説明

超音波診断装置

【課題】受信信号に含まれる不要信号(サイドローブ等)を効果的に低減する。
【解決手段】重み付け前または後の受信信号の符号データが重み加減算器32に入力される。重み加減算器32は、各受信信号について、当該受信信号の符号データに基づき重み値の加算処理または減算処理を実行し、その結果を評価係数算出部36へ出力する。重み加算器34は複数の重み値を加算し、それを規格化のために評価係数算出部36へ出力する。評価係数算出部36は規格化された重み加減算値に基づいて評価係数を算出する。平滑化後の評価係数が利得として受信信号に乗算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、不要信号(サイドローブ、グレーティングローブ、ノイズ等)を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像の画質を高めるためには、受信ビームフォーマにおいて、サイドローブ(side lobe)、グレーティングローブ(grating lobe)、雑音(ノイズ)などの不要信号(不要成分)を低減することが望まれる。そのような不要成分低減技術が非特許文献1に記載されている。
【0003】
先に一般的な技術について説明すると、受信ビームフォーマでは、フォーカシングのため、複数の信号素子からの複数の受信信号が整相処理(遅延処理)され、その後に、それらが加算される。加算後において、RF信号としてのビームデータが得られる。ビームデータは超音波画像の形成で用いられるものである。フォーカス点からの反射波であれば、遅延処理後の複数の受信信号間では位相(時相)が揃っているため、加算後において振幅の大きいRF信号が得られる。これに対して、フォーカス点以外の所からの反射波の場合、複数の受信信号間で位相が一致していないため、振幅の低いRF信号が観測される。換言すれば不要信号(サイドローブ成分)がより多く観測されることになる。
【0004】
非特許文献1に記載された技術は、上記の位相関係に着目し、不要成分を低減するものである。図1には、非特許文献1の図7に記載された構成が示されている。複数の受信信号は位相を合わせるために複数の遅延器10に入力され、そこで遅延処理される。遅延処理後の複数の受信信号は加算器12において加算される。その出力はRF信号としてのビームデータである。この信号処理の流れとは別に、符号加算器14において、複数の受信信号が有する複数の符号(sign-bit)データが加算される。この例では、符号としては1(正)又は−1(負)しかない。チャンネル数(N個)分の符号データが加算され、この加算値SBがSCFテーブル16に入力され、SCFテーブルから評価係数SCF (Sign Coherence Factor)が出力される。SCFがRF信号(ビームデータ)に乗算され、これにより利得が調整される。SCFは以下のように演算される。Pは所定の指数である。
【0005】
【数1】

【0006】
SCFは0〜1の値をもつものである。全てのチャンネルの位相が揃っていれば(フォーカス点の場合)、SB2=N2となり、SCFは最大値1となる。雑音であれば極性がランダムとなるので、SCFは0に近づく。このように真の成分のSCFに対して不要成分のSCFは相対的に小さくなる。サイドローブ、グレーティングローブと言われる不要成分の場合にもSCFが小さくなる。よって、SCFを受信信号に乗算することにより、利得を調整して、真の成分を保存しつつ不要成分を抑圧することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Camacho,et al, "Phase Coherence Imaging", IEEE trans. UFFC, vol.56, No.5, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、超音波診断装置では、複数の受信信号に対する重み付け処理(アブダイゼーション;apodization)が一般的に実行される。これもサイドローブ等を低減する技術である。非特許文献1の技術によると、この重み付け処理が不要になるとも言える。しかし、非特許文献1の技術は確率的又は統計的に基づく手法であり、一方、重み付け処理は理論的に基づく手法であるから、両手法は異なる性質をもつものである。非特許文献1には、重み付け処理との組み合わせについては記載されていない。非特許文献1に記載された方式(符号加算方式)と重み付け処理とを旨く組み合わせた、あるいは、両者の相乗効果を期待できる構成の実現が期待される。
【0009】
本発明の目的は、従来法よりも不要信号の低減効果を高めることにある。
【0010】
