説明

超音波診断装置、超音波診断システム

【課題】過去に被検体として患者を診断した際の情報が無くても、簡単な手順で該患者に最適な診断条件の設定値が得られる超音波診断装置、超音波診断システムを提供する。
【解決手段】被検体の肉体的特徴を表す被検体情報に基づいて、信号処理手段を被検体に適した診断条件に設定する設定値を算出する設定値算出手段を有することを特徴とする超音波診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置、超音波診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を低侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、1.他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、2.X線などの被爆がなく安全性が高い、3.ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、及び産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
しかしながら、従来の超音波診断装置は、種々の診断条件の設定値を調整しなければ診断に適した画像を表示させることができない。調整すべき診断条件は、例えば、送信周波数、受信信号の利得(ゲイン)、フォーカス深度、TGC(Time Gain Control)、各種フィルタの特性調整等である。
【0004】
これらの診断条件の設定値は、医師や技師が実際に診断画像を見ながら調整を行っている。この作業は経験に基づいた熟練された技術が必要であり、また技術があっても適正な画像にするまでには多少なりとも試行錯誤する時間が必要になる。
【0005】
このような課題を解決するため、過去に診断した診断モードや診断条件を記憶装置に記憶させておき、診断時に読み出して設定値を容易に設定する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
また、初期メニュー画面に患者の顔画像を表示することにより患者を特定し、この患者に関連づけて以前に取得した診断条件を読み出して設定できるようにする超音波診断装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−194705号公報
【特許文献2】特開2006−255013号公報
【特許文献3】特開2004−201722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されている方法では、過去の診断条件を読み出して設定するので、過去の診断条件の記憶されていない初診の患者の診断を行う場合は、簡単な手順で設定値を設定することはできない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、過去に被検体として患者を診断した際の情報が無くても、簡単な手順で該患者に最適な診断条件の設定値が得られる超音波診断装置、超音波診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下のような特徴を有するものである。
【0011】
1.超音波探触子に駆動信号を印加して超音波を被検体の内部に送波し、該超音波探触子が受信した反射波を増幅し、画像処理を行って診断画像を生成する信号処理手段と、前記診断画像を表示する表示手段と、を備え、前記被検体に応じて前記信号処理手段に設定する診断条件を変更できるように構成された超音波診断装置であって、
前記被検体の肉体的特徴を表す被検体情報に基づいて、前記信号処理手段を前記被検体に適した診断条件に設定する設定値を算出する設定値算出手段を有することを特徴とする超音波診断装置。
【0012】
2.前記被検体情報を含む診療情報が記憶されている情報端末との間で通信する通信手段と、
前記通信手段を介して前記情報端末から前記被検体情報を選択して取得する被検体情報取得手段と、
を有し、
前記設定値算出手段は、
前記被検体情報取得手段が取得した前記被検体情報に基づいて、前記設定値を算出することを特徴とする前記1に記載の超音波診断装置。
【0013】
3.前記設定値算出手段は、
前記被検体情報に含まれる少なくとも身長と体重と性別の情報に基づいて、前記設定値を算出することを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0014】
4.前記信号処理手段は、フォーカス深度を設定することにより、前記超音波が被検体の内部の所定の深さに収束するように構成されており、
前記設定値は、フォーカス深度であることを特徴とする前記1から3の何れか1項に記載の超音波診断装置。
