説明

超音波流量計及び流量測定方法

【課題】応答性に優れた高精度な流量測定を実現する。
【解決手段】超音波の伝播時間を予め計測する予備計測時に、超音波の送信時点Aから受信波の到達時点Bまでの間に計数したクロックパルス数を順方向と逆方向について記憶しておき、予備計測後の本計測時に、超音波の送信時点Aからクロックパルス数を計数し始め、順方向と逆方向についてそれぞれ記憶したクロックパルス数の2個前のクロックパルスの出力時点Cで積分を開始し、受信波の到達時点Bで積分電圧V1,V2を測定して微小時間T2を算出することによりクロックパルス時間T1と微小時間T2とから伝播時間を計測するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝播時間差方式による超音波流量計と流量測定方法に係り、特に時間計測方法を改良することにより単位時間内により多くの測定を可能にし、応答速度の高速化と測定の安定性を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伝播時間差方式を採用した超音波流量計は、流体が流れる測定管の上流側と下流側に超音波センサを配置して、これらのセンサを交互に超音波の送信器と受信器として使用し、上流側から下流側への超音波の到達時間と下流側から上流側への超音波の到達時間の差から流速を計測して流量に変換している。このような伝播時間差方式の超音波流量計においては、高精度な流量測定を実現するために正確な時間計測が必要である。
【0003】
そこで、従来の流量測定方法の一例として、特許文献1に記載されたアナログ回路を主体とする時間伸張回路が知られている。この回路では、時間を正確に計測するために、超音波パルスの送信から受信までの時間をクロックパルスで計測し、クロックパルスで計測できない微小時間をアナログ回路で伸張し、伸張した時間を再度クロックパルスで計測して計測時間の精度を確保している。
【0004】
しかし、特許文献1の時間伸張回路によると、微小時間を通常1000倍程度に伸張してから時間計測を行うので、1回の流量を測定し終えるまでに比較的長い時間が必要になる。したがって、この超音波流量計では、単位時間内の測定回数が限られたものになってしまい、流量の変化が高速になると測定が追従できないため、応答性が悪いという問題があった。
【0005】
その一方において、従来の流量測定方法の他の例として、特許文献2に記載された超音波流量計が知られている。この流量計は、クロックパルスを出力するクロック回路と、三角波を出力する三角波発生回路とを備えており、超音波の送信と同時にクロック回路からクロックパルスを出力し、同時にクロックパルスと同周期の三角波を連続して出力するように構成されている。そして、超音波の送信時点から超音波の受信直前のクロックパルス出力時点までの時間Tと、超音波の受信時点における三角波の電圧値をAD変換した端数時間tとを加算して伝播時間を計測するようになっている。
【0006】
ところが、特許文献2の超音波流量計は、超音波の受信時点を起点にして伝播時間を計測する方式であり、制御装置の回路構成が複雑である。また、超音波の受信時点が三角波の立ち上がり直後に到来した場合には、三角波の立ち上がり直後の緩やかな傾斜部で電圧を測定することになり、AD変換の直線性が悪い領域での測定になる。このため、正確な端数時間の計測ができなくなり、測定した流量に誤差を生じるという問題がある。また、超音波の受信時点が三角波の立ち下がり時に到来した場合には、三角波の立ち下がり時の急峻な傾斜部で電圧を測定することになるため、そもそも電圧の測定ができず、正確な端数時間の計測は不可能である。なお、大流量の測定時にはクロックパルスの周波数を下げて測定範囲を拡大しているが、この場合、三角波の傾斜角度が緩やかになってしまい、測定精度が低下するという欠点もある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−264136号公報
【0008】
