説明

超音波診断装置

【課題】流速レンジの設定に関する操作者の手間を軽減し、診断時間を短縮する超音波診断装置の提供。
【解決手段】走査制御部13は、超音波プローブ11を介して、予め設定されたパルス繰り返し周期に従って被検体にカラードプラモード走査を実行するために送信部15と受信部17とを制御する。カラードプラモード処理部23は、超音波プローブ11からのエコー信号に基づいて、被検体に関する複数の画素について複数の流速値を繰り返し計算する。画素数計数部33は、繰り返し計算された複数の流速値に基づいて、複数の画素のうちの、パルス繰り返し周期に起因する折り返し現象が発生している画素の画素数を計数する。PRF変更部37は、計数された画素数に応じてパルス繰り返し周期を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内の血流情報を可視化する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置の走査モードの1つに、超音波のドプラ効果を利用して被検体内の血流情報を計算し、計算された血流情報をリアルタイムにカラーで表示するカラードプラモードがある。血流情報としては、例えば、血流速度が知られている。超音波走査が計測可能な血流速度は、パルス繰り返し周波数に基づく流速レンジ(血流速の計測範囲)に制限される。流速レンジの設定は、操作者によりマニュアルで行なわれている。しかし、流速レンジを適切に設定することは、とても困難であり、操作者の手間がかかる作業である。これに伴い、カラードプラモードによる超音波診断に非常に多くの時間がかかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11―146879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、流速レンジの設定に関する操作者の手間を軽減し、診断時間を短縮する超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1局面に係る超音波診断装置は、超音波プローブと、前記超音波プローブを介して、予め設定されたパルス繰り返し周期に従って被検体にカラードプラモード走査を実行する走査部と、前記超音波プローブからのエコー信号に基づいて、前記被検体に関する複数の画素について複数の流速値を繰り返し計算する計算部と、前記繰り返し計算された複数の流速値に基づいて前記複数の画素のうちの前記パルス繰り返し周期に起因する折り返し現象が発生している画素の画素数を計数する計数部と、前記計数された画素数に応じて前記パルス繰り返し周期を変更する変更部と、を具備する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、流速レンジの設定に関する操作者の手間を軽減し、診断時間を短縮する超音波診断装置の提供を実現することにある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図。
【図2】図1のシステム制御部の制御のもとに行なわれる流速レンジの自動設定処理の典型的な流れを示す図。
【図3】図2の流速線レンジの自動設定処理に係るROIを示す図。
【図4】図2のステップS2において実行される折り返し判定の判定条件を満足しない場合の流速値の時間変化の一例を示す図。
【図5】図2のステップS2において実行される折り返し判定の判定条件を満足する場合の流速値の時間変化の一例を示す図。
【図6】図2のステップS7において実行されるベースラインのシフト処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係わる超音波診断装置を説明する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図である。図1に示すように、超音波診断装置1は、超音波プローブ11、走査制御部13、送信部15、受信部17、Bモード処理部19、Bモード画像発生部21、カラードプラモード処理部23、カラードプラモード画像発生部25、記憶部27、表示部29、折り返し判定部31、画素数計数部33、画素数判定部35、PRF変更部37、ベースラインシフト部39、入力部41、及びシステム制御部43を有する。
【0010】