【0015】
5.前記信号処理手段は、前記反射波を増幅する利得を制御できるように構成されており、
前記設定値は、前記利得であることを特徴とする前記1から4の何れか1項に記載の超音波診断装置。
【0016】
6.前記信号処理手段は、TGCパラメータを設定することにより、前記反射波が前記被検体の内部で反射した深さに応じて予め定められた利得に制御されるように構成されており、
前記設定値は、前記TGCパラメータであることを特徴とする前記1から5の何れか1項に記載の超音波診断装置。
【0017】
7.前記2から6の何れか1項に記載の超音波診断装置と、前記被検体情報を入力する情報端末と、から成る超音波診断システムであって、
前記情報端末は、
前記被検体の顔画像から被検体の顔の特徴情報を抽出する被検体特徴抽出手段と、
予め複数の人物から取得した顔特徴情報を記憶する顔特徴記憶手段と、
前記被検体特徴抽出手段が抽出した前記被検体の顔の特徴情報と前記顔特徴記憶手段に記憶されている顔特徴情報とを照合し前記被検体情報の属性を判定する被検体情報判定手段と、
を有し、
前記被検体情報取得手段は、前記被検体情報判定手段の判定した属性を含む前記被検体情報を取得することを特徴とする超音波診断システム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、設定値算出手段が、被検体の肉体的特徴を表す被検体情報に基づいて、信号処理手段の診断条件を被検体に最適な診断条件に設定する設定値を算出する。
【0019】
したがって、過去に患者を診断した際の情報が無くても、簡単な手順で該患者に最適な診断条件の設定値が得られる超音波診断装置、超音波診断システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態における超音波診断システムの外観構成を示す図である。
【図4】実施形態における超音波診断装置が設定値を算出する手順を示すフローチャートである。
【図5】BMI値と体脂肪率の関係の一例を示すグラフである。
【図6】体脂肪率と利得の関係の一例を示すグラフである。
【図7】体脂肪率とフォーカス深度の関係の一例を示すグラフである。
【図8】体脂肪率とTGCパラメータの関係の一例を示すグラフである。
【図9】TGCパラメータを変化させたときの、深度と利得の関係の一例を示すグラフである。
【図10】実施形態における情報端末の電気的な構成を示すブロック図である。
【図11】実施形態における情報端末が顔画像から被検体情報の属性を判定する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0022】
図1は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【0023】
超音波診断装置100は、図略の生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、受信した被検体で反射した超音波の反射波(エコー、超音波信号)から被検体内の内部状態を超音波画像として画像化し、モニタ10に表示する。
【0024】
超音波探触子2は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子2は、図1に示すように、ケーブル15を介して超音波診断装置本体14と接続されている。
【0025】
入力部13は、スイッチやキーボードなどから構成され、ユーザが診断開始を指示するコマンドの入力や、送信周波数、受信信号の利得(ゲイン)、フォーカス深度、TGC(Time Gain Control)、各種フィルタの特性調整、基本波モードまたは非基本波モードの選択等を入力するために設けられている。また、被検体としての患者の被検体情報である患者ID、住所、氏名、性別、体重、身長、年齢などの入力をすることもできる。性別、体重、身長、年齢は、被検体としての患者の肉体的特徴を表す被検体情報の一例である。
【0026】
モニタ10は、液晶パネルなどから成り、受信した超音波の反射波から画像化した超音波画像を表示する本発明の表示手段である。
【0027】
図2は、本実施形態に係る超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図、図3は、本実施形態に係る超音波診断システムの全体構成を示す説明図である。
【0028】
最初に、図2を用いて超音波診断装置の電気的な構成を説明する。
【0029】
超音波探触子2の先端部分には、電気信号と音響信号とを相互変換するための複数の圧電素子が配列されている(図2には図示せず)。なお、ここでは、1つの圧電素子が1チャンネルを構成するものとして説明する。超音波探触子2には、信号処理部1が接続されている。
