説明

超音波探触子

【課題】メカニカル走査型超音波探触子において、音響伝搬媒体室層を除外できるようにする。
【解決手段】可動体14は回転軸16を中心として回転運動を行なう。可動体14は、振動子ユニット18とその両側に設けられた張出部21,22を有する。これにより、送受波面18Aの両側に案内面21A,22Aが構成される。それらはスリップ面14Aを構成する。生体表面26上にスリップ面14Aを当接させ、さらにスリップ面14Aを運動させた状態において超音波の送受波が行なわれる。スリップ面14A及び生体表面26上には音響伝搬媒体が予め塗布される。そのような媒体等がプローブ内部に侵入することが開口縁24Aによって制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探触子に関し、特に、振動子ユニットを機械的に走査するタイプの超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
単振動子が機械的に走査されるメカニカルセクタ走査型超音波探触子、アレイ振動子が機械的に走査される三次元エコーデータ取り込み用超音波探触子(特許文献1)等においては、プローブケース内において超音波振動子を備えた振動子ユニットが機械的に走査される。例えば、1Dアレイ振動子を素子配列方向と直交する方向へ走査すれば、走査面を移動させて三次元エコーデータ取り込み空間を形成できる。振動子ユニットと生体表面との間において音響伝搬を良好にするために、あるいは、空気層の介在を排除するために、プローブケース内には音響伝搬媒体として水、生理食塩水やオイルなどが充填、封入されている。一方、プローブケースの当接面あるいは生体表面との間には音響媒体としてゲル状の音響用ゼリーが塗布され、つまり、当接面と生体表面との間の空隙は音響ゼリーによって満たされる。
【0003】
【特許文献1】特開平3−231649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プローブケース内に密閉空間としての音響媒体室を形成し、その音響媒体室内において振動子ユニットを運動させると、振動子ユニットの運動に際して抵抗、負荷が大きく、このため振動子ユニットを駆動する機構として大型のものを利用しなければならないという問題があった。また、音響媒体室それ自体の存在により、及び、大型の駆動源を利用しなければならないことから、超音波探触子が大型化し、その重量も増大するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、振動子ユニットが機械的に走査される超音波探触子において、ケース内に密閉された音響媒体室を形成しなくてもよいようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、超音波を送受波する振動子ユニットを備える可動体と、前記可動体を機械走査方向に運動させる機械走査機構と、を含み、前記可動体は生体表面に対してスリップしながら接触するスリップ面を有し、前記スリップ面の一部が送受波面であり、前記スリップ面の運動状態において前記送受波面を介して超音波が送受波される、ことを特徴とする超音波探触子に関する。
【0007】
上記構成によれば、スリップ面を生体表面上に当接させ、しかもスリップさせた状態において、超音波を送受波してエコーデータを取り込める。その際、スリップ面と生体表面との間にはゲル状、ゼリー状の音響伝搬媒体(音響媒体)が塗布されあるいは導入される。可動体の機械走査に伴い、音響伝搬媒体が周囲へ移動して接触部分に音響伝搬媒体が不足するような場合には、機械走査に伴い音響伝搬媒体を補充する機構を付加してもよい。上記構成によればスリップ状態で送受波を行う新しいメカニカル走査方式を実現できる。超音波探触子内に音響伝搬媒体室を形成しなくてよいので、機械走査機構を小型化でき、超音波探触子それ自体を軽量化、小型化できるという利点がある。送受波面を生体表面上において円滑にスリップさせるために、送受波面の機械走査方向にはそれに連絡した面を形成しておくのが望ましい。すなわち、生体表面に当たるスリップ面を大きくしておけば、比較的に小さいあるいは狭い送受波面だけをスリップさせる場合に生じる引っ掛かりや抵抗といった問題を緩和又は解消できる。
【0008】