超音波プローブ11は、電子走査型である。超音波プローブ11は、送信部15からの駆動パルスを受け、超音波を発生する。超音波プローブ11は、パルス繰り返し周波数(pulse repetition frequency:以下PRFと呼ぶことにする)に対応する時間間隔で繰り返し発生される。超音波は、被検体の体内組織の音響インピーダンスの不連続点(エコー源)で次々と反射される。超音波が被検体内の血流により反射されると、超音波は、ドプラ偏移を受ける。反射された超音波は、超音波プローブ17により受波される。超音波プローブは、超音波を受波すると、受波された超音波に由来するエコー信号(電気信号)に変換し、このエコー信号を出力する。
【0011】
走査制御部13は、超音波プローブ11を介して被検体を超音波で走査するために送信部15と受信部17とを制御する。走査制御部13は、走査モードとしてBモード走査やカラードプラモード走査を実行する。走査制御部13は、既定のPRFに従って送信部と受信部とを制御する。走査制御部13により管理されるPRFの値は、PRF変更部37により変更される。また、PRFのデータは、カラードプラモード処理部23に供給される。
【0012】
送信部15は、走査制御部13による制御に従って、既定のPRFに対応する時間間隔で超音波プローブ11に駆動パルスを繰り返し送信する。駆動パルスを供給することにより送信部15は、超音波プローブ11を介して既定のPRFに対応する時間間隔で超音波を被検体に送信する。より詳細には、送信部15は、既定のPRFに従ってレートパルスをチャンネル毎に繰り返し発生する。送信部15は、発生された各レートパルスに対して、既定の送信方向と送信フォーカスとに関する超音波ビームを形成するのに必要な遅延時間を与える。この遅延時間は、例えば、送信方向と送信フォーカス位置とに応じて振動子毎に決定される。そして送信部15は、各遅延されたレートパルスに基づくタイミングで送信駆動パルスを発生し、発生された駆動パルスを各振動子に供給する。駆動パルスの供給を受けた各振動子は、超音波を発生する。これにより超音波プローブ11は、既定の送信方向と送信フォーカス位置とに関する超音波ビームを発生する。
【0013】
受信部17は、走査制御部13による制御に従って、被検体により反射された超音波に由来するエコー信号を超音波プローブ11を介して繰り返し受信する。エコー信号が受信されると受信部34は、超音波ビームに関する受信信号を生成する。より詳細には受信部17は、超音波プローブ11からエコー信号を受信し、受信されたエコー信号を増幅し、増幅されたエコー信号をアナログからデジタルに変換する。次に受信部17は、デジタルに変換されたエコー信号をデジタルメモリに記憶する。デジタルメモリは、振動子毎に設けられている。エコー信号は、受信した振動子に対応するデジタルメモリ上の、そのエコー信号の受信時刻に応じたアドレスに記憶される。受信部17は、既定の受信フォーカス位置に対応するアドレスからエコー信号を読み出して加算する。受信フォーカス位置を超音波送信ビーム上に沿って変更しながらこの加算処理を繰り返すことにより受信部17は、既定の受信方向に沿う超音波受信ビームに対応するエコー信号(以下、受信信号と呼ぶことにする)を生成する。生成された受信信号は、Bモード信号処理部19とカラードプラモード処理部23とに供給される。
【0014】
Bモード処理部19は、受信部17からの受信信号にBモード処理を施す。具体的には、Bモード処理部19は、受信部21からの受信信号に対数圧縮や包絡線検波処理を施す。対数圧縮や包絡線検波処理が施された受信信号は、Bモード信号と呼ばれている。Bモード信号は、Bモード画像発生部21と記憶部27とに供給される。
【0015】
Bモード画像発生部21は、Bモード処理部19からのBモード信号に基づいてBモード画像のデータを発生する。具体的には、Bモード画像発生部21は、Bモード信号をその位置情報に従ってスキャンコンバージョンメモリ上に配置し、データ欠落部分のデータを補間する。この配置処理と補間処理とによってBモード画像のデータが発生される。Bモード画像を構成する各画素は、由来するエコー信号の強度に応じた輝度値を有する。発生されたBモード画像のデータは、記憶部27に供給される。
【0016】
カラードプラモード処理部23は、受信部17からの受信信号にカラードプラモード処理を施す。カラードプラモード処理においてカラードプラモード処理部23は、走査領域中のサンプルボリュームの複数のサンプル点に関する複数の血流情報を計算する。具体的には、カラードプラモード23は、図示しないドプラ信号抽出部と血流情報計算部とを有する。
【0017】