【0030】
本実施形態の信号処理部1は、信号発生部30、送信ビームフォーマー31、駆動アンプ32、受信アンプ40、TGCアンプ41、受信ビームフォーマ42、加算ユニット43、帯域通過型フィルタ(BPF)4、画像処理部6、デジタルスキャンコンバータ(DSC)9から構成されている。信号処理部1は、本発明の信号処理手段である。
【0031】
信号発生部30は、制御部99の指令により所定の繰り返し周期で超音波を送信するためのパルスを発生し、nチャンネルの送信ビームフォーマ31にパルスを送る。
【0032】
送信ビームフォーマー31は、超音波をビーム状に形成するとともに任意のフォーカス深度に収束させて焦点を形成するように遅延処理をかけた駆動信号を制御部99の指令に応じて発生する。
【0033】
駆動アンプ32は、駆動信号を超音波探触子2の各チャンネルに印加する。これにより、各チャンネルの圧電素子は振動し、超音波を発生する。
【0034】
超音波探触子2から発生された超音波は、被検体に送信され、被検体内部を伝播し、その途中にある音響インピーダンスの不連続面で反射し、エコーとして超音波探触子2に返ってくる。
【0035】
超音波探触子2に返ってきたエコーは、送信時とは逆に、超音波探触子2に配列された図2には図示せぬ圧電素子を機械的に振動させ、微弱な電気信号を発生させる。
【0036】
受信アンプ40は、可変利得アンプであり、各チャンネルの圧電素子で発生した電気信号を制御部99に指令された利得で増幅する。
【0037】
TGCアンプ41は、可変利得アンプであり、受信アンプ40で増幅した電気信号を制御部99に指令された利得で増幅する。制御部99は、TGCパラメータが設定されると、受信した反射波の深度(送波してから受信するまでの時間)に応じて予め定められた利得に制御する。後に詳しく説明するように、深度と利得の関係、すなわちTGC特性は、制御部99にTGCパラメータを設定することにより変更できる。
【0038】
受信ビームフォーマ42は、制御部99に指令に基づき、受信ビームフォーマ41に入力されたnチャンネルの受信信号にそれぞれ位相の遅延を与え、ビームフォーミングを行って加算ユニット43に出力する。
【0039】
加算ユニット43は、受信ビームフォーマ42で遅延処理が行われた各チャンネルの受信信号を加算して出力する。
【0040】
加算された受信信号は、受信信号から基本波成分を主に抽出するために通過帯域が基本周波数fを中心とした所定の帯域に設定されている帯域通過型フィルタ(BPF)4を通って画像処理部6に送られる。
【0041】
画像処理部6は、帯域通過型フィルタ4からの基本波成分に基づいて通常のBモード像を生成する。この画像はデジタルスキャンコンバータ(DSC)9によって再構成された後、ビデオ信号に変換され、モニタ10に表示される。
【0042】
制御部99は、CPU98(中央処理装置)と記憶部96等から構成され、記憶部96は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等から構成される。制御部99は、記憶部96のROMに記憶されているプログラムをRAMに読み出し、当該プログラムに従って超音波診断装置100の各部を制御する。
【0043】
図3に示すように、本実施形態の超音波診断システムは超音波診断装置100と情報端末200から構成される。
【0044】
情報端末200は、入力部70、表示部71、コンピュータ筐体72、画像入力部73や図示せぬマウスなどから構成されるパーソナルコンピュータやワークステーションなどである。なお、情報端末200は、図3の構成に限定されるものではなくPDA(Personal Digital Assistant)やタブレットコンピュータ、データサーバなどを用いることもできる。
【0045】
本実施形態では、情報端末200は受付に設置され、超音波診断装置100は検査室に設置されているものとする。
【0046】
情報端末200と超音波診断装置100は、イーサネット(登録商標)ケーブルなどによって接続されている。なお、情報端末200と超音波診断装置100とは、無線で通信を行うようにしても良い。
【0047】
図2に示す超音波診断装置100の通信部91は、Ethernet(登録商標)などの通信規格に準じた通信手段であり、情報端末200との間で通信することができる。情報端末200には、例えば電子カルテや電子レポートとして被検体である患者の診療に関する診療情報を記憶する。診療情報には、被検体としての患者の肉体的特徴を表す被検体情報や、例えば診断画像、所見、投薬記録などが含まれる。
【0048】
