起部に対して非接着状態で接触したものであることがより一層望ましい。
【0017】
かかる構成とした場合は、振動膜の自由度が高く、振動膜と隆起部とが衝突することによる反発力が低下することなく振動膜に伝播する。これにより、より一層確実に振動膜の振動を増幅させ、送受信感度を向上させることが可能となる。
【0018】
本発明の超音波振動子ユニットは、前記隆起部において前記キャビティの底部側から頂部に至る部分が、前記隆起部の外側に向けて湾曲したものであることが望ましい。
【0019】
かかる構成とした場合は、隆起部においてキャビティの底部側から頂部に至る部分が隆起部の内側に向けて湾曲した形状である場合に比べて振動膜と隆起部との接触面積が大きくなり、振動膜が振動に伴って隆起部に対して衝突しやすくなる。これにより、振動膜の振動を確実に増幅させ、送受信感度を向上させることが可能となる。
【0020】
本発明の超音波振動子ユニットは、前記隆起部が、前記凹部を形成する外縁部よりも突出したものであってもよい。
【0021】
かかる構成とした場合は、振動膜が隆起部に当接した状態になり、振動膜の振動に伴う反発力が確実に振動膜に伝播する。従って、本発明の超音波振動子ユニットでは、振動膜が隆起部に衝突することによる振動膜の振動増幅効果、及び送受信感度の向上効果がより一層確実に得られる。
【0022】
本発明の超音波振動子ユニットは、前記凹部を形成する外縁部に、前記凹部の底面側に向けて下り勾配を有し、前記凹部の内側に向けて湾曲した外縁面が設けられているものであってもよい。
【0023】
かかる構成とすることにより、振動膜が振動する際に隆起部に加えて外縁面においても衝突することになる。これにより、振動膜が、振動時に受ける反発力がさらに増加し、振動膜の振動増幅効果、及び送受信感度がより一層向上する。
【0024】
本発明の超音波振動子ユニットは、前記振動膜が、前記中間部において前記隆起部に対して固定されていることが好ましい。
【0025】
かかる構成とした場合は、振動膜のばね定数が増加することになり、送受信感度が向上する。また、振動膜が振動する際の変位量が少なくなるため、第一及び第二電極の距離を狭めることができ、送受信感度が高くなる。更に、振動膜が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域を近接させ、両周波数帯域の差を抑制することが可能となり、送受信の周波数帯域を拡張することができる。
【0026】
本発明の超音波プローブは、上述した本発明の超音波振動子ユニットを備えており、前記超音波振動子ユニットにより超音波を送受信可能であることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の超音波プローブは、上述した超音波振動子ユニットを備えたものであるため、送受信感度の面において優れている。従って、本発明の超音波プローブによれば、表面状態だけでなく、従来技術のものよりも深度が深い部位の状態まで検知することが可能となる。また、本発明の超音波プローブは、超音波振動子ユニットの構造がシンプルであるため、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、振動膜に対して衝突に伴う反発力を作用させることにより送受信感度を上昇させることが可能であると共に、振動膜の振動及び衝突に伴う故障が発生しにくい構造の超音波振動子ユニット、及びこの超音波振動子ユニットを備えた超音波プローブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波振動子ユニットを示す平面図である。
【図2】(a)は図1に示す超音波振動子ユニットを構成する超音波振動子の構造を示す断面図、(b)は(a)の平面図である。
【図3】図2に示す超音波振動子の振動膜が圧潰された状態を示す断面図である。
【図4】(a),(b)はそれぞれ変形実施形態に係る超音波振動子の構造を示す断面図である。
【図5】(a)は本発明の変形実施形態に係る超音波振動子の構造を示す断面図、(b)は(a)の平面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る超音波プローブを示す斜視図である。