ドプラ信号抽出部は、受信信号から実数部分に関するドプラ信号と虚数部分に関するドプラ信号とを抽出する。血流パラメータ計算部は、実数部分に関するドプラ信号と虚数部分に関するドプラ信号とに基づいて血流パラメータを計算する。具体的には、血流パラメータ計算部は、MTI(Moving Target Indicator)フィルタを実数部分に関するドプラ信号と虚数部分に関するドプラ信号とに適用する。MTIフィルタは、被検体の体内組織に由来するクラッタ成分を抑制する。MTIフィルタにより受信信号から血流に由来する血流信号が抽出される。血流パラメータ計算部は、血流信号に自己相関演算を施し、血流パラメータを計算する。血流パラメータは、血流の流速値、分散値、パワー値である。血流パラメータ計算部は、走査制御部からのPRFのデータに従って流速値を計算する。流速値は、PRFに基づく流速レンジ内に制限して計算される。流速レンジは、PRFに基づく最高計算可能速度から最低計算可能速度までの範囲である。流速レンジ外の流速は、流速レンジ内に折り返して計算される。この現象は、折り返し現象として知られている。
【0018】
上記のようにカラードプラモード処理部23は、サンプルボリューム内の複数の位置に関する複数の血流パラメータ(すなわち流速値、分散値、及びパワー値)を計算する。以下、流速値、分散値、及びパワー値を特に区別する必要がない場合、これらのデータをまとめてカラードプラモード信号と呼ぶことにする。カラードプラモード信号は、カラードプラモード画像発生部25と記憶部27とに供給される。
【0019】
カラードプラモード画像発生部25は、カラードプラモード処理部23からのカラードプラモード信号に基づいてカラードプラモード画像のデータを発生する。具体的には、カラードプラモード画像発生部25は、カラーテーブルを記憶している。カラーテーブルは、流速レンジ内の表示可能速度範囲上の流速値と色とを関連付けたテーブルである。表示可能速度範囲とは、カラードプラモード画像での表示対象の流速範囲を意味する。表示可能速度範囲は、最高表示可能速度から最低表示可能速度までの範囲である。表示可能速度範囲は、流速レンジに一致していても、流速レンジよりも狭い範囲であってもよい。表示可能速度範囲は、流速レンジの変更やベースラインのシフトに伴い変更される。なおベースラインは、表示可能速度範囲の中間値を意味する。具体的には、カラードプラモード画像発生部25は、流速値をその位置情報に従ってスキャンコンバージョンメモリ上に配置し、データ欠落部分のデータを補間する。また、カラードプラモード画像発生部25は、複数の画素の各々について、その画素の流速値にカラーテーブル上で関連付けられた色の情報を画素に割り付ける。このようにしてカラードプラモード画像発生部25は、カラードプラモード画像のデータを発生する。発生されたカラードプラモード画像のデータは、記憶部27に供給される。
【0020】
記憶部27は、Bモード信号やカラードプラモード信号を記憶する。また、記憶部27は、Bモード画像のデータやカラードプラモード画像のデータを記憶する。さらに記憶部27は、後述する流速レンジの自動設定処理のための専用プログラムを記憶する。
【0021】
表示部29は、Bモード画像やカラードプラモード画像を表示する。典型的には、表示部29は、Bモード画像にカラードプラモード画像を重ね合わせて表示する。表示部29は、例えばCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等の表示デバイスにより構成される。
【0022】
折り返し判定部31は、カラードプラモード画像に含まれる複数の画素の各々について、折り返し現象が発生しているか否かを判定する。具体的には、折り返し判定部31は、複数の画素の各々について流速値をモニタリングする。そして折り返し判定部31は、フレーム間(すなわち走査時刻間)の流速値差と流速値の符号とに基づく折り返し条件を満足するか否かを画素毎に繰り返し判定する。折り返し判定部31は、折り返し条件を満足する画素に折り返し現象が発生していると判定する。一方、折り返し判定部31は、折り返し条件を満足しない画素に折り返し現象が発生していないと判定する。以下、折り返し現象が発生していると判定された画素を折り返し画素と呼ぶことにする。
【0023】
画素数計数部33は、折り返し画素の画素数を計数する。
【0024】