被検体情報取得部92は、通信部91を介して情報端末200に記憶されている診療情報から被検体情報を選択して取得する。被検体情報は、例えば住所、氏名、患者IDなどの個人を特定する情報と、被検体としての患者の肉体的特徴を表す性別、身長、体重、年齢などであり、必要な情報を選択して取得する。このように、被検体情報取得部92が自動的に情報端末200から被検体情報を取得するので、超音波診断装置100を操作する医師や技師は、被検体情報を入力する手順を省くことができる。
【0049】
なお、本実施形態では、被検体情報取得部92が情報端末200から被検体情報を取得する例を説明するが、被検体情報の取得は情報端末200からに限定されるものではなく、超音波診断装置100の入力部13から被検体情報を入力しても良い。
【0050】
設定値算出部93は、被検体情報取得部92が取得した被検体情報に基づいて、信号処理部1の動作条件に関する最適な設定値を算出する。
【0051】
図4は、実施形態の設定値算出部93が、信号処理部1の動作条件に関する最適な設定値を算出する手順の一例を説明するためのフローチャートである。フローチャートの順に手順を説明する。
【0052】
なお、本フローチャートでは、受付で担当者により予め患者IDを含む被検体情報が情報端末200に入力され、情報端末200に記憶されているものとして説明する。また、超音波診断装置100の入力部13からは、被検体となる患者の患者IDなど患者を特定する情報が入力されているものとする。
【0053】
S10:身長、体重の情報を取得するステップである。
【0054】
被検体情報取得部92は、情報端末200に記憶されている診療情報から被検体となる患者の身長、体重の情報を選択して取得する。
【0055】
S11:BMI値を算出するステップである。
【0056】
設定値算出部93は、下記(1)式を用いて患者のBMI(Body Mass Index)値を算出する。
【0057】
B=W/H・・・・・・・・・・・(1)
ただし、BはBMI値、Wは体重(kg)、Hは身長(m)である。
【0058】
S12:性別情報を取得するステップである。
【0059】
被検体情報取得部92は、情報端末200に記憶されている診療情報から患者の性別の情報を選択して取得する。
【0060】
S13:体脂肪率を算出するステップである。
【0061】
図5に示すようにBMI値と体脂肪率(%)との関係は、男性と女性とで異なっている。BMI値をB、体脂肪率をFとすると、男性の体脂肪率Fは下記(2)式で、女性の体脂肪率Fは下記(3)式で求めることができる。
【0062】
F=0.87B−1.1・・・・・・・(2)
F=0.87B+3.9・・・・・・・(3)
設定値算出部93は、ステップS12で判別した性別が男性の場合は(2)式を用い、女性の場合は(3)式を用いて被検体の体脂肪率Fを算出する。
【0063】
なお、図5の例は一例であり、BMI値から体脂肪率を精度良く推定するためには、予め統計上有意な数の被験者からデータを収集し、BMI値と体脂肪率の相関を求めておくことが望ましい。
【0064】
また、性別の他に予め被験者の人種や年齢などの要素も加えて多くの被験者のBMI値と体脂肪率の相関を求め、BMI値から性別に加えて人種や年齢に応じた体脂肪率を設定値算出部93が算出できるようにするとより好ましい。このようにすると、被検体情報取得部92が、診療情報から性別に加えて人種や年齢の情報を取得することにより、設定値算出部93が体脂肪率をより精度良く算出することができる。
【0065】
S14:利得を算出し、出力するステップである。
【0066】
設定値算出部93は、ステップS13で算出した体脂肪率から利得を算出する。
【0067】
図6は、体脂肪率と利得の関係の一例を示すグラフである。超音波は、体内を進行する際に体内の体脂肪によって減衰するため、図6のように体脂肪率が多い患者ほど、受信時の利得を上げる必要がある。
【0068】
図6に示す利得Gは、ステップS13で求めた体脂肪率Fから下記(4)式を用いて求めることができる。
【0069】
G=0.6F−8・・・・・・(4)
S15:フォーカス深度を算出するステップである。
【0070】
設定値算出部93は、ステップS13で算出した体脂肪率からフォーカス深度を算出する。
【0071】
図7は、体脂肪率とフォーカス深度の関係の一例を示すグラフである。体脂肪率が多い患者ほど体表から診断目的の臓器までの距離が深くなるので、図7のように体脂肪率が増えると体表から超音波の収束する焦点位置までの距離であるフォーカス深度を増す必要がある。
【0072】
図7に示すフォーカス深度D(mm)は、ステップS13で求めた体脂肪率Fから下記(5)式を用いて求めることができる。
【0073】
D=0.12F−1.3・・・・・・(5)
なお、図7に示すフォーカス深度の範囲は被検体の体表に近い部位を診断するのに適したリニア型の超音波探触子を用いる場合の例であり、コンベックス型やセクタ型などの超音波探触子を用いてこの例と異なる部位を診断する場合は、体脂肪率とフォーカス深度の関係を表す(5)式の定数が異なってくる。