【図7】従来技術の超音波振動子ユニットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態に係る超音波振動子ユニットUについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。超音波振動子ユニットUは、いわゆる容量型マイクロマシンド超音波トランスデューサ(CMUT)であり、図1に示すように超音波振動子10を多数、同一平面上にパターン状に形成したものである。超音波振動子ユニットUは、各超音波振動子10において電気的エネルギー、及び振動による機械的エネルギーを相互変換させることが可能である。すなわち、各超音波振動子10に対して電気的エネルギーを付与することにより、振動による機械的エネルギーを発生させることができる。また、各超音波振動子10に対して振動による機械的エネルギーを付与することにより、電気的エネルギーを発生させることができる。
【0031】
超音波振動子10は、いわゆる超小型電気機械的デバイス(MEMS)であり、基板20、振動膜30、及びキャビティ40を備えている。また、超音波振動子10は、キャビティ40内に隆起部26を有する。超音波振動子10は、振動膜30及び隆起部26のそれぞれに、基板側電極28(第二電極)及び膜側電極36(第一電極)を有し、両電極間を繋ぐ回路12に、直流電源14、交流電源16、受信装置18を接続した構成とされている。
【0032】
超音波振動子10の各部の構成についてさらに詳細に説明すると、基板20は、1μm〜10000μm程度の厚みを有しており、シリコンウエェハー、ガラス、石英等の電気絶縁性を有する素材によって形成されている。本実施形態では、10000Ω・cm以上の高抵抗率を有するシリコンウェハーが基板20に用いられている。図2等に示すように、基板20は、凹部22、外縁部24、及び隆起部26を有する。凹部22は、基板20の一面側にパターニングを行うことにより形成されたものである。凹部22は、振動膜30との間にキャビティ40を形成するために設けられたものであり、略円形の開口形状を有する。凹部22の底面22aは、外縁部24を基準として0.1μm〜10μm程度の深さを有する。
【0033】
隆起部26は、凹部22の外周側(外縁部24側)から中央部に向かうに連れて振動膜30側に向けて連続的に隆起するように形成されており、外観形状が山型となるように形成されている。隆起部26は、様々な方法で形成可能であるが、本実施形態ではグレースケールマスクを用いて形成される。隆起部26は、頂部26aが凹部22の略中央部に存在しており、凹部22の外周側の基端部26bから頂部26aに向けてなだらに湾曲した中腹部26cを有する。また、中腹部26cは、隆起部26の外側に向けて湾曲している。また、隆起部26は、基板20の一部をなすものであり、中実とされている。そのため、隆起部26は、頂部26a及び中腹部26cにおいて外力が作用したときに変形等しない。
【0034】
隆起部26は、頂部26aが外縁部24の表面と同一の高さとなるように形成されており、後に詳述するように頂部26aにおいて振動膜30と接触している。また、隆起部26は、中腹部26cに基板側電極28(第二電極)を有する。基板側電極28は、リング状とされている。基板側電極28は、Ni,Cr,Al,Pt等の導電性に優れたものによって構成されている。また、図2(a)に示すように、基板側電極28は、直流電源14及び交流電源16に接続されている。
【0035】
基板側電極28は、従来公知の様々な手法によって形成することができる。具体的には、基板側電極28は、従来公知のイオン注入法により形成することが可能である。また、基板20に対してパターニングにより凹部22及び隆起部26を形成した後、前述したPt等の導電性を有する素材を蒸着し、Dry etchingあるいはWet etchingによるパターニングを行い、基板側電極28を形成することが可能である。本実施形態においては、基板側電極28は、前者のイオン注入法による手法により形成される。
【0036】
振動膜30は、SOI wafer接合方式を用いて形成された膜状体である。振動膜30は、0.1μm〜100μm程度の厚みを有し、可撓性を有する薄膜によって構成されている。振動膜30は、Si,SiN等の他、電気絶縁性を有する樹脂膜等の素材によって形成することができる。振動膜30は、周辺部32及び中間部34を有する。振動膜30は、周辺部32が基板20の外縁部24に対して固定され、中間部34が基板20に対して近接・離反する方向に振動可能とされている。振動膜30を樹脂膜によって構成する場合は、様々な成膜方法で形成することが可能であり、例えば振動膜30をなす樹脂薄膜と基板20の外縁部24とを接合させることにより形成することができる。
【0037】
