説明

超音波探傷用ウェッジ、及びこれを備えている装置

【課題】超音波探傷センサからの出力ノイズを低減させる。
【解決手段】超音波探傷センサ10と被検体Sとの間に水を供給するウェッジ20には、被検体の表面に対向する第一被検体対向面22と、超音波探傷センサが装着されるセンサ装着面21と、水を受け入れる受入口32a,32bと、受入口からの水が溜まるチャンバ35と、センサ装着面21から被検体対向面22に貫通し、チャンバ35からの水が流入する超音波伝播室40と、が形成されている。チャンバ35と超音波伝播室40との間の仕切り壁45には、チャンバから超音波伝播室に貫通した多数の貫通孔47が形成されている。多数の貫通孔47の超音波伝播室を臨む各流入開口47aは、超音波伝播室の周方向に一列に並び、且つ超音波伝播室のセンサ側開口41と超音波伝播室の被検体側開口42とのうち、被検体開口42側に寄った位置に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷センサが装着され、この超音波探傷センサと被検体との間に超音波の伝播媒質を供給する超音波探傷用ウェッジ、及びこれを備えている装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体を超音波探傷する場合、超音波探傷センサと被検体との間に超音波の伝播媒質を供給するウェッジを設けることがある。このウェッジを用いて被検体を超音波探傷する場合、超音波探傷センサと被検体との間の伝播媒質中に気泡が存在すると、超音波探傷センサは、この気泡を被検体の傷として誤検知することがある。
【0003】
このため、例えば、以下の特許文献1に記載されているように、気泡の排除を促す技術が開発されている。この特許文献1に記載のウェッジは、伝播媒質である水を受け入れる受入口と、この受入口に連通しているチャンバと、超音波探傷センサが装着されるセンサ装着面から被検体の表面に対向する被検体対向面に貫通し、チャンバと連通している超音波伝播室と、を有している。チャンバと超音波伝播室との間の仕切り壁には、チャンバ内の水を超音波伝播室へ流入させるための多数の貫通孔が形成されている。この貫通孔の超音波伝播室を臨む流入開口は、超音波探傷センサの表面に積極的に水を供給するために、超音波伝播室の内周面であってセンサ装着面寄りに形成されている。また、この流入開口は長方形状を成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−142206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、チャンバから超音波伝播室に水が流入する流入開口の縁が、超音波の反射部分を成し、超音波探傷センサにとって比較的大きなノイズになってしまう、という問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題点に着目し、超音波探傷センサにとってのノイズを抑えることができる超音波探傷用ウェッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記問題点を解決するための超音波探傷用ウェッジは、
被検体の表面に対向する被検体対向面と、超音波探傷センサが装着されるセンサ装着面と、伝播媒質を受け入れる受入口と、前記受入口と連通し、該受入口からの前記伝播媒質が溜まるチャンバと、前記センサ装着面から前記被検体対向面に貫通し、前記チャンバ内の前記伝播媒質が流入して、該伝播媒質で満たされる超音波伝播室と、が形成され、
前記チャンバと前記超音波伝播室との境界部には、仕切り壁が形成され、該仕切り壁には、該チャンバ内の前記伝播媒質を該超音波伝播室に流入させるために、該チャンバから該超音波伝播室に貫通した多数の貫通孔が形成され、前記多数の貫通孔の該超音波伝播室を臨む各流入開口は、該超音波伝播室の周面の周方向に一列に並び、且つ該超音波伝播室から前記センサ装着面に臨むセンサ側開口と、該超音波伝播室から前記被検体対向面に臨む被検体側開口とのうち、該被検体開口側に寄った位置に形成されている、ことを特徴とする。
【0008】
当該超音波探傷用ウェッジのように、超音波伝播室に、流入開口が臨んでいる場合、この流入開口の縁が超音波反射源になる。すなわち、超音波探傷センサから発信された超音波の一部は、被検体の表面で反射してセンサ側に戻り、この反射波が流入開口の縁でさらに反射し、再び、被検体の表面で反射して、超音波探傷センサに入射する。この流入開口に関するセンサ出力は、被検体の傷とは関係のないものであるため、超音波探傷ではノイズである。
【0009】
一般的に、超音波探傷センサの出力には、被検体中での超音波の減衰を考慮して、超音波の伝播距離が大きくなるに連れて大きな利得が掛けられる。したがって、想定の減衰が生じず、しかも、超音波反射源までの超音波伝播距離が大きい場合に、超音波探傷センサから出力は大きくなる。このため、特許文献1のように、超音波反射源である流入開口がセンサ装着面側に寄っていると、この流入開口までの超音波伝播距離が大きくなり、ノイズである流入開口に関するセンサ出力が大きくなる。
【0010】
そこで、当該超音波探傷用ウェッジでは、多数の流入開口を、超音波伝播室の周面の周方向に一列に並ばせて、各流通開口までの超音波伝播距離を揃えつつ、各流入開口を、超音波伝播室のセンサ側開口と超音波伝播室の被検体側開口とのうち、被検体開口側に寄った位置に形成して、各流通開口までの超音波伝播距離を小さくしている。よって、当該超音波探傷用ウェッジによれば、ノイズである流入開口に関するセンサ出力を小さくすることができる。
