説明

超音波診断装置

【課題】 計測結果の確認を容易にし、より良い診断結果を得るようにする。
【解決手段】 被検者の超音波画像を生成するとともに、生成した超音波画像から被検者の複数項目の医療情報を、計測メニュー画面に沿って計測する超音波診断装置において、計測した医療情報の結果をレポートとしてタッチコマンドスクリーン10aに表示し、このレポートには、医療情報のうち、正常範囲と定義した値から外れた医療情報のみを選択的に表示するようにした。
このように、計測結果を評価するためのレポートとして、特に着目する必要のある正常範囲の定義を外れた計測結果のみを表示するようにしたので、シンプルにポイントを絞った計測データをユーザーへ提供でき、計測結果の確認が容易となり、ユーザーの負担を軽減してより良い診断結果を得ることに寄与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測機能および計測結果をレポートとして表示するレポート表示機能を備えた超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、モニタに表示される生体の軟部組織の断層像(Bモード)を観察したり、その1ラインの組織像を時間軸に沿って平行に配列することにより当該組織の経時的な形態変化(Mモード)を詳細に観察したりすることができる。そして、その活用範囲は広く、心臓、腹部、乳腺、泌尿器、産科、婦人科などの領域に及んでいる。
【0003】
また、このような超音波診断装置の多くは、Bモード像から距離、面積、容積などの構造的な寸法を計測したり、Mモード像から時間的な変化量を計測したり、さらにドプラモードにより心拍出量を計測したりすることによって、被検者の複数項目の医療情報を収集することが可能である。このような医療情報を収集するための計測用アプリケーションプログラムは各種提供されており、計測メニュー画面に沿って計測することが可能になっている。
【0004】
このような計測機能は、最近では診断領域に応じて専用化が進み計測項目は膨大な数になっており、例えば産科領域(OB:Obstertics)では、次のような計測項目がある。
【0005】
AA: 腹部断面積 AC: 躯幹周囲長 APAD: 腹部前後径
AFI: 羊水インテ゛ックス APTD: 躯幹前後径
BPD: 児頭大横径
CER: 小脳 Cervix Len: 子宮脛管長
Cist.magna: 小脳延髄槽 Clavicle: 鎖骨長 CRL:胎児頭腎長
EFW: 推定体重
Fetal Ao: 胎児大動脈 FHR: 胎児心拍 FTA: 躯幹横断面積
FL: 大腿骨長 Fibula: 腓骨 Foot: 児足長
GS: 胎嚢径
HA: 児頭断面積 HC: 児頭周囲長 Humerus: 上腕骨
Kidney: 腎臓長 Lt Uterin: 左子宮動脈
MCA: 中大脳動脈 NT: 胎児項部透明化
Ocular D: 眼の直径 OFD: 児頭前後径 OOD: 両眼外径
Radius: 橈骨 Rt Uterin: 右子宮動脈
TAD: 腹部横径 TC: 胸郭周囲長 THD: 胸郭径
Tibia: 脛骨 TTD: 躯幹横径
Ulna: 尺骨 Umb A: 臍帯動脈 Umb VD: 臍帯静脈径
Yolk Sac: 卵黄嚢
ところで、この種超音波診断装置に対して操作性の向上が常に求められており、その一環として、操作卓上の表示器であるTCS(Touch Command Screen)に計測項目を計測メニューとして表示し、ユーザーが所望の項目を指先でタッチすることによりその項目の計測を実行し、被検者の医療情報を収集するようにした機能を一般的に備えている。なお、計測メニューを表示する際に、計測可能な計測項目を全て列挙するタイプと、検査内容に応じて必要な計測項目を分割して表示するタイプとがあり、後者では、例えば胎児発育計測メニューについて見ると、妊娠初期メニュー、妊娠中後期メニュー、ドプラメニュー、通常計測しないメニューなどに分割される。
【0006】
参考までにTCSに表示される従来の計測メニューの一例として、妊娠初期メニューを図7に示す。なお図7において、100はメニュー選択部、200は計測項目部、300は制御選択部、400は胎児切替部であり、例えば四つ児までそれぞれの計測が可能となっている。また、現在選択されている項目は、着色表示等がなされることになる。
【0007】
