説明

超音波診断装置、超音波診断システム及び超音波診断用プログラム

【課題】長期の稼動によって有機圧電素子の機能が劣化しても、高精細な超音波画像を継続して得ることができる超音波診断装置、超音波診断システム及び超音波診断用プログラムを提供する。
【解決手段】有機圧電素子の稼動履歴と機能の劣化の対応関係を利用し、有機圧電素子が変換した受信電気信号を、アンプで増幅する際の増幅率を稼動履歴に応じて変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子から被検体へ超音波信号を送信し、受信した反射超音波信号を基に、被検体内部の超音波画像を生成する超音波診断装置、該超音波診断装置をリモート制御する超音波診断システム及び超音波診断用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等、多くの特長を有し、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿器科系(腎臓、膀胱)、および産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
このような医療用超音波診断装置においては、高感度、高解像度の超音波の送受信を行うために、圧電素子の圧電効果が一般的に利用される。さらに、画像の分解能や高精細さ、或いは、スペックルノイズの低減、アーチファクトの低減等には、圧電素子の広帯域化が有用であり、そのような特性をもつ圧電素子が望まれていた。
【0004】
高調波信号を用いた組織ハーモニックイメージング(THI)診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから、標準的な診断モダリティとなりつつある。ハーモニックイメージングは、基本波に比較して、サイドローブレベルが小さいことで、S/Nが良く、コントラスト分解能が良くなること、周波数が高くなることでビーム幅が細くなり横方向分解能が良くなること、近距離では音圧が小さく、さらに音圧の変動が少ないので多重反射が起こらないこと、焦点以遠の減衰は基本波並みであり、高調波の超音波は基本波の超音波に比べ深速度を大きく取れること、という多くの利点を有している。
【0005】
しかし、前記のような従来の超音波診断装置における超音波探触子は、使用中心周波数foが予め設定されてしまうので、その周波数によって生体の診断深さが決まってしまい、診断深さに自由度がなく、制限を受けるという問題がある。このため、1〜5MHzの低周波の超音波探触子は深部を、6〜10MHzの周波数の超音波探触子は中程度の深さを、11〜25MHzの高周波の超音波探触子は生体の表面に近い部位を診断するという具合に、超音波探触子を使い分けるのが定法となっていた。このような超音波探触子の使い分けは、超音波診断の現場において、使用者の診断速度向上を妨げるものであり、改善が望まれていた。
【0006】
そこで、新規な取り組みとして、送信用にはPZTのようなセラミック圧電素子を低周波に使用し、受信用にPVDFのような広帯域の有機圧電素子を高周波に利用する方法が提案された(非特許文献1,2)。有機圧電素子の広帯域性により、超音波探触子を使い分ける必要がなくなった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】The Journal of the Acoustic Society of America −May 1998 Volume103、Issue 5, p.3041 「Study of compund structured ultrasonic tranducer made of PZT/PVDF」 Moor Joon Kim et. al.
【非特許文献2】「PZT/PVDF多層構造の超音波複合圧電素子の研究」(中国南京大学音響学研究所の南京大学報:数学半年刊1999年5期頁636−638)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機圧電素子は、長期の稼動によって機能が劣化し、超音波画像の画質が悪化するという不具合が生じる。
【0009】
本発明は、有機圧電素子の稼動履歴と機能の劣化の対応関係を利用し、有機圧電素子が変換した受信電気信号を、アンプで増幅する際の増幅率を稼動履歴情報に応じて変更し、高精細な超音波画像を継続して得ることができる超音波診断装置、および超音波診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0011】
1.電気信号を超音波信号に変換して被検体内に送信する機能と、前記被検体内において反射されて生成された反射超音波信号を受信して受信電気信号に変換する機能を併せ持つ複数の第1圧電素子と複数の第2圧電素子と、を備える超音波探触子と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子を駆動する送信部と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子が変換した受信電気信号を所定の増幅率で増幅する増幅手段を備える受信部と、
前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子、または前記複数の第2圧電素子に関する稼動履歴情報を保持する保持部と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の前記増幅率と、前記稼動履歴の対応関係を記憶した記憶部と
少なくとも、前記受信部、前記保持部、及び前記記憶部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記保持部が保持する稼動履歴に応じ、前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の少なくとも一方の前記増幅率を前記記憶部から取得し、取得した増幅率に前記受信部の増幅率を変更することを特徴とする超音波診断装置。
【0012】
2.前記稼動履歴情報は、少なくとも累積使用時間、累積使用回数の履歴を含むことを特徴とする前記1に記載の超音波診断装置。
【0013】
3.前記超音波探触子は前記超音波探触子内部の温度を計測する温度計測手段を有し、
前記稼動履歴情報は前記温度計測手段が計測した前記超音波探触子内部の温度の情報を含むことを特徴とする前記2に記載の超音波診断装置。
【0014】
4.前記対応関係は、
前記制御部が、前記複数の第1圧電素子に送信させた所定の超音波信号の大きさと、前記第2圧電素子に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である第1変換係数と、
前記制御部が、前記複数の第2圧電素子に送信させた所定の超音波信号の大きさと、前記第1圧電素子に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である第2変換係数と、
に依存することを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【0015】
5.前記第1変換係数と前記第2変換係数とは異なることを特徴とする前記4に記載の超音波診断装置。
【0016】
6.前記対応関係は、
前記制御部が、前記複数の第1圧電素子に所定の超音波信号を送信させて、前記第2圧電素子に受信させ、タイミングを異ならせて受信して算出した少なくとも一つの第1変換係数と、
