説明

超音波診断装置および超音波診断装置の画質改善方法

【課題】
超音波画像に対して画質改善処理を施し、組織構造や病変部位の視認性向上を実現する

【解決手段】
少なくとも二つ以上の解像度レベルの各々に対して推定したノイズ量およびノイズ量推定の信頼度に基づいて補正ノイズ量を算出し、前記補正ノイズ量を用いて多重解像度分解処理により得られた分解係数に対して強度変換を行う。また、複数の分解係数に基づいて個々の分解係数の強度変換を行うことにより、高画質の画像を生成することを可能とする
。さらに、撮像条件・画像の種類・撮像対象に応じて処理パラメータを切り替えることで
、用途に応じた処理時間と画質の両立を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を被検体に送受信して画像を取得する超音波診断装置に係り、特に取得した画像に対して画像処理による画質改善処理を施す機能を備えた超音波診断装置および超音波診断装置の画質改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腹部や心臓を含む体内の多くの部位の検査において、超音波診断装置が利用されている
。超音波診断装置は、X線検査などと異なり生体への害がないこと、操作が簡便であるこ
と、実時間での動画像観察が可能なことなどの利点を有し、幅広く活用されている。超音波診断装置では、超音波プローブから被検体にむけて超音波を放射し、被検体内部の組織からの反射波を上記超音波プローブで受信して、モニタ上に表示する。特定方向にフォーカスを絞った超音波を複数箇所に対してスキャンすることにより、2次元画像をリアルタ
イムで取得することができる。超音波画像の種類としては、被検体の生体組織の反射率を画素値の明度に変換したBモード画像や、生体組織の移動速度情報を持つドプラ画像、生体組織の歪み量や弾性率に応じた色相情報を持つ組織弾性画像、さらにこれらの画像の情報を合成した合成画像が挙げられる。
【0003】
しかし、上記超音波診断装置により得られる2次元画像には、生体内部における微細な
構造からの複数の反射波が干渉することにより発生するスペックルノイズが含まれる。また、超音波プローブにより得られる受信信号は帯域制限された信号であるため、組織境界において本来得られるはずの高周波成分が十分に得られず、画像に含まれるエッジの鈍化を引き起こす場合がある。これらのスペックルノイズの発生やエッジの鈍化は、画像の画質低下を引き起こし、診断の際に悪影響を及ぼす。病変部位などの重要な構造を正確に読映するために、スペックルノイズの低減およびエッジ強調処理が施された超音波画像の表示が求められている。
【0004】
スペックルノイズを低減する手法としては、周波数コンパウンド法や空間コンパウンド法が挙げられる。周波数コンパウンド法は、複数の異なる周波数の超音波を同一部位に向けて放射することにより複数枚の画像を生成し、それらの画像の加算平均処理によって1枚の画像を取得する手法である。
【0005】
スペックルノイズのパターンは使用する超音波の周波数によって大きく変動し、一方において組織境界等からの反射波は周波数による変動が小さいため、上記の加算平均処理によりスペックルノイズを低減することができる。しかし、周波数コンパウンド法では、周波数を分割して使用するため、画像の周波数帯域は狭くなり、エッジが鈍化するという問題がある。また、空間コンパウンド法は、同一部位に向けて異なる方向から超音波を放射することにより複数枚の画像を生成し、それらの画像の加算平均処理によって1枚の画像
を取得する手法である。この手法では、スペックルノイズのパターンが超音波の放射方向によって変動することを利用して、スペックルノイズの低減を行っている。しかし、空間コンパウンド法では通常1枚分の画像を取得するのに多くの時間を要するため、画像の表
示速度が低下するという問題がある。
【0006】
一方、上記とは異なる方法として、画像処理によるノイズ低減手法がある。近年の画像処理プロセッサの高性能化、低コスト化により、処理速度の点において実用化が困難であった複雑な画像処理も比較的容易に装置搭載が可能となってきた。古くから知られる平滑化フィルタなどのノイズ低減手法ではエッジの鈍化や重要な信号を消失してしまうという問題があることが知られており、これに対してWavelet変換やLaplacian Pyramid変換に代表されるような多重解像度解析を用いるノイズ除去手法やエッジ強調手法が注目されるようになってきた(例えば、特許文献1〜3)。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5497777号公報
【特許文献2】特開2006−116307号公報
【特許文献3】特開2005−296331最近では、より高度な多重解像度解析方式として、Curvelet変換(非特許文献1)、Contourlet変換(非特許文献2)、複素Wavelet変換(非特許文献3)、Steerable Pyramid変換(非特許文献4)などの方式が提案されている。
【0008】
また、これらの高度な多重解像度分解方式の超音波診断装置への応用も非特許文献5に提案されている。
【0009】
従来のWavelet変換ではエッジ方向の分割数が3であり、Laplacian Pyramid変換ではエ
ッジ方向の分割数が1であるのに対し、上記の高度な多重解像度分解方式はエッジ方向の
分割数を4以上とすることが可能な方式である。ここで、エッジ方向の分割数がKであるとは、各解像度レベルおよび各位置において、それぞれ異なるK種類の方向に明度変化を持
つパターンに強く反応するK個の分解係数に分解することを表す。従来のWavelet変換では画像を縦(0度)・横(90度)・斜め(45度および135度)の三つのエッジ方向の分解係数
で表現するが、この変換では45度方向のエッジと135度方向のエッジを識別することがで
きない。高性能な画質改善処理を行うためには、少なくともエッジ方向の分割数が4以上
の多重解像度分解方式を用いることが重要である。
【0010】
多重解像度分解に基づく画質改善手法では、通常各分解係数に含まれるノイズ量の推定値に基づいて分解係数の強度変換が行われる。すなわち、信号成分が多く含まれると推定される分解係数の強度を保存あるいは強調し、逆にノイズ成分を多く含むと推定される分解係数の強度を小さくした後、前記分解係数から画像の再構成処理を行うことにより、ノイズ低減やエッジ強調が施された画像を得ることができる。そのため、前記ノイズ量の推定および、分解係数の強度変換は重要な処理になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.L.Starck, E.J.Candes, et al.: IEEE Trans. Image Processing, 11, 6, pp.670-684 (2002)
【非特許文献2】M.N.Do, M.Vetterli: IEEE Trans. Image Processing, 14, 12, pp.2091-2106 (2005)
【非特許文献3】N.G.Kingsbury: Proceedings of European Signal Processing Conference, pp.319-322 (1998)
【非特許文献4】E.P.Simoncelli, W.T.Freeman: Proceedings of IEEE International Conference on Image Processing, 3, pp.444-447 (1995)
【非特許文献5】E.H.O.Ng: Applied science in electrical ana computer engineering, University of Waterloo (Master thesis), pp.1-112 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1〜5で提案されている画質改善手法では、以下に列挙するように生体の超音波画像に代表される低S/N画像に対して十分な改善効果が得られないケースが存在する。本発明は、そのようなケースにおいても十分高性能な画質改善結果を得る手段を提供する。
【0013】
(1)前記超音波画像に含まれるスペックルノイズの量は、その性質上、撮像条件(超音波プローブの種類、倍率、使用周波数、コンパウンド法の有無、走査ピッチ等)や画像の種類(Bモード画像、ドプラ画像、組織弾性画像、合成画像等)や撮像対象に依存し、解像度レベル・エッジ方向・位置によって変化する。また、ノイズ成分に比べ信号成分が比較的多く含まれる解像度レベル・エッジ方向・位置においては、信号とノイズの識別が困難なケースがある。そのため、前記撮像条件や画像の種類や撮像対象の違いに対し、安定したノイズ量の推定が困難であるという課題がある。例えば、ノイズ成分が支配的である分解係数が大半を占めるとの仮定に基づいてノイズ推定を行う従来手法があるが、前記仮定は常には成り立たない。
【0014】
(2)一般にノイズ成分と信号成分の分別は困難である。S/Nがある程度高い場合には
、信号成分が支配的な分解係数では振幅が大きい場合が多いため、特許文献1のように個
々の分解係数の振幅に関する情報のみを用いても十分高性能な分別が可能である。しかし
、低S/N画像の場合では、個々の分解係数に関する情報のみでは信号とノイズの識別が困
難であり、このようなケースにおいても十分な分別性能を得ることが課題である。
【0015】
(3)画質改善処理おける処理時間と画質改善性能は通常トレードオフの関係にある。一方、要求される処理時間は検査用途によって異なり、例えば心臓などの高速に動作する組織を高いフレームレートで動画観察したい場合では、計算量の少ない処理が求められる
。しかし、計算量の少ない簡易な処理では、例えば時間的変動が緩やかな部位を詳細に検査したい場合において、十分な性能が得られない。
前記(1)〜(3)に示した問題は、分解係数の強度変換を失敗させ、十分な画質改善結果が得られないことに繋がる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、以下の処理を含む超音波画像の画質改善方法および前記画質改善方法を搭載した超音波診断装置により前記課題を解決する。
【0017】
(1)ノイズ量を高精度に推定するため、解像度レベル毎にノイズ量の推定値を算出する。ただし、前述の通り、中にはノイズ量推定精度の低いものが存在しうるため、前記推定したノイズ量毎に、ノイズ量推定に対する信頼度を与え、前記信頼度に応じて前記ノイズ量の推定値に補正を施すことにより、精度の高いノイズ量推定値の補正値を算出することを特徴とする。前記信頼度は、例えばシステム内部の定数値として予め用意しておくこともできるし、前記ノイズ量推定方法とは異なる推定方法によって計算したノイズ量の推定値と前記ノイズ量推定値との距離で与えることもできる。