望ましくは、前記スリップ面は、前記送受波面と、前記送受波面の機械走査方向両側に設けられ、前記送受波面に連なる一対の案内面と、を有する。この構成によれば、送受波面の両側に張り出した案内面によって、スリップ面を大きくしてその滑りを良好にできる。送受波面と案内面をまったく同じ高さにしてもよいが、送受波面の当接状態をより良好にするためには送受波面をやや前方へ突出させるようにしてもよい。スリップ面は望ましくは円筒面、楕円球面、緩やかに湾曲した平面、実質的に平面、として構成することができる。機械走査方式に対応してスリップ面の形態を適宜定めるのがよい。可動体が回転体であれば回転軸から等距離の面として(回転対称形状をもった面として)スリップ面を構成してもよい。
【0009】
望ましくは、前記可動体におけるスリップ面の一部を露出させる開口部を有するケースを有し、前記ケースにおける開口部周囲の開口縁は前記スリップ面に近接又は接触し、前記開口縁は前記スリップ面の運動状態において前記スリップ面上の音響伝搬媒体が開口部内へ進入することを制限する。この構成において開口縁は実質的に堰き止め部として機能する。開口縁をスリップ面に接触させれば堰き止め効果を高められる。開口部内に進入してしまう音響伝搬媒体に対しては、それを洗浄、除去できるように構成するのが望ましい。あるいは、可動体の機械走査に伴い音響伝搬媒体を定量供給する機構をプローブ自体に設けるようにしてもよい。開口縁をスリップ面に近接又は接触させればその隙間に皮膚や毛が入り込んでしまうことも制限できる。
【0010】
望ましくは、前記機械走査機構は前記可動体を回転軸回りにおいて揺動運動させ、前記スリップ面は前記機械走査方向に沿って丸みをもって湾曲した面である。望ましくは、前記機械走査機構は前記可動体を平行運動させ、前記スリップ面は前記機械走査方向に沿って広がった実質的に平坦な面である。望ましくは、前記送受波面は前記一対の案内面に連なりつつもそれらよりも生体側へ突出している。この構成によれば、送受波面の密着度を高めて、より良好な音響伝搬を確保できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、振動子ユニットが機械的に走査される超音波探触子において、ケース内に密閉された音響伝搬媒体室を形成しなくてもよいという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1には、本発明に係る超音波探触子の部分的な断面図が示されている。この超音波探触子は生体表面上に当接して用いられ、その状態において超音波の送受波を行なうものである。超音波探触子は図示されていない超音波診断装置本体に対してケーブルを介して接続される。
【0014】
図1において、超音波探触子(プローブ)10は、下部フレーム12を有する。下部フレーム12の上方には図示されていないグリップ部が設けられている。下部フレーム12の周囲はケースの一部をなすカバー部材24によって取り囲まれている。下部フレーム12には図示されていない機械走査機構が内蔵されている。機械走査機構は回転軸16を中心として可動体14を回転運動させるものである。具体的には可動体20を揺動運動させるものである。
【0015】
可動体14は振動子ユニット18を有している。振動子ユニット18は複数の振動素子からなるアレイ振動子20を備える。図1において、紙面垂直方向に複数の振動素子が配列されており、振動子ユニット18の下端面は送受波面18Aである。この送受波面18Aは可動体14におけるスリップ面14Aの一部面を成す。
【0016】
具体的には、可動体14におけるスリップ面14Aが生体表面26上に当接されており、しかも可動体14は往復運動するため、スリップ面14Aはスリップを行いながら生体表面26へ接触する。振動子ユニット18の機械走査方向両側には張出部21,22が設けられている。すなわち、可動体14は、一対の張出部21,22とそれによってはさまれた振動子ユニット18とによって構成されている。それら全体としてラクビーボールあるいは楕円球の部分的形態が構成されている。一対の張出部21,22と振動子ユニットを一体化してもよい。スリップ面14Aは上述した送受波面18Aと、その機械走査方向両側に設けられた案内面21A,22Aによって構成されている。送受波面18Aは一対の案内面21A,22Aに対して連なっており、スリップ面14A全体として滑らかな曲面が形成されている。ただし、一対の案内面21A,22Aに対して送受波面18Aが若干ながら生体側に突出している。送受波面18Aの辺縁はなだらかになっており、スリップ面18Aがスリップ運動をする場合において送受波面18Aの辺縁が生体に衝突して生体に対して違和感を生じさせてしまうことが軽減されている。
【0017】
