説明

超音波流速流量計

【課題】振動抑制体および超音波送受信器の取り付け状態を目視することなく判定できる超音波流速流量計を提供することを目的とする。
【解決手段】流体を一方の開口端から他方の開口端に通す流路1と、流路1の上流と下流に流体に接するように配置した第1、第2の超音波送受信器4,5と、第1、第2の超音波送受信器4,5間の超音波伝播時間を計測する計時装置6と、計時装置6により得られた超音波伝播時間に基づいて被測定流体の流量を演算する演算手段7とを備え、第1、第2の超音波送受信器4,5が流路1に振動抑制体3を介して正しく固定されているかを判定する固定状態判定手段8を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体(特に気体)中に超音波を送信、または、流体中を伝搬する超音波を受信するための超音波送受波器を用いる超音波流速流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の超音波流速流量計は、例えば、図12に示すように、被測定流体が流れる計測流路40と、この計測流路40に対向配置されて超音波を送受信する一対の超音波送受波器41、42と、この超音波送受波器41、42間の超音波伝搬時間を計測する計時装置43と、計時装置43からの信号に基づいて流量を算出する演算手段44とを備え、超音波送受波器41、42は、天部と、側壁部と、この側壁部の外側に設けた支持部と、前記天部の内壁面に固定された圧電体で構成されており、前記側壁部に当接し、側壁部の振動を低減し、前記支持部を保持する保持部を有する振動抑制体45で、計測流路40に取付けた構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−159551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成では、超音波送受波器と流路との間の振動抑制体の固定状態によっては、流速流量計測値が不安定化する、あるいは、温度の変化によって流量測定値が不安定化することがあるという課題を有していた。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、振動抑制体および超音波送受波器の取り付け状態を目視することなく判定し、異常な取り付け状態を回避することによって流速流量計測値が安定化し、より精度の高い流速流量計測を可能とした超音波流速流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明の超音波流速流量計は、両端に開口端が形成されており、被測定流体を一方の開口端から他方の開口端に通す流路と、前記流路の上流と下流に前記被測定流体に接するように配置された一対の超音波送受信器と、前記一対の超音波送受波器間の超音波伝播時間を計測する計時装置と、前記計時装置により得られた超音波伝播時間に基づいて前記被測定流体の流量を演算する演算手段とを備え、振動抑制体を有しており、前記一対の超音波送受波器が前記流路に前記振動抑制体を介して保持され、前記振動抑制体が正しく固定されているかを判定する固定状態判定手段を備えるものである。
【0007】
これによって、流量計測前に、振動抑制体および超音波送受波器が流路に正しく固定されているかを判定することができ、異常な取り付け状態を回避することによって流量計測値が安定化し、より精度の高い流量計測が可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の超音波流速流量計は、振動抑制体の取り付け状態を目視することなく判定し、異常な取り付け状態を回避することによって流速流量計測値が安定化し、また、温度変化に関わらず安定した流速流量計測を行うことができるためより精度の高い流速流量計測を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1における超音波流速流量計の概略図
【図2】同実施の形態における超音波送受波器の固定状態を示す断面図
【図3】同実施の形態における超音波送受波器の固定状態を示す断面図
【図4】同実施の形態における超音波送受波器に送信する駆動信号波形と受信信号波形を示す図
【図5】(a)同実施の形態における超音波流速流量計の側面断面図、(b)同実施の形態における超音波流速流量計の断面図
【図6】同実施の形態における超音波送受波器に送信する駆動信号波形と受信信号波形を示す図
【図7】同実施の形態における超音波送受波器に送信する駆動信号波形の計測インターバルと受信信号波形を示す図
【図8】同実施の形態における超音波送受波器の固定状態不良の断面図
【図9】同実施の形態における超音波送受波器の固定状態不良の断面図