本発明の目的は、複数の不要信号低減法をそれぞれの良さを生かしながら複合化し更に発展させることにより新しい不要信号処理方式を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る超音波診断装置は、受信フォーカス点の深さ方向の移動に伴って変化する重み付け関数に従って、複数の受信信号に対する重み付け処理を実行する重み付け処理部と、前記重み付け処理された複数の受信信号に対する整相加算処理を実行する整相加算処理部と、前記重み付け処理の前又は後の複数の受信信号の状態を表す複数のインデックスデータと、前記複数の受信信号に与えられる複数の重み値と、に基づいて、評価係数を求める評価係数演算部と、前記評価係数に基づいて前記整相加算後の受信信号の利得が変更されるようにする利得可変部と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、複数の受信信号の状態を示す複数のインデックス信号と、複数の重み値とから評価係数が求められ、評価係数に基づいて受信信号の利得が変更される。つまり、複数の受信信号に与えられる複数の重み値が各受信信号の個別的な寄与度、影響度、重要度を表すことから、それを考慮することにより、不要信号を抑圧するための評価係数を適切に求めることができる。望ましくは、前記インデックスデータは、振幅値が正であるか又は負であるかを表す符号データである。もっとも、インデックスデータが受信信号レベルが閾値以上か否かを示す値等であってもよい。重み値が正だけではなく負もとり得る場合には、重み付け処理前の受信信号の符号を参照するのが望ましい。受信フォーカス点は受信ダイナミックフォーカス法に従って動的に変更される。
【0013】
上記構成によれば、インデックスデータの一様性あるいはランダム性を評価する際に、重み値を考慮することができ、つまり、より重要な受信信号についてはそれを評価係数演算でより考慮できるから、個々の不要成分低減法では実現できないような大幅な不要成分低減効果を得ることが可能となる。つまり、2つの不要成分低減法の相乗関係あるいは補間関係を旨く使って超音波画像の画質を高められるのである。条件次第では大幅な画質改善効果を得られることが実験により確認されている。
【0014】
望ましくは、前記評価係数演算部は、前記評価係数を演算するために、受信信号ごとに当該受信信号の符号データに基づいて当該受信信号に与えられる重み値に対して加算処理又は減算処理を適用する。加算処理はそれまでに求められた値に今回の重み値を加える処理であり、減算処理はそれまでに求められた値から今回の重み値を引く処理である。望ましくは、前記評価係数演算部は、前記複数の重み値についての加減算処理により加減算処理結果値を求める手段と、前記複数の重み値についての加算処理により加算処理結果値を求める手段と、前記加算処理結果値を用いて前記加減算処理結果を規格化する手段と、前記規格化後の値から前記評価係数を決定する手段と、を含む。規格化を行えば信号の大小によらない自然な不要成分低減効果を期待できる。加算処理結果値は、望ましくは、各重み値の絶対値を累積加算した値である。
【0015】
望ましくは、前記評価係数演算部は、前記評価係数を演算するために、受信信号ごとに当該受信信号に対する重み値に基づいて当該受信信号の符号データの加算の要否を判定する。望ましくは、前記評価係数演算部は、前記重み値が所定条件を満たすか否かを判定する手段と、前記重み値が所定条件を満たす場合に前記符号データを累積加算する手段と、前記重み値が所定条件を満たす場合に前記符号データの絶対値を累積加算する手段と、前記符号データの絶対値の累積加算結果を用いて前記符号データの累積加算結果を規格化する手段と、前記規格化後の値から前記評価係数を決定する手段と、を含む。
【0016】
望ましくは、前記利得可変部は、前記規格化後の評価係数から利得を決定する非線形の換算関数を用いて利得を決定する。望ましくは、前記重み付け関数は、受信フォーカス点が深くなるに従って受信開口を増大させる関数である。望ましくは、前記利得可変部は、前記評価係数に対して平滑化を行う手段を含み、前記平滑化後の評価係数に基づいて前記整相加算後の受信信号の利得が調整される。平滑化を行えば滑らかな不要成分抑圧作用を期待できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来法よりも不要信号の低減効果を高められる。あるいは、複数の不要信号低減法をそれぞれの良さを生かしながら複合化し更に発展させることにより新しい不要信号処理方式を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の受信部の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る超音波診断装置の受信部の構成を示すブロック図である。
【図3】重み付け関数の深さ方向への変化を示す図である。
【図4】受信部の第2例を示す図である。