前記制御部が、前記複数の第2圧電素子に所定の超音波信号を送信させて前記第1圧電素子に受信させ、タイミングを異ならせて受信して算出した少なくとも一つの第2変換係数と、
に依存することを特徴とする前記4または5に記載の超音波診断装置。
【0017】
7.前記制御部が前記第1変換係数と前記第2変換係数とを記憶させる外部記憶装置を有し、
前記対応関係は、前記外部記憶装置に過去に記憶させた前記第1変換係数と前記第2変換係数と、現在の前記第1変換係数と前記第2変換係数を基に算出された、前記第1変換係数と前記第2変換係数の各々の時間的変化に依存する
ことを特徴とする前記4に記載の超音波診断装置。
【0018】
8.前記第2圧電素子は、有機圧電材料を材料とする有機圧電素子から構成されており、前記有機圧電材料は、フッ化ビニリデンの重合体、または、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体であることを特徴とする前記1から7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【0019】
9.前記1から8のいずれか1項に記載の超音波診断装置と、
操作入力部と、該操作入力部の操作に応じて操作信号を発生して前記超音波診断装置を制御する制御部とを備え、通信回線を介して前記超音波診断装置に接続されたリモート装置と、
を有することを特徴とする超音波診断システム。
【0020】
10.コンピュータに、
電気信号を超音波信号に変換して被検体内に送信する機能と、前記被検体内において反射されて生成された反射超音波信号を受信して受信電気信号に変換する機能を併せ持つ複数の第1圧電素子と複数の第2圧電素子と、を備える超音波探触子からの前記受信電気信号を受信する処理と、
送信部に少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子を駆動させる処理と、
所定の増幅率で増幅する増幅手段を備える受信部に、少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子が変換した受信電気信号を増幅させる処理と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子、または前記複数の第2圧電素子に関する稼動履歴情報を保持する保持部から前記稼動履歴を受信する処理と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の前記増幅率と、前記稼動履歴の対応関係を記憶した記憶部から、受信した前記稼動履歴に応じた前記増幅率を前記記憶部から取得する処理と、
前記保持部が保持する稼動履歴に応じ、前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の少なくとも一方の前記増幅率を前記記憶部から取得し、取得した増幅率に前記受信部の増幅率を変更する処理と、
変更された増幅率で増幅された前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する処理と、
を実行させることを特徴とする超音波診断用プログラム。
【発明の効果】
【0021】
有機圧電素子の長期の稼動によって機能が劣化しても、高精細な超音波画像を継続して得ることができる超音波診断装置、および超音波診断システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】超音波診断装置Sの外観構成を示す図である。
【図2】超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】超音波診断装置Sにおける超音波探触子2の構成を示す図である。
【図4】増幅率補正処理の処理フローを表す図である。
【図5】稼動履歴情報のデータの例を示すテーブルである。
【図6】稼動履歴情報に対応する増幅率の例を示すテーブルである。
【図7】対応関係再定義処理の処理フローを表すフロー図である。
【図8】圧電部22、送信部12、受信部13の概要図である。
【図9】圧電部22、送信部12、受信部13の概要図である。
【図10】交換時期判断処理の処理フローを説明するフロー図である。
【図11】図11(a)は、実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成における各超音波信号の経路を示す図であり、図11(b)は超音波信号の時間波形の概要図である。
【図12】増幅率補正処理2の処理フローを説明するフロー図である。
【図13】超音波診断システムSYの電気的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態を図面により説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られるものではない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0024】
図1は、第1の実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、第1の実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、第1の実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す図である。
【0025】
超音波診断装置Sは、図1および図2に示すように、図略の生体等の被検体Hに対して超音波(以後、第1超音波信号とも称す)を送信すると共に、被検体Hで反射した超音波の反射超音波信号(以後、第2超音波信号とも称す)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体Hに対して第1超音波信号を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体H内からの第2超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号(受信電気信号)に基づいて被検体H内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0026】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、信号処理部14と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17と、記憶部18とを備えて構成されている。
【0027】
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体Hの個人情報等のデータを入力するものであり、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0028】
送信部12は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を供給して超音波探触子2に第1超音波信号を発生させる回路である。送信部12は、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。超音波探触子2には、後述するように、第1圧電部221と第2圧電部223等とを有する圧電部22が備えられている。第1圧電部221と第2圧電部223の一方に、第1超音波信号を発生させることができるように構成されている。
【0029】