【図10】本発明の実施の形態2における超音波送受波器のインピーダンス特性を示す図
【図11】同実施の形態における超音波流速流量計の概略図
【図12】従来の超音波流速流量計概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の発明は、両端に開口端が形成されており、被測定流体を一方の開口端から他方の開口端に通す流路と、前記流路の上流と下流に前記被測定流体に接するように配置された一対の超音波送受信器と、前記一対の超音波送受波器間の超音波伝播時間を計測する計時装置と、前記計時装置により得られた超音波伝播時間に基づいて前記被測定流体の流量を演算する演算手段とを備え、振動抑制体を有しており、前記一対の超音波送受波器が前記流路に前記振動抑制体を介して保持され、前記振動抑制体が正しく固定されているかを判定する固定状態判定手段を備えることにより、振動抑制体および超音波送受波器が流路に正しく固定されているか否かを判定することができ、異常な取り付け状態を回避することによって流速流量計測値が安定化し、より精度の高い流速流量計測ができる。
【0011】
第2の発明は、特に第1の発明において、前記超音波送受波器は、有天筒状金属ケースと、前記有天筒状金属ケースに収容される圧電体と、前記有天筒状金属ケース外壁面に前記圧電体と対向するように配置した音響整合体と、前記有天筒状金属ケースの開口を閉鎖すると共に端子を外部に突出させた状態で支持する端子板と、を備え、前記有天筒状金属ケースの側壁部および前記側壁部の外側に設けた支持部を覆うように取り付けた振動抑制体を有しており、当該振動抑制体を介して前記流路に取り付ける構成としたことにより、より複雑な形状の振動抑制体および超音波送受波器が流路に正しく固定されているかを判定することができ、また、前記超音波送受波器の形状に依存する特徴的な振動があるため、その特徴的な振動を分析することによって異常な取り付け状態をより詳細に判定することが出来、異常な取り付け状態を回避することによって、流速流量計測値が安定化し、より精度の高い流速流量計測ができる。
【0012】
第3の発明は、特に第1または2の発明において、前記固定状態判定手段は、少なくとも前記超音波送受波器の受信出力によって前記振動抑制体が正しく固定されているかを判定することを特徴とすることにより、一定の温度、ゼロ流量において伝播時間を計測すると、流体の音速が既知であるため、対向する超音波送受波器が正しく対向して固定されているか否かを判定することができる。
【0013】
第4の発明は、特に第1または2の発明において、前前記固定状態判定手段は、少なくとも前記一対の超音波送受波器間の伝播時間によって前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定することを特徴とすることにより、温度一定の条件で音速値は既知であるため、超音波送受波器間の距離が規定の距離を隔てて正しく配置されているかを判定することができる。
【0014】
第5の発明は、特に第1または2の発明において、前記固定状態判定手段は、少なくとも前記一対の超音波送受波器間の筐体伝播ノイズによって前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定することを特徴とすることにより、超音波送受波器と流路とが直接接触していないか、あるいは、振動抑制体が超音波送受波器を正しく保持し、超音波送受波器で発生した振動を効率よく抑制しているかどうかがわかるため、固定状態を判定することができる。
【0015】
第6の発明は、特に第1または2の発明において、前記固定状態判定手段は、少なくとも前記超音波送受波器の振動減衰時間によって前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定することを特徴とすることにより、振動抑制体が超音波送受波器に被覆されているかどうかを判定することができる。
【0016】
第7の発明は、特に第6の発明において、前記固定状態判定手段は、少なくとも前記有天筒状金属ケースの振動を増長する周波数で駆動したときの振動減衰時間によって行うことを特徴とすることにより、振動減衰時間は、有天筒状金属ケースの振動が主たる要因であるため、有天筒状金属ケースの振動を増長する周波数で駆動することによって、より詳細に振動減衰時間を評価できるため振動抑制体3が第1の超音波送受波器4に被覆されているかどうかを容易に判定することができる。
【0017】