画素数判定部35は、折り返し画素の画素数が予め設定された上限画素数より多いか、下限画素数より少ないか、あるいは上限画素数と下限画素数との間にあるかを判定する。この上限画素数から下限画素数までの画素数範囲を設定画素数範囲と呼ぶことにする。上限画素数と下限画素数とは、予め設定されている。上限画素数と下限画素数とは、入力部41を介して操作者により任意の値に設定可能である。
【0025】
PRF変更部37は、折り返し画素の画素数に応じてPRFを変更する。具体的には、PRF変更部37は、画素数判定部35により折り返し画素の画素数が上限画素数より多いと判定された場合、PRFを増加させる。PRF変更部37は、画素数判定部35により折り返し画素の画素数が下限画素数より少ないと判定された場合、PRFを減少させる。PRF変更部37は、画素数判定部35により折り返し画素の画素数が設定画素数範囲内(上限画素数と下限画素数との間)にある場合、PRFを維持する、すなわちPRFを変更しない。
【0026】
ベースラインシフト部39は、カラードプラモード画像上の流速値の時間変化に応じて表示可能速度範囲上のベースラインをシフトする。より詳細には、ベースラインシフト部39は、折り返し画素であると判定されなかった画素について流速値をモニタリングする。次にベースラインシフト部39は、モニタリング期間中の最高流速値と最低流速値とを特定する。特定された最高流速値から最低流速値までの流速範囲を血流存在範囲と呼ぶことにする。ベースラインシフト部39は、血流存在範囲の中間値(最高流速値と最低流速値との中間値)にベースラインが略一致するようにベースラインをシフトする。
【0027】
入力部41は、操作者からの各種指示や情報を入力デバイスを介して入力する。入力デバイスは、キーボードやマウス、各種のスイッチ等を有する。例えば、入力部41は、カラードプラモード画像上へのROIの設定や設定画素数範囲の設定に利用される。
【0028】
システム制御部43は、超音波診断装置1の中枢として機能する。具体的には、システム制御部43は、記憶部27から専用プログラムを読み出して、読み出された専用プログラムを実行する。専用プログラムの実行によりシステム制御部43は、流速レンジの自動設定処理を実行するように、専用プログラムが表す手順に従って各部を制御する。
【0029】
次にシステム制御部43の制御のもとに行なわれる超音波診断装置1の動作例について説明する。図2は、システム制御部43の制御のもとに行なわれる流速レンジの自動設定処理の典型的な流れを示す図である。なお流速レンジの自動設定処理の開始時点においてシステム制御部43は、走査制御部13等を制御してBモード走査とカラードプラモード走査とを繰り返し実行している。カラードプラモード走査においてカラードプラモード処理部23は、超音波ビーム(走査線)毎に設定された複数のサンプル点毎に流速値をリアルタイムで計算する。サンプル点は、1の走査線に例えば、256箇所に設定されている。カラードプラモード画像発生部25は、流速値に基づいてカラードプラモード画像のデータをリアルタイムで発生する。また、Bモード画像発生部21は、リアルタイムでBモード画像のデータを発生する。発生されたBモード画像とカラードプラモード画像とは、表示部29により重ねあわされてリアルタイムで表示される。
【0030】
カラードプラモード画像上の色相は、血流の向きを表している。例えば、赤で表示される場合、その画素に対応する血流は、超音波から遠ざかる向きに流れ、青で表示される場合、その画素に対応する血流は、超音波に近づく向きに流れている。すなわち折り返し現象が発生している画素は、カラードプラモード画像上において、真の血流の向きを表す色相とは異なる色で表示されてしまう虞がある。
【0031】
また、血流の流速値の値に応じて明度や彩度、換言すればコントラストが異なる。すなわち、折り返し現象を避けるため流速レンジを血流存在範囲よりも過大に広げると、操作者は、互いに流速値が近い画素をカラードプラモード画像で視認できなくなってしまう。
【0032】
このように折り返し現象は、カラードプラモード画像の観察者による画像診断能を低下させている。
【0033】
ステップS1においてシステム制御部43は、操作者により入力部41を介して流速レンジの自動設定処理の開始指示がなされることを待機している(ステップS1)。ステップS1において操作者は、超音波プローブ11を操作しながら、表示部29に表示されているカラードプラモード画像を観察している。この状態で操作者は、例えば、入力部41に設けられた流速レンジの自動設定ボタンを押す。
【0034】