振動膜30は、中間部34において上述した隆起部26の頂部26aに対して非接着状態で接触している。また、振動膜30は振動することにより、図3に示すように中間部34が隆起部26に倣うように変形(圧潰/collapsed)された状態となる。また、振動膜30には、膜側電極36が設けられている。図2(b)に示すように、膜側電極36は、基板側電極28と同様にリング状の外観形状を有している。膜側電極36は、隆起部26に形成されている基板側電極28に対向するように配置されている。膜側電極36は、基板側電極28と同様に直流電源14及び交流電源16に対して接続されている。
【0038】
振動膜30及び膜側電極36は、従来公知の蒸着等の手法により上述した基板20上に形成される。具体的には、SOI(Sillicon On Insulator)ウェハを基板20上に接合することにより固定させ、その後SOIウェハの表面をTMAH、KOH、HF等を用いてウェットエッチングを施すことによりシリコン層だけを残す。これにより、振動膜30が形成される。膜側電極36は、振動膜30の上面側に、膜側電極36となる蒸着物を蒸着することにより形成される。
【0039】
また、振動膜30及び膜側電極36を形成する場合は、上述した方法以外に他の方法を採用することができる。具体的には、基板20に対して凹部22及び隆起部26、基板側電極28を形成した後、エッチング層を全面蒸着してCMP(Chemical Mechanical Polishing)を施すことにより表面を平坦化し、その上に振動膜30を蒸着する。その後、振動膜30に穴を開け、エッチング溶液でエッチング層に対するwet etchingを行い、キャビティ40を形成する。振動膜30に設けられた穴は埋め込み層を蒸着することにより埋められる。その後の作成プロセスは、上述したものと同一である。
【0040】
キャビティ40は、基板20に対して振動膜30を蒸着等により積層することにより、凹部22に相当する位置において基板20と振動膜30との間に形成される。キャビティ40は、内部が略真空状態とされている。
【0041】
続いて、超音波振動子ユニットU及び超音波振動子10の動作について説明する。超音波振動子ユニットUは、超音波振動子10に対して電圧を印加することにより超音波を発信する動作(発信動作)、及び超音波を受信し電気信号を出力する動作(受信動作)の双方を実施させることができる。
【0042】
超音波振動子ユニットUに発信動作を行わせる場合は、先ず直流電源14により超音波振動子10の基板側電極28及び膜側電極36の間に直流電圧を印加した状態とする。その後、交流電源16により基板側電極28及び膜側電極36の間に交流電圧を印加すると、両電極間に静電気力が発生し、振動膜30が基板20に対して近接及び離反するように振動する。この際、振動膜30の中間部34がキャビティ40内に形成されている隆起部26に対して衝突する。この衝突により発生する反発力の影響を受け、振動膜30は大きく振動する。このようにして振動膜30が振動すると、超音波振動子10から超音波が発信される。
【0043】
また、超音波振動子ユニットUが受信動作を行う場合は、直流電源14により超音波振動子10の基板側電極28及び膜側電極36の間に直流電圧を印加した状態とする。この状態において超音波が振動膜30に対して衝突すると、振動膜30が基板20に対して近接及び離反する方向に振動する。またこの際、送信動作のときと同様に振動膜30が隆起部26に対して衝突し、反発力の影響により振動膜30の振動が増幅される。振動膜30が振動すると、超音波振動子10において容量変化が生じ、基板側電極28及び膜側電極36の間に交流電流による受信信号が発生する。
【0044】
上述したように、本実施形態の超音波振動子ユニットUにおいては、超音波の送受信時に振動膜30の中間部34が隆起部26に倣うように変形し、振動膜30と隆起部26とが衝突するため、衝突による反発力が振動膜30に付与される。また、振動膜30は、中間部34において隆起部26に対して接触したものであるため、振動膜30が振動することにより確実に隆起部26に衝突させ、振動膜30の振動を増幅させることができる。更に、振動膜30は、隆起部26に対して非接着状態とされているため、自由度が高い。よって、振動膜30と隆起部26との衝突による反発力が低下することなく振動膜30に伝播する。従って、超音波振動子ユニットUは、発信動作時に発生する超音波、及び受信動作時に発生する受信信号をそれぞれ前述した反発力によって増幅した状態で受信装置18において受信することが可能であり、送受信感度が高い。
【0045】