第8の発明は、特に第1または2の発明において、前記固定状態判定手段は、少なくとも計測インターバルを変えて流量値を計算し、計測毎の前記流量値のばらつきが所定値以下に収束する計測インターバルと、予め規定した計測インターバルとを比較して前記振動抑制体が正しく固定されているか否かの判定を行うことを特徴とすることにより、振動抑制体、超音波送受波器と流路との固定状態が、流量計測精度にどの程度影響を及ぼすかどうかを判断した上で流量計測を行うことができるため、計測安定性が向上する。
【0018】
第9の発明は、特に第8の発明において、流量値が安定して収束する計測インターバルを記憶し、前記記憶した計測インターバルを用いて流速流量計測を行うことを特徴とすることにより、計測の安定度を確保した状態で安定した流速流量計測を行うことができるため、計測安定性が向上する。
【0019】
第10の発明は、特に第8の発明において、複数の温度において測定毎の流量値のばらつきが所定値以下に安定して収束する計測インターバルから求められる温度と最適な計測インターバルとの相関式を記憶し、流量計測時において伝播時間から求められる温度を元に、前記相関式に基づいて最適な計測インターバルを用いて流速流量計測を行うことを特徴とすることにより、異なる温度においても最適化した計測インターバルを用いて測定するため、温度変化に関わらず安定した流速流量計測を行うことができる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における超音波流速流量計の概略図を示している。
【0022】
図1において超音波流速流量計は、被測定流体(一例として、ガス、空気)が流れる流路1を備え、流量計測部2と、流量計測部2の上流側および下流側に対向配置し、振動抑制体3を介して流路1に固定された第1、第2の超音波送受波器(一対の超音波送受波器)4,5と、第1、第2の超音波送受波器4,5間の超音波伝播時間を計測する計時装置6と、計時装置6により得られた超音波伝播時間に基づいて流体の単位時間当たりの流量を算出する演算手段7と、第1、第2の超音波送受波器4,5と振動抑制体3とが流路1に対して設計通りに対向するように配置され、かつ、振動抑制体3が流路1および超音波送受波器4、5に対して設計通りに正しく固定されているかどうかを判定する固定状態判定手段8を備えている。
【0023】
以下、超音波流速流量計の動作について説明する。
【0024】
超音波流速流量計において、流路1を流れる被測定流体の流速Vを求める際には、まず、第1の超音波送受波器4の共振周波数近傍の周波数となるように調整した駆動信号波形を圧電体に与えると振動し、第1の超音波送受波器4から被測定流体中に超音波を放射する。
【0025】
放射された超音波は、被測定流体を伝播し、第2の超音波送受波器5に受信され、第2の超音波送受波器5の圧電体によって電圧に変換される。
【0026】
次に、第2の超音波送受波器5の共振周波数近傍の周波数の駆動信号波形を圧電振動子に与えると振動して、第2の超音波送受波器5から流体中に超音波を放射する。放射された超音波は、第1の超音波送受波器4で受信され、第1の超音波送受波器4の圧電体によって電圧に変換される。このような繰り返し測定を行うことで流速流量計測値の安定性が向上する。
【0027】
ここで、流路1を流れる流体の流速をV、被測定流体中の超音波の音速をC、流体の流れ方向と超音波の伝播方向とのなす角度をθとする。
【0028】
第1の超音波送受波器4を送波器、第2の超音波送受波器5を受波器として用いたときに、第1の超音波送受波器4から出た超音波が第2の超音波送受波器5に到達する伝搬時間t1は、
1 = L /(C+vcosθ) (1)
で示される。
【0029】
次に、第2の超音波送受波器5から出た超音波パルスが第1の超音波送受波器4に到達する伝搬時間t2は、
2 = L /(C−vcosθ) (2)
で示される。
【0030】
そして、(1)と(2)の式から流体の音速Cを消去すると、
V = L /2cosθ(1/t1−1/t2) (3)
の式が得られる。
【0031】
Lとθが既知なら、計時装置6にてt1とt2を測定すれば流速Vが求められる。必要に応じて、この流速Vに流量計測部2の断面積Sと補正係数Kを乗じれば、流量Qを求めることができる。つまり、演算手段7は、Q=KSVを演算するものである。
【0032】
次に、本実施の形態の超音波流速流量計に用いる超音波送受波器について詳細に説明する。
【0033】
なお、第1、第2の超音波送受波器4,5は同じ構成なので、以下、第1超音波送受波器4の構成について説明して、第2超音波送受波器5の説明を省略する。
【0034】
図2、3は、第1の超音波送受波器4の固定状態断面図を示すもので、第1の超音波送受波器4は、振動抑制体3を介して流路1に固定されている。振動抑制体3は、図に示す以外にも、さまざまな形状が想定されるが、本実施の形態においては、図2、3を代表例として説明するが、特に例示した構造に限定して実現されるものではない。振動抑制体3の構成材料は、たとえば、二トリルゴム、シリコンゴム、フロロシリコンゴムなど、ゴム弾性を示す材料であれば特に限定されない。