【0018】
(2)ノイズ成分と信号成分の分別として、位置・解像度レベル・エッジ方向毎の個々の分解係数に関する情報のみならず、複数の分解係数により得られる分解係数の分布情報を利用する。信号成分はその組織形状や規則性等から分解係数分布において特徴的な分布をなすことがある。例えば信号成分により形成された分解係数分布のピークの近傍においては同様に高い振幅の分解係数が存在しやすい等である(ある分解係数の近傍とは、位置
・解像度レベル・エッジ方向の近い分解係数の集合で、対象とする分解係数を含むものとする)。前記分解係数分布の情報も特徴量として捉え、前記特徴量に基づくノイズ成分と
信号成分の判定を行うことにより分別性能を向上させることができる。さらに、動画像であれば連続する時系列画像フレームの情報を利用する。信号成分はノイズ成分に比べて規則的で時間的変動が緩やかである場合が多いため、時系列画像フレームの対応する位置における規則的な特徴を抽出することにより分別性能の向上が実現可能である。
【0019】
(3)撮像条件・画像の種類・撮像対象に応じて、適切な画像表示速度や画質効果が得られるように処理パラメータを設定することを特徴とする。例えば、撮像条件・画像の種類・撮像対象によって決まる画像表示速度に対して、表示速度を落とすことなく最大限高性能な画質改善結果が得られるような処理パラメータを設定する。画質と処理時間のトレードオフに関係する処理パラメータとしては、例えば多重解像度分解における解像度レベルの分割数やエッジ方向の分割数、ノイズ量推定の対象とする解像度レベル毎・エッジ方向毎・位置毎に行うか否か、各分解係数に対するノイズ成分と信号成分の分別に用いる分解係数の個数、時系列画像フレームの情報を利用するか否か、などが挙げられる。
【0020】
各処理パラメータを変える具体的な利点としては、例えば、多重解像度分解における解像度レベルの分割数を増やすほど、より低周波領域における信号とノイズの分別が可能になり、比較的低い周波数に多くのノイズ成分が含まれる場合に有効となる。また、多重解像度分解におけるエッジ方向の分割数を増やすほど、組織の形状を高精度に保存することができ、形状が複雑な組織を詳細に検査することが可能となる。さらに、多重解像度分解方式・ノイズ量推定方式・ノイズ量補正方式・ノイズ成分と信号成分の弁別方式において複数のアルゴリズムを用意しておき、これらのアルゴリズムを切り替えることにより、さらに高性能な結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超音波診断装置および超音波診断装置の画質改善方法において、多重解像度分解方法を採用し、複数解像度レベルの分解係数を用いたノイズ量の推定および補正、複数の分解係数および補正ノイズ量に基づく分解係数の強度変換を行うことでノイズ成分を低減させた超音波画像を得ることが可能になり、従来の装置に比べて組織構造や病変部位の視認性を向上させることが出来る。
さらに、撮像条件・画像の種類・撮像対象に応じて処理パラメータを切り替えることで、用途に応じて処理時間を短縮することと画質を高品質化することとを両立させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例における画質改善処理のフローを示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る超音波診断装置の構成を表すブロック図である。
【図3】多重解像度分解方法を表すブロック図である。
【図4】多重解像度分解における周波数分割方法の説明図である。
【図5】ノイズ量推定方法を表すフローを示す図である。
【図6】補正ノイズ量算出処理の説明図である。
【図7】強度変換処理のフローを示す図である。
【図8】分解係数の振幅変換処理の説明図である。
【図9】保存度に基づく分解係数の補正処理の説明図である。
【図10】複数の分解係数に基づく係数強度変換処理の説明図である。
【図11】保存度計算処理を表すフローを示す図である。
【図12】近傍の位置における複数の分解係数の重み付け加算処理に基づく強度変換の説明図である。
【図13】近傍の複数のフレームにおける分解係数に基づく分解係数の係数強度変換処理の説明図である。
【図14】近傍の複数のフレームにおける分解係数を用いた保存度計算処理を表すフローを示す図である。
【図15】再構成方法を表すブロック図である。
【図16】撮像条件・画像の種類・撮像対象に応じて処理パラメータの変更が可能な画質改善処理のフローを示す図である。
【図17】各撮像条件・画像の種類・撮像対象に対応する処理パラメータを表すテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る実施の形態について図面を用いて説明する。
【0024】
本発明は、超音波の送受信を行うことにより取得された撮像画像の画質を改善するために、多重解像度分解を利用した画像処理を行う処理および装置である。
【0025】
本発明の実施例について図1乃至図15を用いて説明する。
【0026】
図1は、本発明における画質改善処理のフローを示す一実施例図である。まず、多重解像度分解処理101により、処理入力画像xに対して多重解像度分解を行うことにより分
解係数wを求める。処理入力画像xは各位置(m,n)に対してスカラー値x[m,n]を持つベク
トルである。また、分解係数wは、各位置(m,n)、各解像度レベルj、各エッジ方向oに対
してスカラー値wj,o[m,n]を持つベクトルである。
【0027】
分解係数wは、各解像度レベル、エッジ方向、位置に対して一般に実数または複素数の
値をとる。次に、ノイズ量推定処理102により推定ノイズ量z'を求め、補正ノイズ量算出処理103により推定ノイズ量を補正することで補正ノイズ量zを算出する。推定ノイ
ズ量z'を補正する必要がない場合には,補正ノイズ量算出処理103において推定ノイズ量z'と同じ値を補正ノイズ量zとして出力するようにしても良い。その後、強度変換処理
104により補正ノイズ量zに基づいて分解係数wの強度変換を行う。強度変換後の分解係数を画質改善分解係数w'と呼ぶ。最後に、再構成処理105により画質改善処理後の画像(以下、画質改善画像)yを求める。画質改善画像yは処理入力画像xと同様に、各位置(m,
n)に対してスカラー値y[m,n]を持つベクトルである。また、推定ノイズ量z'、補正ノイ
ズ量z、画質改善分解係数w'は、分解係数wと同様に、各位置(m,n)、各解像度レベルj、各エッジ方向oに対してそれぞれスカラー値z'j,o[m,n]、zj,o[m,n]、w'j,o[m,n]を持つベク
トルである。
【0028】
次に、本発明における超音波診断装置の構成について図2を用いて説明する。図2(a)は、超音波診断装置201の構成の一実施例を表す図である。超音波診断装置201は、超音波信号の送受信を行う超音波プローブ203、超音波プローブ203へ入力するための駆動信号を発生する駆動回路202、受信信号の増幅やA/D変換を行う受信回路204
、超音波スキャンの走査線信号列を2次元状に並べた画像を生成する画像生成部205、画像の画質改善処理を実施する画質改善処理部206、走査線信号列で表現された画像の座標変換処理や補間処理を行うスキャンコンバータ212、スキャンコンバータにより生成された画像を表示する表示部213、及びこれら全体を制御すると共にデータを記憶し処理する制御・記憶・処理部220を備えている。
【0029】
超音波プローブ203では、被検体200に対して駆動信号に基づく超音波信号を送信し、また送信の際に得られる被検体200からの反射波を受信して電気的な受信信号に変換する。超音波プローブ203の種類には、例えば、リニア、コンベックス、セクタ、ラジアルと呼ばれるタイプがある。超音波プローブ203がコンベックスタイプの場合には
、スキャンコンバータ212により長方形状の画像から扇形状の画像に変換される。
【0030】
画像生成部では、連続した時間フレームに送受信を行って得られた画像と組織の表示位置が同じになるように位置補正を行っても良い。
【0031】
画質改善処理部206は、図2(d)に示すように、多重解像度分解部207、ノイズ量推定部208、ノイズ量補正部209、強度変換部210、および再構成部211を備え、各ブロックにおいて、それぞれ図1の多重解像度分解処理101、ノイズ量推定処理102、補正ノイズ量算出処理103、強度変換処理104、および再構成処理105が行われる。
【0032】
また、制御・記憶・処理部220は、図2(c)に示すように、入力部221、制御部222、記憶部223、および処理部224を備えており、入力部221からは、画像生成開始のタイミングや画像生成に関するパラメータなどが入力される。制御部222は、駆動回路202、超音波プローブ203、受信回路204、画質改善処理部206等の動作を制御する。記憶部223では、受信信号や、画像生成部205により生成された画像
、画質改善処理部206で計算された分解係数、画質改善後の画像、スキャンコンバータ212の出力である表示画像等が記憶される。処理部224では、超音波プローブ203に入力するための電気信号の整形処理や、画像表示の際における明度およびコントラストを調整する処理等を行う。
【0033】
以上のような構成において、超音波プローブ203は、制御・記憶・処理部220の制御部222で制御された駆動信号に基づく超音波信号を被検体200に対して送信し、この送信により得られる被検体200からの反射信号を受信して電気的な受信信号に変換する。
【0034】
次に電気信号に変換された受信信号を受信回路204で増幅してA/D変換された後、
このA/D変換した信号を画像生成部205で処理されて画像が生成され、画質改善処理
部206に入力される。画質改善処理部206において、入力された画像は、上記したように、多重解像度分解処理101、ノイズ量推定処理102、補正ノイズ量算出処理103、強度変換処理104、および再構成処理105が実施されて高精度な画質改善処理が行なわれ、画質改善処理画像が得られる。更に、この画質改善処理画像をスキャンコンバータ212で画像の座標変換処理や補間処理を行なって画像を生成することにより、表示部213の画面上にノイズ成分が低減されたより鮮明な超音波画像を表示することが出来る。
【0035】
図2(b)は、本発明における超音波診断装置の構成の別の一実施例を表す図である。図2(b)に示す超音波診断装置201’の構成では、スキャンコンバータ214と画質改善処理部215の配置が図2(a) に示した超音波診断装置201の構成と異なる。一方、
図2(b)に示した構成において、図2(a) に示した構成と同じものについては同じ番号
を付している。
【0036】