受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して受信電気信号を受信する回路であり、この受信信号を信号処理部14へ出力する。
【0030】
受信部13は、第1圧電部221と第2圧電部223の一方に、第2超音波信号を受信させることができるように構成されている。第1圧電部221が第1超音波信号を送信する際には、受信部13は第2圧電部223に第2超音波信号を受信させる。第2圧電部223が第1超音波信号を送信する際には、受信部13は第1圧電部221に第2超音波信号を受信させる。
【0031】
受信部13においては、第1圧電部221または第2圧電部223が第2超音波信号を受信して変換した受信電気信号を電気的に増幅する増幅手段である図示しないアンプを有している。アンプにおける増幅率は、変更可能なように構成されている。
【0032】
受信部13には、アンプで増幅された受信電気信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換するアナログ−デジタル変換器等が備えられていてもよい。受信電気信号をアナログ信号のまま超音波画像を得る処理まで実施してもよいし、受信電気信号をデジタル信号に変換して、超音波画像を得る処理まで実施してもよい。
【0033】
信号処理部14は、制御部17の制御に従って、所定の信号を処理する回路であり、受信電気信号に所定の処理を施して画像処理部15へ出力する。
【0034】
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、信号処理部14で信号処理された受信電気信号に基づいて例えばハーモニックイメージング技術等を用いて被検体H内の内部状態の超音波画像を生成する回路である。
【0035】
表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された被検体H内の内部状態の画像を表示する装置である。表示部16は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0036】
記憶部18は、各種プログラム等を記憶している。
【0037】
制御部17は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、信号処理部14、画像処理部15、表示部16、および記憶部18等を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0038】
超音波探触子2は、例えば、図3に示すように、音響制動部材21と、圧電部22と、音響整合層23と、音響レンズ24と、サーミスタ25、26とを備えて構成される。
【0039】
音響制動部材21は、超音波を吸収する材料から構成された平板状の部材であり、圧電部22から音響制動部材21方向へ放射される超音波を吸収するものである。
【0040】
圧電部22は、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換するものである。圧電部22は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信の電気信号を第1超音波信号へ変換して送信すると共に、受信した第2超音波信号を受信電気信号へ変換して、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。超音波探触子2が被検体Hに当接されることによって圧電部22で生成された第1超音波信号が被検体H内へ送信され、被検体H内からの第2超音波信号が圧電部22で受信される。
【0041】
圧電部22は、例えば、本実施形態では、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる第1および第2圧電部221、223を備え、第1および第2圧電部221、223は、互いに積層されている。
【0042】
本実施形態では、第1および第2圧電部221、223は、中間層222を介して互いに積層されている。この中間層222は、第1圧電部221と第2圧電部223とを積層させ、第1圧電部221と第2圧電部223との音響インピーダンスを整合させるものである。
【0043】
このように圧電部は、第1および第2圧電部221、223の2層を備える。
【0044】
第1圧電部221と第2圧電部223とは、供に第1超音波信号を送信可能であり、かつ供に第2超音波信号を受信可能である。第1圧電部221が第1超音波信号を送信する用途に用いられる場合には、第2圧電部223は第2超音波信号を受信する用途に用いられる。逆に、第2圧電部223が第1超音波信号を送信する用途に用いられる場合には、第1圧電部221は第2超音波信号を受信する用途に用いられる。
【0045】
また、本実施形態では、例えば、圧電部22における第1圧電部221は、無機圧電材料を材料とする無機圧電素子から構成されており、無機圧電素子は両面に一対の電極を備えて構成されている。この無機圧電素子の厚さは、例えば、送信すべき超音波の周波数や無機圧電材料の種類等によって適宜に設定される。無機圧電材料は、例えば、PZT、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O)、チタン酸バリウム(BaTiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO)等である。本実施形態では、このように送信パワーを大きくすることが可能な無機圧電素子が第1圧電部221に用いられている。
【0046】
そして、本実施形態では、例えば、圧電部22における第2圧電部223は、有機圧電材料を材料とする有機圧電素子から構成されており、有機圧電素子は両面に一対の電極を備えて構成されている。この有機圧電素子の厚さは、例えば、受信すべき超音波の周波数や有機圧電材料の種類等によって適宜に設定されるが、例えば、中心周波数8MHzの超音波を受信する場合では、この有機圧電素子の厚さは、約50μmである。
【0047】
有機圧電材料には、例えば、フッ化ビニリデンの重合体や、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体を用いることができる。フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体の場合、共重合比によって厚み方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化するので、例えば、前者の共重合比が60〜99モル%が好ましいが、無機圧電素子と有機圧電素子を重ねる時に使用する有機結合剤の使用方法にもよるので、その最適値は変化する。最も好ましい前者の共重合比の範囲は85〜99モル%である。フッ化ビニリデンを85〜99モル%にして、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルコキシエチレン、パーフルオロヘキサエチレン等を1〜15モル%にしたポリマーは、送信用の無機圧電素子と受信用の有機圧電素子との組み合わせにおいて、送信における基本周波波を抑制して、高調波受信の感度を高めることができる。
【0048】
フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体は、薄膜化、大面積化等の加工性に比較的優れ、任意の形状、形態に作製することができ、弾性率が低い、誘電率が低い等の特徴を持つため、超音波信号を受信する圧電素子としての使用に際しては、高感度な検出を可能とする特徴を持っている。また、これらの有機圧電材料は、高周波特性、広帯域特性を必要とするハーモニックイメージング技術における圧電材料として適している。