【0035】
第1の超音波送受波器4は、対向する電極を備える圧電体10と、天部11、側壁部12、支持部13によって構成される有天筒状金属ケース14と、音響整合体15と、第1端子16、第2端子17を備える端子板18とで構成されている。
【0036】
圧電体10、有天筒状金属ケース14および音響整合体15とは、例えば、接着剤で接合する。粘着剤でも可能であるが、特性安定性の観点から接着剤で固定した場合のほうがより好ましい。圧電体10は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウムなど圧電特性を有する材料であれば特に限定されない。
【0037】
有天筒状金属ケース14は、例えば、銅、鉄、ステンレス鋼等が例示できる。端子板18は、第1端子16、第2端子17を備え、第1端子と第2端子とは絶縁体19によって絶縁され、そのほかは金属材料で構成する。絶縁体19としては、例えば、樹脂などの有機材料、あるいは、ガラスハーメチックシールを用いた無機材料など特に限定されない。
【0038】
端子板18と、有天筒状金属ケース14とは、支持部13で溶接、あるいは銀ロウなどの工法によって電気的に導通され、密閉される。第2端子17と圧電体10の一方の電極がリード線などで電気的に導通され、第1端子16と圧電体10の他方の電極が、前記有天筒状金属ケースを介して電気的に導通した構成となっている。
【0039】
音響整合体15の役割は、圧電体10の振動を流体に効率よく伝播させることにある。このため、被計測流体がより軽量であるため、音響整合体15はより軽量で音速の遅い材料が好ましい。そのため例えば、中空ガラスフィラーの充填物をエポキシ樹脂で硬化した複合材料、あるいは、セラミック多孔体の最外層表面に、セラミック多孔体の空隙を保持した状態で樹脂フィルムによってパッケージ形成した複合材料などが例示できる。
【0040】
以下、第1の超音波送受波器4の動作について説明する。第1の超音波送受波器4は、端子板18に備えられた第1端子16、第2端子17を介して圧電体10の電極に例えば、400から600kHz程度の圧電体が振動する駆動信号波形を与えると圧電体10が振動し、あらかじめ厚み調整した音響整合体15が圧電体10と共振し、その結果、被測定流体に超音波が伝播する。以上の動作は、第2の超音波送受波器5についても同様である。
【0041】
この超音波流速流量計の計測精度を設計通りに実現させるためには、第1、第2の超音波送受波器4、5が流路1に正しく固定される必要がある。図2、3はいずれも、第1、第2の超音波送受波器4、5が設計通りに流路1に固定されている状態を示している。これに対し、第1、第2の超音波送受波器4、5が、流路1に正しく固定されていないと、第1の超音波送受波器4で発生した超音波振動が被測定流体を隔てた第2の超音波送受波器5に効率よく伝播しないだけでなく、振動抑制体3が超音波送受波器に正しく密着していないがために、振動抑制体3によって抑制されるべき振動が抑制されず、超音波送受波器自体の振動が長い間継続して振動してしまうため振動減衰時間が長くなる、あるいは、流路1にも通常以上に計測ノイズとなる超音波振動が伝播することになる。これを筐体伝播ノイズという。
【0042】
以下、本発明の実施の形態における固定状態判定手段8について説明する。
【0043】
本実施の形態において固定状態判定手段8は、流路に対して第1、第2の超音波送受波器4、5および振動抑制体3が正常に取り付けられているかどうかを、取り付け状態を目視することなく判定する手段のことであり、取り付け状態に影響及ぼすパラメータを判定手段として用い固定状態を判定する。
【0044】
本実施の形態において、判定手段は、以下に示す五つのパラメータによって実施する。
【0045】
(A)超音波の送受信出力(V1
(B)超音波伝播時間(T1
(C)筐体伝播ノイズ(V2
(D)振動減衰時間(T2
(E)計測インターバル(T3)と流速流量値バラツキ
以下、各パラメータによる判定手段の判定方法について詳細に説明する。
【0046】
(A)超音波の送受信出力(V1
図4は超音波送受波器に送信する駆動信号波形と受信信号波形を示している。
【0047】