この図2(b)に示した超音波診断装置201’は、超音波信号の送受信を行う超音波プローブ203、超音波プローブ203へ入力するための駆動信号を発生する駆動回路202、受信信号の増幅やA/D変換を行う受信回路204、超音波スキャンの走査線信号列を
2次元状に並べた画像を生成する画像生成部205、この画像生成部205で生成された画像の座標変換処理や補間処理を行うスキャンコンバータ214、スキャンコンバータ214により生成された画像の画質改善処理を実施する画質改善処理部215、画質改善処理が実施された画像を表示する表示部213’、及びこれら全体を制御すると共にデータ
を記憶し処理する制御・記憶・処理部220’を備えている。
【0037】
図2(a)の構成において、画像生成部205の出力画像は、超音波スキャンの走査線信号列が画像上で平行に表現される画像となる。そのため、画像生成部205により生成された画像に対して画質改善処理を行うことで、スキャン方向に依存する画質の劣化を改善することができる。一方、図2(b)の構成において、スキャンコンバータ214の出力画像は、表示部213に出力される画像と同じ形式の画像となる。そのため、スキャンコンバータ214により生成された画像に対して画質改善処理を行うことで、スキャンコンバータ214による座標変換処理や補間処理の際に発生しうる画質の劣化等を最小限に抑えることができる。
【0038】
次に、画質改善処理部206又は215の多重解像度分解部207で行なう多重解像度分解処理について、図3乃至図4を用いて説明する。
【0039】
前述のように、多重解像度分解方式として、Wavelet変換、複素Wavelet変換、Curvelet変換、Contourlet変換、Steerable Pyramid変換などの方式が知られている。多重解像度
分解処理の処理フローを表す本発明の実施例図を図3に示す。図3(a),(b),(c)は、それ
ぞれ、エッジ方向の分割数が4以上のWavelet変換、複素Wavelet変換、 Steerable Pyrami
d変換をベースとした多重解像度分解方式による処理フローの一実施例である。
【0040】
まず、図3(a)に示す、本発明の一実施例であるエッジ方向の分割数が4以上のWavelet変換による多重解像度分解方式の処理フローについて説明する。まず処理入力画像x[m,n]に対して横方向(m方向)の1次元ローパスフィルタ301および横方向の1次元ハイパス
フィルタ302を適用した後、続いて各フィルタの出力信号に対して縦方向(n方向)の1次元ローパスフィルタ303およびハイパスフィルタ304を適用する。これらのフィルタの係数は実数である。横方向のフィルタ301、302と縦方向のフィルタ303、304を適用する順序は逆でも良い。また、これらのフィルタ処理の直後に画素を1画素お
きに間引く処理(以下、間引き処理)を施しても良い。これにより、処理入力画像xは解
像度レベル1の4種類の分解係数s1、w1,C、w1,A、w1,diagに分解される。
【0041】
分解係数s1は横方向と縦方向が共に低周波である成分を表しており、s1を解像度レベル
1の低周波分解係数と呼ぶ。また、分解係数w1,Cは横方向が低周波かつ縦方向が高周波で
ある成分、分解係数w1,Aは横方向が高周波かつ縦方向が低周波である成分、分解係数w1,d
iagは横方向と縦方向が共に高周波である成分を表す。分解係数w1,Cは横方向に沿った高
周波エッジに強く反応し、分解係数w1,Aは縦方向に沿った高周波エッジに強く反応する。
また、分解係数w1,diagは斜め45度方向に沿った高周波エッジに強く反応するが、斜め45
度方向に沿ったエッジには直線m=nに平行なエッジと直線m=-nに平行なエッジの2種類のエッジが含まれる。
【0042】
そこで更に、w1,diagに対して、直線m=nに平行なエッジを通過して直線m=-nに平行なエ
ッジを遮断するフィルタ305と、逆に直線m=nに平行なエッジを遮断して直線m=-nに平
行なエッジを通過するフィルタ306を適用することにより、解像度レベル1の分解係数w1,D、w1,Bを算出する。分解係数w1,A、w1,B、w1,C、w1,Dを解像度レベル1の高周波分解
係数と呼ぶ。図4(a)に、エッジ方向の分割数が4以上のWavelet変換による多重解像度分
解方式において各々の分解係数に含まれる支配的な周波数成分を示す。周波数fm,fnは、
それぞれ横方向周波数および縦方向周波数を表す。例えば、w1,Aは横方向周波数fmが高く
縦方向周波数fnが低い成分を多く含む。
【0043】
続いて、処理入力画像xに対して行った処理と同様に、分解係数s1に対してフィルタ処
理を施すことにより、解像度レベル2の分解係数s2、w2,A、w2,B、w2,C、w2,Dを算出する
。図3(a)では解像度レベル2の分解係数までしか算出していないが、同様の処理を再帰的に繰り返すことにより、より高い解像度レベルの分解係数を計算してゆく。図4(a)に示
すように、解像度レベルが高い分解係数ほど、より低い周波数成分を多く含む。
【0044】
多重解像度分解処理により算出した最も高い解像度レベルの高周波分解係数がwJ-1であるとき、Jを最高解像度レベルと呼ぶ(図3(a)の例ではJ=3)。低周波分解係数sJ-1をwJ,
Aで表し、低周波分解係数sJ-1=wJ,Aを解像度レベルJの分解係数、解像度レベルj(j=1,...
,J-1)の高周波分解係数をその解像度レベルjの分解係数と呼ぶ。解像度レベルj、エッジ
方向oの分解係数wj,oは、各位置(m,n)に対してスカラー値wj,o[m,n]を持つベクトルで
ある。また、全ての解像度レベルにおける分解係数をwで表す。図3(a)では解像度レベル1,2におけるエッジ方向の分割数を4としているが、エッジ方向の分割数は必ずしも4であ
る必要はなく、エッジ方向の分割数が4以外である解像度レベルがあっても良い。同様の
ことが、以下に述べる図3(b),(c)についても言える。
【0045】
次に、図3(b)に示す、本発明の一実施例である複素Wavelet変換による多重解像度分解方式の処理フローについて説明する。まず処理入力画像x[m,n]に対して横方向(m方向)
の1次元ローパスフィルタ321、322および横方向の1次元ハイパスフィルタ323、324を適用した後、続いて各フィルタの出力信号に対して縦方向(n方向)の1次元ローパスフィルタ325、326およびハイパスフィルタ327、328を適用する。本実施例図では、各フィルタ処理おいてそれぞれ2種類の異なるフィルタを用いているが、これ
に限定されない。これらのフィルタの係数は一般に複素数である。
【0046】
図3(a)の例と同様に、横方向のフィルタと縦方向のフィルタを適用する順序は逆でも良いし、これらのフィルタ処理の直後に間引き処理を施しても良い。横方向の1次元ロー
パスフィルタおよび縦方向の1次元ローパスフィルタを適用して得られた分解係数s1,A、s
1,Bを、解像度レベル1の低周波分解係数と呼ぶ。次に、算出された低周波分解係数以外の
分解係数に対してΣΔブロック329により二つの入力信号の和と差を計算する処理を施し、解像度レベル1の高周波分解係数w1,A、w1,B、w1,C、w1,D、w1,E、w1,Fを算出する。
続いて、処理入力画像xに対して行った処理と同様に、解像度レベル1の低周波分解係数s1
,A、s1,Bに対してフィルタ処理を施すことにより、解像度レベル2の分解係数s2,A、s2,B
、w2,A、w2,B、w2,C、w2,D、w2,E、w2,Fを算出する。以下、再帰的に処理を行うことで、
より高い解像度レベルの分解係数を計算してゆく。図4(b)に、複素Wavelet変換による多重解像度分解方式において各々の分解係数に含まれる支配的な周波数成分を示す。各解像度レベルにおける6種類の高周波分解係数が、それぞれ異なる6方向のエッジ方向に強く反応する。
【0047】
次に、図3(c)に示す、本発明の一実施例であるSteerable Pyramid変換による多重解像度分解方式の処理フローについて説明する。まず、処理入力画像x[m,n]に対して縦・横方向共に低周波である成分のみを遮断する2次元ハイパスフィルタ341を適用することにより、解像度レベル1の高周波分解係数w1を算出する。また、処理入力画像xに対して逆に縦・横方向共に低周波である成分のみを通過する2次元ローパスフィルタ342を適用す
ることにより、解像度レベル1の低周波分解係数s1を算出する。前記2次元ローパスフィルタ処理の直後に間引き処理を施しても良い。
【0048】
次に、分解係数s1に対して縦・横方向のうちいずれかの方向が高周波でかつ特定のエッジ方向の成分のみを通過するフィルタ343、344、345、346、…を適用することにより、解像度レベル2の高周波分解係数w2,A、w2,B、w2,C、w2,D、…を算出する。ま
た、分解係数s1に対して2次元ローパスフィルタ347を適用することにより、解像度レ
ベル2の低周波分解係数s2を算出する。続いて、分解係数s1に対して行った処理と同様に
、分解係数s2に対してフィルタを適用することにより、解像度レベル3の分解係数w3,A、w
3,B、w3,C、…を算出し、以下、再帰的に処理を行う。
【0049】
図4(c)に、Steerable Pyramid変換による多重解像度分解方式において各々の分解係数に含まれる支配的な周波数成分を示す。ただし、図4(c)の例では、各解像度レベル2,3におけるエッジ方向の分割数をそれぞれ8および4としている。図3に示す実施例における処理パラメータとしては、最高解像度レベル、解像度レベル毎のエッジ方向分割数および分割するエッジ方向、フィルタ後の間引きの有無などが挙げられる。これらの処理パラメータは、撮像条件(超音波プローブの種類、倍率、使用周波数、コンパウンド法の有無、走査ピッチ)・画像の種類・撮像対象に応じて変えることができる(以下、撮像条件・画像
の種類・撮像対象をまとめて画像撮像情報と呼ぶ)。
【0050】
次に、画質改善処理部206又は215のノイズ量推定部208におけるノイズ量の計算に関する処理について、図5乃至図6を用いて説明する。
【0051】
図5は、図1におけるノイズ量推定処理102について説明する図である。超音波画像に含まれるノイズは通常位置・解像度レベル・エッジ方向によって異なる特性を持つため
、適切にノイズを抑制しながら画質改善処理を行うために、位置・解像度レベル・エッジ方向別に推定ノイズ量を計算することが有効である。図5のノイズ量推定処理では、処理501、502、503のように、複数の解像度レベルjのそれぞれについて分解係数wj,o[m,n]における推定ノイズ量z'j,o[m,n]を計算する。ここで、wj,o[m,n]およびz'j,o[
m,n]は、同一の解像度レベルj、エッジ方向o、位置(m,n)における分解係数および推定ノ
イズ量を表す。
【0052】
例えば、z'j,o[m,n]は、同一の解像度レベルjにおける全エッジ方向、全位置における
分解係数の標準偏差として、以下のように計算される。
【0053】
【数1】