カバー部材24の下側には開口部24Bが形成されており、カバー部材24の下端部すなわち開口縁24Aが堰き止め部として機能している。つまり、開口縁24Aの先端がスリップ面14Aに近接しあるいは接触することにより、スリップ面24Aに塗布された音響伝搬媒体が下部フレーム12の内部へ侵入することが効果的に阻止されあるいは軽減される。同様に、生体の皮膚や毛などが進入することが効果的に制限されている。
【0018】
すなわち、本実施形態に係る超音波探触子を使用する場合、生体表面26上にあるいはスリップ面14A上にゲル状あるいはゼリー状の音響伝搬媒体が塗布され、両者間における空気層の排除状態が形成されつつ、スリップ面14Aが往復運動をし、その状態において超音波の送受波が並行して実行される。アレイ振動子20により超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子的に走査され、これによって走査面が形成される。可動体14Aの往復運動に伴い走査面も機械走査方向に運動し、これによって周期的に三次元エコーデータ取込領域が形成される。超音波の送受波に伴って可動体14が生体表面26上にスリップ運動することになるが、その際において音響伝搬媒体がプローブ内に進入したりあるいは皮膚や毛がプローブ内に進入したりすることが上述した構造により効果的に阻止される。
【0019】
本実施形態のプローブにおいては、従来のような密閉された音響伝搬媒体室は形成されておらず、いわば振動子ユニットがむき出しの状態となっているため、音響伝搬媒体室の形成に伴ってプローブが大型化したり重量化してしまうことを効果的に防止できるという利点がある。しかも、音響伝搬媒体室内において振動子ユニットを運動させる場合、どうしても媒体抵抗が振動子ユニットに生じてしまうが、上記構成によればそのような意味での媒体抵抗が生じないという利点がある。これは走査機構における駆動源やギア機構の負荷を軽減できるという利点に繋がり、そのような観点からもプローブの小型化軽量化を促進できるという利点がある。
【0020】
ちなみに、プローブ内に音響伝搬媒体を連続的に吐出する構造を設けるようにしてもよい。また、プローブ内に進入した音響伝搬媒体を超音波診断後に除去あるいは洗浄するために、可動体20をプローブ本体から分離できるように構成してもよい。上記の実施形態においては、可動体14が往復運動されていたが、可動体を連続的に一方向に回転運動させる構成を採用することも可能である。いずれにしても、送受波面18Aの両側の面を広げて生体表面26上において円滑にスリップ運動を行なわせることにより、音響伝搬媒体室を不要とした新しいメカニカルスキャン方式を実現することが可能となる。
【0021】
図2及び図3には、図1に示した原理を実現した場合におけるプローブの一部が示されている。図2においては可動体14がセンター位置にあり、図3においては可動体14が斜めに傾斜した位置にある。スリップ面はそれ全体としてつるんとした卵形あるいはラグビーボール形状を有しており、そのようなスリップ面において送受波面18Aが若干ながら生体側に膨らみ出ている。カバー部材24には軸受を収容する部分28,30が形成されている。このようなプローブにおいては、スリップ面だけが生体表面に当接され、その場合においてプローブ本体は使用者の手によって保持されることになる。可動体の往復運動に伴い振動等が問題となるような場合には、プローブ本体に対して治具を設け、その当接姿勢を安定化するようにしてもよい。
【0022】
図4及び図5には他の実施形態が示されている。図1乃至図3に示した実施形態においては回転軸周りにおいて可動体が往復運動していたが、図4及び図5に示す実施形態においては可動体34が直線方向に往復運動している。具体的に説明すると、可動体34は振動子ユニット36及びその両側に設けられた一対の張出部38,40を有しており、カバー部材32は開口部32Aを有する。開口部32Aの機械走査方向両側には平坦面32Bが構成されており、これはスリップ面に実質的に連なる平面として構成されている。スリップ面すなわち可動面は振動子ユニット36が有する送受波面と、一対の張出部38,40が有する一対の案内面と、によって構成されるものであり、それらの面全体として実質的に平坦な面が構成されている。ただし、図示されるように若干ながら送受波面36が生体側に突出している。これは生体と送受波面との密着度を高めるためである。
【0023】