システム制御部43は、操作者により自動設定ボタンが押されたことを契機として(ステップS1:YES)、折り返し判定部31に折り返し現象の判定処理を行なわせる(ステップS2)。ステップS2において折り返し判定部31は、画素毎に折り返し現象が発生しているか否か、すなわち折り返し画素であるか否かを判定する。以下に折り返し現象の判定処理について詳細に説明する。なお、この折り返し現象の判定処理の対象は、カラードプラモード画像を構成する全ての画素であってもよいし、カラードプラモード画像上に設定された関心領域(ROI:region of interest)内の画素であってもよい。ROIは、例えば図3に示すように、操作者により入力部41を介して、カラードプラモード画像上の血流領域を含むように設定される。ROIの大きさや形状、位置は、入力部41を解して任意に設定可能である。以下の説明を具体的に行なうため、折り返し現象の判定処理の対象は、ROI内の全ての画素であるとする。なお、ROIは、ステップS2の前段階において設定されているものとする。
【0035】
ステップS2において折り返し判定部31は、ROI内の全ての画素の各々について流速値を所定の時間枠内(モニタリング期間)でモニタリングする。モニタリング期間は、例えば、1秒や1心拍分に設定される。次に折り返し判定部31は、画素毎にフレーム間の流速値の差分を計算する。また、折り返し判定部31は、流速値の符号(+又は−)を特定する。そして折り返し判定部31は、流速値の差分と流速値の符号とに基づいて画素毎に折り返しの判定条件を満足するか否かを判定する。折り返しの判定条件は、典型的には、流速値の差分が閾値よりも大きいこと、且つ、フレーム間で流速値の符号が異なることである。折り返しの判定に関する閾値は、流速レンジの大きさ(すなわち、最大計算可能速度と最小計算可能速度との差分)に応じて決定される。閾値は、例えば、流速レンジの大きさの3分の2に設定される。例えば、流速レンジの大きさが300m/sの場合(例えば、最大計算可能速度が+150m/s、最小計算可能速度−150m/s)、折り返しの判定に関する閾値は、200m/sに設定される。
【0036】
図4は、ROI内の着目画素に関する流速値の時間変化を示す図であり、折り返しの判定条件を満足しない場合の一例を示す図である。図4に示すように、流速値は、最高計算可能速度Vmaxと最低計算可能速度Vminとにより規定される流速レンジ内に制限されて計算される。例えば、連続する時刻taと時刻tbとにおいて流速値はそれぞれ流速値Vaと流速値Vbとであるとする。また、連続する時刻tcと時刻tdとにおいて流速値はそれぞれ流速値Vcと流速値Vdとであるとする。流速値Vaと流速値Vbとは、符号が異なる。しかし、流速値Vaと流速値Vbとの差分(Va−Vb)は、閾値よりも小さいとする。このように判定条件を満たさない場合、着目画素に折り返し現象が発生している可能性は低いと考えられる。従って着目画素が判定条件を満たさない場合、折り返し判定部31は、着目画素に折り返し現象が発生していないと判定する。同様に、流速値Vcと流速値Vdとは符号が異なり、差分(Vc−Vd)は、閾値よりも小さいとする。
【0037】
図5は、ROI内の着目画素に関する流速値の時間変化を示す図であり、折り返しの判定条件を満足する場合の一例を示す図である。例えば、連続する時刻teと時刻tfと時刻tgとにおいて流速値はそれぞれ流速値Veと流速値Vfと流速値Vgとであるとする。また、連続する時刻tcと時刻tdとにおいて流速値はそれぞれ流速値Vcと流速値Vdとであるとする。流速値Veと流速値Vfとは、符号が異なる。そして、流速値Veと流速値Vfとの差分(Ve−Vf)は、閾値よりも大きいとする。このように判定条件を満す場合、着目画素に折り返し現象が発生している可能性が高いと考えられる。従って判定条件を満たす場合、折り返し判定部31は、着目画素に折り返し現象が発生していると判定する。同様に、流速値Vfと流速値Veとは符号が異なり、差分(Vf−Ve)は、閾値よりも大きいとする。このように判定条件を満たす場合、折り返し判定部31は、着目画素に折り返し現象が発生していると判定する。
【0038】
上述のように、モニタリング期間において折り返し判定部31は、ROI内の全ての画素の各々について判定条件を満足するか否かを繰り返し判定する。そして折り返し判定部31は、モニタリング期間において判定条件を満たした回数が既定回数(例えば、1回)より少ない画素を、折り返し画素でないと判定する。一方、折り返し判定部31は、モニタリング期間において判定条件を満たした回数が所定回数より多い画素を折り返し画素であると判定する。このようにして折り返し判定部31は、折り返し画素を検出する。なお既定回数は、操作者により入力部31を介して任意に設定可能である。