【0011】
ここで、前記超音波探傷用ウェッジにおいて、前記仕切り壁を貫通する前記多数の貫通孔は、前記チャンバから前記超音波伝播室に向かうに連れて、前記被検体側開口に近づく向きに傾斜していてもよい。
【0012】
当該超音波探傷用ウェッジでは、超音波探傷センサから発信された超音波が被検体の表面で反射してセンサ側に戻り、この反射波が流入開口の縁でさらに反射したときに、流入開口の縁で反射した反射波の多くが、貫通孔内に向かい、再び、被検体の表面に向かう反射波が少なくなる。よって、当該超音波探傷用ウェッジでは、ノイズである流入開口に関するセンサ出力をより小さく抑えることができる。
【0013】
また、超音波探傷用ウェッジにおいて、前記仕切り壁を貫通する前記多数の貫通孔の前記流入開口は、円形であってもよい。
【0014】
当該超音波探傷用ウェッジでは、超音波探傷センサから発信された超音波が被検体の表面で反射してセンサ側に戻り、この反射波が流入開口の縁でさらに反射したときに、流入開口の縁で反射した反射波は各方向へ向かい、再び、被検体の表面に向かう反射波が少なくなる。よって、当該超音波探傷用ウェッジでは、ノイズである流入開口に関するセンサ出力をより小さく抑えることができる。
【0015】
また、前記超音波探傷用ウェッジにおいて、前記被検体対向面は、前記被検体の表面に対向する第一被検体対向面及び第二被検体対向面を有し、前記第一被検体対向面から前記センサ装着面側に凹み、凹みの底面が前記第二被検体対向面を成す気泡滞留凹部が形成され、前記超音波伝播室は、前記センサ装着面から前記気泡滞留凹部の前記第二被検体対向面に貫通し、前記気泡滞留凹部は、前記超音波伝播室から該気泡滞留凹部の前記第二被検体対向面に臨む前記被検体側開口の縁のうち、前記センサ装着面に装着された前記超音波探傷センサの予め定められた走査方向と反対側の反走査方向側縁の全縁から該反対側に広がっていてもよい。
【0016】
当該超音波探傷用ウェッジでは、超音波伝播室の被検体側への延長上に気泡が位置しても、ウェッジの走査方向への移動により、この気泡は、被検体側開口の回りに形成されている気泡滞留凹部内において、このウェッジに対して相対的に走査方向と反対側に直ちに移動してしまう。このため、当該超音波探傷用ウェッジによれば、傷の誤検知の一因になる気泡排除の促進を図ることができる。
【0017】
また、超音波探傷用ウェッジにおいて、前記多数の貫通孔の流入開口は、前記センサ側開口と前記第一被検体対向面とのうち、該第一被検体対向面側に寄った位置に形成されていることが好ましい。
【0018】
当該超音波探傷用ウェッジでは、気泡探傷用凹部が形成されている場合でも、各流通開口までの超音波伝播距離を小さくでき、ノイズである流入開口に関するセンサ出力を小さくすることができる。
【0019】
また、前記超音波探傷用ウェッジにおいて、前記超音波探傷センサの前記予め定められた走査方向として、第一走査方向と、該第一走査方向と正反対の向きの第二走査方向とがあり、前記気泡滞留凹部は、前記被検体側開口の縁のうち、前記第一走査方向側の全縁から該第一走査方向側に広がっていると共に、該被検体側開口の縁のうち、前記第二走査方向側の全縁から該第二走査方向側に広がっていてもよい。
【0020】
当該超音波探傷用ウェッジでは、第一走査方向、及びこの第一走査方向と正反対の向きの第二走査方向の両方向へ超音波探傷センサを走査する場合でも、超音波伝播室の被検体側への延長上に位置している気泡を、この位置から直ちに排除することができる。
【0021】
また、前記超音波探傷用ウェッジにおいて、前記第二被検体対向面のうち、少なくとも前記被検体側開口の縁を含む開口縁部には、吸音材が施されていてもよい。
【0022】
当該超音波探傷用ウェッジでは、被検体表面と気泡滞留凹部の底面との間で反射した超音波が吸音材で吸収されるため、気泡滞留凹部の底面に関するセンサ出力を小さくすることができる。
【0023】
また、前記問題点を解決するための超音波探傷装置は、
上記いずれかの超音波探傷用ウェッジと、前記超音波探傷用ウェッジの前記センサ装着面に装着される前記超音波探傷センサと、を備えていることを特徴とする。
【0024】
当該超音波探傷装置は、上記いずれかの超音波探傷用ウェッジを備えているので、ノイズである流入開口に関するセンサ出力をより小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、ノイズである流入開口に関するセンサ出力を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る一実施形態における超音波探傷装置の展開斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】図1におけるIII矢視図である。
【図4】本発明に係る一実施形態における超音波探傷用ウェッジの各部の寸法を示す説明図である。
【図5】本発明に係る一実施形態における超音波探傷センサの感度校正曲線を示すグラフである。
【図6】本発明に係る一実施形態における超音波探傷センサの出力波形を示すグラフである。
【図7】本発明に係る一実施形態における超音波探傷システムの構成を示す説明である。
【図8】本発明に係る一実施形態に対する変形例における超音波探傷用ウェッジの断面図である。