【0074】
このような場合は、設定値算出部93が診断する対象部位、または用いる超音波探触子2のタイプの情報を取得し、対象部位、または用いる超音波探触子2のタイプに応じた定数の(5)式からフォーカス深度Dを算出すれば良い。
【0075】
S16:TGCパラメータを算出するステップである。
【0076】
設定値算出部93は、ステップS13で算出した体脂肪率からTGCパラメータを算出する。
【0077】
図8は、体脂肪率とTGCパラメータの関係の一例を示すグラフ、図9は、TGC特性の一例を示すグラフである。
【0078】
図9のTGC特性はフォーカス深度15mmの場合の例であり、TGCパラメータが0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8の6つの場合の体内の深度と利得の関係を示している。図9に示すように、6つの場合ともフォーカス深度である深度15mmの利得は1.5であり、15mmより深度が深くなるほど利得は増し、15mmより浅くなると利得が減少している。
【0079】
超音波を送波し、被検体の体内から反射した反射波から得られる受信信号を、図9に示すようなTGC特性により増幅すると、反射した位置の深度が深くなるほど増幅するので、超音波が身体組織の中を通過することにより減衰した分を補うことができる。TGCパラメータは、深度に対する利得の増加特性を設定するパラメータであり、図9に示すようにTGCパラメータの値が大きいほど深度に対して利得が増加する割合が大きい。
【0080】
図8に示すTGCパラメータTは、ステップS13で求めた体脂肪率Fから下記(6)式を用いて求めることができる。
【0081】
T=0.06F−0.8・・・・・・(6)
図9の例のようにTGCパラメータの値が0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8の6つの値に限られる場合では、設定値算出部93は、6つの値の中から(6)式により算出したTGCパラメータTの値に最も近い値をTGCパラメータとする。
【0082】
S17:算出した値を設定するステップである。
【0083】
制御部99は、ステップS14で算出した利得、ステップS15で算出したフォーカス深度、ステップS16で算出したTGCパラメータを信号処理部1に設定する。
【0084】
このようにして、初診の患者(被検体)でも被検体の肉体的特徴を表す被検体情報に基づいて、超音波診断装置100が自動的に被検体に最適な動作条件に信号処理部1を設定する設定値を算出し、信号処理部1に該設定値を設定するので、簡単な手順で診断を行うことができる。
【0085】
なお、本実施形態では、設定値算出部93が利得、フォーカス深度、TGCパラメータの3つの設定値を算出する例を説明したが、必ずしもこの3つの設定値を全て算出する必要はない。また、超音波の周波数や診断モードなど他の設定値を算出しても良い。
【0086】
また、設定値を算出する各式は一例であり、例えば利得Gが離散値の場合や、利得Gを体脂肪率Fに対し非線形に変化させる場合は、予め体脂肪率Fに対する利得Gの関係を記憶した参照テーブルを用意し、設定値算出部93は参照テーブルを参照して利得Gを求めるようにすれば良い。
【0087】
また、図4の第1の実施形態のフローチャートでは手順を詳細に説明したが、計算式を変形することにより、身長、体重、性別の情報を取得すれば、簡単な手順で利得、フォーカス深度、TGCパラメータの設定値を求めることができる。
【0088】
例えば(4)式の利得Gは、体脂肪率Fに男性の場合は(2)式、女性の場合は(3)式を代入し、BMI値Bに(1)式を代入すると身長H、体重Wと利得Gの関係式が得られる。
【0089】
すなわち、男性の場合の利得Gmは下記(7)式から、女性の場合の利得Gfは下記(8)式から求められる。
【0090】
Gm=0.6(0.87W/H−1.1)−8・・・・・(7)
Gf=0.6(0.87W/H+3.9)−8・・・・・(8)
また、男性の場合のフォーカス深度Dmは下記(9)式から、女性の場合のフォーカス深度Dfは下記(10)式から求められる。
【0091】
Dm=0.12(0.87W/H−1.1)−1.3・・・・・(9)
Df=0.12(0.87W/H+3.9)−1.3・・・・・(10)
同様に、男性の場合のTGCパラメータTmは下記(11)式から、女性の場合のTGCパラメータTfは下記(12)式から求められる。
【0092】
Tm=0.06(0.87W/H−1.1)−0.8・・・・・(11)
Tf=0.06(0.87W/H+3.9)−0.8・・・・・(12)