【特許文献2】特開2002−116071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、応答性に優れた高精度な流量測定を実現する超音波流量計とその流量測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、流体が流れる測定管の上流側と下流側に一対の超音波センサが配置され、流体の順方向における超音波の伝播時間と逆方向における超音波の伝播時間との差に基づいて流体の流量を測定する超音波流量計であって、超音波の伝播方向を順方向と逆方向の間で切り換えて、一方の超音波センサから超音波の送信を行い、他方の超音波センサで超音波の受信を行う送受信回路と、超音波の伝播時間を予め計測する予備計測時に、超音波の送信時点から受信波の到達時点までの間に計数したクロックパルス数を順方向と逆方向について記憶しておき、予備計測後の本計測時に、超音波の送信時点からクロックパルス数を計数し始め、順方向と逆方向についてそれぞれ記憶したクロックパルス数を計数し終わる前に積分を開始し、受信波の到達時点で積分電圧を測定してクロックパルス幅未満の微小時間を算出することによりクロックパルス時間と微小時間とから伝播時間を計測する制御回路と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、上記の目的を達成するために、本発明は、流体が流れる測定管の上流側と下流側に一対の超音波センサを配置し、一方の超音波センサから送信した超音波を他方の超音波センサで受信して、流体の順方向における超音波の伝播時間と逆方向における超音波の伝播時間との差に基づいて流体の流量を測定する流量測定方法であって、超音波の伝播時間を予め計測する予備計測時に、超音波の送信時点から受信波の到達時点までの間に計数したクロックパルス数を順方向と逆方向について記憶しておき、予備計測後の本計測時に、超音波の送信時点からクロックパルス数を計数し始め、順方向と逆方向についてそれぞれ記憶したクロックパルス数を計数し終わる前に積分を開始し、受信波の到達時点で積分電圧を測定してクロックパルス幅未満の微小時間を算出することによりクロックパルス時間と微小時間とから伝播時間を計測することを特徴とする。
【0012】
このような構成によると、例えば電源投入時のような通電の最初に予備計測を行い、受信波の到達時間を予め計測することによって、積分の開始時点を受信波の到達前に設定することが可能になる。このため、積分の開始時点を流体の順方向と逆方向の両方向について別々に設定することにより、急峻な積分で時間の分解能を高めても、大流量から小流量まで同じ時間分解能で測定することができる。しかも、制御装置の回路は、積分の開始と電圧の取り込みで済むので、回路構成を大幅に簡素化することができる。
【0013】
また、本発明の超音波流量計において、制御回路は、受信波の振幅が設定基準値を超えた後のゼロクロス点で粗カウント信号とAD取り込み信号を同時に出力する受信波識別回路と、超音波の送信信号を出力した時点からクロックパルスの計数を開始し、受信波識別回路から粗カウント信号が入力された時点までに計数し終えたクロックパルス数を粗カウント値として記憶しておくとともに、記憶した粗カウント値の整数クロック前に積分開始信号を出力するCPUと、CPUから積分開始信号が入力された時点で積分を開始する積分回路と、受信波識別回路からAD取り込み信号が入力された時点で積分回路の積分電圧をホールドし、ホールドした積分電圧をディジタル化してCPUに出力するAD変換回路と、から構成することができる。
【0014】
また、本発明の超音波流量計において、制御回路は、本計測において、前回の計測時に記憶したクロックパルス数を今回の計測時に計数したクロックパルス数で書き換える更新処理を行うようにしても良い。これにより、常に最新の伝播時間を目安に積分を開始することができる。
【0015】
また、本発明の超音波流量計において、クロックパルスの周期が超音波の送信信号の周期に比べて短く設定されていると、短い時間軸で電圧変換を行うことにより微小時間計測の分解能を高くすることができるので好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成から明らかなように、本発明によれば、流体の順方向と逆方向の両方向について受信波の到達前に確実に積分が開始され、受信波の到達後も積分が継続するので、積分の比例直線部が連続して維持される。このため、従来のような連続的な三角波に見られる計測不可領域が無くなり、積分開始直後の立ち上がり時のようなAD変換の直線性の悪い領域や積分終了後の立ち下がり時のような電圧測定ができない領域を回避して計測することができる。したがって、常にAD変換の直線性の良好な領域で電圧測定が可能になり、計測不可領域を回避するための回路を別途設ける必要が無く、簡単かつ廉価な回路構成で、応答性に優れた高精度な流量測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は本発明の超音波流量計の全体構成を示す機能ブロック図である。図1に示すように、本発明の超音波流量計1は、流体の順方向における超音波の伝播時間と逆方向における超音波の伝播時間との差に基づいて流体の流量を測定する伝播時間差方式の流量計であり、検出器2と制御装置3とから構成されている。
【0019】
