説明

超音波流量計

【課題】楔、振動子の設置位置を選択し、また、超音波流計の送信タイミングを適切に選択することで、流体の流速や流量を高精度に測定可能とした超音波流計を提供する。
【解決手段】配管中を流れる気泡を含む流体の流速及び流量を測定する超音波流計において、前記配管の外周の長手方向に所定の距離Lを隔て、かつ対向して配置された2つの超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段へ超音波信号を送信し、前記気泡で反射した信号に基づいて前記流体の速度を演算する変換器6とを備え、前記所定の距離Lは予め定めた測定可能な最大流速Vmaxにより求め、前記超音波送受信手段への超音波信号の送信間隔は初期設定の流速又は測定した流速と楔2の設置距離により求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流速や流量を高精度に測定する超音波流量計に関し、偏流成分(揺らぎ)の影響をキャンセルした超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波流計は、配管内の被測定流体中に含まれる気泡やパーティクルが流体と同じ速度で移動すると仮定し、この移動速度から被測定流体の流速分布や流量を測定している。
図3は、被測定流体の流速分布や流量を求める方法の従来例を示すもので、配管1の外周面に音波伝搬性の楔2a、2bを介して傾斜して固定された超音波振動子3a,3bにより、配管1に対して所定の入射角を与え、特定の周波数で超音波パルスを送信することにより、気泡やパーティクルからの反射体で反射したエコー波の周波数がドップラー効果により反射体の移動速度(流体の流速)に応じて変化するので、この変化量から速度分布を求めるものである。
【0003】
あるいは、機器の構成は同じとし、超音波パルスの発振時間間隔をΔt毎に送信し、気泡やパーティクルの反射体からの超音波エコー信号から隣り合う2つの超音波エコー信号の相互相関から速度分布を求める方法等もある。
【0004】
そして、上述のいずれの方法においても配管内の流れの偏流成分(揺らぎ)の影響をキャンセルするために、対向する面に逆向きで楔、振動子を設置し流速を測定し平均を取る方法で流量の測定を行っている。
【0005】
図4(a,b)は配管内の流れの偏流成分(揺らぎ)の影響をキャンセルするための一例を示すもので、図4(a)は配管1の下側から楔2aを介して振動子3aにより発振された超音波で気泡Aを計ったA測線が計る流速をVAとし、配管1の上側から楔2bを介して振動子3bにより発振された超音波で気泡Bを計ったB測線の計る流速をVBとすると、それぞれの流速は流れの方向成分V1と同一平面内の偏流成分(揺らぎ)成分V2を使ってそれぞれ、VA=V1−V2、VB=V1+V2と表され、それぞれの平均を取ることでV=(VA+VB)/2=V1となり、偏流成分(揺らぎ)成分V2がキャンセル可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−95030号公報
【特許文献2】特許第4544247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような構成の超音波流量計においては、気泡やパーティクルからの反射波からの信号を測定して流量を求めており、偏流成分(揺らぎ)の影響をキャンセルするため、対向する面に逆向きで楔、振動子を設置し測定を行っている。
しかし、図4(a,b)に示すように振動子から送信される超音波のタイミングが異なるため、流速を測定している気泡群が異なっている。そのため、異なる気泡群のもつ偏流成分も異なるため、流れの影響を確実にキャンセルすることができず誤差の原因のひとつとなっている。
【0008】
従来は同じ気泡群からの反射信号を測定できないため、A側線で測定できる流速VA=V1−V2、B側線で測定できる流速VBはVB=V1+V2´となる。
そのため、流速成分V1と編流成分V2の2つの成分を含んでおり、平均値Vを求めても編流成分は(−V2−V2´)/2で完全にはキャンセルできないと言う課題があった。
【0009】
本測定では楔、振動子の設置位置を選択し、また、超音波流計の送信タイミングを適切に選択することで、同じ気泡群からの反射信号を使うことにより編流成分は同じとみなせることができ、A側線、B側線の平均値を取ってキャンセルすることにより、流体の流速や流量を高精度に測定可能とした超音波流計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、請求項1の超音波流計においては、
配管中を流れる気泡を含む流体の流速及び流量を測定する超音波流計において、
前記配管の外周の長手方向に所定の距離(L)を隔て、かつ対向して配置された2つの超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段へ超音波信号を送信し、前記気泡で反射した信号に基づいて前記流体の速度を演算する変換器とを備え、