(7)〜(12)式を用いれば、設定値算出部93はさらに簡単な手順で各設定値を算出することができる。
【0093】
次に、図10、図11を用いて患者の顔画像から性別等の被検体情報を取得する実施形態を説明する。
【0094】
これまでは、診療情報がテキストデータとして予め入力されており、被検体情報取得部92が、診療情報から被検体情報を選択して取得する例を説明した。本実施形態では、予め撮影された患者の顔画像から被検体情報を取得する例を説明する。
【0095】
図10は、本実施形態に係る情報端末200の電気的な構成を示すブロック図である。
【0096】
制御部74は、CPU75(中央処理装置)と記憶部77等から構成され、記憶部77は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク等から構成される。制御部74は、記憶部77のハードディスクに記憶されているプログラムをRAMに読み出し、当該プログラムに従って情報端末200の各部を制御する。
【0097】
情報端末200は、キーボードなどから成る入力部70、表示部71、コンピュータ筐体72、画像入力部73、通信部76や図示せぬマウスなどから構成されている。
【0098】
通信部76は、Ethernet(登録商標)などの通信規格に準じた通信手段であり、放射線診断装置100との間で通信することができる。
【0099】
画像入力部73は、被検体(患者)の顔画像を情報端末200に入力するために設けられたビデオカメラやウェブカメラ、またはスキャナである。
【0100】
被検体特徴抽出部78は、画像入力部73により入力された顔画像から被検体の顔の特徴情報を抽出する。
【0101】
記憶部77には、予め複数の人物から取得した顔特徴情報を記憶する顔特徴記憶部80が設けられている。顔特徴記憶部80に記憶されている顔特徴情報は、被検体特徴抽出部78が顔画像から被検体の顔の特徴情報を抽出する方法と同じ方法で抽出されたものであるが、予め性別や年齢などの属性の異なる多くの人物の顔画像から顔特徴情報を作成する点が異なる。例えば、男性、女性のそれぞれ10歳から80歳まで各年齢につき10名ずつ710人分の顔特徴情報を予め作成し、顔特徴記憶部80に記憶させる。
【0102】
被検体情報判定部79は、被検体特徴抽出部78が抽出した被検体の顔の特徴情報と、顔特徴記憶部80に記憶されている顔特徴情報とを照合し被検体情報の属性を判定する。
【0103】
図11は、患者の顔画像から性別等の被検体情報を取得する手順の一例を示すフローチャートである。
【0104】
S100:顔画像を入力するステップである。
【0105】
被検体(患者)の顔画像を画像入力部73から入力し記憶部77に記憶する。画像入力部73がビデオカメラの場合は、患者の顔を撮影し、撮影した画像を記憶部77に記憶させる。
【0106】
S101:被検体(患者)の顔領域を検出するステップである。
【0107】
被検体特徴抽出部78は、画像入力部73により入力された顔画像データに画像処理を行って顔の輪郭部を抽出して顔領域を検出する。
【0108】
S102:被検体の顔特徴情報を抽出するステップである。
【0109】
被検体特徴抽出部78は、検出した顔領域から目、鼻、といった顔部品の位置を検出し、検出された目、鼻、口などの位置を基に顔領域を一定の大きさ、形状に切り出して、その濃淡情報を被検体の顔の特徴情報として抽出する。
【0110】
S103:照合演算を行うステップである。
【0111】
被検体情報判定部79は、被検体特徴抽出部78が抽出した被検体の顔の特徴情報と、顔特徴記憶部80に記憶されている予めステップS101と同じ方法で作成された性別や年齢などの属性毎の顔特徴情報とを照合して両情報の類似度を求める。
【0112】
S104:判定を行うステップである。
【0113】
被検体情報判定部79は、類似度が高い顔特徴情報の属性から被検体情報の属性を判定する。本ステップで、被検体(患者)の男女の別と年齢が判定される。
【0114】
S105:結果を出力するステップである。
【0115】
被検体情報判定部79は、判定結果を当該被検体(患者)の診療情報として記憶部77に記憶させる。
【0116】
フローチャートの説明は以上である。
【0117】
なお、本実施形態では性別と年齢を判定する例を説明したが、例えば性別だけを判定しても良い。
【0118】
このように、被検体(患者)の顔画像から性別や年齢などの被検体情報の属性が判定されるので、当該被検体の電子カルテや電子レポートなどの診療情報を作成する際に、操作者がこれらの属性を入力しなくて、判定された属性をそのまま診療情報の被検体情報にすることができる。超音波診断装置100は、被検体情報判定部79が判定した属性を含む被検体情報に基づいて、最適な設定値を算出するので、操作者が被検体情報の属性を入力する手順を省くことができ、医療業務の作業効率を向上することができる。