検出器2は、測定管4と超音波センサ5,6を備えてなる。測定管4の内部には測定対象となる純水や薬液などの流体が流れ、測定管4の外部には流体の上流側と下流側に超音波振動子からなる一対の超音波センサ5,6が取り付けられている。一対の超音波センサ5,6は交互に送信器と受信器に切り換えられ、測定管4内を流れる流体に対して一方の送信器(例えば超音波センサ5)から超音波を送信し、その超音波を他方の受信器(例えば超音波センサ6)で受信するようになっている。なお、以下の説明では、流体の上流側から下流側に向かう方向を「順方向」と、下流側から上流側に向かう方向を「逆方向」と呼ぶ。
【0020】
制御装置3は、送受信回路7と制御回路8を備えてなる。制御装置3は制御回路8からの指令に従って送受信回路7で超音波センサ5,6に対する超音波の送信と受信を行い、制御回路8で超音波の送信から受信までに要した伝播時間を計測し、順方向における超音波の伝播時間と逆方向における超音波の伝播時間との差に基づいて流速を求め、求めた流速を流量に換算して出力する機能を有している。制御回路8はCPU12とその周辺回路を有しており、以下の回路全体の動作を統括制御するために、各種データの演算処理を行うとともに所定のタイミングで各回路に制御信号を出力する。
【0021】
送受信回路7は、超音波の伝播方向を設定して送受信を行う回路であり、切換回路9と送信回路10と受信回路11とから構成されている。切換回路9はCPU12から出力される切換信号に従って、超音波の伝播方向を順方向または逆方向に切り換えて設定するようになっている。伝播方向を順方向に設定すると、送信回路10と超音波センサ5が接続され、超音波センサ6と受信回路11が接続される。これに対して伝播方向を逆方向に設定すると、送信回路10と超音波センサ6が接続され、超音波センサ5と受信回路11が接続される。
【0022】
送信回路10は、CPU12から出力された送信信号に従ってパルス状の電気信号(以下「送信パルス」という)を発生するパルス発生器からなり、発生した送信パルスで超音波振動子を励振することにより送信側の超音波センサ5から超音波パルスを発信する。また、発信した超音波パルスが測定管4内の流体を伝播して受信側の超音波センサ6に到達すると、その受信した超音波パルス(以下「受信パルス」という)は切換回路9を通じて受信回路11に入力される。受信回路11では、CPU12から出力されたAGC制御信号に従って自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)を行う。自動利得制御とは、入力した受信パルスをアナログ増幅回路で増幅し、入力レベルの大小にかかわらず出力レベルを常に一定に保ち、波高調整して安定化した受信波の波形データを出力する処理をいう。
【0023】
制御装置3は、クロックパルスで計測できないクロックパルス幅未満の微小時間をアナログ回路で電圧に変換した後、変換した電圧の値を読み取ってパルス幅に逆算し、これにより微小時間を計測する時間電圧変換方式を採用している。また、制御装置3は超音波の伝播時間を予め計測する予備計測と予備計測の後に実際の伝播時間を計測する本計測を行うように設定されており、その主要部である制御回路8はCPU12のほか、受信波識別回路13と積分回路14とAD変換回路15から構成されている。以下この制御装置3の構成と動作について、図2〜8を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
制御装置3は、以下に説明する(1)予備計測、(2)本計測、(3)流量測定、(4)次回測定、(5)結果出力、の順に処理を行う。
【0025】
(1)予備計測
図2は予備計測の処理内容を示すフローチャート図である。予備計測は電源投入時にのみ行われる処理であり、本計測時に積分回路14の直線性の悪い領域を避けて計測するため、受信波の伝播時間の目安となるクロックパルスの個数を取得することを目的とし、以下の手順に従って行われる。
【0026】
まず超音波流量計1の電源を投入すると、制御装置3は伝播方向の切り換えを行う(ステップ101)。具体的には、図1に示すCPU12が切換回路9に切換信号を出力し、切換回路9が伝播方向を順方向に設定する。これにより、送信回路10と超音波センサ5が接続され、超音波センサ6と受信回路11が接続される。
【0027】
次に、制御装置3は超音波の送信を行う(ステップ102)。すなわち、CPU12が送信回路10に送信信号を出力すると、送信回路10が送信パルスを発生し、発生した送信パルスで超音波振動子を励振する。これにより、送信側の超音波センサ5から超音波パルスが送信される。また、CPU12は送信信号の出力と同時にクロックパルスを発生し(ステップ103)、内部のクロックカウンタでクロックパルス数の計数を開始する。なお、本実施形態では、図8に示すようにクロックパルスの周期が送信信号の周期に比べて短く設定されている。これはクロックパルスの周期を短く設定し、短い時間軸で電圧変換を行うことにより微小時間計測の分解能を高くするためである。