【0049】
サーミスタ25、26は、各々第1圧電部221、第2圧電部223の温度を計測する温度計測手段である。
【0050】
また、本実施形態では、圧電部22の第1圧電部221は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して電気信号が入力され、この電気信号を第1超音波信号へ変換し、この変換した第1超音波信号を中間層222、第2圧電部223、音響整合層23および音響レンズを介して被検体Hへ送信する。そして、圧電部22の第2圧電部223は、音響レンズ24および音響整合層23を介して被検体Hから第2超音波信号を受信し、第2超音波信号を受信電気信号へ変換する。受信電気信号はケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力される。
【0051】
第2超音波信号には、送信された第1超音波信号の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍などの第2高調波成分、第3高調波成分および第4高調波成分なども含まれる。
【0052】
本実施形態では、上述したように第1圧電部221が無機圧電素子であり、送信パワーを比較的簡単な構造で大きくすることが可能となるため、このような圧電部22を備えた超音波探触子2は、高調波の反射波を得るために比較的大きなパワーで基本波の第1超音波信号を送信することが必要なハーモニックイメージング技術に好適であり、より高精細な超音波画像の提供が可能となる。
【0053】
そして、本実施形態では、上述したように第2圧電部223が有機圧電素子であり、周波数帯域を比較的簡単な構造で広帯域にすることが可能となるため、このような圧電部22を備えた超音波探触子2は、高調波の第2超音波信号を受信することが必要なハーモニックイメージング技術に好適であり、より高精細な超音波画像の提供が可能となる。
【0054】
本実施形態では、圧電部22における第1および第2圧電部221、223は、第1圧電部221上に第2圧電部223が積層され、第2圧電部223における第1圧電部221と反対側の面が超音波信号の送受信面である。第1圧電部221と第2圧電部223との間には中間層222が積層されている。このように、第1圧電部221上に第2圧電部223が積層されて一体化することで、小型の超音波探触子2を構成することができる。
【0055】
このような、超音波診断装置Sにおいては、使用者は操作入力部11を用いて操作する。例えば使用者は操作入力部11から超音波探触子2に第1超音波信号を送信するように操作する。送信された第1超音波信号は、被検体に送信され、測定箇所や、測定箇所に到る部分で反射され第2超音波信号を形成し、超音波探触子2に戻る。第2超音波信号は圧電部22にて受信され、受信電気信号に変換され、画像処理部15で超音波画像が生成され、表示部16で表示される。このような超音波画像生成過程において、制御部17は、稼動履歴情報をデータとして記憶部18に備えられた不揮発性RAMに記憶させる。記憶部18は稼動履歴情報を保持する保持部として機能する。稼動履歴情報とは、稼動時の累積使用時間、累積使用回数、稼動時の第1圧電部221と第2圧電部223圧電部22の温度等の情報である。
【0056】
このような超音波画像を生成する超音波診断装置Sにおいて、圧電部22における第1圧電部221は無機圧電材料を材料とする無機圧電素子とから構成されており、第2圧電部223は有機圧電材料を材料とする有機圧電素子から構成されている。無機圧電素子と有機圧電素子は、累積使用時間、累積使用回数等が増加するに従って性能劣化を起こすので、第1超音波信号が被検体において反射して戻ってきた第2超音波信号を、受信電気信号に変換する変換係数の大きさも減少することとなる。このように受信電気信号が減少すると、画像処理部15において高精細な超音波画像を得ることは難しくなってしまう。そこで、本実施形態では、累積使用時間、累積使用回数等の稼動履歴情報に応じて、受信部13における受信電気信号を増幅する際の増幅率を補正する処理を実施し、稼動によって生じる受信用の圧電部としての第1圧電部221や第2圧電部223の性能劣化を補うことで高精細な超音波画像を生成する。このような処理を増幅率補正処理と称す。以下、増幅率補正処理について図4から図6を用いて詳細に説明する。
【0057】
図4は増幅率補正処理の処理フローを表す図である。図5は稼動履歴情報のデータの例を示すテーブルである。図6は、稼動履歴情報に対応する増幅率の例を示すテーブルである。
【0058】
図4を用いて増幅率補正処理の処理フローを説明する。第1超音波信号を送信する送信用の圧電部には、無機圧電素子で構成された第1圧電部221を用い、第2超音波信号を受信する受信用の圧電部には有機圧電素子で構成された第2圧電部223を用いる。
【0059】
増幅率補正処理の処理フローは主に制御部17に備えられたCPU171が、記憶部18に記憶されている増幅率補正処理用のプログラムを読み出して図示しないRAM内に形成されたワークエリアに展開し、該プログラムに従った処理を実行することにより各部の動作を集中制御する。すなわち、CPU171を備えた制御部17、記憶部18、図示しないRAMは、コンピュータとして機能する。
【0060】
増幅率補正処理は、例えば使用者が超音波診断装置Sを立ち上げた際に自動で実施されるようプログラムが設定されている。
【0061】
最初にステップ1にて、使用者は超音波診断装置Sを立ち上げる。すると、CPU171は、記憶部18から増幅率補正処理用プログラムを呼び出し、図示しないRAM内に形成されたワークエリアに展開する。
【0062】
次にステップS2にて、CPU171は、記憶部18に保持されている稼動履歴情報を取得する。稼動履歴情報は、前述のように、稼動時の累積使用時間、累積使用回数、稼動時の第1圧電部221と第2圧電部223圧電部22の温度等の情報である。図5に示されているように、稼動履歴情報のデータは、累積使用時間がK時間、累積使用回数L回、使用温度M度などと保持されている。累積使用時間と累積使用回数は、各々超音波診断装置Sが初めて使用されてからの累積時間、累積使用回数、または、増幅率補正処理が前回実施されてから経過した累積時間、累積使用回数を言う。使用温度とは、例として、超音波診断装置Sが初めて使用されてからの平均温度、または、増幅率補正処理が前回実施されてから平均温度を言うがこれに限られるものではない。例えば、使用温度が高くなるに従って温度が無機圧電素子や有機圧電素子に与える影響が大きいので、使用温度が高い場合には重み付けを行った指数を用いても良い。
【0063】
次にステップS3にて、稼動履歴情報のデータから増幅率のデータを取得する。増幅率は前述のように、図6に示すように、稼動時の累積使用時間、累積使用回数、稼動時の第1圧電部221と第2圧電部223圧電部22の温度毎に、対応関係を有する形で増幅率のデータが格納されている。
【0064】
例えば、使用時間の稼動履歴情報を受信部13の増幅率に反映させる上で、累積使用時間、累積使用回数、稼動時の温度の中の一つの項目を選んで対応する増幅率を取得する場合、図6(a)に示すように、使用時間が例えば100時間経過する度に、増幅率をA1、A2〜An(nは整数)と変更していく。
【0065】