【0119】
また、情報端末から顔画像を超音波診断装置に送信し、超音波診断装置の表示部に表示すれば患者の取り違えも防止することができる。
【0120】
以上このように、本発明によれば、過去に被検体として患者を診断した際の情報が無くても、簡単な手順で該患者に最適な診断条件の設定値が得られる超音波診断装置、超音波診断システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0121】
1 信号処理部
2 超音波探触子
4 基本波用帯域通過型フィルタ
5 高周波用帯域通過型フィルタ
6 画像処理部
9 デジタルスキャンコンバータ
10 モニタ
13 入力部
14 超音波診断装置本体
15 ケーブル
30 信号発生部
31 送信ビームフォーマー
32 駆動アンプ
40 受信アンプ
41 TGCアンプ
42 受信ビームフォーマー
43 加算ユニット
70 入力部
71 表示部
72 コンピュータ筐体
73 画像入力部
74 制御部
75 CPU
76 通信部
77 記憶部
78 被検体特徴抽出部
79 被検体情報判定部
80 顔特徴記憶部
91 通信部
92 被検体情報取得部
93 設定値算出部
96 記憶部
98 CPU
99 制御部
100 超音波診断装置
200 情報端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子に駆動信号を印加して超音波を被検体の内部に送波し、該超音波探触子が受信した反射波を増幅し、画像処理を行って診断画像を生成する信号処理手段と、前記診断画像を表示する表示手段と、を備え、前記被検体に応じて前記信号処理手段に設定する診断条件を変更できるように構成された超音波診断装置であって、
前記被検体の肉体的特徴を表す被検体情報に基づいて、前記信号処理手段を前記被検体に適した診断条件に設定する設定値を算出する設定値算出手段を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記被検体情報を含む診療情報が記憶されている情報端末との間で通信する通信手段と、
前記通信手段を介して前記情報端末から前記被検体情報を選択して取得する被検体情報取得手段と、
を有し、
前記設定値算出手段は、
前記被検体情報取得手段が取得した前記被検体情報に基づいて、前記設定値を算出することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記設定値算出手段は、
前記被検体情報に含まれる少なくとも身長と体重と性別の情報に基づいて、前記設定値を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記信号処理手段は、フォーカス深度を設定することにより、前記超音波が被検体の内部の所定の深さに収束するように構成されており、
前記設定値は、フォーカス深度であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記信号処理手段は、前記反射波を増幅する利得を制御できるように構成されており、
前記設定値は、前記利得であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記信号処理手段は、TGCパラメータを設定することにより、前記反射波が前記被検体の内部で反射した深さに応じて予め定められた利得に制御されるように構成されており、
前記設定値は、前記TGCパラメータであることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
請求項2から6の何れか1項に記載の超音波診断装置と、前記被検体情報を入力する情報端末と、から成る超音波診断システムであって、
前記情報端末は、
前記被検体の顔画像から被検体の顔の特徴情報を抽出する被検体特徴抽出手段と、
予め複数の人物から取得した顔特徴情報を記憶する顔特徴記憶手段と、
前記被検体特徴抽出手段が抽出した前記被検体の顔の特徴情報と前記顔特徴記憶手段に記憶されている顔特徴情報とを照合し前記被検体情報の属性を判定する被検体情報判定手段と、
を有し、
前記被検体情報取得手段は、前記被検体情報判定手段の判定した属性を含む前記被検体情報を取得することを特徴とする超音波診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−5025(P2011−5025A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152288(P2009−152288)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】