【0028】
そして、受信側の超音波センサ6が超音波パルスを受信すると(ステップ104)、受信パルスが切換回路9を通じて受信回路11に入力される。また、受信回路11はCPU12から出力されたAGC制御信号に従って自動利得制御を行い、波高調整した受信波の波形データを受信波識別回路13に出力する。
【0029】
次いで、受信波識別回路13がCPU12に粗カウント信号を出力する(ステップ105)。ここで粗カウント信号とは、受信波識別回路13に入力された受信波の波形データに基づいて受信波の到達時点を決定する信号をいう。粗カウント信号は例えば受信波の振幅が設定基準値を超えた後の任意のゼロクロス点で発生するように設定され、設定基準値は受信波の入力レベルに応じて任意の値に設定される。なお、本実施形態では、図8に示すように粗カウント信号の発生時点は設定基準値を超えて半周期を経過した最初のゼロクロス点(B点)に設定されているが、設定基準値を超えた後のゼロクロス点であれば、図中のB点よりも前のゼロクロス点であっても後のゼロクロス点であっても良い。
【0030】
続いて、CPU12は受信波識別回路13から入力された粗カウント信号に従って、粗カウントを実行する(ステップ106)。ここで粗カウントとは、超音波パルスの送信から受信までに要した伝播時間の概略を計測する処理をいう。すなわち、CPU12は粗カウント信号が入力された時点でクロックカウンタを停止し、送信信号の出力時点(A点)から粗カウント信号の入力時点(B点)までの間に計数し終えたクロックパルス数(図8の例では8個)を取得する。この粗カウントの実行によりクロックパルス数を取得すると、CPU12は取得したクロックパルス数を粗カウント値C1(C1=8)として内部のメモリに記憶する(ステップ107)。記憶した粗カウント値C1は順方向の伝播時間の概略値になる。
【0031】
このようにして粗カウント値C1の記憶が終了すると、CPU12は順方向と逆方向の粗カウント値C1,C2が記憶されているかどうかを判断する(ステップ108)。ここではまだ逆方向の粗カウント値C2が記憶されていないので(ステップ108にてNO)、ステップ101に戻ってステップ101からステップ107までの処理を繰り返す。これにより、超音波の伝播方向が逆方向に切り換えられ、CPU12が逆方向の粗カウント値C2(C2=10)を取得し、これを順方向の粗カウント値C1とは別に内部のメモリに記憶する。記憶した粗カウント値C2は逆方向の伝播時間の概略値になる。
【0032】
最後に、CPU12は順方向と逆方向の粗カウント値C1,C2が記憶されているかどうかを判断し(ステップ108)、両方向の粗カウント値C1,C2が記憶されていることを確認して予備計測を終了する(ステップ108にてYES)。予備計測が終了すると以下の本計測の処理に進む。
【0033】
(2)本計測
図3は本計測の処理内容を示すフローチャート図である。本計測は予備計測後に行われる処理であり、受信波の伝播時間を正確に計測することを目的とし、以下の手順に従って行われる。
【0034】
まず、制御装置3は伝播方向の切り換えを行う(ステップ201)。この処理は予備計測時のステップ101と同じ処理であり、CPU12が切換回路9に切換信号を出力することにより伝播方向が順方向に設定される。
【0035】
次に、制御装置3は超音波パルスの送信を行う(ステップ202)。この処理は予備計測時のステップ102と同じ処理であり、CPU12が送信回路10に送信信号を出力することにより送信側の超音波センサ5から超音波パルスが送信される。また、CPU12は送信信号の出力と同時にクロックパルスを発生し(ステップ203)、クロックカウンタでクロックパルス数の計数を開始する。
【0036】
次いで、CPU12は積分回路14に積分開始信号を出力する(ステップ204)。積分開始信号の出力タイミングは、予備計測時に計測した伝播時間が経過する直前の時点に設定されている。本実施形態ではCPU12に記憶された粗カウント値C1,C2のクロックパルス数よりも少なくとも2クロック前のタイミングで出力されるように設定されており、図8に示す順方向の例でいえば、クロックカウンタが6個目のクロックパルスの出力時点(C点)でCPU12から積分回路14に積分開始信号が出力されるようになっている。なお、積分開始信号の出力タイミングは、粗カウント値C1,C2の2クロック前に限らず、3クロック前、4クロック前のように任意の整数クロック前であれば良い。