また、使用回数の稼動履歴情報を受信部13の増幅率に反映させる場合、図6(b)に示すように、使用回数が例えば100回経過する度に、増幅率をB1、B2〜Bnと変更していく。
【0066】
また、温度は無機圧電素子や有機圧電素子の材料特性に影響を与えることから、累積使用時間や累積使用回数に対応する受信部13の増幅率を、温度をパラメータとして変更してやることが望ましい。図6(c)は、使用平均温度をパラメータとした時の累積使用時間に対応する受信部13の増幅率を示す。
【0067】
変更後の増幅率については、受信用の圧電部である第2圧電部223が第2超音波信号を受信電気信号に変換する変換係数の大きさを初期値に回復させる程には、増幅率を大きくしないことが重要である。画像処理部15における超音波画像の画像品質は、画像処理部に入力される受信電気信号のSNに左右される。SNは受信電気信号のシグナルとノイズの大きさの比で表される。受信電気信号自体のSNは、受信電気信号の振幅を増幅することで改善する。一方、ノイズは、受信電気信号以外に発生源があり、かかる発生源からのノイズは、アンプの増幅率を向上させると大きくなる可能性がある。従って、シグナルの大きさを初期値ほどに回復させない増幅率において、SN値を最も改善する増幅率が存在すると言える。
【0068】
次にステップS4にて、CPU171は、第1圧電部221に第1超音波信号を送信させる。送信された第1超音波信号は、被検体に送信され、測定箇所や、測定箇所に到る部分で反射され第2超音波信号を形成し、超音波探触子2に戻る。
【0069】
次にステップS5にて、CPU171は、第2圧電部223に第2超音波信号を受信され、受信電気信号に変換させる。
【0070】
次にステップS6にて、受信電気信号を受信部13におけるアンプで増幅する。この時、アンプの増幅率に前述のように、ステップS3で取得した増幅率を採用し、アンプに増幅させる。アンプには、例えば、オペアンプを採用した公知の増幅率可変タイプを採用できる。また、公知のデジタルアンプを採用しても良い。
【0071】
次にステップS7にて、画像処理部15で超音波画像が生成され、ステップS8にて表示部16で表示され、フローを終了する。
【0072】
以上のように、増幅率補正処理を施すことにより、稼動履歴によって生じる受信用の圧電部としての第1圧電部221や第2圧電部223の性能劣化を補うことで高精細な超音波画像を継続して生成することができる。
【0073】
なお、以上の説明では、第1超音波信号を送信する第1圧電部221に無機圧電素子を採用し、第2超音波信号を受信する第2圧電部223に有機圧電素子を採用することを前提としたが、第1超音波信号を送信する第1圧電部221に有機圧電素子を採用し、第2超音波信号を受信する第2圧電部223に無機圧電素子を採用してもよい。
【0074】
第1超音波信号を送信する第1圧電部221に有機圧電素子を採用した場合、有機圧電素子を受信用の圧電部に採用した場合に比べて、劣化する時間が早くなる。従って、累積使用時間と受信部13のアンプの増幅率との対応関係においては、増幅率を大きくする必要がある。
【0075】
次に、超音波画像の画像品質を改善できるように、圧電部22の増幅率を、より効果的に変更できる第2の実施形態について説明する。
【0076】
第1の実施形態においては、受信部13のアンプの増幅率は、稼動履歴情報のみに応じた対応関係で決定した。即ち、超音波画像の画像品質を改善できる受信部13のアンプの増幅率は、稼動履歴情報で決まると前提した。さらにこの考えを進めると、現状の増幅率の減少レベルを正確に知ることができれば、受信電気信号自体のSN値を向上させることができる。
【0077】
そこで、第2の実施形態では、CPU171が、送信用の圧電部を駆動する所定の電気信号の大きさと、送信された超音波信号を受信用の圧電部に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である変換係数(第1変換係数)を算出し、変換係数を把握して、増幅率を決定する。得られた増幅率を基に、稼動履歴情報と増幅率の対応関係のデータを書き換えて再定義する。このように稼動履歴情報と増幅率の対応関係を再定義する処理のことを対応関係再定義処理と称す。
【0078】
また、送信用の圧電部と受信用の圧電部とを入れ替えて用いる場合には、同様に送信用の圧電部を駆動する所定の電気信号の大きさと、送信された超音波信号を受信用の圧電部に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である変換係数(第2変換係数)を算出し、得られた増幅率を基に、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を再定義する。
【0079】
以下、図7、図8を用いて説明する。図7は、対応関係再定義処理の処理フローを説明するフロー図である。
【0080】
図8は、圧電部22、送信部12、受信部13の概要図である。
【0081】
最初にステップ11にて、使用者は超音波診断装置Sを立ち上げる。すると、CPU171は、記憶部18から増幅率補正処理用プログラムを呼び出し、図示しないRAM内に形成されたワークエリアに展開する。
【0082】
次にステップS12にて、CPU171は、第1圧電部221に超音波信号71を送信させる。超音波信号71は、超音波診断時に被検体から反射して戻ってくる第2超音波信号の信号の大きさと同レベルの信号であることが望ましい。
【0083】
次に、ステップS13にて、CPU171は、第2圧電部223に超音波信号71を受信させ受信電気信号を得る。
【0084】
なお、送信部12は、図8に示すように、第1圧電部221と第2圧電部223に接続されるアンプ121、122のどちらか一方を選択できるように、CPU171に制御されるスイッチS1を備えている。
【0085】
また、受信部13は、図8に示すように、第1圧電部221と第2圧電部223からの受信電気信号を、各々アンプ131、132に入力し、該アンプの出力のどちらか一方を選択できるように、CPU171に制御されるスイッチS2を備えている。
【0086】
図8に示すように、送信部12に備えられたスイッチS1を第1圧電部221側に繋げ、受信部13に備えられたスイッチS2を第2圧電部223側に繋げる。
【0087】
次に、ステップS14にて、CPU171は、第1圧電部221を駆動する所定の電気信号の大きさと、送信された超音波信号71を第2圧電部223に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である第1変換係数を求める。
【0088】
ステップS15にて、対応関係を変更する。対応関係は、稼動時の累積使用時間、累積使用回数、稼動時の第1圧電部221と第2圧電部223圧電部22の温度毎に記憶部18等に格納されている。対応関係の変更とは、このデータを変更することを意味する。例えば、対応関係再定義処理を実施した結果を累積使用時間の対応関係データである図6(a)に反映させる場合で説明する。対応関係再定義処理を実施した累積使用時間が300時間の時には増幅率はA3に変更することとなっている。これに対し、対応関係再定義処理の結果、変更すべき増幅率がAA3となっていたとする。
【0089】
CPU171はこのA3とAA3を比較する。A3とAA3がほぼ同じ値であれば、対応関係再定義処理を実施した後に、増幅率をA3に変更し、その後の累積使用時間はリセットされ、再び累積使用時間の積算が始まり、かつ、対応関係を変更する必要はない。
【0090】