前記所定の距離(L)は予め定めた測定可能な最大流速(Vmax)により求め、
前記超音波送受信手段への超音波信号の送信間隔は初期設定の流速又は測定した流速と楔の設置距離により求め、前記2つの超音波発信手段がそれぞれ同じ気泡群からの反射信号で流速を測定することを特徴とする。
【0011】
請求項2においては、請求項1に記載の超音波流量計において、
前記所定の距離(L)はL=Vmax・Tmax(前記変換器が設定可能な送信間隔の最大値)により求め、前記2つの超音波送受信手段からの送信間隔(t)をt=L/V(測定した流速)により求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したことから明らかなように本発明によれば、
2つの超音波発信手段がそれぞれ同じ気泡群からの反射信号で流速を測定することで、偏流成分(揺らぎ)の影響を確実にキャンセルすることが可能となる。その結果、超音波流量計の流速や流量を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の超音波流計の実施形態の一例を示す図である。
【図2】本発明の超音波流計の動作を示すフローチャートである。
【図3】従来の超音波流計の一例を示す図である。
【図4】従来の超音波流計の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(a)は本発明の超音波流計の実施形態の一例を示す図である。
図1(a)において、超音波信号発振・検出部(以後、検出器)Aを配管の外壁に接するように設置する。検出器Aは、振動子3aと楔2aで構成されている。楔2aは振動子3aを支持し、振動子3aから超音波信号を所定の角度で配管5の外壁から被測定流体に入射させる。
【0015】
同様の構成の検出器Bを間隔Lを空けて配管5の外壁の対向する外周に逆向きに設置する。6は検出器A、Bに対して超音波信号を発信するための電気信号(パルス)を送出し、気泡で反射した超音波信号受信する変換器である。この変換器は交互に超音波信号を送信し、検出器Aでまず流速を測り、次に検出器Bで流速を測定する。
【0016】
図2は図1(a)に示す超音波流量計の動作フローチャートである。
ステップに従って説明する。
ステップ1 測定のためのパラメータを入力する。
超音波流量計を構成する変換器6には図示しない設定手段により測定前にあらかじめ流速計算をするために必要なパラメータが設定されて保存される(例えば、楔を取り付ける配管肉厚、配管外径、楔音速C1、入射角θ1など)。ここで、楔音速C1は楔の中を伝播するパルスの音速、入射角θ1は配管への超音波の入射角度である。この入射角度は検出器の形で決定される値で固定値である。なお、入射角度は例えば楔に刻印する場合もある。
【0017】
ステップ2 流量測定に必要なデータの演算を行う。
配管内を流れる最大流速Vmaxを入力する。この最大流速は配管内径と予測される流量に応じてオペレータが任意に入力する値である。このVmaxは実際の流量計を使用するにあたって流れると予想される最大の流量であり、オペレータ側で予想できる範囲と流量計で測定できる最大の範囲を超えない値となる。オペレータ側で判断できない場合は仕様の最大流速がVmaxとなる。
【0018】
変換器6が設定可能な送信間隔の最大値をTmax、検出器の設置距離をLとすると、
設置距離L=Vmax・Tmaxで与えられるので、その距離(L)を変換器の表示部に表示する。即ち、交互に超音波を発振するタイミングがわかると速さ×時間=距離なので検出器AとBの設置距離を求めることができる。その距離を変換器6に表示し、表示に従い配管の外周に設置距離Lを隔てて向かい合うように検出器A、B(楔)を設定する。この設定は測定前に1度だけ行う。
ステップ3 パラメータを保存する。
変換器が設定可能な送信間隔を入力する。この送信間隔はのちに測定される流速から演算した値をフィードバックして入力するが、初期値として変換器の持つ仕様のTmaxを入力する。
【0019】
ステップ4 パラメータを読み込む。
ここで、パラメータとは楔を取付ける配管肉厚、外径、材質、音速、測定流体の音速、楔と楔の設置距離、楔の音速、楔の角度(入射角度)などである。楔の角度は固定値で楔の形で決定する。楔は個体であらかじめある角度を持たせている。ここでのパラメータとはステップ1及びステップ3で入力した内容のことである。
ステップ5 超音波信号を生成する。
ステップ6 振動子を振動させて超音波を送信する。
ステップ7 反射波(エコー波)を受信する。
【0020】
ステップ8 流速(VA)を演算する。
検出器Aから超音波を2回、Δt(例えば数μsec)の送信間隔をあけて配管中に送信する。そして、気泡やパーティクルで反射したエコーを受信すると伝搬時間差Δtと移動距離Δxを求めることができる。伝搬する距離xは予めわかっているのでVA=Δx/Δtで求めることができる。
