説明

超音波振動用ブースタ、同ブースタを用いた超音波振動接合装置、同ブースタを用いた超音波振動溶着装置

【課題】超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更して伝達とすると同時に、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にする。ホーンの先端の接合作用部の位置を超音波振動子の軸心より所定量低い位置に位置させ、従来できなかった範囲での超音波振動接合作業あるいは超音波振動溶着作業を可能にする。
【解決手段】超音波振動子とホーンとの間にあって両者をネジ結合するブースタについて、ブースタの少なくとも一端面を軸方向に対して交差した斜面とし、ブースタの斜面に対して垂直で、ブースタの軸心より斜面の突出端から離れる向きに所定量、偏心した位置にネジ結合用雌ネジを設けるとともに、前記斜面の突出端のある稜線と反対側の稜線上で、ブースタの斜面の突出端から軸方向に2λ/8の位置から3λ/8の位置の間を凹部とした。このブースタをもちいて、超音波振動接合装置および超音波振動溶着装置を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動用ブースタ、同ブースタを用いた超音波振動接合装置、同ブースタを用いた超音波振動溶着装置に関し、特に超音波振動子の振動方向を任意の方向に変更して伝達可能とした超音波振動用ブースタ、同ブースタを用いた超音波振動接合装置、同ブースタを用いた超音波振動溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、重ねた金属板を押圧した状態で超音波振動を加えて固相結合する超音波振動接合装置が実用化されている。図9に、従来の超音波振動接合装置90の斜視図を示す。従来の超音波振動接合装置90では、超音波振動子91の同軸上にブースタ96を介して結合されたホーン97をホルダー部94に取り付け、ホルダー部94ごと装置本体93に組付けられた図示しない支持機構で上下動可能(図中、白抜き矢印Vで示す方向)に片持ち支持している。装置本体93の前にはワーク搭載部93aを配置し、ワーク搭載部93aの上にアンビル98を載せ、アンビル98の上に金属材料からなる複数のワークW1、W2を互いに重ね合わせて搭載する。そして、ホルダー部94を下降動作して、ホーンの先端97aとアンビル98とでワークW1、W2の被接合部分を加圧保持する。この状態で、超音波振動子91を当該超音波振動子91の軸方向に沿って水平方向(図中、矢印Hで示す方向)に超音波振動させている。
【0003】
図10に、従来の超音波振動接合装置90の左側面図を示す。超音波振動子91は、その同軸上に、ブースタ96を介してホーン97をネジ結合している。つまり、超音波振動子91にブースタ96をネジ95aで結合し、ブースタ96にホーン97をネジ95bで結合している。ブースタ96は、超音波振動を増幅する機能を備える部分であり、ホーン97は先端97aで金属材料からなる複数のワークW1、W2を押圧した状態(図中、二点差線で示す先端97a’)で超音波振動を与えて接合する。超音波振動子91はワークW1、W2の表面に対して平行な水平方向(図中、Hで示す方向)に超音波振動し、ブースタ96もホーン97も同じ水平方向に振動する。
【0004】
アンビル98上でワークW1、W2の被接合部分を加圧した状態でホーンの先端97aが超音波振動すると、この振動によってワークW1、W2の金属原子が拡散され、さらに再結晶することによって機械的に接合される。
上記のように、従来の超音波振動接合装置90では、ホーン97を水平方向に振動させる構造であり、ホーン97の突出長さ(L)は一定である。そのため、ホーン97の突出長さ(L)を越えた離れた位置で超音波振動接合をすることができなかった。また、図11のような状態で、シート状のワークW3、W4について、ホーン97の突出長さ(L)より内側で超音波振動接合できなかった。図11の状態で、ホーン97の突出長さ(L)より内側で超音波振動接合するためには、図11の想像線(二点鎖線)で示したように、ホルダー部94ごとホーン97を傾斜させ、傾斜させたホーン97’を下降させることで、ホーンの先端97a’を下げればよいとも考えられるが、超音波振動子91の後端が持ち上がって装置が大型化するため現実的な解決方法ではなかった。また、装置本体93とワーク搭載部93aを離してホルダー部94を上下動する方法もあるが、広い床面積が必要なため、これも現実的な解決方法ではなかった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、超音波振動を伝達する際に、その振幅あるいは振動の伝達方向を変更可能にする手段として、接合面が斜面で、ネジ結合によってホーンに着脱自在に接続可能とした超音波伝達部材を用いる方法が提案されていたが、直径が小さく、細長く先端の尖ったホーンについての提案であり、直径が30mm程度以上のホーンには適用できなかった。直径が大きくなると断面積が広くなるため、ホーン側の出力面内で振動の振幅を均一にするのが難しいためである(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−253869号公報