【図9】本発明に係る一実施形態に対する他の変形例における超音波探傷用ウェッジの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る超音波探傷装置の一実施形態、及びその各種変形例について、図面を用いて説明する。
【0028】
「実施形態」
まず、本発明に係る超音波探傷装置の実施形態について、図1〜図7を用いて説明する。
【0029】
本実施形態の超音波探傷装置1は、図7に示すように、超音波を被検体Sに向けて発信すると共に被検体Sからの超音波の反射波を受信する超音波探傷センサ(以下、単にセンサとする)10と、このセンサ10が装着され、センサ10と被検体Sの表面との間に超音波伝播媒質である水を供給するウェッジ20と、を有している。
【0030】
この超音波探傷装置1は、この超音波探傷装置1を被検体Sの表面に沿って移動させる移動機構2上に搭載されている。この超音波探傷装置1のウェッジ20には、超音波の伝播媒質である水を供給する水供給ライン7が接続されている。この水供給ライン7には、脱気器8及び気泡除去フィルタ9が設けられている。
【0031】
本実施形態において、水の供給源は、例えば、水道蛇口である。水供給ライン7は、この水蛇口に接続されている。この水供給ライン7中に設けられる脱気器8は、水中に含まれている気体の分圧を真空ポンプ等で低下させて、この気体を排除する減圧式の脱気器8である。水供給ライン7中で、この脱気器8よりも下流側には、気泡除去フィルタ9が配置されている。
【0032】
センサ移動機構2は、超音波探傷装置1を被検体Sの表面に押付ける押付機構3と、被検体Sの表面に押付けられた超音波探傷装置1を被検体Sの表面に沿って移動させる走査機構4と、を備えている。走査機構4は、超音波探傷装置1の走査方向に伸びるレール5と、このレール5に沿って移動する台車6と、を有している。なお、本実施形態の超音波探傷装置1は、被検体Sの下方から、被検体Sを超音波探傷するものである。このため、押付機構3は、超音波探傷装置1を下から上に押し上げるものである。また、ウェッジ20は、被検体Sの下側に配置され、センサ10は、このウェッジ20の下側に配置される。
【0033】
センサ10は、図1に示すように、超音波を被検体Sに向けて発信すると共に被検体Sからの超音波の反射波を受信する超音波入出力面11を有している。この超音波入出力面11は、長方形を成し、その外周縁はセンサケーシング19で囲まれている。このセンサ10は、この長方形の超音波入出力面11の短手方向のうち、一方の方向が第一走査方向で、正反対向きの方向が第二走査方向になっている。なお、以下では、説明の便宜上、長方形の超音波入出力面11の短手方向をY方向、その長手方向をX方向、超音波入出力面11に垂直な方向をZ方向とする。
【0034】
ウェッジ20には、図1〜図3に示すように、センサ10の超音波入出力面11に対向するセンサ装着面21と、被検体Sの表面と対向する被検体対向面22,26と、被検体Sの表面に水を供給する供給部30と、前述の押付機構3に接続される接続フランジ29と、が形成されている。
【0035】
被検体対向面22,26は、ウェッジ20の(+)Z側に形成され、センサ装着面21は、ウェッジ20の(−)Z側に形成されている。被検体対向面22,26は、第一被検体対向面22と第二被検体対向面26とがある。ウェッジ20には、第一被検体対向面22からセンサ装着面側に凹み、凹みの底面が第二被検体対向面26を成す気泡滞留凹部25が形成されている。なお、第一被検体対向面22は、気泡滞留凹部25の回りに形成されている。接続フランジ29は、ウェッジ20の(−)Z側であって、センサ装着面21を挟んで(±)X側のそれぞれ形成されている。この接続フランジ29には、外側からX方向に凹んだ丸型溝29aが形成されており、図7に示すように、この丸型溝29aに押付機構3と接続するためのピン12が挿入される。よって、このウェッジ20は、このピン12を中心として揺動可能である。
【0036】
第一被検体対向面22上には、第一被検体対向面22と被検体Sの表面との間に、気泡滞留凹部25からの気泡が通れる隙間を確保するための隙間確保部50が設けられている。この隙間確保部50は、第一被検体対向面22上であって、気泡滞留凹部25から(+)Y方向側に離れた位置と、気泡滞留凹部25から(−)Y方向側に離れた位置とに設けられている。
【0037】
各隙間確保部50は、いずれも、(−)Z側から見た形状が二等辺三角形形状を成し、この二等辺三角形の頂角51は鋭角である。この隙間確保部50は、二等辺三角形の中心軸がY方向を向き、且つ隙間確保部50中でその頂角51が最も気泡滞留凹部25に近くなっている。この隙間確保部50は、樹脂粘着テープを二等辺三角形状に切って、これを第一被検体対向面22上に張り付いたものでもよいし、二等辺三角形形状の硬質樹脂片を被検体対向面22上に固定したものであってもよい。また、被検体側ウェッジフレームFaと一体成形したものであってもよい。
【0038】
供給部30は、水を受け入れる受入口32a,32bと、センサ装着面21から気泡滞留凹部25の底面である第二被検体対向面26に貫通している超音波伝播室40と、受入口32a,32b及び超音波伝播室40のそれぞれに連通しているチャンバ35と、を有している。また、
【0039】