【0054】
ここで、Njは解像度レベルjにおける全エッジ方向、全位置における分解係数の個数であ
る。
【0055】
別の例として、分解係数の絶対値の中央値を用いて以下のように計算することもできる

【0056】
【数2】

【0057】
ここで、αは定数である。推定ノイズ量は必ずしも全ての解像度レベルで計算する必要はない。この場合には、補正ノイズ量算出処理によって異なる解像度レベルの推定ノイズ量に基づいて補正ノイズ量が計算される。
【0058】
また、(数1)、(数2)のように、推定ノイズ量z'は二つ以上のエッジ方向oや二つ
以上の位置(m,n)のそれぞれに対して計算しなくても良く、この場合z'j,o[m,n]はエッジ
方向oや位置(m,n)に依存しない。必ずしも複数の解像度レベルに対する推定ノイズ量を計算する必要はなく、複数のエッジ方向または複数の位置のそれぞれに対して推定ノイズ量z'o[m,n]を計算することもできる。ノイズ量推定処理における処理パラメータとしては、どの解像度レベル・エッジ方向・位置に対してノイズ量を推定するかを決めるためのパラメータや、ノイズ量計算方法を特定するためのパラメータが挙げられ、これらの処理パラメータは画像撮像情報に応じて変えることができる。
【0059】
次に、画質改善処理部206又は215のノイズ量補正部209における補正ノイズ量算出方法について図6を用いて説明する。図6(a)のグラフ601は、補正ノイズ量算出
方法の一実施例による、特定のエッジ方向oおよび位置(m,n)における各解像度レベルの推定ノイズ量z'j,o[m,n]と補正ノイズ量zj,o[m,n]を示している。また、グラフ602は、
推定ノイズ量z'j,o[m,n]に対応する、解像度レベルj、エッジ方向oおよび位置(m,n)にお
けるノイズ量推定の信頼度(以下、推定信頼度)ej,o[m,n]を示している。推定信頼度ej,
o[m,n]は、例えば、1個以上の推定ノイズ量から算出するか、あるいは、(数1)と(数
2)のような異なる複数の方法により計算した推定ノイズ量の距離などから算出するか、あるいは、異なるフレームの画像における分解係数に基づいて計算するか、あるいは、予め決められた値を用いることができる。予め決められた値を用いる場合には、画像撮像情報によって適切な値を使用できるよう、値をテーブル化して用意しておくなどの方法を用いても良い。
【0060】
補正ノイズ量は、推定ノイズ量と信頼度に基づいて算出される。図6(a)では、推定信
頼度に対してしきい値Teを設定し、しきい値Teより小さな推定信頼度605に対応する推定ノイズ量603のみを補正し、補正ノイズ量604を算出している。補正は、対象とする推定ノイズ量に対して、その近傍の位置や近傍の周波数、近傍のエッジ方向における他の推定ノイズ量の値を用いて補間処理により求める。
【0061】
図6(b)の例では、特定のエッジ方向oおよび解像度レベルj、における各位置(m,n)(ただしnは固定)の推定ノイズ量z'j,o[m,n]と補正ノイズ量zj,o[m,n]を示している。推定ノ
イズ量z'j,o[m,n]に対して近似曲線611を求め、求めた近似曲線上の点を補正ノイズ量
としている。近似曲線611は、推定信頼度に基づいて計算される。
【0062】
例えば、重み付き最小二乗近似として次式で与えられるEzが最小となるような曲線を選択する。
【0063】
【数3】

【0064】
ここで、Z'j',o'[m',n']は近似曲線611を表す関数であり、1個以上のパラメータと解
像度レベルj'、エッジ方向o'および位置m',n'により表せる関数である。
【0065】
(数3)が最小になるように前記1個以上のパラメータを算出することにより、近似曲
線611を求めることができる。(数3)の右辺における和は、対象とする推定ノイズ量
に対して、その近傍の位置m',n'や近傍の周波数(解像度レベル)j'、近傍のエッジ方向o
'での和を計算することを表す。また、補正ノイズ量612の例のように、図5で説明し
たノイズ量推定処理において推定ノイズ量を算出しなかった位置においても、補間や近似などにより補正ノイズ量を算出することができる。
【0066】
図6(c)の例では、次式のように推定信頼度ej,o[m,n]と推定ノイズ量z'j,o[m,n]の積を
用いて補正ノイズ量zj,o[m,n]を求めている。
【0067】
【数4】

