説明

超音波流量計

【課題】超音波振動子に起因する温度ドリフトを低減する。
【解決手段】被測定流体Sが流れる管路1の両端に一対の超音波振動子2、3が配置されている。それぞれの超音波振動子2、3には同軸ケーブル4、5が接続されており、それぞれ電気的な損失を発生する素子であるアッテネータ6、7を介して、変換器8に接続されている。
伝送線路である同軸ケーブル4、5に、損失を生ずるアッテネータ6、7を挿入することで、インピーダンスのミスマッチの程度を小さくでき、変換器8から超音波振動子2、3を見たときのインピーダンス変化が低減するので、超音波振動子2、3の温度変化による特性変化が原因となる信号の伝送時間の変化を低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路内を流れる被測定流体の流量を測定するための超音波流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波流量計では、上流側からと下流側の超音波振動子でそれぞれ送受信する超音波ビームの伝播時間の差を用いて流量の計測を行っており、超音波振動子の温度が変化するとその特性が変化し計測値がドリフトすることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
超音波流量計は流体が流れていないときには、流体中を伝播する超音波の伝播時間には上流側と下流側で差がないと考えられるので、ドリフトの評価を行い易い。この流速がゼロの時の温度ドリフトをゼロドリフトと呼ぶと、このゼロドリフトの原因は主として超音波振動子の電気回路に起因すると考えられる。そのため、上流側と下流側での電気回路の信号伝播時間差の温度による変化を少なくすることが課題となる。
【0004】
超音波流量計に使用される超音波振動子は、その温度変化により特性が変化するのが通常である。また、超音波振動子と変換器を結ぶ線路として、同軸ケーブルが使用されることが多いが、同軸ケーブルではその両端の負荷は同軸ケーブルの特性インピーダンスに等しいことが望ましいとされている。
【0005】
しかし、超音波振動子のインピーダンスが同軸ケーブルの特性インピーダンスに一致することは期待できない。また、超音波振動子に信号を与え、また超音波振動子からの信号を処理する変換器の入出力インピーダンスについても、種々の理由により必ずしも同軸ケーブルの特性インピーダンスに一致するとは限らない。
【0006】
通常の電気信号の伝送では、これらのインピーダンスのミスマッチはその程度が小さければ問題になることは少ない。しかし、超音波流量計ではわずかの信号の伝播時間の変化であっても、計測値の誤差の原因となるために、できる限り変化量を小さくする必要がある。
【0007】
本発明の目的は、超音波振動子と変換器を結ぶ伝送線路に対して損失を発生する素子を挿入することで、超音波振動子に起因する温度ドリフトを低減する超音波流量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る超音波流量計は、被測定流体に対し超音波振動子による流れの上流側から下流側への超音波ビームの伝播と下流側から上流側への超音波ビームの伝播の時間差を基に流体の流量を求める超音波流量計において、前記超音波振動子を駆動するための電気信号を送出する駆動回路と前記超音波振動子とを結ぶ伝送線路、及び前記超音波振動子と前記超音波振動子で受信された超音波ビームの電気信号を受信する受信回路とを結ぶ伝送線路に対し、電気的な損失を発生する素子を挿入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る超音波流量計によれば、温度による超音波振動子の共振周波数やQ値の温度変化の影響を低減し、超音波振動子を介して送受信される信号伝送時間の温度による変動を小さくすることができ、ゼロドリフトの値を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】回路構成図である。
【図2】素子を介在しない場合の温度と信号のドリフトのグラフ図である。
【図3】素子を伝送経路に挿入した場合の温度と信号のドリフトのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は実施例の超音波流量計の回路構成図である。被測定流体Sが流れる例えばコ字形の管路1の両端の上流側と下流側のクランプ部に一対の超音波振動子2、3が、管路1内に向けて対向して配置されている。それぞれの超音波振動子2、3にはそれぞれ同軸ケーブル4、5が接続されており、それぞれ電気的な損失を発生する素子であるアッテネータ6、7を介して、変換器8に接続されている。
【0012】
変換器8は超音波振動子2、3に対して超音波信号の送出を行う駆動回路と、超音波振動子2、3は被測定流体Sを通過した超音波ビームを受信する受信回路を備えている。受信回路で受信された信号を基に、既知の演算手段により被測定流体Sの流量を算出し電気信号に変換する。