超音波伝播室40からセンサ装着面21に臨むセンサ側開口41、及び超音波伝播室40から気泡滞留凹部25の底面(第二被検体対向面)26に臨む被検体側開口42は、開口縁の形状及びサイズが互いに同じで、長方形の超音波入出力面11よりも僅かに大きいものの、この超音波入出力面11の形状及びサイズに対応している。具体的に、センサ側開口41及び被検体側開口42のX方向の幅寸法は、超音波入出力面11の長手方向の長さ寸法より僅かに長く、センサケーシング19の長手方向の長さ寸法より僅かに短い。また、そのY方向の幅寸法は、超音波入出力面11の短手方向の長さ寸法より僅かに長く、センサケーシング19の短手方向の長さよりも僅かに短い。
【0040】
気泡滞留凹部25は、X方向に長い被検体側開口42の縁のうち、第一走査方向である(+)Y方向側の全縁から(+)Y方向に広がっていると共に、第二走査方向である(−)Y方向側の全縁から(−)Y方向に広がっている。気泡滞留凹部25の底面(第二被検体対向面)26は、長方形で、その長手方向がX方向を向き、その短手方向がY方向を向いている。気泡滞留凹部25の底面26のX方向の幅寸法は、被検体側開口42のX方向の幅寸法と一致し、そのY方向の幅寸法は、被検体側開口42のY方向の幅寸法より大きい。具体的に、気泡滞留凹部25の底面26の(+)Y側の縁は、被検体側開口42の(+)Y側の縁から、(+)Y側へ、例えば、10mm程度の位置に形成され、気泡滞留凹部25の底面26の(−)Y側の縁は、被検体側開口42の(−)Y側の縁から、(−)Y側へ、例えば、10mm程度の位置に形成されている。また、気泡滞留凹部25の深さ寸法は、例えば、5mm程度である。
【0041】
気泡滞留凹部25の側壁面のうちで、第一走査方向である(+)Y方向側の側壁面27は、(+)Z側に向かうに連れて、第一走査方向である(+)Y方向側に曲がる曲面を成している。また、第二走査方向である(−)Y方向側の側壁面27は、(+)Z側に向かうに連れて、第二走査方向である(−)Y方向側に曲がる曲面を成している。なお、気泡滞留凹部25の(±)Y方向側の側壁面27の(+)Z側の部分は、曲面を成していなくてもよく、(+)Z側に向かうに連れて、被検体側開口42から遠ざかる向きに傾斜しているテーパ面であってもよし、テーパ面と曲面とを滑らかに繋いだ面であってもよい。
【0042】
チャンバ35は、超音波伝播室40のZ方向のほぼ中央部分であって、この超音波伝播室40の周面のうち、第一走査方向である(+)Y方向側の全周面から(+)Y方向に広がっていると共に、第二走査方向である(−)Y方向側の全周面から(−)Y方向に広がっている。このチャンバ35は、直方体形状を成し、直方体の表面のうち、一対の対向している面は、それぞれ(±)X方向を向き、他の一対の対向している面は、それぞれ(±)Y方向を向き、残りの一対の対向している面は、それぞれ(±)Z方向を向いている。このチャンバ35のX方向の幅寸法は、気泡滞留凹部25の底面26のX方向の幅寸法、及び被検体側開口42のX方向の幅寸法と一致している。また、このチャンバ35のY方向の幅寸法は、気泡滞留凹部25の開口及び底面26のY方向の幅寸法よりも大きい。
【0043】
このチャンバ35で、超音波伝播室40を基準にして、第一走査方向である(+)Y方向側に広がっている空間が第一チャンバ部35aを成し、第二走査方向である(−)Y方向側に広がっている空間が第二チャンバ部35bを成す。
【0044】
超音波伝播室40と各チャンバ部35a,35bとの境界部には、仕切り壁45が形成されている。具体的には、第一チャンバ部35aと超音波伝播室40との境界部と、チャンバ35の第二チャンバ部35bと超音波伝播室40との境界部とには、仕切り壁45が形成されている。すなわち、超音波伝播室40の周面のうちの(+)Y側の周面に沿った位置と、超音波伝播室40の周面のうちの(−)Y側の周面に沿った位置とに、仕切り壁45が形成されている。この仕切り壁45の超音波伝播室40側の壁面46は、この仕切り壁45を基準にして、(+)Z側及び(−)Z側に位置する超音波伝播室40の周面44と面一である。
【0045】
各仕切り壁45には、Y方向に貫通する、つまり、各チャンバ部35a,35bから超音波伝播室40に貫通する多数の貫通孔47が形成されている。多数の貫通孔47の超音波伝播室40を臨む円形の流入開口47aは、X方向に等間隔で一列に並んでいる。また、多数の貫通孔47の各流入開口47aは、Z方向では、センサ側開口41よりも第一被検体対向面22側に寄っている。
【0046】
具体的に、Z方向における流入開口47aの中心位置は、第一被検体対向面22から(−)Z方向へ12.9mmの位置で、センサ側開口41から(+)Z方向へ、17.1mmである。すなわち、図4に示すように、本実施形態のウェッジにおけるセンサ側開口41(又はセンサ装着面21)から第一被検体対向面22までの距離Dは、30mmであり、第一被検体対向面22から流入開口47aの中心までの距離dは、12.9mmである。なお、円形の流入開口47aの径は、本実施形態において、4mmである。
【0047】
ウェッジ20には、その(−)Z側の表面から第一チャンバ部35aに貫通する3つの第一貫通孔31aと、その(−)Z側の表面から第二チャンバ部35bに貫通する3つの第二貫通孔31bと、が形成されている。第一貫通孔31aで、ウェッジ20の(−)Z側の表面を臨む開口が第一受入口32aを成し、第一チャンバ部35aに臨む開口が第一チャンバ流入口33aを成している。また、第二貫通孔31bで、ウェッジ20の(−)Z側の表面を臨む開口が第二受入口32bを成し、第二チャンバ部35bに臨む開口が第二チャンバ流入口33bを成している。3つの第一貫通孔31aは、X方向に並び、互いの間隔が等間隔である。また、3つの第二貫通孔31bも、X方向に並び、互いの間隔が等間隔である。なお、ここでは、第一貫通孔31a及び第二貫通孔31bの数量がいずれも3つであるが、さらに多くてもよい。