【0039】
なお折り返し判定の処理量低減のため、折り返し判定部31は、着目画素が判定条件を満たした回数をリアルタイムで計数し、所定回数を満たした時点で着目画素についての折り返し判定処理を打ち切っても良い。また、折り返し判定の処理量低減のため、折り返し判定部31は、処理対象の画素を時間的に間引いたり、空間的に間引いたりしても良い。例えば、1フレーム毎に折り返し判定をするのではなく、2フレーム毎に折り返し判定をしてもよい。また、例えば、折り返し判定部31は、ROI上の全画素について折り返し判定をするのではなく、ROI上の全画素のうちの既定の割合(例えば、半分)の画素について折り返し判定を施してもよい。
【0040】
ステップS2が行なわれるとシステム制御部43は、画素数判定部35に画素数の判定処理を行なわせる(ステップS3)。ステップS3において画素数判定部35は、ステップS2において折り返し画素であると判定された画素(折り返し画素)の画素数を計数する。そして画素数判定部35は、折り返し画素の画素数が予め設定された設定画素数範囲より少ない(すなわち下限画素数より少ない)、設定画素数範囲内であるのか、設定画素数範囲より多い(すなわち上限画素数より多い)のかを判定する。設定画素数範囲は、カラードプラモード走査の観察部位(アプリケーション)の種類に応じて設定されるとよい。例えば、ACM(automated cardiac flow measurement、心拍出量自動計測)等の計測アプリケーションの場合、設定画素数範囲は、0(すなわち折り返し画素が1つでもあれば、設定画素数範囲より多いと判定される)に設定されるとよい。また、通常の検査においては、例えば、ROI内(あるいはカラードプラモード画像)の全画素の数の20%が下限画素数に設定されると良い。また、低速血流の検出能を上げて観察したい場合、ROI内(あるいはカラードプラモード画像)の全画素の数の50%が下限画素数に設定されると良い。
【0041】
ステップS3において折り返し画素の画素数が設定画素数範囲より少ない(下限画素数より少ない)と判定された場合(ステップS3:少ない)、システム制御部43は、PRF変更部37にPRFの変更処理を行なわせる(ステップS4)。ステップS4においてPRF変更部37は、予め定められたルールに従ってPRFの値を減少する。例えば、PRF変更部37は、変更前のPRFを所定数倍する。この所定数は、1より小さい任意の値(例えば、0.5)に設定される。なおこの所定数は、折り返し画素の画素数と下限画素数との差に応じて設定されていてもよい。例えば、折り返し画素が下限画素数より10画素少ない場合は0.9倍、50画素少ない場合は0.8倍等。
【0042】
PRFが減少されると走査制御部37は、減少後のPRFに従って送信部15と受信部17とを制御する。ステップS4後の流速レンジは、ステップS4前の流速レンジより狭くなる。従ってステップS4後にカラードプラモード処理部23の血流パラメータ計算部により計算される流速値は、減少後のPRFに基づく流速レンジに制限して計算される。従ってステップS4後に計算される流速値は、流速レンジ内の広い範囲に分布する。このような流速値に基づいてカラードプラモード画像発生部25は、カラードプラモード画像を発生し、表示部29は、発生されたカラードプラモード画像を表示する。ステップS4後に表示されるカラードプラモード画像は、ステップS4前に表示されるカラードプラモード画像よりもコントラストが向上する。従ってPRFが低下されることにより、操作者は、流速の僅かな違いをカラードプラモード画像上において判断できるようになる。
【0043】
ステップS3において折り返し画素の画素数が設定画素数範囲内であると判定された場合(ステップS3:範囲内)、システム制御部43は、PRF変更部37にPRFの変更処理を行なわせず、ステップS6に進む。すなわちPRF変更部37は、PRFの値を維持する。
【0044】