例えば、第1の超音波送受波器4を送波器、第2の超音波送受波器5を受波器とした場合、駆動信号波形20は、第1の超音波送受波器4に送られ、超音波が被計測流体に伝播し、第2の超音波送受波器5に到達した超音波振動は、圧電体10によって変換され、駆動信号波形20が送信されてから伝播時間T1を経過して、受信信号波形21のような超音波信号が到達する。この到達した信号の大きさV1を超音波受信出力と定義する。超音波受信出力V1は、第1、第2の超音波送受波器4、5が流路1に対して、斜めに固定されている場合、あるいは第1、第2の超音波送受波器4、5の特性が劣化している場合に低下することから、振動抑制体3の固定状態を判定することができる。
【0048】
(B)超音波伝播時間(T1
図4において、超音波伝播時間は、図中に示したように駆動信号波形20の送信後、受信信号波形21が到達するまでの超音波伝播時間T1を表しており、第1、第2の超音波送受波器4、5が流路1に対して、例えば斜めに固定されている場合は、正しく固定された状態と比べると超音波伝播距離は長くなるため超音波伝播時間T1は、長くなることから、振動抑制体3の固定状態を判定することができる。
【0049】
(C)筐体伝播ノイズ(V2
図5(a)は、被計測流体が流れる方向に対し平行方向から見た図、図5(b)は、被計測流体が流れる方向に対し垂直方向から見た断面図を示している。
【0050】
超音波の送受信にあたり、第1の超音波送受波器4を送波器として、第2の超音波送受波器5を受波器として用いた場合、第1の超音波送受波器4から発生した超音波振動によって、被計測流体に超音波が伝播するのと同時に、超音波送受波器自身の振動が振動抑制体3を介して図中の実線矢印で示したように、流路1の内部および表面を伝播する。これを筐体伝播といい、流量計測時のノイズとなるため、筐体伝播ノイズという。この筐体伝播ノイズは、第1、第2の超音波送受波器4、5が直接、流路1に接触した場合、あるいは、振動抑制体3が通常よりも強く押し付けられたような状態で固定されると増大することから、振動抑制体3の固定状態を判定することができる。
【0051】
以下、筐体伝播ノイズについて図解して説明する。
【0052】
図6は、超音波送受波器に送信する駆動信号波形と受信信号波形を示している。
【0053】
図6において、駆動信号波形20によって第1の超音波送受波器4より超音波が送信され、伝播時間T1を経て受信信号波形21(受信出力V1)が伝播する。筐体伝播波形22は、受信信号波形21の前に受信する信号レベルの小さい波形(筐体伝播ノイズV2)のことである。一般的に、被計測流体(主に気体)の音速は、筐体として用いられる樹脂、あるいは金属の音速に比べて速いため、筐体伝播波形22は、被計測流体を通って受信する受信信号波形21にくらべ早く到達する。この筐体伝播波形22は、減衰する前に受信信号波形21に重なるため、筐体伝播波形22の信号レベルに応じて流量特性値が変化することから、振動抑制体3の固定状態を判定することができる。
【0054】
(D)振動減衰時間(T2
図6において、振動減衰時間T2は、受信信号波形21(受信出力V1)が超音波送受波器に受信されてから、一定の電圧レベルまで受信出力が減衰するまでの時間と定義し、 例えばV3/V1=Kの比が0.1以下にまで減衰する時間として算出する。
【0055】
(E)計測インターバル(T3)と流速流量バラツキ
図7は、送信側に設定された超音波送受波器に送信する駆動信号波形とその送信間隔(計測インターバル(T3))と受信側に設定された超音波送受波器での受信信号波形を示している。
【0056】
図7において、計測インターバルT3は、駆動信号波形20を送信後、次の駆動信号波形23を送るまでの時間を示している。計測インターバルT3が短くなると、先に受信した受信信号波形24の振動が減衰せずに、次に受信する受信信号波形25に重なってしまうために、流速流量計測値が変化し、計測誤差を生じてしまうことがある。このため、例えば、常温、流体の流れていない状態で、計測インターバルT3を長い時間から短くしていき、計測毎の流量値のバラツキが大きくなる、あるいは、絶対値が変化する計測インターバルT3を記憶して、予め規定してある正常な固定状態の計測インターバルT3より短い場合には、受信信号が適正に減衰していると考えられるため、振動抑制体3が第1の超音波送受波器4に対して、正しく固定されていると判断し、予め規定してある計測インターバルより長い場合には、逆に、正しく固定されていないと判定できる。
【0057】
そして、これらのパラメータ(A)〜(E)に基づく判定手段を複合して用いることによって、第1、第2の超音波送受波器4、5および振動抑制体3が流路1に適性に取り付けられているかどうかを判定することが出来る。
【0058】
以下、図面を用いて第1、第2の超音波送受波器4、5および振動抑制体3の流路1に対する実例を挙げ、取り付け状態をどのように判別するかどうかを説明する。
【0059】
図8、9は、本発明実施の形態における第1の超音波送受波器4の固定状態不良の断面図を示している。