【0048】
第一被検体対向面22、気泡滞留凹部25を形成する各面、超音波伝播室40の周面には、親水性を高める親水処理が施されている。具体的な親水処理の方法としては、例えば、アルコール、水溶性ポリマー、界面活性剤を含む噴射剤を処理対象面にスプレーする方法、メチルシリケート等の親水性材を処理対象面にコーティングする方法等がある。
【0049】
ウェッジ20は、製造上の都合により、第一被検体対向面22が形成されている被検体側ウェッジフレームFaと、センサ装着面21が形成されているセンサ側ウェッジフレームFbと、両者を接続するネジ(不図示)とを有して構成されている。なお、被検体側ウェッジフレームFa及びセンサ側ウェッジフレームFbは、いずれも、音響インピーダンスの値が水の音響インピーダンスに近い材料、例えば、ナイロン、アクリル、ポリスチレン等の樹脂で形成されている。
【0050】
被検体側ウェッジフレームFaには、前述の第一被検体対向面22の他、気泡滞留凹部25、被検体側開口42が形成されている。また、センサ側ウェッジフレームFbには、前述のセンサ装着面21の他、センサ側開口41、第一及び第二受入口32a,32b、接続フランジ29、仕切り壁45が形成されている。また、チャンバ35及び超音波伝播室40は、いずれも、2つのウェッジフレームFa,Fbの協同により形成されている。
【0051】
本実施形態の超音波探傷システムで被検体Sを超音波探傷する際には、まず、水供給源からの水を脱気器8及び気泡除去フィルタ9を介して、ウェッジ20に供給する。この水は、ウェッジ20の複数の第一受入口32aからチャンバ35の第一チャンバ部35aに流入すると共に、複数の第二受入口32bからチャンバ35の第二チャンバ部35bに流入する。各チャンバ部35a,35bに流入した水は、ウェッジ20の超音波伝播室40を満たし、被検体側開口42から外部に流出する。
【0052】
次に、押付機構3を駆動させて、ウェッジ20の第一被検体対向面22を被検体Sの表面に押付ける。このとき、被検体側開口42から流出した水は、気泡滞留凹部25と被検体Sの表面との間、第一被検体対向面22と被検体Sの表面との間の隙間と経て、これらの間から排出される。
【0053】
次に、ウェッジ20のセンサ装着面21に装着されているセンサ10を駆動する。すると、センサ10の超音波入出力面11から超音波が発信され、超音波伝播室40及び気泡滞留凹部25を満たしている水を介して、この超音波が被検体Sに達する。この超音波は、被検体Sの表面、その裏面、被検体Sの内部の傷等、音響インピーダンスが変化する箇所で反射し、一部が、気泡滞留凹部25及び超音波伝播室40を満たしている水を介して、センサ10の超音波入出力面11に入射する。センサ10は、超音波入出力面11に入射した超音波の反射波を電気信号に変換して、これを出力する。すなわち、センサ10の駆動により、被検体Sの超音波探傷が開始される。
【0054】
次に、走査機構4を駆動させて、超音波探傷装置1を第一又は第二走査方向に移動させる。この超音波探傷装置1の第一又は第二走査方向への移動により、この走査方向における超音波探傷が行われる。
【0055】
超音波探傷では、被検体中の超音波の減衰を補償するために、TGC(Time Gain Compensation)曲線又はDAC(Distance Amplitude Curve)等の感度校正曲線を予め作成し、この感度校正曲線に基づき、超音波伝播距離の増加に応じてセンサ出力の利得を大きくしている。
【0056】
このため、超音波伝播距離が大きな位置に超音波反射源があると、仮に、この超音波反射源のサイズが小さくても、比較的大きなセンサ出力となる。
【0057】
特に、被検体が単一の金属材で形成されておらず、減衰の大きい複合材で形成されている場合には、センサ出力にかける利得の値が大きくなり、例えば、図5のTGC曲線に示すように、被検体の厚さをtとしたとき、距離tの位置での利得は距離0の位置での利得の200倍になる。このため、被検体が減衰の大きい複合材で形成されている場合、超音波伝播距離の大きな位置に超音波反射源があった際のセンサ出力の増大は、より顕著になる。
【0058】
本実施形態のように、超音波伝播室40に、流入開口47aが臨んでいる場合、この流入開口47aの縁が超音波反射源になる。具体的には、図4に示すように、超音波探傷センサの超音波入出力面11から発信された超音波の一部は、被検体Sの表面で反射してセンサ側に戻り、この反射波が流入開口47aの縁でさらに反射し、再び、被検体Sの表面で反射して、超音波入出力面11に入射する。
【0059】
仮に、流入開口がセンサ側開口41に寄った位置にあったとすると、被検体Sと流入開口との間の距離が大きくなり、結果として、超音波伝播距離が大きくなる。このために、この流入開口に関するセンサ出力の利得も大きくなって、ノイズである流入開口に関するセンサ出力が比較的大きくなり、被検体S中の傷と誤判断してしまう恐れがある。
【0060】
そこで、本実施形態では、流入開口に関する超音波伝播距離を小さくするため、前述したように、Z方向において、流入開口47aの位置を第一被検体対向面22側に寄せている。
【0061】