しかし、A3とAA3が異なっておれば、対応関係再定義処理を実施した後に、増幅率をA3に変更し、その後の累積使用時間はリセットされ、再び累積使用時間の積算が始まり、かつ対応関係を変更する。
【0091】
例えばA3が1.1倍であったが、AA3が1.2倍であれば、予想以上に増幅率を大きく変更する必要があることが判明したので、その後の時間経過に従って、より増幅率の変更も大きくする必要があると考えられるので、A1からAnの値は、累積使用時間に従って当初の対応関係よりも大きく変化するように変更する。例えば、AA3/A3の数値を各値に乗算した値に変更するなどの処理を実施する。
【0092】
なお、対応関係再定義処理は第1変換係数を取得することで実施したが、送信用の圧電部と受信用の圧電部とを入れ替える場合には、対応関係は第2変換係数を取得することで実施する。第1変換係数と第2変換係数とは、送信用の圧電部と受信用の圧電部とを入れ替えて算出する値である。第1圧電部221と第2圧電部223の各々の送受信の機能は異なる。従って、第1圧電部221に超音波信号71を送信させて第2圧電部223に受信させた場合の対応関係と、第2圧電部223に超音波信号71を送信させて第1圧電部221に受信させた場合の対応関係とは異なる数値を設定することが望ましい。
【0093】
また、対応関係再定義処理を実施するインターバルの情報を加味して対応関係における数値を変更してもよい。第1変換係数や第2変換係数は、圧電素子の機能の目安であり、機能は時間の経過にも依存する。従って、同じ値の第1変換係数や第2変換係数を取得した場合であっても、第1変換係数や第2変換係数の値自体の時間に対する変化の早さが相違する場合がある。
【0094】
そこで、過去に記憶させた第1変換係数と第2変換係数と、現在の第1変換係数と第2変換係数を基に、第1変換係数と第2変換係数の各々の時間的変化に依存するように、対応関係における各数値を設定することが望ましい。
【0095】
具体的には、第1変換係数と第2変換係数を算出する度に、例えば外部記憶装置に記憶させておく。そして、対応関係再定義処理を実施する際に、時間的に最も近くに、外部記憶装置に記憶させておいた第1変換係数と第2変換係数とを呼びし、第1変換係数と第2変換係数の時間的な変化が大きいほど、対応関係における各数値を大きくし、時間的な変化が小さいほど、対応関係における各数値を小さくするという処理を施すことが望ましい。
【0096】
以上のように、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を再定義する処理において、対応関係再定義処理を実施することで、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を、より実際に即したものとできるので、再定義後の対応関係に従って増幅率を変更していくことで、受信電気信号のSN値を向上させることができ、高精細な超音波画像を継続して得ることができる。
【0097】
次に、圧電部22の交換時期を適切に検知できる第3の実施形態について説明する。
【0098】
第2の実施形態においては、第1変換係数を算出することで、対応関係を変更した。算出した第1変換係数が非常に劣化していた場合には、圧電部22を交換する必要がある。
【0099】
そこで、第1変換係数を算出する処理を、圧電部22を交換すべきか否かの判断手段として採用する。ここで、注意すべきは、第1変換係数は、第1圧電部221を駆動する所定の電気信号の大きさと、送信された超音波信号を第2圧電部223に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比であるので、第1圧電部221と第2圧電部223の両方の機能の劣化具合を評価することとなる。従って、第1圧電部221と第2圧電部223の機能の切り分けが難しい。
【0100】
例えば、第1変換係数は大きくダウンしている際には、第1圧電部221と第2圧電部223の両方が均等に機能劣化を起こしている場合もあれば、第1圧電部221と第2圧電部223の一方の機能劣化は小さいが他方は大きい、というような場合もある。
【0101】
前者は圧電部22を交換するほどではないが、後者は圧電部22を交換すべきと言える。しかし、この相違を判断するのは難しい。
【0102】
そこで、第3の実施形態においては、第1変換係数とともに、第2変換係数をも取得して、圧電部22の交換時期を判断する。
【0103】
第1変換係数と第2変換係数の両方を取得することで、送信用の圧電部と受信用の圧電部とが入れ替わるので、両方の圧電素子に送受信を実施させ、両方の圧電素子の機能の劣化の具合を合わせた情報を得ることができる。従って、圧電部22の交換時期の判断を、より正確に実施することができる。このような処理のことを交換時期判断処理と称す。
【0104】
以下、図9、図10を用いて説明する。図9は、圧電部22、送信部12、受信部13の概要図である。図10は、交換時期判断処理の処理フローを説明するフロー図である。
【0105】
超音波診断装置を立ち上げて、第1変換係数を求めるステップS11からS14までは同様である。
【0106】
次に、ステップS15以降で第2変換係数を取得する。ステップS21においては、CPU171は、第2圧電部223にステップS12と同様に、超音波信号を送信させる。超音波信号は、超音波診断時に被検体から反射して戻ってくる第2超音波信号の信号の大きさと同レベルの信号であることが望ましい。
【0107】
次に、ステップS22にて、第1圧電部221に超音波信号を受信させる。
【0108】
なお、図9に示すように、送信部12に備えられたスイッチS1を第2圧電部223側に繋げ、受信部13に備えられたスイッチS2を第1圧電部221側に繋げる。
【0109】
次に、ステップS23にて、CPU171は、第2圧電部223に送信させた超音波信号の大きさと、第1圧電部221に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である第2変換係数を求める。
【0110】
次に、ステップS24にて圧電部22を交換するか否かを判断する。交換の判断は次のように行う。例えば、第1変換係数や第2変換係数が非常に大きい場合には交換時期が到来したと判断する。例えば、第1変換係数と第2変換係数が閾値(例として1.5)を超えているような場合である。第1変換係数と第2変換係数の両方が閾値を下回っている場合には交換時期は到来していないと判断する。第1変換係数と第2変換係数の中の一方が閾値を上回り、他方が閾値を下回っている場合には、第1変換係数と第2変換係数の差が大きい場合に交換時期が到来したと判断する。例えば、第1変換係数と第2変換係数の差が0.4ある場合(例として第1変換係数が1.3であって、第2変換係数が1.7)には、交換時期が到来したと判断する。このように第1変換係数と第2変換係数の差が大きい場合には、送信用の圧電部と受信用の圧電部の機能のバランスが崩れているので、素子の劣化が進んでいると判断できるからである。
【0111】
以上のように、第1変換係数と第2変換係数を取得することで、圧電部22の交換の判断を適確に実施することができる。
【0112】
次に、超音波画像の画像品質を改善できるように、圧電部22の増幅率を、より効果的に変更できる第4の実施形態について図11を用いて説明する。図11(a)は、実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成における各超音波信号の経路を示す図であり、図11(b)は超音波信号の時間波形の概要図である。
【0113】