【特許文献2】特開平2−229584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば直径が30mm程度以上という寸法の大きいホーンを用いる超音波振動接合装置あるいは、超音波振動溶着装置において、超音波振動を伝達する伝達方向を、例えば30度程度という所定の角度に変更可能とするとともに、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にするブースタを提供することと、このブースタを用いた超音波振動接合装置および同ブースタを用いた超音波振動溶着装置を提供することにより、従来できなかった範囲まで超音波振動接合作業領域あるいは超音波振動溶着作業領域を拡大した超音波振動接合装置あるいは超音波振動溶着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超音波振動子とホーンとの間にあって両者をネジ結合するブースタについて、ブースタの少なくとも一端面を軸方向に対して交差した斜面とし、超音波振動の波長をλとして、この斜面の突出端のある稜線と反対側の稜線上で、ブースタの斜面の突出端から軸方向に2λ/8の位置から3λ/8の位置の間を凹部としている。
このことにより、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更して伝達可能とすると同時に、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にしている。
【0009】
また本発明は、超音波振動子とホーンとの間にあって両者をネジ結合するブースタについて、ブースタの少なくとも一端面を軸方向に対して交差した斜面とし、ブースタの斜面に対して垂直で、ブースタの軸心より斜面の突出端から離れる向きに所定量、偏心した位置にネジ結合用雌ネジを設けている。
このことにより、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更可能とすると同時に、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にしている。
【0010】
また本発明は、超音波振動接合装置あるいは超音波振動溶着装置に上記のブースタで接続した超音波振動子とホーンを用いて、超音波振動子と超音波振動用ブースタとホーンを一体にネジ結合してホルダー部に取り付けたものを一つの超音波振動ユニットとして構成し、ホーンの先端を超音波振動ユニットの下面より突出させている。
このことにより、従来できなかった範囲での超音波振動接合作業あるいは超音波振動溶着作業を可能にしている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更して伝達するとともに、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にすることができる。
また、本発明によれば、従来できなかった範囲での超音波振動接合作業あるいは超音波振動溶着作業を可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一の実施の形態にかかる超音波振動接合装置の斜視図。
【図2】本発明の第一の実施の形態にかかる超音波振動接合装置の部分左側面図。
【図3】(a)本発明の第一の実施の形態にかかるブースタの加工途中段階での振幅の大きさを説明する図(b)本発明の第一の実施の形態にかかるブースタの加工後の振幅の大きさを説明する図。
【図4】本発明の第一の実施の形態にかかるブースタの斜視図。
【図5】本発明の第二の実施の形態にかかる超音波振動接合装置の部分左側面図。
【図6】(a)本発明の第二の実施の形態にかかる超音波振動接合装置の斜視図(b)本発明の第二の実施の形態にかかる超音波振動接合装置の斜視図。
【図7】本発明の第三の実施の形態にかかる超音波振動溶着装置の部分正面図。