ここで、前述したように、流入開口がセンサ側開口41に寄った位置にあり、図6の示すように、この流入開口に関するセンサ出力sが、t+βの位置に現れ、その出力値が許容ノイズレベルの5倍ほどもあるとする。なお、ここでは、被検体Sと同一材料からなる厚さtの校正用試験体裏面(表面から距離tの位置)に設けられた校正用欠陥について、そのセンサ出力値の1/2のセンサ出力値を許容ノイズレベルとしている。また、図6中、tの位置近傍に現れているセンサ出力は、被検体Sの裏面に関するセンサ出力である。
【0062】
この場合、流入開口に関するセンサ出力値sを許容ノイズレベル以下に抑えるためには、利得を65倍以下にする必要があるため、図5に示すTGC曲線を参照すると、流入開口に関するセンサ出力の位置が被検体Sの表面から距離0.8t以下でなければならない。つまり、流入開口の反射部分が被検体の表面から0.8t以下の位置に存在する必要がある。
【0063】
流入開口の反射部分が被検体Sの表面から0.8tの位置に存在する場合、超音波が被検体Sの表面で反射し、この反射波が再び被検体Sの表面に到達するまでの超音波伝播距離は、2×0.8tである。ところで、この超音波伝播距離は、被検体S中における伝播距離であり、実際の流入開口は水中に存在するので、以下のように、水中における伝播距離Lに換算する。
【0064】
L=(2×0.8t)×Vw/Vs
なお、Vwは、水中での超音波伝播速度(m/s)であり、Vsは、被検体中の超音波伝播速度(m/s)である。
【0065】
この超音波伝播距離Lは、前述したように、超音波が被検体Sの表面から流入開口の反射部分で反射して、再び被検体Sの表面に達するまでの距離であるから、被検体Sの表面と流入開口との間の距離は、その半分(L/2)である。
【0066】
ここで、被検体Sの最大厚さtを36(mm)、水中での超音波伝播速度Vwを1500(m/s)、被検体中の超音波伝播速度Vsを2900(m/s)とすると、被検体Sの表面と流入開口との間の距離(L/2)は、以下に示すように、14.9(mm)となる。
L/2=〔(2×0.8×0.036)×1500/2900〕/2
=0.0149(m)=14.9(mm)
【0067】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、被検体Sの表面から流入開口47aの反射部分までの距離、言い換えると、第一被検体対向面22から流入開口47aの縁のうちで最もセンサ側の縁までの距離dを14.9(mm)にしている。この結果、本実施形態では、円形の流入開口47aの径が4mmであることから、第一被検体対向面22から流入開口47aの中心までの距離dが、前述したように、12.9(mm)になる。
【0068】
このように、本実施形態では、流入開口47aを第一被検体対向面22側に寄せたことにより、図6に示すように、この流入開口47aに関するセンサ出力値sを許容ノイズレベル以下に抑えることができる。
【0069】
また、本実施形態では、流入開口47aの形状を円形にしているため、センサ10の超音波入出力面11から発信された超音波が被検体Sの表面で反射してセンサ側に戻り、この反射波が流入開口47aの縁でさらに反射したときに、流入開口47aの縁で反射した反射波が各方向へ向かい、この反射波のうちで、再び、被検体Sの表面に向かう反射波の量は、背景技術の欄で例示した特許文献1に記載の長方形状の流入開口よりも、少なくなる。
【0070】
よって、本実施形態では、ノイズである流入開口47aに関するセンサ出力を小さく抑えることができ、このノイズを被検体中の傷と誤判断してしまうことを回避することができる。
【0071】
ところで、背景技術の欄で前述したように、センサ10の超音波入出力面11と被検体Sとの間の水中に気泡が存在すると、センサ10は、この気泡を被検体Sの傷として誤検知することがある。センサ10の超音波入出力面11と被検体Sとの間の気泡には、水供給源の水中に既に含まれている気泡が超音波伝播室40内に流入したものや、超音波探傷装置1を走査する過程で、ウェッジ20の第一被検体対向面22と被検体Sの表面との間に噛み込まれた気体が気泡として、センサ10の超音波入出力面11と被検体Sとの間に移動してきたものがある。
【0072】
本実施形態では、水供給源の水中に既に含まれている気泡に関しては、水供給ライン7中に設けられている脱気器8及び気泡除去フィルタ9で除去する。しかしながら、水供給源の水中に既に含まれている気泡の全てを、脱気器8及び気泡除去フィルタ9で除去できない場合がある。また、気泡除去フィルタ9から流出した水に溶け込んでいた気体が、水の温度変化による飽和気体濃度変化で、気泡になる場合もある。これらの気泡は、ウェッジ20に対する水の流入及び流出と同様、ウェッジ20の複数の第一受入口32aからチャンバ35の第一チャンバ部35aに流入すると共に、複数の第二受入口32bからチャンバ35の第二チャンバ部35bに流入し、超音波伝播室40を経て、被検体側開口42から外部に流出する。
【0073】
仮に、受入口32a,32bからの水が、超音波伝播室40の周面の周方向での各位置から、この超音波伝播室40に均等な流量で流入しない場合には、この超音波伝播室40内に水の淀みが発生し、ここに気泡が一時的に滞留してしまうことがある。すなわち、センサ10の超音波入出力面11と被検体Sとの間に、気泡が滞留してしまうことがある。
【0074】