なお、図4においては振動子ユニットがセンター位置にある状態が示されており、図5においては振動子ユニットが一方側に変位した位置にある状態が示されている。振動子ユニット36は上述した実施形態と同様に往復運動され、これによって周期的に三次元エコーデータ取込領域が形成される。すなわち、アレイ振動子に対する電子走査とアレイ振動子の機械走査とが組み合わされ、これによって立方体空間としての三次元エコーデータ取込領域が形成される。
【0024】
図4及び図5に示す実施形態においては、スリップ面のほかに非スリップ面としての平坦面32Bが生体表面に当接することになるため、プローブの当接姿勢を安定化できるという利点がある。このような構成は図1乃至図3に示した実施形態においても採用可能であり、これに関しては上述したとおりである。図4及び図5に示した実施形態においても、開口部32Aの周囲すなわち開口縁がスリップ面に近接あるいは接触しているのが望ましく、それらの隙間への媒体の侵入、皮膚あるいは毛の進入といった問題を効果的に防止あるいは軽減できるという利点がある。いずれにしても、送受波面の両側に案内面を形成し、生体表面に対して比較的大きな接触面積を持ってプローブを当接させることによりスリップ面を体表面上において円滑にスリップさせることが可能となる。これにより音響媒体室を排除した新しいメカニカル走査方式を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る超音波探触子の一部構成を示す断面図である。
【図2】図1に示した原理が適用される超音波探触子の実施形態を示す図である。
【図3】図1に示した原理が適用される超音波探触子の実施形態を示す図である。
【図4】他の実施形態に係る超音波探触子を示す図である。
【図5】他の実施形態に係る超音波探触子を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
10 超音波探触子(プローブ)、14 可動体、16 回転軸、18 振動子ユニット、20 アレイ振動子、21,22 張出部、14A スリップ面、21A,22A 案内面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受波する振動子ユニットを備える可動体と、
前記可動体を機械走査方向に運動させる機械走査機構と、
を含み、
前記可動体は生体表面に対してスリップしながら接触するスリップ面を有し、
前記スリップ面の一部が送受波面であり、
前記スリップ面の運動状態において前記送受波面を介して超音波が送受波される、ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記スリップ面は、
前記送受波面と、
前記送受波面の機械走査方向両側に設けられ、前記送受波面に連なる一対の案内面と、
を有することを特徴とする超音波探触子。
【請求項3】
請求項2記載の超音波探触子において、
前記可動体におけるスリップ面の一部を露出させる開口部を有するケースを有し、
前記ケースにおける開口部周囲の開口縁は前記スリップ面に近接又は接触し、
前記開口縁は前記スリップ面の運動状態において前記スリップ面上の音響伝搬媒体が開口部内へ進入することを制限する、
ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項4】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記機械走査機構は前記可動体を回転軸回りにおいて揺動運動させ、
前記スリップ面は前記機械走査方向に沿って丸みをもって湾曲した面である、
ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項5】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記機械走査機構は前記可動体を平行運動させ、
前記スリップ面は前記機械走査方向に沿って広がった実質的に平坦な面である、
ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項6】
請求項4又は5記載の超音波探触子において、
前記送受波面は前記一対の案内面に連なりつつもそれらよりも生体側へ突出している、ことを特徴とする超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−142374(P2009−142374A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320766(P2007−320766)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】