【図5】受信部の第3例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図2には、超音波診断装置の受信部の構成が示されている。符号20は受信ダイナミックフォーカスを実行する受信ビームフォーマーを示している。複数の受信信号は複数のA/D変換器22に入力される。これによりアナログ受信信号がデジタル受信信号に変換される。ここで先頭ビットが符号ビットに相当する。デジタル処理後の複数の受信信号は複数の遅延器24に入力され、そこで遅延処理される。遅延処理後の複数の受信信号が複数の乗算器26を経て加算器30において加算される。この加算により整相加算後の受信信号(ビームデータ)がRF信号として出力される。複数の乗算器26は重み付け処理のための回路であり、各乗算器26において重み値が受信信号に乗算される。複数の重み値を決定するのが重み付け関数であり、当該関数は関数発生部28から出力される。
【0021】
図3に示すように、重み付け関数は、受信フォーカス点が深くなればなるほど、受信開口を大きくする関数である。符号42は中心線を示している。符号40はアレイ振動子を表しており、それは複数の振動素子により構成される。符号44〜52は重み付け関数の例を示している。受信フォーカス点が深くなればなるほど、その関数形は広がっている。このような重み付け処理は不要信号の抑圧を行うためのものであるが、それだけでは超音波画像の画質を十分に高めることができない場合があった。
【0022】
図2に戻って、符号100は利得制御部を示している。それは、重み加減算器32、重み加算器34、評価係数算出部36、平滑化回路37、乗算器38を含む。重み加減算器32には、この例では、重み付け処理後の複数の受信信号から取り出された複数の符号データ(インデックスデータ)が入力されている。また、複数の受信信号に与える複数の重み値が入力されている。個々のチャンネル(つまり受信信号)ごとに、符号データが+1であるか、−1であるかが判別され、+1であれば重み値の加算処理が実行され、−1であれば重み値の減算処理が実行される。従来においては、+1又は−1の加算が行われていたわけであるが、本実施形態によれば、重み値を利用して符号の正負を積極的に利用することができるのである。あるいは、より重要な受信信号についてはより考慮することが可能となる。仮に、複数の受信信号間において位相に一様性が認められる場合、加減算の結果として正又は負の大きな値が得られる。逆に、複数の受信信号間において位相に多様性が認められる場合、加減算の結果として正又は負の小さな値が得られる。重み関数によって加減算の結果が相違することになるので、加減算の結果を重み値の総和で除するのが望ましく、つまり規格化処理を施すのが望ましい。重み値の総和は重み加算器34において演算され、規格化演算は評価係数算出部36において実行されている。この評価係数算出部36は具体的には以下の演算を行うものである。なお、Aは重み加減算器32の出力である加減算値を示している。
【0023】
【数2】

【0024】
ここで、Nはチャンネル数を示しており、bは各チャンネル受信信号の符号データ(+1又は−1)を示しており、aは各チャンネルにおける重み値を示している。加減算値Aは規格化によって0 〜1の値をもつ。それから評価係数Sを求めるには、以下のような非線形関数(あるいは単調増加関数)を用いればよい。Sも0 〜1の間の値をもつ。
【0025】
【数3】

【0026】
ここで、nはn≧0であり、Aに対するSの変化度合いを調整するものである。また、式(4)のhは0〜1の間で設定でき、Sに対してベース値又はオフセット値を与えるものである。なお、n=0又はh=1にすれば、S=1となり、不要成分を低減しない従来法の状態になる。すなわち、nとhの値の可変により、不要成分の低減度や形成画像の質感を調整できる。
【0027】
図2において、評価係数算出部36は、(1)式を実行して評価係数Sを算出する。但し、図2の構成では画質改善が滑らかに行われるように評価係数Sを平滑化する平滑化回路37が設けられている。すなわち、評価係数Sを深さ方向(時間)に平滑化し、それが整相加算されたRF信号に乗算される。この平滑化は、FIR型又はIIR型のローパスフィルタによって構成することができ、Sの統計的変動を緩和できる。
【0028】
なお、重み付け関数は、通常、ガウスやハニングなどの窓関数をベースとして生成されるものである。深さに依存して窓幅(開口長)と窓関数が変化するが、そのような変化が受信ビーム毎に変わらなければ、(1)式中の右辺の分母をテーブル化することができる。
【0029】
上記構成は、基本波の送受信の他、ハーモニック・イメージング、ドプラ・モード等にも適用できる。また、二次元アレイ振動子を用いた多方向同時受信方式にも適用できる。
【0030】
次に、図4及び図5を用いて他の実施形態について説明する。なお、図2に示した構成と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0031】
図4においては、重み加減算器32に対して、重み付け処理前の複数の受信信号が有する複数の符号データが入力されている。この構成によれば、重み付け関数がマイナス符号を部分的にもったものであっても、そのような符号反転に影響されずに評価係数を演算することができる。
【0032】