第1、第2の実施形態においては、増幅率を求める際に、送信用の圧電部へ入力する電気信号と、受信用の圧電部が出力する受信電気信号を基に第1変換係数を取得した。すなわち、送信用の圧電部へ入力する電気信号と、受信用の圧電部が出力する受信電気信号との間はブラックボックスとして扱い、送信用の圧電部と受信用の圧電部の機能の劣化を評価した。しかし、送信用の圧電部と受信用の圧電部以外にも、劣化する可能性のある部材には、中間層222、音響整合層23、音響レンズ24などが存在する。特に、音響レンズ24、音響整合層23は、被検体から反射してくる第2超音波信号が通過するので、その劣化を評価し、受信部13のアンプの増幅率に反映したい。
【0114】
そこで、第4の実施形態においては、中間層222、音響整合層23、音響レンズ24などの劣化の度合いを評価しつつ、対応関係に反映する。
【0115】
例えば、第1圧電部221に超音波信号を送信させ、第2圧電部223に超音波信号を受信させた稼動履歴情報と、受信部13のアンプの増幅率との対応関係においては、被検体からの第2超音波信号は、音響整合層23、音響レンズ24を通過して第2圧電部223に受信される。そこで、音響整合層23、音響レンズ24の劣化具合を評価する。
【0116】
具体的には、図11に示すように、第1圧電部221から送信された超音波信号は、中間層222を通過して第2圧電部223に入射する超音波信号31と、中間層222、第2圧電部223、音響整合層23、音響レンズ24を通過して音響レンズ24の空気側界面で反射し、音響レンズ24、音響整合層23、を通過して第2圧電部223に入射する超音波信号32の2つの経路が存在する。
【0117】
そして、超音波信号31に対して超音波信号32は、音響整合層23、音響レンズ24を通過しているので、超音波信号31と超音波信号32の信号の振幅の情報から、音響整合層23、音響レンズ24の超音波信号32が伝播する際の伝播効率を求めることができる。この伝播効率が時間的に変化している大きさを求めれば、より実際に即して稼動履歴情報と、受信部13のアンプの増幅率との対応関係を得ることができる。
【0118】
以下に、このように、音響レンズ24、音響整合層23の劣化を評価し、受信部13のアンプの増幅率に反映するフローについて説明する。このようなフローのことを増幅率補正処理2と称す。
【0119】
図12を用いて増幅率補正処理2の処理フローを説明する。
【0120】
超音波診断装置を立ち上げて、第1圧電部221に所定の超音波信号を送信させるステップS11からS12までは同様である。
【0121】
次に、ステップS31においては、第2圧電部223にタイミングを変えて超音波信号31と超音波信号32を受信させる。図9(b)は横軸が時間、縦軸が超音波信号の振幅値(相対値)のグラフである。第1圧電部221が所定の波形を有する超音波信号が送信した時間を基点に、第2圧電部223に直接到達した超音波信号31の波形91と、音響レンズ24の空気側界面で反射し、音響レンズ24、音響整合層23、を通過して第2圧電部223に入射する超音波信号32の波形92を示す。
【0122】
波形92は波形91より小さくなる。波形92は波形91に比べて、音響整合層23、音響レンズ24を往復し、音響レンズ24の空気側界面の反射率を含んだ波形となっている。音響レンズ24の空気側界面の反射率の予め分かっている値であるので、波形92の振幅値と波形92の振幅値の比が音響整合層23、音響レンズ24の影響により超音波信号32が減衰した分であると言え、容易に算出することができる。
【0123】
このようにタイミングの異なる波形91と波形92とを第2圧電部223に受信させる。
【0124】
次に、ステップS32において、CPU171は、第1変換係数を求め、記憶部18に記憶させる。
【0125】
次にステップS33において、CPU171は、過去に求めて記憶部18に記憶させておいた第1変換係数を取得し、比較する。すなわち、現在と過去の第1変換係数を比較することで、音響整合層23、音響レンズ24の影響により超音波信号32が減衰した値を算出することができる。
【0126】
次に、ステップS34にて、得られた増幅率を基に、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を再定義する。例えば、音響整合層23、音響レンズ24の影響により超音波信号32が減衰した値の分を補償する。具体的には、1割減衰していた場合には、図6で示した対応関係データを1割増加させ、記憶させるなどする。
【0127】
以上のように、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を再定義する処理において、増幅率補正処理2を実施することで、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を、より実際に即したものとできるので、再定義後の対応関係に従って増幅率を変更していくことで、受信電気信号のSN値を向上させることができ、高精細な超音波画像を継続して得ることができる。
【0128】
次いで、以上のような超音波診断装置Sを、外部のリモート装置からリモートで操作する超音波診断システムSYについて図13を用いて説明する。図13は、超音波診断システムSYの電気的な構成を示すブロック図である。
【0129】
超音波診断システムSYは、上記した超音波診断装置Sと、超音波診断装置Sをリモート操作するリモート装置Rと、を備える。リモート装置Rは、超音波診断装置Sへの指示等を入力する操作入力部41、超音波画像等を表示する表示部42、超音波診断装置本体1との通信機能を有する通信部43、そしてこれら操作入力部41と表示部42と通信部43とを制御するリモート制御部44を備える。
【0130】
超音波診断装置本体1には、上記の機能のほか、リモート装置Rとの通信機能を有する通信部46が備えられ、通信部43と通信回線45で通信可能に構成されている。
【0131】
このような超音波診断システムSYにおいては、リモート装置からの指示で上記した各種処理を実施することができる。
【0132】
例えば、超音波診断装置本体1の操作入力部11と表示部16の機能を、リモート装置Rにおける各々操作入力部41と表示部42に担わせる。そして、操作入力部41への操作信号をリモート制御部44の制御により通信部43、46を介して制御部17へ送信する。そして制御部17に、上記したような各種処理を実施させる。以上のような動作により超音波診断システムSYにおいても、各種処理を実施でき、受信電気信号のSN値を向上させることができ、高精細な超音波画像を継続して得ることができる。
【0133】
以上のように、増幅率補正処理を施すことにより、稼動履歴によって生じる受信用の圧電部としての第1圧電部221や第2圧電部223の性能劣化を補うことで高精細な超音波画像を生成することができる。
【0134】
また、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を再定義する処理において、対応関係再定義処理を実施することで、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を、より実際に即したものとできるので、再定義後の対応関係に従って増幅率を変更していくことで、受信電気信号のSN値を向上させることができ、高精細な超音波画像を継続して得ることができる。
【0135】
また、第1変換係数と第2変換係数を取得することで、圧電部22の交換の判断を適確に実施することができる。
【0136】