【図8】本発明の第三の実施の形態にかかる他の超音波振動溶着装置の部分正面図。
【図9】従来の超音波振動接合装置の斜視図。
【図10】従来の超音波振動接合装置の部分左側面図。
【図11】従来の超音波振動接合装置の部分左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第一の実施の形態)
本発明の特徴は、超音波振動子11の軸方向、つまり振動方向(H)に対してブースタ16の振動方向が傾いている点である。図1に、本発明の第一の実施の形態にかかる超音波振動接合装置10の斜視図を示す。超音波振動接合装置10では、超音波振動子11にブースタ16を介して結合されたホーン17をホルダー部14に取り付けたものを一つの超音波振動ユニットとして構成し、ホルダー部14ごと図示しない支持機構で装置本体13に対して上下動可能(図中、白抜き矢印Vで示す方向)に支持している。装置本体13の上には、金属材料からなる複数のワークW3、W4を重ねて載置している。そして、ホルダー部14を下降動作して、ホーンの先端17aと装置本体13でワークW3、W4を加圧保持する。なお、本発明のホーンの先端17aの形状について説明すると、先端部分が断面T字状で幅方向に延びた形状をなしており、当該T字の頭部分の一端を上側のワークW3に当接させている。この状態で、超音波振動子11を超音波振動させている。
【0014】
図1では、超音波振動子11の軸方向に対して傾斜したホーンの先端17aが装置本体13の上に載置されたワークW3、W4の上方を押圧している。ホーン17は、超音波振動子11の軸方向に対して傾いた方向に振動する。なお、図示しない懸垂機構は支持ホルダー部14を、ホーンの先端17aのワークW3、W4に対する押圧力が一定になるように支持している。ホーンの先端17aがワークW3、W4の被接合部分を加圧した状態で超音波振動すると、この振動によってワークW3、W4の金属原子は拡散され、さらに再結晶することによって機械的に接合する。
【0015】
図2に、本発明の超音波振動接合装置10の部分左側面図を示す。ホーン17は図2に示したように、超音波振動子11にブースタ16を介して一体にネジ15a、15bによってネジ結合されている。超音波振動子11の振動方向は、図11で、符号Hで示したように軸方向に沿った水平方向であるが、ブースタ16およびホーン17の振動方向は図面の右下に傾斜している。そして、ホーンの先端部17aは、ホルダー部の下面14aより下、つまり超音波振動ユニットの下に突出している。ホルダー部14は、装置本体13に組付けられた図示しない支持機構、たとえば門型あるいはロボットハンドのような懸垂機構により上下動可能に支持されている。
【0016】
本発明の超音波振動接合装置10では、ホーンの先端部17aが、ホルダー部の下面14aより下方、つまり超音波振動ユニットの下方に突出しているので、懸垂機構によりホルダー部14を下降した場合、ワークW3、W4に当接するのはホーンの先端部17aのみである。他に、当接するものが無いため、ワークW3、W4の上で懸垂機構によりホルダー部14を任意の位置に移動することができる。このことにより、従来できなかった範囲での超音波振動接合作業あるいは超音波振動溶着作業を可能にしている。
【0017】
図2では、超音波振動子11、ブースタ16そしてホーン17のネジ結合状態とともに、ブースタ16そしてホーン17の各位置における超音波振動の振幅の概念的な変化を曲線Rで示した。図2の一点鎖線は、振動部位と振幅の対応関係を示し、曲線Rは、該当する位置での振幅の大きさを概念的に示している。ブースタ16の全長およびホーン17の全長は、それぞれ超音波振動の波長(λ)の1/2(=2/4)である。ブースタ16の根元側の左端面16aは、ブースタ16の軸方向に対して所定角度(たとえば30度)傾斜した斜面であり、ネジ15aによって超音波振動子11にネジ結合している。
【0018】
図2の曲線Rは、ブースタ16の斜面の突出端(A)のある稜線、つまり図2のブースタ16の上側の稜線に対応した各位置における超音波振動の振幅の概念的な変化を示した。ブースタの左端面16aに超音波振動子11からδ1の大きさの振幅の振動が入ると、ブースタの左端面16aの突出端(A)からλ/4の位置では振幅はゼロとなり、ブースタの左端面16aの突出端(A)から2λ/4の位置では、振幅はδ3に増幅されている。そして、ホーン17に超音波振動が伝わると、ブースタの左端面16aの突出端(A)から3λ/4の位置では振幅はゼロとなり、ブースタの左端面16aの突出端(A)から4λ/4の位置では、振幅はδ4に増幅されてホーンの先端17aから出力される。
【0019】