【0060】
図8は、第1の超音波送受波器4を固定する2つのビス26、27の内の片方のビス26のビス締めが不完全な状態を示している。この場合、第1の超音波送受波器4は、流路1に対して若干傾いた状態で取り付けられており、振動抑制体3が強く圧縮されている部分と、弱く圧縮されている部分が存在する。この場合先に示した判定手段によると、流路1に対して若干傾いているために、超音波受信出力(V1)は、超音波送受波器同士が設計通りに対向していないために、低下し異常値を示す。また、超音波伝播時間(T1)は、超音波伝播距離が長くなるため異常値を示す。さらに、振動抑制体3が強く圧縮されている部分と、弱く圧縮されている部分が存在するため、振動抑制体3を介して筐体伝播ノイズ(V2)が通常よりも強く伝わる結果となり異常値を示す。このようにして、取り付け状態を判定することが出来る。
【0061】
図9においても同様に説明する。
【0062】
図9は、第1の超音波送受波器4の有天筒状金属ケース14の側壁部12に、振動抑制体3が変形して正しく接触していない状態を示している。この場合、流路1に対して、第1の超音波送受波器4が適正な位置に固定されているため、判定手段超音波受信出力(V1)、超音波伝播時間(T1)は適正な値として判定できる。一方、筐体伝播ノイズ(V2)は、図9に示したように、振動抑制体3が、有天筒状金属ケース14の側壁部12で接触していない部分が存在し、この場合、振動抑制体3の機能が十分発揮できないために、通常よりも大きい筐体伝播ノイズが観察されることになる。また、振動減衰時間(T2)は、振動を減衰する役目を果たす振動抑制体3が正しく固定されていないため、振動減衰時間が長くなり異常値を示す。更に、計測インターバル(T3)と流量値バラツキに関しても同様に、通常と異なる値となり異常値を示す。
【0063】
ここで特に固定状態判定手段8が、振動減衰時間(T2)を用いて取り付け状態を判定する場合の良好な方法について説明する。
【0064】
図9に示した第1の超音波送受波器4の側壁部12は、圧電体10の共振周波数よりも低い周波数で振動する。
【0065】
図10は、本発明の実施の形態における第1の超音波送受波器4のインピーダンス特性を示している。
【0066】
図10において、第1の超音波送受波器4の圧電体10共振周波数30に対して、有天筒状金属ケース14の側壁部12が圧電体10の横振動によって励起され、この振動は、圧電体10の周波数より低周波数の振動であるために減衰しにくく、振動減衰時間を長くする主たる要因となる。そのため、側壁部12に振動抑制体3が設計通り接触しない場合には、振動減衰時間が異常値を示す。
【0067】
また、例えば、第1の超音波送受波器4、および振動抑制体3が流路1に正しく固定されていても、判定手段における超音波の送受信出力のみが異常の場合には、超音波送受波器自体の劣化と判定することが出来る。これまでの実例をまとめると、表1のように示すことが出来る。表1は、超音波送受波器および振動抑制体の取り付け状態と判定手段との相関を示している。表1における○印は、図8,9に示すそれぞれの取り付け状態における異常と判定されるパラメータと、判定結果を示している。
【0068】
【表1】

【0069】
このほかにも、取り付け状態異常は考えられるが、これまで説明した判別手段によって第1、第2の超音波送受波器4,5および、振動抑制体3が流路1に正しく取り付けられているかどうかを判別することができる。
【0070】
以上のように、本実施の形態では、第1、第2の超音波送受波器4,5が流路1に振動抑制体3を介して保持される構成において、振動抑制体3が正しく固定されているかを判定する固定状態判定手段8を備えることにより、振動抑制体および超音波送受波器が流路に正しく固定されているかを判定することができ、異常な取り付け状態を回避することによって流速流量計測値が安定化し、より精度の高い流速流量計測ができる。
【0071】
また、具体的な固定状態判定手段としては、超音波の送受信出力(V1)、超音波伝播時間(T1)、筐体伝播ノイズ(V2)、振動減衰時間(T2)、計測インターバル(T3)と流速流量値バラツキの各パラメータの組み合わせることで、振動抑制体および超音波送受波器が流路に正しく固定されているかを判定することができ、異常な取り付け状態を回避することによって流速流量計測値が安定化し、より精度の高い流速流量計測ができる。
【0072】
さらに、固定状態判定手段が、振動減衰時間(T2)を判定する場合、有天筒状金属ケース14の振動を増長する周波数31(圧電体の共振より低い周波数)で駆動して振動減衰時間によって行うと、振動減衰時間は、有天筒状金属ケースの振動が主たる要因であるため、有天筒状金属ケースの振動を増長する周波数で駆動することによって、より詳細に振動減衰時間を評価できるため振動抑制体3が第1の超音波送受波器4に被覆されているかどうかを容易に判定することができる。