また、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を再定義する処理において、増幅率補正処理2を実施することで、稼動履歴情報と増幅率の対応関係を、より実際に即したものとできるので、再定義後の対応関係に従って増幅率を変更していくことで、受信電気信号のSN値を向上させることができ、高精細な超音波画像を継続して得ることができる。
【符号の説明】
【0137】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
3 ケーブル
11、41 操作入力部
12 送信部
13 受信部
14 信号処理部
15 画像処理部
16、42 表示部
17 制御部
18 記憶部
21 音響制動部材
22 圧電部
23 音響整合層
24 音響レンズ
43、46 通信部
44 リモート制御部
221 第1圧電部
222 中間層
223 第2圧電部
R リモート装置
S 超音波診断装置
SY 超音波診断システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を超音波信号に変換して被検体内に送信する機能と、前記被検体内において反射されて生成された反射超音波信号を受信して受信電気信号に変換する機能を併せ持つ複数の第1圧電素子と複数の第2圧電素子と、を備える超音波探触子と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子を駆動する送信部と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子が変換した受信電気信号を所定の増幅率で増幅する増幅手段を備える受信部と、
前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子、または前記複数の第2圧電素子に関する稼動履歴情報を保持する保持部と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の前記増幅率と、前記稼動履歴の対応関係を記憶した記憶部と
少なくとも、前記受信部、前記保持部、及び前記記憶部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記保持部が保持する稼動履歴に応じ、前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の少なくとも一方の前記増幅率を前記記憶部から取得し、取得した増幅率に前記受信部の増幅率を変更することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記稼動履歴情報は、少なくとも累積使用時間、累積使用回数の履歴を含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記超音波探触子は前記超音波探触子内部の温度を計測する温度計測手段を有し、
前記稼動履歴情報は前記温度計測手段が計測した前記超音波探触子内部の温度の情報を含むことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記対応関係は、
前記制御部が、前記複数の第1圧電素子に送信させた所定の超音波信号の大きさと、前記第2圧電素子に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である第1変換係数と、
前記制御部が、前記複数の第2圧電素子に送信させた所定の超音波信号の大きさと、前記第1圧電素子に受信させて変換させた受信電気信号の大きさとの比である第2変換係数と、
に依存することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記第1変換係数と前記第2変換係数とは異なることを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記対応関係は、
前記制御部が、前記複数の第1圧電素子に所定の超音波信号を送信させて、前記第2圧電素子に受信させ、タイミングを異ならせて受信して算出した少なくとも一つの第1変換係数と、
前記制御部が、前記複数の第2圧電素子に所定の超音波信号を送信させて前記第1圧電素子に受信させ、タイミングを異ならせて受信して算出した少なくとも一つの第2変換係数と、
に依存することを特徴とする請求項4または5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記制御部が前記第1変換係数と前記第2変換係数とを記憶させる外部記憶装置を有し、
前記対応関係は、前記外部記憶装置に過去に記憶させた前記第1変換係数と前記第2変換係数と、現在の前記第1変換係数と前記第2変換係数を基に算出された、前記第1変換係数と前記第2変換係数の各々の時間的変化に依存する
ことを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記第2圧電素子は、有機圧電材料を材料とする有機圧電素子から構成されており、前記有機圧電材料は、フッ化ビニリデンの重合体、または、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の超音波診断装置と、
操作入力部と、該操作入力部の操作に応じて操作信号を発生して前記超音波診断装置を制御する制御部とを備え、通信回線を介して前記超音波診断装置に接続されたリモート装置と、
を有することを特徴とする超音波診断システム。
【請求項10】
コンピュータに、
電気信号を超音波信号に変換して被検体内に送信する機能と、前記被検体内において反射されて生成された反射超音波信号を受信して受信電気信号に変換する機能を併せ持つ複数の第1圧電素子と複数の第2圧電素子と、を備える超音波探触子からの前記受信電気信号を受信する処理と、
送信部に少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子を駆動させる処理と、
所定の増幅率で増幅する増幅手段を備える受信部に、少なくとも前記複数の第1圧電素子または第2の圧電素子が変換した受信電気信号を増幅させる処理と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子、または前記複数の第2圧電素子に関する稼動履歴情報を保持する保持部から前記稼動履歴を受信する処理と、
少なくとも前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の前記増幅率と、前記稼動履歴の対応関係を記憶した記憶部から、受信した前記稼動履歴に応じた前記増幅率を前記記憶部から取得する処理と、
前記保持部が保持する稼動履歴に応じ、前記複数の第1圧電素子または複数の第2圧電素子の少なくとも一方の前記増幅率を前記記憶部から取得し、取得した増幅率に前記受信部の増幅率を変更する処理と、
変更された増幅率で増幅された前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する処理と、
を実行させることを特徴とする超音波診断用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−72701(P2011−72701A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229330(P2009−229330)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】