そこで、本実施形態では、超音波伝播室40の上流側にチャンバ35を設け、受入口32a,32bからの水の分散化を図り、超音波伝播室40の周面の周方向での各位置から、この超音波伝播室40に流入する水の流量の均等化を図っている。しかも、本実施形態では、チャンバ35の第一チャンバ部35a及び第二チャンバ部35bに対する水の流入位置を分散化しているので、超音波伝播室40の周面の周方向での各位置から、この超音波伝播室40に流入する水の流量の更なる均等化を図ることができる。このため、超音波伝播室40内に水の淀みが発生し難く、仮に、水の淀みが発生したとしても極めて小さい淀みになる。この結果、本実施形態では、脱気器8や気泡除去フィルタ9で除去できなかった気泡等が存在していたとしても、この気泡は、超音波伝播室40内で滞留することなく、スムーズに被検体側開口42から気泡を排出することができる。
【0075】
また、本実施形態では、超音波伝播室40の(+)Z側への延長上に位置する気泡Bは、図2に示すように、被検体側開口42の回りに形成されている気泡滞留凹部25内において、ウェッジ20の走査方向への移動により、このウェッジ20に対して相対的に走査方向と反対側に直ちに移動してしまい、センサ10の超音波入出力面11と被検体Sとの間には気泡が存在しなくなる。なお、超音波伝播室40の(+)Z側への延長上に位置する気泡は、被検体側開口42から排出されたものや、ウェッジ20の被検体対向面22と被検体Sの表面との間に噛み込まれた気体が気泡として、センサ10の超音波入出力面11と被検体Sとの間に移動してきたものである。
【0076】
また、本実施形態では、気泡滞留凹部25の(±)Y方向側の側壁面27を曲面で形成しているため、この気泡滞留凹部25内に溜まった気泡Bが第一被検体対向面22と被検体Sの表面との間の隙間に入り込み易くなり、気泡滞留凹部25内の気泡Bの排出を促すことができる。さらに、本実施形態では、第一被検体対向面22と被検体Sの表面との間の隙間が、隙間確保部50により気泡の通れる隙間になっている上に、この隙間確保部50の形状が、図3に示すよう、第一走査方向である(+)Y方向、及び第二走査方向である(−)Y方向への気泡Bの移動に抵抗の少ない形状になっており、しかも、被検体対向面22に親水性処理が施されているため、気泡滞留凹部25から、被検体対向面22と被検体Sの表面との間に入ってきた気泡Bの排出を促すことができる。
【0077】
以上のように、本実施形態では、水中の気泡の排除を促進させることができるので、気泡によるノイズの発生を抑えることができると共に、ノイズである流入開口47aに関するセンサ出力を小さく抑えることができる。このため、被検体S中の傷をより確実に検知することができる。
【0078】
「変形例」
次に、以上で説明したウェッジの各種変形例について説明する。
【0079】
まず、図8を用いて、各チャンバ部から超音波伝播室へ貫通する貫通孔の変形例について説明する。
【0080】
上記実施形態における貫通孔47は、Z方向に貫通している超音波伝播室40に対して垂直な方向であるY方向に貫通している。この場合、センサ10の超音波入出力面11から発信された超音波が被検体Sの表面で反射してセンサ側に戻り、この反射波が貫通孔47の流入開口47aでさらに反射したときに、流入開口47aで反射した反射波が、再び、被検体Sの表面に向かう可能性が比較的高い。
【0081】
そこで、本変形例では、図8に示すように、貫通孔47bの貫通方向を、各チャンバ部35a,35bから超音波伝播室40に向かうに連れて、被検体側開口42に近づく向きに傾斜させている。このように、貫通孔47bを傾斜させると、センサ10の超音波入出力面11から発信された超音波が被検体Sの表面で反射してセンサ側に戻り、この反射波が流入開口47aでさらに反射したときに、流入開口47aで反射した反射波の多くが、貫通孔47b内に向かい、再び、被検体Sの表面に向かう反射波が少なくなる。
【0082】
このため、本変形例では、上記実施形態よりも、ノイズである流入開口47aに関するセンサ出力を小さく抑えることができる。
【0083】
なお、本変形例では、貫通孔47bの流入開口47aの位置は、上記実施形態よりも、さらに第一被検体対向面22側に寄っている。
【0084】
次に、図9を用いて、気泡滞留凹部の変形例について説明する。
【0085】
本変形例の気泡滞留凹部25aは、この気泡滞留凹部25aを成す凹みの底面に、吸音材55、例えば、ゴムシートを貼り付けたものである。この場合、この吸音材55の被検体側の面が第二被検体対向面56となる。
【0086】
上記実施形態では、センサ10からの超音波で被検体Sの表面で反射した反射波のうち、一部が気泡滞留凹部25の底面である第二被検体対向面26に向かうと、この反射波は、第二被検体対向面26と被写体Sの表面との間で反射を繰り返し、一部がノイズとしてセンサ10に戻ってくる。上記実施形態の第二被検体対向面26は、前述したように、音響インピーダンスの値が水の音響インピーダンスに近い樹脂等で形成されているため、超音波の反射率が低く、ノイズレベルが低いものの、第二被検体対向面26と被写体Sの表面との間で反射を繰り返してセンサ10に戻ってきた超音波は、ノイズであることに変わりはない。
【0087】
そこで、本変形例では、気泡滞留凹部25aを成す凹みの底面に吸音材55を施し、センサ10からの超音波で被検体Sの表面で反射した反射波のうち、一部が気泡滞留凹部25aの底面である第二被検体対向面56に向かった反射波を吸音材55で吸音し、ノイズの低減化を図っている。
【0088】
なお、本変形例では、気泡滞留凹部25aを成す凹みの底面の全体に吸音材55を施しているが、この底面のうちで、被検体側開口42に沿った部分のみに吸音材を施しても、ほぼ同様のノイズ低減効果を得ることができる。