上述した超音波振動子10は、隆起部26の頂部26aが外縁部24と同一の高さとなるように隆起しており、振動膜30が隆起部26に対して接触した構造を有するが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、隆起部26の頂部26aが外縁部24よりも低い位置に存在し、頂部26aと振動膜30との間に隙間が形成されていてもよい。かかる構成とする場合は、振動膜30が振動することにより隆起部26と振動膜30とが衝突する程度に頂部26aと振動膜30との隙間の大きさを調整することにより、本実施形態の超音波振動子10と同様に超音波及び受信信号の増幅効果が得られる。
【0046】
また、超音波振動ユニットUは、基板20に対して凹部22を形成する際に隆起部26を設けておき、その後基板20上に振動膜30を積層することにより超音波振動子10を形成することができる。従って、超音波振動ユニットUは、構造がシンプルであり製造が容易である。
【0047】
また、本実施形態では、隆起部26の頂部26aが、凹部22を形成する外縁部24と略同一の高さであり、振動膜30が常時(非振動時)において平坦な状態となったものを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、図4(a)に示すように、頂部26aが外縁部24よりも外側(振動膜30側:図示状態において上方側)に突出したものであってもよい。かかる構成とした場合は、常時においても振動膜30が隆起部26に当接した状態になり、接触面積が大きくなる。これにより、振動膜30が振動すると確実に衝突による反発力が発生し、振動膜30に伝播する。従って、隆起部26を外縁部24よりも外側に突出させることにより、より一層振動膜30の振動増幅効果、及び送受信感度の向上効果を向上させることが可能となる。なお、図4(a)に示すような構造とする場合は、頂部26aの突出量は適宜調整することが可能であるが、頂部26aが外縁部24よりも0.1μm〜0.5μm程度突出していることが好ましい。
【0048】
また、本実施形態の超音波振動子10は、振動膜30が隆起部26に対して非接着状態とされているが、本発明はこれに限定される訳ではなく、例えば隆起部26の頂部26a等において振動膜30と隆起部26とが接着されていてもよい。
【0049】
また、上述した隆起部26は、キャビティ40内において基板20を隆起した形状とすることにより形成された中実の構造とされており、振動膜30の衝突によって破損及び変形等することがない。従って、超音波振動子ユニットUは、振動膜30の振動及び衝突に伴う故障が発生しにくく、振動膜30の振動を確実に増幅することができる。また、隆起部26は、基板20に対して凹部22を設ける際に容易に形成することができる。従って、超音波振動子ユニットUは、特別な手法等を用いることなく、容易に製造することができる。
【0050】
本実施形態の超音波振動子ユニットUは、隆起部26において基端部26b側から頂部26aに至る領域(中腹部26c)が、隆起部26の外側に向けて湾曲したものであり、振動膜30が振動に伴って隆起部26に対して衝突しやすい。従って、上述した構成によれば、振動膜30の振動を確実に増幅させ、送受信感度を向上させることが可能となる。なお、本実施形態では、中腹部26cを隆起部26の外側に向けて湾曲させた構造を例示したが、本発明はこれに限定される訳ではなく、図4(b)に示すように中腹部26cを隆起部26の内側に向けて湾曲させた構造とすることも可能である。
【0051】
上述した隆起部26は、基板20を形成する際に形成されたものであり、基板20と一体化されたものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、基板20とは別に隆起部26に相当するものを形成し、これをキャビティ40(凹部20)内に配置したものであってもよい。
【0052】
また、超音波振動子Uが備える超音波振動子10は、図5に示すような構造とすることも可能である。具体的には、超音波振動子10は、凹部22を形成する外縁部24に、凹部22の底面22a側に向けて下り勾配を有し、凹部22(キャビティ40)の内側に向けて湾曲した外縁面24aが設けられたものとすることが可能である。このような構成とすることにより、振動膜30が振動する際に、隆起部26に加えて外縁面24aにおいても衝突することになる。これにより、振動膜30が、振動時に受ける反発力がさらに増加し、振動膜30の振動増幅効果、及び送受信感度がより一層向上する。
【0053】