本発明は、ブースタの左端面16aを斜面として、ネジ15aによって超音波振動子11にネジ結合するに際して、ブースタ16の形状、ネジ結合の具体的な技術的手段を用いて、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更すると同時に、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にするという課題を解決している。このことを図2、図3(a)(b)、図4を用いて説明する。
【0020】
図3(a)に、本発明の第一の実施の形態にかかるブースタの加工途中段階での振幅の大きさを説明する図を、図3(b)に、本発明の第一の実施の形態にかかるブースタの加工後の振幅の大きさを説明する図を示した。ブースタの左端面16aを軸方向に対して傾斜した斜面としたことは既に説明した。ここでは、本発明の特徴であるブースタの左端面16aのネジ結合用の雌ネジの位置について説明する。図3(a)のとおり、ブースタの右端面16bではブースタ16の軸心にホーン17をネジ結合するための雌ネジ16cを設けている。もし、この状態で、ブースタの左端面16aについても、軸心(B)に超音波振動子11をネジ結合するための雌ネジを設けたとすると、ブースタの右端面16bに出力される超音波振動の振幅(δ)は、図3(a)の右端面16bの横に示した振幅の大きさを概念的に示した曲線のように、図面上側では小さく、図面下側では大きくなる。ブースタの右端面16bに出力される超音波振動の振幅(δ)が均一でないと、ホーン17には不均一な振幅の超音波振動が伝わり、ホーンの先端17aが所望の形で振動しない。そして、ワークW3、W4に超音波振動が適切に伝わらず、超音波接合作業が適切に行えないという事態に至る。
【0021】
ここで、ブースタの右端面16bに出力される超音波振動の振幅(δ)が、図3(a)の図面上側では小さく、図面下側では大きくなる理由については、図2に示した曲線Rから、次のように考えることができる。図2の曲線Rに戻って、ブースタの左端面16aの図面上側では、超音波振動子11から振幅(δ1)が入力される。ブースタの右端面16bの図面上側では、振幅(δ3)に増幅して出力する。ブースタの左端面16aの図面下側でも超音波振動子11から振幅(δ1)が入力される。ここで、ブースタの左端面16aの図面下側の位置は、ブースタの左端面16aの図面上側では振幅(δ2)で振動する位置である。本来ブースタの左端面16aの図面下側の振動が、ブースタの左端面16aの図面上側と同じ振幅(δ2)であれば、ブースタの右端面16bの図面下側でも振幅(δ3)で出力することになるであろうが、ブースタの左端面16aの図面下側には、振幅(δ2)より大きい振幅(δ1)が入力される。そのため、ブースタの右端面16bの図面下側では、振幅(δ3)より大きい振幅でホーン17に出力することとなると考えられる。
【0022】
そこで、本発明は、図3(b)のように、超音波振動子11とホーン17との間にあって両者をネジ結合するブースタ16について、ブースタ16の少なくとも一端面を軸方向に対して交差した斜面(左端面)16aとし、ブースタの斜面16aに対して垂直で、ブースタ16の軸心(B)より斜面の突出端(A)から離れる向きに所定の偏心量(e)だけ偏心した位置(D)にネジ結合用雌ネジ16dを設けている。このことにより、ブースタの斜面16aにおいてネジ結合用雌ネジ16dより下側を占める断面積を少なくして、伝わる振動エネルギーを少なくして、ブースタの右端面16bでの振幅を均一化している。
【0023】
そして本発明は、斜面の突出端(A)のある稜線と反対側の稜線上で、ブースタの斜面16aの突出端(A)から軸方向に2λ/8の位置から3λ/8の位置の間を凹部16eとしている。図3(b)では、ブースタの凹部16eのある位置での断面を(S)として示した。ブースタの凹部16eでは振動が伝わらないため、ブースタの右端面16bの図面下側では、ホーン17に出力する振幅が小さくなる。このように、ブースタ16の断面の一部を削除したことにより、ブースタ下面付近からホーン17に伝わる振動エネルギーを少なくして、ブースタの右端面16bでの振幅を均一化している。
【0024】
なお、凹部16eを設ける位置については、ブースタ16の全長の中心から超音波振動子11から振動を受ける側についてはそのままとし、ブースタ16の全長の中心からホーン側の間で断面形状を変化させることを前提として試行錯誤して求めた。例えば直径30mmのブースタで斜面の角度を15度としたとき、ブースタの右端面16bに出力される超音波振動の振幅(δ)が、図3(a)の図面上側では13.5μm、図面下側では大きさが19μmであったが、図3(b)のように凹部16eを設けると図面上側から下側に至って平均的に18.5μmから19μmの振幅となった。ブースタの斜面16aの突出端(A)から軸方向に2λ/8の位置から3λ/8の位置の間の領域以外に凹部を設けたり、拡げてみたが、振幅を平均化する効果がないかむしろ悪くなった。