図5においては、図4の構成と同じく、重み付け処理前の複数の受信信号が有する複数の符号データが利用されているが、それらは比較回路54に入力されている。比較回路54は、各チャンネルごとに、重み値が閾値+H以上又は−H以下である場合に限り、符号データをそのまま出力するものである。具体的には、重み値が閾値+Hよりも大きければあるいは−Hよりも小さければ符号データがそのまま出力され、重み値が閾値+Hと−Hとの間にあれば0が出力される。つまり、比較回路54の出力は三値(+1,0,−1)をとる。その出力bが加算器56で加算され、その加算値が評価係数算出部36へ出力される。一方、絶対値加算器58においては、比較回路54の出力の絶対値を累積加算し、その加算値Mを規格化のために評価係数算出部36へ出力する。評価係数算出部36は以下のような演算を行う。
【0033】
【数4】

【0034】
図5の構成によれば、重みが小さい場合にはそれを評価対象から除外して、それ以外の場合において符号ビットを考慮して一様性と多様性の違いを利得の決定に反映させることができる。例えば、重み値が0〜1.0の範囲をとる場合において、Hを0.3に設定すれば、重み付け関数のピークから約−10dB以内のチャンネルについてだけその符号ビットを参酌することができる。
【符号の説明】
【0035】
20 受信ビームフォーマー、26 乗算器、28 関数発生部、32 重み加減算器、34 重み加算器、36 評価係数算出部、37 平滑化回路、38 乗算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信フォーカス点の深さ方向の移動に伴って変化する重み付け関数に従って、複数の受信信号に対する重み付け処理を実行する重み付け処理部と、
前記重み付け処理された複数の受信信号に対する整相加算処理を実行する整相加算処理部と、
前記重み付け処理の前又は後の複数の受信信号の状態を表す複数のインデックスデータと、前記複数の受信信号に与えられる複数の重み値と、に基づいて、評価係数を求める評価係数演算部と、
前記評価係数に基づいて前記整相加算後の受信信号の利得が変更されるようにする利得可変部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記インデックスデータは、振幅値が正であるか又は負であるかを表す符号データである、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記評価係数演算部は、前記評価係数を演算するために、受信信号ごとに当該受信信号の符号データに基づいて当該受信信号に与えられる重み値に対して加算処理又は減算処理を適用する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記評価係数演算部は、
前記複数の重み値についての加減算処理により加減算処理結果値を求める手段と、
前記複数の重み値についての加算処理により加算処理結果値を求める手段と、
前記加算処理結果値を用いて前記加減算処理結果を規格化する手段と、
前記規格化後の値から前記評価係数を決定する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記評価係数演算部は、前記評価係数を演算するために、受信信号ごとに当該受信信号に対する重み値に基づいて当該受信信号の符号データの加算処理の要否を判定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記評価係数演算部は、
前記重み値が所定条件を満たすか否かを判定する手段と、
前記重み値が所定条件を満たす場合に前記符号データを累積加算する手段と、
前記重み値が所定条件を満たす場合に前記符号データの絶対値を累積加算する手段と、
前記符号データの絶対値の累積加算結果を用いて前記符号データの累積加算結果を規格化する手段と、
前記規格化後の値から前記評価係数を決定する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、
前記利得可変部は、前記規格化後の評価係数から利得を決定する非線形の換算関数を用いて利得を決定する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1記載の装置において、
前記重み付け関数は、受信フォーカス点が深くなるに従って受信開口を増大させる関数である、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項1記載の装置において、
前記評価係数に対して平滑化を行う手段を含み、
前記平滑化後の評価係数に基づいて前記整相加算後の受信信号の利得が調整される、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−101721(P2011−101721A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257703(P2009−257703)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】