また、超音波振動子10は、振動膜30の中間部34において隆起部26の頂部26aに対して接着等により固定されていることが好ましい。このような構成とした場合は、振動膜30のばね定数が増加することになり、送受信感度が向上する。また、振動膜30が振動する際の変位量が少なくなるため、凹部22の底面22aに設けられた基板側電極28と、基板側電極28に対向する位置に設けられた膜側電極36との距離を狭めることができ、送受信感度が高くなる。
【0054】
更に、図5に示すように振動膜30の中間部34(略中央部)において、振動膜30と隆起部26とを接触させ、接着等によって固定することにより、振動膜30が一次モードで振動する周波数帯域と、二次モードで振動する周波数帯域を近接させ、両周波数帯域の差を抑制することが可能となる。これにより、超音波振動子10において超音波の送受信に使用可能な周波数帯域を拡張することができる。
【実施例】
【0055】
上述した超音波振動子ユニットUの一実施例に係る超音波プローブ100について説明する。超音波プローブ100は、超音波検査装置に用いられるものであり、生体に対する超音波の送信、及び生体側から返ってくる超音波の受信を行うための送受信装置である。超音波プローブ100は、図6に示すように上述した超音波振動子ユニットUを内蔵している。また、超音波プローブ100は、超音波振動子ユニットUの他に音響レンズ(図示せず)等の部材を内蔵している。
【0056】
本実施例の超音波プローブ100は、上述した超音波振動子ユニットUを備えたものであるため、送受信感度の面において優れている。従って、本実施形態の超音波プローブによれば、生体の表面状態だけでなく、深度が深い部位の状態まで検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
10 超音波振動子
20 基板
22 凹部
24 外縁部
26 隆起部
26a 頂部
26b 基端部
26c 中腹部
28 基板側電極(第二電極)
30 振動膜
32 周辺部
34 中間部
36 膜側電極(第一電極)
40 キャビティ
100 超音波プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する基板と、
前記基板に対して装着された周辺部、及び前記周辺部間に形成され基板に対して近接・離反する方向に振動可能なた中間部を有し、可撓性を備えた振動膜と、
前記基板の前記凹部及び前記振動膜によって形成されたキャビティと、
前記振動膜側に設けられた第一電極と、
前記第一電極に対向する位置に設けられた第二電極とを有し、
前記基板が、前記キャビティ内に隆起部を有し、前記隆起部が、前記キャビティの端部側から中央側に向かうに連れて前記振動膜に近接する方向に隆起しており、
前記振動膜の前記中間部が前記隆起部に倣うように変形可能であることを特徴とする超音波振動子ユニット。
【請求項2】
前記振動膜が、前記中間部において前記隆起部に対して接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波振動子ユニット。
【請求項3】
前記振動膜が、前記中間部において前記隆起部に対して非接着状態で接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波振動子ユニット。
【請求項4】
前記隆起部において前記キャビティの底部側から頂部に至る部分が、前記隆起部の外側に向けて湾曲していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超音波振動子ユニット。
【請求項5】
前記隆起部が、前記凹部を形成する外縁部よりも突出していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超音波振動子ユニット。
【請求項6】
前記凹部を形成する外縁部に、前記凹部の底面側に向けて下り勾配を有し、前記凹部の内側に向けて湾曲した外縁面が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超音波振動子ユニット。
【請求項7】
前記振動膜が、前記中間部において前記隆起部に対して固定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の超音波振動子ユニット。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の超音波振動子ユニットを備えており、
前記超音波振動子ユニットにより超音波を送受信可能であることを特徴とする超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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