【0025】
なお、具体的な雌ネジの偏心量(e)の値、凹部16eの切り込み深さ(h)の値については、超音波振動子11の超音波振動、ホーンの大きさ、ブースタの大きさなどの諸条件に合わせて、最適値を選択することができる。
図4に、本発明の第一の実施の形態にかかるブースタ16の斜視図を示す。本発明の第一の実施の形態にかかるブースタ16は円柱状をしているため、加工に際しては、外周面の一部を稜線に沿った略長方形の平面に切削した基準面16fを作ってから、円柱の端面の軸方向に対して所定角度(θ)傾いた斜面16aを形成し、斜面16aの突出端(A)から2λ/8から3/8の範囲を凹部16eにしている。凹部16eを設けることによってホーン17の出力面内での振動の振幅を均一にすることについては、既に説明した。
【0026】
本発明では既に説明したように、斜面16aの軸心(B)から所定の偏心量(e)だけ偏心した位置(D)に雌ネジ16dを設けた。また、これとは別に凹部16eを設けた。本発明では、斜面16aの軸心(B)から所定の偏心量(e)だけ偏心した位置(D)に雌ネジ16dを設けることと、円柱の端面の軸方向に対して所定角度(θ)傾いた斜面16aを形成し、斜面の突出端(A)から2λ/8から3λ/8の範囲を凹部16eにしていることの2つを採用することで、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更可能とすると同時に、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にすることができることを確認した。
【0027】
なお、凹部16eを設けることと、斜面16aの軸心(B)から所定の偏心量(e)だけ偏心した位置(D)に雌ネジ16dを設けることと、凹部16eを設けることの組み合わせ方は、超音波振動子11の振動を伝達する角度、ホーン17の太さ等、実際の条件により適宜最適な割合で行うことができる。実際的には、例えば所定の偏心量(e)だけ偏心した位置(D)に雌ネジ16dを設けた後、振動の振幅を測定しながら、凹部16eの切込み量(h)を少しずつ増やす方法がある。
なお、ホーン17がワークW3、W4の表面に対して斜め方向に振動するため、ホーンの先端17aがワークW3、W4の表面から離れる向きに振れるときに、ホーンの先端17aがワークW3、W4の表面を押す力が低減するので、本発明では、図示しない支持機構により、ホルダー部14ごとホーンの先端17aをワークW3、W4の表面に一定圧で押圧している。そのため、ホーン17がワークW3、W4の表面に対して垂直に振動するときと同様に超音波振動接合をすることができる。
【0028】
(第二の実施の形態)
本発明の第一の実施の形態では、超音波振動子11からの超音波振動を受けるブースタの一端面だけを軸方向に対して傾斜した斜面とした場合を説明した。しかし、ブースタの一端面だけでなく他端面についても、軸方向に対して傾斜した斜面としてもよい。そこで、本発明の第二の実施の形態では、ブースタの一端面および他端面についてブースタの軸方向に対して傾斜した斜面とした場合を説明する。
【0029】
図5に、本発明の第二の実施の形態にかかる超音波振動接合装置20の部分左側面図を、図6(a)(b)に、本発明の第二の実施の形態にかかる超音波振動接合装置20の斜視図を示した。超音波振動接合装置20のブースタ26では、ブースタの一端面26aだけでなく他端面26bについても、ブースタ26の軸方向に対して傾斜した斜面とした。そして、ホーン27の端面も僅かに傾斜させることで、ホーン27は、より水平に近い傾きとなり、ワークW3、W4の表面とのなす角度が、すでに説明した第一の実施の形態より小さくなっている。特に、図5に示したように、ブースタの一端面26aと他端面26bとが平行をなすように軸方向に対する角度を同じにして、ブースタの一端面26aと他端面26bを平行な面とした場合、ホーン27に伝わる超音波振動の振動方向は、超音波振動子11とほぼ同じ水平方向(H)となる。そのため、ホーン27は、水平より幾分斜めに傾いているが、ワークW3、W4に対してホーン27は水平方向(H)に超音波振動する。このように、本発明によれば、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更可能とすると同時に、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にすることができる。