【0068】
この方法は、推定信頼度が低いほど推定ノイズ量が真のノイズ量に比べて大きな値となるような場合に有効である。実際、(数1)や(数2)を用いてノイズ量推定処理を行った
場合には、分解係数に含まれる信号成分の影響を受けるため、推定ノイズ量が真のノイズ量に比べて大きな値となる場合がある。
【0069】
補正ノイズ量算出処理における処理パラメータとしては、推定信頼度を特定するためのパラメータや、前記推定信頼度に基いて具体的に補正方法を特定するためのパラメータが挙げられ、これらの処理パラメータは画像撮像情報に応じて変えることができる。
次に、画質改善処理部206または215の強度変換部210における強度変換処理に関し、図7乃至図12を用いて説明する。
【0070】
図7(a)は、強度変換処理104における処理フローを表す本発明の一実施例図である
。本実施例では、分解係数wに対して、分解係数の振幅変換処理701を施すことにより
、画質改善分解係数w'を生成する。分解係数の振幅変換処理701では、振幅変換後の分解係数の絶対値|w'j,o[m,n]|が、例えば同一の解像度レベルj、エッジ方向o、位置(m,n)
における分解係数wj,o[m,n]および補正ノイズ量zj,o[m,n]の関数として、次式のように計
算される。
【0071】
【数5】

【0072】
A(p;z)は振幅変換を表す振幅変換関数である。振幅変換関数A(p;z)は、入力pに対して単
調増加する関数である。
【0073】
図8に振幅変換関数の例を示す。図8(a)に示す関数801は、広く知られている振幅
変換方法であるSoft Thresholding法
【0074】
【数6】

【0075】
における振幅変換関数である。ここで、Tは補正ノイズ量zの定数倍(例えばT=3z、k=3)
である。
【0076】
図8(b)の関数811に別の振幅変換関数の例を示す。分解係数の振幅変換処理701
により|w'j,o[m,n]| > |wj,o[m,n]|となる場合には信号が強調され、逆に|w'j,o[m,n]| <
|wj,o[m,n]|となる場合には信号が抑制される。通常、分解係数wj,o[m,n]が実数の場合
には振幅変換後の分解係数w'j,o[m,n]の符号を分解係数wj,o[m,n]の符号と同じとし、ま
た分解係数wj,o[m,n]が複素数の場合にはw'j,o[m,n]の位相をwj,o[m,n]の位相と同じとす
るが、これに限らない。
【0077】
強度変換処理104における処理フローについて、図7(b)に別の実施例を示す。この
実施例では、分解係数の振幅変換処理701に加え、保存度計算処理711と保存度に基づく分解係数補正処理712が行われる。保存度計算処理711では、分解係数を保存する度合いを表す保存度Cを推定ノイズ量zと複数の分解係数の値に基づいて計算し、続いて保存度に基づく分解係数補正処理712により各分解係数wに対して保存度Cに基づいて補正を行う。保存度Cおよび補正後の分解係数w+は、各位置(m,n)、各解像度レベルj、各エ
ッジ方向oに対してそれぞれスカラー値Cj,o[m,n]、w+j,o[m,n]を持つベクトルである。以
下では、位置(m,n)、解像度レベルj、エッジ方向oに対してスカラー値aj,o[m,n]を持つベ
クトルを単にaで表す。
【0078】
補正後の分解係数w+j,o[m,n]は、同一の解像度レベルj、エッジ方向o、位置(m,n)にお
ける保存度Cj,o[m,n]と分解係数wj,o[m,n]の関数として次式のように表せる。
【0079】
【数7】

【0080】
ここで、F(Cj,o[m,n])は単調増加関数である。F(Cj,o[m,n])の例を図9に示す。F(Cj,o
[m,n]) > 1ならば、補正前の分解係数wj,o[m,n]に比べて補正後の分解係数w+j,o[m,n]の
ほうが大きくなる。
【0081】
分解係数の振幅変換処理701では、(数5)の代わりに次式(数8)を用いて振幅変
換後の分解係数w'j,o[m,n]を計算する。
【0082】
【数8】

【0083】
強度変換処理104における処理フローについて、図7(c)に更に別の実施例を示す。
この実施例では、まず分解係数の振幅変換処理701と保存度計算処理711を行う。分解係数の振幅変換処理701では、(数9)を用いて振幅変換後の分解係数w''を計算す
る。
【0084】
【数9】

【0085】
また、保存度計算処理711では、複数の分解係数の値に基づいて保存度Cを計算する
。続いて、保存度Cに基づいて分解係数補正処理712を行う。この処理によって、補正
後の分解係数w'j,o[m,n]が次式のように計算される。
【0086】
【数10】

【0087】
図7(b)(c)での保存度に基づく分解係数補正処理712では、全ての分解係数を補正する必要はなく、例えば、解像度レベルJの分解係数wJに対してはF(CJ,o[m,n])=1として補
正を行わないようにしても良い。図7の実施例に示す強度変換処理における処理パラメータとしては、例えば図7(a)(b)(c)のどの処理を適用するかを決めるためのパラメータや
、分解係数の振幅変換処理701、保存度計算処理711、保存度に基づく分解係数補正処理712のそれぞれの処理を特定するための処理パラメータがあり、これらの処理パラメータは画像撮像情報に応じて変えることができる。
【0088】
次に、図10乃至図12を用いて、図7における保存度計算処理711について説明する。
【0089】
まず、複数の分解係数を用いて強度変換を行う方法について図10を用いて説明する。図10(a)は、高周波分解係数wj,o[m,n]の振幅と位置mとの関係の例を表している。エッ
ジ部においては一般に対応するエッジ方向oにおける分解係数の振幅が大きくなる。曲線
1001は、信号成分とノイズ成分が正しく分離できたとして、エッジ部1004において信号成分のみを抽出したときに得られる分解係数の振幅を表している。実際に撮像画像から計算される分解係数wj,o[m,n]の振幅は、ノイズによる影響を受けるため通常曲線1
001上から外れた値となる。この結果、分解係数1002のように、曲線より値が小さくなる場合も多い。一方、平坦部1005では、一般に分解係数wj,o[m,n]に含まれる信
号成分が少ないため、分解係数の振幅は小さい。しかし、ノイズの影響により、分解係数1003のように不規則的に振幅が大きくなる場合もある。
【0090】
図10(a)の場合において、画質を十分に改善するためには、エッジ部である分解係数
1002に対して振幅を保存するかまたは振幅を大きくし、逆に平坦部である分解係数1003に対しては振幅を小さくすることが有効である。そこで、本発明における一実施例では、エッジ部である分解係数1002の近傍の位置で振幅の大きな分解係数が一般に多く存在し、逆に平坦部である分解係数1003の近傍の位置で一般に分解係数の振幅が小さいことに着目し、近傍の位置における複数の分解係数の値を利用して強度変換を行うことを特徴とする。個々の分解係数の振幅のみを用いて強度変換を行う方法ではこのような処理は実現できず、前記本発明における一実施例により、従来よりも高精度な画質改善処理を行うことが可能である。
【0091】
図10(a)では、近傍の位置における分解係数の関連性を利用することにより良好な画
質改善結果を得る方法について説明したが、同様に異なる解像度レベルや異なるエッジ方向の分解係数における関連性を利用することも有効である。図10(b)に分解係数の振幅
と解像度レベルとの関係の例を表す。図中の○印で表した点がエッジ部における分解係数を表し、×印で表した点が平坦部における分解係数を表している。曲線1011は、信号成分とノイズ成分が正しく分離できたとして、エッジ部において信号成分のみを抽出したときに得られる分解係数の振幅を表している。エッジ部では平坦部に比べて一般に振幅が大きいが、ノイズの影響により、エッジ部における分解係数(例えば分解係数1012)に比べて平坦部における分解係数(例えば分解係数1013)のほうが大きくなるような場合も起こり得る。しかし、異なる周波数レベルにおける分解係数を含めた複数の分解係数の値を利用することで、従来よりも高精度な画質改善処理を行うことが可能である。
【0092】
また、図10(c)に分解係数の振幅とエッジ方向との関係の例を表す。同様に、近傍の
エッジ方向における分解係数を含めた複数の分解係数の値を利用することで、例えば、エッジ部における分解係数1022の振幅を大きくし、かつ平坦部における分解係数1023の振幅を小さくするような処理が可能である。このように、本発明の一実施例では、複数の分解係数の間の関連性を利用することにより、画質改善性能の向上が実現する。
【0093】
次に、図7(b)および(c)に関して述べた保存度計算処理について図11を用いて説明する。保存度Cの計算には、複数の分解係数の値を使用する。図11(a)は、保存度計算処理を表す一実施例である。
【0094】
本実施例では、まず、ブロック1101、1102、1103により、値CL、CO、CS
求める。ここで、値CLは、同一のエッジ方向oおよび位置(m,n)における異なる解像度レベルの分解係数w1,o[m,n]、...、wJ,o[m,n]の関数として、次式のように計算する。
【0095】
【数11】

【0096】
ここで、CL(…)は関数であり、例えば、
【0097】
【数12】

【0098】
のように表される。
【0099】
処理入力画像xには、一般に低周波成分ほど信号成分が多く含まれるため、(数12)
のように、対象とする解像度レベルjに対してより低周波に対応する高解像度レベルの分
解係数を用いることにより、高精度に信号とノイズの識別を行うことができる。また、CLの計算と同様に、同一の解像度レベルjおよび位置(m,n)における異なるエッジ方向の分解係数wj,A[m,n],...,wj,K[m,n]の関数として、次式のように値COを計算する。
【0100】
【数13】

【0101】
Kは、解像度レベルjにおけるエッジ方向の分割数である。CO(…)は関数であり、例えば
【0102】
【数14】

【0103】
のように表される。ここで、o1,o2は、エッジ方向oの両隣のエッジ方向を現す。
【0104】
更に、同一の解像度レベルjおよびエッジ方向oにおける異なる位置の分解係数wj,o[m(1),n(1)],...,wj,o[m(S),n(S)]の関数として、次式のような値CSを計算する。
【0105】
【数15】

【0106】
ここで、wj,o[m(1),n(1)]、...、wj,o[m(S),n(S)]は解像度レベルj、エッジ方向oにおけ
る全ての位置の分解係数を表す。CS(…)は関数であり、例えば特定の重みaj,o[m',n']を
用いて、
【0107】
【数16】

【0108】
のような加重平均を計算する。
【0109】
図12に重みaj,o[m',n']を表す一実施例を示す。エッジ方向に沿ってゼロでない値を
持つようなaj,o[m',n']を用いることにより、エッジ方向に沿って加重平均が行われるよ
うにしている。画像に含まれる組織構造などの信号成分は、一般にエッジ方向に沿って似たような明度値を持つため、対応する分解係数もエッジ方向に沿ってほぼ同じような値となる。そこで、図12のようにエッジ方向に沿って加重平均による平滑化処理を行うことにより、信号成分を劣化することなくノイズ成分を抑制することが可能である。
【0110】
尚、図3においてローパスフィルタやハイパスフィルタの後に間引き処理を行う場合は
、位置(m,n)によっては前記位置(m,n)における全解像度レベルの分解係数w1,o[m,n]、...
、wJ,o[m,n]のうち幾つかの値が得られない場合がある。このような場合には、最も近い
位置における分解係数で近似するか、または近くの位置における複数の分解係数を用いて補間を行うなどの処理により、必要とする分解係数の値を求めた後に保存度計算処理を行う。
【0111】
また、解像度レベルによってエッジ方向の分割数が異なる多重解像度分解方式を用いる場合には、エッジ方向oによっては前記エッジ方向oにおける全周波数レベルの分解係数w1,o[m,n]、...、wJ,o[m,n]のうち幾つかの値が得られない場合がある。この場合にも同
様に、最も近いエッジ方向における分解係数で近似するか、または近傍のエッジ方向における複数の分解係数を用いて補間を行うなどの処理により、必要とする分解係数の値を求めた後に保存度計算処理を行う。また、CL、CO、CSはそれぞれ常に定数値を返す関数、あ
るいは単にwj,o[m,n]を返すだけの関数とすることもできる。
【0112】
次に図11のブロック1104により、同一の解像度レベルj、エッジ方向o、位置(m,n
)における値CLj,o[m,n]、COj,o[m,n]、CSj,o[m,n]を用いて次式のように保存度Cを計算す
る。
【0113】
【数17】

【0114】
C(…)は関数であり、例えば、
【0115】
【数18】

【0116】
のように表される。
【0117】
図11(a)の実施例では、関数CL(…)、CO(…)、CS(…)を並列的に用いたが、図11(b)に示す保存度計算処理を表す別の一実施例のように、関数CL(…)、CO(…)、CS(…)を直列
的に用いても良い。図11(b)の実施例では、まず、ブロック1111により、同一の解
像度レベルjおよびエッジ方向oにおける異なる位置の分解係数wj,o[m(1),n(1)],...,wj,o[m(S),n(S)]の関数として、(数15)のような計算方法によ
り値CSを計算する。次に、
ブロック1112により、(数13)で用いたような関数CO(…)を用いて、同一の解像度
レベルjおよび位置(m,n)における異なるエッジ方向の値CSj,A[m,n],...,CSj,K[m,n]から
、次式のような値COSを計算する。
【0118】
【数19】

【0119】
続いて、ブロック1113により、(数11)で用いたような関数CL(…)を用いて、同
一のエッジ方向oおよび位置(m,n)における異なる解像度レベルの値COS1,o[m,n],...,COSJ,o[m,n]から、保存度Cを計算する。
【0120】
【数20】

【0121】
尚、図11(b)の実施例では、分解係数wに対して関数をCS(…)、CO(…)、CL(…)の順序で
施しているが、この順序に限定されない。
【0122】
図11(c)は、保存度計算処理を表す別の一実施例である。この実施例では、関数CL(…
)、CO(…)、CS(…)を並列的に用いた処理と直列的に用いた処理を組み合わせた処理を行
っている。まず、ブロック1121、1122により、(数15)および(数13)を用
いて値CS,COを計算した後、ブロック1123により、同一の解像度レベルj、エッジ方向
o、位置(m,n)における値CO j,o[m,n]、CS j,o[m,n]を用いて次式のように値CO+Sを計算す
る。
【0123】
【数21】

【0124】
CO+S(…)は関数であり、例えば、
【0125】
【数22】

【0126】
のように表される。
【0127】
次に、ブロック1124により、(数11)で用いたような関数CL(…)を用いて、同一
のエッジ方向oおよび位置(m,n)における異なる解像度レベルの値CO+S1,o[m,n],...,CO+SJ,o[m,n]から、保存度Cを計算する。
【0128】
【数23】

【0129】
尚、図11(c)の実施例では、分解係数wに対して関数CS(…)、CO(…)を並列的に用いた後、関数CLを直列的に用いているが、この組み合わせ方に限定されない。
次に、異なるフレームにおける画像に対する分解係数を用いた保存度計算処理について、図13〜図14を用いて説明する。
【0130】
図13は、高周波分解係数wj,o(u)[m,n]の振幅とフレームuとの関係を表している。こ
こで、フレームuにおいて撮像された画像に対して多重解像度分解を行って得られる分解
係数をwj,o(u)[m,n]と呼ぶ。また、画質改善処理の対象とするフレームをフレームtと呼
び、分解係数wj,o(t)[m,n]を単にwj,o[m,n]と省略する。以下では、位置(m,n)、解像度レ
ベルj、エッジ方向o、フレームuに対してスカラー値aj,o(t)[m,n]を持つベクトルを単にa
で表す。
図13において○印で表した点がエッジ部における分解係数を表し、×印で表した点が平坦部における分解係数を表している。曲線1301は、信号成分とノイズ成分が正しく分離できたとして、エッジ部において信号成分のみを抽出したときに得られる分解係数の振幅を表している。実際に撮像画像から計算される分解係数wj,o(u)[m,n]の振幅は、ノイズ
による影響を受けるため、分解係数1302のように曲線1301より小さくなる場合がある。一方、一般に信号成分をあまり含まない平坦部においてもノイズによる影響を受け
、分解係数1303のように振幅が大きくなる場合もある。
【0131】
画質改善のためには、エッジ部である分解係数1302に対して振幅を保存するかまたは振幅を大きくし、逆に平坦部である分解係数1303に対しては振幅を小さくする必要があるが、個々の分解係数の振幅のみを用いて強度変換を行う方法では、実現できない。これに対し、本発明における一実施例では、エッジ部である分解係数1302と同一解像度レベル、同一エッジ方向、同一位置にある近傍のフレームの展開係数では、一般に振幅が大きく、逆に平坦部である分解係数1303と同一解像度レベル、同一エッジ方向、同一位置にある近傍のフレームの展開係数では、一般に振幅が小さいことに着目し、近傍のフレームにおける分解係数を含めた複数の分解係数の値を利用して強度変換を行う。これにより、信号成分とノイズ成分の識別精度を向上することが可能である。
【0132】
次に、本発明の一実施例における保存度計算処理について図14を用いて説明する。図14の実施例は、図11の実施例と同様の処理を行うが、複数フレームの分解係数を用いて保存度の計算を行う点が図11の実施例とは異なる。図14(a)は、保存度計算処理を
表す一実施例である。本実施例では、ブロック1101、1102、1103、1401により、値CT、CL、CO、CSを求める。ここで、値CTは、同一の解像度レベルj、エッジ方
向oおよび位置(m,n)における異なるフレームの分解係数wj,o(t-t'+1)[m,n],wj,o(t-t'+2)[m,n]...,wj,o(t)[m,n]の関数として、次式のように計
算する。
【0133】
【数24】

【0134】
ここで、CT(…)は関数であり、例えば、
【0135】
【数25】

【0136】
のように表される。(数24)における値t'は、定数である必要はなく可変であっても良
い。
【0137】
次に、ブロック1402により、値CL、CO、CS、CTを用いて、次式のように保存度Cを
計算する。
【0138】
【数26】

【0139】
C(4)(…)は関数であり、例えば、
【0140】
【数27】

【0141】
のように表される。
【0142】
図14(b)は、保存度計算処理を表す別の一実施例である。図14(a)の実施例では関数CL(…)、CO(…)、CS(…)、CT(…)を並列的に用いているのに対し、図14(b)の実施例で
は図11(b)の実施例と同様に関数CL(…)、CO(…)、CS(…)、CT(…)を直列的に用いてい
る。まず、ブロック1411により、同一の解像度レベルj、エッジ方向oおよび位置(m,n
)における異なるフレームの分解係数wj,o(t-t'+1)[m,n],wj,o(t-t'+2)[m,n],...,wj,o(t)
[m,n]の関数として、(数24)のような計算方法により値CTを計算する。
【0143】
次に、ブロック1412により、(数15)で用いたような関数CS(…)を用いて、同一
の解像度レベルjおよびエッジ方向oにおける異なる位置の値CTj,o[m(1),n(2)],...,CTj,o[m(S),n(S)]から、次式のような値CSTを計算する。
【0144】
【数28】

【0145】
以下、同様に、ブロック1413、1414により、(数11)、(数13)で用いたよ
うな関数CL(…)、CO(…)を用いて次式のような計算を行うことにより、保存度Cを計算す
る。
【0146】
【数29】

【0147】
尚、図14(b)の実施例では、分解係数wに対して関数をCT(…)、CS(…)、CO(…)、CL(
…)の順序で施しているが、この順序に限定されない。更に、別の図示しない実施例とし
て、図11(c)の実施例のような処理として、直列的な処理と並列な処理を組み合わせた
ような処理としても良い。
【0148】
次に、再構成処理について図15を用いて説明する。
図15(a),(b),(c)は、それぞれ、Wavelet変換、複素Wavelet変換、 Steerable Pyrami
d変換をベースとした多重解像度分解方式に対応する再構成処理フローの一実施例を表す
。それぞれ、図3(a),(b),(c)の処理フローに対応する。図15における分解係数s,wは振幅補正後の分解係数を表している。
【0149】
まず、図15(a)のWavelet変換の場合における再構成処理フローを表す一実施例図について説明する。本実施例では、図3(a)で説明した多重解像度分解のステップとは逆の手
順により再構成を行う。すなわち、まず解像度レベルJ-1(本実施例ではJ=3)の高周波分解係数wJ-1,B、wJ-1,Dに対して、それぞれ、直線m=nに平行なエッジを通過して直線m=-n
に平行なエッジを遮断するフィルタ1501と、逆に直線m=nに平行なエッジを遮断して
直線m=-nに平行なエッジを通過するフィルタ1502を適用し、続いてブロック1503により、前記フィルタ処理で得られた出力の和wJ-1,diagを計算する。
【0150】
次に、分解係数sJ-1、wJ-1,C、wJ-1,A、wJ-1,diagに対して、縦方向の1次元ローパスフ
ィルタ1504および縦方向の1次元ハイパスフィルタ1505を適用した後、各フィル
タの出力に対してブロック1506、1507により和を計算する。続いて、横方向1次
元ローパスフィルタ1508およびハイパスフィルタ1509を適用し、次にブロック1510によりそれらの和を計算することにより、解像度レベルJ-2の低周波分解係数sJ-2
を求める。
【0151】
多重解像度分解の場合と同様に、これらのフィルタの係数は実数であり、横方向のフィルタと縦方向のフィルタを適用する順序は逆でも良いい。また、図3(a)で説明した多重
解像度分解処理において、フィルタ処理の直後に間引き処理を施した場合には、本実施例において対応するフィルタ処理の直前に1画素おきに明度値ゼロである画素を挿入する挿入処理(以下、インタポレーション処理)を施す。以下、上記と同様の処理を再帰的に行うことによって、解像度レベルjの分解係数から解像度レベルj-1の低周波分解係数sj-1
求める。最後に、解像度レベル1の分解係数から上記と同様の処理を施すことによって画
質改善処理画像yを求める。
【0152】
次に、図15(b)の複素Wavelet変換の場合における再構成処理フローを表す一実施例図について説明する。
【0153】
図3(b)で説明した多重解像度分解のステップとは逆の手順により、まず解像度レベルJ-1(本実施例ではJ=3)の高周波分解係数wJ-1,A、wJ-1,B、wJ-1,C、wJ-1,D、wJ-1,E、wJ
-1,Fに対してΣΔブロック1521により入力信号の和と差を計算する処理を施す。次に
、ΣΔブロック1521の出力信号および解像度レベルJ-1の低周波分解係数sJ-1,A、sJ-
1,Bに対して縦方向の1次元ローパスフィルタ1522、1523および縦方向の1次元ハ
イパスフィルタ1524、1525を適用した後、ブロック1526、1527、1528、1529により和を計算する。続いて横方向1次元ローパスフィルタ1530、15
31およびハイパスフィルタ1532、1533を適用した後、ブロック1534、1535により和を計算することにより、解像度レベルJ-2の低周波分解係数sJ-2,A、sJ-2,B
を求める。
【0154】
実施例図では、各フィルタ処理に対してそれぞれ2種類の異なるフィルタを用いている
が、これに限定されない。これらのフィルタの係数は複素数である。横方向のフィルタと縦方向のフィルタを適用する順序は逆でも良い。
【0155】
また、図3(b)で説明した多重解像度分解処理において、フィルタ処理の直後に間引き
処理を施した場合には、本実施例において対応するフィルタ処理の直前にインタポレーション処理を施す。以下、上記と同様の処理を再帰的に行うことによって、解像度レベルjの分解係数から解像度レベルj-1の低周波分解係数sj-1,A、sj-1,Bを求める。最後に、解
像度レベル1の分解係数から上記と同様の処理を施すことによって画質改善処理画像yを求める。
【0156】
次に、図15(c)のSteerable Pyramid変換の場合における再構成処理フローを表す一実施例図について説明する。図3(c)で説明した多重解像度分解のステップとは逆の手順に
より、まず解像度レベルJ-1(本実施例ではJ=3)の分解係数wJ-1,A、wJ-1,B、wJ-1,C、…
に対して縦・横方向いずれかが高周波でかつ特定のエッジ方向の成分のみを通過するフィルタ1541、1542、1543、…を適用する。また、分解係数sJ-1に対して縦・横
方向共に低周波である成分のみを通過する2次元ローパスフィルタ1544を適用する。
次に、フィルタ1541、1542、1543、1544の出力に対し、ブロック1545により和を計算することにより、sJ-2を求める。
【0157】
図3(c)で説明した多重解像度分解処理において、2次元ローパスフィルタ処理の直後に間引き処理を施した場合には、本実施例において対応する2次元ローパスフィルタ処理の
直前にインタポレーション処理を施す。以下、上記と同様の処理を再帰的に行うことによって、解像度レベルjの分解係数から解像度レベルj-1の低周波分解係数sj-1を求める。最
後に、s1に対して2次元ローパスフィルタ1546を適用することにより得られた信号と
、w1に対して縦・横方向共に低周波である成分のみを遮断する2次元ハイパスフィルタ1
545を適用することにより得られた信号に対して、ブロック1547により和を計算することにより、画質改善処理画像yを求める。
【0158】
次に、画像撮像情報に応じて処理パラメータの変更が可能な画質改善処理について、図16乃至図17を用いて説明する。
【0159】
図16は、本発明における画質改善処理のフローを示す一実施例図である。まず、処理パラメータ決定処理1601により、画像撮像情報である撮像条件・画像の種類・撮像対象に基づいて処理パラメータを決定する。画像撮像情報毎の処理パラメータは予めテーブル化されている。さらに、テーブルから得られた処理パラメータに基づき、ユーザにより値を調整できる機能を備えることもできる。次に、決定された処理パラメータを用いて、多重解像度分解処理101、ノイズ量推定処理102、補正ノイズ量算出処理103、強度変換処理104、再構成処理105を行う。ただし、各処理の内部では、異なる処理を行う複数のアルゴリズムを用意しておき、処理パラメータによって切り替えるような構成とすることもできる。
【0160】
図17は、図16の処理パラメータ決定処理1601において使用する、画像撮像情報毎の処理パラメータを記載したテーブルを表す一実施例である。テーブル1701内の値は予め固定されていても良いし、ユーザにより変更できる機能が付いていても良い。テーブル1701の各行は、各画像撮像情報において使用する処理パラメータを表している。
【0161】
画像撮像情報には、列1702の撮像条件、列1703の撮像画像の種類、列1704の撮像対象が含まれる。撮像条件は、具体的には、超音波プローブの種類、表示倍率、超音波送受信信号の使用周波数帯域、空間コンパウンド法の適用有無、周波数コンパウンド法の適用有無、超音波送信信号の走査ピッチなどが挙げられる。処理パラメータには、列1705に示す多重解像度分解処理に関するパラメータや、列1706のノイズ量推定処理、補正ノイズ量算出処理、係数強度変換処理、再構成処理などの処理に関するパラメータが挙げられる。
【0162】
テーブルは、各画像撮像情報に対する処理パラメータが一意に決まるような形式とする
。本一実施例では、テーブル内の画像撮像情報に一致する行のうち、最上行に記載された処理パラメータが適用される。
【符号の説明】
【0163】
101…多重解像度分解処理 102…ノイズ量推定処理 103…補正ノイズ量算出処理 104…強度変換処理 105…再構成処理 201…超音波診断装置
202…駆動回路 203…超音波プローブ 204…受信回路 205…画像生成部 206…画質改善処理部 207…多重解像度分解部 208…ノイズ量推定部 209…ノイズ量補正部 210…強度変換部 211…再構成部 212…スキャンコンバータ 213…表示部 221…入力部 222…制御部
223…記憶部 224…処理部 701…分解係数の振幅変換処理 711…保存度計算処理 712…保存度に基づく分解係数補正処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波診断装置の超音波プローブで受信した超音波から画像を生成し、該生成した画像の画質を改善し、該画質を改善した画像を表示する方法であって、
前記生成した画像の画質を改善する工程において、
前記生成した画像に対して多重解像度分解により位置毎かつ解像度レベル毎かつエッジ方向毎の分解係数を求め、
該求めた分解係数に基づいてノイズ量を推定し、
該推定したノイズ量に対する信頼度に基づいて該推定したノイズ量を補正し、
該補正したノイズ量の情報を用いて該求めた分解係数の各々に対して強度変換を行い、
該強度変換を行った各分解係数に対して再構成処理を行って画像を再構成する、
ことを特徴とする超音波診断装置の画質改善方法。
【請求項2】
超音波診断装置の超音波プローブで受信した超音波から画像を生成し、該生成した画像の画質を改善し、該画質を改善した画像を表示する方法であって、
前記生成した画像の画質を改善する工程において、
前記生成した画像に対して多重解像度分解により位置毎かつ解像度レベル毎かつエッジ方向毎の分解係数を求め、
該求めた分解係数に基づいてノイズ量を推定し、
該求めた分解係数の各々に対して、該推定したノイズ量の情報と、少なくとも二つ以上の分解係数の情報を用いて強度変換を行い、
該強度変換を行った各分解係数に対して再構成処理を行って画像を再構成する、
ことを特徴とする超音波診断装置の画質改善方法。
【請求項3】
前記係数強度変換ステップは、それぞれの分解係数に対して、前記分解係数の近傍に位置する複数の分解係数の重み付け加算処理を行った値を用いて強度変換を行うことを特徴とする請求項1乃至2記載の画質改善方法。
【請求項4】
前記係数強度変換ステップは、それぞれの分解係数に対して、前記推定したノイズ量と、前記分解係数の解像度レベルより高い解像度レベルの分解係数を含む少なくとも二つ以上の分解係数に基づいて強度変換を行うことを特徴とする請求項1乃至3記載の画質改善方法。
【請求項5】
前記係数強度変換ステップは、それぞれの分解係数に対して、係数強度変換の対象とする前記撮像画像とは異なる時間に取得された撮像画像に対する同一位置かつ同一解像度レベルかつ同一エッジ方向の分解係数の値を用いて強度変換を行うことを特徴とする請求項1乃至4記載の画質改善方法。
【請求項6】
前記分解係数を求める工程において、一つ以上の解像度レベルにおいてエッジ方向の分割数が4以上である多重解像度分解方法を用いることを特徴とする請求項1乃至5記載の超音波診断装置の画質改善方法。
【請求項7】
前記分解係数を求める工程において、Curvelet変換、Contourlet変換、複素Wavelet変
換、Steerable Pyramid変換、エッジ方向の分割数が4以上であるWavelet変換のいずれか
を用いて前記生成した画像に対して多重解像度分解を行なうことを特徴とする請求項6記載の画質改善方法。
【請求項8】
前記画質改善方法は、超音波プローブの種類、表示倍率、超音波送受信信号の使用周波数帯域、空間コンパウンド法の適用有無、周波数コンパウンド法の適用有無、超音波送信信号の走査ピッチ、表示画像の種類、撮像対象のうち少なくとも一つに応じて、多重解像度分解ステップ、ノイズ量推定ステップ、補正ノイズ量算出ステップ、係数強度変換ステップ、再構成ステップのうち少なくとも一つに関する処理パラメータを変化することを特徴とする請求項1乃至7記載の画質改善方法。
【請求項9】
被検体に超音波を放射して該被検体からの反射波を受信する超音波プローブと、該超音波プローブで受信した反射波から画像を生成する画像生成手段と、該画像生成手段で生成した画像の画質を改善する画質改善手段と、該画質改善手段で画質を改善した画像を表示する表示手段とを備えた超音波診断装置であって、
前記画質改善手段は、
前記受信した反射波から生成した画像に対して多重解像度分解により位置毎かつ解像度レベル毎かつエッジ方向毎の分解係数を求める多重解像度分解部と、
前記多重解像度分解部で求めた分解係数に基づいてノイズ量を推定するノイズ量推定部と、
該推定したノイズ量に対する信頼度に基づいて該推定したノイズ量を補正する補正ノイズ量算出部と、
該補正したノイズ量の情報を用いて該求めた分解係数の各々に対して強度変換を行う強度変換部と、
該強度変換部で強度変換を行った各分解係数に対して再構成処理を行って画像を再構成する画像再構成部と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
被検体に超音波を放射して該被検体からの反射波を受信する超音波プローブと、該超音波プローブで受信した反射波から画像を生成する画像生成手段と、該画像生成手段で生成した画像の画質を改善する画質改善手段と、該画質改善手段で画質を改善した画像を表示する表示手段とを備えた超音波診断装置であって、
前記画質改善手段は、
前記受信した反射波から生成した画像に対して多重解像度分解により位置毎かつ解像度レベル毎かつエッジ方向毎の分解係数を求める多重解像度分解部と、
前記多重解像度分解部で求めた分解係数に基づいてノイズ量を推定するノイズ量推定部と、
該求めた分解係数の各々に対して、該推定したノイズ量の情報と、少なくとも二つ以上の分解係数の情報を用いて強度変換を行う強度変換部と、
該強度変換部で強度変換を行った各分解係数に対して再構成処理を行って画像を再構成する画像再構成部と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項11】
前記強度変換部は、それぞれの分解係数に対して、前記分解係数の近傍に位置する複数の分解係数の重み付け加算処理を行った値を用いて強度変換を行うことを特徴とする請求項9乃至10記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記強度変換部は、それぞれの分解係数に対して、前記推定したノイズ量と、前記分解係数の解像度レベルより高い解像度レベルの分解係数を含む少なくとも二つ以上の分解係数に基づいて強度変換を行うことを特徴とする請求項9乃至11記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記強度変換部は、それぞれの分解係数に対して、係数強度変換の対象とする前記撮像画像とは異なる時間に取得された撮像画像に対する同一位置かつ同一解像度レベルかつ同一エッジ方向の分解係数の値を用いて強度変換を行うことを特徴とする請求項9乃至12記載の超音波診断装置。
【請求項14】
前記画質改善手段の多重解像度分解部は、一つ以上の解像度レベルにおいてエッジ方向の分割数が4以上である多重解像度分解方法を用いて位置毎かつ解像度レベル毎かつエッジ方向毎の分解係数を求めることを特徴とする請求項9乃至13記載の超音波診断装置。
【請求項15】
前記画質改善手段の多重解像度分解部は、Curvelet変換、Contourlet変換、複素Wavele
t変換、Steerable Pyramid変換、エッジ方向の分割数が4以上であるWavelet変換のいずれかを用いて前記受信した反射波から生成した画像に対して多重解像度分解を行なうことを特徴とする請求項14記載の超音波診断装置。
【請求項16】
前記超音波診断装置は、超音波プローブの種類、表示倍率、超音波送受信信号の使用周波数帯域、空間コンパウンド法の適用有無、周波数コンパウンド法の適用有無、超音波送信信号の走査ピッチ、表示画像の種類、撮像対象のうち少なくとも一つに応じて、多重解像度分解ステップ、ノイズ量推定ステップ、補正ノイズ量算出ステップ、係数強度変換ステップ、再構成ステップのうち少なくとも一つに関する1個以上の処理パラメータを変化す
ることを特徴とする請求項9乃至15記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−251136(P2011−251136A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157630(P2011−157630)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【分割の表示】特願2007−124519(P2007−124519)の分割
【原出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】