【0037】
積分回路14はクロックパルス幅T未満の微小時間T2を電圧に変換する機能を有するもので、CPU12から積分開始信号が入力された時点で起動して積分を開始する。積分回路14は、より詳しくは図7に示すように、抵抗RとコンデンサCとオペアンプAMPにより構成されており、スイッチ部に積分開始信号が入力されると接点を閉じ、抵抗Rを通してコンデンサCに電流が流れて電荷を蓄積し始める。このとき積分回路14の入力電圧は一定であるため、コンデンサCに流れ込む電流も一定になり、コンデンサCの両端電圧は比例直線的に増加し、オペアンプAMPの出力電圧が時間の経過とともに比例直線的に増加する(図8参照)。
【0038】
そして、受信側の超音波センサ6が超音波パルスを受信すると(ステップ205)、受信パルスが切換回路9を通じて受信回路11に入力される。また、受信回路11はCPU12から出力されたAGC制御信号に従って自動利得制御を行い、波高調整した受信波の波形データを受信波識別回路13に出力する。
【0039】
次いで、受信波識別回路13がCPU12に粗カウント信号を出力する(ステップ206)。粗カウント信号の出力タイミングは、予備計測時と同じく受信波の振幅が設定基準値を超えた後のゼロクロス点(図8のB点)である。また、受信波識別回路13は、粗カウント信号の出力と同時にAD変換回路15にAD取り込み信号を出力する(ステップ207)。
【0040】
ここで、CPU12は受信波識別回路13から入力された粗カウント信号に従って、送信信号の出力時点から粗カウント信号の入力時点までの間のクロックパルス数を計数する粗カウントを実行する(ステップ208)。そして、CPU12は粗カウントの実行によりクロックパルス数を取得し、取得したクロックパルス数を最新の粗カウント値C3,C4として内部のメモリに記憶する(ステップ209)。なお、今回の計測時に取得した粗カウント値C3,C4は、前回の計測(ここでは予備計測)時に記憶した粗カウント値C1,C2とは別々に記憶され、次回測定時の積分開始位置を設定する際の伝播時間の概略値として使用される。
【0041】
その一方において、AD変換回路15は受信波識別回路13から入力されたAD取り込み信号に従って、積分回路14の電圧測定を行う(ステップ210)。まずAD変換回路15は、AD取り込み信号が入力されると、その時点におけるオペアンプAMPの出力電圧をホールドして、積分電圧を一定に保持する。なお、この時点では積分を終了する必要は無い。
【0042】
次に、AD変換回路15はホールドした積分電圧をディジタル変換し、ディジタル化電圧をCPU12に出力する。そして、CPU12はそのディジタル化電圧の値を読み取って図8に示す積分電圧の電圧値V1を測定し、測定した積分電圧値V1を内部のメモリに記憶する(ステップ211)。なお、本実施形態ではホールドした出力電圧をAD変換回路15で変換した後にCPU12に入力するようにしたが、CPU12にAD変換機能を搭載したものを使用し、ホールドした出力電圧をCPU12に直接入力して、CPU12でディジタル化して積分電圧値を測定して記憶するようにしても良い。
【0043】
このようにして積分電圧値V1の記憶が終了すると、CPU12は積分回路14に積分終了信号を出力する(ステップ212)。積分回路14は積分終了信号に従ってスイッチ部の接点を開き、コンデンサCに蓄積された電荷を放電して、積分をリセットする。
【0044】
次いで、CPU12は順方向と逆方向の積分電圧値V1,V2が記憶されているかどうかを判断する(ステップ213)。ここではまだ逆方向の積分電圧値V2が記憶されていないので(ステップ213にてNO)、ステップ201に戻ってステップ201からステップ212までの処理を繰り返す。これにより、超音波の伝播方向が逆方向に切り換えられ、CPU12が逆方向の積分電圧値V2を取得し、これを順方向の積分電圧値V1とは別に内部のメモリに記憶する。
【0045】
最後に、CPU12は順方向と逆方向の積分電圧値V1,V2が記憶されているかどうかを判断し(ステップ213)、両方向の積分電圧値V1,V2が記憶されていることを確認して本計測を終了する(ステップ213にてYES)。本計測が終了すると以下の流量測定の処理に進む。
【0046】
(3)流量測定
図4は流量測定の処理内容を示すフローチャート図である。流量測定はCPU12の内部で行われる処理であり、順方向の伝播時間と逆方向の伝播時間から流量を測定することを目的とし、以下の手順に従って行われる。
【0047】