【0030】
また、本発明の第二の実施の形態では、図5のように、ホーンの先端27aは、装置本体13に上下動可能に組付けたホルダー部24の下面、つまり超音波振動ユニットの下面より突出している。そのため第一の実施の形態でも説明したように、図示しない懸垂機構によりホルダー部24を下降した場合、ワークW3、W4に当接するのはホーンの先端部27aのみである。他に、当接するものが無いため、ワークW3、W4の上で懸垂機構によりホルダー部14を任意の位置に移動することができる。図6(a)では、ワークW3、W4の右端近くを接合する状態を斜視図で示した。また、図6(b)では、ホーンの先端部27aをワークW3、W4の中央に移動して接合する状態を斜視図で示した。このように、従来では、ホーンの先端27aを移動できなかった範囲での超音波振動接合作業あるいは超音波振動溶着作業を可能にしている。なお、当該第二の実施の形態についても、第一の実施の形態と同じように、ブースタ26の左端面の斜面26aの軸心から所定の偏心量だけ偏心した位置に雌ネジを設け、当該斜面26aの突出端から2λ/8から3/8の範囲で反対側の稜線上に凹部を形成している。
【0031】
(第三の実施の形態)
本発明の第一、第二の実施の形態では、本発明の超音波振動用ブースタを超音波振動接合装置に適用した場合を説明した。しかし、本発明の超音波振動用ブースタは超音波振動溶着装置についても適用することができる。そこで、本発明の第三の実施の形態として、超音波振動溶着装置30について説明する。
【0032】
図7に、本発明の第三の実施の形態にかかる超音波振動溶着装置30の部分正面図を示す。超音波振動溶着装置30では、超音波振動子11の軸を垂直に立て、ホーン37の軸も垂直にしている。従来の超音波振動溶着装置では、ブースタも垂直にして軸心を一致させた姿で一体化して使用していたが、本発明では、ブースタ36の一端面36aと他端面36bを超音波振動子11の軸方向に対して傾斜した斜面とし、一端面36aと他端面36bを互いに平行な面としている。また、当該第三の実施の形態についても、第二の実施の形態と同じように、ブースタ36の一端面36a及び他端面36bそれぞれの斜面26において軸心から所定の偏心量だけ偏心した位置に雌ネジを設け、当該両端面26aの突出端から2λ/8から3/8の範囲でそれぞれ反対側の稜線上に凹部を形成している。そのため、超音波振動子11の軸に対してホーン37の軸を所定量(e1)偏心させることができる。ブースタ36の斜面の傾斜角を選択すれば、超音波振動子11の軸に対する偏心量は任意に定めることができる。そのため、超音波振動子11の直径が大きくても、本発明を適用すれば、ホーン37の軸を任意の位置に配置することができる。
【0033】
ホーン37の下方には、アンビル33を配置し、アンビル33の上に被溶着物であるプラスチックシートのワークW5,W6を重ねて載置している。超音波振動子11とブースタ36とホーン37をネジ結合して取り付けた上下動可能なホルダー部34を一つの超音波振動ユニットとして構成し、図示しない懸垂機構によりワークW5,W6に向けて下降し、ホーン37とアンビル33の間でワークW5,W6を押圧した状態で、超音波振動子11を振動させると、ワークW5,W6が発熱して溶着する。
【0034】
このように、本発明によれば、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更するとともにホーン37の出力面内での振動の振幅を均一にすることができ、従来できなかった範囲での超音波振動溶着作業を可能にしている。
図8に、本発明の第三の実施の形態にかかる他の超音波振動溶着装置の部分正面図を示す。図8では、2つの超音波振動溶着装置30、31を横に並べた状態を示している。超音波振動溶着装置31の構成は、今説明した超音波振動溶着装置30の構成と基本的に同じである。超音波振動溶着装置31では、ブースタ36’の一端面36a’と他端面36b’の軸心に対する傾斜角を超音波振動溶着装置30のブースタ36と逆向きにしている。そのため、超音波振動溶着装置30と31の2つの超音波振動子11は図8のK2のように大きく離れているが、ホーン37、37’は図8のK1のように接近している。このように、本発明の第三の実施の形態にかかる他の超音波振動溶着装置では、接近した複数個所の溶着を同時に行うことができる。
【0035】