ステップS3において折り返し画素の画素数が設定画素数範囲より多い(上限画素数より多い)と判定された場合(ステップS3:多い)、システム制御部23は、PRF変更部37にPRFの変更処理を行なわせる(ステップS5)。ステップS5においてPRF変更部37は、予め定められたルールに従ってPRFの値を増加する。例えば、PRF変更部37は、変更前のPRFを変更前のPRFを所定数倍する。この所定数は、1より大きい任意の値(例えば、1.5)に設定される。なおこの所定数は、折り返し画素の画素数と上限画素数との差に応じて設定されていてもよい。例えば、折り返し画素が上限画素数より10画素多い場合は1.1倍、50画素多い場合は1.2倍等。
【0045】
PRFが増加されると走査制御部13は、増加後のPRFに従って送信部15と受信部17とを制御する。ステップS5後の流速レンジは、ステップS4前の流速レンジより広がる。従ってステップS5後にカラードプラモード処理部23の血流パラメータ計算部により計算される流速値は、増加後のPRFに基づく流速レンジに制限して計算される。従ってステップS5後において発生されたカラードプラモード画像上の画素に折り返し現象が発生している可能性は低くなる。すなわち、ステップS6後に表示されるカラードプラモード画像は、ステップS5前に表示されるカラードプラモード画像よりも折り返し画素の画素数が少ない。従ってPRFを増加させることにより、血流の向きをカラードプラモード画像上において正しく判断することができる。また折り返し画素の画素数の低減により、ROI内の血流計測に対する折り返し現象の影響を低減できる。
【0046】
ステップS4が行なわれる、ステップS3において範囲内であると判定される、あるいはステップS5が行なわれるとシステム制御部43は、ベースラインシフトを実行するか否かを判定する(ステップS6)。例えば、システム制御部43は、予め操作者により入力部41を介して設定されたベースラインシフトの実行の有無の情報に基づいて判定する。すなわち、「ベースラインシフトを実行しない」と設定された場合、システム制御部43は、ステップS7を行なわず、流速レンジの自動設定処理を終了する。
【0047】
一方、「ベースラインシフトを実行する」と設定された場合(ステップS6:YES)、システム制御部43は、ベースラインシフト部39にベースラインのシフト処理を実行させる(ステップS7)。ステップS7においてベースラインシフト部39は、流速値の時間変化に応じてベースラインをシフトする。具体的には、ベースラインシフト部39は、ROI内の折り返し画素の各々について、モニタリング期間中の最高流速値と最低流速値とを検出する。画素毎の最高流速値と最低流速値とから、ベースラインシフト部39は、ROIの最高流速値と最低流速値とを特定する。ベースラインシフト部39は、ROI内の最高流速値と最低流速値との中間値を計算する。そしてベースラインシフト部39は、計算された中間値に表示可能速度範囲のベースラインを一致させる。
【0048】
図6は、ベースラインのシフト処理を説明するための図である。図6の(a)は、ベースラインシフトの実行前における血流存在範囲とベースラインとの位置関係を示し、図6の(b)は、ベースラインシフトの実行後における血流存在範囲とベースラインとの位置関係を示す。図6に示すように、最高表示可能速度VDmaxが+100m/s、最低表示可能速度VDminが―100m/sに設定されているものとする。この場合、初期的なベースラインBLが0m/sに設定されている。また、血流存在範囲の最高速度VBmaxが+20m/s、最低速度VBminが−80m/sであるとする。この場合、血流存在範囲の中間値VBmidが−30m/sであると計算される。ベースラインシフト部39は、中間値VBmidとベースラインBLとを一致させるためにベースラインをシフトする。図6の場合、ベースラインBLは、0m/sから−30m/sへシフトされる。なおシフト後のベースラインの設定値は、カラードプラモード画像上の全ての画素に反映される。
【0049】
また、ベースラインシフト部39は、最高表示可能速度VDmax、最低表示可能速度VDmin、血流存在範囲の最高速度VBmax、又は血流存在範囲の最低速度VBminまでベースラインをシフトしてもよい。この場合、表示部29は、片方の血流の向きに関する色だけで全画素を表示することができる。
【0050】
このように自動的にベースラインがシフトされることで、操作者によるベースラインの設定の手間を削減することができる。
【0051】
ステップS7が行なわれると、あるいはステップS6においてベースラインシフトを実行しないと判定された場合(ステップS6NO)、システム制御部43は、流速レンジの自動設定処理を終了する。
【0052】