【0013】
また、変換器8で発生した電気信号は、超音波振動子2、3において超音波ビームに変換され、対向する超音波振動子3、2で再び電気信号に変換されて変換器8で受信される。このとき、超音波振動子2、3を信号が伝わる時間は、共振回路の共振の鋭さを表すQ値、共振周波数、及び駆動信号の周波数などで決まる。そして、超音波振動子2、3のQ値、共振周波数は、超音波振動子2、3が有する温度により変化するため、超音波ビームにより得られた伝播時間は、被測定流体S中を伝播する超音波ビームの伝播時間の影響を取り除いたとしてもゼロにはならない。
【0014】
超音波ビームを送受信する超音波振動子2、3のQ値、共振周波数の温度変化が完全に一致することは期待できないので、超音波振動子2、3の温度変化の影響を除去することが、超音波流量計の測定精度を向上させる上での課題となる。
【0015】
一般的に、共振回路のQ値や共振周波数は、Q値が大きいほど外部回路の影響が大きいことが知られている。Q値を下げるために、回路に並列又は直列に抵抗を入れる方法はよく用いられている。また、特性インピーダンスが終端とされていない伝送線路は、インピーダンスを変換する作用を持つことも知られている。
【0016】
一般的な電気回路では、信号レベルが低下することが嫌われることが多いため、信号の伝送経路に損失を与えることはできるだけ回避し、従来の超音波流量計においても伝送経路に損失を与える方法は採用されていない。
【0017】
一般に、共振回路のQ値が高い場合には、伝送経路のパラメータがわずかに変化した場合でも、Q値の低い場合に比べて信号レベルが大きく変化することが知られている。Q値を低くするためには、伝送経路に抵抗を挿入する方法が用いられているが、超音波流量計においては信号のSN比を大きくする必要があるため、抵抗を挿入する方法は採用されることはない。
【0018】
伝送線路の特性インピーダンスと負荷のインピーダンスが一致していない回路においては、伝送線路が回路のインピーダンスを変化させる作用があることが知られている。超音波振動子2、3のインピーダンスが、通常使用される同軸ケーブル4、5の特性インピーダンスに一致しないことは極く普通にあることである。
【0019】
本願発明のように、超音波流量計の伝送線路である同軸ケーブル4、5に、損失を生ずるアッテネータ6、7を挿入することで、共振回路を通過する信号伝送時間の超音波振動子2、3による温度変化の影響を低下させることができる。
【0020】
超音波振動子2、3と伝送線路とのインピーダンスがマッチングしていない場合に、超音波振動子2、3の特性値が変化すると、伝送線路を通過することで変化が大きくなる場合がある。このように損失を生ずるアッテネータ6、7を同軸ケーブル4、5に挿入することで、インピーダンスのミスマッチの程度を低減することができる。このことにより、変換器8から超音波振動子2、3を見たときのインピーダンス変化が低減するので、それが原因となる信号の伝送時間の変化を低減することが可能となる。
【0021】
図2はアッテネータ6、7を同軸ケーブル4、5に挿入しない場合の温度と信号のドリフトのグラフ図であり、信号値の変動が大きく動作が不安定となっていることが分かる。
【0022】
一方、図3はアッテネータ6、7を同軸ケーブル4、5に挿入した実施例における同様のグラフ図である。信号値は図2よりも温度の影響を受けることなく動作も安定している。
【符号の説明】
【0023】
1 管路
2、3 超音波振動子
4、5 同軸ケーブル
6、7 アッテネータ
8 変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定流体に対し超音波振動子による流れの上流側から下流側への超音波ビームの伝播と下流側から上流側への超音波ビームの伝播の時間差を基に流体の流量を求める超音波流量計において、前記超音波振動子を駆動するための電気信号を送出する駆動回路と前記超音波振動子とを結ぶ伝送線路、及び前記超音波振動子と前記超音波振動子で受信された超音波ビームの電気信号を受信する受信回路とを結ぶ伝送線路に対し、電気的な損失を発生する素子を挿入することを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記伝送線路は同軸ケーブルとしたことを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項3】
前記素子は抵抗としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−112809(P2012−112809A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262275(P2010−262275)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(390026996)東京計装株式会社 (57)
【Fターム(参考)】