まず、伝播時間差を計算する(ステップ301)。図8に示すように、CPU12はメモリに記憶された粗カウント値C1,C2のクロックパルス数に基づいて、送信信号の出力から積分開始信号の入力までに経過したクロックパルス時間T1を求める。また、CPU12はメモリに記憶された積分電圧値V1,V2をパルス幅に逆算し、そのパルス幅からクロックパルス幅T未満の微小時間T2を演算処理により求める。そして、クロックパルス時間T1と微小時間T2を加算することにより、受信波の順方向における伝播時間TAと逆方向における伝播時間TBが計測され、両者の伝播時間差ΔTを下記の[式1]により計算する。なお、Cは音速、Dは測定管4の断面積、θは流体の流れ方向と超音波の伝播方向とのなす角度である。
【0048】
[式1]

【0049】
次に、粗カウント値の更新を行う(ステップ302)。粗カウント値の更新とは、最新の計測時に記憶した粗カウント値(本例では本計測時の粗カウント値C3,C4)によって、その前の回の計測時に記憶した粗カウント値(本例では予備計測時の粗カウント値C1,C2)を書き換える処理である。この処理により、本計測時に常に最新の伝播時間を目安にして積分開始のタイミングが決定される。
【0050】
次に、流速を算出する(ステップ303)。流速Vはステップ301で計算した時間差ΔTに基づいて下記の[式2]により算出する。なお、Lは超音波センサ5,6間の伝播距離である。
【0051】
[式2]

【0052】
最後に、流量に換算する(ステップ304)。流量Qはステップ303で算出した流速Vと測定管4の断面積Dとに基づいて下記の[式3]により換算する。
【0053】
[式3]

【0054】
換算した流量値はCPU12のメモリに記憶される(ステップ305)。以上で流量測定が終了し、流量測定が終了すると以下の次回測定の処理に進む。なお、本例では粗カウント値の更新をステップ302にて行うようにしたが、この処理はステップ301の伝播時間差を算出した後でかつ次回測定の前であれば良く、例えばステップ305の流量値を記憶した後に行うようにしても良い。
【0055】
(4)次回測定
図5は次回測定の処理内容を示すフローチャート図である。次回測定は時間の経過とともに変化する流量を測定することを目的とし、以下の手順に従って行われる。
【0056】
まず、本計測を行う(ステップ401)。本計測の具体的な処理内容は図3で説明した通りであり、ここでは本計測の前の予備計測は行わない。この本計測において、CPU12は更新された最新の粗カウント信号C3,C4に基づいて、今回の計測時における受信波の到達時間を推定して積分開始信号を出力する。この結果、流量が変化しても適切な時間にAD変換回路15による積分電圧の取り込みを行うことができる。
【0057】
次に、流量測定を行う(ステップ402)。流量測定の具体的な処理内容は図4で説明した通りである。流量の測定が終了すると、CPU12は流量の測定回数が所定回数に達したかどうかを判断する(ステップ403)。ここで所定回数に達していない場合(ステップ403にてNO)にはステップ401に戻って測定を継続し、所定回数に達した場合(ステップ403にてYES)には測定を終了する。本処理が終了すると以下の結果出力の処理に進む。
【0058】
(5)結果出力
図6は結果出力の処理内容を示すフローチャート図である。結果出力は流量のデータを出力する処理である。CPU12は、まず上述した測定で記憶した流量値を指定回数で平均化して平均流量を演算する(ステップ501)。そして、CPU12は演算で求めた平均流量を結果として出力回路16に出力する。なお、結果とは電圧信号、パルス信号、電流信号等を指す。
【0059】
以上詳細に説明したように、本発明の超音波流量計1によれば、予備計測時において伝播時間の計測を順方向と逆方向の両方向について行うようにしたので、本計測時において特に大流量のような順方向と逆方向とで伝播時間差ΔTが大きい計測であっても、微小時間T2の計測を分解能が高い状態で行うことが可能になる。
【0060】
また、予備計測時と本計測時に行う粗カウントに基づいて、積分回路14における積分開始のタイミングを粗カウント値C1,C2のクロックパルス数の少なくとも2クロック以上前に設定したので、積分回路14の積分電圧をAD変換の直線性の良好な領域で測定でき、微小時間T2の計測を正確に行える。しかも、積分開始のタイミングを通常計測する計測範囲に対して充分な余裕を持たせて設定しているので、本計測時に伝播時間が多少変動した場合でも微小時間T2の計測を正常に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の超音波流量計の全体構成を示す機能ブロック図。
【図2】予備計測の処理内容を示すフローチャート図。
【図3】本計測の処理内容を示すフローチャート図。