【0089】
以上、本発明に係る実施形態及び変形例を説明したが、本発明は、上記実施形態及び上記変形例に限定されるものでない。例えば、上記実施形態及び上記変形例では、超音波の伝播媒質がいずれも水であるが、本発明では、超音波の伝播媒質がオイル等であってもよい。また、受入口32a,32bは、ウェッジ20の底面に限られず、他の位置に設けてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1:超音波探傷装置、10:超音波探傷センサ、11:超音波入出力面、20:ウェッジ、21:センサ装着面、22:第一被検体対向面、25,25a:気泡滞留凹部、26,56:第二被検体対向面、30:供給部、31a,31b:貫通孔、32a,32b:受入口、33a,33b:チャンバ流入口、35:チャンバ、35a:第一チャンバ部、35b:第二チャンバ部、40:超音波伝播室、41:センサ側開口、42:被検体側開口、45:仕切り壁、47,47b:貫通孔、47a:流入開口、50:隙間確保部、55:吸音材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探傷センサが装着され、該超音波探傷センサと被検体との間に超音波の伝播媒質を供給する超音波探傷用ウェッジにおいて、
前記被検体の表面に対向する被検体対向面と、
前記超音波探傷センサが装着されるセンサ装着面と、
前記伝播媒質を受け入れる受入口と、
前記受入口と連通し、該受入口からの前記伝播媒質が溜まるチャンバと、
前記センサ装着面から前記被検体対向面に貫通し、前記チャンバ内の前記伝播媒質が流入して、該伝播媒質で満たされる超音波伝播室と、
が形成され、
前記チャンバと前記超音波伝播室との境界部には、仕切り壁が形成され、該仕切り壁には、該チャンバ内の前記伝播媒質を該超音波伝播室に流入させるために、該チャンバから該超音波伝播室に貫通した多数の貫通孔が形成され、
前記多数の貫通孔の該超音波伝播室を臨む各流入開口は、該超音波伝播室の周面の周方向に一列に並び、且つ該超音波伝播室から前記センサ装着面に臨むセンサ側開口と、該超音波伝播室から前記被検体対向面に臨む被検体側開口とのうち、該被検体開口側に寄った位置に形成されている、
ことを特徴とする超音波探傷用ウェッジ。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷用ウェッジにおいて、
前記仕切り壁を貫通する前記多数の貫通孔は、前記チャンバから前記超音波伝播室に向かうに連れて、前記被検体側開口に近づく向きに傾斜している、
ことを特徴とする超音波探傷用ウェッジ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音波探傷用ウェッジにおいて、
前記仕切り壁を貫通する前記多数の貫通孔の前記流入開口は、円形である、
ことを特徴とする超音波探傷用ウェッジ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の超音波探傷用ウェッジにおいて、
前記被検体対向面は、前記被検体の表面に対向する第一被検体対向面及び第二被検体対向面を有し、
前記第一被検体対向面から前記センサ装着面側に凹み、凹みの底面が前記第二被検体対向面を成す気泡滞留凹部が形成され、
前記超音波伝播室は、前記センサ装着面から前記気泡滞留凹部の前記第二被検体対向面に貫通し、
前記気泡滞留凹部は、前記超音波伝播室から該気泡滞留凹部の前記第二被検体対向面に臨む前記被検体側開口の縁のうち、前記センサ装着面に装着された前記超音波探傷センサの予め定められた走査方向と反対側の反走査方向側縁の全縁から該反対側に広がっている、
ことを特徴とする超音波探傷用ウェッジ。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波探傷用ウェッジにおいて、
前記多数の貫通孔の流入開口は、前記センサ側開口と前記第一被検体対向面とのうち、該第一被検体対向面側に寄った位置に形成されている、
ことを特徴とする超音波探傷用ウェッジ。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の超音波探傷用ウェッジにおいて、
前記超音波探傷センサの前記予め定められた走査方向として、第一走査方向と、該第一走査方向と正反対の向きの第二走査方向とがあり、
前記気泡滞留凹部は、前記被検体側開口の縁のうち、前記第一走査方向側の全縁から該第一走査方向側に広がっていると共に、該被検体側開口の縁のうち、前記第二走査方向側の全縁から該第二走査方向側に広がっている、
ことを特徴とする超音波探傷用ウェッジ。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の超音波探傷用ウェッジにおいて、
前記第二被検体対向面のうち、少なくとも前記被検体側開口の縁を含む開口縁部には、吸音材が施されている、
ことを特徴とする超音波探傷用ウェッジ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の超音波探傷用ウェッジと、
前記超音波探傷用ウェッジの前記センサ装着面に装着される前記超音波探傷センサと、
を備えていることを特徴とする超音波探傷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate