説明

超音波診断装置の送信回路用トランス

【課題】1次側と2次側間の結合の高い超音波診断装置の送信パルス発生用トランスを実現する。
【解決手段】基板上に構成したトランスの1次巻線のパターンA−A’、および2次巻線のパターンB−B’を単純な円弧ではなくジグザグにすることで、同じ巻線数でも配線長を長くすることができる。これによりトランスの1次側と2次側の結合を高めることができ、駆動能力の高い優れた超音波診断装置の送信パルス発生回路を実現することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動子により送受信を行ない体内の情報を得るための超音波診断装置の特に振動子を駆動する回路に用いるトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
振動子を用いて体内に超音波の送受信を行うことで、体内の情報を得る超音波診断装置の原理はすでに公知のものとなっている。
【0003】
一般に超音波の送信においては、距離分解能を得るためにパルス状の駆動波形を用いる。送信パルス発生回路の例を図9(a)に示す。
【0004】
トランス1の1次側の一端は+BVの電位に設定してあり、他端にスイッチ2が接続されている。スイッチ2の他端は接地させており、スイッチ2がONするとトランス1の1次側には上から下方向に電流が流れ、磁束が発生する。
【0005】
トランス1の2次側には振動子3が接続されており、2次側に起こった誘導起電力で振動子3の端子に電圧がかかる。スイッチ2のON時間を短くすれば、振動子3はパルス状の波形で駆動することができる。パルス発生タイミングの説明図を図7(b)に示す。一般にスイッチ2のON時間tは数十nsecから数百nsecであり、繰り返し周期Tは10のマイナス4乗秒のオーダである。振動子を駆動する電圧は一般に数十ボルトから百数十ボルトであるため、トランスは2次側の巻線数が多くなる。
【0006】
送信回路の別の従来例を図8に示す。
【0007】
図8(a)はバイポーラの送信パルスを発生するための送信回路の例である。図8(a)では、トランス1次側の巻線に中間タップが設けられ、電圧BVに設定されている。1次側巻線の1つの端子にはスイッチ2Aと2Bが接続され、スイッチ2A,2Bの他端はグランドに接続されている。
【0008】
動作タイミングを図8(b)に示す。SW−AとSW−Bが順次ONすることにより振動子5にはバイポーラパルスが加えられる。
【0009】
ところで、一般にトランス1はフェライトなどを材料とするコア部材に絶縁体のボビンが付加され、ボビンに線材が巻きつけてある。しかし、巻線などの製造コストを低減するためにシートトランスが考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
図9をもとにシートトランスについて説明する。図9においてプリント基板113上にススパイラルコイル112によりコイルパターンが形成されている。コア部材は磁心111であり、E型のコアを2つ用いてプリント基板113の中央穴113aおよびプリント基板端部を利用してプリント基板113を挟む構成になっている。
【0011】
ところで、特許文献1によるシートトランスにおいては、コア材を用いてトランスを形成していた。しかし、コア材を用いることにより、コア材のコスト、コア材と基板を組み合わせる製造コストなどがあり、できればコア材なしでトランスを形成できると好都合である。
【0012】
コア材なしで形成した図7のトランスは図10のように、また図8のトランスは図11
のようになる。
【特許文献1】特開平8−316040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら従来例の積層シートトランスを超音波診断装置の送信パルス発生回路で用いる場合に次のような問題があった。
【0014】
振動子の電気的な入力インピーダンスダンスは数十オームと低く、たとえばトランスの昇圧比を3倍程度とすると1次側から見たインピーダンスは数Ωと非常に小さなものになってしまう。
【0015】
低インピーダンスの系においてトランスを用いて信号伝達を行なう場合、トランス自体の1次側−2次側の結合が高くなければならない。
【0016】
しかしながら従来の方法でコア材なしでトランスを形成すると高い結合が望めなかった。
【0017】
本発明はこれらの問題を解決し、1次側−2次側間の結合の高いトランスを実現し、安価で優れた超音波診断装置用の送信パルス発生回路を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の超音波診断装置の送信回路用トランスは、1次−2次巻線間の結合を高めるために巻き線数に比して線長を増加させることで、1次側−2次側の結合を高くするものである。
【0019】
本発明の超音波診断装置の送信回路用トランスは、1次−2次巻線をジグザグさせることで、巻線数に対する線長を長くすることで、1次側−2次側の結合を高くすることができる。
【0020】
さらに、1次−2次巻線を蛇行させることで、巻線数に対する線長を長くすることで、1次側−2次側の結合を高くすることができる。
【0021】
さらに、多層プリント基板の複数のレイヤを用い、1次もしくは2次巻線のどちらかを中間層に配置し、他方の巻線を表層と裏層をバイヤホールによりいききすることで線長を長くでき、1次側−2次側の結合を高くすることができる。
【0022】
さらに、表層と裏層をバイヤホールによりいききするパターンを互い違いに組み合わせることで線長を長くし1次側−2次側の結合を高くした状態で複数巻きを可能にすることができる。
【0023】
さらに、表層と裏層をバイヤホールによりいききするパターンを2系統配線することで、1次側巻線が2系統ありバイポーラ送信回路に用いることのできるトランスを実現可能にすることができる。
【0024】
さらに、多層プリント基板の2層を用い、1次側巻線、2次側巻線の双方をプリント基板の表層と裏層の2つの層をバイアホールにより行き来するようにし、線長を長くし、結合を高めた状態を2層で実現できる。
【0025】
さらに、請求項6の発明において、1次側、2次側の両方の巻線をジグザグに配置することで、線長をより長くし、より結合を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上記実施の形態より明らかなように、基板上に形成されたトランスにおいて、パターンの配線長を巻線数に比較して多くし、1次側−2次側の結合を高めることができ、駆動能力の優れた超音波診断装置の送信パルス発生回路を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施について、図1〜6を用いて説明する。