【図4】流量測定の処理内容を示すフローチャート図。
【図5】次回測定の処理内容を示すフローチャート図。
【図6】結果出力の処理内容を示すフローチャート図。
【図7】積分回路の詳細を示す回路図。
【図8】予備計測と本計測のタイミングチャート図。
【符号の説明】
【0062】
1 超音波流量計
2 検出器
3 制御装置
4 測定管
5 超音波センサ
6 超音波センサ
7 送受信回路
8 制御回路
9 切換回路
10 送信回路
11 受信回路
12 CPU
13 受信波識別回路
14 積分回路
15 AD変換回路
16 出力回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる測定管の上流側と下流側に一対の超音波センサが配置され、流体の順方向における超音波の伝播時間と逆方向における超音波の伝播時間との差に基づいて流体の流量を測定する超音波流量計であって、
超音波の伝播方向を順方向と逆方向の間で切り換えて、一方の超音波センサから超音波の送信を行い、他方の超音波センサで超音波の受信を行う送受信回路と、
超音波の伝播時間を予め計測する予備計測時に、超音波の送信時点から受信波の到達時点までの間に計数したクロックパルス数を順方向と逆方向について記憶しておき、予備計測後の本計測時に、超音波の送信時点からクロックパルス数を計数し始め、順方向と逆方向についてそれぞれ記憶したクロックパルス数を計数し終わる前に積分を開始し、受信波の到達時点で積分電圧を測定してクロックパルス幅未満の微小時間を算出することによりクロックパルス時間と微小時間とから伝播時間を計測する制御回路と、を備えた
ことを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
制御回路は、
受信波の振幅が設定基準値を超えた後のゼロクロス点で粗カウント信号とAD取り込み信号を同時に出力する受信波識別回路と、
超音波の送信信号を出力した時点からクロックパルスの計数を開始し、受信波識別回路から粗カウント信号が入力された時点までに計数し終えたクロックパルス数を粗カウント値として記憶しておくとともに、記憶した粗カウント値の整数クロック前に積分開始信号を出力するCPUと、
CPUから積分開始信号が入力された時点で積分を開始する積分回路と、
受信波識別回路からAD取り込み信号が入力された時点で積分回路の積分電圧をホールドし、ホールドした積分電圧をディジタル化してCPUに出力するAD変換回路と、から構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項3】
制御回路は、
本計測において、前回の計測時に記憶したクロックパルス数を今回の計測時に計数したクロックパルス数で書き換える更新処理を行う
ことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波流量計。
【請求項4】
クロックパルスの周期が超音波の送信信号の周期に比べて短く設定されている
ことを特徴とする請求項1、2、3のいずれか1項に記載の超音波流量計。
【請求項5】
流体が流れる測定管の上流側と下流側に一対の超音波センサを配置し、一方の超音波センサから送信した超音波を他方の超音波センサで受信して、流体の順方向における超音波の伝播時間と逆方向における超音波の伝播時間との差に基づいて流体の流量を測定する流量測定方法であって、
超音波の伝播時間を予め計測する予備計測時に、超音波の送信時点から受信波の到達時点までの間に計数したクロックパルス数を順方向と逆方向について記憶しておき、予備計測後の本計測時に、超音波の送信時点からクロックパルス数を計数し始め、順方向と逆方向についてそれぞれ記憶したクロックパルス数を計数し終わる前に積分を開始し、受信波の到達時点で積分電圧を測定してクロックパルス幅未満の微小時間を算出することによりクロックパルス時間と微小時間とから伝播時間を計測する
ことを特徴とする流量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−14690(P2010−14690A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292222(P2008−292222)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【特許番号】特許第4278171号(P4278171)
【特許公報発行日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(390039837)東フロコーポレーション株式会社 (17)
【Fターム(参考)】