【0021】
超音波を楔、配管を介して流体内に送信すると、気泡からの反射信号が測定できる。この反射信号から気泡までの伝搬時間tがわかる。楔、配管、流体の音速と楔の長さ、配管の肉厚から気泡までの距離xが特定できる。即ち、気泡までの総伝播時間tは
t=(2楔長さ/C1)+2配管肉厚/cosθ2/C2+2x/C3 となる。
(C2は配管音速、C3は流体の音速)超音波を2回、Δtの送信間隔をあけて送信するので2つの気泡の位置の結果x1とx2を得ることができる。
【0022】
音速と入射角度の間には図1(b)に示すようなスネルの法則、
すなわち、sinθ1/C1=sinθ2/C2=sinθ3/C3 の関係がある。
【0023】
伝播時間差Δt=(x1−x2)sinθ3/C3となり、伝搬時間差Δtの間に進む気泡の移動距離Δxがわかり超音波の2回の送信時間はΔtの間隔があるので、VA=Δx/Δtを解くと最終的にVA=ΔtCl/2Δtsin(θ1)となり流速を求めることができる。同様の計算をB測線でも行い平均値を流速Vとする。
【0024】
ステップ9 流量Qを下式により演算する。
Q=ρAV
ここで、ρ:密度、A:配管の断面積、V:ステップ8で測定した流速
【0025】
ステップ10 測定結果を変換器の表示手段に表示する。
ステップ11 ステップ8で測定された流速VAが設定されたVmaxと同じ場合はステップ12に進んで測定は終了する。流速VAが設定されたVmaxより小さな場合はステップ13に進む。ここで、測定が終了するとはそのパラメータを使って続けて計測するという意味で、流速が変化しなければパラメータは変更せず、流速が変化した場合はステップ13に進んでパラメータを変更して測定を続行するということを意味している。
【0026】
ステップ13 同じ気泡群を続けて測定するために、測定した流速VAから検出器AとBを送信する間隔(送信間隔)tをt=L/VAにより求める。
ステップ14 楔設置距離の読み込みを行う。一度設置した楔の距離Lは不変なのでここでは同じ距離を読み込むこととなる。
【0027】
ステップ15 送信間隔tはt=L/VAで与えられるので、t、Vmaxの設定を上書きし、B側の流速VBを算出しステップ3に進んで保存されたパラメータの書き換えを行った後流量演算を行う動作を繰り返す。
【0028】
即ち、A側線で測定できる流速VA=V1−V2とB側線で測定できる流速VBはVB=V1+V2となり、流速成分V1と編流成分V2の2つの成分を含んでおり、流速はA側線、B側線の平均値を取るので偏流成分(揺らぎ)をキャンセルすることができる。
【0029】
上述のステップ1〜15によれば、検出器A、Bがそれぞれ同じ気泡群からの反射信号で流速を測定するので、偏流成分(揺らぎ)の影響を確実にキャンセルすることが可能になり、結果として超音波流量計の流速や流量を高精度に測定することが可能となる。
【0030】
即ち、検出器Aと検出器Bが超音波信号を送信するにはΔtの間隔だけ時間を空けてある。そのため上流側Aで送信したのち、Δt秒間に進む気泡群の距離Lを空けて下流側検出器Bが設置されているので同じ気泡群を測定できることとなる。
【0031】
気泡群はほぼ同じ塊で進むことは公知である。検出器AとBは交互に送信しているので検出器Aを送信した後、配管内を流れる被測定体の進む距離がわかっていればその距離Lを離した検出器Bで測定すれば同じ気泡群を測定することができる。
【0032】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0033】
1 配管
2 楔
3 振動子
6 変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管中を流れる気泡を含む流体の流速及び流量を測定する超音波流計において、
前記配管の外周の長手方向に所定の距離(L)を隔て、かつ対向して配置された2つの超音波送受信手段と、前記超音波送受信手段へ超音波信号を送信し、前記気泡で反射した信号に基づいて前記流体の速度を演算する変換器とを備え、
前記所定の距離(L)は予め定めた測定可能な最大流速(Vmax)により求め、
前記超音波送受信手段への超音波信号の送信間隔は初期設定の流速又は測定した流速と楔の設置距離により求めることを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記所定の距離(L)はL=Vmax・tmax(前記変換器が設定可能な送信間隔の最大値)により求め、前記2つの超音波送受信手段からの送信間隔(t)をt=L/V(測定した流速)により求めることを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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