さらに操作性向上への対応として、ユーザー(医師や検査技師など)が被検者のIDを入力することにより、TCSに当該被検者に適した計測メニューを選択的に表示し、数ある計測項目の内、必要な計測項目のみを表示するとともに、不必要な計測項目は非表示とすることによって、計測機能の選択を効率よく行うようにしたものも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−299749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、計測メニューに沿って必要な計測を実施し、被検者の医療情報を得た場合、その結果は、所定フォーマットのレポートとして、操作卓上のTCSに表示されることになる。この場合、多くの項目について計測を行うと、レポートはTCSの1画面に収まりきれなくなり、複数ページに渡ってしまうことがあった。従って、医師や検査技師などのユーザーは、複数ページのレポートを切替えて表示しながら計測結果であるデータを確認しなければならず、計測結果の確認に手間と時間がかかるという問題があった。
【0009】
また、適切な診断結果を得るための計測項目については、医師などのユーザーの知識と経験に頼るところが大きく、計測項目が多いときには計測漏れに気が付かずに計測を終了させてしまうおそれもあった。
【0010】
本発明は、このような問題を解決することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、超音波の送受波に基づき被検者の超音波画像を生成するとともに、生成した超音波画像から被検者の複数項目の医療情報を、計測メニュー画面に沿って計測する超音波診断装置において、この計測した医療情報の結果をレポートとして表示するレポート表示手段を備え、レポート表示手段は、前記医療情報のうち、正常範囲と定義した値から外れた医療情報のみを選択的に表示することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波診断装置において、前記レポート表示手段は、正常範囲と定義した値から外れた医療情報に加えて、診断上併せて評価すべき他に計測した医療情報を表示することを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の超音波診断装置において、前記レポート表示手段によって表示された医療情報項目を選択することによって、診断上併せて評価すべき医療情報のうち、計測済みの医療情報項目と未計測の他の医療情報項目を、前記計測メニュー画面に識別可能に表示するようにしたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、前記レポート表示手段に表示される前記医療情報の正常範囲の定義および診断上併せて評価すべき他の医療情報項目を、ユーザーが任意に登録できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記課題を解決するための手段の項にも示したとおり、本発明の特許請求の範囲に記載する各請求項の発明によれば、次のような効果を奏する。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、計測結果を評価するためのレポートとして、特に着目する必要のある正常範囲の定義を外れた計測結果のみを表示するようにしたので、シンプルにポイントを絞ったデータを提供することができ、計測結果の確認が容易となり、ユーザーの負担を軽減してより良い診断結果を得ることに寄与できる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、正常範囲と定義した値から外れた医療情報に加えて、診断上併せて評価すべき他に計測した医療情報を表示するので、ユーザーの思考過程への負担を極めて軽減して、より信頼度の高い診断結果を得ることに寄与できる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、計測メニュー画面に、計測済みの医療情報項目と未計測の他の医療情報項目とが容易に識別できるように表示されるので、計測もれを確実に防止することができ、より良い診断結果を得ることができるとともに、再測定などに伴う被検者の負担を防止することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、長い経験などに裏打ちされたユーザーが最適と考える評価データを使用するようにできるので、より良い診断結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る超音波診断装置の一実施例について、図1ないし図6を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る超音波診断装置の一実施例の概略的な構成を説明するために示した系統図である。
【0022】