【0028】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態における基板上に構成したトランスのパターンを示した説明図である。図1においては、1次巻線がA−A’、2次巻線がB−B’である。従来例では、パターンが図7のように単純な円弧を描くことに対し、本実施の形態ではパターンをジグザグにすることで、同じ巻線数でも配線長が長くなるようになっている。
【0029】
これにより1次側−2次側の結合を高めることができ、駆動能力の高いトランスを実現できる。
【0030】
(実施の形態2)
図2は本発明の第2の実施の形態における基板上に構成されたトランスのパターンを示した説明図である。本実施の形態では、中間層に1次側巻線A−A’が、表層および裏層に2次巻線B−B’が配線されている。
【0031】
1次巻線A−A’は単純な円弧を描いているが、2次巻線B−B’は表層部分(実線)と裏層部分(点線)をバイアホール(図の小円)によりつなぎ合わせ、1次巻線A−A’をらせん状に取り囲んでいる。本実施の形態では2次側に螺旋構造を用いたが、1次側を螺旋にしてもよい。
【0032】
図3は、2次側の巻線数が多くなった場合(この場合2巻)のパターンの例である。1巻めと2巻めがショートしないように表層、裏層を組み合わせてパターンを形成する。この方法で巻数を順次増やしていくことが可能である。
【0033】
図4は1次側の巻線が従来例図8の送信回路のように2系統必要な場合のパターン形成例である。この場合も系統1と系統2の巻線がショートしないように表層、裏層を組み合わせてパターンを形成する。
【0034】
これにより1次側−2次側の結合を高めることができ、駆動能力の高いトランスを実現できる。
【0035】
(実施の形態3)
図5は本発明の第3の実施の形態における基板上に構成されたトランスのパターンを示した説明図である。本実施の形態では、2次側巻線B−B’が表層、裏層をバイアホールで接続してたパターンで構成されるとともに、1次側巻線A−A’も表層、裏層をバイアホールで接続して構成される。このことにより、中間層は必要なくなり、少ないレイヤーにより、トランスを形成できる。
【0036】
本実施の形態においても、実施の形態2と同様に1次側巻線を2系統設けたり、巻数を複数にすることが可能である。
【0037】
(実施の形態4)
図6は本発明の第4の実施の形態における基板上に形成されたトランスのパターンを示した説明図である。本実施の形態では、1次側巻線A−A’,2次側巻線B−B’ともにジグザグのパターンで構成されている。双方は表層(実線部)、裏層(点線部)をバイアホール(小円)で接続した構成になっており、本実施の形態においても中間層が必要ないため、少ないレイヤーでトランスを形成できる。
【0038】
本実施の形態においても、実施の形態2と同様に1次側巻線を2系統設けたり、巻数を複数にすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明にかかる超音波診断装置は基板上に形成されたトランスにおいて、パターンの配線長を巻線数に比較して多くし、1次側−2次側の結合を高めることができ、駆動能力の優れた超音波診断装置の送信パルス発生回路を実現することが可能になるので、超音波診断装置の特に振動子を駆動する回路に用いるトランス等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施の形態における基板上に形成されたトランスのパターンを示す説明図
【図2】本発明の第2の実施の形態における基板上に形成されたトランスのパターンを示す説明図
【図3】本発明の第2の実施の形態における基板上に形成されたトランスの第2のパターンを示す説明図
【図4】本発明の第2の実施の形態における基板上に形成されたトランスの第3のパターンを示す説明図
【図5】本発明の第3の実施の形態における基板上に形成されたトランスのパターンを示す説明図
【図6】本発明の第4の実施の形態における基板上に形成されたトランスのパターンを示す説明図
【図7】本発明の第1の従来例における送信回路を示す説明図
【図8】本発明の第3の従来例におけるトランスを示す説明図
【図9】本発明の第2の従来例における送信回路を示す説明図
【図10】本発明の第1の従来例における基板上に形成されたトランスのパターンを示す説明図
【図11】本発明の第2の従来例における基板上に形成されたトランスのパターンを示す説明図
【符号の説明】
【0041】
1、1B トランス
2、2A、2B スイッチ
3 振動子
111 磁心
112 スパイラルコイル
113 プリント基板
113a 中心穴
114 テープ
115 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線もしくは2次巻線、あるいはその両方パターンをジグザグにすることを特徴とする超音波診断装置の送信回路用トランス。
【請求項2】
1次巻線もしくは2次巻線、あるいはその両方パターンを蛇行させることを特徴とする超音波診断装置の送信回路用トランス。
【請求項3】
多層プリント基板の複数のレイヤを用い、1次もしくは2次巻線のどちらかを中間層に配置し、他方の巻線を表層と裏層をいききすることを特徴とする超音波診断装置の送信回路用トランス。
【請求項4】
表層と裏層をバイヤホールによりいききするパターンを互い違いに組み合わせることを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置の送信回路用トランス。
【請求項5】
表層と裏層をバイヤホールによりいききするパターンを2系統配線することで、1次側巻線が2系統ありバイポーラ送信回路に用いることのできることを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置の送信回路用トランス。
【請求項6】
多層プリント基板の2層を用い、1次側巻線、2次側巻線の双方をプリント基板の表層と裏層の2つの層をバイアホールにより行き来することを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置の送信回路用トランス。
【請求項7】
1次巻線、2次巻線の両方をジグザグのパターンにしたことを特徴とする請求項6に記載の超音波診断装置の送信回路用トランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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