【0073】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施形態における超音波流速流量計について図面を参照して説明する。
【0074】
図11は、本発明の第2の実施の形態における超音波流速流量計の概略図を示している。
【0075】
図11において、超音波流速流量計は、被測定流体(一例として、ガス、空気)が流れる流路1を備え、流量計測部2と、流量計測部2の上流側および下流側に対向配置し、振動抑制体3を介して流路1に固定された第1、第2の超音波送受波器(一対の超音波送受波器)4,5と、第1、第2の超音波送受波器4,5間の超音波伝播時間を計測する計時装置6と、計時装置6により得られた超音波伝播時間に基づいて流体の単位時間当たりの流量を算出する演算手段7と、第1、第2の超音波送受波器4,5と振動抑制体3とが流路1に対して設計通りに対向するように配置され、かつ、振動抑制体3が流路1および第1、第2の超音波送受波器4、5に対して設計通りに正しく固定されているかどうかを判定する固定状態判定手段8を備えている。
【0076】
固定状態判定手段8は、第1、第2の超音波送受波器4,5を駆動する間隔である計測インターバルを変えて流量値を計算し、計測毎の流量値のばらつきが所定の値以下に収束する時の計測インターバルと、予め規定した計測インターバルとを比較して振動抑制体3が正しく固定されているかの判定を行う。
【0077】
また、計測毎の流量値のばらつきが所定の値以下に収束する時の最適な駆動インターバルを記憶する記憶手段32を備えている。
【0078】
そのため、複数の温度において流量値が安定して収束する計測インターバルから求められる温度と最適な計測インターバルとの相関式を記憶し、流量計測時において伝播時間から推定した温度を元に、この相関式に基づいて最適な計測インターバルを用いて流速流量計測も行うことができる。
【0079】
超音波流速流量計の動作、超音波送受波器については、実施の形態1と同様のため省略する。
【0080】
以下、計測インターバルを変えて最適な計測インターバルを用いて流量計測する方法について説明する。
【0081】
流速流量計測の安定性は、取り付け状態とともに、温度によって第1の実施の形態にあげた固定状態判定手段8のすべてのパラメータが影響を受ける。
【0082】
表2は、被計測流体における特性値の温度依存性を示している。
【0083】
【表2】

【0084】
低温(−33.15℃)は、超音波透過率が、高温(66.85℃)にくらべ高いため、超音波の送受信出力(V1)が高くなり、また、振動抑制体3も、硬くなるために、常温(26.85℃)に比べ振動抑制体3の振動を効率よく低減させる効果が半減し、筐体伝播ノイズ(V2)は大きくなり、振動減衰時間(T2)は長くなる。また、音速も高温に比べ遅くなるため、超音波伝播時間(T1)も長くなる。高温では、この逆の傾向になる。
【0085】
このように、計測インターバル(T3)を一定の値で計測を行った場合には、温度によって、音速、あるいは超音波伝播効率が異なるため、流速流量値の安定性が異なる結果となる。そのため、複数の温度によって流量値が安定して収束する計測インターバルを記憶して温度と最適な計測インターバルとの相関式を求め記憶し、流量計測時において伝播時間から推定した温度を元に、この相関式に基づいて最適な計測インターバルを用いて流速流量計測を行うことが重要になり、使用温度範囲内で最適化した計測インターバルを用いて測定するため、温度に関わらず安定した流速流量計測を行うことができるようになる。
【0086】
以上のように、本実施の形態では、固定状態判定手段8として計測インターバルを変えて流量値を計算し、この流量値が安定して収束する計測インターバルを記憶手段32で記憶し、記憶した計測インターバルを用いて流速流量計測を行うことにより、計測の安定度を確保した状態で安定した流速流量計測を行うことができる。
【0087】
また、複数の温度によって流量値が安定して収束する計測インターバルから求められる温度と最適な計測インターバルとの相関式を記憶しておき、流量計測時において伝播時間から演算で求められる温度を元にして、相関式に基づいてその温度における最適な計測インターバルを用いて流速流量計測を行うことにより、異なる温度においても最適化した計測インターバルを用いて測定するため、温度変化に関わらず安定した流速流量計測を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明にかかる超音波流速流量計は、安定した流量計測が可能となるため、家庭用流量計、産業用流量計等の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0089】