この超音波診断装置は、被検者との間で超音波を送受波することにより、被検者から音響信号として生体情報を取得するための超音波プローブ1(以下、単にプローブと称する)と、このプローブ1へ駆動信号を与えることにより超音波を送波させるとともに、被検者からのエコー信号を受波する送受信回路2と、送受信回路2で受波された信号に設定された観察条件などに基づいて各種処理を施すDSC(デジタルスキャンコンバータ:Digital scan converter)回路3と、DSC回路3から画像を収集する画像収集回路4と、画像収集回路4で収集された画像を記憶するためのグラフィックメモリ5と、グラフィックメモリ5から画像を取り出して表示可能とするための画像表示回路6と、画像表示回路6とDSC回路3とから得られる画像信号を切替えてモニタ8へ供給する出力信号切替回路7と、これらの各回路やグラフィックメモリを有機的に制御するCPUや各種計測項目、計測メニュー、被検者情報等を記録するメモリなどを有する制御部9と、計測メニューやレポートなどを表示するTCS(タッチコマンドスクリーン:Touch Command Screen)10aを備え、このTCS10aをタッチ操作することによって制御部9との間で指令信号の授受を行うとともに、制御部9に対してユーザーの指令信号を供給するためのテンキー、トラックボール、各種スイッチなどを有する操作卓10を備えている。
【0023】
このように構成された本発明に係る超音波診断装置において、超音波画像の収集に合わせて各種の計測を行う場合には、計測メニューを操作卓10のTCS10aに表示し、その計測メニューに沿って実行することになる。例えば、被検者が妊娠初期の人であれば、図7に示した妊娠初期メニューを表示させ、GS(胎嚢径)、CRL(胎児頭腎長)、BPD(児頭大横径)・・・などの計測を実行する。計測結果は制御部9に保持されている正常範囲データと逐次比較されながら保存され、計測値や正常範囲データとの比較結果はレポートとしてTCS10aに表示される。
【0024】
このような機能は従来のものと同様であるが、本発明の特徴は、通常作成されるレポートとは別に、計測値のうち正常範囲データとの比較により正常範囲の定義外となった計測項目のみを表示するようにし、その項目を選択することによって、診断のために併せて評価すべき計測項目についての計測結果も表示できるようにして、より適切な診断がなされるようにサポートするとともに、正常範囲の定義を外れた計測項目に対しては、診断を下すために併せて計測すべき計測項目を明示して、計測もれの発生を未然に防止しようとするものである。
【0025】
次に、このような機能を持つ本発明に係る超音波診断装置の動作を、図2に示したフローチャートに沿って説明する。
【0026】
先ずステップ1として計測メニューをTCS10aに表示し、それに沿って計測を実行する(ステップ2)。計測が終わればステップ3としてレポート作成機能を起動する。そしてステップ4へ進み、TCS10aのレポート画面に、正常範囲の定義を外れた計測項目のみの結果が表示される。なお、レポートを起動するときに、全ての計測結果を表示する画面をデフォルトとするか、正常範囲の定義を外れた計測項目のみの結果を表示する画面をデフォルトとするかは、プリセット等で選択可能である。
【0027】
さて、図3はステップ4として、正常範囲の定義を外れた計測項目のみの結果を表示したレポート画面を示したものである。ここでは、産科領域での胎児Aについての計測結果の一例として、計測項目のうちBPD(児頭大横径)のみが正常範囲の定義を外れていた場合として、BPD(児頭大横径)の測定値が59.0mmであったこと、定義した正常範囲は40.0〜55.0mmであることを表している。なお、この正常範囲は一義的に定まるものではなく、多数のオーサーによって種々定義されたものがあり、どのオーサーの定義を採用するかはユーザーによって決定され、またユーザーによって独自に定義されたものを登録しておく場合もある。
【0028】
ここでユーザーは、BPD(児頭大横径)が正常範囲を外れているという結果を踏まえて、診断のために併せて評価すべき計測項目について、その計測結果を確認することができる。この場合には、ステップ5としてTCS10aの画面上の「BPD」を指で触れるなどして選択すれば良い。この操作によってステップ6に進んで、TCS10aの画面は図4に示すようなレポート画面に変わる。
【0029】
すなわち、レポート画面には、BPD(児頭大横径)の計測結果に加えて、診断のために併せて評価すべき計測項目として、計測済みのAC(躯幹周囲長)とFL(大腿骨長)の計測値および正常範囲を示すデータがそれぞれ追加して表示される。これによりユーザーは、診断のために併せて評価することの必要な計測項目として、AC(躯幹周囲長)とFL(大腿骨長)が計測済みであり、測定値はいずれも正常範囲内にあることを確認することができる。
【0030】