かくして本実施形態に係る超音波診断装置1は、ROI内の折り返し画素の画素数を計数する。そして超音波診断装置は、折り返し画素の画素数が既定の上限画素数以上である場合、流速レンジを広げ、折り返し画素の画素数が既定の下限画素数以下である場合、流速レンジを狭める。このように超音波診断装置1は、折り返し画素の画素数に応じて自動的に流速レンジを設定する。従って超音波診断装置1は、操作者による流速レンジの設定処理の手間を軽減することができる。また、超音波診断装置1は、ROI内の折り返し画素の画素数が少なく、且つコントラストの良好なカラードプラモード画像を表示できる。さらに、超音波診断装置1は、折り返し画素に関する流速値の時間変化に応じて表示可能速度範囲のベースラインシフトを自動的に実行する。従って超音波診断装置1は、ベースラインシフトにおける操作者の手間を軽減することができる。
【0053】
かくして本実施形態によれば、流速レンジの設定に関する操作者の手間を軽減し、診断時間を短縮する超音波診断装置を提供することが可能となる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上本発明によれば、流速レンジの設定に関する操作者の手間を軽減し、診断時間を短縮する超音波診断装置の提供を実現することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…超音波診断装置、11…超音波プローブ、13…走査制御部、15…送信部、17…受信部、19…Bモード処理部、21…Bモード画像発生部、23…カラードプラモード処理部、25…カラードプラモード画像発生部、27…記憶部、29…表示部、31…折り返し判定部、33…画素数計数部、35…画素数判定部、37…PRF変更部、39…ベースラインシフト部、41…入力部、43…システム制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して、予め設定されたパルス繰り返し周期に従って被検体にカラードプラモード走査を実行する走査部と、
前記超音波プローブからのエコー信号に基づいて、前記被検体に関する複数の画素について複数の流速値を繰り返し計算する計算部と、
前記繰り返し計算された複数の流速値に基づいて前記複数の画素のうちの前記パルス繰り返し周期に起因する折り返し現象が発生している画素の画素数を計数する計数部と、
前記計数された画素数に応じて前記パルス繰り返し周期を変更する変更部と、
を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
前記計数された画素数が第1閾値よりも多いか、前記計数された画素数が前記第1閾値より小さい第2閾値より少ないか、あるいは前記計数された画素数が前記第1閾値と前記第2閾値との間にあるかを判定する画素数判定部をさらに備え、
前記変更部は、前記画素数が前記第1閾値よりも多いと判定された場合、前記パルス繰り返し周期を増加し、前記画素数が前記第2閾値よりも少ないと判定された場合、前記パルス繰り返し周期を減少し、前記画素数が前記第1閾値と前記第2閾値との間にあると判定された場合、前記パルス繰り返し周期を維持する、
請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記第1閾値と前記第2閾値とは、操作者からの指示に従って設定される、請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記複数の画素の各々について、前記折り返し現象が発生しているか否かを判定する折り返し判定部をさらに備え、
前記計数部は、前記複数の画素のうち、前記折り返し現象が発生していると判定された画素の画素数を計数する、
請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記繰り返し計算される複数の流速値のうちの最高流速値と最低流速値との中間値が、カラードプラモード画像の表示可能速度範囲の中間値に略一致するように前記表示可能速度範囲のベースラインをシフトするシフト部をさらに備える、請求項1記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−182887(P2011−182887A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49889(P2010−49889)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】