以上説明したとおり、本発明によれば、超音波振動の伝達方向を所定の角度に変更すると同時に、ホーン側の出力面内での振動の振幅を均一にすることができる。また、本発明によれば従来できなかった超音波振動接合作業領域あるいは超音波振動溶着作業領域での作業を可能にしている。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、比較的寸法の大きい超音波振動用ホーンについて、超音波振動子より超音波振動を伝達する際にその振幅あるいは振動の伝達方向を変更可能とした超音波振動接合装置及び超音波振動溶着装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10、20 超音波振動接合装置
11 超音波振動子
13 装置本体
14 ホルダー部
15a、15b ネジ
16 ブースタ
16a ブースタの一端面
16b ブースタの他端面
16c ブースタの他端面の雌ネジ
16d ブースタの一端面の雌ネジ
16e ブースタの凹部
16f ブースタの加工上の基準面
17 ホーン
17a ホーンの先端
30、31 超音波振動溶着装置
e、e1 偏心量
δ、δ1、δ2、δ3、δ4 振幅
λ 波長
W1、W2、W3、W4 ワーク(被接合物)
W5、W6 ワーク(被溶着物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子とホーンとの間にあって両者をネジ結合するブースタについて、
前記ブースタの少なくとも一端面を軸方向に対して交差した斜面とし、
超音波振動の波長をλとして前記斜面の突出端のある稜線と反対側の稜線上で、ブースタの斜面の突出端から軸方向に2λ/8の位置から3λ/8の位置の間を凹部としたことを特徴とする超音波振動用ブースタ。
【請求項2】
超音波振動子とホーンとの間にあって両者をネジ結合するブースタについて、
前記ブースタの少なくとも一端面を軸方向に対して交差した斜面とし、
前記ブースタの斜面に対して垂直で前記ブースタの軸心より斜面の突出端から離れる向きに所定量、偏心した位置にネジ結合用雌ネジを設けたことを特徴とする超音波振動用ブースタ。
【請求項3】
超音波振動子とホーンとの間にあって両者をネジ結合するブースタについて、
前記ブースタの少なくとも一端面を軸方向に対して交差した斜面とし、
前記ブースタの斜面に対して垂直で前記ブースタの軸心より前記斜面の突出端から離れる向きに所定量、偏心した位置にネジ結合用雌ネジを設けるとともに、
前記斜面の突出端のある稜線と反対側の稜線上で、前記ブースタの斜面の突出端から軸方向に2λ/8の位置から3λ/8の位置の間を凹部としたことを特徴とする超音波振動用ブースタ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つの超音波振動用ブースタの斜面に超音波振動子をネジ結合して、超音波振動子と超音波振動用ブースタとホーンを一体にネジ結合した状態において、
前記斜面に入力した前記超音波振動子の振動方向を前記超音波振動用ブースタの軸方向に屈折させるとともに、前記超音波振動子の振動を前記超音波振動用ブースタから前記ホーンに伝え、
前記ホーンで被接合物を超音波振動接合するように構成した超音波振動接合装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一つの超音波振動用ブースタの斜面に超音波振動子をネジ結合して、超音波振動子と超音波振動用ブースタとホーンを一体にネジ結合してホルダー部に取り付けたものを一つの超音波振動ユニットとして構成し、更に前記ホーンの先端部を前記超音波振動ユニットの下面より突出させ、前記斜面に入力した前記超音波振動子の振動方向を前記超音波振動用ブースタの軸方向に屈折させるとともに、前記超音波振動子の振動を前記超音波振動用ブースタから前記ホーンに伝え、前記ホーンで被接合物を超音波振動接合するように構成した超音波振動接合装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一つの超音波振動用ブースタの斜面に超音波振動子をネジ結合して、超音波振動子と超音波振動用ブースタとホーンを一体にネジ結合した状態において、
前記斜面に入力した前記超音波振動子の振動方向を前記超音波振動用ブースタの軸方向に屈折させるとともに、前記超音波振動子の振動を前記超音波振動用ブースタから前記ホーンに伝え、
前記ホーンで被溶着物を超音波振動溶着するように構成した超音波振動溶着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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