なおこの場合、計測メニュー画面に戻ってみれば、その画面は図5に示すようになり、図5において100はメニュー選択部、200は計測項目部、300は制御選択部、400は胎児切替部を表している。そして、計測項目部200のうち選択した項目「BPD」は例えば青色に表示され、計測済みの項目「AC」と「FL」は例えば緑色に表示される。その他の未計測の項目には特別の着色がされず通常の表示状態となる。
【0031】
ただし、例えば評価すべき計測項目としてHC(児頭周囲長)も必要であるのにも関わらずもしもこの項目が測定されていなかった場合には、計測メニュー画面の項目「HC」を例えば赤色で表示する(ステップ7)ようにして、ユーザーに対して計測もれの項目がありそれがどの項目であるかをひと目でわかるように警告する。このようにすれば、計測もれの項目がひと目で分かるので、ユーザーは追加の計測を実施する(ステップ8)ことができ、計測もれを確実に防止して一連の計測を終了することができ、より良い診断結果を得ることができる。
【0032】
なお、図6は、ユーザーが独自に検査項目の正常範囲のデータや併せて計測すべき項目を登録する場合の登録画面の一例を示したものである。ここでは、計測項目「BPD」について、妊娠週ごとの正常範囲データの登録欄と、併せて計測すべき項目として「HC」、「AC」、「FL」を登録する場合を示しているが、他の計測項目についても同様にして登録することができる。
【0033】
以上詳述したように本発明によれば、計測結果を評価するためのレポートとして、特に着目する必要のある正常範囲の定義を外れた計測結果のみを表示するようにしたことによって、シンプルにポイントを絞ったデータをユーザへ提供することができる。また、計測値が正常範囲を外れた場合、診断のために併せて計測すべき項目を明示し、その項目が計測済みであるか否かと、計測済みであればその結果を表示するようにしたので、計測もれを防止するとともに、より良い診断結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の、一実施例の概略的な構成を説明するために示した系統図である。
【図2】本発明に係る超音波診断装置の動作の流れを説明するために示したフローチャートである。
【図3】正常範囲の定義を外れた計測項目のみの結果を表示したレポート画面の一例を示した図である。
【図4】診断のために併せて評価すべき計測項目を併記したレポート画面の一例を示した図である。
【図5】計測メニュー画面の一例を示した図である。
【図6】ユーザーが独自に検査項目の正常範囲のデータや併せて計測すべき項目を登録する場合の登録画面の一例を示した図である。
【図7】計測メニュー画面の一例として、妊娠初期メニューを示した図である。
【符号の説明】
【0035】
1 超音波プローブ
2 送受信回路
3 DSC(デジタルスキャンコンバータ)回路
4 画像収集回路
5 グラフィックメモリ
6 画像表示回路
7 出力信号切替回路
8 モニタ
9 制御部
10 操作卓
11a TCS(タッチコマンドスクリーン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受波に基づき被検者の超音波画像を生成するとともに、生成した超音波画像から被検者の複数項目の医療情報を、計測メニュー画面に沿って計測する超音波診断装置において、
この計測した医療情報の結果をレポートとして表示するレポート表示手段を備え、レポート表示手段は、前記医療情報のうち、正常範囲と定義した値から外れた医療情報のみを選択的に表示することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記レポート表示手段は、正常範囲と定義した値から外れた医療情報に加えて、診断上併せて評価すべき他に計測した医療情報を表示することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記レポート表示手段によって表示された医療情報項目を選択することによって、診断上併せて評価すべき医療情報のうち、計測済みの医療情報項目と未計測の他の医療情報項目を、前記計測メニュー画面に識別可能に表示するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記レポート表示手段に表示される前記医療情報の正常範囲の定義および診断上併せて評価すべき他の医療情報項目を、ユーザーが任意に登録できることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−45332(P2009−45332A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215968(P2007−215968)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】