1 流路
2 流量計測部
3 振動抑制体
4 第1の超音波送受波器(超音波送受信器)
5 第2の超音波送受波器(超音波送受信器)
6 計時装置
7 演算手段
8 固定状態判定手段
10 圧電体
11 天部
12 側壁部
13 支持部
14 有天筒状金属ケース
15 音響整合体
16 第1端子
17 第2端子
18 端子板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に開口端が形成されており、被測定流体を一方の開口端から他方の開口端に通す流路と、
前記流路の上流と下流に前記被測定流体に接するように配置された一対の超音波送受信器と、
前記一対の超音波送受波器間の超音波伝播時間を計測する計時装置と、
前記計時装置により得られた超音波伝播時間に基づいて前記被測定流体の流量を演算する演算手段と、
を備え、
振動抑制体を有しており、前記一対の超音波送受波器が前記流路に前記振動抑制体を介して保持され、前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定する固定状態判定手段を備えている、
超音波流速流量計。
【請求項2】
前記超音波送受波器は、
有天筒状金属ケースと、
前記有天筒状金属ケースに収容される圧電体と、
前記有天筒状金属ケース外壁面に前記圧電体と対向するように配置した音響整合体と、
前記有天筒状金属ケースの開口を閉鎖すると共に端子を外部に突出させた状態で支持する端子板と、
を備え、
前記有天筒状金属ケースの側壁部および前記側壁部の外側に設けた支持部を覆うように取り付けた振動抑制体を有しており、当該振動抑制体を介して前記流路に取り付ける構成とした、
請求項1に記載の超音波流速流量計。
【請求項3】
前記固定状態判定手段は、少なくとも前記超音波送受波器の受信出力によって前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波流速流量計。
【請求項4】
前記固定状態判定手段は、少なくとも前記一対の超音波送受波器間の伝播時間によって前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波流速流量計。
【請求項5】
前記固定状態判定手段は、少なくとも前記一対の超音波送受波器間の筐体伝播ノイズによって前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波流速流量計。
【請求項6】
前記固定状態判定手段は、少なくとも前記超音波送受波器の振動減衰時間によって前記振動抑制体が正しく固定されているか否かを判定すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波流速流量計。
【請求項7】
前記固定状態判定手段は、少なくとも前記有天筒状金属ケースの振動を増長する周波数で駆動したときの振動減衰時間によって行うこと、
を特徴とする請求項6に記載の超音波流速流量計。
【請求項8】
前記固定状態判定手段は、少なくとも計測インターバルを変えて流量値を計算し、計測毎の前記流量値のばらつきが所定値以下に収束する計測インターバルと、予め規定した計測インターバルとを比較して前記振動抑制体が正しく固定されているか否かの判定を行うこと、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波流速流量計。
【請求項9】
流量値が安定して収束する計測インターバルを記憶し、前記記憶した計測インターバルを用いて流速流量計測を行うこと、
を特徴とする請求項8に記載の超音波流速流量計。
【請求項10】
複数の温度において測定毎の流量値のばらつきが所定値以下に安定して収束する計測インターバルから求められる温度と最適な計測インターバルとの相関式を記憶し、流量計測時において伝播時間から求められる温度を元に、前記相関式に基づいて最適な計測インターバルを用いて流速流量計測を行うこと、
を特徴とする請求項8に記載の超音波流速流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−7976(P2012−7976A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143475(P2010−143475)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】